シャイニートリガー -多重星界起動遍歴-   作:形のない者

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浅倉透① あって思った

 

 それは九年くらい前のこと。浅倉透に物心がついた4歳くらいの出来事だった。

 

(どうやら私は、異世界の何かに誘拐されたらしい)

 

 見知らぬ世界。大勢の大人。映画で見るような軍服を身にまとい、なんか色々と話してる。

 

「トリオン能力が高い逸材だ」

「まだ四歳か。このくらいの頃からきっちり鍛えれば、いい軍人になれそうだ」

「でも女だぞ?」

「関係あるか。トリオンの才能があればそれでいい。バカでもノロマでもトリオン体に換装すれば超人だ。ほかのトリオンが低い子供達は使い捨ての駒として自爆兵にでも育てとけ」

 

 突然、部屋が赤く点滅する。救急車やパトカーみたいに、うーうーと警報が鳴る。

 

「侵入者だ!」 

玄界(ミデン)が取り戻しに来たのか!?」

「既に何人も殺されてる! 伸びる刀に気をつけろ!」

「子供を人質に取れ! 挟み込んで袋叩きにするぞ!」

 

 映画の悪役が言いそうなことをまくしたてた大人たちは、次の瞬間、三角に切り抜かれた壁を蹴り飛ばして現れた青年に切り伏せられる。そして少女の目に手で蓋をした。きっと首がぽーんと飛んだところを見せないようにしてくれたのだろう。

 

「大丈夫だ。すぐ家に連れ帰ってやるからな。────天井社長! 記憶封印措置をお願いします!」

「性急すぎるぞ、■■■■。今はづきから連絡があった。ほかの営倉に囚われている子供達を救出したとのことだ。こちらもさっさと離脱するぞ。タイムリミットは三十分もない。急がなければ二度とミデンには帰れない」

「わかっています。ではこの子をよろしくお願いします。俺が殿を務めますから」

「■■■■……無茶するなよ」

「はい! いってきます!」

 

 少女は、社長と呼ばれた人に抱っこされる。頭の後ろを強く抑えられて、胸元に押し付けられる。映画で見るような凄惨な現場を、見せないようにしてくれているのかもしれない。

 

 そして────少女・浅倉透の意識は、ぷつんと途切れた。

 

          †

 

 浅倉透は、いつもの公園で目を覚ます。ベンチに仰向けで眠っていた。木漏れ日が目に当たり、眩しさを感じる。

 

「あれ? ……夢?」

 

 最初は、映画の見すぎかー、と思った。しかし、となりのベンチに座る青年を見つけて────同じ顔だ、と思った。あそこで座っている人は、たしか自分を助けてくれた人だ、と。

 

「おはよう。そろそろ君のご両親が迎えに来る頃だ」

「…………」

「何があったか、覚えているかい?」

 

 浅倉透は、首を横に振る。だんだん夢の内容が、モヤモヤとして、思い出せなくなっていく。

 目の前の人も、なんて名前なのか、だんだん忘れてしまっていく。

 

「えっと、できれば驚きすぎないで、落ち着いて聞いてほしいんだけど。君、実は行方不明になっていたんだ。それで大人の人たちやおまわりさんが頑張って探して、ようやく見つけた。だから、もうすぐ君のご両親が迎えに来るはずだ」

「……そうなんだ。お兄さんは、けいさつかん?」

「うーん。どちらかというと、軍人、かな?」

「ぐんじん……おー……」

「怖くないか?」

 

 浅倉透は首を横に振る。軍人は怖くない。国を守るために戦う人だ。ありがとうと言いたい。

 

「……」

 

 その後、待てど暮らせど両親は来ぬ。浅倉透は暇過ぎてジャングルジムに登り始める。それは両親を高いところから探すためだったか、単に気付いたら衝動的に登っていただけだったか。まぁどっちでもいい。

 

「はは。そんなに身を乗り出して、落っこちるなよ」

 

 そして────見つけた。

 

「────透ちゃん!!!!」

「透ぅっ!!」

「あ」

 

 全力疾走で公園の入口から浅倉透のところまで駆けつける両親。ジャングルジムを登る透を抱きおろし、力強く抱きしめて、無事でいたことに涙する。

 

「くるしい……」

「もう、心配かけて……!」

「あの! 見つけてくれて本当にありがとうございます!! なんとお礼を言えば良いか……あの、お名前は? 通っている学校などは……ぜひお礼を……」

「あぁいえ、たまたま歩いていたら見つけたので、名乗るほどの者では……ただ、変なことを言うかもしれませんが、そのうち分かると思います。では、俺はこの辺で。────じゃ、ばいばい」

 

 青年は手を振る。浅倉透も手を振り返す。両親は何度も何度も頭を下げて感謝していた。

 

          †

 

 それから長そうで短そうな年月が流れて、つい先日、三門市がネイバー大規模侵攻とやらに遭った。

 浅倉透は、二つのランドセルが置いてある自室のテレビで、幼馴染三人とともにニュースを見る。

 

「わー。本当にいたんだ、宇宙人」

「宇宙人かどうかはまだ分からないでしょ。ただ……()()()()って言うらしいけど」

「こ、怖いね……! わたしたち、ほんとに無事で良かった……」

「あはー! でも引っ越すことにならなくてよかったー! ボーダーっていうのが設立するから、きっと守ってくれるよー。だから雛菜たちは、いつも通りの生活を続けてもいいんだってさー!」

「へー」

「でも、あそこのたこ焼き屋。隣県に引っ越すみたい」

「え、そうなの!?」

「えー。あそこのたこ焼き屋さん、美味しかったのにー。意気地なし~」

「そう?」

「まぁ逃げるのが普通でしょ。留まろうとするのがむしろおかしい」

「だ、だよね……」

「透先輩は、引っ越さない~?」

「あー。たぶん。樋口は?」

「ノープロブレム」

「わ、わたしも、たぶん大丈夫かな!?」

「雛菜もー! これでみんな一緒だね~!」

 

 幼馴染の名前は、樋口円香、福丸小糸、市川雛菜。そこで樋口円香が問いかける。

 

「……そういえば、浅倉。小さい頃、行方不明になったよね」

「え、そうだったっけ!?」

「えー。雛菜、初耳~!」

「……あー。そういえば?」

「ネイバーって、人間を攫うみたい。もしかしたら浅倉、一回さらわれたことがあるとか?」

「ぴぇ!?」

「……じゃあなんで透先輩は無事なの~?」

「うーん。運?」

「……それギャグかどうかわかりづらいんだけど……」

「で、でも、円香ちゃんの言う通りかも……記者会見で、ボーダーって『この時のためにずっと準備していた』って言ってたから……もしかしたら……」

「ボーダーの人たちが、透先輩を助けてくれたってことー? でもそれは可能性の話だよねー?」

「……うーん」

「で、どうなの? 別に覚えてないなら、それでいいけど」

 

 浅倉透は答える。

 

「────ぜんぜん覚えてない」

「あっそ」

「む、昔のことだもんね……!」

「じゃあまた攫われないように、雛菜が透先輩を守る~!」

「いやー。三人を守るのは、私でしょ」

「は? ボーダーの人みたいに切った張ったできるの?」

「わ、わたし、映像で見たよ……地上からビルの屋上まで、板のようなものを踏んで、ぴょんぴょん跳んでた……!」

「怪物を一撃で倒してたよね~。あれすごかった~」

 

 その時、番組の内容が切り替わる。噂をすれば影がさす。ボーダーの記者会見の再放送が流れていた。

 

「初めまして。よろしくお願いします。私は天井支部のプロデューサーです。本名は────と申します。はい……いえ、ボーダーのプロデュースは根付さんの仕事なので、どちらかといえば私は防衛隊員の育成を含むプロデュースを担当しています。────はい。その質問に関しては────」

 

 浅倉透は、自然と見入る。どこかで見た覚えがある。おぼろげな、夢のようなふんわり感のある、なんかの記憶。

 そして漠然と魅入る。誘拐。怪物。ボーダー。軍人。……プロデューサー。

 

「……あ、」

 

 と思った浅倉透は、気付けば立ち上がっていた。

 

「?」

「と、透ちゃん?」

「どうしたの~?」

 

 無言で部屋を出る。

 

「あらあら、どうしたの?」

「いいから早く来てー」

 

 浅倉透は、母親を連れてきた。

 

「よかった。まだやってた。ねぇ、この人、どっかで見たことない?」

「えー?」

 

 母親はまじまじとテレビを見つめる。が、すぐ別のニュースに映ってしまった。

 

「あ、終わった。どう? わからない?」

「……写真、スマホで一応、撮ったけど」

「おー。ナイス樋口ー。やるじゃん。なんも言ってないのに」

 

 しかし樋口円香のファインプレーは不要のようだった。母親は、小刻みに震えて瞠目する。

 

「────あ、あの時の人だわ……居なくなった透ちゃんを、助けてくれた人に……似てる……!」

『────!!!』

「おー。じゃあビンゴだ。なんか色々と思い出してきた。記憶封印措置、だっけ? なるほどー。そういうことかー」

「なに? 浅倉、説明して」

「ど、どういうこと、透ちゃん!?」

「雛菜にも聞かせてー!」

 

 浅倉透は、スマホをいじる。

 

「……よし。じゃあ、話そうか。覚えてるとこだけ」

 

          †

 

 後日。浅倉透と幼馴染三人は、三門市の公民館で開かれるボーダーの一般公募を受けていた。基礎学力試験と基礎体力試験を終えて、あとは面接が残っているが、それまで少し時間がある。基礎体力試験の後、係りの人からタオルをもらって汗を拭う浅倉透は、試験会場の端っこで幼馴染たちと落ち合う。

 

「いやー。頭も体も疲れた。樋口は?」

「それなりに」

「わ、わたし、基礎体力試験が、ちょっと……」

「雛菜は全部自信ある~!」

 

 福丸小糸は青ざめている。どうやら体力試験は、かなりの低成績だったようだ。

 それを目にした浅倉透は、するりと答える。

 

「小糸ちゃん」

「ぴぇ!? な、なに……?」

「バカでもノロマでも、トリオンがあれば超人だから」

「……え?」

 

「それ、誰の言葉?」円香が聞く。

「え? あー……誰だっけ? 軍人?」

「いつ聞いたの?」

「んー。さあ? 私は学力試験、全然わかんなかったからたぶんダメだけど、まぁなんとかなるっしょ。あとはトリオン次第だって」

「……つか、そもそもトリオンって何?」

 

 トリオンの概念や存在は一般に知らされていない。

 しかし浅倉透がそう言うならば、きっとそうなのだろう。樋口円香・福丸小糸・市川雛菜は、いざ面接に臨む。

 

          †

 

 面接室。浅倉透は折り目正しく座る。

 

「合格ですね」

「おー。ホワイ?」

「浅倉透さん。君には防衛隊員に適した才能がある」

「……トリオンか」

「! ……どこで、それを?」

「……プロデューサー?」

「……! 君、もしかして天井支部の子かな?」

「甘い渋?」

「あれ、違うのかい? 即戦力を集めることが多いから、てっきり……」

「……プロデューサーって人は、その甘い渋ってところに、いるんですか?」

「……──えっと、ほんとに知り合いなのかい?」

「……イエス」

「なら、『そうだよ』とだけ言っておこうか」

 

          †

 

 試験会場の外。近くの公園で集合した浅倉透と幼馴染の三人は、それぞれの結果を発表する。

 

「合格した。いえー」

「私も合格」

「…………」

「雛菜も合格~! 小糸ちゃんは~?」

 

 三人の視線が集まる。

 

「……不合、格……」

「あー。小糸ちゃん、トリオン少なかったかー」

「……なんで浅倉にそれが分かるわけ? つか、だからトリオンって何?」

「そうか~残念~。でも小糸ちゃんなら、次は筋肉ムキムキになって合格するよ~雛菜が保証する~!」

「む、ムキムキ……」

「ムキムキ小糸ちゃんか~」

「あんま適当なこと言わないで。……それで、浅倉。あんた、どうするの?」

 

 樋口円香が問いかける。四人で一人だけ落ちた。それによる浅倉透の行動は?

 

「え? どうするって? 断るよ」

「……!」

「────」

「えー? せっかく合格したのにー?」

「うん。それじゃあ帰ろー」

「……まって浅倉。あんた、あんなに必死そうに────」

 

 次の瞬間、ランドセルを背負う小糸が叫んだ。

 

「透ちゃん!!」

「ん?」

「も、もしかして……こ、断るって……わ、わたしの、ために、言ったとかじゃ、ないよね……!?」

「え? うん」

「ほ、ほんとだよね……う、うそじゃ、ないよね……?」

「うん。ほんと。マジのマジ」

「で、でも、透ちゃん……ま、円香ちゃんが、言うように……す、すごく、ボーダー、う、受かりたかった、みたい、なのに……」

「あー。それ」

「だ、だから! わ、わたしのことは、気にしないで……と、透ちゃんは、自分の夢を────っ!!」

「まちがえた。場所」

『…………?』

 

 三人は目を点にする。そして樋口円香は、うんざりと言いたげな顔で、まさかと問いかけた。

 

「……間違えた?」

「うん。ほんとは天井支部ってとこで、試験を受けなきゃいけないみたい。だから合格、断った」

『……!!?』

「ふわぁ……今日は頭も体も使って疲れたぁ……ねむ。家に帰って寝て、また今度、天井支部にいこー」

 

 浅倉透は大きなあくびをしつつ伸びをして、家路に着く。

 

「…………。ハァ……つまり、今日は無駄な時間を過ごしたってわけ。なにこれ。くだらない。私も帰って寝よ」

「え、ま、まって! 透ちゃん!? 円香ちゃん!」

「あは~! さすが透先輩だ~! じゃあ雛菜も、その天井支部ってとこに行くー! 透先輩と同じ場所で働きたーい! 合格通知は破り捨てて~公園のゴミ箱にぽ~い!」

 

          †

 

 後日。浅倉透は、一人で天井支部に訪問した。

 

「すみませーん。誰かいますかー。プロデューサーという人に会いたいんですけどー」

 

 ガチャリと鍵の音。扉が開かれる。応接に出たのは割烹着姿の大和撫子。

 

「はい……プロデューサーさまの、お知り合いでしょうか……?」

「あー……いえ。違います」

「では……どのようなご用件で……?」

「受けに来ました。試験」

「? 試験は、本部が開く市内の会場にて……」

「えっと、そうじゃなくて。天井支部に入りたいんです。相談できますか?」

「……承知しました。少々お待ちを。どうぞ上がってください……お茶を、ご用意しましょう……」

「おー。ありがとうございます」

 

 社野凛世は電話をかける。ちょうど営業から戻ってきたプロデューサーは、浅倉透と対面。十年前のことなので覚えていないのか、初対面のように接してくる。それに浅倉透は何も言わず、ただ天井支部で防衛隊員になりたい旨を相談した。

 

「それじゃあ、わざわざここを選んでくれた理由は?」

「あー……なんか、人が多くないから?」

「人が多いところは苦手?」

「そうでもない」

 

 プロデューサーは「え?」と首をひねる。だが入隊希望者はいつでも大歓迎だ。

 

「君はトリオン能力が高い。きっとすぐ活躍できるよ」

「じゃ、これからよろしくお願いします」

「はは。気が早いな。書類にはもうサインしたけど、まずご両親の許可を取らないとね」

「あー……まぁ、たぶん大丈夫」

「そうか」

 

 その時、豪快に扉を開けて芹沢あさひが入ってきた。

 

「おはようっすー! あれ!? 知らない人だ! もしかして新人っすか!? よろしくっす!」

「おー。元気いいね。よろしく」

「あ、入隊書類! サインしてある! やっぱり新人だ! ねぇねぇ、もうトリガーに興味あるっすか? まだ本部規格外っすけど、特別に東さんから試作版のイーグレットを借りてきたっすよ! わたしが見てあげるっすから、好きなトリガー選んでちょっと遊ぼうっす!」

 

「お、おいおい、あさひ……! いきなりそんな……まず失礼だぞ!」

「あーお構いなく。もしプロデューサーがいいなら、私も興味ある感じです」

「そ、そうか? ただ、あさひに案内を任せるのは心配だな……凛世、すまないが……」

 

「はい……凛世に、お任せを……」

「あ、凛世ちゃん! おはようっす! 今日こそは全戦全勝を決めるっすよー! 真剣勝負っす! 今日は狙撃銃のトリガーがあるっすから、これでわたしが勝ち越せるかもっす!」

「ふふ……楽しみです……。では、浅倉さん……地下室に仮想戦闘モードがありますので……案内させていただきます……」

 

「透でいいよ。よろしくお願いします。凛世先輩」

「ふふ……凛世も、凛世、とお呼びいただければ……」

「早くするっすよー二人ともー! そういえば霧子ちゃんは本部の開発室っすか? 霧子ちゃんともバトりたいなー!」

 

 かくして浅倉透は天井支部に入隊した。

 





【浅倉透】〔四年前〕
 トリオン6 攻撃4 防御・援護1 機動3 技術1 射程3 現場指揮1 特殊戦術1 合計20
 機器操作‐ 情報分析‐ 並列処理‐ 戦術‐ 俯瞰指揮‐ 合計‐ / 経験1 伸びしろ7 人気5
《トリガーセット》
 主武装〔弧月:20〕
 副武装〔ハウンド:20〕
 総トリガー装備コスト40 トリオン残量560
《補足情報》
「やば。ハウンド、めっちゃ楽。撃ってたら大体、削り勝てる。じゃ、この調子でBランク昇進、いっちゃいますか」
 所属:天井支部 地位:C級隊員
 ポジション:‐ 年齢:13歳 身長:153cm
 星座:ねこ座 誕生日:5月4日 血液型:B型 職業:中学生
 好きなもの:映画やドラマを見ること、プロデューサー、トリオン
 家族構成:両親など
《備考》
 将来有望の集中感覚型。
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