シャイニートリガー -多重星界起動遍歴-   作:形のない者

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ヴァリアー① 激闘

 

 翌日。水平線から太陽のような光が昇る頃、トリオン体に換装した芹沢あさひは超特急で海岸沿いを駆け抜け、杜野隊と合流した。

 

「おはようっすー! 芹沢あさひ、ただいま合流したっすよー! 早く姉島に行こうっすー!」

 

 芹沢あさひの声で起こされた幽谷霧子と大崎甜花。杜野凛世は微笑んでうなずく。芹沢あさひはエスクード掘っ立て小屋が気になるのか、中に入ってみて「おー」と眺め回す。

 

 その時、ひと晩を不寝番として明かしたダクトロが声を上げる。トリオン体は睡眠を必要としないため、寝る必要がないのだ。

 

「ところで、青いの。貴様らはよくもまぁ俺のそばでグースカ寝ていられたな。先まで殺し合っていた敵を仲間に引き入れることに、なんら抵抗はないのか」

「それは……プロデューサーさまが、常に近くに居られましたから……」

「なるほど確かに、奴も不寝番として見張り役を務めていた。俺が変な気を起こすことがあっても、すぐに駆けつけられる。だがなぁ……よっぽどの信を置いているようだが、この措置に疑問はないのか?」

「……あります。ですが、こちらはわずかでも戦力が欲しい。加えてプロデューサーさまは、戦士の一族が武人であることを強調していました。でなければ、そもあなたを引き入れようとは考えないでしょう」

「というと?」

「凛世も同意したからです。戦ったことで、凛世もあなたを武人であると認めました。武人であれば約束は違えぬ。つまるところ信を置くという意味では、凛世はプロデューサーさまだけでなく、ダクトロさんも信用しております」

「…………これは驚いた。初めて邂逅するたぐいの人間だ。このへんの奴らと比べたら柔軟が過ぎる。よもや我が一族の気質を利用する腹積もりで引き入れたとはな。しかしそれならば合点がいく。合理だ。────ならば、我も武人として、隊長殿の信任に応えよう」

「ありがとうございます」

 

 どうやらダクトロは、杜野凛世を隊長として認めた様子。さもなくば今後の戦いで、ダクトロはプロデューサーの命令のみ従い、杜野凛世の命令を聞かないという展開が有り得ただろう。そう考えるプロデューサーは、いよいよ甘奈救出作戦の準備が整ったことを見て取り、全体を見合わせる砂丘の頂きから声をかける。

 

「あさひも合流した。そろそろ出発しよう」

「はい。杜野隊、出陣です」

 

 杜野隊は、昨日と同じ方法で海を渡る。姉島の岸に到達。全員バッグワームを起動。

 

 リボーンのデータによれば、ヴァリアーは一人のボスと六人の守護者、百名を超える下っ端で構成されている。そこに未知数のシモンを加えると、依然として圧倒的な戦力差は、さらに広がりを見せる。しかし数の差はプロデューサー単騎で覆すことが可能。同時に守護者数名を相手取ることも可能だ。仮にシモンも、ヴァリアーと同様の幹部と構成員数を誇っていたところで同じこと。ダクトロという戦力を得たことで、鬼に金棒と言える。

 

『プロデューサーさま。本当にこのまま森に突撃するのですか?』

 

『あぁ。俺の見立てだと、今回の敵勢力は様子見だ。本気を出してくることはない。理由は二つ。

 一つ目は、たしかに資料だと構成員が百名を超えるマフィアだと記されていたが、そもそも、それだけの人数をネイバーに送り込む技術は難しい。ほとんどの構成員はイタリアの山奥で待機しているはずだ。そして本部を留守するわけにもいかないから、数人の守護者も待機させているはず。わざわざネイバーフッドに誘い込んだ時点で、敵は少数精鋭だ。もちろん、ボーダーから遠征してくる部隊も、ほんの数人と考えて待ち伏せているだろう。

 二つ目は、迅の未来視。といっても迅の未来視も完璧じゃない。未来が現在に近付くほど、予知は不確定になる。ダクトロとの遭遇が見えていなかったようにな。……単に問題ではないので言わなかっただけの可能性も高いが。そして、ここで告げることがある。ヴァリアーは三人、シモンは二人だ。ヴァリアーのボス・ザンザスと、最強格の守護者スペルビ・スクアーロと、中堅のベルフェゴール。シモンのボスと、甘奈をさらった少女。彼らは東西の古城に分かれて陣取っている。罠も張らず堂々と。西の砦にシモン、東の古城にヴァリアーだ。

 さて、凛世。ダクトロに西の古城へ行くよう命令しろ。迅速に攻め込み甘奈を救出後、ベイルアウト、さっさと本部に帰還する』

 

『……了解』「指示を出します。ダクトロさん。詳しい位置は不明ですが、西側の砦にシモンの勢力がいるとのこと。向かっていただけますか」

「おうよ。先駆けても構わんか?」

「はい。調べによれば、罠のたぐいはないとのことですが、伏兵にはご注意を。なお、敵は二名です」

「わざわざ教えてくれるのか。こういうのは鉄砲玉として死地に向かわせるもんなんだがなぁ。……ま、あんた等なら任務は失敗しないだろう。また遭ったら、そんときゃ心ゆくまで殺し合おうぜ」

 

 ダクトロは森に入る。

 

「ひと呼吸をいたら杜野隊も参ります。────いざ」

 

 杜野隊も駆け出して森に入る。幽谷霧子はニュースボックスを使い、レーダーを確認。ある程度まで進んだところでレーダーに反応あり。

 

『トリオン反応を感知! 前方に四つの光点! 手前に二つ、奥に二つ!』

『俺は甘奈隊員を捜索する。杜野隊は露払いだ』

『了解』

 

 一歩プロデューサーが先走る。木々の頭上合間に古城の尖塔が映り込む。古城の正門に到着。プロデューサーは飛び蹴りで両扉を破壊。どこへ向かえば良いのか分かっているように、よどみなく右側の階段を駆け上がっていく。

 

『凛世たちは左側の階段を』

 

 杜野隊は階段を駆け上がり、長い回廊を直進。前方に広間へ通じるような両扉を発見。

 

『わたしが先に飛び入りするっす!』

『では……左右のカバーは凛世と霧子さんで』

 

 芹沢あさひは、先ほどプロデューサーがやったように両扉を蹴破ってダイナミックに入室(エントリー)

 

「お、きたきた。ししし。王子に恥かかせた不届き者もいるじゃん?」

「う゛ぉおおおおい!! 飛んで火に入る夏の虫とはこのことだなァ! 三枚に下ろしてやるぜぇええ!」

 

 障害物のない広間の中央に、長髪の男と金髪の少年。顔写真と一致。かたや剣豪スクアーロ、かたや殺人鬼ベルフェゴール。

 

『剣豪は凛世が相手します』

『えー。わたしも戦いたかったっすー』

『あさひちゃん。私とナイフ使いを相手しよう?』

『て、甜花は……!?』

『甜花さんは一歩引いて全体の援護を。射手の役回りを遵守してください』

 

 全員バッグワームを解除すると同時、甜花の脳内に『残存トリオンわずか』と響く。どうやらバッグワームを十数分使っていただけで、残りトリオンが底を尽きかけている。

 

 一方、杜野隊の頭上、上層階の王室では、玉座に鎮座する極悪な顔の男が睨む。彼の名はザンザス。部屋に蹴り込んできたプロデューサーに手のひらをかざし、トリオンの光球を発射。プロデューサーは部屋の隅のソファに寝入る甘奈を発見しつつ姿勢を屈めて躱すと同時、その背後から白く泡ぶく青い波濤が現れ、床下まで切り刻みながら王室を呑み込む。

「!」

 ザンザスは二挺拳銃を生成。銃口から身を浮かすほどの砲弾のようなトリオン弾を放つ。

 

 二つの剣戟。凛世とスクアーロ、あさひとベルフェゴールが一合を交わした刹那、天井が破壊。二発の砲撃が着弾し、青白い津波が滝のように降りかかる。驚く一同の中、凛世とスクアーロは動じず切り結ぶ。だが視線は遣っており、スクアーロは白い泡が物質を切断した瞬間を目撃、さりげなく凛世が青い波を浴びて安全であると見せかけていることを見抜き、白い泡を避けて後退。

「小賢しい真似を゛ォオ……!」

 スクアーロが退いたことで三間(5m強)の距離が開く。凛世は帯剣。

「旋空────」

「!」

 スクアーロは義手と一体化した剣を振ると、刀身に仕込まれた小口から小粒の火薬が射出。凛世は旋空を起動しておらず、シールドで両防御(フルガード)、資料にあった小型炸裂弾の奇襲を防ぐ。

「う゛ぉおおおい……旋空弧月をしてくると思ったんだがなァ……!」

「やはりボーダーを狙った以上、こちらの情報も入手しておられるようで」

「この俺に“釣り”をするたぁ、いい度胸じゃねぇかァ!!」

 スクアーロの眼前に幽谷霧子のハウンドが迫る。後退跳躍で回避。

 

 一方、白い泡を躱した芹沢あさひは青い滝に突っ込み、白い泡で足を削られた敵にスコーピオンを伸ばす。ベルフェゴールはワイヤーを仕込んだ二本のナイフを投擲。あさひは伸ばしたスコーピオンで弾きつつ、そのまま前のめりに突撃しようとするが────不意に右手を光らせてグラスホッパーを生成、真上に飛んで宙返り。

(げっ。これ読まれてんな……にしても勘が鋭すぎね?)

(もしあのまま突っ込んでいたら、ワイヤーで体を切断されていた……かも)

「スク先輩~俺、トリガー読まれてるから後は任せまーす」

「う゛ぉおおい! ふざけてんじゃねぇぞぉおお!!」

 

 ベルフェゴールは後ろに下がり、中距離支援に徹する。

 そしてスクアーロは、二つの殺気を感じ取った。

 

「! ……ただのガキどもじゃなさそうだな。いっちょまえに殺気を向けてきた奴は細切れにしてやるぞ! う゛ぉおおい!」 

 

 杜野凛世と芹沢あさひの標的が重なる。二対一の好機。これを逃す手はない。剣戟。凛世とあさひの猛攻を、スクアーロは剣一本で捌ききる。幽谷霧子は横手に回り込んでアステロイドを生成分割、敵二名に狙いをつけて牽制。大崎甜花は霧子に追随。不意にベルフェゴールは何かを引っ張るような仕草をする。

「!?」

 芹沢あさひの右半身が引っ張られる。先ほどスコーピオンでナイフを弾いた際にワイヤーが巻きついていたのか。前のめりとなったところに、スクアーロの剛剣が奮われる。

鮫衝撃(アタッコ・ディ・スクアーロ)!)

 芹沢あさひの両防御シールドが叩き割られて左肘が切り飛ばされる。同時、杜野凛世の孤月が薙ぎ払うも、スクアーロは横っ飛びで回避。傷は浅く、脇腹を抉るに留める。

(……っ! 体が、動かない……!? しまった、トリオンを流し込んで伝達脳を麻痺させるトリガーだ!)

 シールドが割られた時のため腰を屈めて退避していた芹沢あさひの出足が鈍る。

「トドメだ」(鮫の牙(ザンナ・ディ・スクアーロ)

 スクアーロの剣が発光。刹那、あさひに向かって高速の自動連続刺突が繰り出される。効果時間は0.1秒から10秒まで。今回の設定は2秒。実際の剣を一回突き出すだけで、その動きを複製した斬撃性トリオンが十本、剣の周囲に生成される。

 一秒目、凛世のエスクードが二人の間にせり上がった。あさひの脇腹を蹴り飛ばした凛世は片手にアイビスを持ち、エスクードに十個の風穴を空けて突き破ってきたスクアーロの足元に射撃、踏み込んできた右膝を貫通、横から飛んできたナイフをアイビスの銃身で防ぎつつ、旋空を起動、アイビスが消失、孤月を垂直に切り落としたことで拡張斬撃が一瞬の壁を作り、凛世の姿をトリオンの壁が隠す。

(なんだ? 旋空弧月にシールドの役目は果たせねぇ。どういう────、っ!!)

 二秒目。スクアーロの高速連続刺突がトリオンの壁を貫き五つの穴を作り、地べたにあごが着くほど身を屈めていた凛世を発見した、次の瞬間、スクアーロの足はシールドで固定されており前に踏み込めず、残り五本の刺突と実際の剣が届かず、トリガーが終了する。

(なにィ!? シールドを円筒状にして、俺の左足を包むように生成しただと……! そこまで低くしゃがんだのはそのためで……俺の視界を隠したのは、足を止める狙いが読まれることを恐れてか……!)

 基本的にトリガーの使用は、イメージの力が重要である。敵の足元にシールドを生成して動きを止めるためには、じっと凝視する必要があった。敵は強者。その足元を見ていれば、狙いがあると勘付かれて躱される可能性が高くなる。

『今です』

 凛世が足止めすることを知っていたのか、霧子のアステロイドが射出される。

(チィ────まさかこれを使うとはなぁ! 鮫特攻(スコントロディ・スクアーロ)!!)

 虚空を薙ぐ剣風。刹那、それは旋空のように斬撃が拡張し、且つ、五つに分裂した。

『!?』

 五連旋空とも呼ぶべき拡張分裂斬撃が、64分割された追尾弾の全てを薙ぎ払い、地を叩き蹴って転がった杜野凛世の手足の指先を切断、幽谷霧子の右手首を切り落とす。

 

 轟然。頭上から爆撃のような戦闘音が轟く。降り注ぐ天井の瓦礫。見上げれば青空が見える。プロデューサーとザンザスの戦闘は空中に移っていた。二挺拳銃からトリオンを吹かして空を飛ぶザンザスは、空中から一方的に砲撃の如し射撃を繰り返す。その全てをトリオン体の操作ひとつで躱すプロデューサーの腕の中には、怯えて縮こまる大崎甘奈の姿があった。

「グラスホッパーすら使わねェとは……舐められたもんだな。かっ消す!!」

 全ての障害物を貫通する絶大な一撃が二発、古城の屋上に立つプロデューサーに向かって放たれる。当然それを躱すが、屋上を貫いて床と天井を貫通する二発の砲撃は、偶然スクアーロと大崎甜花の頭上に飛来。

「チィ!」

「甜花ちゃん!」

 自らの足を切り落としたスクアーロは横っ飛び。幽谷霧子は甜花を押し倒して回避。既にベルフェゴールは部屋の四方八方に三十数本のナイフを投擲しており、そのどれもが壁に突き刺さっていた。それはワイヤー設置の完了を意味する。幾本ものワイヤーに何本ものナイフを滑走させて攻撃。凛世は孤月で身を守り、時に真っ直ぐ時に鋭角に曲がるナイフを弾く。そして体が動くようになってきたあさひはバイパーを生成64分割任意射出、目に映る64本のナイフに着弾、広間に設けられたワイヤー地帯のほとんどを破壊する。

「ししし」

「!」

 ベルフェゴールの嘲笑。その意味するところは不明だがシールドの用意。次の瞬間、広間の四隅に聳える壁が破壊された。

『!!』

「う゛ぉおおい! この戦いの決着は次に預けるぜ! こっちは充分仕事を果たした! シモンの連中は好きにしろぉ!」

「そーゆーわけ。でも俺らのボスはカンカン。俺らが逃がしても、ボスが逃がすかはわっかんねっから。ししし!」

 崩落する天井。瓦礫の雨が広間の中央を塞ぐ。奥の回廊へ撤退するスクアーロとベルフェゴール。

『────ヴァリアーの幹部撤退。こちらも撤退します。プロデューサーさま』

『甘奈を連れて逃げたいが、こっちは張り付かれてる。できれば引き剥がしてくれ』

「あさひさん! 動けますか」

「もう平気っす!」

「霧子さんたちは殿を!」

「了解!」

「りょ、了解……!」

 

 杜野凛世は足元からエスクードをせり上がらせて跳躍、降り注ぐ瓦礫は孤月で切り払う。芹沢あさひはグラスホッパーで跳び上がり、スコーピオンで瓦礫を切り裂く。霧子と甜花は撤退。屋上に着いた凛世とあさひは、背後にプロデューサーを置いて、頭上前方にザンザスの姿を捉える。

 

「プロデューサーさま、ここは凛世たちに!」

「よーし、やるっすよー!」

 プロデューサーは甘奈を抱いてグラスホッパーを使用。跳躍を繰り返して漆黒の砂漠方面に向かう。

「逃がすか────かっ消えろ!!」

 二発の砲撃は空中のプロデューサーを狙うが、グラスホッパーを使いジグザグに跳ぶことで回避。凛世はアイビスを生成。あさひはグラスホッパーで接近し、手裏剣型に変形させたスコーピオンを投擲する。ザンザスは銃口の向きをバラバラに変えて発射。左手の銃を横に撃つことで体を水平方向に移動させつつ、右手の銃を正面に撃つことであさひを攻撃、手裏剣スコーピオンが分解破壊。あさひはグラスホッパーで水平回避し、凛世のアイビスが撃ち込まれる。

 ザンザスは自身の真後ろに発射。狙撃を躱してプロデューサーを追跡。凛世は足元にエスクードを生成、生成速度に全てを振って防御力を皆無にする。あさひはすれ違いざまにスコーピオンで両攻撃を狙うが、不意にザンザスは体を旋回。

「づ!?」

 変幻自在のスコーピオン二刀流を直感だけで躱したザンザスは、あさひの顔面に肘打ちを喰らわし────次の瞬間、あさひの頭部が炸裂した。伝達脳が破壊されたことでベイルアウト。その軌道が黒砂の森の方向に向かったことを視認したザンザスは、畏怖すべき笑みを浮かべる。

(……!!)

 エスクードをカタパルトにして空を飛ぶ凛世は旋空弧月。拡張斬撃がザンザスの衣服を切り裂き、左腕に掠って鮮血が迸る。

(!? 生身……!?)

 なぜ生身でトリオンやトリガーが使えるのか。リボーンの資料にそのような情報は無かった。

『プロデューサーさま! 敵の大将がそちらに!!』

 森林地帯に着地したプロデューサー。その背後に霧子と甜花が走り込む。霧子は後方の空を見上げて追いかけてくるザンザスを目視。甜花は甘奈に駆け寄った。

「なーちゃん! トリガーを起動して!」

「て、甜花ちゃん!?」(なんでここに……!)「と、トリガーは……壊されちゃったの……」

 ならばと甜花は、予備のトリガーを取り出す。

「早く換装して!」

「う、うん!」

 甜花はハウンドを生成、8分割しつつ────

「プロデューサーさん! みんなベイルアウトしちゃダメなの!?」

「……!」(凛世や霧子ではなく、甜花がその発想に至るか……)「好きにしろ」

 ────視線誘導設定、射出。プロデューサーと甘奈と霧子の頭部に追尾弾が命中。ベイルアウト。

 

「!!」

 それを目撃したザンザスは、甜花の前に降り立つ。相対距離10m。

「す、スパイダー……!」

 甜花とザンザスの間に、木々を媒介にして幾重にもワイヤーが張られる。張った意味は特にない。木々のある場所での試し打ちをしたかっただけだ。

「……くだらねぇ猿真似だ。俺の憤怒の炎で撃てば、ワイヤーなんざ紙切れにも劣る。一瞬でテメェをかっ消せる」

「で、でも……こっちには、ベイルアウトが、ある……」

 ザンザスの背後に杜野凛世が着地。相対距離10m。甜花との間合いは15m。いつでも旋空弧月で二人を切る準備は出来ている。

「バカが。そのベイルアウトトリガーそのものを焼き尽くして、その場でかっ消すって言ってんだ」

「……それは、たぶん、無理……緊急離脱(ベイルアウト)!!」

 甜花がそう叫んだ刹那、ザンザスは発砲────と同時、凛世は踏み込み旋空弧月。真下にも発砲していたザンザスは浮上して回避。卓越した居合による旋空は、ベイルアウトする甜花より早く迫る砲撃より早く命中し、光球を真っ二つに切り裂いた。

「……緊急離脱(ベイルアウト)トリガー、起動」

『戦闘体解除、緊急離脱(ベイルアウト)

 杜野凛世も自発的にベイルアウト。その地点にザンザスの二挺拳銃による光球砲撃が叩き込まれるが、わずかに遅い。白いトリオンの軌道が二つ、青空に長々と架かる。

「……ケッ。逃げるしか能がねぇ猿どもが」

 ザンザスは二挺拳銃をしまって古城に戻る。そこにスクアーロから内部通話が入った。

『う゛ぉおおい! ボスさんよぉ……シモンの連中、あんだけ息巻いといて全滅したようだぜぇ……!』

『ししし! ざまぁねぇの! 同盟組んでんだから助けろって馴れ馴れしく言われたけど、弱い奴らと組んでも意味ねぇし、そもそも同盟じゃなくて傘下だし!』

「……うるせぇ。虫酸が走る。……あのプロデューサーという男、最初の一撃で俺の換装を破壊しやがった。俺のサイドエフェクトも、完全な不意打ちだったのに躱しやがった。戦闘経験が豊富と見た。おそらく戦場で《トリオン放出体質》の奴と戦ったことが何度かあるんだろう。次はねぇ。完膚なきまでかっ消してブチ殺す」

『……おい、ボスさん? 聞こえてんのか? 内部通話の使い方を知らねぇわけねぇよな? まさかまた独り言を言ってんじゃねぇだろうなぁ?』

 ザンザスは眉間に怒りの筋を浮かべて発砲。砲撃の一撃で、古城の中心部を破壊した。

『とっとと帰るぞ。シモンは捨て置け。奴らのボンゴレに対する報復心は、その程度だったっつーことだ。カスが』

 

          †

 

 黒砂の森に掩蔽(えんぺい)された遠征艇にて、全てのボーダー隊員が帰還を果たす。

 

「わぷっ!?」

 

 マットの上に落ちた大崎甜花は、初めてのベイルアウトの感覚におっかなびっくり。直後、隣のマットに杜野凛世が落ちてくる。

 

「……ふぅ。プロデューサーさま。急ぎ、遠征艇の発着を……」

「今やってる。全力でこっちまで来ても十数分は掛かる。五分もあればこの世界からは離脱可能だ。本部に帰ろう」

 

 パネルを操作するプロデューサー。追っ手が来ないかレーダーを確認するよう霧子から頼まれた芹沢あさひ。幽谷霧子は、大崎甘奈の肉体面と精神面、両方を含む負傷の具合を診察中。そこで杜野凛世が甜花に言った。

 

「なーちゃ……」

「甜花さん」

「?」

「お恥ずかしいことに、最後の策は盲点でした。自発的ベイルアウト機能の存在は知っていたのですが……ランク戦で得点を狙うことに慣れた弊害でしょうか。改めて意識改革の必要性があると感じ入りました。感服です」

「……? そうなの?」

「はい。素晴らしい決断でした。あの策は、以前から?」

「う、うん……甜花、死んじゃうのは、嫌だから……だから、ずっと、考えてた……バイパーは難しいけど、ハウンドなら、視線誘導で、頭、簡単に狙えるから……いいなって、思ってた……」

「……そうですか。甜花さんは常日頃から、生存を重視した考えを持っていたのですね」

「うん……だって甜花、敵を倒す力とか、ないから……逃げて、なんとかして、なーちゃんを守れる方法、ないかなーって……ずっと、考えてたから……」

「……」

 

 そこで霧子が、甘奈を寝室に寝かせて戻ってくる。

 

「……霧子さん。甘奈さんは無事ですか?」

「うん。凛世ちゃん。具合が悪そうに見えても、ちょっと精神的に疲れてるだけかな。しばらく安静にしていたら、すぐ回復するよ」

「そうですか……甜花さん。お引き止めして申し訳ございません。すぐに、甘奈さんのもとへ……」

「あ、うん!」

 

 甜花はマットから起き上がり、寝室に寝台に寝かせられた甘奈のもとへ向かう。だがその前に、ふと足を止め、凛世たちに振り返る。

 

「あの……なーちゃんを助けてくれて、ありがとう……杜野さん。幽谷さんも……芹沢さんも……そして、プロデューサーさんも……!」

「いえ……当然のことをしたまでです」

「うん。どういたしまして……!」

「妹さん。無事で良かったっすね!」

「礼はいい。早く行ってやれ」

 

「! うん……! あ、じゃなくて、はい……!」

 

 大崎甜花は寝室に入り、寝台で横になる大崎甘奈のそばに座る。

 

「なーちゃん……!」

「……! 甜花ちゃん……本当に助けに来てくれたんだね……これ、夢じゃ、ないよね……?」

「うん……! みんなで来た! 甜花は、なんもできなかったけど……なーちゃんが無事で、ほんとうに……ほんとうに、よかった……」

 

 甜花は涙声で微笑む。対する甘奈も、四日間の人質生活の恐怖から解放されたためか、あらゆる緊張から解放されて、心身が嘘のように軽くなる。

 

「な、泣かないで……甜花ちゃんが泣いちゃうと、甘奈も……」

 

 寝室から、すすり泣きが聞こえる。

 遠征艇は轟音を立てて漆黒の砂漠(ネイバーフッド)を離脱。ボーダーへ帰還した。

 





 ザンザス《GN二挺拳銃》「SE憤怒の炎(トリオン放出体質)」
 スクアーロ《AT義手剣:OP炸裂小弾:OP鮫衝撃(トリオン流し込みで伝達脳を麻痺):OP鮫の牙(高速の自動連続刺突):OP鮫特攻(拡張分裂斬撃)》
 ベルフェゴール《ATナイフ:OPワイヤー》
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