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皆さんの日常の一部になれたらなと傲慢ですが思ってます。
どうでもいいけどこの作品の八幡はたぶん椎名林檎と尾崎豊が好き。
翌日。俺はすべての授業を終わらせ、現在松原と共に校門前へ向かっている最中である。
昨日電話で『リムジンで迎えに来る』と言われてからびくびくしながら今日の授業を受けていた。いや、普通に過ごしてたらリムジンなんて単語使わないのよ。
「えっと、私たちのバンドはね……」
松原は俺に今から会う予定の弦巻こころが作ったハロー、ハッピーワールド!というバンドがどういうコンセプトのバンドなのかを話してくれた。
なるほど。『世界を笑顔に』か…。バンド独自の世界観があるのは性癖ぶっささりなんだよなぁ。今の時代の邦ロックバンドたちの「当たり障りのなさ」に一石投じたい気持ちもなくはなかった。もちろん大前提として最大級のリスペクトはしているが、世界観といった所に目を向けるとどうしても思ってしまう。
「こころちゃんはね。すごい子なんだ。」
バンドメンバーの話になった時に、松原は突然そんなことを言い出した。
「すごい…?」
「うん。私ね、今でこそ楽しくドラムやってるんだけど、一時期やめようとしてたんだ。なんなら、売ろうともしてた。」
「…まじか」
やめようとしてやめた人の中でも、楽器はそのまま持っていることの方が多い。どこで使うかはわからないが、やはり相棒とも呼べる代物のため売るにはハードルが高い。まさか松原が売ろうとしてたとは思ってもいなかった。
「それで、売るために楽器店に行ったんだけど…その途中でこころちゃんと出会ったんだ。」
校門前に到着したため、通行人の邪魔にならないように道端へとずれてから塀に二人で寄りかかる。
「急に『演奏をしましょう!』って言ってきて。はじめは断ろうとしてたんだけど流れでそのまま演奏してね。」
「…風の噂で聞いた覚えがあるな。『町で金髪の少女と水色の少女が演奏してる』みたいな。」
「えへへ…。タイミングもあってないし、ガタガタな演奏だったんだけど…すごく楽しかったんだ。」
ちらっと松原の横顔を見ると、本当に楽しかったんだなと思えるような微笑を浮かべていた。
俺はその微笑みに目を奪われ、暫くの間松原の横顔を見つめていた。俺の視線に気が付いた松原は恥ずかしそうに笑った後に話し続ける。
「結局そのままドラムは続けて、今バンド頑張ってるって感じかな…。」
松原は一通り話し終えたあと、カバンから水筒を取り出してそれを一口仰いだ。
その後も松原は他のメンバーの話をしてくれた。全部聞いてて思うが、キャラが全員濃ゆいな…。
「…あ。来たよ?」
「おー。っておいおいおい…まじかよ」
「あなたが八幡かしらっ!!」
どでかい黒塗りのリムジンから身を乗り出して言ってきたのは、先ほどまで俺たちが話していた話題の中心人物。明るい金髪のロングヘアーに外巻きのカール、ピンクの瞳で何かオーラのようなものを感じる。
弦巻こころ。ハロー、ハッピーワールド!のボーカルだ。
「…あ、あぁ…。ひ、比企谷八幡だ。よろしく頼む…」
これがリムジンか…でけぇ…。初めて見た高級車に圧巻されているため挨拶が少しどもってしまう。
「この前のピアノ…本当に素晴らしかったわっ!!」
リムジンから降りた弦巻は俺の手を掴んでブンブンと上下に振ってべた褒めしてくる。こうして真っすぐ褒められることは子供のころ以来のため、結構照れる。キラキラと光る純粋無垢な瞳が俺を貫いてくる。
「とっっっても楽しかったし、また聞きたいわ!!」
「あれくらいなら言ってくれればいつでも弾くぞ。」
あの時の曲のコードなら多分弄ればいろいろな曲作れると思う。今即興で思い浮かんだフレーズでさえ何曲もあるし。
「ほんとかしら!楽しみにしてるわねっ!」
「こころちゃん。そろそろ行こ?」
「それもそうね!!じゃあ八幡!私たちの会議室へ行くわよ!」
「会議室…?」
「こころちゃんの部屋のことだよ。」
松原が俺の耳元で囁くように教えてくれる。わお。いい声。
「さぁ乗って!八幡!」
「ちょ!?」
弦巻は俺の手をつかんでリムジンへと連れ込んだ。ほぼ拉致だろこれ。
松原も乗り込んだことを確認すると、俺たちが乗ったリムジンは動き始めた。めっちゃ快適なんだけどこれ。少しだけテンションが上がる俺に気が付いたのか、弦巻はにこっと笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「私は弦巻こころ!ハロー、ハッピーワールド!っていうバンドで世界を笑顔にするの!」
「昨日と今日で松原から教えてもらったさ。実際に曲も聞いた。演奏や演出、それら含めてすげぇいいバンドだなって思ったよ。」
「うれしいわ!ありがとう!」
とてもうれしそうに弦巻はそういった。松原との通話が終わった後にオーナーに連絡してハロー、ハッピーワールド!のライブ映像をもらった。本来はいろんな手続きを踏まないと第三者に譲渡してはいけないらしいため、大丈夫なのかと問いかけたところ、オーナー曰く、『何か言われたら私が責任を取る。』と言ってくれた。あんたが一番かっけぇよ…。
「このバンドに八幡も加わってほしいの!!」
「…ほかのメンバーに許可を取ってあるのか?俺を勧誘してること。」
これで会議室に行って『誰だお前』って言われたら余裕で泣く自信あるぞ。
「あ、それは大丈夫だよ。こころちゃんが伝えてた。」
「もしこのバンドに八幡が加われば、もっと楽しくて笑顔になれると思うのっ!」
「……ここでは回答を出せない…ってのが現状だ。まだ顔合わせもセッションもしてないからな。」
「全然いいわっ!!これからだもの!!」
「さんきゅ。」
リムジンに揺られること数十分。その間は弦巻・松原の二人とちょっとしたゲームをして時間をつぶしていた。ボッコボコにされて終わったけど、初対面とは思えないほど仲良くなった気がする。
その後、車が停車してドアが開く。車内の暗さから一気に明るくなったため、視界が覚束ない俺の目に飛び込んできた光景は、にわかには信じがたいものであった。
今俺たちの目の前にあるのは漫画やアニメでしか見ないような豪邸。豪邸っつーかもうイギリスの王宮って言っても信じるぞこれ。リムジンの時点で察してたけどさ…いくらなんでも
「でかすぎんだろ………」
思わず口に出てしまう。そんな俺を見かねたのか松原が隣にきて話しかけてくる。
「私も初めて来たときは驚きすぎて現実なのか疑っちゃったもん…。」
「これやっぱ現実??」
「うん。つねってあげよっか?」
「頼むわ。」
いででででで。力強い力強い。さすがドラマー、細いスティックもって力強く叩いてるだけあるな。ちょ指食い込んでるからもういいよ痛い痛い
確実に現実であることを確認した後、ついにその豪邸の中へと足を踏み入れる。
「でかいって」
思わずメンズコーチみたいになっちゃった。
まず目に入るのは中央にある映画のセットでしか見ないような階段。『タイタニック』でジャックがローズを待ってた階段を一回りも二回りも大きくしたバージョンって言えばわかりやすいだろうか。その手前には階段を挟むように二つの西洋甲冑が置いてある。いやまじで王宮じゃん…。
「会議室は二階にあるの!!さぁ、行くわよ!」
これ上るってことですか…?テンション上がる半面長すぎて気が滅入るんだけど…。だって長すぎて上見えないもん。
「…はぁ…はぁ……疲れた……」
「そ、そのうち慣れてくるから…。」
「あいつこれ毎日上ったり下りたりしてるってこと…?」
ものすごいスピードで駆け上がってたぞ。もう陸上部が泣くくらいには。弦巻の底知れない体力と運動神経に戦慄しながら息を整える。
「なんなら今日は比企谷君いるから抑えてる方じゃないかな…?」
「嘘じゃん」
そりゃライブ中にバク転とか激しいパフォーマンスできるわ。てかしれっと松原も息切れしてないのマジ?おい男子高校生大丈夫か男の面子立たないぞ。
「ここよ!」
弦巻が勢いよくドアを開放し、そのままの勢いで部屋の中に入っていく。俺と松原も続いて中へと入る。
その部屋の中で待っていたのは3人の少女だった。明るいオレンジ色のショートヘアでカジュアルなスポーティスタイルの服を着た元気な雰囲気を漂わせている少女に、黒のセミロングヘアにシンプルなデザインのパーカーを着ている少女。それと…
「やぁ八幡。久しいね。元気だったかい?」
「…瀬田か…久しぶりだな。」
「ふっ。時という名の川を越えて、再び友と相まみえるとは…なんとも儚いものだね…。」
「えっと…二人は知り合い…?」
松原が意外といった表情を浮かべながら俺たちに聞いてくる。
実は俺と瀬田は小学校が同じ。その時はあまり話すことがなかったんだが、たまたま用事があった時に行ったワークショップに瀬田がいたところから交流が再開した。互いに目標に向かって努力していた頃だったので、話が合うことが多く、そのワークショップではよく行動を共にしていた。今ではたまにチャットで語り合う仲だ。あと花咲川だけど俺と違うクラスに一人同じ小学校だった奴がいるけど、そいつの話はまた今度するとしよう。
「あぁ。小学校が同じでな。まさか瀬田がバンドやってたとはな。演劇はまだ続けてるんだろ?」
「運命に導かれた…とでも言っておこうか…。もちろん演劇部には入部してるが、素敵なお姫様に惹かれたのさ。」
瀬田は弦巻を一瞥して、まるで王子様のような笑みを浮かべた。ストイックで自分が感じたことに対して全く嘘を吐かない瀬田がこう言うのだ。弦巻の『人を自然と寄せ付ける力』を感じる。
俺は瀬田の隣にいるオレンジ色のショートヘア少女に目を向ける。
「やっほー!北沢はぐみだよっ!!よろしくねっ!!」
「北沢…?もしかして商店街にある精肉店って…」
「えっ!?はぐみのお店知ってるの!?」
「あぁ。たまに買って食べてる。美味しいからいつでも食べたくなるんだよな。」
「え~!!嬉しいっ!!ありがとう!!いつでも食べに来てね!!」
ぜひとも行かせてもらおう。バイト帰りにいつも通るのがあそこの商店街のため、よく目に入る。お腹が空く時間帯のためいい匂いがしたら自然と足を向けるのは仕方のないことだろう。とてつもなくおいしい肉ばかりなので、肉料理を作るときはいつも使わせてもらっている。
俺はさらに隣にいる黒髪の少女へと視線を移した。
「あ。どーも初めまして。奥沢美咲です。どこにでもいる普通の女子高校生です。」
「初めまして。比企谷八幡。どこにでもいる普通の男子高校だ。」
「えっと、今日はこころのわがままに付き合ってくれてどうもありがとうございます。」
「いや、どうせ暇だったからな。全然気にしてないぞ。」
「ならよかったです。こころっていつも突拍子もないから…。」
「…苦労してるんだな。」
「あはは…まぁ最近はもう慣れましたけどね。」
なんとなくだが、この少女は苦労してそうなイメージがある。苦笑いを浮かべながらそう言う彼女に対して俺は心の中で親指を立てて応援する。
あれ…たしかこのバンドって…
「これでメンバーは全員なのか?」
「ううん。まだいるんだけど…」
……?何か含みがあるような松原に疑問を抱いて尋ねようかと思った時に、弦巻が代わりに答えた。
「ミッシェルがいるわ!セッションするときに来ると思うわ!!」
「…ミッシェルってあのクマのことか…?」
「…………はい。」
奥沢は答えづらそうにそう呟いた。多分訳アリだなこれは。この前に見たライブ映像では、あのクマがDJをやっていた。はっきり言って俺はDJの知識はからっきしだが、もしあのクマの着ぐるみを着ながら演奏しているとしたらとてつもなくすごいことなんじゃないかと思う。よく『曲流して縦ノリするだけ』とか言うクソみたいなこと言うボケがいるが全くの間違いだろう。それだけは素人の俺でも分かる。っていうかそいつもう喋んな。
「自己紹介も済んだことだし、さっそくセッションしましょ!」
「つっても、どこでやるんだ?楽器なんてどこにも」
「ご用意いたしました。」
「うぉっ!?」
「ありがとう!黒服の人!」
「では私はこれで。」
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ…。俺のすぐ横にサングラスかけた黒い服の人が現れたと認識した次の瞬間…すでに部屋の中に楽器が用意されてたんだ…。な、なにを言ってるかわからねーと思うが、俺も何が起きたかわからなかった…。頭がどうにかなりそうだった…。催眠術だとか、超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ…もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。
「ま、松原…奥沢…今のはなんだ…?」
とりあえず今の状況を理解したいため、近くにいた二人に聞く。
「こころの専属ボディーガードみたいな感じです。こころが『あれ欲しい』って言ったらすぐに届けてくれる人たち…みたいな。あたしは一応黒服さんって呼んでます」
「私たちにもいろいろしてくれるんだけど、これだけはやっぱ慣れないんだ…。私たちもいいのかな…?って」
「いやいや花音さん…これ慣れちゃったらいろいろまずいって…。」
二人は黒い服の人について教えてくれる。成程…弦巻と一緒にいると時々感じた視線はボディーガードだったのね…。弦巻に何かあればすぐに駆け付けれるように常に見てるってわけか。俺は納得していつの間にか用意されてあるキーボードの前に立つ。
「比企谷君ってキーボードも出来るの?ピアノとキーボードって似てるけど少し違うって聞いたことあるけど…。」
松原が不安そうに聞いてくる。まぁ普通はそう思うよな。
「確かにピアノとキーボードじゃ、鍵盤の数とかペダルとかが違うが…少し練習すれば問題ないぞ。」
「そーなんだ。てっきり似てるけど弾けない…みたいな感じかと。」
まぁそういうのも無くは無いな。バイオリンとチェロとかは同じ弦楽器でも大きさとかボウイング(弓の動かし方)、規格とか音域が異なるから前者弾けても後者は無理とかごまんといる。そのまた逆も然りだな。
「じゃあ私ちょっと抜けますね。花音さん、ここ任せます。」
「うんっ。任せて!」
「…どこ行くんだ?」
「すぐわかると思うよ。」
「…?」
早々と部屋を出ていった奥沢を目で追いながら松原にそう聞くと、またまた含みのある答えが返ってきた。弦巻、北沢、瀬田の3人は自分の担当楽器を持って楽しそうに話しているため、奥沢が部屋から出ていったことには気が付いていないようだ。松原からはすぐにわかると言われているため言われた通りに待ってみる。その間俺はキーボードの音を確かめる。あ、これめちゃくちゃいいキーボードだ。それもウン十万するやつ…。ちょっと弾くのが怖くなりながらも、今だけは高級な音を楽しもうと思った。
音の確認をしてから数分後…突然ドアが開いた。何事かと思い、ドアの方へ目を向けると、部屋の中に入ってきたのはピンク色のクマだった。
絵面がシュールすぎる。
「みんな~お待たせ~~ミッシェルだよ~」
「「ミッシェルーー!!」」
弦巻と北沢がミッシェルと呼ばれているクマに抱き着きに行った。瀬田もそれに続いて近づく。
「今日も素晴らしい演奏を任せたよ。ミッシェル。」
「任せて~!」
「…もしかしなくても…あれ奥沢だよな。」
「あはは…流石に分かるよね…。」
「いや、普通に声の質とかで分かるだろ。奥沢の声めちゃくちゃ綺麗だし。」
ちなみに今言うことではないが俺の好きな声質に限りなく近いため奥沢の声なら多分すぐ聞き分けられる。音楽に精通してる人なら共感してくれると思うが、聞いていてすっと脳に入ってくる声ってのはやっぱり聴いてて心地がいいものだ。
「うぇっ!!?」
「…?どーしたの~?ミッシェルー?」
「い、いや、何でもないよ~~」
突然ワタワタし始めたミッシェルを見て北沢が反応する。手で顔を仰ぐようにパタパタ降る姿はとても愛くるしいものだった。
「……………。」
隣で沈黙を貫きながら俺を見る松原。少しだけご不満なように見える。
「どうしたんだ?」
「ううん。何でもないよ。」
「(…なんかモヤモヤするなぁ…。)」
「ミッシェルも来たことだし、やるわよ!!八幡!!」
弦巻はマイクを持ちながら振り向き、俺にそう問いかける。その姿にかつてのバンドメンバーの面影が重なる。
いや、今は目の前に集中しよう。こんな俺を最高のバンドに誘ってくれてんだ。精一杯応えろ。
「ふぅ…、いつでもいいぞ。」
「よっし!いつも通り楽しむぞー!!」
「さぁ八幡…世界を変える演奏をしようじゃないか…!」
「はt…比企谷君っ!頑張ろう!」
「今は演奏を楽しみましょ。比企谷先輩。」
松原のカウントから曲がスタートする。今回セッションするのはみんな知っているであろう有名な曲。ベースの北沢、ドラムの松原。この二人から成るリズム隊が中心となってハロー、ハッピーワールド!のポップで自由な曲が構成される。その他の俺たち4人はリズム隊の作るビートに乗っけて音を紡いでいく。
ギターの瀬田、DJのミッシェルはそのリズムにアクセントを加え、絶妙なバランスで調整してくれる。瀬田は初セッションの俺をエスコートしてくれているし、ミッシェルは時折シンセサウンドやリズムエフェクトを加えることでさらにポップでダイナミックな曲にしてくれている。そして何より…
「~~~~~~~~♪♪♪」
弦巻の圧巻される歌声。このバンドのユニークで楽しい世界観にぴったりな唯一無二の歌声が曲の想いをストレートに伝えてくる。パワフルでエネルギッシュ。見る・聞くだけで人を笑顔にできる弦巻のパフォーマンスを俺は身をもって体感した。
「(これが…ハロー、ハッピーワールド!……か)」
結成して未だ数か月のバンドの実力に心底驚いた比企谷だったが、そのさらに上をいくほど驚いていたのはハロハピの面々であった。
「(すごい…初めて合わすのに…先導して引っ張ってる…!)」
「(いつもよりやりやすい!!はぐみこんなに弾いてて楽しいの初めてかも!!)」
「(さすが八幡……いつ聞いても胸が高鳴る音だ…!)」
「(八幡君…かっこいい……。わ、私も頑張るよ…!!)」
「(ん~~~~!!!やっぱり八幡の演奏は最高ね!!!)」
初のセッション。それもほぼ初対面の面々との。初なのにもかかわらず、完璧にマッチしている演奏に対してハロハピは驚いていた。
比企谷八幡の演奏スタイルは、その曲の世界観を大切にするスタイル。落ち着いている曲であるならば感傷的に一つ一つの音に気を配る。逆にハイテンポな曲はエネルギッシュに大胆と思い思いに感情を込めていく。譜面にとらわれることなく幾度のアレンジをして聴衆を引きこむ。そしてその熱は共に演奏する仲間も巻き込み、一体感を編み出していくという伝播性のある音なのだ。
比企谷独自の演奏は、エンターテインメント性に溢れているためハロハピと相性は抜群である。それは本人たちも感じていたことだった。
「(…あぁ……こんなに楽しいのなんて久しぶりだな…)」
比企谷は、久しぶりのバンド演奏に興奮していた。中学時代から本格的に音楽活動を始めてバンドを組み、様々な経験をして今に至る。残念ながらバンド活動は途切れてしまい、長らく仲間という存在を感じていなかった比企谷にとってこのセッションはとても有意義な時間だった。それこそ、ハロハピに入りたいと思うほどには。
「(やってもいいのか。本当に。あいつらに顔向けできるのか。)」
前に組んでいたバンドが活動休止になった要因は自分である。そう思い込んでいる故に比企谷は悩んでいた。
「八幡!!!あなたはやっぱり最高よ!!!」
「すっっっごく楽しかった!!またやりたいな!!」
「とても儚い演奏だったよ…!もう余韻が残るくらいには…!」
「すごい…。もうほんと…凄すぎた…」
「……………わっ…ぼーっとしちゃってた…。」
終わった途端、弦巻・北沢・瀬田は笑顔で俺に駆け寄ってきた。松原とミッシェルはどうやら余韻に浸っているようだった。
いや、正直驚いた。Circleで働いてるといろんなバンドの曲が聞けるけど、今まで聞いてきた中でも指折りの実力バンドだ。
「いや、俺も楽しかった…。最高だった。」
俺がそう言うと、みんなはさらに笑顔を浮かべ、もうずっと先ほどの感想を言い合った。駆け寄ってきた3人はもう会話にすらなってねぇ…擬音ばっかだしなんであれでコミュニケーションとれるんだ。
その後も何曲か合わせて、夕ご飯を頂いた。人生で一番美味しかった。まじで。
夕食を頂いてる最中にいろんな話をした。奥沢と好きなものが一緒だったり、北沢と今度ソフトボールすることになったり(なんで?)、もうそれはそれは濃い時間だった。
「八幡!私たちのバンドはどうだったかしら!」
とてつもなく美味しかった夕ご飯をご馳走になり、そろそろお開きといったタイミングで弦巻が聞いてきた。ちなみにミッシェルは奥沢に戻った。
さて、今日の本題だな。
「あぁ。俺はお世辞が言えないからはっきり言わせてもらうが…これ以上無いくらいに最高のバンドだと思う。」
「「「「「………!!」」」」」
5人は俺の言葉を聞いてとてもうれしそうな表情を浮かべた。特に弦巻は目をキラキラと輝かせている。
「…入りたい…って思ったよ。ぶっちゃけな。」
「…!なら「だが…」…?」
真っ先に反応しそうになる弦巻を言葉で制す。悪いことをしたな…と少し反省した後ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「でも…まだ決断できない…。これは俺の個人的な問題でな。これを清算しないとお前らにも失礼だし、音楽に対して中途半端なことをしたくないんだ。」
「「「「「…………。」」」」」
黙って聞いてくれる5人に心の中で感謝しながらまた話す。
「少しだけ時間はかかるかもしれないが…それまで待ってくれないか?」
怖い。こんなことを言っておいてなんだが、こいつらの返答が怖い…。ここまで臆病者になっているとは思わなかった。俺は自己嫌悪に陥りながらも、みんなの返答を待つ。
「その問題というのは、バンドに関することかしら?」
弦巻は真面目な表情でそう聞いてきた。弦巻のこんな表情は初めて見た。
「あぁ。前に組んでたバンドの問題だな。」
「なら何も問題ないじゃない!!」
「……ん?」
さも当然のように言い切った弦巻に対して気の抜けた声が出る。松原はポカーンとしていて、奥沢はそんな弦巻に対して真っ先に声を上げた。
「ちょ、こころ!?比企谷先輩は中途半端なことはしたくないって…!」
「えぇ!聞いたわ!答えを出してくれるまで待つもの!!」
「なら…!!「でも八幡!」…?」
奥沢の言葉を遮って俺に問いかけてくる。
「八幡はバンドがしたいのでしょう?」
「…っ!」
弦巻はさらに言葉を続ける。
「もし今バンドに加わっても何も中途半端じゃないわ!大事なのはいつだって気持ちだもの!」
「はぐみも…今日やって感じた気持ちが大切だと思う…な。」
「八幡。君の問題は私たちにはわからないし、想像するよりもずっと辛いのかもしれない。もう少し自分に甘くなっていいと思うよ。」
3人は静かなトーンで諭してくれる。こいつらなりの励まし方なんだろう。相手の立場になって、寄り添う。さすが、世界を笑顔にするバンドなだけある。
いい…のだろうか。もう少し欲張りになっても。
「個人的には入ってほしいですけど…やっぱりアタシは比企谷先輩の意見を尊重したいです。中途半端なことはしたくない気持ちは分かるので。」
奥沢は少しだけ笑いながら弦巻たちの意見を擁護し、それも踏まえて俺の意見を大事にしてくれた。先ほどまで静かに聞いていた松原も続いて口を開く。
「私も…八幡君の意見を尊重する。入ってほしいけど…折角バンドをやるなら楽しんでほしいから…。」
松原は俺の目を真っすぐと見ながらそう言ってきた。暖かいな、ここは。
少し涙が出そうになるのを堪える。
誰かに必要とされたり、誰かからこんなにも暖かくされたのは久しぶりだから。
「……ありがとう。お前ら。」
今はただ、精一杯の感謝を。
* * * * *
現在、22時。弦巻家からの帰り道。黒服さんに「送ります。」って言われたが、遠慮させてもらった。
せっかく気分がいいんだ。帰り道は一人で感傷に浸らせてくれ。
もうスキップしそうな勢いで帰っている。もしやったら警察に通報されるレベルで気味悪いだろうから自重する。
俺は歩きながら携帯を開き、先ほど連絡先を交換した弦巻たちにお礼とまた演奏したい旨を送った後、別の連絡先を開く。
おそらくこの連絡先を開くのは一・二年ぶり。
前に組んでいたバンドのメンバーのうちの一人である。
少しだけ躊躇いながらも通話のコールボタンを押す。
数回コール音が深夜の静まった東京に響いた後、『もしもし。』と、男の声が聴こえてくる。
俺は懐かしさを感じて少しだけ沈黙した後、口を開く。
「……よう。葉山。次の休日空いてるか?」
比企谷八幡
他人の夢は笑わずに全力で応援するタイプ。なんならこころの夢はめちゃくちゃ好み。今の時代に必要なものだと思ってる。ちなみに作曲は歌詞から発想を得る派。
弦巻こころ
世界を笑顔にするために八幡はハロハピに不可欠だと考えている。もし加入したら今まで以上に楽しいライブになると確信しているため、演出なども考え始めた。多分規格外すぎて3バカにはべた褒めされるけど全部美咲に却下される。
松原花音
八幡がハロハピに入るかもと聞いたとき誰よりもそわそわしてたし、八幡の演奏を聴いて気持ちが入りすぎて名前呼びになった乙女。今度二人で放課後に遊び行く予定を立てたらしく、授業中はそのことで頭いっぱい。
奥沢美咲
苦労人仲間が増える予感がしてうれしい。初対面で男の人、しかも年上だったため緊張していたが話したら意外と波長が合って楽しかった。声褒められて家に帰った後、枕で悶えたらしい。可愛いね。
北沢はぐみ
実はストリートピアノを聞いていた内の一人。純粋に感動して暫く音楽の授業でピアノをやってみるくらい純情。三日でやめた。精肉店で何度か会っているが互いに覚えていなかったため割愛。
瀬田薫
八幡とはたまに自分が行きたい劇に二人で見に行く仲。ワークショップで八幡の演奏を初めて聞いたときに衝撃を受け、衝動的に連絡先を交換した。毎回自分から送る文に長考してる。意外とそういった経験なしなのでめちゃくちゃ乙女だった。
2話でボリュームありすぎますね…ちょっと気合入れすぎた。
八幡はカオティックミュージシャンが似合うと思います。ただのミュージシャンじゃなくて、文字通り時代を変えてくれそう
。
まぁお察しの人もいたかと思いますが、八幡が組んでたバンドにはヤツがいました。
さて次回は八幡が過去と向き合ったり、クラスメイトと駄弁ったりするお話。
では、今回はここまで。次回をお楽しみに。