シャイニートリガー -多重星界起動遍歴-   作:形のない者

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ボーダー訓練編


杜野凛世② ボーダー優等生

 

 1月9日はボーダー隊員の正式入隊日。場所は本部の入隊式場であるが、見た目は学校の体育館にも似た広間。総勢百名以上の新入隊員がざらりと整列。その面前に本部長の忍田真史が登壇。さらに記念すべき第一回であるためか、本部の最高司令官たる城戸正宗が顔を出す。傷のある顔、堂々たる立ち居振る舞い、新入隊員をギロリと一瞥するだけで、多くの隊員は緊張する。

 

「ボーダー本部長の忍田真史だ。君たちの入隊を歓迎する。君たちは仮入隊の立場から、本日付けでC級隊員……つまり訓練生として正式に入隊する。三門市の、そして人類の未来は、君たちの双肩に掛かっている。日々研鑽し、正隊員を目指してほしい。君たちと共に戦える日を待っている。……そして、この先の説明に入る前に、ボーダー本部の最高司令官から一言あるそうだ」

 

「……いま本部長の紹介にあずかった、ボーダー最高司令官の城戸正宗だ。まずは入隊おめでとう。我々の世界をネイバーから守るべく、よく集まってくれた。さて、私から言うべきことは三つ。

 ──ネイバーを許すな。

 ──いついかなる時もネイバーの襲撃に備えよ。

 ──ボーダーのルールを守れない人間は、私の組織には必要ない。

 以上だ。諸君の弛まぬ研鑽に期待する」

 

 ネイバー。突如として人類の前に現れた未知なるもの。

 界境防衛機関(ボーダー)とは、人類をネイバーの脅威から守るべく戦う軍事組織のこと。

 

 まだ記憶に新しい半年前の第一次近民界(ネイバー)大規模侵攻では、多くの人命が失われた。その被害者の遺族として、防衛や報復を胸にボーダーへ志願した人間も多い。ほかにも直接の被害には遭ってないが、正義感や道徳心など、それぞれの思いを胸にボーダーの門を叩いた人間も数多くいる。

 

 城戸正宗は壇上から降りて退室。忍田真史は入隊指導(オリエンテーション)を執り行い、百名以上の新入隊員を一人で指導する。これにはさすがの新入隊員も、一見して人材不足が目に付く。新入隊員には学生が多いが、右も左も分からぬ年齢ではない。一般公募では多くの事務員が雇われており、エンジニアをはじめとして多くの人間が所属しているはず。それでもトリガー関連の知識を持つ人材が不足しているようで、現状は忍田真史が一人で担当している。

 

 是非もない。社会について少し考えれば分かることだ。創設して間もない組織。人材不足は当然の問題。だからこそ、その手の問題を自ら解決すべく、こうしてボーダーに命を懸けて入隊したのだ。

 

 忍田真史が率いる新入隊員は訓練室に移動。そこには一人の男性が待機していた。杜野凛世と幽谷霧子は、その顔を見て緊張が和らぐ。

 

「一般公募やスカウト等で採用された隊員は、仮入隊の時点で訓練生用のトリガーが支給されたはずだ。適性審査で攻撃手に選ばれた者は、私から見て右に整列。射手はその隣に整列してくれ。オペレーターも同様だ」

 

 攻撃手の列には迅悠一、小南桐絵、木崎レイジ、太刀川慶、風間蒼也、杜野凛世、沢村響子などが並ぶ。

 射手の列には、嵐山准、柿崎国治、三輪秀次、幽谷霧子などが並ぶ。

 オペレーターの列には林藤ゆり、月見蓮などが並ぶ。

 

「では、オペレーターは訓練室の操作室に行くように。そこまではプロデューサーが案内してくれる。オペレーターのなんたるかを、こちらのプロデューサーから学んでくれ」

「本部育成顧問のプロデューサーと言います。オペレーターの(かた)は、私についてください」

 

 プロデューサーはオペレーターを率いて訓練室の操作室へ向かう。それから忍田真史による戦闘隊員へのトリガー指導と、プロデューサーによるオペレーターへの機器操作指導が入る。ある程度のトリガー練習は、仮入隊の時点で既に積み上げている者が多く、三十分と掛からず基礎知識と基礎運用の教導は終了。ならば早速、次の段階に入る。

 

 忍田真史は、トリガーポイントの解説に入る。初期ポイントの持ち点は1000点。その数字を4000点まで上げることがB級昇格の条件。ただし仮入隊の際に高い素質を認められた者は、即戦力として期待されているため、ポイントが上乗せされてスタートする。

 

 解説はほどほどに。次の訓練は、対ネイバー戦闘訓練。仮想戦闘モードの部屋の中で、ボーダーのデータから再現されたトリオン兵と時間いっぱいまで戦闘する。倒されてもトリオンが無限にある空間(モード)なので、倒すまでの早さを競うことになる。そして新入隊員百名以上のうち、五割が倒せず失格、四割が時間以内に倒し、一割が瞬殺した。

 

 次の訓練に移る。

 

「点呼を取る。呼ばれた者から整列してくれ」

 

 迅悠一。小南桐絵。木崎レイジ。太刀川慶。冬島慎次。風間蒼也。東晴秋。杜野凛世。

 その八名はトリオン兵を瞬殺、または三十秒以内に倒した戦闘隊員。

 

「以上をグループAとする」

 

 嵐山准。柿崎国治。三輪秀次。沢村響子。幽谷霧子。

 それはトリオン兵を一分以内で倒した戦闘隊員。

 

「以上をグループBとする」

 

 そしてグループZまで分けられたあと、忍田真史はソロランク戦について解説。それは隊員同士の模擬戦。切磋琢磨して強さを競い合い、ボーダーの戦力底上げを図る訓練だ。

 

「グループAはソロランク戦の準備を。レギュレーションは乱戦……バトルロワイヤルだ」

 

 C級個人(ソロ)ランク戦。広間の掲示板の下には複数の個室が横並びで設けられており、中に入って機器を操作すると模擬戦闘エリアへ転送される。基本的なトリガーの使い方を覚え、トリオン兵との仮想戦闘も経験した。あとは自分がどのくらい強いのかを知るため、力量差が近い者で競争させる。

 

 トリガーオン。生身をトリオン戦闘体に換装。機器がトリオンの供給を受けて戦闘隊員を転送。市街地を模した仮想空間に送り込まれる。視界右下に映るマップと近距離レーダー。いくつかの光点は、近い場所に転送された敵の戦闘隊員。

 

 手持ちトリガーは、攻撃手ならば孤月、射手ならば三種類の弾丸トリガーを持つ。

 

 突然の金属音のような撃音。どこかで一対一の剣戟が始まった。杜野凛世の前方十数メートル、屋根の上に飛び退いた迅悠一と、それを追撃する小南桐絵が、爽快さのある笑顔で斬り合っている。

 

「おっとっと! ちょいちょい小南、玉狛は新人と戦う役割でしょうが!」

「そういうのは(あんた)を倒したあとにやるって決めてんの!」

 

 ふと太刀川慶が跳躍。小南桐絵と斬り合う迅悠一の背後に躍り出る。完全な不意打ち────のはずが、迅悠一は後ろに目でもついているのかあっさりと躱す。

 

「あり? マジか。お前なにもん?」

「えぇっと……太刀川さんだっけ? 俺は実力派エリートの迅悠一。以後よろしく!」

 

 杜野凛世のレーダーに反応が映る。背後から風間蒼也が接近。振り返って剣戟を交わす。孤月と孤月が打ち合う音が鳴り響く。その音で、ある程度の位置を突き止めたのか、一軒家を越えた先の道路を走っていた東晴秋が空に向かって追尾弾(ハウンド)を射出。

 一方、木崎レイジと冬島慎次の戦闘が他所で発生。冬島慎次は通常弾(アステロイド)追尾弾(ハウンド)両攻撃(フルアタック)を敢行するが、木崎レイジは大跳躍。全ての弾丸を鍛え抜かれた脚力の筋肉で置き去りにして、冬島慎次の頭部から足元までを孤月一閃。トリオン供給器官が破損した冬島慎次はベイルアウト。

 一方、東晴秋の追尾弾(ハウンド)が山なりの軌道を描いて杜野凛世と風間蒼也を襲う。二人は後退(バックステップ)で回避。追尾弾は地面近くで追尾性能をマックスにするが、曲がりきれず地面に着弾。しかし二人の回避行動を先読みしたかのごとく東晴秋の両攻撃変化弾(フルアタック・バイパー)が襲来。二人は孤月で弾丸を弾き、撤退して回避。防戦一方の風間蒼也は路地を曲がるが、変化弾もまた塀にぶつかることなく路地を曲がってくる。素直な逃げ方は予測されている。杜野凛世は跳躍して塀の上に登り、再び跳躍して屋根の上に飛び乗る。路地を走る東晴秋を目視。そのまま地面に向かって飛び込むように跳躍。東晴秋は撤退しつつ通常弾を生成。このまま撃てば、杜野凛世の接近を許す前に蜂の巣にできる。立方体を27分割する────が、射出する直前に胴体を貫かれた。杜野凛世が孤月を投擲して、東春秋のトリオン供給器官を破壊したのだ。

 

「……! なるほど、その手があったか……」

 

 東晴秋のベイルアウト。変化弾を躱して路地を回り込んできた風間蒼也が、地面に着地した杜野凛世を目視。孤月は杜野凛世から見て十メートル先、風間蒼也から見て五メートル先に突き刺さっている。互いに疾走開始。杜野凛世は孤月に手を伸ばす。風間蒼也は一気に踏み込む。既に風間蒼也は敵の武器を抜き去って、無手の杜野凛世に対し孤月一閃。激発、風間蒼也の孤月が何かに滑走し、杜野凛世の左腕を肘から切断したが────次の瞬間、風間蒼也の首が切断されていた。杜野凛世の右腕には、なぜか孤月が握られている。風間蒼也は驚きも束の間、振り返る。後方にて地に突き刺さっていた敵の孤月が消失している。あそこからどうやって手元に引き寄せたのか。杜野凛世が説明する。

 

「一日の長が、ございました。トリガーの再生成……ひとつのトリガーから生成できる武器・弾丸は一つのみ……新たに孤月を生成すれば、先ほど生成した孤月は消える。その仕様を思い出し、油断を誘って首を獲らせていただきました……」

「……道理だ。勉強になる」

 

 風間蒼也、ベイルアウト。杜野凛世の左肘からは少量ずつトリオンが漏れ出している。

 

「やっぱ強いね~、凛世ちゃん。体幹バッチリ! 芸事でもやってた? フィジカルがあるし、機転も利く。さすがはプロデューサーさんの一番弟子だ。トリガーの知識も使い方も、既に玉狛の隊員と遜色ない」

 

 二軒先の屋根の上に立つ迅悠一。既に小南桐絵と太刀川慶、木崎レイジを倒してきたようだ。傷という傷は、戦った三人から付けられた切り傷が三つのみ。倒された三人も、遠目で見るだけで手練の匂いがしたというのに……それを瞬く間に瞬殺とは、遊びがない。どうやら迅悠一という人物は、凄まじい強者のようだ。

 

「君はもっと強くなるよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

「……!」

 

 サイドエフェクト。それはプロデューサーから教えられた知識の中にある言葉。簡単に言えばトリオンの副作用。トリオンを多く持つ人間は、トリオンの影響を受けることで、何らかの副作用が生じる。副作用とは、五感の強化、特異体質、現代科学では考えられないような超技能や超能力の発現。そして副作用にはメリット・デメリットがある。さらに迅悠一がそのような物言いをするということは、彼もまた副作用を持つ人間ということ。

 

「じゃ、やろうか。おてなみ拝見!」

 

 迅悠一の跳躍。両手持ちの孤月で切り込む。片手の杜野凛世は後退しつつ剣戟。隙を見て刺突と斬撃を重ねるも、全てが見切られているようにいとも容易く躱される。そして容赦なく、杜野凛世の胴体中心、トリオン供給器官が貫かれた。ベイルアウト。

 

          †

 

 1月10日。日曜の赤口。正午。天井支部の寮で宿題を終えた杜野凛世は、ちょうどスマホのチェインからプロデューサーに呼び出されて一階のリビングに降り、会議室に赴く。

 

「プロデューサー様……ご用件を……お伺いに……」

「凛世。少し話しておくことがあって。もうお昼だからお腹が空いているだろうけど、すぐ終わるからお願いできるか?」

「はい……もちろんでございます」

 

 何やら会議があるようなので、杜野凛世は席に着く。プロデューサーはトリガーセットに一枚のチップを取り付けて換装。アタッシュケースのようなトリガーを生成。ケースを開けばパソコンのようなものが内蔵されており、開けば画面とキーボードに分かれる。

 

「これは……先日見た《スイッチボックス》とは、少々赴きが異なるような……」

「あぁ。これは《ニュースボックス》というトリガーだ。俺の国……じゃない。俺が本部で開発したトリガーなんだけど、機能としてはオペレーターが使う精密機器と全く同じものと思ってくれ」

「なんと……」

「普通、オペレーターは本部の作戦室で業務に携わる。現場に出る戦闘隊員を安全圏からサポートする大切な役職だ。しかし天井支部は、ネイバーフッドへの遠征を見越している。つまり安全圏のない現場でも戦闘隊員をサポートできる人材の育成を目指している」

 

 杜野凛世は合点がいく。天井支部に仮入隊した時、プロデューサーから戦闘隊員としての、トリガーの基本運用はもとより、オペレーターとしての業務も教わっていた。しかし昨日の入隊式では、オリエンテーションで戦闘隊員とオペレーターが全く別の業務として扱われていた。その時から疑問に感じていたことが、ここで一気に氷解する。

 

「……その顔だと、自分に求められていることが理解できたみたいだな? 戦闘隊員とオペレーター。本部ではこれを両立する隊員はまずいない。こんなことをするのは天井支部だけだ。それでもやってみてほしい。本部の隊員より二倍以上の労力が必要になるが、天井支部の方針は“積極的なネイバーフッドへの遠征”だ。そのためには戦えるオペレーターが必要なんだ」

 

 杜野凛世は考察する。なぜ天井支部は、戦えるオペレーターを作りたいのか。それは今しがた説明された通りだが、額面通り受け取るわけにもいかない。自らの頭で考え、その真意を探るべきだ。

 通常、本部のチーム構成は、戦闘隊員が四名まで、オペレーターは一名が必須。合計、最低二名から五名までの構成となる。これは天井支部も同様だ。

 しかし、ひとたび遠征とやらに繰り出せば、うまく想像できないが……戦闘隊員とオペレーターのチームは、敵地のど真ん中で活動することになる。要はオペレーターも戦場に出てしまうと考えれば、ある程度はその危険が想像できる。

 

「……プロデューサー様」

「どうした?」

「五人の隊員。その全てが戦闘可能で、オペレーティングも可能。……仮に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……この考えで合っているでしょうか?」

「おおむね間違いではない。その認識で合ってる。あと、もう分かっているとは思うが、この話は霧子にもするつもりだ。というより、天井支部に入隊する隊員は、全員これをやらせる」

「……承知しました。この凛世、一層の気概をもって、研鑽を積んできます」

「ありがとう。もう帰っていいぞ」

 

 杜野凛世は起立、礼。プロデューサーからニュースボックスのトリガーチップを渡される。

 

 戦闘隊員とオペレーターの両立。これは大変なことを任された。無論、やる気は満ち溢れている。

 そして、人の心配をしている場合ではないが、ふと幽谷霧子の事を思う。彼女は既に、戦闘隊員とエンジニアを両立している。その上オペレーターまでやるとなれば、その作業量を思うに多忙を極めることは間違いない。

 

 しかし人は人。他の遅れを気にするより、まずは己が精進する。そして、もし自らが高みに上がれば──エンジニアについては分からぬ身だが──同じ戦闘隊員かつオペレーターの者なら、その仲間に自らの技術を提供することは可能だろう。何事も助け合いである。

 

 その計画が捕らぬ狸の皮算用とならぬよう、杜野凛世は近場の牛丼屋に入り、速やかに食事を済ませて寮に戻る。初めての牛丼屋は緊張したが、とても気に入った。精のつく肉料理のあとは、軽い運動と筋トレ。そして座学。さっそくニュースボックスを開いてオペレーターの業務を学ぶ。夕方になれば迅悠一や太刀川慶、風間蒼也や嵐山准などがC級ソロランク戦に集うため、そこで互いに剣の技量を高め合う。夜になれば林藤ゆりや月見蓮といったオペレーターに挨拶し、オペレーティングのいろはについて相談。戦闘隊員なのだからオペレーターについて学ぶ必要はないのでは? という質問をよく受けるが、そこは体よく言葉を濁し、戦闘隊員とオペレーターの連携を密に取るためと伝える。

 

 門限には寮に帰宅。深夜十時ごろ、二人の学友からチェインが来る。どれも心配と応援の文章。気遣いと激励を有り難くいただき、大切に返信。明日は月曜。学友とは二日ぶりにクラスで会う。良き友人の応援を胸に、杜野凛世はニュースボックスをおもむろに開いては触り、深夜零時になる前には寝床に就いた。

 

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