シャイニートリガー -多重星界起動遍歴-   作:形のない者

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ケンネル戦記編

本作、本編は、「グループSNE」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ソード・ワールド2.0/2.5』の、二次創作です。
(C)GroupSNE
(C)KADOKAWA



ジャスティスキャラバン① カルディア・カーニバル

 

 杜野凛世謹慎事件から二ヶ月後。夏休みが終わってすぐの9月初旬にて、第三回入隊式が開かれる。訓練生の顔ぶれの中には、例の小宮果穂が混じっていた。その少女に突進する、天井支部の軍用犬(ペット)が一匹。

 

「ワンワン!」

「はっ! マメ丸……っ! えへへっ! 久しぶりだねっ! また会えてうれしい……!」

「ワンッ!」

 

 小宮果穂の胸に飛び込んだマメ丸は、抱きとめられて抱っこされ、わしゃわしゃと撫でられる。

 

 それから小宮果穂は、嵐山隊から入隊指導を受け、様々な訓練プログラムをこなす。夏休みに受けた一般公募では一発合格し、トリガーの適性審査ではアステロイドを支給されていた。個人ランク戦で同期のライバルたちと競い、ど派手にポイントを稼いでいく。

 

「アステロイド!」

 

 生成、1000以上分割、方向設定、射出。爆撃のごとし弾幕が市街地の一角を更地に変えるが────正確無比の二挺拳銃射撃が砂塵を突き破り、小宮果穂の頭部と心臓の箇所に命中した。トリオン伝達脳と供給機関が破損、ベイルアウト。

 

「わぁ! ……やっぱり甜花さん、強いです……っ! すごいですー!」

「ふぅ……甜花にかかれば、楽勝……先月、ようやく完成した拳銃型トリガーで、甜花はやっとB級に上がれる……!」

「あたしもすぐに上がりますよ! あと三百ポイントで4000点貯まるんです!」

「え……」(甜花、まだ1000ポイントより上に行ったことない……)

 

 トリオンの差は致命的であり、暴力的でもある。

 一方、小宮果穂は全てを爆破解体する勢いでポイントを貯めていくが、あと少しというところで、なぜかソロランク戦を立て続けに断られてしまう。大崎甜花と戦っても負け越しが多くなるため、小宮果穂は隊員育成プログラムで地道に稼いでいく。

 そして小宮果穂が4000点を貯めきる頃、大崎甜花はド派手に大量得点を上げていた。今まで大崎甜花をカモ扱いしていた一部の訓練生が、小宮果穂に負けることを避けて大崎甜花に挑んだ結果……二挺拳銃を手にして覚醒した彼女に次々と撃ち抜かれていったのだ。そして二人とも4000点に到達する。

 

「おめでとう! これで君たちは正規隊員だ! これから主力隊員としてチームを組み、B級ランク戦で腕を磨いて、防衛任務に参加してくれ。君たちの今後に期待し、防衛隊員としての活躍を期待する!」

 

 嵐山准からの激励を受けた小宮果穂は飛び跳ねるほど喜び、大崎甜花はほっと一息一安心。

 

「やったー! チーム……! あの、甜花さん! あたしとチームを組みませんかー!?」

「え……!?」

 

 大崎甜花は考える。トリオン能力の高い人間は、それだけで強い。殺し合いには抵抗がないようだし、甜花より戦闘センスもある。大崎甜花の圧倒的なトリオン能力の低さを補うためには、その対極に位置する小宮果穂がいてくれた方がバランスが取れる。

 

「……うん。いいよ……」

「わぁ、ありがとうございます! じゃあ次はオペレーターを探さないと!」

「あ、それなら……もう、大丈夫……」

「え?」

「甜花の妹の……なーちゃんが、オペレーター、やってくれる……」

「そうなんですか!? じゃあ、あたしたち、もうチームが完成したんですね! 早くB級ランク戦、やりたいなー!」

「そ、そうだね……本当は、あとひとり欲しいけど……」

「? 戦闘隊員は四人までなんですよね? だから、あと二人じゃないんですか……?」

「隊員が多すぎると、オペレーターの仕事が増えて、ミスが増えちゃうから……三人がちょうどいいって、杜野さん、言ってた……」

「なるほど! って……あれ? 甜花さん、凛世さんを知ってるんですか!?」

「う、うん……同じ支部の、仲間……先輩……甜花の方が、年上だけど……」

「えっ!? あ、あたしも天井支部なんです!」

「えっ……そうなの?」

「はいっ! 最初は本部の一般公募を受けたんですけど、合格通知が来た時に、本部から天井支部に転属することになりますけどよろしいですか? って手紙もいっしょに来たんです! それで少し調べたら、凛世さんがいる支部だってわかって……だから、はいっ! って返事しましたー!」

「へー……じゃあ、これから同じ寮で暮らすんだ……よろしくね?」

「はいっ! よろしくお願いします!」

「じゃあ……天井支部、さっそく、行く……? もうお昼で、お腹すいたし……地下に訓練室もあるから、練習したかったら、また本部に戻る必要もないし……」

「いいんですか!? 場所がわからなかったので、案内してくれると嬉しいです!」

 

 ふたりの会話を見守る嵐山准は、にっこりと微笑んで、新しく結成されたチームに手を振って見送った。

 

          †

 

 放課後の天井支部。地下の仮想訓練室では、今日も今日とて自由な戦闘が行われていた。

 

「グラスホッパー殺法!」

「わー!」

 

 自らの体をグラスホッパーで乱反射させながらスパイダーを使い、小宮果穂の全身をワイヤーでぐるぐる巻きにした芹沢あさひは、トドメを刺さず満足げに鼻を鳴らす。

 

「またわたしの勝ちだね! 果穂ちゃん!」

「うぅ……あさひさん! もう一回おねがいしますっ!」

「えと……トドメ……ちゃんと刺そ……? 遊びじゃない、から……」

 

 大崎甜花の注意が入るが、芹沢あさひは聞こえていないのか様々なトリガーを使って色々なことを試して遊んでいく。こんな時は杜野凛世がいれば、芹沢あさひもだいぶ言うことを聞くのだが……肝心の杜野凛世は、不定期の謹慎処分中である。今は学業に専念しているらしく、あまり連絡も取れていない。

 

 その時、降りてきたエレベーターから幽谷霧子が顔を出した。

 

「み、みんな! 凛世ちゃんが来たよ!」

『……え!』

 

 全員は地上に向かう。リビングには誰もいない。プロデューサーのデスク近くに制服姿の杜野凛世が立っており、プロデューサーと話していた。

 

「凛世さん!」

「! ……お久しぶりです、果穂さん……そして入隊とB級昇格、おめでとうございます」

「え! なんで知ってるんですか!?」

「さきほど……嵐山さんから連絡があったのです」

 

「凛世ちゃん! 待ちくたびれたっすよー! 早く戦おうっすー!」

「あさひさん……凛世も同感ですが、それはまたの機会に。今はプロデューサーさまとのお話がありますので……」

 

 杜野凛世は、プロデューサーに向き直る。

 

「ちょうどいい。凛世の謹慎が解かれて、B級はみんな集まったことだし、長期遠征について説明する」

『……長期遠征……?』

「先々月、小宮果穂が誘拐された場所は、太陽系ユーレリアは惑星国家ケンネルの端っこだ。その太陽系では、主に十二の惑星国家が回っている」

「……????」

 

 小宮果穂は惑星国家という単語を知らない。それについては後でまとめて説明すると伝え、プロデューサーは話を続ける。

 

「それで、みんな。天井支部が捕虜にしたネイバー・アルファの件を覚えているか? 彼の話によれば、現在ケンネルは、太陽系レンドリフトの脅威に晒されている。ボーダーにとっては関係のない話だが、迅はこう言った」

 

 ────ボーダーがケンネルに貸しを作る良い機会では?

 

「と……」

「つまりボーダーは、ネイバーフッド同士の戦争に武力介入する……ということで?」凛世が問いかける。

「そういうことになる。だがそれはボーダーの理念に半ば反することだ。我々は界境防衛機関だ。専守防衛組織と謳っているわけではないが、こちらから出張るつもりはないし、それだけの戦力も未だ持っていない。ボーダーの発足から約九ヶ月……まだまだ人材は不足しており、戦力も足りない。そんな状態で遠征は不可能だ。しかし────」

 

 プロデューサーは二ヶ月間にわたる幹部会議を思い出す。会議の長さは、その内容の重要度を象徴する。

 

「────結論から言う。俺と城戸司令の利害が一致したため、城戸司令はゴーサインを出した。防衛重視の忍田本部長は不服そうだったけどな」

『……!』

「俺と城戸さんの利害とは何か、気になることだろう。有り体に言えば“積極的遠征”による“侵攻の抑止”だ。前者は城戸司令の内容で、後者は俺の提案。具体的には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その作戦として今回、ケンネルに恩を売るべく長期遠征の作戦を計画した、というわけだ」

「……ケンネルに恩を売ることで、その効果が期待できるのですか?」杜野凛世が問いかける。

「いいや。俺としては、まったく期待できないと思っている」

『!?』

「ケンネルは弱小国だ。外部に影響力を持たない小国に、膨大な労力を費やして恩を売ったところで、費用対効果が釣り合わない」

「……では……なぜ?」

「迅が頑なに譲らなかったんだ。その理由を問えば、レンドリフトの脅威を玄界から遠ざけるためだと言う。加えて、それが叶えば、必然ケンネルはユーレリアとレンドリフトを統一することになり、二つの太陽系を支配する超大国となる。まぁ、とどのつまり────」

 

 プロデューサーは夢物語だと一蹴したいところだが、昔の血が騒ぐのかうすら笑みを浮かべた。

 

「────天下統一を果たせ。ってことさ」

「天下……統一……」

「幸いユーレリアは弱小国の集まりだ。大国同士の政争と騒乱に首を突っ込むのは自殺行為だが、都市国家レベルの抗争なら、まだ俺たちでもなんとかなる。……しかし、迅も城戸さんも、社長も林藤さんも、俺の能力を高く買いすぎなんだよな……」

 

 ────プロデューサーさんならできますよ。なにせ俺のサイドエフェクトがそう言ってる。

 ────プロデューサー。これは命令だ。ケンネルを利用して天下統一を果たし、玄界に及ぶ太陽の脅威を二つ削れ。

 ────気張れよ、プロデューサー。お前の腕の見せどころが、ついに来たと思うがいい。かつて複数の銀河を股にかけた傭兵団長のカリスマ、思う存分に発揮して、あらゆる敵を蹂躙しろ。これは支部長命令だ。

 ────いや~これは怖いものが見れるぞ~。あ、ってことはプロデューサーに付いていく隊員は、よく選んだ方がいいな。下手すりゃ人望なくしちゃうぜ? 凛世ちゃんとか泣いちゃうんじゃないの? 旧ボーダーもだいぶ泣かされたからねぇ……はっはっはっ!

 

 それはこちらも同じことだと言いたい。そうプロデューサーは思う。自ら率いる少年兵が旧ボーダーの隊員のほとんどを殺した。それと同じく、旧ボーダーの隊員も、プロデューサー率いる少年兵のほとんどを殺した。旧ボーダーは同盟国との約束を守るべく参加した援軍。プロデューサーたちは国に雇われた傭兵団。互いに恨みはなく、ただ侵略される脅威から身を守るためだけに殺し合った。あれは、まさしく互いの命を極限まで削りあった()()……。おかげでボーダーのやり方は、プロデューサーからすれば身にしみて理解している。

 

(せっかく手に職がついて、正規軍人になれたと思ったのに……まさか、見ず知らずの国で傭兵をやれ、とは……。まったく、いい組織に捕まったものだ……)

 

 かつて傭兵として猛威を振るった、仲間を殺した憎い敵を、今度は自軍の間諜(スパイ)として使役する。感情に頼らず、実に合理的な用兵術だ。

 大抵の国では、プロデューサーを恐れてその力を削ぐため“貴族にしてやる”などと言い、名ばかりの役職を与えて軍人関係の権限は与えず、飼い殺しにする連中が大半だった。どの国に行っても“お前はうちの仲間を殺した”と恨まれており、どの国に行っても“お前は怖いから活躍するな”という制裁を与えられて、ほうぼうから憎まれている。

 しかしボーダーは異なる。どのネイバーフッドと比べても、やはり“モラル”が整っている。それは特筆すべき部分だ。次元違いの倫理意識とも言える。無論、根底にある憎悪がまったく無いわけではない。しかしボーダーは市民の平和のため、私怨と合理を区別できる。だからこそ嘆かわしい。それができるネイバーの国王は多くない。

 

(だが……アルファによれば、ケンネル王は野心がなく人道的な人物と聞く。郷土愛が強く、国民を守ることを第一に考える、珍しいタイプの王様だ。その情報も、おそらく城戸司令の胸に響いたんだろう。地理的に防衛することが多いケンネルの王ならば、同じく防衛を主とするボーダーの防衛理念と分かり合えるかも知れない。そんな期待もあるのかも)

 

 いずれにせよ、それは現地に行ってケンネル王と謁見しなければ分からないことだ。

 

「────というわけで、長期遠征に赴く隊員を発表する。隊長は杜野凛世、隊員は小宮果穂、マメ丸、大崎甜花。案内役にアルファ。以上の五名で、およそ一ヶ月から三ヶ月程度の遠征を考えている。天下統一事業が長期化すれば数年単位になる恐れもある。よく考えてくれ。家族や友人にも、長期的にボーダーから離れることを伝えておくように」

『……!』

「詳しいことは、あとでまとめて話す。資料は送っておいたから、あらかじめ読んでおいてくれ。あと果穂に惑星国家や俺の正体のことも、誰か説明してやってほしい。ちょっと忙しくてな」

 

 プロデューサーのデスクの上は、二ヶ月分の会議で使った重要な資料で山積みだ。

 そこで芹沢あさひが不満げに言う。

 

「プロデューサーさん! なんでわたしは選ばれてないんすか!」

「あさひ……この際だ。ハッキリ言うぞ? これは上層部の言葉でもある。まず“隊長の言うことを聞かない時がある”……あと“落ち着きがない”……さらに“命令されてないのに突飛な行動に出ることが多い”……ほかにも言っていたらキリがないぞ? 正直あさひに軍隊行動は適さない。選ばれないのは当然だ」

「えー! 最近はちゃんと聞いてるっすよー! 言うこと聞かないのも、ちゃんと聞いた上で、絶対こっちの方がいいと思ったから……」

「それで大抵はうまくいってるんだから許せと?」

「……」

「あさひも分かっているだろうから強く言わないが、それではボーダーの運営理念と合わないんだ」

「……それは、なんとなくわかるっすけど……」

「だからまぁ、適材適所という言葉がある。あさひは軍人より、ある程度の自由が利く傭兵の方が気質に合っているのかもな。それは凛世にも同じことが言えるかもしれない」

 

 不意に刺された杜野凛世は、先々月の独断専行を恥じ入るばかり。

 

「……? え、それって……!」

「チャンスがあれば、遊撃隊としてお呼びが掛かることもあるだろう。その時まで腕を磨いておけ」

「信じていいんすね!?」

「信じる信じないにかかわらず、チャンスがない時もある。だけど戦争が始まった場合は、高確率で呼ぶだろう。死地に赴く準備をしておけよ」

「はいっす! よーし! 強くなるぞー!」

「強くなることも大事だが、もう少し自制・抑制が効いて、周りが見えるようになれば、言うことはないんだがな……って、もう聞いてないし……」

 

 芹沢あさひは地下の仮想訓練室に走り込む。

 

「……まぁ、いま凛世にも釘を刺したが……そういうふうに教育したのは、間違いなく俺だ。だから全て俺の責任となる。以前も忍田本部長から、傭兵気質が抜けていないと叱られたし。そろそろ慣れろと言われたが……慣れたくても、さじ加減が難しいんだよな……」

「……傭兵……ですか……」

 

 その時、大崎甜花が震え声で言った。

 

「ぷ、プロデューサーさん……甜花の、聞き間違いだったら、いいんだけど……」

「ん?」

「甜花も……長期遠征、行くの……?」

「そうだぞ」

「……なんで?」

「才能があると判断したからだ」

「……なんの?」

「殺し合いの才能」

「────なんて?」

「なんだ。甘奈を連れて行かないと覚醒しないか?」

「! だ、ダメ……! なーちゃんは、防衛隊員だから……防衛に務める……! ネイバーフッドに行くの、ダメ……!」

「でも甘奈だって、甜花が遠征に行くのは嫌がると思うぞ?」

「…………それは、そうかもだけど……でも、甜花たち、もう、軍人だから……命令は、絶対……」

「そうだな。だから甜花もわがまま言わないで、覚悟決めて行こうな」

「ひぃん……!」

 

 自分で言った言葉を返された甜花は、もう何も言えなくなる────ことはなかった。

 

「プロデューサーさん! 甜花にも! 適材適所が、あると思う……!」

「…………」(気弱に見えて強かな子っているよなぁ……)「さて、霧子。全種類のトリガーを人数分欲しい。至急、本部の開発室に行って持ってきてくれるか? 足りなかったら量産してくれ」

「わ、わかりました……!」

 

 幽谷霧子はさっそく本部に向かう。

 

「プロデューサーさん! 冷蔵庫に甜花のプリンがある……! それで手を……!」

「なんでそれで打てると思うんだ? ならはづきさんが買ってくれた俺のケーキ、甜花が食べていいぞ」

「え、いいの……!? にへへ……あ、じゃあ、話は、またあとでね……!」

 

 大崎甜花は遠征拒否を訴えることより、ケーキを食べることを優先した。

 そこで杜野凛世が問いかける。

 

「プロデューサーさま……質問、よろしいでしょうか?」

「いいぞ」

「その……プロデューサーさまの過去を、知りとうございます……」

「……」

「プロデューサーさまとアルファさんは、お知り合いのご様子……断片的な話を聞くに、プロデューサーさまはボーダーに囚われる以前より、傭兵稼業で身を立てていたと察します……」

「その通りだよ。それが全てだ」

「いえ……まだ凛世は、知らぬことばかりでございます……もちろん、無理にとは申しません……しかし、いつかは……プロデューサーさまのことを、もっと深く……凛世は……」

「……そうか。まぁ、そんな機会があればな。大して面白くもない半生だから、あまり期待しないでほしいけど」

 

 杜野凛世は会釈すると、ぼーっとする小宮果穂に声をかけ、前提知識の講座を始めるため会議室に赴こうと誘う。そこでハッとした小宮果穂は我に返り、理由を問うた。

 

「あ、あのっ! プロデューサーさんっ! あ、あたしも……遠征に!? というか、遠征ってなんですかぁ!?」

「その点も踏まえて凛世に聞いてくれ」

「え、あの……あ、あとひとつだけ! マメ丸も隊員って、どういう……」

「それも凛世に聞いてくれ。謹慎中でもひと通りの知識は共有していたからな。それとアルファも、本部の独房から解放されて、今ごろこっちに来ているはずだ。凛世、よろしく頼む」

「承知しました。アルファさんの資料も、突然送られてきましたが……既に目を通してあります」

「さすがだ」

 

 噂をすれば影が差す。呼び鈴が鳴り響き、迅悠一とアルファが入ってくる。

 

「どうも! お届けものです! 新進気鋭のアルファくんを連れてきましたー」

「……おい、プロデューサー。縁も奇なものだな……まさかあんたを倒した奴と、同じ組織に所属しているとは……」

「はは。びっくりしたろ。迅、届出ご苦労。これより捕虜アルファは天井支部で預かる」

「了解! じゃ、凛世ちゃん、果穂ちゃん、マメ丸くん、甜花ちゃん、アルファ! 長期遠征、頑張ってくれよー! 実力派エリートの迅悠一が太鼓判を押すんだ。じゃんじゃん暴れまわってこい! では、そういうことでー」

 

 キランと敬礼する迅悠一は何を考えているのか、ぼんち揚げを食べながら立ち去る。

 

「アルファさん! お久しぶりです!」

「……! 果穂……結局、ボーダーに入ったのか」

「はいっ! だってあたし、ヒーローみたいになりたいんですっ!」

「……ヒーロー? なんだそれは」

「え、ヒーローを知らないんですか!?」

「個人が概念的に捉えている固有名詞は翻訳されないから、普遍的な言葉に置き換えた上で説明してくれ────って言っても分からないか」

 

 それも踏まえて、あれもこれも説明すると、杜野凛世は会議室に促す。小宮果穂が入っていく中、アルファはプロデューサーに視線を向けた。

 

「プロデューサー」

「?」

「感謝する。果穂は命の恩人だ。彼女の説得がなければ、あんたは平気で俺を見捨てていた」

「……そんな俺に、なぜ感謝を?」

「恩を返せる機会を用意してくれたからだ。無論、俺が果穂のために動くことも視野に入れて、新米の果穂を遠征部隊に編成したことも見抜いている。その手の心理的な根回しは、あんたの得意とするやり口だ」

「…………」

「そして、それが効果的に働くことが多々あることを……俺はあんたのそばで見てきたからよく知っている。操られるのはすこぶる気分が悪いが……俺は俺のやるべきことをやるだけだ。あんたのお望み通り、何回目かもわからない天下統一、また果たしてやるよ」

「そうか。君の働きには期待しているよ、アルファ」

 

 アルファは冷めた目でプロデューサーから視線を外すと、小宮果穂とマメ丸に呼ばれて会議室に入っていった。

 

          †

 

 それから一週間が経過。長期遠征に必要な最低限の座学や修行、様々な任務(蛮族退治・商隊護衛・野外探索・遺跡探索etc(など))に応じた演習を修了。これより社野隊は太陽系ユーレリアの地にて“冒険者”となり、ケンネル王国を中心とした天下統一事業を始める。

 

 天井支部所有の高速遠征艇は玄界(ミデン)を発ち、杜野凛世、小宮果穂、マメ丸、大崎甜花、アルファの五名を目的地まで送る。到着まで一週間。その間、杜野凛世とアルファは、ラクシア銀河に関する知識を復習する。小宮果穂は遠征艇に持ち込んだ学校の教科書を開き、約一年分の宿題やテストを解いていく。その採点は大崎甜花が担当し、誰かと遊びたいマメ丸は(大崎甜花が持ち込んだ)デビ太郎というぬいぐるみと戯れていた。

 

「ワールドトリガー。……眉唾だが、複数の太陽系(軌道)を内包するラクシア銀河(暗黒の大領域)は、三本のトリガー(ソード)によって創世されたと伝えられている。その根拠として、ラクシアにて生を受けた動鉱植物(命魂あるもの)は死後、体内のトリオン器官から“剣のかけら”という不思議な破片が出てくる」

「それは、たしか手のひらサイズの、血小板のようなもので……物質化したトリオンであると……」

「あぁ。それを体内に取り込むことで、自らのトリオン能力を強化する風習・文化を持つ一族がいる」

()()でございますね……話を聞く限り、凛世たちが以前戦ったダクトロ……彼もまた、その蛮族なのでしょう……」

「まず間違いなく黒岩武族(こくがんぶぞく)だな。蛮族の中でも改造人間ダクトロ型のことだ。……しかし、種族名がそのまま個人名とはな……それ、たぶん偽名だぞ?」

 

 それからアルファは基礎知識を復唱する。

 

「そして、剣のかけらを取り込むことは人族の間で禁忌とされる。世界を創った三本の剣に対する背徳、死者への冒涜、利己的な強さを追い求めるがゆえの蛮行……色々と言い分はあるが、とにかくラクシアにおける人間──いや、()()は、剣のかけらを共有することを文明的で倫理的と感じる」

「なぜならば、人族は調和することで文明を発展させてきた……しかし蛮族は、個の力を誇示して富を破壊するため、文明は発展せず、未開人のまま……さらにはブラックトリガーすらも体内に取り込む所業をおかした。これに人族は憤りを感じ、蛮族は“穢れた一族”と呼ばれるようになった……」

「実際、蛮族の“穢れ”(ブラックトリオン)は恐ろしい力を秘めており、個としての強さは凄まじいものがある。対する()()は群れをなして対抗したが、力及ばず敗色濃厚。そこで人間は()()()()()()()()に改造人間を作り始めた。これに幾度となく成功することで多くの亜人が誕生。調和を是として徒党を組んだ人間と亜人をまとめて()()と呼ぶようになった」

「さらに、穢れを持った者の侵入を阻むトリガー(ソード)……〈守りの剣〉の作製にも成功……。守りの剣は、剣のかけらを取り込むことで、効果を発揮する……」

「かくして人族と蛮族の対立は、神紀文明末期から始まり、人族優勢のまま魔法文明・魔動機文明を経るが、蛮族が一転攻勢した大破局(ディアボリック・トライアンフ)によって人族文明は崩壊する。大混沌の中、なんとか蛮族を押し返した人族は膠着状態を作り上げ、それから三百年……現在の復興文明に落ち着く」

「……まるで、神話か……おとぎ話を聞いているような、歴史です……。しかし……」

 

 杜野凛世は疑問を口にする。

 

「────亜人。それは、ドワフ(炎の小人)エル(水の美人)を指す言葉……トリガーやトリオン兵を体内に組み込むことで、超人的な力を得た改造人間……これは、蛮族と何が違うのでしょうか……」

「その疑問、あちら側では絶対に口にするなよ。一発でラクシア出身じゃないってバレるぞ。良くて哲学者と思われるくらいか。……あちら側ではトリガー(ソード)の是非が、人族(特に人間)の倫理観を占めている。改造に使う材料がトリガー剣関連のものじゃなければ、それは()()()()()()()()のさ」

「──……成る程……承知しました」

 

 その時、勉強を終えた小宮果穂が報告に来る。

 

「凛世さん! 勉強終わりました! あたしも仲間に入れてください!」

「はい……では、次に……」

「太陽系ユーレリア、特にケンネル近辺の概略について、だな」

「うっ……政治のおはなし、ですか……? あたし、社会の授業とか、まだよくわからなくて……むずかしいです……」

「そのあたりは現地に赴き、じかに肌で各国の内情に触れることで、何かを閃くこともありましょう……」

「まぁその手の政争は、俺に一任されている。凛世と甜花にも理解していてほしいが……甜花は無理そうだな」

「甜花さんは今、おひるねしていますっ!」

 

 アルファは、ケンネル王国の視点に立って語る。

 

「防人の国ケンネル。人口4,000。8割が人間で、2割がドワーフ。城壁外の周辺村落やレンドリフト地方からの亡命者も含めれば、今のところ5,000人には達すると思われる。周辺諸国の人口と比べれば、中の下から上昇中だ」

「地理は──周回軌道の関係から、レーゼルドーン大陸を北とする場合──太陽系ユーレリアの西端は……シャダラ山脈の中腹に位置します……」

「産業はっ、山から取れる木や石を使った工芸品が、特産品ですっ! それをほかの国に売ることで、お金をかせいでいますっ。ほかにも、芸術の国と言われていて、絵を描いたり、彫刻を作るのが、スゴく好きで得意で、人気ですっ!」

 

 小宮果穂は、資料に書かれている難読漢字の長文情報から、必要な部分だけ抜粋し、自分の中で分かりやすい言葉に置き換えて復唱する。

 

「つまり第二次産業による加工貿易と芸術業で国益を賄っている。食糧に関しては大半を輸入に頼っているため、お金を稼ぐには職人の存在が必要不可欠だ。そのため国が職工と芸術の両ギルドに補助金を出すことで、職人の人材育成を奨励している」

「政治は王政。国王の名前はジェイムズ・ケンネル、人間の男性で40代前半。全ての国政を担っており、内政・外交・軍事など、国営にて多忙を極める。それゆえ二人の補佐役が存在しますが、両大臣は意見することが認められているだけで、決定権は存在しない」

「歴代のケンネル王は、国民を大事にしていて、悪い政治をしないことで有名ですっ! そんなケンネル王は今、板挟みにされて困っています!」

 

 現在のケンネルは、板挟みの国と呼ばれている。その理由を復唱する。

 

「ケンネルは現在、西のレンドリフト帝国と東のユレヒト王国から、属国化しろ(どちらに付くか選べ)と脅されている。かたや人口100万の超大国、かたや人口1万の大国。されど、かたや蛮族の国──厳密には蛮族と人族の混合国家だが、国政方針は明らかに蛮族寄りと言って差し支えない──、かたや人族の国」

「人族と蛮族は敵対している……ケンネル王国は、同じ人族の国であるユレヒトになびく方が自然でしょう……」

「でも……ケンネルは、ユレヒトのことを、あまりよく思っていないんですよね……?」

「あぁ。ユレヒトは明らかにユーレリア統一を目論んでいる。国政の方針から、周辺諸国に対する野心が透けて見える。そのため、いつかユレヒトは武力行使によって他国を併呑するのでは? と、諸国から警戒されている」

「さらにユレヒトは……レンドリフトを脅威に感じたケンネルからの支援要請を、ある意味では断りました……」

「ケンネルが「レンドリフト怖い! ユーレリアの十二国で協力すれば倒せる! みんなを呼んできてユレヒトさん!」って頼んだら……ユレヒトは「俺の部下になればそうしてやる」って言い返したんですよね?」

「そうだ。さらにそのすぐあと、レンドリフトから「俺の部下になれ」と言われた。つまり属国化の要求だ。このためケンネルは、最初に述べた通り、板挟みの状態となった。どちらに付くか選べと脅されたも同然なんだ」

「幸か不幸かケンネル王は、返答までの期限を定められなかった……しかし、いつ両国が回答を要求するか不明……双方の内情を見るに、今すぐ返事を求める気配は薄い……ですが、回答を迫られるまでの時間は、一年や二年と残されていないでしょう……」

「……あのっ。どうしてケンネルは、どちらに付くかで悩んでいるんですか?」

「その説明をするには一日じゃ足りない。決論から言えば、ユレヒトに付けば骨の髄まで搾取される。レンドリフトに付けば魂の奥まで蹂躙される。どちらに付いても良いことはない。だが、どちらかに付かねば……ケンネル王国は消滅する」

「ユーレリアの支配を目論むユレヒトとレンドリフトは、シャダラ山脈越しに睨み合っている。シャダラ山脈に住まうケンネル王国は、もし両国の戦争が始まってしまえば、戦争の道路として利用され、巻き込まれ、すり潰されて、人口4000人は蛮族あるいはユレヒト軍によって皆殺し。……その詳細を語るには、げにも恐ろしき結末が、待っていることでしょう……」

「そんな……じゃあ、ケンネルの人たちは、どうすればいいんですかぁ!?」

「どうにもできない。小国に出来ることは限られている。今のケンネル王は、どちらに付いた方が、4000人の国民を守れるか……そればかり考えていることだろう。どっちも地獄だが、より軽い地獄を選ばなければならない。そのために様々な計画を進めているだろうが……まぁ……滅亡は目に見えている」

「故にこそ、ボーダーが……助太刀する」

「! ど、どうやってですか……?」

 

 アルファは、ケンネルの軍事を語る。

 

「ケンネルの常備軍は100人。板挟みによる先行き不安な情勢から戦争を想定しているのか士気は高め。職人の力によってトリガー開発に関する技術は他国と比べて優れており、戦争用のトリガーは充実しているが、兵士の練度はさほど高くない。なぜならケンネル王国の強みは人材ではなく────」

「────施設にあるためです。魔法文明時代に設けられた堅牢な城壁と、ユーレリア・レンドリフト間を遮断する巨大な山門……しかし門の開閉方法は、大破局によって失われております……。故に山間の巨大門は開けっ放しであり、いつでもレンドリフト帝国の侵攻を許す形となっている……」

「……じゃあ、門のトリガーを閉じれば……!」

「山間の巨大門を閉じることができれば、たしかにケンネルはレンドリフト帝国を追い返すことができて、かつユレヒトに属国化する必要がなくなる。……だが、そんなことができるなら、とっくにそうしてる。ケンネル王は探索部隊を派遣して、今も必死に山間の巨大門の開閉方法を探して、多数の遺跡を発掘し調査しているだろうが……その結果は芳しくなさそうだ」

「ならば……別の案を試すまで……果穂さんは、どのようにしたら良いと思われますか?」

「あたしですか!? えぇっと……戦争は嫌ですけど、今にも攻められそうなら……修行して、強くなりますっ!」

「軍備の増強か。ケンネル王国にはレンドリフトからの亡命者が多数ある。これを兵士にすれば多少は強くなるだろう。現にケンネル王は既にそうしている。だがそれでも足りない。ケンネルの常備軍と自警団、亡命者を加えた即席部隊があっても、その兵数は300人前後。対するレンドリフト帝国の兵数は10万。ちなみにユレヒト王国の兵数は500人だ」

 

 小宮果穂は、その数の差に驚く。

 

「じゅ、10万……! それって、多すぎなんじゃ……? たとえばケンネルとユレヒトが手を組んでも、兵数は1000人にも届きません! 戦ったら負けちゃいます!」

「はい……しかし、戦いは数と申しますが……殊に戦闘体ならば、話はまた変わってきます……」

「兵数の差は重要だが、今回はさして重要じゃない。それはまた別の話になる。で、凛世が言った別案のことだが……」

 

 アルファは話を戻す。

 

「────俺たちの任務を思い出せ。俺たちはケンネル王国を勝たせなきゃいけない。ならば果穂が言ったように、軍備の増強をするのが現実的だ」

「しかし果穂さんの言う通り、既に兵士の数では絶望的な開きがある……城壁の力があっても、守りきれる勝算は薄い……ならば、仲間を呼べば良いのです」

「……仲間! ケンネルには、ジャスティスパープルやジャスティスブラックのように、頼れる仲間がいるんですかぁ!?」

「……いや、居ない」

「おりません……ですから、作るのです」

「えっ!? 作る……つまり、仲間探し!」

「……それも少し違うんだが……」

 

 アルファは内部通話で杜野凛世に物申す。

 

《凛世。もう決論を言っていいか? やはり果穂には、まだ難しいだろう》

《いえ……いましばらく、ご協力を……幼いからといって、何も知らずに挑めば、必ずどこかで失策を生みます。……三人寄らば文殊の知恵と言いますように……果穂さんにもユーレリアの社会について知ってもらうことで、きっとどこかで力になってくれる時が来るはずです……》

《……それが隊長(あんた)の方針か。了解。従うよ》

《ありがとうございます》

 

「……果穂さん。既にヒントは出ております」

「ヒント?」

「修行や仲間作り……それを国政に置き換えれば、すなわち外交や同盟だ。では、ケンネルはどうやって仲間を作る? そもそもケンネルは、なぜ自分から周辺諸国に支援を呼びかけるのではなく、ユレヒトが呼びかけるように頼んだ? そんな遠まわしなことをする必要はないだろう。だが、そうする必要があった。それはなぜか」

「……ケンネルは弱小国ゆえ、呼びかけたところで誰も答えてはくれない……しかし大国のユレヒトが呼びかければ、周りは耳を貸す……」

「……つまり、ケンネルは弱いから、お願いしても、みんな仲間になってくれない……ってことですか?」

「そうなる。裏を返せば、強ければ仲間になってくれるってことだ。そこで俺は考えた。ケンネルを強くすればいい。シンプルな発想だ。これは奇しくも果穂と近い考えとなる。難しいことは何もない」

「問題は、どうやって強くするか……です。返答の期限は一年以内と予想……ならば一年以内に強くなる必要がある……。しかし、そのような短時間で、どのような計画を実行・完遂すれば、ケンネルは強国になれるのか……」

「…………う~ん……わかりませんっ!!」

「果穂。これは基本的なことだ。……お前は戦う時、何を武器にする? 得意な武器を使って戦うだろう? その方が勝てるかもしれないから。それを国政に置き換えると、武器とは地理や気候、産業や軍事となる」

「では、ケンネルの強みとは……?」

「……ケンネルの得意なこと……地理や気候は、よくわからないんですけど……軍事は、100人しかいないから弱い……苦手? だし……だったら、残っているのは産業です! ケンネルは商売をすることでお金を稼いでいます! だから……ケンネルの得意な武器は……商売?」

 

 アルファと杜野凛世は視線を交わす。かたや及第点、かたや満点といったような顔で微笑んだ。

 

「まぁ正解だ。具体的にどうやるかは、現地に着いて旅を始めれば、おのずと分かるだろう」

 

          †

 

 天井支部の遠征艇は、惑星国家ケンネルの北東部に広がる荒れ地の大平原に着地する。そして遠征艇の外観を、巨大な幌馬車に改造。それはアルファが福丸小糸と共に作製したデータを、トリオンによって更新させた、ユーレリア風の荷馬車である。荷馬車扮する遠征艇を率いて、ラクシアのネイバーに扮する杜野隊は、全力疾走で一日かかりケンネル王国に到着。入国を取り締まる門衛に対しては、毅然とした杜野凛世の立ち居振る舞いによって新米の冒険者と認められることにより入国に成功。国内でも特に怪しまれる様子はなく、アルファはまっすぐトリオン換金所に向かう。

 

《……人族領域であれば、人間というだけで、安易に入国できるのですね……》

《あぁ。もちろん入国に厳しい国もあるが、冒険者の店に登録してエンブレムを貰えれば、それがパスポートとなる。大抵の人族領域なら、冒険者というだけで入国は容易になる。そのせいでスパイ合戦はひどいもんだがな》

 

 換金所に到着。受付の人が挨拶してくる。

 

「いらっしゃいませ。トリオン1につき10ガメルに換金可能です」

 

 アルファは小宮果穂を呼び寄せると、受付の人から管のようなトリガーを受け取る。

 

「果穂。この管を腕に刺せ」

「……えっ!!? ち、注射って、ことですか……!?」

「トリオン体だから痛みはない。俺が刺すぞ。じっとしてろ」

 

 小宮果穂は怯えつつ目をギュッとつむり、アルファは慣れたように管を差し込む。すると受付のカウンターに置かれている不思議な装置になんらかのメーターがぐんぐんと溜まっていった。受付の人は目を見開いて動揺、すぐに大量の金貨を用意する。

 

「こ、これは……すごいですね……あ、失礼しました。えぇっと、500トリオンを受け取りましたので、5,000G(ガメル)に換金します。どうぞお受け取りを。そして他国の兵隊に目をつけられないよう、ご注意を」

「ありがとう。ケンネルは治安がいいからな。ここじゃなきゃ気軽に換金もできない」

「察するにあまりあります。またのご利用をお待ちしておりますね」

 

 換金所を後にする。アルファは冒険者の店〈水晶の鉄拳亭〉に赴き、チーム・モリノで登録申請を済ませる。冒険者とは、各地を巡って一攫千金を狙う憧れの職業と思われているが、それ以外の職業では生計を立てられない落ちぶれたゴロツキの終着駅という側面もある。しかし、経歴が不明で、どれだけ怪しい身分であろうと、冒険者として命懸けの冒険の末、成果を持ち帰ることができれば上々。それゆえ冒険者になることを咎める者は存在しない。社会の底辺も、モノは使いようというわけだ。

 

 次にアルファはライダーギルドという場所に赴き、水晶の鉄拳亭のエンブレムを信用の証として、登録申請を完了。牽引用馬型トリオン兵と荷馬車(キャリッジ)を二組レンタル。出費は1,100G(ガメル)となった。

 

 次にアルファは商人ギルドに赴き、冒険者の身でありながら商隊(キャラバン)を組んで商いがしたい旨を伝える。それから数時間の交渉が続く。商人が荷馬車の護衛のため冒険者を雇うならまだしも、無名の冒険者が商いをしたくて商人を雇うのは非常に珍しい。怪しまれたこともあり交渉は長引くが、アルファは話術でなんとかしたのか、交渉に成功。結果としては、商隊経営や商品売買に関する基本的な業務を適当に済ませてくれる一般的な中堅商人を雇い入れることに成功。ちなみに商人の雇用費と商品の仕入れに必要な資金、加えて業務拡大のための出資は、アルファの懐から出た。

 元々キャラバンを作り、ユーレリアでひと儲けすることを考えていたアルファは、あらかじめ軍資金を隠し持っていた。しかしケンネルに赴く途中で不運にも巨人族に囚われてしまった。

 

 そんな経緯を語るアルファは、今後の計画についても話しつつ、時間を潰す。雇った商人が仕入れを完了するまで待っているのだ。さっそくアルファは地図トリガーを起動し、諸国の移動時間を確認する。

 

「国と国の間は、どこも平均、徒歩で一週間弱の距離だ。しかし戦闘体で大幅に身体能力が上がっている場合なら、全力疾走で移動時間を大幅に短縮できる。例えばケンネル・ユレヒト間は徒歩4日半の距離だが、トリオン体やトリオン兵ならば1日半の距離となる。機動系トリガーを使えば一時間の距離にもなるだろう」

 

 太陽系ユーレリアに存在する著名な惑星国家の数は十二国ある。古の国ユレヒト、真珠の国エーファー、幻獣の国キノア、拓かれた国アルデン、取り戻された国ユルトレット、防壁の国リュッケン、温泉の国ワイラー、防人の国ケンネル、人魚の国ドレドロン、竜の国フォルトベルク、河畔の国オルブリュークと三つの属国、且つ、森の国ダノン。

 

「これらほとんどの国を巡る。ぐるっと一週するたび、二週間半の時間が掛かる。換言すれば約半月か。かつ、その国に最低一日滞在するとしたら、地方一週だけで三週間か四週間は掛かる。換言すれば約一ヶ月となる」

「……理想は、早期決着の十週……すなわち十ヶ月前後にて、統一を果たしたいところ……ですが、現実的な数字は三十週から五十週と言ったところ……長丁場となれば、百週もありえる計算でございます……」

「といっても地方をぐるっと十二週した時点で、おそらくケンネルは答えを迫られる。なぜならその時点で一年が過ぎている。それ以上ユレヒトとレンドリフトが静観しているとは考えにくい」

「ならば、そうなるまでの間に、なんとしてでも、ユレヒトを抑えてアルデンと結託、さらにケンネルだけでなく、ユルトレット・エーファー・ドレドロンを強化する必要がございます。欲を言えば、山間の巨大門の封鎖方法も、見つけたいところです……」

 

 ユーレリア地方の天下統一事業に関するプランは、アルファの持つ情報と合わせて、既にプロデューサーが組み上げている。あとは杜野隊が実行し、不測の事態に際した場合は臨機応変に対応して、任務(プラン)を完遂するのみ。

 

「……果穂さん。既に資料には目を通しているはずですが、そろそろ杜野隊のやるべきこと、なんとなくでも……見えてきたのでは?」

「はいっ! やっぱり商売ですっ! これからあたしたちは、お店も開けるトリオン兵の馬車を使って、いろんな国を旅します! それも素早く! そして……今はまだ仕入れていませんけど、ケンネルの特産品をたっくさん売ることで、いっぱいお金を稼ぎます! たくさん集めたお金は、ケンネル王に献上(ケンジョウ)しますっ! でも、タダではあげません! お金をあげるかわり、地球に攻撃しないことを約束させます! つまり、恩を売りますっ!」

「……よくできた。有り体に言えばそうなる。しかし金が有るだけでは意味がない。どこかで使わないとな。その使い道も、ケンネル王に進言する必要がある。そして進言通りに動いてくれなかったら、その時点で任務は失敗だ。そうならないためにも、ケンネル王に言うことを聞かせる必要がある」

「献上した軍資金の使い道、ケンネル王への進言を通す策……それらについて説明するのは、国際情勢の範囲となります……故に、それらについては、新しい国に着くたび……ご説明いたしましょう」

「そうしてくれるとうれしいですっ! いちどに言われても、覚えきれないので……!」

 

 その時、甜花が言った。

 

「あ……さっきの商人さん、戻ってきたよ……?」

「では……商隊の護衛任務を始めます。みなさま、位置に就いてください」

 

 幌馬車に扮する遠征艇。それを含む二つの荷馬車。計三つの馬車が列をなす。

 一台目は商隊屋。主に商隊の運営に関わる雑務をこなす。例えば交易強化による交渉人の招聘、護衛強化による用心棒の雇用など。

 二台目は幌馬車に扮する遠征艇。杜野隊の休息所であり、商隊よりも護衛優先度が高いものである。

 三台目は武具屋。主に武具系トリガーの商売をこなす。剣や斧、盾や鎧などのトリガーを仕入れて売買するのだ。

 

 国を巡り、商いを成功させることで、商隊に続く荷馬車の数は次第に増えていくだろう。長蛇の列となれば、杜野隊だけでは守りきれなくなるかもしれない。その時はボーダーからの増援部隊を待つか、現地で用心棒を雇い入れる必要が出てくる。

 

「まずはダノンで一区切り(1セッション)だ。オルブリューク辺りで機動系トリガーを獲得する予定だから、そっから先は一時間ごとに国を回る高速交易となる。ゆっくりしていられるのは今のうちだ。それまで冒険と商売の要領を掴んでおけ」

 

 そう言ってアルファは、ふとあることに気がついた。

 

「そういや、キャラバンの名前はどうする?」

「! あたし、ジャスティスキャラバンがいいですっ!」

「あ……甜花も、それがいい……!」

「では……そのように……」

 

 かくして杜野隊が率いるジャスティスキャラバンはケンネルを発ち、およそ一日半の道程で大冒険を繰り広げながら、ユレヒトに赴いた。

 

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