悪の怪人に転生したので美少女戦隊に投降します   作:トマトルテ

13 / 16
13話:デビルズイースター

 それは、どこにでもいる幸せだった夫婦の話。

 

 何の変哲もない一般家庭に生まれた幼馴染。

 少女は才女ではあったが、それを使って大それたことをする気はなかった。

 だって、そんなものなどなくとも彼女は幸せだったから。

 

 普通に恋をして、普通に結婚して、普通に子供も授かった。

 これからも、普通に幸せに生きていくはずだった。

 だが。

 

『君は逃げるんだ! 桔梗(ききょう)!』

『でも、あなたを置いていけないわ!』

『瓦礫で片足を潰された。もう……動けそうにない』

『でも…ッ』

 

 災害がその幸せを奪い去った。

 地震(・・)により、崩れた家に足を挟まれた夫が妻に逃げろと叫ぶ。

 もちろん、妻はそれに頷こうとはしない。

 

『逃げてくれ。そして、お腹の子と一緒に―――君は生きるんだ』

 

 しかし、自分のお腹の中に居る子供のことを出されてしまえば、残るわけにもいかない。

 

『必ず……助けに戻るわ』

 

 助けを呼ぶと一言残し、妻は夫を置いて駆け出していく。

 決してそれが叶わぬことを、心の中で理解しながら。

 

 そうして、彼女の夫は助けを待つことなく()()()()いった。

 

『大丈夫…大丈夫よ……あなた…私はこの子と…白蓮とちゃんと生きていけるから』

 

 ()()()に綺麗に見つかった夫の遺体を前に、妻は誓う。

 必ずお腹にいるこの子と幸せに生きて、あの世の夫を安心させるのだと。

 絶望で死にたくなる心を無理矢理抑えながら、生きていく。

 周囲もそんな彼女を最大限に支えてくれた。

 

 

 だが。

 

 

『……お腹の中で…死ん…でる? 嘘よ…なんで…なんで……』

 

 

 赤ん坊もまた()()()()

 

『私が…私が…いけないんだわ……私がダメな母親だから…産んであげられなかった』

 

 夫が死んだストレスか。急激な環境変化による体調変化か。

 思い当たるふしは探そうと思えば、幾らでも出てくる。

 周囲は女のせいではないと必死に慰めようとしたが、そんなものは母親になり損ねた女の耳には入らない。

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

 

 誰に謝罪しているのかも分からぬ虚ろな目で、どこかに向かう彼女を周囲の者は止めることが出来なかった。何を言っても、聞こえないと思えたし、言うべき言葉も持ち合わせていなかった。何より、周囲の人間から見ても彼女の救済は死しかないと思えたのだ。

 

『今からそっちに行くわ……あなた、白蓮』

 

 せめて、同じ場所で眠れるように、自分も流されよう。

 そう思い、彼女は崖の上から海に身を投げ――

 

 

 ―――君は生きるんだ。

 

 

 投げることは出来なかった。

 夫の最後の言葉が彼女を縛ったから。

 

『あなた……でも…どうすればいいのよ……あなた達の居ない世界で…どうやって生きて行けばいいのよ……どうやって……』

 

 男の妻に生きて欲しいという願いは、ここで呪い(のろい)となり果てた。

 いや、彼女がこのまま時を経て落ち着けば、それは生きるための呪い(まじない)となっただろう。

 だが、時間が経つ前に―――

 

 教えてやろうか?

 

「―――2人を生き返らせればいい」

 

 どんな手を使ってでもな。

 

 ―――心に潜む悪魔が彼女に囁きかけた。

 

『そうよ…2人を生き返らせれば……また一緒に暮らせる……今度は二度と離れずに……』

 

 フラフラと何かに操られるように立ち上がりながら、彼女は嗤う。

 幸か不幸か、彼女には才があった。世界の乱す程の才能があった。

 埋もれていた、埋もれているべきだった才能が。

 

『2人の体は大丈夫……遺体の壊れた部分は……細胞を培養して補えばいい。クローンを作ることも出来る。難しいところは機械でサイボーグ化すればいい』

 

 だが、それだけでは足りない。

 継ぎはぎだらけのお人形では、おままごとしか出来ない。

 

 今は気づけないがやがては気づくだろう。魂が必要だと。

 魂を引きずり出すには、犠牲が伴うと。

 彼女の全てを奪った地震を、自分の手で起こす必要があると。

 やがては気づくだろう。

 

『何だってやるわ……全てを奪われたんだもの……なら私には―――』

 

 だが、そんなことは関係ない。

 絶望と狂気に支配された女に、悪魔は笑いかける。

 

 

『―――全てを奪い返す権利がある、そうよね?』

「ああ、そうだ。私にはその権利がある」

 

 ()()の願いのために全てを投げ捨てろと。

 そう、囁きかける。

 

 

『必ず、復活させる。あの人を、白蓮を、私の全てを』

「あの目障りな、神の子のようにな」

 

 こうして、桔梗という女は『()()()()()()()()()』という組織のボスになったのだった。

 

 

 

 

 

 地獄の釜が開いた。

 そうとしか思えない光景に、俺は言葉を失い、ただ茫然としていた。

 

「なんだあれは……」

 

 揺れは収まらない。

 だが、それ以上に気になるのは、地割れを起こした場所から溢れて来る何かだ。

 目には見えない。

 だというのに、そこに何かがあるのは分かる。

 重く、低い。地獄の亡者のような声が響き渡る。

 

「ねえ、ママ。どうしちゃったの…?」

「心配しないで、白蓮。あなたは何があってもママが守ってあげるわ」

 

 それに対して怯える白蓮にボスは、桔梗(ききょう)はどこまでも母性に満ちた声をかける。

 もう二度と、失わないように。

 

「違うよ! ママが何かしてるんでしょ!? オメガっちが傷ついてるのはママが何かしたんでしょ!」

 

 だが、白蓮はそんな母親に反抗の声を上げる。

 流石の彼女にも、桔梗(ききょう)が何か不味いことをしているのが分かったようだ。

 

「心配しないで、パパの魂が戻ったらオメガの身体はちゃんと()()()

「パパ…? パパって誰? あたしにはママしかいないよ」

「オメガの事よ。大丈夫よ、パパはとっても優しい人だから、必ず白蓮のことも愛してくれるわ」

 

 だから、何も心配しないでと。

 ボスは揺れが段々と大きくなる中、白蓮を抱きしめようとする。

 しかし。

 

「違うよ! オメガっちはあたしの―――弟だよ!!」

 

 それは他ならぬ白蓮により、拒絶される。

 

「お…とうと…?」

 

 そして、初めてボスは動揺の表情を見せる。

 

「そうだよ。あたしより後に生まれたんだから、オメガっちは弟であたしはお姉ちゃんでしょ?」

「ち、違うわ。オメガはあの人の身体だから、パパよ」

「でも、オメガっちは自分のことをあたしのパパだって言ったことないよ?」

 

 この場には余りにも不釣り合いな、キョトンとした表情で首を傾げる白蓮。

 論破しようとすれば、簡単に論破できる子供の理論。

 だが、ボスはそれに何も返すことが出来ていなかった。

 

 というか、パパで弟とか自分のことながら業が深いな。

 だが、ここがチャンスのことには変わりない!

 

「母さん、俺だってパパと言われても何も分からない。そもそも、パパの魂を俺に入れたらどうなるんだ? 俺は死ぬんじゃないのか?」

「え!? ダメだよ、オメガっちが死んじゃいやだよ!」

 

 死ぬ危険性があることを白蓮に伝えて、ボスを止めるのを手伝ってもらう。

 現状、ボスを止められるのは白蓮だけなのだ。

 ここで、味方に引き込むしかない。

 

「………それは分からないわ。今ある意識がどうなるかは私にも分からない」

「だったら止めるんだ。俺は置いておくとしても、白蓮だって今の人格が死ぬ可能性があるぞ」

 

 歯切れの悪い答えをするボスに、問いかける。

 白蓮も俺と同じような存在ではないのかと。

 ボスはどう見ても、白蓮を猫可愛がりしている。

 そこが弱点だ。

 

「白蓮は大丈夫よ。だって、あの子は産まれて………何でもないわ」

 

 だが、ボスは大丈夫だと言い切る。

 まるで、白蓮の身体に戻る魂など、もともと存在しないとでも言うように。

 

「ママ…?」

「心配しないで。大丈夫、全部上手く行くわ……全部、元通りになるから」

「元に戻るために、おれ(他人)の今を踏みにじっていいのか?」

 

 元通りになる。

 そうやって、自分を信じ込ませるように呟くボスに吐き捨てる。

 お前の過去のために俺を犠牲にするなと。

 

「私は全て奪われた、だから全てを奪い返す権利がある」

「……白蓮、母さんは疲れて変なことをしてる。母さんが持ってるコントローラーを奪ってくれ」

「ダメよ、白蓮。ママは今大切なことをしてるの。邪魔をしないでね」

「え? え?」

 

 俺がコントローラーで操られているのなら、それを壊せばいい。

 そして、この場でそれが出来るのは白蓮しかいない。

 

 キョロキョロと俺とボスの方を交互に見ながら戸惑う白蓮。

 

「白蓮、俺を助けてくれ!」

「白蓮、ママを信じて」

「ふ、ふぇええ!?」

 

 母親と弟、果たして子供がどっちの言うことを聞くか。

 そんなもの―――母親に決まっている。

 

「ママ……オメガっちは大丈夫なんだよね?」

「ええ、きっとね」

 

 別に白蓮が悪いわけじゃない。

 これは当たり前の話だ。子供にとっては親は世界そのものだ。

 逆らうことなんて出来やしない。俺だってそうだった。

 

「さ、こっちにおいでなさい。一緒にパパに会いましょう?」

「う、うん」

 

 どこまでも綺麗に、それでいて壊れたように笑いながらボスが、白蓮に手を差し伸べる。

 もう、俺にはどうすることも出来ない。

 後はボスの言う通り、魂が入ってもきっと大丈夫と祈るしかない。

 ああ、くそ……俺は()()()()()()()()()()()()

 

 こんなにも早く2回目の人生が終わるのなら、あの時、意地を張らずに――

 

 

「10万ボルトレーザー!」

 

 

 ビューティーレンジャーのおっぱいをガン見しておけばよかった。

 

「なッ!?」

 

 突如として放たれた雷のレーザーが、ボスの手に持つコントローラーを撃ち抜く。

 

「やっと隙を見せましたわね」

「勝利を確信した瞬間、人は最も無防備になるっていうよね」

「これ以上、悪事は働かせないでござる!」

 

 聞こえて来たのは3人の少女の声。

 主役は遅れて来るというが、もう少し早く来てもらいたかったものだ。

 

「ビューティーレンジャーッ!」

 

 ボスが怒りをあらわにして叫び声を上げる。

 だが、空気を震わせる怒声を放っても、大地は今は欠片も揺れていない。

 能力のコントロールが俺に戻ったのだ。

 

「助かった、これ以上地震が続くのは気分が悪かったからな」

「こちらこそ、出てくるのが遅れてすみません。茜さんが、不意打ちの完璧なタイミングを待っていましたので」

 

 そう言って、コントローラーを撃ち抜いたイエローはレッドの方を恨めし気に見る。

 

「いや、あの人とんでもなく強いと思うから、完璧な不意打ちじゃないと掠りもしないよ」

「だからと言って、地震を放置するなど」

「止められる機会を永遠に失うよりマシでしょ」

「まあまあ、桜花殿。茜殿もギリギリ被害が出ない線を見極めていたでござるし……」

 

 しかしながら、合理的な性格をしているレッドは平然とした顔のままだ。

 それに、イエローが流石に怒りそうになっているのを、慌ててブルーが止める。

 改めて思うが、正義の味方の思考じゃないなレッドは。いや、優しさは多分本物だが。

 なんというか、クレバーすぎる。

 

「それにしても……よくこの場所が分かったな。アジトから大分離れているだろ?」

 

 それにしても、彼女達はどうやってここに来たのだろうか。

 誰かにつけられるような、ことはなかったと思うのだが。

 

「? いや。だって、昨日街で会った時に私――」

 

 そんな俺の質問にレッドは不思議そうな顔で首を捻り、答える。

 

 

 

「―――君のコートに探知機つけてたでしょ?」

 

 

 

 あれ、お前がつけた探知機だったのかよ!?

 




ボス(桔梗(ききょう))の過去:地震で最愛の夫を失う。
          その後、お腹の子だけでも頑張って育てようとするが死産になる。
          全てに絶望し、自殺しようとするが夫の最後の言葉で死ぬこともできない。
          最終的に死者蘇生を目指して、デビルズイースターを設立。
白蓮の過去:なし
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。