キチガイ共の蒼い空   作:十六夜やと

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 割と真面目な回です。
 真面目回を執筆しながら、『アズサとサオリの密会をこっそり盗聴した主人公がばにばに言う夢の国のチキンレース音MADを作る』というシチュエーションが脳内ぐるぐるしてました。誰か助けて。



 高評価ありがとうございます。励みになります。
 感想お待ちしております。


007 重圧

 補習授業部による第二次試験に向けての合宿が始まった。

 今は使われていない施設の使用許可が取れたらしく、そこで約1週間ほど自学自習を行い、合宿期間中は先生が勉強を見てくれるらしい。最高かよ。桐藤さん的には裏切り者を警戒して一時的に島流ししている感覚なのだろうと俺は判断した。

 ただ部長の阿慈谷さん曰く『使われていない古びた施設』との情報だったが、やはり百聞は一見に如かず。確かに清掃は行き届いてない感じではあるものの、その宿泊可能な施設の内外は立派の一言に尽きる。そりゃ超お嬢様学校の『使われていない古びた施設』なのだ。田舎の公立校の校舎の数百倍は目新しさを感じる。

 

 しかし、先ほども記した通り、長らく使ってないので清掃は必要。

 とりあえず施設内の掃除は分担して行い、残すは合宿をするにあたって掃除する必要がないプール近辺だけとなった。つまり掃除は完了したわけだ。

 

 が、

 

 

「──今のうちにここで楽しく遊んでおかないと! 明日から勉強で忙しくなるかと思いますし! 掃除しながらプールで遊びましょう!」

 

 

 浦和さんによる鶴の一声でプール掃除が強行されてしまうことになった。貴女らは遊んでいる暇がありますか?と心の中のオーベルシュタインが問いかけるが、同時にプール掃除を通じて補習授業部仲が深まるの良いのではと考える自分もいる。

 結果、俺は彼女らにプール掃除を任せ、近くのスーパーで晩飯の買い出しを行うことにした。

 なんか水着姿で掃除すると言ってたので、先生はともかく一般男子生徒の俺に水着姿なんぞ見られたくはないだろう。補習授業部のキャッキャウフフ、どっかの百合豚なら地面に擬態してでも見たかっただろうが。

 

 施設地下に食堂もあるとか言ってるから、コンロを持参する必要もないのは正直有難い。

 ゲヘナの給食部ほどデリシャスには作れんが、これでも味にはうるさいゲヘナの美食研究会には美味と言われる腕は持っている。果たして舌が肥えていると思われるお嬢様方に通じるかは知らんけど。

 

 

「飯は何作ろうかねぇ。補習授業部の姦し娘共は食が細い気がするんよなぁ。あんまりガッツリめではないが、勉強が捗るようなメニュー……か。スイーツつけたらみんな喜ぶか?」

 

 

 とりあえず短い人生で培った料理の知識と、スーパーに置いている食材と相談しながら、明日の朝食までを想定した分を買う。

 ママチャリで来ていたので、カゴに食材をブチ込んで帰路に就く。

 

 勉強のサポートというより、栄養管理のサポかよと内心苦笑していると、

 

 

「──あら?」

 

 

 目前にダイナマイトボディな女子生徒とカチ会う。個人的にはめっちゃ好みな外見・内面ではあるものの、正直に言って関わり合いになりたくない組織に属する人物。

 ただ顔見知りではあるので、チャリから降りて対応する。

 

 

「お久しぶりです、羽川(はねかわ)さん」

 

「こんにちは、オウカくん」

 

 

 トリニティの3年生にして正義実現委員会の副委員長。補習授業部で勉強三昧になってる下江さんの直属の上司にあたる。関わり合いたくないので正実(正義実現委員会)の内部がどうなってんのか知らんが、トリニティ最強格と名高い正実の委員長の補佐を任され、作戦指揮は彼女が担当していると聞く。

 そんで、すげぇデカい。胸も尻もデカいが(デリカシーZERO)、身長も翼もデカい。

 マジで身長なんか俺と同じぐらいじゃね? ギリ勝つか? いや、微妙だな。

 

 俺と彼女が会話したのは一度のみ。

 なので俺が知っていることも公開情報か表面上の薄っぺらい知識なのだが、彼女は俺のことを知っているらしい。俺の公開情報も微々たるものだと自負してるんだが。

 

 

「このような場所で会うとは奇遇……と言いたいですが、もしかして正実の警邏とかです?」

 

「っ! そ、そうです!」

 

 

 何やら甘い香りのする紙袋を背後に隠された気がするが、俺はそのまま世間話を続ける。俺の勘が彼女の言葉を否定するが、わざわざツッコむのも野暮だろうし。

 

 

「そういうオウカくんは……合宿の買い出しでしょうか?」

 

「そうっすね。勉学のサポートとは言っても、本職(先生)がいる以上、それ以外の雑務は俺がやった方が効率的ですからねぇ」

 

「雑務も立派な業務です。そう卑下することはありません」

 

 

 まっすぐと称賛の眼差しを向けられて俺も内心戸惑う。

 なーんか知らんけど、この人からの好感度高いんよなぁ。彼女曰く、先生から色々と聞いたのだとか。先生とはアビドスでヒャッハーした仲ではあるものの、俺がやったことをどう歪曲して伝えれば正実からの評価が上がるんや。

 

 

「……前回もお誘いしましたが、それでも諦めるには惜しい。オウカくん、正義実現委員会に力を──」

 

「すみません。前回もお断りしましたが、俺に正実は荷が重い」

 

「そう、ですか……」

 

 

 彼女の勧誘を、俺は頭を下げて辞退する。

 無論、彼女らを軽んじているわけではないことを示すために、90度まで頭を下げる。

 

 正義実現委員会がトリニティの治安維持を目的とした組織であることは知っている。ゲヘナほど年がら年中ドンパチやりあうような治安ではないにせよ、少なからず彼女らを必要とするくらいには問題が発生し、その解決に尽力しているはず。ちとゲヘナとの確執があるくらいか?

 前回はわざわざ正実の委員長と羽川さんで勧誘に来た。(かしら)が自ら足を運んで来るなど、内心受けても良かったんじゃないかとは今でも思う。

 

 しかし、それでも俺は断った。

 彼女らには無難な理由で辞退したが、本当の理由は個人的問題で、それがあまりにも稚拙だった。

 

 俺が難色を示すのは『正義実現委員会』という組織名。これを俺が自身の所属であると口にするのが、蕁麻疹が出かねんレベルで嫌だからだ。

 これはあくまでも持論に過ぎないが、『正義』とは自身を律するものであり、他者に押し付けるものではない。有史以来、『正義』というものがどれだけ免罪符として扱われて来たか。彼女らにその気はないのは脳で理解していたとしても、俺が『正義』を騙り行動することに忌避感が拭えないという、子供じみた真意がそこにあった。

 それに、こんな思考回路のガキが正実に入ったとして、本気で正義を遂行しようとする彼女らには逆に迷惑だろう。それなら最初から近づかん方がいい。

 

 

「分かりました。ですが、気が変わるのならば、いつでも声をかけて下さい。お待ちしております」

 

「……すみません」

 

「……話を変えましょう。コハルは元気にやっていますか? 御迷惑はおかけしてませんか?」

 

 

 わざわざ話題を変えてくれたことに感謝しかない。

 変えた先の話題も、中々に別ベクトルで答えにくい質問ではあるのだが。

 

 

「元気っちゃあ、元気っすね。先生の指導の甲斐もあり、着実に学力が上がってると聞いてます。詳しいことに関しては先生……なんなら下江さん本人聞いた方がよろしいかと」

 

「確かにそうですね」

 

 

 そのような雑談を幾ばくか交え、合宿所に引き上げるのだった。

 ……ところで、補習授業部の面々からの視線が変わった気がするのだが気のせいだろうか?

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「──オーカのこと?」

 

「はい」

 

 

 プールを掃除しているとき、ふとアイリスちゃんにハナコちゃんが質問をする。

 あまりにも突然のことに、全員の掃除の手が止まる。

 

 今回の特別学力試験の二次試験に向けての合宿。ティーパーティーの現ホストであるナギサ様が用意してくれた『補習授業部』の勉強場所だが、本当の目的は『トリニティの裏切り者を探し出すこと』。ナギサ様はその人物を早く見つけなければ、私──阿慈谷 ヒフミも退学になってしまうと語っていた。

 補習授業部のみんなと数日間協力して勉強したけど、みんなが裏切るような人には見えない。何かの間違いなんじゃって思う気持ちと、それを誰にも相談できない状況にモヤモヤしていた。

 それこそ今日の夜にでも先生に相談しようと密かに決心した矢先、アイリスちゃんの言葉で現実に戻される。

 

 補習授業部の全員が裏切り者として候補にあがる中、純粋に低学力が原因と言われた編入生。ナギサ様が視線を逸らしながら「……彼女のことも頼みます」と口にするほどであり、実際に成績を見て納得してしまった。アイリスちゃんも今では一生懸命頑張っているので、先生の助力があればテストも合格できるはず。

 それに──どちらかと言えば、ナギサ様は()を警戒していた。

 

 

『島津 オウカ。彼には十分気を付けて下さい』

 

『オウカくんを、ですか?』

 

『はい。補習授業部の中で、私が一番警戒しているのが彼なんです』

 

 

 ナギサ様が彼のことを語るときの眼差しは厳しかった。

 

 

『明確に疑う根拠が編入時期としか言えないんですが、彼は得体が知れない』

 

『えっと、私はオウカくんと話をしたことがあるんですが、ちょっと過激な手段を使うこともありますが、普通に優しいだけの男の子なんじゃないかと』

 

『……そうですか、ヒフミさんには()()見えてるんですね』

 

 

 小さくため息をつくナギサ様。

 

 

『彼はおそらく──私と同じような人種です』

 

『同じ……?』

 

『一見すると人当たりが良さそうな生徒で、実際に学園外の交友関係も広いと聞きます。しかし、実際に会って確信しました。彼は、私と同じ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 だから気を付けて下さい、彼は想像以上に化け物かもしれません。

 ナギサ様の言葉を否定しようとして──彼がカイザーグループに行った熾烈と表現するにふさわしい対応を思い出し、ナギサ様の言葉を否定することが出来なかった。

 

 

「オウカくんとアイリスちゃんは仲良しさんですから。どういう関係なのか……すごく気になります♪」

 

「……まさか、アンタまた変なことを考えてるんじゃないの?」

 

 

 ハナコちゃんの満面の笑みに、コハルちゃんが少し警戒する。

 対して質問されたアイリスちゃんは、いつもの仏頂面だけど困ったように悩み始める。

 

 

「オーカが私をどう思ってるのか分からないけど、私はオーカと一緒にいたい。そんな……関係?」

 

「あらら」

 

 

 アイリスちゃんの告白みたいな真っ直ぐな言葉に、ハナコちゃんは微笑み、コハルちゃんは赤面し、アズサちゃんは興味深そうに頷く。

 これは……その……()()()()()()なのかな?

 私たちの反応を気にかけず、アイリスちゃんの言葉は続く。

 

 

「だから勉強も頑張る。少しでも、オーカの言ってることを知りたいから」

 

「アイリスはオウカの為に頑張るんだな。いいことだと思う」

 

「うん。オーカもここに来て楽しそうだから、一緒に遊びたい。オーカ、前いたところではいっつも悩んでたから。ミナが言って……えっと、なんだっけ? 『上に立つべくして立たないといけない人身御供』だっけ? そんな感じだった」

 

「……えっ」

 

 

 アズサちゃんはアイリスちゃんのヤル気を応援するけど、続けて言った言葉にハナコちゃんが言葉を詰まらせる。

 アイリスちゃんの説明は少したどたどしさを感じるものの、説明することが苦手な子だってのはみんなが知ってたので、そのことについては誰も指摘しない。ミナっていう人も……たぶんアイリスちゃんやオウカくんの友達なんだろう。

 

 

「なんだっけ? とうしゅ? よくわかんないけど、上に立ちたくないけど、上に立たないといけないって。でも、オーカはそんなことしたくないけど、自分にしかできないからって。私は馬鹿だから、難しいことは分かんないけど、チェストしてるときが一番楽しいって。今はもっと楽しいから、私もオーカの言ってることが分かるように勉強したい」

 

 

 頑張って頑張って、自分の言葉を伝えようと努力しているのは分かる。しかし、途中からアイリスちゃんが言いたいことがよく分からなかった。自分でも何が言いたいのか整理できていないようにも思える。

 

 

「……ごめん、説明が難しい」

 

「だ、大丈夫ですよ! アイリスちゃんが勉強頑張ってオウカくんを支えたいって気持ち、十分伝わりましたから!」

 

 

 私のフォローにコハルちゃんも必死に首を上下させる。

 アズサちゃんも「試験をクリアできるよう一緒に頑張ろう」と声をかけている。

 

 

「ハナコ、これでいい?」

 

「はい、私もアイリスちゃんのことを()()()知れて良かったです」

 

 

 ただ──ハナコちゃんの表情が、いつもより硬く感じたのは私の勘違いなのかな?

 

 

 

 




【簡単な自己紹介】

島津(しまづ) オウカ:今作の主人公にして、キチガイ五人衆の一人。自身のあずかり知らぬところでアイリスに自身のことを暴露された男。なんか知らんけどハナコにロックオンされた。

アイリス・ワルフラーン:キチガイ五人衆の一人。補習授業部のみんなを全員いい人認定している。

羽川(はねかわ) ハスミ:正義実現委員会の副委員長。先生がアビドスの一件を超絶オブラートに包んで評した結果、他自治区の問題だろうと全力で解決に勤しむ少年と判断した様子。

阿慈谷(あじたに) ヒフミ:補習授業部の部長。主人公のことを普通の人認定しているが、カイザーグループの件を思い出して『少々過激』と評価している模様。

白洲(しらす)アズサ:最近トリニティに編入してきた生徒。アイリスとは妙に仲良し。

下江(しもえ) コハル:正義実現委員会のメンバー。学年とか抜きにして、アイリスのことを手のかかる妹のように見ているため、他の補習授業部のメンバーに対するような当たりをしない。

浦和(うらわ) ハナコ:補習授業部のメンバー。アイリスの言葉足らずの説明から、何やら主人公に思う所があるらしい。

Q.各話にサブタイトルって必要ですか?

  • いる。そっちの方が見やすい。
  • いらん。数字だけでOK。
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