自分が知っている創作の世界に転生。
夢のような話に聞こえるかもしれないが、
しかし純粋な恋愛物を除いた全ての創作物が現代日本より過酷だ。
ワンピース、ドラクエ、銀河英雄伝説、仮面ライダー、歴史物ドキュメンタリー、
全てが素晴らしいが、全てが現代日本と比較して危険だ。
その中でも自分が転生してしまった世界は酷いものだった。
NIKKE
未知の機械生命体によって人類が追い詰められている世界で、
馬鹿みたいな恰好をしたヒューマノイド型対ラプチャー汎用兵器ニケが、
人間の指揮官と共に戦うゲーム。
いわゆるポストアポカリプスだ。
ゲームのシナリオを一通り知っている自分は、
当然諸悪の根源であるレッドシューズの告発をして、
シンデレラの浸食を防ぎたかった。
しかし、自分は軍人ではない。
一般人の自分が極秘プロジェクトである第二世代フェアリーテイルモデルの、
しかも特定のニケを反逆者として告発することなどありえない。
奇人の妄言としか思われまい。
よって自らの身を守る為に原作知識を口にしないことを選んだ。
すでにゴッデス部隊は人類の希望として活躍している。
今更軍に入隊して偉くなることなど不可能だ。
この先シンデレラがアナキオールとなり、
人類は敗北してアークに引きこもる。
原作では人類に希望の光が現れるが、それも100年後の話。
普通の人間である自分は当然死んでいる。
よって、俺はアークに入ることを目的にすることにした。
具体的にはエリシオンの重役に取り入ることだ。
こんな世界だ。
ラプチャーの奇襲でエリシオンの人間もどんどん死んでいる。
よって現場監督クラスでも1カ月後には重役になっている可能性もある。
俺は同じシェルターにいるエリシオン社員の家族と交流し、飯を分け与え、
時には色恋営業のような真似事をした。
そんなことをしていると未知の人型兵器が現れたという噂が流れてきた。
アナキオールのことだろうな。
残念なことに原作通りだ。
レッシュー死すべし慈悲はない。
一庶民である自分はなにも分からぬまま日々を過ごし、
幸運なことにシェルターは攻撃を受けず生き延びて、
大変幸運なことにアーク移住の抽選に当たり(媚び売りが効果あったかは不明)
非常に幸運なことにアーク移住中に奇襲を受けることなく、
無事アークへ移住が完了した。
認識チップを首に埋め込み、アークのシステムの説明をメモし、
義務となった結婚の為にお見合いをする日々。
1ヵ月ほどで封鎖作戦が成功したとの知らせが入った。
ゴッデス、特にリリーバイスの功績が大きいとのこと。
しかし、ゴッデス部隊はアークを守る為に全員戦死したとのこと。
彼女たちへの感謝の気持ちを込めて勝利の女神像を作るらしい。
本当は生きているのに。
ドロシーもラプンツェルもスノーホワイトも紅蓮も生きているのに。
会ったことは無いが、彼女たちのことはゲームを通して知っている。
身を挺して人類を守ってくれた英雄にたいして、
この扱いはあんまりじゃないか。
やりきれない思いで歯をくいしばる。
しかし一庶民の俺にできることはない。
仕方ない。
仕方ないんだ。
俺は自分にそう言い訳して日々を過ごした。
10年後。
快適とはいえないが、生きることには困らないアークでの暮らしに慣れてきたころ。
こんな知らせが中央政府から届いた。
士官学校の案内だ。
この10年でアークの封鎖は完璧だと分かった。
よって地上奪還の為に、ニケを率いて地上を調査する指揮官を募集するとのこと。
元軍人だけではなく、俺の手元にまで届くということは、おそらく人手不足なんだろう。
人類はラプチャーに完膚なきまでに敗北した。
そのトラウマを今のアーク住民は忘れていない。
どうせ無理だ。
そんな思いに支配されている人が大半なのだ。
だが俺は知っている。
地上にはシンデレラを治療しているエイブがいる。
彼女はこのままだと愚かなアークの研究員に壊されてしまう。
リトルマーメイドとヘンゼルとグレーテルもいる。
エイブが生きていたのだから、彼女たちだって生きているはずだ。
ラプンツェルとスノーホワイトと紅蓮だって人類に協力してくれるはずだ。
ドロシーは……不明だが、表立って敵対することはしないだろう。
彼女たちの力を借りることができれば、地上奪還は難しくとも、
地上に人類の生息域を取り戻すことはできるはずだ。
俺の役目はきっとここだ。
結婚はした。
子供もいる。
人類の継続が使命のアークでの義務は果たした。
妻は反対したが、俺が死んでも家族への補償はある。
それに、アークでは犯罪でもしないかぎり生きていくだけなら困難ではない。
ほぼ喧嘩別れのような形で家を飛び出し、
俺は士官学校へ入学した。
主人公の家族の出番はこれで終わりです。