19時06分、銀行の上空で風船が爆発する。規模は地上まで届かないような小さな爆発だが、区域内にいるほぼすべての人間の注意がこの爆発に向く。
「もーらい」
その声にいち早く反応したのは、平和の象徴オールマイト。爆発の規模からそれがブラフだと判断し、声を出したものを目でとらえないうちから、声が放たれた場所であろう場所を五感を研ぎ澄まして、体の感覚のままに全速移動する。
「捉えたぞ!敵!」
「さすがはNo.1ヒーローだ!だが、これでもまだ遅いなぁ!」
オールマイトを前にしても尚息巻く男は、オールマイトの拳が自身の体に当たるよりも前に、顔の前で印を結ぶような身振りをする。
「これでお前の時代も終わりだ!」
19時06分42秒。左腕の機械の文字がYour turnに変わる。少年は、類まれな身体能力を以て廃アパートを飛び出し、目前の銀行に迫る。
少年の視界でもオールマイトと、オールマイトと交戦せんとする男の姿を捉えていた。無論男の結ぶ印すらも、どのような印かさえはっきりと確認していた。
「見たことないからわかんないな」
少年は、その境遇と歩んできた人生以外はごく普通の10代であるため、雑学の分野もあまり詳しくはない。故にその印が何を意味しているのかは分からなかったが、男がどのような指の組み方を、どのような順で行ったかは持ち前の記憶力で完璧に把握することができていた。
「……やっぱりわかんない」
が、把握できただけであった。少年は警察の包囲網を突破するべく、そのすぐ傍に立地している住宅の屋根にすたりと降り立つ。
「……あれは?」
オールマイトと男が立っている場所を起点として、紫色の線が地上絵のように走っていくのが、よく見えた。それは綺麗な正六角形を描くようにして走っていき、対角を何かを描くようにして結んでいく。
ここまで来れば、少年にもこの男の狙いと、おそらく個性なのだろう力の推測ができた。
「六芒星……」
「個性が、発動しない!?」
オールマイトが放った拳は、男のもとに届くまでに劇的に勢いがなくなり、それは凡人が放ったようなへこたれたパンチとなっておとこの腕に当たった。男はもちろん無傷であり、逆にオールマイトはというと筋骨隆々で彫刻にもなされたその体の曲線美や威厳など全くなく、そこにいたのは自らの体格に合わないだぼだぼのコスチュームを纏った貧相な体の男が唖然としているだけであった。
「ほほぉ……平和の象徴の実態はこんなごぼうみたいな奴だったとはな……計画を進めるのにとってもありがたかった住民の避難が今では心底惜しいよ」
「……貴様、一体何をした!」
「言っただろう?お前の時代はもう終わったんだよ。世の中に平和なんてあっちゃぁ、人類は先へ進めない。スリルとイリーガルがあってこその自由な世界だろう?」
男は頭上で閃光弾を放つ。その光を目印に、どこから出てきたのか銃や近接武器を装備した集団が現れる。
「俺はあんまり個性が好きじゃねぇからさぁ……ステゴロ大決戦と洒落込もうや。平和ボケジジィ」
時間にして僅か二分弱。戦況が一気に傾く。