エーファー王国とオルブリューク連合王国を結ぶ交易路。そこは未開拓領域だった大平原。北はシュバイゼンの森が東西に果てしなく広がり、南は荒れた台地が高くそびえ、東西に断崖が続いている。
出国から三十分。交易路のちょうど中央のところで、遠征艇のオペレート機器がトリオン反応を感知。輸送用トリオン兵が連なるジャスティスキャラバンは現在高速移動中。緊急停止は貨物にダメージを与えるため緩やかに停止しなければならないが、その間に接敵を許せば被害は甚大必至。臨戦態勢に入った社野隊は、周囲から怒涛のごとく迫り来る敵性集団を相手に、全方位防衛戦を強いられる。
《凛世は進行方向を担当。アルファさんと果穂さんは両翼を。甜花さんは後方追撃部隊の影が見え次第牽制を》
《了解!》
映像から解析を終了したオペレート機器が敵性存在の情報を告げる。
《東より改造人間はボガド型が一体、グレムリ型が一体。南北よりゴブリ型が八体、騎乗用牛型動物兵器オクスが三頭。西より戦闘用トリオン兵ガストが三体》
杜野凛世のグラスホッパー旋空弧月。半弧を描く一閃がグレムリを両断するが、ボガドはシールドを生成して斬撃を防いだ。と同時、凛世は慣性が残る体で空中を飛びつつアイビスを生成、相対距離2mに到達した瞬間、敵の頭部に向けた銃口の周囲にグラスホッパーを大量分割生成、発砲。ボガドは物質化トリガーである剣で凛世を狙い振るうも、グラスホッパーに反射されて驚く。次の瞬間、その首から上が吹き飛んだ。残るグラスホッパーに上半身が接触した杜野凛世は反射後退しつつ半身ひねって着地。アイビスを捨てながら、三角飛びの要領で反対側に跳んで走る。ジャスティスキャラバンと向かい合ってすれ違い、北を担当していた小宮果穂とマメ丸が撃ち漏らした敵、オクスに跨るゴブリを旋空一閃で倒す。
一方の南では、アルファが敵集団を殲滅し、凛世が後退したのと同じタイミングで西へ跳び、甜花が足止めしていたガスト三体を孤月一本で斬り殺していた。
《に、西……! アルファさんが、片付けた……!》
《同じく南、状況終了》
《ありがとうございます、凛世さん!》
《────戦闘終了、でございます……戦利品を確認しましょう。商人さまたちは、十分ほど休憩してください……》
失速しつつあったキャラバンが完全停止する前に敵を片付けた社野隊は、蛮族の死体のトリガーホルダーから戦利品を漁る。
ボガド型《マギトーチ》(照明トリガー)
グレムリ型《ゴールデン耳栓》(聴覚耐性用トリガー)
ゴブリ型《転換の首飾り》(特殊トリガー)、《身守りのサンダル》(感知トリガー)、《迷わずのチョーク》(感知トリガー)、《赤の眼鏡》(催眠防止用トリガー)、《味覚のピアス》(味覚強化用トリガー)、《パイクロープ》(縄トリガー)、《サングラス》(遮光トリガー)、《スローワーベルト》(投射機トリガー)。
十分後。戦利品を回収し終えた社野商隊は再出発。まだ朝になったばかりの町“西の砦”ヴェストーラを抜けて、オルブリューク王国の王都“河畔の古都フルス”に到着した。
†
朝ぼらけの歩行者天国市場にて、ジャスティス商隊は地道にガメルを稼いでいく。その売上の20%を配当金として受け取った社野隊は、アルファに連れられて或る場所に向かう。
「オルブリュークは、ユレヒトに次ぐ大国だ。人口は1万2,000ほど。さっき西の砦ヴェストーラという小さな町を抜けてきたろ? ほかにも東のニア河沿いにある河川港湾都市ノルデンナーエ、南のデューディナルがある。王都一つに、集落三つ。ほか、連合王国の名の通り、オルブリュークは東のフォルトベルク、その更に北東にあるダノンを従えている」
「ユレヒトは全ての交易路を結ぶ中継地……なればこそ、ユーレリア全土の冨が一度は通り過ぎる場所ゆえ、地理的に経済が回りやすく、多くの人が集まりやすい。故に大国となった。では、オルブリュークはどのようにして、そこまでの規模を誇るように……?」
「ユレヒトは受動的な経済戦略に勝利した国と言うなら、オルブリュークはその正反対……能動的な経済戦略に勝利した国と言える。オルブリュークには“豪商”がいてな。一代で財を築いた商売の天才、“豪腕なる豪商”ロナルド・オヒートという人間がいる。彼は大規模なキャラバンを結成して、ユーレリア東部を中心に巡り、集めた富をオルブリュークの王に献上することで、ここまでの発展を遂げた」
「……あれ? それって……今のあたしたちが、していることと……同じ?」
「というより、俺たちがロナルド・オヒートの真似をしていると言える。彼は先達だ。そして商売敵を全て潰してきた怖い奴でもある。自分の猿真似をする連中は、護衛として雇った大勢の冒険者を差し向けて妨害することもある、強引な商人としても恐れられている」
「……! じ、じゃあ……甜花たちも……あ、危ないんじゃ……?」
「あぁ。俺たちがエーファーに到着した時点で、既にジャスティスキャラバンのことはロナルド・オヒートの耳に入っているだろう。すぐの闇討ちも有り得る。俺から離れるなよ」
「ワンッ!」
そして社野隊は、豪勢な屋敷と広大な荘園が望める、巨大な門扉の前で立ち止まる。門扉の前には黒服の警備員がふたり立っており、明らかに社野隊を睨みつけていた。
「着いた。ここがロナルド・オヒートの屋敷だ。オヒート商会の建物でもある」
「……! どこに行くのかと思えば、よもや乗り込むおつもりで……?」
「あぁ。まぁ見ていろ」
アルファは警備員に声を掛けるでもなく、用もなさげに振る舞い、ただ語る。
「ケンネルを起点にキャラバンを走らせ、ユーレリア全土を巡るアイデアは、プロデューサーとの旅路で学んだ、俺の完全オリジナルの閃きだったんだが……世界は広く、歴史は深い。自分のアイデアが本当にうまく行くのかどうか調べるため、ユーレリア全土を下見に回っていたら……この国に先駆者がいた。しかもそいつは厄介な商売敵で、同業者を潰すことにためらいがない。さてどうしたものか。一計を案じた」
アルファとロナルド・オヒートが考えた経営戦略の差異は、国と規模。
アルファは、ケンネル王国を起点に、ユーレリア全土を巡って力を付けようとしている。
対するロナルド・オヒートは、オルブリューク国を起点に、ユーレリア東部を巡って力をつけた。それはアルファの野望と比べて規模こそ小さいが、非常に現実的で堅実的だ。国家間の距離が集中している東部に目をつけたことで、移動時間を短縮し、短期間で莫大な富を築き上げた。
「情報収集の結果、ロナルド・オヒートには『経済でユーレリアを支配する』という野望があることが分かった。それは本人が表明していることだ。それを実現できる財産もある。現にオルブリューク国王エーラム・ファルケンハインを影から操っているとも言われている。────金は世の全て。金さえあれば国さえ牛耳ることができる。その認識は、おおむね間違っていない」
『……』
「しかし、その理屈が通用するのは表社会までだ。最後は……裏社会では、暴力こそ世の全て。財産があっても強盗に奪われてしまえばそれでご臨終。故にロナルド・オヒートは、大勢の冒険者を雇って私設軍隊を構築。既にユレヒト相手に戦争を吹っかけることも可能なレベルの兵力を集めてみせた」
『……!』
「貿易による暴と謀に長け、天賦の才による知と財も兼ね備えた隙のない男。現状の俺たちにとって、最も手強い相手と言っていい。だが、そんな奴にも────」《弱点がある》
黒服の警備員が手を耳に当てる。誰かと内部通話で話しているらしい。門前でたむろする少年少女は見るからに怪しいだろう。それゆえ通報されたのだろうか。すると屋敷の両扉が開かれて、16歳ほどの美少女が貞淑に駆けつけてくる。
「黒服さん。門を開けてくださらない? 彼は怪しい人じゃないわ。私の……そう、例えるなら、りんご飴のような人なの!」
《彼女の名はベルナデット・オヒート。ロナルドの愛娘だ。蝶よ花よと愛でられて育てられたベルナデットは人の悪意を知らない。そしてロナルドは、純粋無垢ゆえに可愛らしい娘を溺愛するあまり、彼女の言うことはなんでも聞いてしまう。つまり、そんな彼女と懇意になれば……あとは分かるな?》
「ごきげんよう、アルファさん! 何ヶ月ぶりかしら? あ、マカロン食べます? そばの人たちにも、どうぞ!」
「お久しぶりです。半年ほどユーレリアを離れていました。では、水色のマカロンをいただきましょうか」
ベルナデットは手持ちの籠からお菓子を振る舞う。常にスイーツを食べているのか、その肉体はふくよかだ。ちょっとぽっちゃり系とも言う。背も低めで撫で肩。そのためか丸っこい印象を与えやすく、ぬいぐるみのような愛嬌となって見る者を和ませる。それが彼女の魅力の一つでもある。
「ところで、ロナルドさんはお元気ですか?」
「えぇ! 父は毎日忙しそうに、お部屋で金貨の形をしたチョコを数えているの! 太ってしまうから夜に食べるのはよして、健康に悪いわ。そう言うとね、大きく笑って、『既に見ての通りの太っ腹だよ』と笑うのよ」
「ははは。太っ腹ですか。私に商隊屋をくださるのですから、確かに太っ腹な御人です。頭が上がりませんね」《それ数えてるのはチョコじゃなくガメルでは? とは絶対に突っ込むなよ。ベルナデットはなんとも思わないが、ロナルドの方を怒らせることになりかねん》
ならばと社野隊は、なるべく口を噤んでおき、この場はアルファに任せる。
そこでベルナデットは、ちらちらと杜野凛世や小宮果穂、大崎甜花を一瞥し、もじもじとアルファに問いかける。
「……あ、あの……後ろのお連れの方は、もしかしてアルファさんの……?」
「ただの仕事仲間です。ロナルドさんにお目通し叶いたくて連れてきました」
「あら、そうだったの! それでは、ゆっくりお話している時間もないのかしら……?」
「すみません。早くて昼、遅くても明日には発たねばなりませんので……」
「いえ、いいのよ。気を使ってくれてありがとう。……じゃあ、お父様をお呼びしなきゃ!」
淑女ベルナデットは、黒服に貞淑にお願いする。黒服は手を耳に当てて虚空を見ている。内部通話でロナルドと話しているのだろう。彼が来るまでの間、ベルナデットは恋の始まりを匂わせるような思い出を懐かしむように舞って語る。
「あぁ、そういえば最初にアルファさんと出会った時は、転びそうになった私の手を取ってくれたのよね?」
「そうですね」《本当はワイヤートリガーを使って、俺が転ばせたんだけどな》
杜野隊はギョッとする。なんというマッチポンプか。なんとも言えない顔でアルファの背中を見つめるほかない。
「助けてくれたお礼に、スイーツをプレゼントしたけど……わ、わたしったら大胆なことをしてしまったわ……だって、あれではまるで……デートみたい……きゃっ!」
「デート……実を言うと、私もデートのようだ、と。少しだけ思っていました」《ベルナデットは恋に恋する年頃の乙女だ。浮かれている今なら騙すことも容易い。彼女を通じてロナルドを懐柔し、さっさとこの国から離れるに限る》
ベルナデットとアルファの和気あいあいとした会話。しかし杜野隊は、合間合間に挟まれるアルファの残酷非道な内部通話に、苦笑いを隠すほかない。
《……なぜ、わざわざ、そのような手口を、凛世たちに対して明らかに……?》
《特に理由はない。……強いて言うなら、ほんの少しの罪悪感を人に話して晴らすためだ。プロデューサーから教えられた処世術だが、大人ってのは大変だな。今ならプロデューサーの苦労も分かる気がする。こうやってスポンサーを得て、なんとか食いつないできたんだとな》
《……今のアルファさん。完全にヒーロー番組に出てくる、メガネをかけた悪の幹部みたいです……っ!》
《おう。そう思っとけ。実際に俺は悪人さ。小さい頃は生きるためにたくさん殺してきた。それは今でも変わらない。これからもな》
《……で、でも……生きるためなら、しょうがない……これは、必要な、こと……!》
《お? 甜花は覚悟が決まってるようだな。まぁ考えは人それぞれだ。それと、俺はまだ信頼されてないだろうから、俺のやり口を見せておこう……そういう意図もある。あとの判断は、そっちが勝手にしろ》
屋敷の両扉から恰幅のいい壮年の男性が姿を見せる。ロナルド・オヒートだ。一瞬ベルナデットにバレないようアルファや杜野隊を睨みつけたロナルドは、大きな手でベルナデットの頭を優しくなでる。
「あ、お父様! 以前お話したアルファさんと、その仲間たちよ。どうかこの親切な人たちにお礼をしてあげて?」
「あぁ。もちろんだとも、ベルナ! 貴族の嗜みを身に付けた者は転んだりしない。しかしベルナは貴族の作法を完璧に身に付けている。だというのに転んでしまった。これは矛盾することだ」
「? お父様、私だって普通に転んだりしますわ?」
「そういう話ではない。貴族は転ばない。なのに転んだ。ならばそれはベルナが転んだのではない。誰かに
アルファは隠す気もなく、ロナルドを睨みつける。それは逆もまた然り。空中で見えない炯眼がぶつかり火花を散らす。
「……???? お父様。転ばない貴族なんて、本当にいるの? でも、お父様はウソをつかないから……きっとその話は本当なのね。それに私は貴族じゃないから、転んでしまうのは当然よ。まだまだ作法が足りないということなら……がんばって執事さんに、また貴族の歩き方を教えてもらうわ!」
「いやいや、ベルナは既によく頑張っているよ。今の話は気にしないでくれ。もう……だいたい分かった」
ロナルドは娘を後ろに追いやる。それはロナルドの表情が死角となる位置。娘に醜悪な悪辣商売人の素顔を見せないよう配慮した所作。対するアルファは、ベルナと向かい合う位置に立つため、睨んでいた顔を穏やかなものに変える。
「おはようございます、ロナルドさん。お礼の件はベルナデットを通して伝わっているでしょうが、改めて。我がキャラバンに商隊屋を一台、貸し付けていただきたい」
「……」《猿風情がわしの真似をしてなんとする?》
『っ!?』
突然の出来事に社野隊は目を見張る。内部通話をジャックされた。一方のベルナデットは、脳天気にも……父とアルファたちが終始無言でいることに疑問を抱かず、隙を見てパクパクと籠の中のマカロンを食べ始めている。
《ベルナの頼みだ。商隊屋は用意してやろう。既にそちらの商人に貸し付けが終わった頃だ》
《……それはどうも。ただし、その敵意は勘違い甚だしい》
《なに?》
《今日ここに来た理由は、商隊屋を頂戴することが目的ではない。真の目的は、あなたの誤解を解くことにある》
《…………。……いいだろう。話してみろ》
ロナルドの観察眼は、アルファたちが普通の商人ではないことをひと目で見抜いていた。身なりは冒険者に擬態しているが、立ち居振る舞いから軍人に近いと見る。ならばこそ、その正体と真意を知るべく、ロナルドは対話を受け入れた。
《俺の経済戦略が終わった暁には、このジャスティスキャラバンを、ロナルド・オヒートに譲渡しても構わない。疑うのであれば契約書でもなんても持って来い》
《……》
《俺はあんたの商売敵ではない、という証明のためだ。なぜなら俺は商人じゃない。ただの冒険者であり、ある意味では政治屋の紛い物だ》
《……どこぞの軍人か
《話が早くて助かる。──俺たちがユーレリアの危機を救ったあと、あんたの経済に支配されるのは癪だが……それで平和が守られるってんなら、是非もない。……分かったら、その敵意をどけろ。こっちは殺ろうと思えば、あんたの軍隊を潰したっていいんだぜ? お義父さん》
「──あぁっ!? だれがお義父さんだっ!!?」
「はっはっ! それでは今後とも御贔屓に! はい退散撤退撤収遁走ー!」
アルファは逃げるように走り出し、それを追いかける社野隊は来た道を駆け戻る。今しがた余裕綽々で煽ったものの、ロナルド・オヒートの気分次第では、本当に殺し合いになりかねない。さすがに街中で戦うことはないだろうが、国王と連携してテロリスト認定し、社会的に抹殺させるくらいの権力は持っている。単純な殺し合いなら勝てる自信は大いにあるが、社会的な立場に攻撃されては返す刀を持たない。ならばオルブリューク王国に長居は無用。さっさと出立するに限る。
大通りの露店市場に戻ると、ロナルド・オヒートの言う通り、ジャスティスキャラバンに四台目の輸送用トリオン兵が接続されていた。業種は依頼通り、商隊屋。さっそくアルファは500Gを出資する。輸送用トリオン兵に護衛用の防御トリガーを装備させるよう指示。それが済み次第、すぐにフォルトベルクへ発った。
†
暗黒領域を抜けて、惑星国家フォルトベルクの西端に着地。南は雪の巨神山脈が聳えており、大地一面が銀景色。不意に遠征艇からアラートが鳴る。社野隊は臨戦態勢に突入。北に荒れた台地、他の三方は雪原。
《周囲より、
異界民。その名は資料で知った驚くべき事実。玄界から見て近い世界の民、ゆえに
魔神は異形の姿を持つが、それは蛮族とは異なり、肉体改造の結果ではない。むしろ魔神は、肉体改造により発生する
《魔神に率いられた動物集団……! えげつない罠が予想される! 安易に近付くな!
小宮果穂はハウンドを生成、大量分割、全敵対象に誘導設定、一斉射出。弾丸の雨が周囲の雪を吹き飛ばして更地に変えると同時、動物集団に命中。刹那、トリオン弾を受けた動物集団は、内側から大爆発を起こした。
『っッ!!?』
炸裂弾にも等しい連鎖爆発。どうやら魔神は、調教した動物の体内に爆弾トリガーを仕込んで、社野商隊に突撃命令を出したようだ。命をなんとも思わない所業は、まさしく魔神の常套手段と言える。
次の瞬間、杜野凛世のアイビスが魔神の一体を撃ち殺す。残る二体目の魔神と、それに追随するトリオン兵ガストルクが、緩やかに停止しようとするキャラバンの一台目に鋭い爪を振るう。それをマメ丸とアルファの孤月が防いだ。孤月の柄を咥えるマメ丸は、続く爪の攻撃をシールドで防ぎ、アルファもシールドでガストルクの豪腕を防御。刹那、遠征艇から飛び出した大崎甜花の二挺拳銃が敵側面を捉え、イプとガストルクの頭部と胴体を穴だらけにした。
同時、ハウンドの雨と動物爆弾の爆風が収まる。周囲は弾丸の雨と連鎖爆発によって地形が掘り返されており、一面茶色い景色が広がる。戦闘体が解除された魔神は、どこへなりと
社野隊は、魔神が落としていったトリガーを調べることで、戦利品を回収する。
魔神イプ《スマートカービン》(銃型トリガー)、《魔矢》(弾トリガー)。
「魔神はベイルアウト機能を有する戦闘体を持つが、ネイバーとは異なりトリガーホルダーを持たない。が、トリガーチップは手にするだけで使いこなすことができる。そのためベイルアウトすると、このようにトリガーチップだけを落としていくというわけだ」
魔神の落し物を拾った社野商隊は、すぐさま再出発。向かうは城塞都市フォルトベルクだ。
†
昼過ぎの商店街。商人が売りさばく中、ジャスティスキャラバンの噂を聞きつけた企業が商談を求めてきた。その手の商談は商人に一任する。その間、店を空けるわけにはいかないため、杜野凛世が代理を努め、商品を手際よく売りさばく。マメ丸は相変わらず売り子として活躍し、可愛らしい犬を撫でた客を呼び込み、様々な商品を咥えて渡す芸で、色々と買ってもらう。
一方のアルファは500Gを出資。自ら動いて、フォルトベルクの商人ギルドから交渉人を招聘、雇用する。雇い入れた交渉人をジャスティスキャラバンまで案内する役は大崎甜花に任せ、アルファと小宮果穂は散策。議会を行う議事堂や公園など、フォルトベルクの美姫が居そうな場所を見て回るが、どうも今回は出会えなさそうだ。商談の結果が気になるアルファは早々に切り上げて商店街の方に戻りつつ、小宮果穂と共に社会勉強を始める。
「フォルトベルクは、厳密には国家とは言えない。王様がいないからだ。しかし政治を務める太守は存在する」
「その太守は、オルブリューク王国の王族から派遣されるんですね!」
「そうだ。で、肝心の軍備を、フォルトベルクは持たない。太守の近衛兵は存在するが、正規の軍隊は存在しない。しかし見ての通り、フォルトベルクは国民皆兵と言える」
「……たしかに、道路を歩く人のほとんどが武装しています! 冒険者のエンブレムみたいなものも、肩や腕に付けています! もしかして、この街って、スゴく冒険者が多い……?」
「正解だ。この国は冒険者によって成り立っている。産業も、冒険者が持ち帰った戦利品を他国に売却することで収益を上げている。つまり軍隊こそ持たないが……もしユレヒトがオルブリューク連合王国に戦争を吹っかけた場合、まず間違いなくオルブリューク王国は落とされるが、ここフォルトベルクで確実に進軍が止まるだろう」
「……! そんなにフォルトベルクは強い人が多いんですか……!?」
「あぁ。去年なんかは、ドラゴンの軍団を国民が一丸となって追い返したからな。故にフォルトベルクは“対邪竜迎撃都市”とも呼ばれている」
「……っ! 対、邪竜、迎撃、都市……!! なんだかスッゴくカッコいいですーっ!!」
そこで小宮果穂は、遅れて気付く。
「え? そういえば、いま……ドラゴンって……」
「あぁ。その反応を見るに、玄界でもドラゴンは伝説上の存在とされているのか? ならば言ってやろう。ドラゴンは実在するぞ」
「……!!」
小宮果穂は瞳を輝かせる。
「ドラゴン……! とっても大きなトカゲで、背中にツバサが生えていて……火を吹く! そのドラゴンで、まちがいないでしょーか!?」
「あぁ。間違いない」
「わぁ……! ひと目でもいいから、見てみたいですーっ!」
「あー……それは俺も同感だったが……生き残る術を確実に用意してから会いたいものだな。さもなきゃ瞬殺されるぞ」
アルファは少年兵時代、野生のドラゴンを相手に遭遇戦となった絶望的な
なぜならドラゴンとは、単騎でありながら一夜で小国を滅ぼすことができる、正真正銘の怪物なのだから。
会話が終わるとちょうど、アルファと小宮果穂はジャスティス商隊に帰還。
その時、商談をしていたはずの商隊屋の商人が、浮かない顔で帰ってきた。訳を聞けば、なんてことはない。商談相手はロナルド・オヒートの息がかかった間者であり、色々と黄金色の菓子を贈ってきた上で、こう言ってきた。
────今日のところはフォルトベルクでの商売を切り上げて、さっさと出国しろ。
「まぁ想定の範囲内だ。商人が商談に行って帰ってくるまでの間を時間稼ぎとして使わせてもらい、こうして凛世とマメ丸が品物を売り捌ききったから問題ない。……さて、次はダノンだ。そこもオルブリュークの属国だが、距離が遠いため早々に手は出せないだろう。オルブリュークとダノンの関係も悪いため、ロナルドの手の者がいたところでダノンの商人とぶつかり、楽に動けないはずだ。その間にこちらは速やかに目的を達成し、ダノンのとあるブランドを独占する。さぁ行くぞ!」
杜野商隊は早速出国。目指すは、現状の最終目的地、ダノン王国である。