シャイニートリガー -多重星界起動遍歴-   作:形のない者

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ラクシア① 多様な思惑

 

 ()()()()()()()、もしくは超巨大惑星国家カルゾラル。そこは広大無辺の高原が広がる人跡未踏の自然界。大破局と呼ばれる激しい戦いによって複数の領土に分割された高原は、何百何千何万もの藩王がクラウントリガー・マザートリガー・ブラックトリガーを保有し、自国の領土を統治している。

 そして自領の版図を広げるべく、隣の藩領に侵攻を仕掛けることで、長いあいだ終わることのない紛争が続くようになった。混沌極まる戦国時代である。

 しかし最近、カルゾラル高原の南端に変化が訪れた。惑星国家オルレアの大規模侵攻である。

 

 惑星国家オルレアを語るには、まず惑星国家カルデアの説明を挟む必要がある。だが惑星国家カルデを語るには、魔術王ソロモが複製に成功した《聖杯》と呼ばれるワールドトリガーと、クローン人間の作成に成功した《英霊》もしくは《サーヴァント》と呼ばれるクラウントリガーの説明を挟む必要がある。しかし、ここでは諸々の説明を割愛。

 とにもかくにも惑星国家オルレアは、七つに分割した聖杯のうち一つを手に入れ、惑星国家オルレアの大地自然を形作り、英霊(クローン)を駆使することで巨大な軍事国家と相成った。

 

 惑星国家オルレアの王女ラピュセルが差配する大規模侵攻により、カルゾラル高原南端の藩領を支配していた侯領ブリグガンデ(蛮族ドレクマキス型)は敗れ去る。南端領土は植民地化されて、藩王ラピュセルが統治。そして今、藩王ラピュセルは更なる領土を獲得しようと、太陽系ユーレリアの中で最も距離が近い惑星国家ダノンに向けて、精鋭部隊を差し向けた。

 

 精鋭部隊の隊長はゼムルプス。人間の青年。戦闘体強化トリガー《魔術礼装(マスターコード)》を着込み、複製戦闘体(クローン人間)召喚(生成)するミニ(分割)クラウントリガー《英霊片聖(セイントグラフ)》を保有する。彼が持つ複製戦闘体(クローン人間)の個体数は三騎。特に氷獣の皇女(ヤガスタシア)を愛用しており、恋仲の関係と噂される。残り二騎は、貞節を月に願う狩獣アタローンツと、天空と冥界の化身にして外なる闇を映す鏡を抱く黒き女王ニティクレティ。

 隊員は、“黒霧甲冑”狂剣騎ランスロー、“翠薇(すいび)の脚”弓兵アタローンツ、“トリオン演奏家”工作兵エリック。

 

 さらに藩王ラピュセルは軍略に秀でており、間諜(スパイ)による搦手も得手とする。惑星国家ダノンの北部における未開拓領域──シュバイゼンの森とルデア山脈に挟まれた荒野──には、既に主力部隊を派遣しており、ダノンとリュッケンを分断する蛮族領として砦を建設済み。

 その主力部隊の隊長は、“吸血姫”の異名を冠する蛮族(改造人間)のジェイバジリス型エルジェーベト。

 隊員は、蛮族リャナンアサシ型バートリ。

 

 リャナンアサシ型は、対象の血を吸うことで対象の外見や能力をコピーするトリガーを内蔵している。そんなバートリは、既にダノンのとある重要人物に変身して暗躍していた。

 その重要人物とは“バルゼ湖の潜水調査人”セラシアナ・フェーレシルスと呼ばれるエルの女性。バルゼ湖の湖底には“何かがある”として調査を続けていたセラシアナは、調査に必要な資金を提供してくれるバートリを親友(パトロン)とし、湖底と湖に棲む動物バルゼサペンの調査を進めるうち、衝撃の事実を発見する。

 

 なんと、惑星国家ダノンの南部に存在するバルゼ湖は、惑星国家ダノンの東部に存在するピグロウ山の地下と繋がっていた。その上、ピグロウ山の火口には邪竜が封印されているという伝説が存在し、その邪竜の姿がバルゼサペンと似ている事まで判明。

 さっそく調査に乗り出したいと訴えるバートリだが、セラシアナは邪竜復活の可能性を危惧してこれ以上の調査を中止し、ダノン王国を悩ませるバルゼサペンの鎮圧・保護の計画を打ち立てる。────それに怒ったバートリは国を去って姿を消した翌日、なぜかセラシアナは突然方針を変えて、邪竜の調査に乗り出した。

 

 調査の結果、セラシアナはピグロウ山の火口から地下洞窟に潜り、“邪竜”の名を冠する幻獣イビルバゼルドラゴ型セルパーンと邂逅。さっそくセラシアナは『ダノン侵攻に協力し、その目的が果たされたら封印を解いてやる』と、セルパーンに交渉を持ちかける。その突拍子もない裏切り発言に困惑する調査部隊は、即座にセラシアナが偽物と見破るが、瞬く間にセルパーンの軍勢──自律用トリオン兵フォルミ族──に蹂躙されて全滅。帰らぬ人々となる。

 

 かくして藩王ラピュセルと邪竜セルパーンは、一時的な同盟条約を締結するに至った。

 

          †

 

 太陽系シエナクェラス。主に八つの惑星国家が連なる地方領域。七つの神剣(ブラックトリガー)を巡って対立した歴史が根深く、その戦いは表立って行われなくなっただけで、現代でも水面下で続いているが……現在は蛮族を共通の敵として一致団結の様相を見せている。

 しかし惑星国家セプテの大規模侵攻を受けて、太陽系シエナクェラスは壊滅の憂き目に遭った。

 

 惑星国家セプテとは、惑星国家オルレアと同じく惑星国家カルデを前身とする《聖杯》と《英霊》持ちの軍事国家。

 薔薇の皇帝ネーロの豪快な指揮の下、瞬く間に制圧されたシエナクェラスは植民地化されてしばらく。今度のネーロは、西側の太陽系ユーレリアに侵攻を仕掛けるべく、暗黒領域を安全に移動できるダノン・シエナクェラス間の交易路を使い、ブラックトリガー持ちの精鋭部隊を派遣した。

 

 精鋭部隊の隊長は、アクタ。英霊(クローン人間)の保有トリガー数は三騎。戦略兵器コーウ、指揮者ランリ、工作兵ジョフクを持つ。ちなみにアクタとコーウは相思相愛の夫婦だとか。

 隊員は、戦勝女王ポアディシア、剣闘士スーパル、暗殺者ケーカ、最凶傭兵ヒショー。このうち二名は、シエナクェラスに七本ある神剣(ブラックトリガー)のうち二本を持つ、恐るべき戦士として噂されている。

 

          †

 

 惑星国家ユレヒト。現国王ラグレッドは表向き、聡明な賢王として讃えられる。内政の手腕は卓越しており、外交のための語学も堪能。さらには幼少期から戦闘もお手の物で、真語(ソーサラー)トリガー、操霊(コンジャラー)トリガーをまんべんなく駆使することができる。天は二物を与えずとは言うが、ラグレッドに関しては天賦の才があり、万能の天才とすら称される。

 そして英雄色を好むといううように、ラグレッドは自身を“女好き”と公言しているが、不思議と女性に関するスキャンダルが流出することはない。しかしそれも当然といえば当然である。なぜならば────

 

 ラグレッドは“異界民”を従えており、自らと関係を持つ女性を()()()()()()()()。というのも、魔神のトリガー技術を参考にして開発された召異(デーモンルーラー)トリガーの中には、人間の体に“肉の芽”のような魔神の種(デモンズシード)を埋め込み洗脳し、心身を魔神化(変貌)させ、魂すら支配下に置く、恐るべきトリオン技術が確立されている。

 

 現在のラグレッドに、いったい何人の()()()()()()()()()()、すなわち()()が手元にあるのかどうかは不明。しかし少なくとも11人もしくは12人の魔女がおり、ラグレッドはユーレリアの全国に魔女隊を派遣し、スパイ活動をさせている。

 中でも惑星国家ダノンに派遣された魔女隊の隊長は、魔女ホムリリィ・ステラフト。彼女は、ユレヒト王属光矢兵団の将軍たるエリアィン・ステラフトの妹である。

 隊員は、魔神ゴーガ型ゼロニモ、魔神ボストー型アーリマン、魔神テルニト型メッフィー。

 

 さらにラグレッドは、いかなる情報網で、惑星国家ダノンにおいて数時間後に勃発する“大規模乱戦”を聞きつけたのか。この戦いに横槍を入れて漁夫の利を狙い、ダノン王国の玉座を簒奪(さんだつ)すべく、さらなる精鋭部隊を派遣した。

 その精鋭部隊は、異界民(魔神)や惑星国家カルデとは切っても切れない関係にあるという、とても謎めいた惑星国家ルデアスの亡命者から構成されている。

 隊長はマケダ。砂漠の民にして謎かけの女王。破壊神(スリーエニグマズ)の名を冠する、凄腕の武闘派トリオン兵使い。

 隊員は、狂気の工作兵クリュゴッホ。“英霊(クローン)(にん)斬り”の異名を冠する大剣豪オエイ。

 

          †

 

 太陽系ユーレリアに根を張る邪竜教団。正式名称をドラゴンオーダー。邪竜ハーヴリーズの復活と神格(クラウントリガー)化を最終目標とする教団は、今や一枚岩とは言えない。前年フォルトベルクとの戦いに敗れ去った教団は著しく組織力を低下させ、表立っての武力行使は不可能のレベルまで追い込まれた。そこで教団のNo.2(ナンバーツー)たるルエンという改造人間ナイトメ型の男は、水面下での戦いを画策。

 太陽系ユーレリアにおける全ての惑星国家の中枢に潜り込み、内側から政治を意のままに操ろうと陰謀を張り巡らせる。最終的には太陽系ユーレリアの天下統一を目論み、全ての国が力を合わせることで、最終目標の達成に必要な魔剣デウスファケーレの再建を見据えている。

 

 その一方で、教団のNo.1(ナンバーワン)たるジーア・ドラゴントゥースという人間の少女がいた。彼女はルエンと異なり、水面下で天下統一を狙うのではなく、武闘派として低迷した組織を取りまとめ、武力で天下統一を成そうとしていた。しかしジーアは、何もルエンのやり方に反対しているわけではない。知恵は武力なくして発揮せず、武力もまた知恵なくして真価を見せない。幼いながらも哲学者のような達観ぶりを見せるジーアは、つまるところ表と裏、双方からの天下統一を目論んでおり、自身が表を担当して、ルエンに裏を一任していた。この発想にルエンは完敗し、ジーアに絶対の忠誠を誓う。……しかし一枚岩ではないと言った通り、どこかでルエンは、小賢しく力のあるジーアを出し抜くつもりだとも噂されている。というのもルエンは、ジーアのとある力を危惧していると言われている。

 

 それが美姫の力。ジーアは本来なら有り得ないゼロ番目(番外)の美姫として選ばれており、どこかで別の美姫がグランドマザートリガー《女神の血脈(クス・グレイセス)》を起動すれば、それに便乗する形で、特定国家の軽度洗脳を可能とするサイドエフェクトを有していた。

 そしてルエンは、いかなる方法か──未だ再建途中の魔剣デウスファケーレを応用しているとも噂されるが──その軽度洗脳を一定期間に一度だけ再起動させる方法を手に入れ、特定国家の中枢や民衆を内側から扇動する手法を確立した。

 

 かくして各国の中枢に根を張る邪竜教団は、その圧倒的な情報網から“ダノンの窮地”を聞きつける。このままでは、太陽系カルゾラルから惑星国家オルレアは藩王ラピュセルの精鋭部隊、邪竜セルパーンの軍勢、太陽系シエナクェラスから惑星国家セプテの精鋭部隊、惑星国家ユレヒトから恐るべき魔法王の残党たる魔神部隊や精鋭部隊が集まり、惑星国家ダノンの滅亡を確信する。

 急遽、武闘派のジーア・ドラゴントゥースは出陣。幻獣レサドラゴ型を駆り、太陽系ユーレリアの暗黒領域を飛んで、惑星国家ダノンに向かっていた。

 

          †

 

 一方。太陽系ユーレリアとは、いくつかの太陽系を跨いだ遠い場所にある領域。太陽系フェイダン。そこには子供が寝物語に聞かせられる古代からの伝承があった。

 

 古代フェイダンに不死王の陰謀あり。不死王は無辜の民に穢れ(ブラックトリオン)を与えて“生ける屍(アンデッド)”と化す実験を繰り返す。この無慈悲極まりない所業に(いか)ったとされる白騎士が、かの邪智暴虐な不死王を魂に懸けて成敗せんと誓いを立てる。()くて見事、邪悪なる不死王は(たお)された。しかし不死王、最期の力を振り絞り、膨大な瘴気を解き放たん。其は大地を穢し、死の世界へと変える自爆機構(トリガー)。白騎士、これを一手に引き受け、自らが生ける屍と化す事と引き換えに、全ての魂と母なる大地(マザートリガー)を救わん。

 世界に訪れた平和。その代償は大きく、穢れ切った白騎士は純黒の悪夢として恐れられる黒騎士へと成り果て、己が死に場所を求めて世界中の戦場に現れては、殺戮と蹂躙の限りを尽くすようになったと云う。果たして、かの聖者を土に還す英雄が、どこぞの戦場に現れん事を強く願わん。

 

 ────『髑髏の騎士の伝説』より抜粋。

 

          †

 

 乱星国家ムーンセル。グランドマザートリガー《セラフ》によって、広大無辺の拡張を見せる月世界(虚構太陽系)

 聖杯に類似するクラウントリガー《レガリア》を駆使し、英霊(クローン)と殆ど同質のトリガー《英霊》を保有する軍事国家ロマネン京。かの国は、戦場あるところに忽然と現れ、全ての戦士を蹂躙し、ハイエナのように戦利品を貪るとされる。

 それ以外の詳細は不明。なぜなら乱星国家ムーンセルが現れた戦場に立つ者は、全てが屍として積み上げられてしまい、かの国の事を語り継ぐ者が居なくなるからである。

 

 しかし()()、未来視のサイドエフェクトを持つとある隊員によって、わずかながら詳細が判明した。

 

 数々の戦場で屍山血河を築いたとされる最悪の戦士、“狼兵”クーホリン1号は、ボーダーのメイントリガーに当たるアクティブ(任意起動)トリガーと、サブトリガーに当たるインストール(自動起動)トリガーを駆使し、文字通り一騎当千の働きを見せる予定だった。

 四面楚歌の中、ダノンを襲う軍勢を壊滅に追い込み、杜野凛世を刺し殺し、小宮果穂を穿ち殺し、マメ丸を叩き殺し、大崎甜花を突き殺し、アルファを()り殺した。

 そしてクーホリン1号は死んだ。ブラックトリガー化した他国の戦士によって殺されたのだ。すると天空よりクーホリン2号が降って立つ。

 

 英霊とは、人間を改造してトリオン兵にしたものだ。つまり、やろうと思えば英霊の軍勢を差し向ける事ができる。事実、乱星国家ムーンセルでは、大量の英霊が動員された“機動聖都戦争”が、最近まで続いていたらしい。

 

 その話をクーホリン2号から聞く青年は「おいおいそいつは反則だろ」と汗を流しながらゴーグルを掛けて、たった二人の戦争を始めた。そして命からがら勝利して、クーホリン3号が降って立つ瀬戸際で遠征艇を発進させ、ボーダー本部に帰還。

 

 それが最悪の未来。

 

 大勢の人が泣いていた。遠征は秘匿事項だが、さすがに杜野隊が全滅すれば、人死にの件を隠しきれなくなる。記者会見で根付栄蔵の仕込みがあっても、三門市において遠征反対の声が大きくなる。それでは将来的にボーダーは強くなれない。いずれ、こちら側の世界は壊滅の憂き目に遭う。城戸正宗の目的も達成できない。みんなを守れなくなる。

 

 だからこそ、実力派エリートは助っ人に向かうのだ。かわいい後輩たちを手助けするために。

 

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