「速報!速報です!現在市内の銀行にて強盗犯が現金を奪い逃走しています!」
「さぁ、次のポイントまで少しだ。気を緩めずに進むぞ」
「「へい」」
強盗犯の三人組は器用に金を入れた袋を持ちながらも素早くバンに乗り込んで、防犯カメラの少ない道路を少し走らせた後に、バンを置いて路地の入り組んだ場所に入っていく。
誰かの指示があるのだろうか。三人のうちの一人が片耳にイヤホンをあてがって険しい表情をしている。残りの二人も周辺の警戒に当たっている。
刹那、一人が物陰に動くものを見た気がした。
「頭、追ってですぜ」
「……わかった。上からの指示は一旦置いておく。始末からするぞ」
「「了解」」
一人の男がなにやら機械を通して周辺を見回す。
「隠れていてもバレバレなんだぜ。個性はテクノロジーで補えるんだからな」
男が持っていたのは生命反応を検知する類の機械だった。そのレンズにははっきりと、ゴミ袋の後ろに息をひそめる目撃者の姿を捉えていた。
物陰に隠れていた男はあきらめたかのように素直に表に姿を見せる。その左腕には何やら黄色く光るごつい機械をはめており、なにやらカードのようなものを装着している。心なしか1600という数字と,Opponent's turnという文字が見える。
「お前ら、誰の命令だ。どんなやつと繋がっている?」
一見15、6歳と見える少年、少女だろうか。髪が肩よりも長く伸びているため表情は見にくいが、その言葉ははっきりと聞こえる。声の高さも中性的で、なかなか区別がつかないが恐らく男だろうそれが髪の隙間からちらと見せる瞳には、強盗をするような野蛮な男たちでさえ宿している生の執着が全くない。それは虚無だ。
頭と呼ばれた男は先ほどよりも警戒を固め、アイコンタクトで後方二人に指示を出す。二人は少し特殊な銃弾を装填したハンドガンを背後で構える。そのうち一人は、威嚇も兼ねて少年の足元に銃弾を一発放った。
が、判断は少し遅かった。少年が左腕にはめているものに映っている文字が、Your turnに代わる。突如、それからカードが一枚抜かれ、少年は何かをぼそりと呟いたのち、機械に差し込んでいたカードを一枚裏返してもう一度差し込んだ。
「罠発動。聖なるバリアー、ミラーフォース」
痛みもなく、声も上げず、拳銃を構えていた二人は一瞬にして粉々になった。並々ならぬ警戒心を向けていた男ですら、いつそれが起こったのかはわからなかった。唯一わかっているのは、明らかに少年の腕にはめられている機械と、一枚のカードが原因だということ。
少年は、人を二人殺してもなお喜怒哀楽を移さない無気力な瞳を男に向ける。
「お前たちに、指示を出している男は?」
次はない、といった語気だった。男もバカではない。このようなことに手を染めてから今日に至るまでさまざまな危機に瀕してきたが、それでもなお男が男たるのは持ち前の生への執着と危機察知能力だろう。
「わかった。正直に話す。だからお前もそれを構えるのをやめてくれないか」
「……できない。でも、今は何もできない」
少年はOpponent's turnという文字を見せる。男はこの少年がギミックを明かしたことと、印象から嘘をついていないと判断。男も話を始める。
「これのあらましは、全部で6つにわたる強盗だ。狙いは金と、その場所で起こしたという事実。指示を出している奴は、名前は明かしていない。Xと名乗っていた」
「……Xか」
少年は表情を変えないが、どこか落胆したようだった。
「違う」
「……は?何か望みの情報ではなかったか?」
「違った」
男は壊れた機械のように違う違うと呟く少年が怖くなった。ただでさえ仲間が二人消し飛ばされているのだ。男はこの間に尻尾を巻いて逃げようとバンを止めてある方向に走り出した。
後に男は、これを境に裏の世界から足を洗って警察に自首をする。そのとき初めてこの少年の情報が警察へと伝わる。
「まだ起動している……生きてる」
少年の名は榊優香。ここ数年連続で発生している不審死体の元凶であり、左腕の機械や強大で未知の力を持っていることも相まって瞬く間に社会にその脅威が知れ渡り、何かを探しているようだったことから敵名:捜索者(サーチャー)として正式に登録され警察に指名手配されることになる。