約4年半前。第一次
トリオン兵の絨毯爆撃によって崩れ落ちた大崎宅。突として現れたボーダーによって事態が収束したあと、救助活動に当たる中……瓦礫の中から救助された大崎甜花は、血まみれの姿で発見された。
†
数日後。大崎甜花は目を覚ます。白い天井。清潔な空気。白いカーテンが翻って風が吹く。動きの鈍い首を倒すと、大崎甘奈が寝台の上で眠っていた。人工呼吸器を口にかぶせて、定期的に心電図がピ、ピ、と音を鳴らす。
『────…………なー、ちゃん……』
くぐもった声。大崎甜花は妹の名を呼ぶことで、自分も同じ人工呼吸器を付けていた事を知る。
なぜこんなことになっているのか。頭の中がモヤモヤとする中、大崎甜花は少しずつ思い出していく。
甜花はゲームで遊んでいた。すると突然の爆発音。最初は雷かと思った。でも外から悲鳴が聞こえてくる。ふと両親と
目を覚ますと、甜花の全身は凍えており、とても暗い場所にいた。寒さと雨の中で体温と体力が奪われていく中、泣きながら家族の名前を呼んだ。応答したのは
────なーちゃん……腕、見つけたよ……いま、行くね……!
力なく倒れている腕。それが甘奈のものだと信じて疑わない甜花は、ギュッと手を握る。しかし甘奈は、手に何も感じないという。どういうことだろうと思って、よく手を見ると────そこには、結婚指輪がしてあった。母親のものだろうか。父親のものだろうか。覚えていない。でも指のシワは母親のものだった気がする。そして甜花が握る腕は、自分の体より冷め切っており、もう────
甜花は嗚咽する。甘奈は心配する。このことは後で話そう。それより今は甘奈を探さなければ。暗い暗い狭い場所で、なんとか通れそうな隙間を見つけて進む。小さな子供だから出来たことだ。大人ならまず通れない。しかし涙目になっていたことで前がよく見えていなかった。鋭い突起に頭をぶつけてしまい、額から何かが滴り続ける。不思議と痛みは感じない。
そうして進んだ先で、今度は右脚を見つけた。父親のズボンだ。すり切れて、布が破けて、肌が裂けて、激しい雨によって血が流し尽くされて、細かく折れている白い骨が見える。
甜花は吐いた。グラフィックが優れている戦争ゲームで見る死体より、それは凄惨な異形だった。目から下が濡れて口から下が嘔吐で汚い。それでも、家族の中で唯一の拠り所となってしまった甘奈を探すべく、甜花は進み続ける。
────がんばる。がんばらなきゃ。なーちゃんはきっと怖がってる、寂しがってる。だから甜花が、そばにいないと……!
行き止まりに突き当たる。けれど声を掛け合うと、一枚の壁を隔てた先に甘奈がいることがわかった。これからきっと誰かが助けてくれる。それまでがんばって耐えるしかない。そう言って、お互いの生存を確認するため声を掛け合い、長い長い時間が流れた。やがて甘奈から返事が来なくなった。きっと疲れて眠っただけだと祈り、祈って────
「……祈り、通じた……ね?」
「よい、しょっと……」
人工呼吸器を外した甜花は重たい体を起き上がらせる。背筋を伸ばすと痛みが走った。なんとか手が届くところにリモコンを発見。テレビを点ける。どの番組もニュースで持ちきりだ。一つだけアニメを放送している番組があったが、ほか全てのチャンネルは同じ記者会見を中継している。甜花はアニメを見たかったが、さすがに何が起きたのか知る必要があるため、仕方なくニュースを見た。
『
そんなワードが飛び交う記者会見で、大崎甜花は人生の転換期とも言える発言を聞く。
とある記者が質問した。市民と家族、どちらを守るのか。嵐山という青年が答える。『もちろん家族です』。その上で次のようなことを笑顔で言い切った。
『家族が無事なら
(……………………)
最初、甜花は『最期まで』という言葉の意味が分からなかった。しかし市民と家族どちらを守るか、という答えには同感できた。その後の、家族が無事と分かれば安心できる、という答えにもうなずいた。
(……守らなきゃ……)
大崎甜花は無力である。勉強もスポーツも人より劣る。勇気がないため友達もいない。家に引きこもってゲームしていれば満足。そんな凡人以下の人間。そう甜花は自覚する。故に、この決断は絶対に失敗すると思った。それでもやらなければいけないことは、
いつもは家族に言われて、
「──……ん……あれ? ここ、どこ……? 甜花ちゃん……?」
「! なーちゃん!」
甘奈が起きた。甜花はこれから、両親の末路を語らなければならない。その後、泣く甘奈を抱き締めて、それからどうやって暮らすか考える必要がある。おうちは崩れてもうなくなった。ホームレス生活をするのかな? などと考える甜花は、国が住処を保証してくれることに考えつかないまま、なんとしてでも甘奈を守るという決意を秘めていた。
「うぅ……あたま、いたい~……ねぇ、甜花ちゃん……ママとパパは……?」
「……あのね、なーちゃん。その前に、甜花────ボーダーに、入ろうと、思う……」
そうすれば甘奈を守れる。今はなんの保証もないが、これから調べる。
すべては『なーちゃんを守る力を手に入れるため』に────
†
某月某日。市民会館の面接室にて。大崎甜花は、ボーダーの一般公募を受けていた。
「残念ながら不合格です」
「…………えっ……」
開口一番、不合格を通達された。
「えぇと……大崎甜花さんは『防衛隊員』になりたくて、今回の一般公募を受けてくれたんですよね?」
「……はい……」
「しかし学力テストと体力テスト、どれも最下位……と言っても、それはいいんです。大事なのは防衛隊員になるための
「……才能……でも、甜花……防衛隊員に、なりたい……」
「いえ、ですから、それになるための才能がないから、ダメということで……」
「…………」
「…………どうしてもボーダーに入りたいというなら、オペレーターやエンジニアという道もあります」
「……オペレーター、エンジニア……?」
「はい。オペレーターは防衛隊員の支援を担当する業務で、エンジニアは防衛隊員の武器などを開発する研究職です」
「………………でも、甜花……防衛隊員に、なりたい……」
「………………ですから、その……」
「……………………甜花、守る力が、欲しいから……防衛、隊員……オペレーターやエンジニアじゃ、なーちゃん、守れない……」
「いえ、そんなことはないですよ? (なーちゃん?) オペレーターやエンジニアだって、立派な隊員で、街の人を守るために日夜努力を……」
「でも……ネイバーに襲われたら、戦えるのは防衛隊員の人、だけ……」
「…………それは、そうなのですが……」
「だから甜花、防衛隊員に、なり
「……!」
面接官は、謎の気迫を感じる。頭に包帯を巻くため髪を切った少女は、前髪が短くなったことで表情がよく見える。そして正面から真顔で相対すれば、かなりの美貌の持ち主だとわかる。美人は凄むと怖いと言うように、面接官はその整った顔立ちによる迫力に気圧されていた。
「……しかし、ですね。これはあなたのためを思って言っていることでもあるんです」
「……? 甜花の、ため……?」
「はい。才能がなければ、後で必ず苦労します。ですから、ご自身に合った道を選ぶのが……」
「……甜花の道は、最後の家族を守ることだけ……そのためには最後まで戦う……それ以外の道は、ない……」
「────…………」
大崎甜花は全てのテストの成績で最下位だったため、面接の列に並ぶ順番も最後尾だった。そのため面接官は『次の面接がありますので』という切り札を使えず、その後も小一時間ほど話し込む。だがそろそろ閉館時間が迫ってきた。
「……申し訳ございません。そろそろお時間ですので……」
「え……」
「大崎甜花さんの熱意は充分伝わりました。ですが結果は結果ですので、残念ですが……」
「……それは……だめ……」
「いえ、ダメと言われましても……」
「だって甜花、まだ合格もらってない……」
「……────」
「はっ、そうだ……! 面接官さんは、甜花に『ごうかく~』って言うだけで、いい……! そうすれば甜花は、おうちに帰れる……面接官さんのせいで、甜花、もうずっと座っているから、腰が痛い……」
「え、僕のせいですか……?」
甜花は、こくりとうなずく。
「だから、面接官さん……!」
「は、はい……?」
「甜花を、防衛隊員にしてくだひゃい……! あ……してください……」
「…………」
「…………面接官さんは、最初、『それが甜花のため』って言ったけど……それは全然、甜花のためじゃ、ない……」
「……」
「甜花は、いつも逃げてばかりだから、きっと『やめよう』って思ったら、すぐやめる……でも、甜花が『やりたい』って思ったのに、それを『だめ』って言われて終わるのは……甜花、かなしい……」
甜花はしゅんとする。言っていることはめちゃくちゃだが、その後も甜花のペースに巻き込まれ続ける面接官は、どうやら“断れない人間”のようで、さらに小一時間ほど相談を重ねた。そして────
「…………わかりました。僕の根負けです」
「……こんまけ?」
「どうぞ、やりたいようになさってください。防衛隊員からオペレーターやエンジニアに転向することも可能です。もし無理だとご自身で判断されたのなら、そちらに行くといいでしょう。今はボーダーも立ち上げたばかりで人員不足です。たとえ能力不足でも、今は人手が欲しい────という理屈で……
「…………────! あ、ありがとうございましゅ……! ……ますっ!!」
かくして大崎甜花は、その図太さと凄みで、意地でも合格をもぎ取り、ボーダー本部に訓練生として入隊した。
しかし面接官の言う通り、甜花は訓練もランク戦も
【大崎甜花】〔四年前〕
トリオン1 攻撃1 防御・援護1 機動1 技術1 射程1 現場指揮1 特殊戦術1 合計8
機器操作‐ 情報分析‐ 並列処理‐ 戦術‐ 俯瞰指揮‐ 合計‐ / 経験0 伸びしろ4 人気1
《トリガーセット》
主武装〔アステロイド〕
副武装〔‐〕
《補足情報》
「甜花……防衛隊員、無理……」
所属:本部 地位:C級隊員
ポジション:‐ 年齢:13歳 身長:149cm
星座:かぎ座 誕生日:12月25日 血液型:A型 職業:中学生
好きなもの:お昼寝、ネットサーフィン、アニメ、ゲーム、なーちゃん
嫌いなもの:個人ランク戦、訓練全般
家族構成:双子の妹
《備考》
凡才射的型。