シャイニートリガー -多重星界起動遍歴-   作:形のない者

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大崎甜花② 最初の一歩

 

「ひぃん……!」

 

 C級個人(ソロ)ランク戦。大崎甜花は三本勝負で、今日は三連敗を喫する。ポイントが70点まで低下。先日の正式入隊日から数えて、これで通算百連敗目を達成。今日も隊員育成プログラムでコツコツとポイントを集める日々。隊員育成プログラムは、よほどの最下位でなければマイナス点は出ない。大崎甜花は常に最下位の位置だが、ゼロポイントから十数ポイントを稼いで、三桁まで貯まればこうしてソロランク戦に挑んで大敗を喫する。ギリギリの戦いだ。もし0ポイントになれば素養無しとしてボーダーを辞めさせられる。正式入隊日でそれを確認せず負けまくったことが響いている。大崎甘奈が柿崎国治に聞いて教えてくれなかったら危なかった。

 

「……あなた、大丈夫? もうポイントが少ないんじゃない?」

「あぅ……甜花のポイント、70点……で、でも、ラッキーセブンだから……50点行かなければセーフ……ゼロじゃなければ、まだ戦える……!」

 

 対戦相手は那須玲。画面越しで俯く少女を見て、さすがにその低辺思考はまずいのでは? と思わなくもない。だが他人は他人。特に何も言わない。……ただし思ってしまう。正直この子は()()()()()()()()()と。

 

「…………たしか訓練生は適性審査の結果で、自分に合ったトリガーを支給されるのよね?」

「? ……そうなの?」

「……そうなの。まだ新米の私が言えたことでもないのだけど……あなたの“バイパー”は、ちょっと下手よ」

「ひぃん……」

「あ……ごめんなさい。余計なお世話かもしれないけど、ほかにいいトリガーがあるんじゃないかって思って……結局口出ししちゃったわね……」

 

 その心配は嬉しいが、たしかに余計なお世話である。なぜなら────

 

「……アステロイドだった……」

「……え?」

「最初はアステロイドをもらった……けど、全然ダメで……孤月とか、スコーピオンとか、やってみたけど、全然ダメで……撃ちゲーや射的がうまいって褒められたから、やっぱりハウンドとかバイパー、やってみたけど……」

「…………」

「…………あ、対戦、ありがとうございました……」

 

 那須玲は何も言えなくなる。見るに、負けたらすぐトリガーを切り替えているわけではない。どのトリガーもある程度使ってから、自分に合うか合わないかを考えていることが分かる。それは今の三本勝負でも分かったことだ。数日はバイパーを使っていなければできない軌道をしていた。筋は悪くない。ただ、まだトリガーの仕様に戸惑っているように見える。

 

「……こちらこそ、ありがとう。それと、分割工程が下手なだけで、射出先はそれほど悪くないと思うわ。設定に手間取るのが弱点だけど、きっと弾トリガーの方がいいと思う。……あくまで私がそう思っただけの感想だけどね」

「……! そ、そうかな……? 弾の方が、上手……?」

「孤月やスコーピオンの戦いを見ていないから、なんとも言えないけどね」

 

 二人は個室から退出する。大崎甜花はラウンジに戻って一息。そこで二本の缶ジュースを持った大崎甘奈が現れた。

 

「やっほー甜花ちゃん♪ ランク戦どうだった?」

「なーちゃん……甜花、三連敗……相手の人、すごく強かった……あれはプロの人……間違いない……」

「あぁ~……そっか。ちょっと運が悪かったんだよ! また隠密行動訓練でポイントを取り戻そう! 甜花ちゃん得意だからね!」

「うん……そうだね……」

 

 大崎甜花は缶ジュースを開けてちびちびと飲む。

 たしかに大崎甜花は隠密行動訓練で下位に入るが、むしろ最下位ではない。地形踏破訓練や探知追跡訓練では必ず最下位を争う。では、なぜ隠密行動作戦では下位に上がれるのか、その理由を二人は知らない。一言で言えば、大崎甜花のトリオンが少ないのだ。故に、隠密行動中の訓練生を索敵するトリオン兵から見つかりにくい。

 

 ボーダーのデータベースによると、人間の平均トリオン量は“5”の値である。トリオンが“7”あれば高い方で、副作用(サイドエフェクト)が起こる可能性がある。“3”は低い方で、これ以下になるとオペレーター業を勧められる。そして肝心の大崎甜花のトリオン量は────なんと驚愕の“1”であった。ただしまだ13歳であるため、これから数年かけて成長していく可能性もあるが、それでもトリオン量が“2~3”になれば良い方であろう。

 

 しかし大崎甜花の問題はトリオン量の低さだけではない。本人の生身における運動神経の低さも要因である。トリオン体となれば運動能力が大幅に向上するが、運動経験のない者の身体能力が向上したところで、自らの体の精密操作ができない以上、あまり意味がない。せっかく向上した身体能力を活かしきれない。つまるところセンスがない。

 

 たしかに射撃の腕はある。だがそれは拳銃(ハンドガン)型に限る。二挺拳銃でもいい。ともあれゲームセンターで鍛えた射撃の腕はそれなりだ。しかしボーダーには銃型トリガーが存在しない。一応、狙撃銃も試してみたが、どれも目標に当たらない。しかも通常狙撃訓練をしていると、なぜか途中で(トリオン切れで)弾が出なくなる。捕捉&掩蔽訓練でも同様だ。通常狙撃訓練よりも早く(バッグワームのせいでトリオンが切れて)弾が出なくなり、(レーダー上に出るようになるので)急にバカスカ四方八方から撃たれまくる。全身がスタアメーカーまみれになったこともあった。老け顔の男性(東晴秋)から苦い顔で“君は射手になるといい。それでもちょっと厳しいけど……”と言われて、射手に戻ることを促されたこともあった。先ほどの女の子(那須玲)からも“筋は悪くない”と言われたので、大崎甜花は、やはり弾トリガーしかない、と思う。

 

 しかしながらこのままでは万年C級もありえる。大崎甜花の存在によって“四年以内にB級へ上がれない者は除隊、あるいは他業への転向を強制する”という規則が新たに作られる可能性もある。

 

「という次第でして……どうしたものか……」

「なるほど。話は分かりました」

 

 ラウンジを見下ろせるキャットウォークにて、二人の男性が話している。一人は大崎甜花を採用した面接官。眉間をつまんで溜め息ひとつ。もう一人は天井支部のプロデューサーで、興味深そうに大崎甜花を見つめている。

 

「才能がないので不向き、と何度も言ったのですが……彼女の情熱に根負けしてしまいまして。面接官としてやってはいけないことだと自覚していたのですが……」

「そうですね。しかし何かしら考えがあったんでしょう?」

「はい。トリオンについては一般社会で、なるべく口外しないよう、我ら面接官は本部上層部より言い渡されています。面接官の中でもハッキリとトリオンについて知っている者は少ないでしょう。それに彼女の立場になって考えれば、いきなり才能がない、と言われてもピンと来ないでしょう? ならば一旦本部に入れれば、トリオンについて教えることができる。そしてトリオンの少なさについてしっかりと説明し、戦闘隊員を諦めさせればいい……と」

「なるほど」

「……正直、無慈悲なことをしたとは思っています。ですが妹を守りたいという彼女の意思には、感じ入ることがありまして……」

「…………だれか、家族を?」

「────娘が……彼女と同じ年齢でした。私情を挟んだ私は何かしらの罰則を受けるでしょう。今回のことは既に上へ報告済みです。しかし、プロデューサーさん。家族を失った私が面接官になるためボーダーの戸を叩いた時のように……彼女も説得すれば、何も戦闘隊員にこだわらず、オペレーターでもエンジニアでも、なにかしたくて仕方がないはずです。ですからどうか、除隊以外の方向で……彼女にボーダーで生きる場を与えてくださいませんか?」

「それは……ご自身が罰則を受けて、最悪ボーダーを去ることになった時……あなたが採用した彼女も巻き添えで除隊しないように……ということで?」

「はい……厚かましいお願いだとは重々承知しております……ですが、こんなことを頼めるのは、本部育成顧問の名を持つプロデューサーさんしかいないと思い……どうか、お願いします……!!」

 

 面接官は、どうやら大崎甜花を、失った娘に重ねて見ているようだ。それに関してはどうでもいい。プロデューサーは即答する。

 

「ご相談ありがとうございます。彼女に関しては承知しました。引き受けます」

「……!! 本当ですか……ありがとうございますっ!!」

「厳しい言い方になりますが、犬とハサミは使いようと言うように……やはり工夫次第でどうにかなるものなんですよ」

「……? と、いうと?」

「彼女は戦闘隊員を望んでいるんですよね? 妹を守る……それは“自らの手で”という強い意志があるはず……ならばオペレーターもエンジニアも断り、彼女は戦闘隊員であることにこだわるでしょう。ならば続けさせればいい。必ず抜け道はある」

「え────し、しかし……彼女のトリオン量は、お世辞にも高いとは……」

「そうですね。ところでご存知ですか?」

 

 プロデューサーは、相手を安心させる笑顔で、ニコッと微笑む。

 

「実は私も、昔はトリオンが“1”だったんですよ」

 

 今では“3”ですが、と言って────驚く面接官をよそに、プロデューサーはラウンジに降りていく。面接官は、大崎甜花に非情な現実を伝えに行くつもりだったが……プロデューサーは、その必要はないと言いたげに背中で語り、大崎甜花に関する全てのことを背中ひとつで引き受けた。

 

「こんにちは、大崎甜花さん。俺はプロデューサーと言います。君を採用した面接官から頼まれて、報告と提案をしに来ました。休憩中のようだったけど……今、時間はあるかな?」

「……ふぇ?」

 

 それからプロデューサーはトリオンについて説明。それでも戦闘隊員としてB級に上がりたければ、()()()()()()()()()、と持ちかけた。

 

「……ど、どうするの? 甜花ちゃん……?」

「本部でB級に上がりたいなら、それでもいいけど……正直、時間の無駄だと思う。本部から見込みなしと言われてボーダーを去ることになっても、天井支部はいつでも君を待つ。君はお払い箱にされても、妹さんを守りたい想いが本物なら、必ずうちの門を叩くだろう。ならば早いか遅いかの違いだ」

 

 と言いつつ、ここで賢明な判断ができないようなら、プロデューサーも見込み無しと判断する。C級といえどモノは使いようだ。いくらでも有用性は見いだせる。

 

「────……て、甜花……甘い渋? のところ、行ってみたい……! それで甜花が、強くなれるなら……!」

「……なら話は早い。ここに転属願い届けを用意してある。契約書にサインして事務員に提出するように」

 

 プロデューサーは契約書を渡すと席から立って帰路に就く。それを見送った大崎甘奈は、あることに気付いて真っ青になった。

 

「あれ? ちょ、ちょっとまって、甜花ちゃん……!」

「……? どうしたの? なーちゃん」

 

 大崎甜花は、さっそく契約書にサインするところだった。よく読む前に書かない方がいいと突っ込む前に、大崎甘奈は気付いた問題について口に出す。

 

「甜花ちゃんが天井支部に行ったら……甘奈は……本部で、一人になっちゃう……かなって……」

「……、…………!!」

 

 それは盲点だった。大崎甜花はおっかなびっくり両肩を跳ね上げる。

 しかし甘奈は、言いながら考える。甜花の成長を邪魔したくないと。

 

「……で、でも、甜花ちゃんはB級に上がる方が大切、だよね……?」

「…………」

「甘奈、甜花ちゃんに何もしてあげられなかったし……でも、あのプロデューサーさんなら、きっと鍛えてくれるよ! テレビにも“育成顧問”って肩書きで出てたし! ……あはは、ごめんね甜花ちゃん。変なこと言っちゃって……」

「……………………」

 

 大崎甜花は考える。天井支部には行くべきだ。けれど甘奈を置いていくことはできない。もう二人しかいない家族。たった一人の家族。唯一の肉親。大切な妹。守るべき妹。守りたい妹。

 

「……あ、ほら見て甜花ちゃん! この契約書に書いてあるけど、天井支部って寮があるんだって! 仮設住宅は、ほら。ちょっと住みにくかったし……」

「……なーちゃん」

「でもほら、B級に上がれば個室をもらえるんだよ? 甘奈もすぐにB級に上がるから心配ないよ! ほら、もう甘奈のポイントは3900点だし!」

 

 大崎甜花は知らない。甘奈はいつでもB級に上がれるが、甜花をひとり置いていかないために、訓練もソロランク戦も、この頃はあまり受けないようにしていた。

 

「……でも、一緒の場所に、住めなくなる……」

「それなら甘奈も天井支部に転属できるよう、お願いしてみるよ! もし無理でも学校で会えるし、甘奈、天井支部に何回も通っちゃうかも!」

「なーちゃん……」

「大丈夫だよ甜花ちゃん!」

 

 大丈夫ではないのは甘奈の方だ。甘奈は気丈に振舞っているが、甜花に依存している側面がある。対する甜花はそれほどではないが、甘奈と離れがたい心境を抱いている。

 

「……なーちゃん」

「!」

 

 大崎甜花は、いつになく澄んだ顔で言った。垂れ目ではなく、まっすぐ甘奈の顔を見据えた力強い目付きで。

 

「甜花……なんとか、するから……B級も、すぐで……いっしょに暮らすのも、すぐ……あ、やっぱ無理かも、だけど……それでも、なんとか、する……! だから、ほんのちょっとの、辛坊だから……。なーちゃん、がまん……できる?」

「…………────もっちろん! 任せて、甜花ちゃん! 甘奈の方こそ同じ気持ちだよ。甜花ちゃん、あまり無理しないようにね!」

 

 大崎甜花は思う。自分は決断を間違えたかもしれない。以前の甜花なら“できないことはできない”とハッキリ口にしていた。しかし今は“できないことをできるかもしれないと思いたがっている”ような気がする。甘奈を守りたいのに、甘奈と離れ離れ? それでは本末転倒ではないか。しかし甘奈なら何事もなくB級に上がれるだろう。ボーダー内で既に友達も多いからチームを組むことも容易いはず。甜花はその中に入れてもらえればいい。だがそのためには、まずB級に上がることだ。

 

 両親はもういない。甜花がちゃんとしなければいけない。なのに甜花は何もできない。何かできるようになるためには天井支部に行った方が、本部よりまだチャンスがあると思う。そのために甘奈と離れ離れ? 嫌な予感は拭えない。だがそれ以外に道はない。何かあってからでは遅いのだ。パワーアップできる時にパワーアップしておかないと、急にイベント戦が始まって乗り遅れて後悔する。こんなところでくすぶっている暇はないのだ。

 

「なーちゃん。夜、電話しよ?」

「! うん! でもどうしよう? 甘奈ずっと電話しちゃうなー!」

「じゃあ、通話しながら寝落ち……だね?」

「えー。甜花ちゃんの寝顔見たーい! 甘奈がんばって起きないとー」

「にへへ……」

 

 大崎甜花は、両親を失う前と比べて、それなりに平常運転である。

 対する大崎甘奈は比較的、その表情はこわばっていた。貼り付けた笑顔で場を乗り切り、甜花と共に事務員のところへ向かう。甜花の後ろをついて歩き、瞳孔は開いてうつむきがち。甜花は気付かない。既に夜の電話で満足しようとしている。甘奈は唯一の拠り所である甜花を失い、内心泥をかき混ぜられるような心地だというのに。

 

          †

 

 翌日。天井支部の地下室にある仮想戦闘訓練(モード)にて。弾トリガーが行き交う中、少女の悲鳴が上がる。

 

「ひぃん……!」

「甜花ちゃん弱いっすねー。アステロイドはこう! ハウンドはほい! バイパーはそそい!」    

「……芹沢さん、感覚的な説明ばかりで……甜花全然、わからない……」

 

 大崎甜花と芹沢あさひの戦闘訓練。それを見守る幽谷霧子は、甜花の力になるため、何か得意なことはないか聞く。返答は“特にない”とのこと……特技と呼べるようなものはない。

 

「……で、でも……なにか、ないかな……? 適性審査では、どうだったの……?」

 

 それはアステロイドである。なぜそうだったかと聞かれれば、銃を使うゲームをやったことがあるから。得意かどうかは分からない。ゲーマーでも中堅エンジョイ勢だ。おそらく中の下といったところか。

 

「……! そ、それなら……銃型トリガーがあれば、もしかしたら……」

「でも甜花ちゃん。トリオン少なすぎて、ぜんぜん弾が撃てないっすよ?」

「……トリオン?」

 

 甜花は首をかしげる。まさか話はそこからか。プロデューサーから基本的な指導を任されていた幽谷霧子は、ようやく甜花の知識量が判明したことで、彼女との接し方が分かってくる。

 

「それじゃあ……まずは座学だね?」

 

          †

 

 今日の幽谷霧子は本部開発室に予定がある。それまで大崎甜花に基本的なトリガー講習を授ける予定だったが、そもそも基礎的なトリオン講習をする必要があるときた。時間がない幽谷霧子は、大崎甜花が基礎を身に付けるまでの間、指導を降りる旨を伝える。そして、研修生として勉強している後輩の福丸小糸に、大崎甜花の基礎教育を委任した。

 

「えっと……こ、こんばんは! わ、私は福丸小糸と言います! よ、よろしく、おねがい、しゃす……!」

「甜花は……大崎甜花……よろしく、ね……?」

 

 緊張でどもり気味の福丸小糸は、幽谷霧子から“甜花ちゃんは小糸ちゃんと同じでトリオン貧者だから、何かあったら相談に乗ってあげてね”と言われていた。実際“貧者”などという単語は一切使っていないが、先輩から仕事を押し付けられた福丸小糸はそのように解釈した。もちろん幽谷霧子が良い人であることは理解している。彼女はそんなこと言わない。だがそのように聞こえたのも事実。

 

 天井支部に入ってトリオンやトリガーの勉強をするたび、現実の厳しさに襲われる日々。だが幼馴染がボーダーで頑張っている以上、自分もそれに追いつきたい。しかしトリオンの少なさで悩んでいる仲間が身近にいない。同情はされるが共感はない寂しさ。それも今日で終わりだ。福丸小糸の内弁慶が発動する。

 

「そ、そういえば甜花ちゃんも……わたしと同じでトリオンが少ないんだよね?」

「……たぶん?」

 

 大崎甜花はトリオンを知らないため首をひねる。少し調子づいてきた福丸小糸は、ならばこれから教えようと解説を始めた。まず人に未知の概念を教える時は、その人がよく知る概念に例えるといい。もちろんそれでは誤解を生むおそれがあるため、最初は正しい専門用語を使って教える。そして疑問点をひとつずつ上げてもらい、その疑問を例え話で理解させていく。ほかにも教え方は色々とあるが、少なくとも大崎甜花に対しては、この手法を取ることがスピーディーだと判断した。

 

「────というわけで、トリオンはヒットポイントとマナポイントとスタミナが合体したようなエネルギーなんだよ!」

「……!!!!!! そう、だったん、だ……甜花、何も知らなかった……」

 

 とりあえず大崎甜花は、トリオンがエネルギーであることを理解した。

 

「そして、孤月や弾丸は、装備するだけでトリオンを消費します。さっき言ったよね。これはゲームで例えると?」

「……コスト?」

「そうだね! そして弾トリガーを生成すると?」

「……HPとMPとスタミナを使う……つまり、トリオンを使う……」

「正解! 極論だけどトリオンは、何かをやるたび常に消費する、って考えてもいいよ!」

 

 しかし、だからこそ問題がある。福丸小糸は暗い顔をして残酷な現実を告げる。

 

「わたしは、ボーダーの計測器でトリオン量が「2」だった……甜花ちゃんは「1」だよね? これってゲームで例えると、つまりどういうこと?」

「……何も装備できない」

「何も装備できなくはないよ? ただ、普通の人は剣、盾、兜、鎧、ズボン、靴、魔道書、って感じで、色々と装備していけるけど……わたしたちみたいなトリオンが少ない人は、剣しか装備できない、みたいなことになるんだよね」

「…………」

「ま、まるで縛りプレイみたいだよね! わたしはあんまり、ゲームしないから詳しくないけど……妹がゲームやってたり、動画でゲームのプレイ映像を見てるから、縛りプレイが結構厳しいってことは、なんとなくわかってるよ……でもね! 霧子ちゃんは言ってたよ!」

「?」

 

 福丸小糸は、少し無理をした微笑みで言う。

 

「“トリガーは荷物になるけど、知識は荷物にならない”────ひとつやふたつしか装備できなくても、知識があれば装備はそれくらいで十分。それがどういうことかは、今から見せるよ!」

 

 福丸小糸は基礎勉強の終了を告げて、応用編を始める。仮想訓練室に持ち込んだホワイトボードに図を描く。

 

「で、では……これから、“トリオンと物質の違いについて”を、考察していこうと思います!」

 

 福丸小糸は見習いエンジニアとして本部開発室に通い始めてから、幽谷霧子に“トリオンと物質の違いについて”という論文を書くように言われた。なんでもその論文を書けるようになれば、トリオンとトリガーの深い理解につながるのだとか。つまり、荷物にならない知識である。

 

「で、では、問題ですっ! ここに、鉛弾(レッドバレット)の試作トリガーがあります……このトリガーは、トリオンに干渉しない代わり、物質に干渉する性質を持っています。これがどういうことか、同じ防御系トリガーであるエスクードとシールドを使って、確かめてみましょう!」

 

 弾トリガーのアステロイドを生成。オプショントリガーの鉛弾を起動。白く光り輝くアステロイドは真っ黒い砂鉄のような色に変わる。

 

「シールドの設定をいじって……固定シールドを10m先に展開して、そのとなりにエスクードを生成して……よし、準備できた! 見ててね!」

 

 円柱の固定シールドと、地面からせり上がった大盾のエスクードが並ぶ。福丸小糸は、シールドとエスクードそれぞれに向けて鉛弾を射出。すると不思議なことが起きた。鉛弾はシールドをすり抜けていく。対するエスクードとは激突し、重りのような黒い物質が生成された。

 

「これで、どっちが物質なのか分かりましたね?」

「……エスクード? が、物質……?」

 

 然り。福丸小糸はトリガーを片付けると、今度はアステロイドを生成。すると孤月を使って、なんとトリオン弾の分解を始めた。弾を切り開いて、中の構造があらわとなる。

 

「今度は弾トリガーを使って、物質とトリオンの違いを見つけていきます。このように弾トリガーの中身は、カバー・弾体・噴進剤で構成されているんだけど……ひとつずつ簡単に説明すると、カバーはトリオンの層です。弾体はトリオンを物質化したものです。噴進剤はトリオンを溜め込むところです。

 カバーの役目は、弾体が空気に触れるのを防ぐためです。トリオンは空気抵抗を受けないけど、物質化したトリオンは空気抵抗を受けるから、カバーを被せることで空気抵抗を無効化することができます。また、物質化したトリオンも時間が経つと消える。そして高速で射出されるわけだから、空気とぶつかりすぎると、すぐに物質化したトリオンも削れて、空気中ですり減って消滅する。それを避けるために、カバーがあるんだよね。カバーがあるおかげで弾体は支えられて、射程距離が伸びているんだよ。

 弾体の役目は、殺傷力を持たせるためです。物質化したものじゃないと、トリオン体は壊せないから。あ、トリオン体も物質化したものだよ。カバーがトリオン体や物質に命中しても、あまり殺傷力はない。ホコリを吹き飛ばす程度の爆風が起きるだけ。噴進剤も同じ。こっちは強く噴出しているから、トリオン体をミリ単位で削れるかもしれないけど、殺傷力は低いよね。

 噴進剤の役目は、カバーと弾体を積んだ前芯部を、遠くに飛ばすための射出用器械です。器械は物質化しているけど殺傷力は低くて、噴進剤はトリオンです。

 では、実際にこれに鉛弾を当てることで、確かめてみましょう」

 

 福丸小糸は鉛弾を小さく分割して射出。鉛弾はカバーをすり抜ける。鉛弾は弾体に衝突して重しに変える。鉛弾は噴進剤をすり抜けるが、噴進剤を包む器とは衝突して重しに変える。

 

「さて、この事実を踏まえて問題です。グラスホッパーと弾トリガーがぶつかったとき、両者はどうなりますか?」

「……ぐらすほっぱー……?」

「────あ、えと、あのね! グラスホッパーっていうのは、その……トリオンで出来ているもので、踏むと強く弾みます。グラスホッパーを踏んで高く飛び上がるためのトリガーかな?」

「……グラスホッパーは、トリオンで出来ている……弾トリガーは……弾体は物質化しているけど、カバーと噴進剤はトリオンだから……?」

「……じ、じゃあ、わからなかったら、試してみよう! 私がグラスホッパーを張るから、そこに弾トリガーを当ててみて!」

 

 福丸小糸はグラスホッパーを分割生成。的あてゲームのように3×3の正方形9マスにするよう空中に貼る。それに向かって大崎甜花がアステロイドを射出する。結果、アステロイドとグラスホッパーは、互いに激突して相殺、消滅した。

 

「……? なんで?」

「どうなると思った?」

「……グラスホッパーが壊れる? ……と思った」

「えっとね。半分正解で半分違うかな? 一瞬の出来事だから、順を追って解説するね! まず弾丸とグラスホッパーがぶつかる時、最初に当たる場所はカバーとグラスホッパーでしょ? どっちもトリオンで出来ているから、お互いに干渉して消滅します。するとカバーが無くなって弾体が空気中に露出します。弾体は物質化しているから、グラスホッパーを壊して直進する……と、思うでしょ? でもグラスホッパーは既に消滅しています。そして、実はカバーのない弾体の射程距離は、1メートルを切るんだよね。30cmも進まないんじゃないかな? 空気抵抗を受けて減速するし、噴進剤の慣性があっても、グラスホッパーとの相殺で起きた爆風とカバーの破片で、さらに勢いが削がれるから、殺傷力のない弾体の物質だけがその場に残る。そもそもカバーを失った時点で、支えを失った弾体はあさっての方向に飛んでしまう。すると噴進剤は、本来弾体を後押しするための燃料なのに、後押しするものがカバーの消失と合わせてどこかに行っちゃったから、噴進剤のトリオンもその場で噴出するだけになって、すぐに消えてしまう」

「??????」

「……つ、つまり! 相殺する! これだけ覚えておけばいいよ。……で、どうして物質とトリオンの違いについて、説明したかというと……ただ、なにかの役に立てばいいなって、思って……ち、知識をどう使うかは、その人次第だから……とにかく、これは覚えておいて損はないと思うよ?」

 

 福丸小糸の言い分は一理あるが、本心は異なる。本来この講座は、既に自分が作成した論文に書いてある内容だ。あとは幽谷霧子に見せるだけなのだが、ちょっと自信がなく、誰かに聞いてほしかった。意見が欲しいなら初心者ではなく、杜野凛世あたりに聞いてもらえばよいのだが……正直なところ自信が湧けば良いだけなので、話を聞いてくれるだけでも満足だった。そこでちょうど大崎甜花に白羽の矢が立ったわけである。基礎授業のあとに、いきなり応用編が始まったのは、そういうわけだ。

 

「と、とりあえず……基礎的なことは覚えたみたいだから……今のは、そう! おまけみたいなものだよ。じゃあ、がんばってね! き、今日は、お疲れ様でした!」

 

 福丸小糸は会釈して仮想訓練室を去る。取り残された大崎甜花は、色々と考えていた。

 

(……甜花は、トリオンがすごく少ない……ベイルアウトトリガーをセットしただけで、半分弱のトリオンを使っちゃってる……ベイルアウトトリガーって、外せないのかな……? ……だめ?)

 

 ダメである。ベイルアウト機能は、戦死者の数を減らすためのトリガーだ。原則“いのちだいじに”で用兵しているボーダーの信念が形となったトリガーと言っても過言ではない。それを外すなど言語道断である。

 

(……トリガーを装備するだけで、トリオンを消費する……孤月をセットしたら、あとはシールドくらいしかセットできない……でも、甜花、運動できない……近接戦闘は、無理……じゃあ、アステロイドだけセットしたら、十回くらい生成しただけで、甜花、トリオン切れでベイルアウトしちゃう……)

 

 現在ボーダーで開発されているトリガーは次の通り。

 

 孤月、旋空。

 アステロイド、ハウンド、バイパー。

 アイビス。

 シールド、エスクード。

 バッグワーム。グラスホッパー。鉛弾。などなど、などなど。

 

(あう……どうしよう……)

 

 大崎甜花は、福丸小糸が渡してくれたトリガーコストと、トリガー使用の際のトリオン消費量を記した表を見る。

 

 

 

 ※ボーダー本部の計測値であるトリオン1を、福丸式トリオン計測器の値にコンバートして、これを100トリオンとする。つまり「トリオン1=100ポイント」として考える。

 

 孤月のセットコストは10ポイント。生成や切り替えのたび0.1~0.5ポイントを消費する。※振れ幅は未検証の部分ゆえ、これから煮詰めていく。

 旋空のセットコストは10。起動で0.5を消費。

 アステロイドのセットコストは10。生成時、使用者のトリオン量の1~5%を消費。※たぶん3%か5%が正しいかも?(未検証です)

 ハウンドのセットコストは20。同上。

 バイパーのセットコストは20。同上。

 アイビスのセットコストは30。生成や切り替えで1~5を消費。トリオン弾一発につき0.3。

 シールドのセットコストは10。生成や変形で1。

 エスクードのセットコストは30。生成や変形で1。※防御力調整機能付きの恐れあり?

 などなど。

 

 そして最後に記載されていたデータを見て、甜花は目を丸くした。

 

 ベイルアウトのセットコストは100ポイント。※鬼怒田さんによればコストポイントを下げる研究をしているとのこと。

 

(…………え?)

 

 甜花のトリオンは1と計測された。それを福丸小糸の独断と偏見による計測表に直すと、大崎甜花のトリオン量は100となり、そしてベイルアウトの装備コストは100となるらしい。

 

(……つまり、甜花……ベイルアウト装備したら、トリガー、何も装備できない……?)

 

 そんなことはない。そもそも大崎甜花は訓練生だ。ベイルアウト機能はB級以上の隊員に支給されている。というのも資金や人手が足りず、開発と生産が追いついていないのだ。セットコストを下げる改良もしたいが、それも資源不足で出来ない状況にある。ボーダーは常にカツカツなのだ。

 

(……あれ? でも今まで甜花、トリガーは使えてた……じゃあ、もしかして……今の甜花は、ベイルアウト、ない……?)

 

 思えばそのようなもの(ベイルアウトトリガー)を貰った覚えはない。ボーダー内部で急にトリオン体が解除された時は、トリガーの故障かと思ったが、本来あれはトリオン切れで換装が解かれた状態だったのだ。その時、普通はベイルアウトする。だがベイルアウトとやらを体験したことがないし、見たこともない甜花は、福丸小糸が教えてくれたベイルアウトという知識から、訓練生にはベイルアウトトリガーが支給されていない事実に気がつく。

 

(……そういえば福丸さんは、トリオンが少ない人は、トリオンの回復も早いって言ってた……甜花は1しかないから、すぐ0から1、0ポイントから100ポイントまで貯まるってことでいいん……だよね? あと、トリオンは成長に合わせて増えていく……じゃあ、来年には、甜花のトリオンは2になっている、かも……?)

 

 首の長い話だが、それまで訓練生でいることは覚悟しなければならないようだ。しかしネイバーの攻撃がいつあるか分からない。甘奈を守るためなら、たとえベイルアウト機能がないとしても、甜花は特訓を怠らない。不意の戦闘も覚悟する。

 幸い天井支部は、訓練生でも好きにトリガーを選べる。本部の訓練生は、適性審査で定められたトリガーを支給されるだけなので、それ以外のトリガーは基本的に使えない。申請すればレンタルできるが、常に順番待ちだ。みんな色々と試したいと考えていることは同じなわけである。つまり本部の訓練生は別のトリガーを試す機会が少ないが、天井支部の訓練生はトリガーを試し放題というわけだ。

 

 大崎甜花は多種多様なトリガーチップを装着し、仮想訓練室という無限トリオンの中で試行錯誤を重ねていく。トリオンの計測器を使うことで、どのくらい戦えばトリオンが切れるのか図ることもできる。

 

(……ベイルアウトがないなら、セットできるトリガーの数は増える。攻撃用・防御用・逃走用は欲しい。でもトリガーをセットしすぎると、継戦能力が落ちる。すぐトリオン切れになる。でも甜花はトリオンの回復が早い。それでも、なるべくトリガーの数は少なくしたい。なら、攻撃と防御と逃走、どれもひとつのトリガーで出来るようなものを……せめて、三つのうち二つが、ひとつのトリガーで済むような方法を……考え……)

 

 考えて、考えて、考えてから、大崎甜花はすっくと立ち上がる。

 

「この中で、甜花が使えるトリガーは……()()!!」

 

 なので、お願いをしに行こう。

 

「拳銃型のトリガー……作ってもらえるかな……?」

 

 ゲーセンで鍛えた射的の技術。ここで活かさずしてどこで使うのか。しかし、すぐに作れるというわけでもない。開発室は常に人手不足で資金不足。一訓練生のために作る余裕もないだろう。故に、非常時に備えて別案(オプション)を考えておく。無いなら無いなりに、苦肉の策というものを用意する必要があった。

 

          †

 

 翌日。基礎を終えた大崎甜花は、ようやく幽谷霧子から基本を教えられる事になる。

 天井支部の地下の仮想訓練室にて、さっそく大崎甜花は苦肉の策を披露する。

 

 相対距離20m……大崎甜花はサブトリガーでアステロイドを生成、立方体8分割の後、さらに立方体ひとつ辺り8分割し、粒のような小弾に32分割。設定は低速・散弾。二人の間に低速の散弾が浮遊する。触れればトリオン体に穴が開くため、幽谷霧子は迂闊に近付けない。

 しかし幽谷霧子は近接タイプではない。メイントリガーのハウンドを生成27分割のち設定し射出。低速散弾と激突して弾丸の散布が蹴散らされていく中、大崎甜花は敵弾丸の軌道を読んで回避行動を取りつつ、メイントリガーのハウンドを起動。

 生成、立方体8分割、設定は追尾性能なし、15m直進後に追尾性能をマックスにし、特定の四方向に射出。低速散弾の地帯には、数箇所、弾丸の軌道が通る抜け道が用意されていた。八発の弾丸は低速散弾地帯に邪魔されず、四つの抜け道を通って15m先まで飛んだところで追尾性能が最大化。幽谷霧子の頭上左右と前方左右から、八発の弾丸が収束する。

 しかし、その前に。幽谷霧子の放ったハウンドの方が、先に大崎甜花めがけて着弾しようと迫る。低速散弾地帯を突破した数発のハウンドは、ちょうど追尾性能が強まり、カーブを描いて大崎甜花を付け狙う。

 

 大崎甜花は一瞬迷う。()()()()()()()()()()()()()()()()()……それが福丸小糸に教えてもらったトリオンとトリガーの基礎知識だ。ここでメイントリガーのシールドを起動すれば、せっかく攻撃のため射出したメイントリガーのハウンドが幽谷霧子に命中する前に消えてしまう。一方でサブトリガーのシールドを起動すれば、せっかく散布した低速散弾地帯のアステロイドが消失してしまう。防御のためには、攻撃の中止か、地形条件の消去か、どちらかを選ぶ必要がある。────甜花は選択した。サブトリガーのシールドを起動。数発の弾丸を防ぐ。

 そして幽谷霧子の方でも、サブトリガーの固定シールドを起動し、八発の弾丸を防いだ。が、同時にメイントリガーのハウンドを生成分割設定射出。低速散弾地帯という障害物は消えているため、速度に割り振ったハウンドは高速で大崎甜花に直進する。

 すかさず大崎甜花はメイントリガーのシールドを起動しようとするが────技術的な不慣れもあり間に合わない。集中シールド一枚が叩き割られてトリオン体の胴体が破壊される。仮想訓練室のシミュレーターが、大崎甜花のトリオン切れを通告し、幽谷霧子に勝ち星がついた。

 

「……甜花ちゃん、すごいね……ここに来てからまだ一日しか経ってないのに……すごい上達ぶり……」

「…………でも、負けちゃった……」

 

 やろうとしていたことは、悪くなかったはず。低速散弾地帯を用意することで、敵の攻撃が甜花のところに到達する時間を、微量ほどだが遅延させた。しかし問題は、同時に起動できるトリガーが二つまで、という点だ。このせいでシールドを使用する際、低速散弾地帯を消す必要ができる。今回は攻撃を中止するべきで、ハウンドによる低速散弾地帯を作成し、今度はアステロイドで抜け道を使い攻撃を仕掛ける。この繰り返しで慎重に駆け引きするべきだった。

 

「……甜花ちゃんがやろうとしていたことは、すごくいいと思うよ? 名案だと思う! ……でも、ひとつだけ改良の余地があるかも……それさえできれば……」

 

 幽谷霧子の言いたいことは、既に大崎甜花も了解していた。

 

「────弾トリガーの物質化」

「!」

「別に弾じゃなくてもいいけど……。えと……物質化するトリガーは、同時に二つ以上のトリガーを使っても()()()()から……障害物に便利……たとえば孤月は、ほかのトリガーを使っている時、刀身の斬撃性能が消失するだけで、刀身は残る……受け太刀は、刀身が脆くなっているから難しいけど……できなくは、ない……エスクードも、一度生やしたら、基本的に消えないと思う……まだ詳しく検証してないけど……」

「……」

「だ、だから……低速散弾地帯を作りたいなら、孤月やエスクードみたいな、物質化するトリガーで作れば……()()()()……でも、そのトリガーが、まだボーダーには、ない……」

「……うん……そうだね。もしかしたら甜花ちゃん、トリガーを使うセンスがあるのかも……」

「え? そう? にへへ……そうかも……甜花、天才……! あ────“知識は、荷物にならない”……!」

「ふふっ。プロデューサーさんの言葉だね」

 

 甜花は首をひねる。

 

「? 幽谷さんの言葉じゃ……ないの?」

「ううん。実は受け売りなんだ」

「じゃあ……だれの?」

「────プロデューサーさん」

 

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