木崎レイジ《孤月:シールド:アステロイド:バッグワーム》《エスクード:シールド:ハウンド:スパイダー(試作)》
小南桐絵《双月(試作):アステロイド:シールド:コネクター(試作)》《孤月(斧:試作):アステロイド:シールド:バッグワーム》
迅悠一《スコーピオン:エスクード:シールド:‐》《スコーピオン:エスクード:シールド:バッグワーム》
林藤ゆり《ニュースボックス:エスクード:シールド:‐》《バッグワームタグ》
杜野凛世《孤月:旋空:シールド:バッグワーム》《アステロイド:‐:エスクード:アイビス》
芹沢あさひ《孤月:旋空:スコーピオン:バイパー》《孤月:旋空:スコーピオン:バッグワーム》
浅倉透《孤月:旋空:シールド:バッグワーム》《ハウンド:‐:シールド:‐》
那須玲《バイパー:アステロイド:シールド:‐》《バイパー:‐:シールド:バッグワーム》
幽谷霧子《ニュースボックス:エスクード:シールド:ハウンド》《バッグワームタグ(試作)》
巴マミ《ライトニング:鉛弾:スパイダー(試作):‐》《ライトニング:スタアメーカー:スパイダー(試作):アイビス(試作:改)》
佐倉杏子《孤月(槍:試作):旋空:シールド:スパイダー(試作)》《スコーピオン:コネクター(試作):シールド:バッグワーム》
百江なぎさ《ニュースボックス:エスクード:シールド:ハウンド》《バッグワームタグ(試作)》
大崎甘奈救出作戦の成功から三日後。天井支部のリビングに設けられたテレビには、激しいフラッシュライトの中、記者会見の生放送が映し出されていた。城戸正宗、根付栄蔵、鬼怒田本吉をはじめ、関係者の天井努も席に並ぶ。記者から問われるのは、深夜の街中でボーダーの主力隊員と訓練生が襲われた事件の詳細について。これに根付栄蔵は
────ところで、隊務規定違反を犯した訓練生については、どのような処分を?
ボーダー隊務規定の中には“一般人へのトリガー使用を禁ずる”という規則がある。これに根付栄蔵はハッキリと答えた。
「厳重な処分を下します。たとえ暴行を受けたとしても、一般人にトリガーを使うことは禁じられていますので」
会場がざわつく。組織の人間を守る
「ボーダーが使うトリガーは危険なものだからこそ、扱いは慎重にせねばならん! トリガーの使い方を知らぬ未熟な訓練生が反撃に使えば、最悪その命を奪いかねん! 場合によっては周囲の人間や建物、地形にまで被害が及ぶ。最悪当人が死ぬ恐れがあるのだ」
それからも質問と回答は続くが、徐々に趣旨がずれた問答に変わっていく。やがてボーダー側が趣旨の移り変わりを指摘し、必要な質問には答えたのだからと切り上げて解散。記者会見は終了した。
ソファに座ってテレビを見ていた大崎甜花は、近くのデスクでコーヒーを飲むプロデューサーに問いかける。
「……プロデューサーさん。甜花、怒られちゃうの……?」
「形式的には、怒られちゃうだろうな」
「……なーちゃん、助けたのに? あ、でも、最後はさらわれちゃったけど……」
「それはそれ、これはこれ。もちろん城戸さんたちも、そのことは分かっている。別に甘奈を助けるのがダメと言いたいわけじゃない。だけどそれを口に出してしまったら、自分たちの言動に矛盾が生じてしまう。上の人も人情と規律の板挟みで苦労しているんだ。……そういう
「…………」
その時、天井支部に
「あ、えと……」
「甜花。応接頼めるか? いま手が離せないんだ」
「え……て、甜花……うまく、できるかな……?」
「たぶん霧子の友達だ。話してみたら案外仲良くなれるかもしれないぞ」
「そ、そう……? 幽谷さんの友達なら……怖くないかも……」
大崎甜花はパタパタと走り、玄関を開ける。目の前には、瞳の奥がたくましい可憐な少女が車椅子に座っていた。その上どこかで見た顔だ。
「あら。また会ったわね。こんにちは」
「あ……ソロランク戦で、甜花と戦ってくれた人……」
「那須玲よ。よろしくね」
「甜花は……大崎甜花。那須さん、って言うんだ……よろしくね……?」
甜花はドア止めの置き物を探し、限界まで開けたドアの下に差し込む。が、ずるずると扉が戻ってしまう。あわあわとする甜花は、自分の体を滑り止めにしてドアを止める。その間に那須玲は、ありがとうと礼を言いつつ車椅子で上がる。玄関に入ってすぐリビングという間取り。大広間のため、デスクに座るプロデューサーと目が合う。
「いらっしゃい」
「お邪魔します。霧子さんは……」
「もう開発室から帰ってくる頃なんだが、どうも遅れてるみたいだ」
「そうですか。……今回はこれを渡しに来ただけなので、置いて帰りますね」
「いやいや。せっかく寄ってもらったんだ。少し遊んでいくといい」
那須玲はカバンから『トリオン体と健康』という論文を取り出す。本当にそれを渡しに来ただけなら、パソコンやスマホ、ボーダー専用のデバイスなどで電子化するなりして共有すればいい。わざわざ病状を押してきた以上、ほかにも目的があって訪れたはずだ。それを見抜いていたプロデューサーは、甜花に応接を任せる。
甜花は冷蔵庫から、プリン、いちご大福、さくらんぼを持参。さくらんぼは杜野凛世の好物だが、誰でも食べていいとの話だったので、もらっても良いと判断。
「えと……お好きなものを、食べてください……ちなみに甜花は、プリンが好きです……あ、いちご大福も……」
「ありがとう。それじゃあ、さくらんぼを貰おうかしら」
甜花は「にへへ」と嬉しそうにプリンといちご大福を手に取る。その愛らしい姿に癒されているのか、那須玲もニコニコと微笑んでさくらんぼを一口。
「────た、ただいま戻りました……! あ、玲ちゃん……遅れてごめんね?」
「いいえ。ちょうど来たところよ。霧子さん。気にしないで。それより、はいこれ」
「わぁ。小論文じゃなくて、すごく分厚い論文……本当にありがとう。開発室の人と共有させてもらうね?」
「ご迷惑じゃなかったかしら」
「ぜんぜん。情報は多い方がありがたいから……!」
幽谷霧子の帰宅。彼女の那須玲の車椅子を慣れたように押して地下室に向かう。
幽谷霧子と那須玲。その接点は、那須玲が幽谷霧子の父親が受け持つ患者である事から始まる。幽谷霧子も父の務める病院のお手伝いをしているため、年も近いことから知り合い、仲良くなった。そして幽谷霧子がボーダーに入った際、那須玲は入隊理由を聞く。それは医療に役立つトリガーを開発するため。それを聞いた那須玲はボーダーに興味を持ち、入隊を希望した、という経緯がある。現在所属は本部と支部で異なるが、頻繁に連絡を取り合う仲だ。そして今回、那須玲は初めて天井支部に遊びに来たというわけである。
「プロデューサーさん。今日は玲ちゃんと、特殊ランク戦に参加したいんですけど……いいですか?」
「もちろんだ。断る理由がない。思う存分暴れてこい」
「はい!」
「甜花も参戦したらどうだ? 観戦するだけでも勉強になると思うぞ」
いちご大福を食べていた大崎甜花は、ならばと二人に付いていく。もとよりそのつもりだった。が……もしプロデューサーに勧められなければ、しばらくはおやつを食べることを優先していたかもしれない。
壁がガラス張りになっているエレベーターに乗って降下。地下3階から6階あたりまでをぶち抜いた広間を見渡しながら到着。本部のランク戦に設けられたフィールドと比べると、広さは四分の一程度。手狭だが、そのぶん勝敗がつきやすい。狙撃銃の射程を十全に発揮しようとすれば、エリアの端に陣取ることになるため、狙撃手にとっては不向きな環境となる。しかし、それを上回る手応えと面白さがあるからこそ、この地下闘技場のような空間には、様々な隊員が集っていた。
「いらっしゃいませー。受付の七草はづきですー。参加される方は、こちらにご自身の名前と年齢をご記入くださいー」
名簿に『那須玲 13』『幽谷霧子 13』と記入。ざっと一瞥すると、東晴秋や太刀川慶、玉狛の面々の名前もあった。
「はーい。では、そろそろ特殊ランク戦が始まる時間ですねー。受付期間は終了とさせてもらいますー」
七草はづきは受付席を立って、大崎甜花と共に観覧席の一番手前に移動。そこは特殊ランク戦で繰り広げられる戦術やトリガーを説明する解説席。そうと知らず大崎甜花は、七草はづきの隣に座ってしまった。
「お待たせしましたー。解説役の七草はづきと、今回はゲストに訓練生の大崎甜花さんがおられますー」
「……え?」
「それでは特殊ランク戦・昼の部を始めますねー。あ、ちなみに、ここでの勝敗はポイントにならないですが、本部では使えない改造トリガーを試してみたり、本部のランク戦では出来ないレギュレーションでの戦いが、お楽しみいただけますー。つまり、ここにいる方たちは、ポイントに関係なく腕を磨きたい向上心の塊の集まりなので、意外とガチンコで殺し合う感じですねー。実はベイルアウト機能をオフにできるレギュレーションも存在するため、そういうちょっと怖いけど、それだけガチな場所と考えていただければ~。もちろん初心者向けのレギュレーションもありますので、はじめて来られた方はまずは観戦して、少しずつ慣れていただけると嬉しいです~。
────それでは、いつもの前口上は終わりまして……第一ラウンドは、玉狛第一・杜野隊・巴隊の三つ巴ですー。レディー・ファイト~! がんばってくださいねー」
転送位置に入った三チームは、仮想空間の戦闘フィールドに送り込まれる。
「玉狛第一のメンバー紹介。隊長は木崎レイジ、隊員は小南桐絵、迅悠一、オペレーターは林藤ゆり。四名の部隊。本部ではA級で暫定1位。
社野隊のメンバー紹介。隊長は杜野凛世、隊員は芹沢あさひ、浅倉透、那須玲、オペレーターは幽谷霧子。五名の部隊。本部のB級ランク戦では暫定3位。
巴隊のメンバー紹介。隊長は巴マミ、隊員は佐倉杏子、オペレーターは百江なぎさ。三名の部隊。本部ではA級で暫定4位。
特殊ランク戦は無差別級とはいえ、上位層の戦いになりましたねー。これは社野隊がどこまで食らいつけるかという戦いになりそうです。なお今回のレギュレーションは《ランダム転送》《オペレーターの戦闘参加》でお送りしますー」
†
舞台は戦闘フィールドに移る。戦闘中の隊員に観覧席や解説席の声は聞こえないが、あとで試合風景を録画した記録を確認すると、ログとして解説者の発言内容を確認できる。
【ちなみに
さて、戦闘隊員の通常会話内容を記録した吹き出しは
【MAP 平原の村落A】
建物(一階建て一軒家)=□×9 建物(二階建て屋敷)=□×12
/12345678901234567890┐
1 │
2 □□□□ □□□□ □□□ □□□□ │
3 小□□□ □那□□ □□□ □□□□ │
4 □□□□ □□□□ □□□ □□□□ │
5 浅 │
6 迅 │
7□□□ □□□ □□□ □□□ □□□ │
8□□□ □幽□ □□□ □□□ □□□ │
9□□□ □□□ □□□ □□□ □□□ │
0 佐 │
1 □□□ □□□ □□□ □□□ │
2 □□□ □□□ □凛□ □□□ │
3 巴□□□ □□□ □□□ □□□ │
4 │
5 百 木 │
6 │
7 □□□□ □□□ □□□□ □□□□ │
8 □□□□ □□□林□□□□ □□□□ │
9 芹□□□ □□□ □□□□ □□□□ │
0 │
└────────────────────┘
\12345678901234567890/
『あ』浅倉透と迅悠一の目と目が合い、困惑の声が重なる。
【浅倉隊員と迅隊員が“お見合い”しちゃいましたねー。マップが狭いランダム転送だと、こういうことも起こり得ますー】
巴マミ以外の全隊員はバッグワームを起動する。浅倉透と迅悠一はバッグワームを即時解除。両者、孤月とスコーピオンを生成しつつ睨み合う。
《迅さんとお見合いした。たぶん五秒で落ちる》浅倉透の内部通話。
《玲さんは北西に注意しつつ透さんの援護を。霧子さんは潜伏。次いで林藤ゆりさんを目視、14と15の境界》杜野凛世は孤月を生成。
《那須了解》バッグワーム解除、両攻撃でバイパーを生成分割、自らの体の周囲にキューブの帯を回す。
《幽谷了解》ニュースボックスを起動。迅悠一を目視。レーダー上に映る彼のトリオン反応と、杜野凛世から知らされた位置にネームタグを付ける。
《凛世ちゃん、場を荒らしてほしいっす。わたしがごちゃったところを獲るっすから》以降、芹沢あさひは完全潜伏で気配を遮断。
《那須、凛世、霧子、あさひが高台を取ってる》迅悠一の未来視報告。
《こっちはいつでも那須に切り込めるけど。あと5番に幽谷発見》小南桐絵は孤月を生成。
《北は迅と小南に任せた》木崎レイジはバッグワームを解除し、アステロイドを生成分割分割、百江なぎさに設定射出。
《私は動かず潜伏するわ》林藤ゆりはニュースボックスを起動。浅倉透のトリオン反応にタグ付け。且つ、マップを正方形に16分割し、左上から右下に読んでいく方式で、五番目の区画に幽谷霧子の予想タグを付ける。そのタグは仲間の隊員のレーダー上にも反映される。さらにトリオン反応を感知、迅悠一の報告と照らし合わせて那須玲のトリオン反応と見抜き、ネームタグを付ける。
《なぎさと位置を入れ替えるわ。私がまとめて相手する》巴マミは先を読む。
《ならあたしは迅さんと当たろうかな》(そろそろ勝ち越されそうなんだよね……ここらで引き離しておかないと)
《筋肉の要塞が情け容赦ないのですー!》巴マミがいる建物の裏へ逃げ出す百江なぎさの悲鳴。
木崎レイジの通常弾と追尾弾が迫る。百江なぎさは一弾幕目の通常弾を走って躱すが、走り込んだ位置に二弾幕目の通常弾が猛襲。
【時間差射撃】
さらに一拍遅れて探知誘導の追尾弾が頭上より降り注ぐ。物陰から飛び出した巴マミはスパイダーを生成射出、百江なぎさの腕や腹に突き刺して力の限り引っ張り、遮蔽となる建物の裏に放り込んで弾の雨から救出。
【え】(甜花がスパイダー作るの御願いして、まだ四日しか経ってないのに……あの人、もうあんなに使い慣れてる……すごい……甜花、あんなことできない……ひぃん……)
次いで二挺の弾速重視狙撃銃ライトニングを生成、鉛弾とスタアメーカーを逐一│切り替え《オン・オフ》しつつ、全力疾走で接近しながら連続射撃。
【巴隊長は狙撃銃をなんだと思っているんでしょうか~。まるで拳銃のように取り回すあたり、さすが木崎隊長仕込みの筋肉と言えますー。もはや狙撃手ではなく射手……いえ、もはや攻撃手の立ち回り方ですね~。彼女独特の
対する木崎レイジは1m前方にエスクードを生成するが、間に合わず四発が抜けてくる。うち一発が黒い。それを見切りだけで躱した瞬間、頭上から瓦を咥えた杜野凛世が旋空弧月で飛びかかる。木崎レイジはシールド一枚で旋空を一瞬受け止め、割られた後には既にバックステップで離脱。孤月を生成。着地した杜野凛世の右足が光る。
「!」木崎レイジはエスクードの起動を予測し、距離を目視で概算。相対距離7m。充分射程範囲。下から来るか、いったい何をしてくる。
《今!》芹沢あさひの指示。
巴マミは木崎レイジのエスクードを飛び膝蹴りで破壊しようとした瞬間、足元から防御力皆無で生成速度に振り切ったエスクードが突としてせり上がり、両足に激突、宙を舞う。木崎レイジは通常弾を生成分割、巴マミを狙い弾速重視設定で弾を散らしつつ発射。頭上からライトニングの連射を受けた杜野凛世は横っ飛びしつつ旋空弧月。弧を描いて拡張する斬撃を木崎レイジは自らの孤月の刀身で硬く受け止めた。巴マミは二挺のライトニングの銃身を振り回して通常弾を蹴散らし、華麗な着地とともに壊れたライトニングを新しく生成、│二人《凛世とレイジ》に向けて連射。旋空直後で硬直していた杜野凛世は回避不可と判断し、瓦を盾にして頭部を守りつつシールドを生成、右手の孤月を背中に回して左脇腹に当てる、着弾、孤月の刀身がズシリと重くなったため、反射的に孤月の刀身を瓦で破壊して鉛弾を取り除き、孤月の刀身を再生成。対する木崎レイジは体捌きひとつで完璧に躱しつつ通常弾を生成分割、分別設定射出。杜野凛世はエスクードを四枚起動、うち二枚は巴マミと木崎レイジの射撃を防ぎ、うち二枚は11番と16番の路地裏に通じる道を塞ぐために生成。
「……!」
木崎レイジの視線が一瞬、16番の路地裏に向く。
《15の8》杜野凛世の冷たい声。恋する気持ちは我が身を以て知っている。
「見つけたー!」芹沢あさひは両腰の孤月から旋空を起動。
《あさひ接敵》林藤ゆりは床や壁からエスクードを二枚起動し、芹沢あさひの視界と道を塞ぐが、大通りに通じる背後には凛世のエスクードが立ちふさがるため、完全に袋小路となった。屈み込んでハウンドを生成し────
「ダブル旋空弧月!!」
────分割した瞬間、建物一階の壁面と全てのエスクードが切断され、
【息つく暇のない攻防ですねー。杜野隊は相手に考えさせる暇を与えない猛襲作戦を行っているようですが、その効果は杜野隊にも適用されます】
《ごめんなさい。しばらくオペを切るわ》林藤ゆりは後退して大通りに出る。
《了解》小南桐絵と迅悠一が同時に言う。
《転送位置が悪かっただけです。上を取れば接近を許さなかった。それに俺が動揺したから位置がバレた。挽回します》謝ることはないという木崎レイジのフォロー。
芹沢あさひも林藤ゆりを追って大通りに出る。
【このあたりで北側の戦場を見てみましょう】
《どわっと……援護ナイスー。うまいね。十秒は生きれた》浅倉透はたたらを踏む。
浅倉透は両手持ち孤月で守りに徹し、ハウンドを傍らに生成して牽制射撃。それでも手数の差で押し負けるところを那須玲のバイパーで救われている。直後、家屋の屋根に立つ那須玲の背後から、双月(試作)と孤月(斧:試作)をコネクターで連結した小南桐絵が躍り出てバッグワームが自動解除。
物質化するタイプの双月と孤月は、同時に生成できるトリガー個数の制限に含まれない。ただし孤月の刀身は光を失い攻撃能力を無くすが、双月はボーダー製ではないため仕様が異なる。トリオンを常時流していれば攻撃能力を得るため、ボーダーの技術システム上、孤月とコネクターで二つ起動している扱いとなり、三つのトリガーを十全に使用できる。ただし常時トリオンを流す双月は、使うだけで消耗が激しい。故に短期決戦の奇襲戦法で、あっという間に戦いを終わらせる。
《交代》浅倉透の一声。
彼女はハウンドを生成、視線誘導で最速設定、飛び乗り射出。同時、迅悠一はエスクードを足元に生成して跳躍。戦いの舞台が那須玲を中心とした家屋に移動。全力後退しつつ変化弾を放つ那須玲だが、その全てを跳んで躱され双月で弾かれ、長柄武器の間合いを許す。薙ぎ払いが入る刹那、浅倉透の立方体追尾弾が双月と激突し、小南桐絵の首に孤月が走る。小南桐絵は一瞥のち首だけひねって完璧に躱し、屋根を抉り駆けて変化弾を突き放す。
《下がって》《下がれ》幽谷霧子と迅悠一の声が重なる。
建物の屋上から跳んでいた幽谷霧子は、向かいの家の屋根で浅倉透と那須玲、小南桐絵と迅悠一が混在する立ち位置を瞬目把握。着地と同時、家屋に触れた右手が光る。エスクード生成。小南桐絵と迅悠一の足元にエスクードがせり上がり、それは同時に、小南桐絵のアステロイドとハウンドの速射を防ぐ位置にそびえ立つ。しかし小南桐絵と迅悠一はエスクードに突き飛ばされることなく後退回避。小南桐絵は双月の一撃でエスクードを破壊────
「!」
────破壊しつつ弾トリガーの両攻撃を狙っていたが、手応えがあまりにも脆すぎる。突き飛ばしと遮蔽を両立するなら、防御力にもトリオンを割り振るのが当然。つまり、
《旋空!》小南桐絵の警告。
浅倉透の旋空弧月が半円を描く。幽谷霧子の生やしたエスクードを斬り飛ばしつつ、一拍遅れて生成された足元のエスクードに射出された浅倉透と那須玲。迅悠一は涼しい顔で後退回避、小南桐絵は屈んで旋空を躱しつつアステロイドとハウンドを既に発射しており、さらに視線誘導から探知誘導に切り替えていた。
生成からの分割、分割からの多種多様な設定、最後に射出。それら四工程を本当に踏んでいるのかと疑うほどの、あまりにも早すぎる弾トリガーの使い方。機動力もグラスホッパー使いと同等かそれ以上の動きをトリオン体ひとつで成し遂げている。その戦闘体操作技術は、プロデューサーのそれを思い起こす。
那須玲と浅倉透は両防御シールド。小南桐絵は直前で通常弾の射出方向すら切り替えており、前方と頭上斜めに散らして撃っていた。通常弾の半分と追尾弾の全てが囲い込むように二人のシールドを撃ち叩く。二人の着地点に幽谷霧子が合流。迅悠一がいるならバッグワームタグで消えていても意味がない。奇襲も難しい。ならば三人揃っての絨毯爆撃で隙を作るしかない。
小南桐絵と迅悠一は屋根のへりに並んで会話。
「ちょっと迅。あんた働きなさいよ」
「いやいや。実力派エリートが本気出したら秒で終わるでしょ。透ちゃんがアステロイドに乗って飛んで行くのとか、実際に見てみたかったし。まったく最近の若い子は発想力が豊かでいいね~。面白い!」
「あんたもまだ16でしょ! 全然若いじゃない」
「でもなぁー。未来は残酷で、あっという間に時は過ぎていくんだよねぇ」
幽谷霧子は、遊ばれちゃってると悟る。しかし実力差を考えると是非もない。だからといって諦める理由にはならない。
「お?」
迅悠一は虚空を見て何かに驚く。
「……小南、ちょっとだけ本気出せ」
「だからそれはこっちのセリ────、!!」
拡張斬撃の一撃が家屋を一刀両断、垂直に三枚に下ろす。跳んで躱した二人は、瓦礫と粉塵の先に佐倉杏子の姿を捉えた。
「ちっ────今のを躱すかよ!」
「実力派エリートはモテモテでつらいねぇ。南に行ってたら一瞬で
「あぁ? そりゃどういう意味だ────よっ!」
再び佐倉杏子は、二枚刃の拡張斬撃で周囲を薙ぎ払い、二つの建物を切断、地面を断割。幽谷霧子たちは回避に精一杯。
【佐倉隊員の武器は、槍型孤月とスコーピオンをコネクターで無理やり繋げたものですねー。旋空を起動するとコネクターの影響か、孤月とスコーピオンの両方に反映されて、途中で軌道が変わる旋空になるようですー。ですが使用者もどこに曲がるか分からないため、これは熟練度が必須のバグ技トリガーですねー。ごくまれにあるんですー。トリオンって不思議ですよね。興味がある方は、ボーダーのデータベースから“トリオン学・トリガー学”で検索してくださいー。既に東晴秋さんや福丸小糸さんといった方々が研究しているんですよー】
大崎甜花は考察する。孤月の柄は物質化しているが、実は孤月の光る刀身は物質ともトリオンとも言えない。どちらかといえば固形化したトリオン。弾トリガーのカバーに覆われた弾体の性質に近い。
そしてスコーピオンは物質から生やすことができるが、トリオンから生やすことはできない(たぶん)。そのため孤月の柄やツバからスコーピオンを生やすことはできても、おそらく刀身からスコーピオンを生やすことはできない。仮に出来るよう工夫を凝らした場合、スコーピオンのトリオン固形物版を造る必要がある。それはきっと刀身をぐにょぐにょとさせるトリガーとなるに違いない。
しかし佐倉杏子はコネクターを使うことで、半ばバグ技のように、孤月の刀身からスコーピオンを生やすことに成功している。孤月の刀身を二倍に膨張させて段平大剣のようにしたり、刀身を二倍に伸ばして野太刀のようにしたり、むしろ圧縮して斬撃性能と耐久力を底上げしたり……とにかく可変式の刀身を実現させている。
その上で孤月専用のオプショントリガーである旋空を起動できるのは、本来ありえない。もしかしたら大量生産の妙か。たとえば拳銃を百丁生産し、どれも命中率が80%の中、たった一丁だけ99%の命中率を誇る名銃が作られるように。この現象は佐倉杏子のトリガーチップだけの奇跡。珍しい逸品なのかもしれない。
孤月スコーピオンの旋空は、孤月の“どの位置”“どの角度”からスコーピオンを生やし、孤月とスコーピオンを“どのような形状にさせているのか”で、おそらく旋空の軌道が決まる。三要素の複合パターンは、まるで色彩のRBG。三種類のうち一種類の数値が1ずつ変わっていくだけで、まさに無限のパターンが発生する。それを感覚だけで使いこなす佐倉杏子は才能の塊、天才のたぐいと言えた。
加えて佐倉杏子の旋空スコーピオン孤月は、二つの発動の仕方がある。一つ目は孤月を鞘に収めた状態からコネクターとスコーピオンと旋空を起動し、居合い切りの要領で抜き放ちつつスコーピオンを生成。二つ目は孤月をただ振り抜きながらコネクターとスコーピオンと旋空を起動し、スコーピオンを生成。
いずれにせよ、その瞬間、孤月・スコーピオン・コネクター・旋空の四種類を同時に起動していることになる。本来ならボーダー技術の同時起動個数制限に当てはまり、孤月とスコーピオンが消えて、コネクターとスコーピオンのみ起動する。そうなっていないのは、おそらくコネクターの影響。孤月とスコーピオンをひとつのトリガーとしてまとめることで、
さらに起動する順番も大切かもしれない。もし旋空を二番目に起動していたら、続くスコーピオンの起動のせいで孤月の斬撃性能が消失する。コネクターの助けがあったとしても、どこかでロジックに支障が出るのだ。よって佐倉杏子は色々と試した結果、この順番で効果を発揮したのだろう。おそるべき研究成果だ。このことは本部の開発室に報告した方が良いのではないかと、大崎甜花は考える。おそらくバグ技すぎて、まったく参考にならないだろうけど。
「旋空弧月」
佐倉杏子の荒ぶる二節孤月の刃は拡張し、四節刃の予測不可能斬撃となって迅悠一を襲う。
「うお、わからん!」
と言いつつ迅悠一は両手のスコーピオンで適切に捌き、小南桐絵は俊敏に回避。その隙に幽谷霧子はニュースボックスを開いて撤退。浅倉透は那須玲を護衛しつつ、両者ハウンドとバイパーを撃ち込む。小南桐絵は拡張多節斬撃を躱しつつ両防御シールド。
《なるべく膠着状態を維持! 部隊合流まで耐えて!》幽谷霧子の指示。レーダー上では、南の戦場が激しく動いている。
【南は完全な三つ巴になりましたねー。どの部隊も合流を考えていないところが少し気になります】
【そ、それは……たぶん……巴隊長の、アレがあるから……】
【あー。そういえばそうでしたねー】
特殊ランク戦では、ボーダー製ではないトリガーが使用可能。たとえば玉狛製のコネクター。たとえば巴マミ開発の────改造アイビス。
「ティロ・フィナーレ!」
銃口が大砲並みのアイビスが生成、巨弾のトリオンが発射、改造アイビスの銃身は発射の衝撃に耐え切れず粉砕。大通りのコンクリートを抉る砲弾の一撃は、木崎レイジとその後ろに庇われる林藤ゆり、そして杜野凛世を射界に収めていた。戦闘エリアの東端に着弾、大爆発と超爆風が周囲を薙ぎ払う。すかさず芹沢あさひが詰め寄るが、巴マミの二挺ライトニングがガトリングのように火を噴き、隙を与えず寄せ付けない。
【出ました。巴隊長のアイビス砲撃~。いつ見ても圧巻です~。汎用性や実用性、安定性や安全性はともあれ、ロマンの塊ですねー。この改造について上層部から小言を言われたようですが、私は好きですよー】
【まとまってたら、ティロ・フィナーレで一方的にやられる……だから巴隊長のところには、防御や回避が上手な人が、担当する……】
杜野凛世は三連エスクードと両防御固定シールドで生き残っていた。エスクードは三枚とも吹き飛ばされており、シールドも外側に張った一枚目がボロボロで、内側の二枚目にはヒビが入っている。木崎レイジは巨弾の起こりを見切っていたため防御に振り切った二枚のエスクードを生成し、一枚目は貫かれて二枚目で防ぎきっていた。その防御力は木崎レイジ自身のトリオン能力の高さも関係している。加えて完璧なトリオン分量の計算で、エスクードの使用を二枚で抑えていた。杜野凛世も五連エスクードが出来ていれば、二枚もシールドを使う必要はなく、後手に回ることはなかった。
『ハウンド!!』木崎レイジと林藤ゆりの声が重なる。生成125分割以上、視線誘導、射出。
杜野凛世はシールドを張りつつ全力疾走で南の屋敷の建物に駆けて飛び込み、窓を蹴り割って突入。屋内の柱に全速エスクードを生やし、自らの体を突き飛ばして転がり机や椅子を巻き上げる。大量の追尾弾が屋敷の中を蹂躙。直後、北の家屋の屋根から百江なぎさがハウンドを生成分割設定射出。林藤ゆりがシールドで防御した瞬間、南の屋敷の路地裏から杜野凛世のアイビス、大通りの中央付近から巴マミの二挺ライトニングが飛ぶ。木崎レイジは二方向からの狙撃を二枚のエスクードで完封した瞬間、頭上からバイパーが降り注いだ。シールドを張って防御。次いで剣戟が響く。芹沢あさひのスコーピオンと巴マミの二挺ライトニングが火花を散らしているのだろう。
【芹沢隊員のバイパーも防がれました。木崎隊長は硬いですね~。しかしこれで木崎隊長は、完全に視界が塞がれました】
木崎レイジの西方と南西にエスクードが立つ。それを消そうとした瞬間、レーダー上から一つの光点が消えた。西方からは二挺ライトニングの速射。南西からはアイビスの狙撃がやまない。
《あさひちゃんね。逃げられない。どうする? レイジくん》
《……》
迎え撃つほかない。エスクードカタパルトをした瞬間、巴マミと杜野凛世の技量なら確実に撃ち抜いてくる。おそらく今回はグラスホッパーを持たない芹沢あさひの機動力を考えると思案時間は3秒程度。これが実践なら林藤ゆりは死んでも守る。
《一回防いでください》
《えぇ。守るわ》
木崎レイジは豪腕を奮う。エスクードの裏側に拳をめり込ませてスパイダーを起動。紐でエスクード内部と拳を絡めることで持ち手を補強。エスクードの下部を蹴り上げて、地面と設置した部分を強引に蹴り剥がす。
【なんと木崎隊長、エスクードを大きな盾として運用!】
東に逃げようと一歩踏み出した瞬間、木崎レイジの左足からスコーピオンが貫いてきた。スコーピオンが左足と地面を繋いだことで身動きがとれない。
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しかし芹沢あさひの姿は見えない。レーダーにも映らない。ならば小柄を活かしてエスクードの前にいるのか。木崎レイジは豪腕エスクードを振るう。何かを突き飛ばした感覚。直後“カラン”と軽いものが転がった音で、人体を突き飛ばしたわけではないと直感。頭上から百江なぎさのハウンド。林藤ゆりがシールドで防ぐ。木崎レイジの右視界端に芹沢あさひの横顔が見切れる。左手にはスコーピオン。
【これは守りに徹しすぎてヘイトを稼いでしまいましたねー。木崎隊長はトリオン能力が高いため、相手のトリオン切れを待つだけで生存できます。生き残ることが勝利条件のボーダーですから、それはもう集中砲火を受けるでしょう】
木崎レイジは片足を失ってもバランスを崩さず、ケンケンと走って林藤ゆりを庇いながら北東に撤退。立て続けの二挺ライトニングを手持ちエスクードで完全防御。しかし北西には、殴り飛ばした芹沢あさひが起き上がりつつある。頭上からは百江なぎさのハウンド、林藤ゆりがシールドを張り直して守る。木崎レイジは孤月抜刀。芹沢あさひも腰を低くする。
「
屋敷の屋上に登っていた杜野凛世は、アイビスを上方向に構えつつ木崎レイジに殺気を飛ばす。刹那、孤月二閃が手持ちエスクードを切り裂くも、木崎レイジの孤月が交差地点に置かれていたことで二つの拡張斬撃を受け止める。同時、殺気を浴びた木崎レイジは集中シールドを後頭部に張るが────発砲音の後にベイルアウトの音が、木崎レイジの頭上より響く。
『……!?』
杜野凛世はアイビスの矛先を、地上から向かい側の屋根に立つ百江なぎさに向けていた。巴マミは先の殺気がブラフであることが信じられず動揺。仇を取るため二挺ライトニングを牽制速射。杜野凛世はバッグワームを着て後退跳躍、南端に姿を消す。芹沢あさひと木崎レイジの剣戟。林藤ゆりがハウンドで援護射撃。芹沢あさひはシールドで追尾弾を防ぐ。
【……杜野隊長、どうやらプロデューサーさんから、また悪いことを学んだようですねー。殺気で相手を動かすなんて、戦国時代の武士じゃないんですから~】
木崎レイジはエスクードを生成。芹沢あさひの接近を阻みつつ、再び手持ちエスクードを作成。東端から回り込んで北側への合流を目指す。芹沢あさひは跳んで壁を乗り越えようとしてくるが、すかさず林藤ゆりがハウンドを叩き込むことでシールドを起動させ、木崎レイジが作ったエスクードの迷路に押し込む。
《あさひさん。バッグワームで合流を》杜野凛世の指示。
芹沢あさひはバッグワームを起動。レーダー上から消えてエスクードの迷路を破壊。西に撤退する。木崎レイジはハウンドの探知誘導で狙おうか考えるも、トリオンを無駄にしたくないため敵の出方を待つことにした。
《小南。こっち来れるか》
《は?》
《思ったより出来る》
《……ふーん。いいわよ。じゃ、そういうことだから迅、ちゃんと働いてね》
《オーケーオーケー。ね? みんな強いでしょ?》
《あんたがサボらなきゃ私たちの圧勝なのよ!》
《いやいや。実力派エリートが無双しても面白くないでしょ~。古株なら雛鳥に試練を与えないと》
《……獅子の子落としってやつ? あんたそんなこと考えてたんだ》
《まぁねー》
《で、あんた。こいつらになんの試練を与えてんの?》
《なめられてる相手にどうやって勝つか》
《え、うそっ!! 性格わるっ! それ太刀川の発想でしょ!? 少なくとも私とレイジとゆりは真面目にやってんだからね!》
《はは。ジョーダンジョーダン。……でも小南、太刀川さんのことなんだと思ってんの? 怒られちゃうよ?》
浅倉透は左肘と右足から先がなく、那須玲は弾トリガーを浴びたのか部分的に風穴が空き、幽谷霧子も似たような状態。そのほとんどは小南桐絵が付けた傷である。対する小南桐絵は、かすり傷一つなく五体満足で戦っていた。迅悠一も、衣服の端々こそ断ち切られているが、傷らしい傷はない。佐倉杏子を相手に単独で凌ぎきっている。
《迅、小南、ゆりさん。そろそろトリオン切れが狙える。このまま守って、生きて勝つぞ》
《了解!》
《あったりまえでしょ。完璧に勝つわ!》
《えぇ》
《トリオン漏出過多》《あ、まず。ごめん、もう死ぬわ》《戦闘体活動限界、ベイルアウト》
浅倉透のトリオン体が光の軌道を描き、戦闘フィールド外の転送室に落下。残るは幽谷霧子と那須玲。才能に優れた攻撃手を失ったことで、小南桐絵の独壇場を許すことになる。小南桐絵は真横にかっ跳びながらコネクターで双月と孤月を接続、大斧を作り、薙ぎ払い。幽谷霧子と那須玲の胴体が一刀両断されが、あらかじめ生成分割していた弾トリガーをベイルアウト寸前で設定射出。しかし迅悠一は後ろに目でもついているのかシールドを生成し、弾幕の雨から小南桐絵を守った。小南桐絵は一瞬も止まらず南東に駆け抜け、幽谷霧子と那須玲がベイルアウトする。
「いってらー」
目を細めて白い歯をきらり。迅悠一は余裕の構えで拡張多節斬撃を躱す。
「くそっ! どうなってんだ!?」
佐倉杏子はスパイダーを生成。一方を屋敷の屋根に突き刺して、ターザンのように空中を高速移動。他のスパイダーを迅悠一の頭上にばらまくことで発射。脚をワイヤーでがんじがらめにして捉えようとするが、その前にスコーピオンで切り払われる。瞬間、旋空スコーピオン弧月で殺害を狙うが、迅悠一は一歩動くだけで四回曲がる拡張斬撃を躱す。
「それ面白そうだね~。もう少し攻撃に厚みが出ると、俺も躱しづらいんだけどなー」
「っ……! 付け焼き刃じゃ勝てねぇってことはよーくわかった。なら普段通り接近戦を挑んでやるよ!」
佐倉杏子の高速刺突斬撃。トリオン体の身体能力を十全に活用した高速戦闘。一転、迅悠一はキリっとした目つきで両手スコーピオンを振るい、剣戟をがなり散らす。
「旋空────」
「!」
旋空は至近距離だと効果が低い。先端に行けば行くほど斬撃力が増す。しかし佐倉杏子は敢えての至近距離で起動。手持ちの槍の攻撃に加えて四回曲がる斬撃。計五回の同時攻撃を読もうと迅悠一は未来を見る。が、違和感を覚えた。斬撃は佐倉杏子の体を縦に一周。わざと自らの両肩と両肘をわずかに切り裂く。
「もいっちょ────旋空!!」
なぜ佐倉杏子は自らのトリオン体を傷つけたのか。それは槍の回しの可動域を上げるため。両肩と両肘が今にも引きちぎれそうになるほど切り込むことで、次の攻撃の回転速度を底上げ。
「うおっ! これはやばい!」
それは一瞬の攻防。手持ちの槍の攻撃三回に加えて四回曲がる斬撃。計七回の同時攻撃で終止符を打つ。迅悠一は全力後退して槍の三回転斬撃を躱しつつ、スコーピオンが砕かれながらも拡張多節斬撃を防ぎ────最後の突き上げを集中シールドで防いだ。
「────っ……」
「悪いね。俺の勝ちだ」
佐倉杏子のトリオン供給機関にスコーピオンが差し込まれる。ベイルアウト。
【迅隊員はスコーピオントリガーにしてから勝率が上がりましたねー。どうしてかは分かりませんが、きっと孤月よりスコーピオンの方が、伝達脳との相性が良かったんですね~。自分に合うトリガーを探すのは大事なことです。もし今のボーダーに得意なトリガーが無ければ、迅さんのように作ってみましょう~】
【て、甜花……銃が欲しい……! 特にハンドガン……!】
【いいですねー。ご要望があれば、どしどしボーダーの開発室にどうぞ~】
小南桐絵と木崎レイジ&林藤ゆりが合流。巴マミはスパイダーを建物の壁面に突き刺して空を飛び、エスクードの上に着地。残りトリオンは少ない。仲間はなく、敵は一人も欠けていない。迅悠一は参戦してくる気配こそないが、北の建物の屋上に立って牽制の役割は果たしている。弾トリガーを持たないのに中距離から牽制できるのかと聞かれれば、迅悠一なら可能だと断言できる。一方の杜野隊は杜野凛世と芹沢あさひのみ。どちらも攻撃手の上位層。芹沢あさひに至ってはランク戦で試合があるたびトリガー構成を変えてくるため、一部では
「……いいわ。小南さん。私とタイマンを張りましょう」
「……へぇ。格闘ができる狙撃手って、ちょっと興味あったのよね」
巴マミと小南桐絵は同時に駆け出す。芹沢あさひを閉じ込める際に木崎レイジが生やしたエスクード群の上を飛び跳ねて激突。小南桐絵の大斧が、巴マミの右腕とライトニング二挺を一刀両断した刹那、西の建物の窓を叩き割ったバイパーが木崎レイジを狙い、同時に壁面から拡張斬撃が繰り出される。
【総火力を上げてきましたねー】
木崎レイジと林藤ゆりは半球シールドを張って、前方と両側に分かれてきたバイパーを防ぐ。二人からの防御支援を期待できない小南桐絵は、西からの奇襲を予測していたのか体を東側に傾けて躱した。短髪の毛が切られて、はらりと宙を舞う。杜野凛世は壁から飛び出しつつアステロイドを生成27分割、時間差設定射出。芹沢あさひは手裏剣型スコーピオンを投擲しつつバイパーを生成分割設定射出。木崎レイジと林藤ゆりは再び半球シールドを合体させて防御。巴マミは右蹴りで小南桐絵の背中を蹴飛ばし退路を断つ。孤月と大斧の激突、鍔迫り合い。手裏剣が突き刺さる刹那、小南桐絵の大斧が分解されて脇の下からアステロイドを射出。手裏剣を撃ち落として杜野凛世の胴体を穴だらけにし、右手の双月で巴マミの腹部を一閃し着地、右回りに旋回。小南桐絵の背中めがけて飛び込んできた芹沢あさひに、振り返りざま両手の武器を当てて両攻撃スコーピオンを防御。しかし押し込まれる。芹沢あさひは全体重を乗せて飛びかかってきた。ならばと小南桐絵は頭突きを喰らわす。
「わっぷ!?」
互いに仰け反るが、地に足が付いてる小南桐絵の方が立ち直りが早い。かかとが地を抉り体の仰け反りを耐え、再び双月と孤月を振るって芹沢あさひの体を十字に切り裂いた。
《トリオン供給機関破損》「────悔しい!!」《戦闘体活動限界 ベイルアウト》
杜野凛世・巴マミ・芹沢あさひが同時に緊急離脱する。
【────試合終了です~。勝者は玉狛第一。なるべくしてなった結果と言えますが、上位の壁を知るのも得難い経験です~。杜野隊も巴隊も、徹頭徹尾、部隊の勝利を考えて動いてましたね~。では最後に、試合の振り返りといきましょう~】
玉狛第一も自発的ベイルアウト。マットの上に落ちて息をつく。
「レイジ、小南、ゆりさん。どうだった? ボーダーの未来は明るいと思わない?」
「……そうだな。ランク戦とはまた違った感じだ。ここまで千日手のような戦いになるとは思わなかった」
「なかなか決めきれなかったからね……。で、あの子の名前なんだっけ? 浅倉透? 彼女イイ線してるわ。射手二人からの援護があるとはいえ、私相手にあれだけ持ちこたえるなんて。鍛えたら化けるわよ」
「ふぅ……ひさしぶりに前線に立ったわ。緊張感のある戦いで面白かった。確かにボーダーの未来は明るいわね」
杜野隊の方は、幽谷霧子が別のトリガーホルダーを使って換装。リペアを起動。咳き込む那須玲は換装し、幽谷霧子からトリオンを分けてもらうことで体調を維持。芹沢あさひはさっそく迅悠一や小南桐絵を、本部のソロランク戦に誘うため走っていく。浅倉透は、小南桐絵を抑えきれなかったことを謝罪。対する杜野凛世は、充分足止めしてくれたと返し、それより浅倉透が時間を稼いでいた間に敵を落としきれなかったことを悔いて謝罪する。あとで反省会だ。
巴隊では百江なぎさがチーズを食べており、佐倉杏子は悔しさを晴らすためかガツガツと大量のおやつを食べている。あまり食べると太るわよ、と巴マミは注意しつつ、頭の中で反省会を開いていた。
【まず面白かったのは、巴隊長の
【え……巴さん、木崎さんの弟子なの……?】
【そうですよ~甜花さん。余談ですが、狙撃手の技術全般に関しては、木崎レイジさんも巴マミさんも、東晴秋さんに師事していると聞きました~。となると東さんも筋トレをしているのでしょうか? 気になりますねー】
観覧席にいる三輪秀次と月見蓮が、間に座る東晴秋に問いかける。
『そうなんですか?』
「いや、まぁ……最低限の筋トレはしているけど、あの二人ほどハードな筋トレはしてないよ」
余談だが、巴マミはトリオン体で筋力トレーニングをした場合、生身の体に筋肉が付くのかどうか、という研究目的もあって鍛えている。というのも東晴秋に師事する際、トリオン体での筋トレを条件として出されたのだ。東晴秋は大学の地下室でトリオンの研究をしている。その手伝いをしてほしい、というわけである。そして狙撃銃について教えたわけだが、あれよあれよと
【トリオン体は生身の身体能力を大幅に上げます。なので日々筋トレして生身でも強い人は、トリオン体になることでもっと強くなるんですよ~。より高みを目指す人は、筋トレを初めて見るのも良いかもしれませんねー。体は資本とも言いますから~。かくいう私も、軽めの筋トレは毎日していますよ~】
【……? それって、はづきさんも……戦うことがあるってこと?】
【はい~。こう見えてプロデューサーさんが相手でも、それなりに勝ったことはあるんですよ~】
その言葉を聞いて杜野凛世たちは驚く。まだ天井支部の隊員で、本気のプロデューサーから一本取れた者はいない。いるとしたら玉狛支部にたくさんいる、とは聞いていたが……上には上がいるものだと痛感する。
【そして杜野隊は速攻を仕掛け続けることで、相手に考えさせる暇を与えない猛襲作戦を取っているようでしたが……それをして考える暇が与えられないのは杜野隊も同じこと。それがまさに、芹沢隊員のダブル旋空弧月が初めて発動した場面ですねー。あそこで杜野隊長のエスクードを割らなければ、林藤オペレーターは袋小路となり、詰めて倒せていたのに。惜しいですねー。もう少し落ち着けたら良かったのですが……芹沢隊員は新しい戦法を試してみたい気持ちも分かりますが、もっと周りが見えるようになれたら、上位を狙えると思いますー】
「ほら、あんた言われてるわよ。解説聞かずにこっち来てんじゃないわよ」
「頭グリグリしないでほしいっす~。桐絵ちゃーん」
【ほかにも佐倉隊員の旋空スコーピオン弧月や、巴隊長の改造アイビスの巨弾、杜野隊長の殺気で周りを釣る戦法などありましたが、甜花さん。どう思いました?】
【え……えと、す、すごいな~……って、思いました……】
【ありがとうございます~。では、最後に気になった点はありますかー?】
【えっ……うーん……ぜ、ぜんぜん違う話に、なるけど……そういえば、弾トリガーは空気抵抗を受けないけど、なんで発射すると射程限界で消滅するの……? って、考えてました……だ、だって、置き玉として設置したら、けっこう時間すぎても、弾トリガー、消えない……発射したら、カバーがすり減るから消滅するってことは、じゃあ、空気抵抗? を受けてることにならない? なる? わけで……えと、だから、その……はい】
【それは良い着眼点ですね~。気になった方は、ぜひ実験して考察してみてはいかがでしょうかー。ボーダーは、常にトリオン学の研究を推奨しています~】
七草はづきは良い感じにまとめて、次のラウンドの解説に移る。
【それでは、このあたりで解説を切り上げましょう~。第一ラウンドのみなさん、お疲れ様でした~。早く次の試合が待ち遠しいという方が大勢いらっしゃるので、ガンガン試合を回していきましょう~。それでは特殊ランク戦・昼の部・第二ラウンド。開始まであと三分でーす。次の方は、ご準備のほどを~】
†
夕方。特殊ランク戦が終了した大崎甜花は、幽谷霧子とともに本部の医務室に向かう。その途中で開発室に立ち寄り、スパイダー開発の件で感謝。幽谷霧子は菓子折りを差し入れる。防衛隊員の活躍はエンジニアありきのものだ。感謝を忘れてはならない。
その後、大崎甘奈の病室に着くと、そこにはプロデューサーがいた。
「あれ? プロデューサーさん……どうしてここに?」
「霧子、甜花。……実は今ちょうど甘奈に相談したところでな。彼女を天井支部に転属させようと思うんだ」
「……え!」
「色々とすまない。本部と支部の違いだけで、そんなに距離も離れてないから、甜花を転属させることが、二人を引き裂いて離れ離れにすることになるとは、まったく考えていなかったんだ。それについてはづきさんに叱られてから少し考え直した。確かに家族なのに、本部と支部で別居というのも寂しいだろうってな」
「……じゃあ……なーちゃんは、なんて?」
病室から身を起こした大崎甘奈は、笑って答える。
「もっちろん! 甜花ちゃんといっしょにいたいもん! 甘奈も天井支部に転属しまーす☆」
「わ……やった……!」
プロデューサーは頭をかく。
「本当に申し訳なかった。俺はこんなんだから……これから臆せず、どんどん要求を言ってくれると助かる。……本当はこっちが気が付いてやらなきゃいけないことなんだけどな……はは……」
「そんなことないよ、プロデューサーさん。甘奈の方こそ、なんか変に我慢しちゃって……こんな簡単に行くことなら、すぐに転属願いを出せば良かった。……だから、あの、プロデューサーさん。また甜花ちゃんと一緒にいさせてくれて、ありがとうございますっ!」