青春のディストーション   作:常谷 優大

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今までもこれからも、人と付き合っていかないってのは無理な話で。


浅く深く、広く浅くだとしても全然いいと思う


だからこそ、今ある繋がりを大切にしたいよね。



投稿遅れました。ごめんなさい。


人と向き合い続けるのは、いつまで経っても大切なこと。

 

「よっ。久しぶり。」

 

「あぁ。久しぶりだな、比企谷。」

 

会うのは本当に久しぶりな気がする。俺は休日にある男と出会っていた。

 

葉山隼人。同じ中学校で元バンドメンバー。俺にとっては数少ない縁が深いと言える男だ。

 

 

「いらっしゃいませ!あちらの席へおかけください!」

 

 

茶髪でボブヘアの店員さんに案内されて俺達2人は席に着く。

場所はバイト帰りの道にある商店街の羽沢珈琲店という一店。俺はこのお店の雰囲気が好きで、話し合うとしたらここしかないと考えて葉山をこのお店に呼んだ。土曜日の昼時だということもあってか店内は混雑しているようで店員さんが忙しなく動き回っていた。少しだけ長話になるかもしれないため、心の中で謝罪しておく。

 

 

「なんか頼むか?ここは俺が持つぞ。」

 

「じゃあカフェラテのミルク少なめで。」

 

「いつもそれだな。飽きないのか?」

 

「…愚問ってやつじゃないか?それは」

 

「まぁな。」

 

 

俺も飽きるほどマッ缶を嗜んでいる。2日に1本は飲まないと禁断症状が出るレベルで。好きなものと言うのは飽きないものであるため、葉山は『お前もそうだろう?』と言いたげな目で俺を見てきた。おっしゃる通りで。

 

 

「んじゃ俺は普通のブラックにしようかな。」

 

「珍しいな。甘党だろ?」

 

「ここのはブラックでも美味いんだよな」

 

「それじゃあ、2杯目はそれを頼むとしようか。」

 

 

本当にこのお店のブラックコーヒーは美味しい。甘さはブラックなので感じられないが、なんというかコクがある美味さだ。飲みやすいといった方が伝わりやすいかもしれない。

 

 

「……親父さんは元気か?」

 

「あぁ、いまは容態も安定してぐっすり寝てるさ。早く起きろってんだ。」

 

「あの時は色々とすまなかった。君に心無い言葉を沢山吐いた。吐いてしまった。」

 

「タイミングが悪すぎたんだ。仕方ねぇさ。」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

今から2年ほど前の話だ。

 

その頃はバンドを組んでいたため、毎日練習に勤しんでいた。メンバーは葉山を始めとした戸塚と材木座、そして俺の4人で構成される。

練習はきつかったが、それでも楽しかったし一番キラキラしていた時期だと言えるだろう。バンド自体の実力はさることながら、その年齢も注目されたため、様々な音楽事務所から声もかけられた。単純に嬉しかったが、仲間内でやりたい音楽をやりたかっただけなのですべて断らせていただいた。

 

 

いつものように練習していた日のこと、親父がトラックに轢かれたという旨の電話がかかってきた。頭が真っ白になってその時のことはあまり覚えていない。

気が付いたころには病院にいて、親父が病床について身体中に管がつながれているのを泣きながら必死に声をかけている小町と母さんをぼーっと眺めていた。

 

 

それから現在まで、親父は生死をさまよい続けている。最近になってようやく容態が安定し、もうすぐ意識が戻るかもしれないといった所まできた。

だが、当時は酷いものであった。母さんは月曜から金曜、土日でさえ朝から仕事を入れて夜遅くまで働いた。家にいる時間の方が少ないといっても過言じゃないほど働きづめだった。毎日賑やかだった食卓はお通夜のように静まり、作り置きのご飯も増えた。

 

 

俺はというと、音楽でお金を稼げる気がしなかったため、学業に力を入れ始めた。いい高校に特待で入ってバイトをしながら藝大や音大レベルを目指すことに決め、ギターやピアノ、チェロといった音楽を一切やめてその分の時間を苦手な数学などの理系科目を克服する時間に費やした。

家にいる時間が増えたことにより、小町との仲も今までより深まった。両親がいないことによる不安は計り知れないだろう。親代わりというわけではないが、なんとか不安をなくそうと小町を一人にしないように努力した。

 

大好きな音楽を急にやめてあまり得意ではなかった勉強をやるのは相当のストレスだったようで、どんどん活気がなくなっていく俺のことを、3人は心配してくれた。ただ俺はその心配を無下にしてしまったため、若干雰囲気が悪い時期になってしまった。そんな中、俺は葉山に対してバンドを抜けたいと伝えた。

 

 

『…考え直してはくれないか…?』

 

 

『.......悪い。今の俺に、音楽が出来るとは思えなくてな…。』

 

 

『どうして今なんだ…っ!!…比企谷…っ…!!!』

 

 

『今が大切な時期なのは重々承知している。だが……すまん。できない。』

 

 

『…くそ……!!』

 

 

おそらく葉山はこのバンドでプロを目指していたのだろう。生憎俺が抜けたいと伝えた時期はFWF*1の予選と被っていたため、葉山は意地でもバンドを続けたかったのだろう。俺はできないと伝えた上でしっかりと謝罪した。

その後、葉山には猛反対されたが、戸塚と材木座は俺の意見を尊重してくれた。

バンドを離れた後も、何日間もずっと葉山には説得された。その度に俺は断っていたのだが、葉山の熱意に負けて結局活動休止という形で落ち着いた。だが、再開するつもりなんてなかった。当時の俺にとってはやることが多すぎて気にする余裕なんてなかったからだ。

俺が実質バンドを抜けた状態になった後、葉山達も活動を一旦やめたらしくさらに罪悪感が芽生えた。

 

 

一年間必死に勉強して花咲川学園の特待枠として入学することもできて、気楽に話せる友もいる。高校に入っても音楽…というかバンドへの未練はたらたらだったようで、ライブハウスでアルバイトを始めた。そして今。ハロー、ハッピーワールド!というバンドに勧誘され、熱が再発し始めた。

 

葉山にとっての音楽と、俺にとっての音楽。その価値観のすれ違いやタイミングの悪さから違う道を歩み始めた。また同じ道を歩むのか、それとも新しく互いの道を進んでいくのか。これからのためにも、過去としっかりと向き合わないとな。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

「改めて謝罪させてもらう。あの時はお前たちを無下にして本当にすまなかった。」

 

「俺からも謝罪するよ。君の気持ちを考えれなかった。すまない。」

 

互いに頭を下げるというなんとも奇妙な絵面が羽沢珈琲店に広がる。これだと多分泥沼状態な気がするので2杯目の飲み物を頼んでから話す。

 

 

「実は今あるバンドから勧誘を受けていてな。」

 

「…比企谷が?嘘だろ?あの友達すらいない比企谷が?」

 

「よしいったん表出ろや」

 

「まぁまぁ落ち着け。カフェインとってるだろ?」

 

こいつが俺のことを舐め腐ってるのは理解した。あとカフェインそんな万能薬じゃねぇから。

 

「ふぅ…。んで、今の俺はまだお前たちとバンドやってる判定なのかって話なんだ。そこはあやふやだったろ?」

 

俺のせいでもあるがな。はっきりと答えを出してなかったし、活動休止なんて言葉で濁してしまった。

 

 

「……メンバー表には3人で登録されてる。」

 

暗にもう既に抜けてるという意味の言葉に俺は少しだけ落ち込む。

 

「ただ…まだ比企谷はバンド仲間だって思ってるよ。」

 

「……ぇ?」

 

「あの二人も同じことを思ってるさ。言質も取ってある。」

 

なんで……俺のせいなのに……。

 

 

 

「また、比企谷とバンドを…音楽をやりたい。それが俺たちの総意だ。」

 

「………っ!!」

 

 

本当に……こいつは…こいつらは…。

 

 

「それと、勧誘されてたんだっけか。…それは比企谷の好きにしてくれ。」

 

「…プロになりたいんじゃなかったのか?兼バンドしてるやつがいていいのかよ…。」

 

「俺はまた4人で楽しくできればそれでいいさ。」

 

葉山はカフェラテを飲み干してそう言い切った。葉山もあの時からいろいろ考えていたのだろう。会話の節々に苦悩を感じた。ただ、葉山や戸塚、材木座の暖かい気遣いに涙腺が少しだけ刺激された。泣きたい気持ちを抑えて俺もコーヒーを一気に飲み干す。俺は覚悟を決め、携帯を取り出して弦巻に次の会議がいつなのか連絡する。あぁ、そういえば…

 

 

「…次のライブはいつなんだ?」

 

「まだ決まってないな。その時はまた連絡するよ。」

 

バンド自体活動してなかったのか……もっと悪いことをした気になるな…。

 

「あぁ。頼む。久しぶりにあいつらとも会いたいな…」

 

「今度一緒にご飯でも行こうか。」

 

「おっ。いいな。実はこの前いい店見つけたんだよな。紹介するぜ。」

 

「ゴチになるよ。」

 

「ざけんな」

 

 

その後もくだらない話で盛り上がった。昔に戻ったような、そんな懐かしい気持ちになって時間も忘れて話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

「おはようございます。比企谷さん。」

 

「ん。おはよ。」

 

一日飛んで今日は月曜。校門にはいつものように氷川が待っていた。挨拶をしてくれる氷川に寝ぼけながら挨拶を返す。

 

 

「…?何かいいことでもありましたか?」

 

「どうしてそう思ったんだ?」

 

「いつもよりも声のトーンが高いので。」

 

小町や母さんにも同じことを言われたな…そんなにわかりやすいだろうか。一瞬で良いことがあったって小町にバレて仕事中のはずの母さんが家に帰ってきたからな。連絡網どうなってんだ。

 

 

「まじか。いやまぁ、無かったと言えば嘘になるな。」

 

「そうですか。」

 

ふふっと微笑みながらご機嫌な氷川を横目に靴を履き替えて教室へと向かう。その間も氷川とは休日何をしていたのかだったりとか世間話で盛り上がる。やっぱり氷川と話すのは他の人と違って波長みたいなものが合うから話していて楽しいな」

 

「っ!?…い、いきなりなんですかっ!?」

 

「あ、口に出てたか。すまん。」

 

「い、いえ、気にしてないです……。ま、まぁ私も話してて楽しいとは思ってますけど……。

 

「なんて?」

 

「何も言ってませんっ!」

 

頬を赤く染めながら歩く速度を速めた氷川を追いかけて自分の教室へ入った。

 

 

 

 

 

「んに~~~~~~」

 

「ひ、比企谷君…?ど、どうしたの…?」

 

一限にあった数学の抜き打ちテスト、二限の水泳で一日分の体力を使い果たした俺は現在自習の時間中に自分の椅子で伸びていた。それを見た隣の席の白金から声を掛けられる。

白金燐子。Roseliaのキーボードを担当していてその実力は高校生の域を優に超えている。成績も優秀なため、自習の時間でも携帯を取り出さずに黙々と勉強する勤勉さを持つ。容姿端麗でその胸元には大きな希望を詰め込んでいる。男子高校生には少々刺激が強いため、できる限り目をそらしている。

ちなみに白金は図書委員会に入っていて、図書室へよく赴く俺にとってはよく顔を合わせるし、話も合うため好きな小説や小説家の話になると会話が止まらない。最初は敬語だったが段々と砕けた口調になってくれて嬉しかった記憶がある。敬語からため口になると距離が近くなった気がして嬉しいよな。

 

「もう体力尽きた。」

 

「え、えぇ……。まだ…一日の半分もたってないよ……?」

 

「なんで2時間目に水泳があんだよ…普通に生徒殺しに来てるだろ…」

 

「私は見学してたから…大丈夫だけど、比企谷君は…ちゃんと授業受けてたもんね…」

 

「白金って水泳得意なのか?」

 

「あんまり、…というか運動全般が得意じゃないから……」

 

体力はめちゃくちゃありそうだけどな。Roseliaの演奏全部ハイテンポだし普通の体力じゃ2曲も持たないだろう。俺はたぶんもって4曲。アドレナリン出てたらプラス2曲くらい。前にRoseliaの練習をのぞかせてもらったが、普通に1時間休憩なしで続けていた。ぶっちゃけ引いた。

 

 

「まぁ人から見られてやりづらいってのもあるか…。白金なら特に」

 

「………?どうして…?」

 

「だって……なぁ?」

 

「?」

 

白金が動いたら違うのもたくさん動くからな。とは言えなかった。セクハラして反応を楽しむなんて特殊性癖は持ち合わせてないし。

 

 

「そーいや…もうそろ文化祭があるんだってな。」

 

「あ…うん…。次の時間で実行委員を決めるんだって…。」

 

「ほーーん。」

 

相方が誰かによってはやっても別にいいか。そんなやることなさそうだし。

 

「…やるの…?」

 

「一緒にやる相手によるかもしれないな。白金となら絶対やるし。逆に丸山とはいやだ。」

 

「なんでっ!?」

 

「丸山さん。今は自習中ですのでお静かに。」

 

「あ…はい……ごめんなさい。」

 

俺たちの会話を聞いていたのか、後ろの席にいた丸山が声を上げて先生に怒られていた。うん。やっぱ丸山なんだよな。

 

 

「ちょ、ちょっと比企谷くんっ…!なんで私とは嫌なのっ…!?」

 

「アフターケアが多そう。」

 

「そんな理由っ!?」

 

隣で白金が笑っている。普段表情が崩れることが少ないため、白金の笑った顔を見るのは珍しい。少しだけ頬を膨らました丸山にすまんの意を込めて手でサインを作りながら落ち着かせる。いやでも、丸山と一緒に実行委員をやったら間違いなく楽しい文化祭になるだろうし、そういう意味では一番いいのかもしれないな。

 

「つーかアイドルしてるなら実行委員やるのはちょっと大変じゃねぇか?」

 

「そこは頑張って両立させるよ!絶対楽しいもん!」

 

「すごいです…私にはできる気が…しません…」

 

「えへへ…燐子ちゃんにそんな言われるとちょっと照れるね…。」

 

丸山は照れくさそうに顔を手で仰ぎながらそう呟く。

 

「この前のライブの円盤って売ってるのか?普通に見たいから欲しいんだよな」

 

「うーん…まだ分からないかな…あ!もしかしてファンになってくれた?」

 

「ん、俺は元々丸山のファンだし。」

 

「ふぇっ!?」

 

だってあんなに頑張ってるアイドルを見てたら応援するしかないだろ。ドルオタになるきっかけだったし。ファンサもらった時はほんとに胸がときめいた。

楽しそうに会話をしているのが聴こえたのか、氷川がこっちを見ていることに気が付いた。『私は勉強してるのに呑気に会話ですか?しばきますよ?』とでも言いたげな目をしている。ここだけの話、氷川が最近俺に対して心をどんどん開き始めているようで、口調が砕けてきたり稀に名前で呼んできたりだったりしてさらに距離が近くなった気がする。

 

 

「…なぁ白金。次のRoseliaのライブっていつだ?あと丸山も。」

 

「ついでみたいに言わないでっ!?」

 

「…えっと…文化祭が終わって少し経った後…だったかな…。Circleっていうライブハウス…。」

 

「えっ!?私もその日!しかも同じ場所だ!」

 

「被ることってあるんだな。珍しいだろ。」

 

「確かに……もし時間あったら…見に来てね…?」

 

「あぁ。もちろん。」

 

「絶対見つけてたっくさんファンサするからね!」

 

貴様俺を殺す気か

 

 

 

 

 

「…………寝てたわ」

 

疲れすぎてたのか4限は最初から爆睡してた。隣で白金が他の子達と話しているのを見ると、今は多分自由な時間なんだろうな。俺は目線を前に移して黒板を見る。

 

 

「……ぇ?」

 

 

前の黒板には

『実行委員:男 比企谷八幡 女 白金燐子』

 

と書かれてあった。

 

「もう一回寝たら実行委員変わるとかない?」

 

「このクラスに男子が3人しかいないのに寝るのがいけないんですよ?」

 

「f○ck off」

 

氷川はいつの間にか俺の前の席に移動していたようで、身体を白金の方に向けながら俺に話しかけてきた。自由な時間って絶対席移動するよな。自分の席がいつの間にか使われてたらちょっと気まづくなるのも面白いところ。中学の時に経験したことがあるのが『うわ、来たよ』みたいな顔でこっちを見られたこと。俺に許可とってるならまだしも取ってない状態なのになんでお前らがそんな顔できんだよとは思った。

 

 

「はぁ……んじゃやるかぁ…。」

 

「ええ、頑張ってください。私もできる限りサポートはするので。」

 

「おー、さんきゅ。すげぇ助かる。」

 

手を上げて氷川に感謝を伝えると、俺は席を立って白金と共に教壇へ向かう。先生に何をするのか聞いた後、クラスメイト全員に何がしたいかの投票をする。この場合、中々候補が上がらないことが多いがこのクラスは仲が良いのでそういうので困ることは少ない。ポンポン出てきて黒板を生徒の案で埋め尽くしたため、最終投票の3つに絞るのに大変苦労した。基本的に俺が話して白金が黒板に書いていくという形。

 

 

「じゃあ最終投票してきまーす。みんなもう一回机伏せて自分のやりたいやつに手上げてくださーい。あれな、2回投票するなよ?俺気づけないから。」

 

最後に残ったのは定番のお化け屋敷、教室規模で出来るロールコースター、執事喫茶だった。最後だけなんかおかしくね?

 

「お化け屋敷がいい人~。」

 

まばらに手が上がる。ふむふむ。俺的にはお化け屋敷がいいかなとか思ってる。鍛え抜かれた人間観察力でどういうポイントでどういった脅かし方をすればいいのかは熟知してあるからな。白金は人数を数えて手元にあるメモ用紙にどんどん書き込んでいく。

 

「ロールコースターがいい人~。」

 

あまり上がらない。やはり制作期間が非常に短いことがネックなのだろう。白金は確かコースターとか苦手だったんだっけな…逆にそういうのめちゃくちゃ好きなのかと思ってたけど。

 

「はいじゃあ最後執事喫茶がいい人~。」

 

バッ!!!っと一斉に手が上がった。マジか…。氷川も丸山も手を上げているのを見ると、相当人気なことが分かる。

みんなのあまりの勢いに白金が驚いてペンを落とした。俺はそれを拾って人数を数えるが、10人を超えてから数えるのをやめて白金に『これで決まりだからもういいよな?』と耳打ちをする。それに伴って顔が近くなり、白金の顔が赤くなっているのが分かった。ごめんね、もうちょっとだけ我慢して。

 

「…はい……もう、大丈夫です…」

 

俺は頷くと、机に伏せているみんなに対してもう顔上げて大丈夫だと伝えるのと同時に、執事喫茶に決まったことを報告する。自分たちの希望が通ったのが嬉しかったのか、歓喜に沸いている。主に女子が。それを何時も氷川が抑えてくれるため、いったんこの場は氷川に任して俺と白金は先生に報告する。

 

 

「明日の放課後に集まりがあるから、忘れないようにね。」

 

「「はい。」」

 

 

「次何の授業?」

 

「…化学があって…その次に生物…だよ。」

 

「寝てるから後でノート見せてくれ。」

 

「いやだ…。」

 

「今日NFOのイベント周回オールで付き合うから」

 

「…いや…だ…。」

 

よし、この調子でどんどん引き込んでいけばなんとかなるな。

 

「あ。こんなところに東野〇吾の作品展のペアチケットが~。」

 

「………。」

 

白金が東野〇吾の作品が好きなのはすでに知っているため、当たればいいやみたいなノリで試しに応募したのが当たってよかった。まさかここで役に立つ日が来るとは…感謝します…あとあなたの作品大好きです。

 

 

「明日の放課後集まり終わったら連弾しよう。」

 

「…なら…いいよ……。」

 

勝った……!計画通り…っ!!

あ、明日バイトだ…オールでバイト行くことになるわ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「じゃあ師匠はこの後他の女の子と楽しく通話しながらゲームするんだ。今は彼女とのデートなのに。」

 

「ちょっと待てたえ。お前はいつ俺の彼女になった。」

 

地獄の5・6限を終わらして今は放課後。俺は学校帰りに一年生の教室へ寄り、たえを連れてから少し離れた商業施設まで来ていた。なぜ来たのかというと、新しいギター専門店が移転してきたとの情報をオーナーから手に入れたからである。一人で行くはずだったんだがたえも行きたいと言ってきたので一緒に行くことになった。

 

「同じ屋根の下で熱い夜を共に過ごしたじゃないですか…。まさか私とは遊びだったってこと…?」

 

「夏にゲリラ豪雨で終電無くなった俺がたえの家に泊まらせてもらっただけな。」

 

熱い夜じゃなくて暑い夜の間違いだし。ギターとかの話は確かに熱かったけどさ。

 

「ノリが悪い…。」

 

不服そうに口を尖らせたこのマイペースで可愛い後輩は花園たえ。オーナー経由で知り合ってギターを教えていたらありがたいことに慕ってくれたのか、俺のことを師匠と呼んでくれる。俺はたえのことを最初は名字呼びだったが、仲良くなってから名字で呼んでも返事をしてくれなくなったので『たえ』と呼んでいる。

 

 

「最近よくライブハウスで見るが、なんかあるのか?」

 

「実はバンド組んだんだ。みんな個性的で楽しい。」

 

「そうだったのか。ま、楽しそうで何よりだ。」

 

楽しんで音楽するのが一番いいからな。だって葉山達と組んだ時なんて完全に身内ノリで始めたからな。しかし、たえがバンドやるのか…最近ガールズバンドが巷で流行してるのか分からないが、如何せん俺の周りでバンドをやり始めるやつが多いから反応がどんどん薄くなってる気がする。ほんとならめちゃくちゃ嬉しいことなんだけどな。

 

「でもドラムがいない。経験者の子誘ってるけどあんま乗り気じゃなくて。」

 

「…訳アリか」

 

「その通り。」

 

 

その後、たえは今抱えてる問題について色々なことを話してくれた。

成程……俺にとってかなり親近感のある話題だな…。ついこの間まで悩んでたし。親が倒れて以来バンドへの情熱を抑えていることなんかはもう共感しかできない。確かに、この問題は少しセンシティブだし、接するなら慎重にだな。

 

 

「たえも、その香澄?ちゃんと同じ気持ちなんだろ?一緒にバンドしたいってのは。」

 

「うん。もちろん。私も、さあやとバンドしたい。」

 

「なら多少強引でもいいからまたセッションに誘ってみればいい。」

 

こういう時弦巻なら有無を言わさず誘うんだろうし、実際強引に誘われた俺は悩んだ末に決意を固めることもできた。たえならきっと大丈夫だろう。

そんな話をしていたらもう目的地に着いた。こじんまりとしたスペースにポツンとある茶色のドアを開けて店の中に入る。

 

 

「わぁ…。」

 

「すっご……」

 

壁中に吊り下げられたギターに、その傍には有名なギタリストのアー写などが額縁に飾られている。いかにも通な人向けの店に俺たちは感嘆の声を漏らした。

 

「師匠!師匠!見てこれ!」

 

「なんだ?……っておいこれって…!!」

 

たえが興奮した様子で見せてきたのはかつて俺とたえが最初に憧れたギタリストのCD。しかも伝説とまで言われたデビューライブの映像も特典で付いてくる。

なぜそんな興奮しているのか。そこまでの拍が付いた商品が売れないはずもなく、現在入手不可とされているほど売れたCDなのだ。値段も買えないほどではないし、これは衝動買いをしてしまうかもしれない…。入って数分でこれかよ…さらに思わぬお宝が見つかるかもしれない。

 

 

「…?このギターって確か…。」

 

「おぉ、そのギターに目を付けるとはお目が高い。」

 

店内を散策していたら、見覚えがあるギターを見つけた。たえは別で違うスペースを見ている。すると店主と思われる男性が話しかけてきた。

確かこのギターは世界的に有名なイギリスのロックバンドのギター「ブライアン・〇イ」が一度しか使わなかったと言われてるギターだよな…。まじでカッコいい…心の芯から震えているのを感じる。

 

 

「実はそのギター、本人から譲り受けたものでね。」

 

「まじか…っ!!」

 

「まさか君くらい若い子がこのギターを知ってくれてるとはね。弾いてみるかい?」

 

「い、いいんすかこんな若造に…」

 

「若造こそこういうギターを持つべきだと僕は思うよ。」

 

店主さんはギターを壁から外して俺に渡してくる。『チューニングは済ませてあるから。』と言いながら渡してきたため、ピックを貸してもらって試し弾きをしてみる。

 

 

「……♪♪!!っ~~~♪♪」

 

手が震えてうまく弾けないが、もう今は何も考えずにこの最高なギターを無我夢中で弾いていたい。

 

 

 

気が付いたら、俺は店主さんにギターを返していた。いつの間にか弾き終わっていたようだ。ライブを終えたような疲労感が押し寄せてくる。ふらっと貧血の時のような立ち眩みが俺を襲った。

 

「わわっ。大丈夫?師匠…。」

 

「っと…ありがとな。たえ。」

 

後ろへのけぞった俺を支えてくれたたえに感謝して体勢を立て直しす。頭にポンと手を置いて礼を伝えた後、そろそろ遅い時間なので帰ろうと店を後にする。

 

「…?どうした?」

 

「……いや、撫でるならちゃんと撫でてほしいなって。」

 

「はいはい。可愛い弟子の頼みだしな。」

 

「んっ。…やっぱ師匠のなでなでは気持ちいいね。」

 

たえがこうやって甘えてくれるのは久しぶりのため素直に応じる。このくらいのスキンシップはたえにとっては普通らしく、俺もそれに影響されてスキンシップが平気になった。

たえは俺に寄りかかりながら帰ろうとしてるため、特に拒むこともなく俺たちは肩が触れ合う距離感を保ちながら帰路についた。

 

 

 

「あ、たえ。これやるよ。」

 

「なに?…ってこれ…!!」

 

俺が渡したのは先ほどのCD。たえが別のところを見ている隙に買っておいた。しばらく節約生活すれば生きていけるし全然痛くはなかった。だいぶ遅くなったが入学祝ということで。

 

「…いいの?ほんとに…?」

 

「高校入学おめでとう。今度は先輩後輩としてよろしく頼むな。」

 

「ありがとうっ!!大切にするっ!」

 

抱き着いてくるたえを受け止めて頭を撫でる。喜んでもらえてほんとによかった。

 

 

そのあとは普通に家に帰った。ちなみに白金との約束はしっかりと守ってオールした。次の日、Circleで今にも死にそうな顔をしたアルバイトの人がいたそうな。みんなはオールしてバイト行くのやめようね。

*1
Future World Fesの略。Bang Dream!の世界において世界規模の音楽フェスティバルのこと。Roseliaにとってこの音楽イベントは最大の目標であるため、バンドストーリーにおいて重要な役割を担っている。




葉山隼人
急に八幡から電話がかかってきて内心ガチ焦りだったらしく、寿命が短くなったそうな。軽口叩き合える仲なので普通に親友的ポジションにいる。

白金燐子
めちゃくちゃいい声で八幡に耳打ちされたため、新しい扉が開きそうになった人。しばらくASMRで八幡に似てる声を探して寝る前に聴いてる。ちなみに八幡も燐子の耳打ちにドキッとした。

氷川紗夜
実は執事喫茶に手を挙げてた人。出し物がこれに決まった時は心の中で歓声をあげてた。八幡と出かけたところを双子の妹に見られていたらしく、妹が八幡に興味を抱いてることに危機感を覚えている。

丸山彩
ファンにはサービス旺盛なアイドルの鑑。八幡がライブに来たらいつもより笑顔があふれてSNSで『丸山彩彼氏いる説』が浮上する。尚、本人はそれを見てにやけているそう。

花園たえ
師弟関係から先輩後輩の関係になったため八幡の呼び方で少し悩んでる人。友達想いで優しい天然美少女。八幡曰く、デレた時の破壊力は尋常じゃないとのこと。

比企谷八幡
好きな女性のタイプは椎名林檎。たえや小町など周りにいる距離感近い系女子に影響を受け、意外とパーソナルスペースが広い。ただしDTである。




はい。今回はここまでです。
次回はハロハピの話に戻ってどんどん進んでいきます。終着点は特に決まってないですけど、グダグダやるのはよくないかなと思い、いつかちゃんと決めたいと思います。
では皆さん、よいお年を。また次回で。
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