とある支部のリビングでの会話。
「凛世ちゃん凛世ちゃん! 聞いてほしいことがあるっす!」
「はい……あさひさん。どうしたのでございましょう……?」
「迅さんがスコーピオンっていう新しいトリガーを作ったんすよ! で、さっきそれをもらってきたっす! 地下室で一戦どうっすか!?」
「それは……面白そうです。ぜひ……御手合わせを……」
「やったー!」
†
5月。第二回入隊式。
天井支部に芹沢あさひ、浅倉透、福丸小糸。
本部に大崎甜花、大崎甘奈、樋口円香、市川雛菜、那須玲。
ほか三十数名の訓練生が正規入隊を果たす。
ここにいる四十数名の訓練生は、ほとんどが2月から4月ごろに一般公募で受かるか、スカウトされ、今日まで牙を研いできた者たちだ。本部採用の訓練生は、適性審査によって一本だけトリガーが支給される。しかし天井支部採用の訓練生は、プロデューサー直々の指導があれば、全てのトリガーを試用できる。その点、トリガーの知識や技術に関しては、本部より天井支部の訓練生の方が、一日の長があるだろう。
攻撃手&射手と狙撃手のポジションに分かれて
芹沢あさひはスコーピオンのトリガーを装備しており、C級
「よし勝った! 次、わたしと戦ってくれる人はいないっすかー! …………あれ? なんで誰も戦ってくれないんすか?」
訓練生はポイントが尽きると“戦闘隊員の資格なし”として仮免に戻される。入隊指導が始まって小一時間と経たずに、芹沢あさひの圧倒的な強さは“化け物”として認知されていた。困った芹沢あさひは、目に付いた知らない少女に声をかける。
「……あの! まだわたしと戦ってないっすよね?」
「……そうだっけ。私、少し疲れてるから後にしてくれない?」
「あとっすか? うーん……わかったっす! 待ってるっすから、疲れが取れたらいつでも来てほしいっす! すぐにB級に上がって、もっと強い人たちと戦いたいっすから!」
「…………」
樋口円香は体よく追っ払う。せっかく稼いだ2000点を、ここで一気に減らされたくない。それにしても“もっと強い人と戦いたい”ということは、つまり今ここにいる訓練生は全員“
一方、今回は忍田本部長に代わって入隊指導を任されていた嵐山准と柿崎国治は、互いに眉をひそめて顔を見合わせる。確かにポイントを失うのは惜しいが、これでは弱い方が育たず、強い方が居るべき場所に上がれない。
「どうする? 嵐山」
「……仕方ない。腕試しといこう」
「え……いや待て。B級が訓練生と戦うってことか? それは問題になるんじゃ……」
「怒られたらその時さ。それにわざと負けてポイントを配るなんてマネはしない。そりゃハンデは付けるが、勝つ気で行く。というのも、ちょっと戦ってみたいってのが本音なんだけどな!」
「嵐山……まったく、お前ってやつは。なら俺も行くよ」
「いや、柿崎はほかの訓練生を見ていてくれ。指導者が全員席を外すのはよくない」
「あ、そりゃそうだな。……じゃあ、これだけ。残り百ポイントくらいは隊員育成プログラムの方で稼いでもらおう。腕っ節だけ強くても問題だからな」
「たしかに。ただまぁプロデューサーさんのことなら、そのへんも抜かりないと思うけど」
嵐山准は芹沢あさひに声をかける。互いに使用トリガーは一個。その上で十本勝負を提案。芹沢あさひは快く引き受ける。主力隊員と訓練生が戦うということで観衆が集まる。二人はバトルエリアに転送。市街地の屋上に出る。相対距離十メートルから戦闘開始。互いに接近、至近距離でスコーピオンを生成、斬り交わし、剣戟が続く。
(……! この子、強い……!)
(────)
(それに集中力もある)
次の瞬間、芹沢あさひのスコーピオンが、嵐山准の不意を打って袈裟斬り。トリオン供給器官が破損。ベイルアウトする。いきなり訓練生が主力隊員相手に先手を取った。もちろん黙って負けたままの嵐山准ではない。
次の戦いでは相対距離二十メートルで開始。
「!?」
「ちょっと意地悪だったかな?」
嵐山准はアステロイドを生成、27分割、設定、射出。直後、芹沢あさひは全力疾走。三発ほど軌道を見切って躱してから体を右にひねって跳躍し、全弾回避、ドリルのように旋回しつつ突貫、斜め後ろに後退する嵐山准の左腕を切り落として猫のように宙返り、着地する。
「……! すごいな!」
「──たしかにスコーピオンだけで勝負とは言ってなかった……」
感情のない冷静な声色で納得した芹沢あさひは三角飛びの要領で接近。新たに弾トリガーを生成される前に勝敗を決めようとする────が、突として嵐山准の背後からアステロイドが五発光る。彼は全弾を撃ち尽くしていなかった。少しだけ弾丸を残して背中に隠し持っていた。咄嗟に躱そうとするが間に合わない。互いの距離が近すぎる。芹沢あさひの顔左半分と肩、両腕をが吹き飛ばされてベイルアウト。
個室の中のマットの上に着地した芹沢あさひは、開口一番。
「ズルイっす!」
飛び起きて叫ぶ。画面越しの嵐山准は、いたずらが成功した悪戯心から笑い、手を挙げて謝る。
「ははは。ごめんね。こうでもしないと勝ち星を稼げないと思ったんだ。もし嫌だったら、次からはスコーピオンだけで相手するけど……どうする?」
「……うーん。でも、びっくりして面白かったし、そういう使い方もあるのかと学べるから……むしろどんどん驚かせてほしいっす! ほかにはなんのトリガーを持ってるんすか!?」
「おっ。じゃあ、それは次のお楽しみかな~?」
「なら早くやろうっす! 転送! 転送!」
三戦目はスコーピオンVS孤月。四戦目はスコーピオンvsバイパー。
それから芹沢あさひと嵐山准の攻防が続き、九戦目は再びのスコーピオン対決。最終結果は────
12345678910
芹沢あさひ[○×○×○○○○×○]
嵐山准[×○×○××××○×]
七勝三敗で芹沢あさひの圧勝。観衆の中でどよめきが広がる。芹沢あさひのポイントは3800点強に到達。嵐山准は隊員育成プログラムを全種類十回ずつ受ければ、おそらく4000点に到達できることを伝え、B級隊員への昇格を促した。
†
その日の夕方。天井支部のリビングにて。
「プロデューサーさん! わたし、B級に上がったっす!」
「え……今日が正式入隊日なのに? たった一日で駆け上がったのか。すごいな、あさひ!」
「はいっす! あと嵐山さんとの
「そうか……ならチームを結成しないとな。入りたいチームとかはあるのか?」
「うーん。そこはあまり考えてなかったっす。凛世ちゃんや霧子ちゃんと一緒に戦うのも面白そうっすけど……どっちかと言われると、凛世ちゃんと戦いたいっす! 迅さんにも勝ちたいし、太刀川さんにも勝ちたいっす!」
芹沢あさひが天井支部の門を叩いて数週間。既に上位アタッカーからは認知されており、芹沢あさひは完膚なきまで負け越している。それゆえ勝ちへの貪欲さが出ており、今は一番調子の良い時期と言えるだろう。
「そうか。なら、あさひ。ひとつ宿題を出す」
「? 宿題っすか?」
芹沢あさひのやる気や機嫌によっては、この宿題は出さないつもりでいた。何事にもすぐに興味が移る子だ。いつ突発的に「ボーダーを辞める」と言うか分からない。貴重な戦力は失いたくないため、なるべく芹沢あさひの様子は観察しておくに限る。
「あぁ。
「…………!」
芹沢あさひには協調性がない。本人もその点は自覚しているが、なかなかうまくいかない様子。軍人として、一つの組織に属し、団体で行動するなら、協調性は必要不可欠と言える。つまり“チーム作り”という宿題をクリアできない場合、芹沢あさひは軍人不適格として処理される。しかし、いきなりの“チーム作り”という課題。最悪、芹沢あさひが飽きて辞めると言い出す可能性もある。それも予想した上で、チームが作れず辞めると言い出すなら、それを止めはしない。
「うーん……チーム……それなら、透ちゃんを誘うっす!」
芹沢あさひは周囲を見渡す。リビングのソファで寝転ぶ浅倉透。本人はテレビを見ているが、脚がプロデューサーの方を向いており、ややスカートが危うい。対するプロデューサーは注意すらせず無視。芹沢あさひが声をかける。
「透ちゃん! わたしとチームを組んでほしいっす!」
「……んー。いいよー」
「プロデューサーさん! 宿題が終わったっす!」
こういう日もある。そうなる予感もあった。むしろこの展開を狙っていたまである。プロデューサーは「おめでとう」と言って仕事に戻る。
「あとは透がB級に上がるだけだな。あさひなら二人チームでも、ランク戦で中位に上がれるだろう。透も戦闘ばかりじゃなく、オペレーターの業務を覚えるいい機会だ」
「……え。あ、そっか。私、オペレーターになるの?」
「私はオペレーター嫌っすよ! ピコピコするより戦いたいっす! だから透ちゃんがオペレーターでお願いするっす!」
「……あさひも、少しはオペレーターの業務を覚えてくれると嬉しいんだがな……」
どうもそれは難しそうだ。まだ浅倉透の方が期待が持てる。また、無理に覚えさせる必要もない。本人の気質的に戦闘特化だ。長所を伸ばした方がモチベーションも保ててよく成長し、ボーダーで長続きすると考えるなら……仕方ない。プロデューサーは半ば諦める。そして天井第二、またの名を芹沢隊の結成予定を本部に通知した。