神災課と狂犬   作:Ⅵ号鷲型

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神災課小話になります。


なんて事ない日の発端

「またねー!!」

「うん、明日ね!」

 

 ○○県立第二高校に通う黒く腰まで伸びた長い髪をポニーテールで結わった女子高校生は、同じ制服を着た友達に手を振りながら別の帰り道で別れる。

 冬が近付き、冷たい風に落ちた枯葉達が舞い踊る。その帰り道を一人の女子高校生は歩いていた。

 ポニーテールの女子高生、川嶋美結の何一つ変わらない何時のも一日が終わる。

 とはいえ、帰ってもやる事はある。家に帰ったらまずは干していた洗濯物を取り込まなきゃ。

 

 そんな彼女のスマホに、通知音と共に一通のメッセージが届く。

 送り主はさっき別れたのとはまた別の友達からだ。

 明日は休みだから、どこかへ遊びに行く誘いかなっとメッセージを開いた。

 

《20:00に供物を探し、いつもの廃工場に集合。

 夜刀ノ神様のご加護がありますように》

 

 たった二行のメッセージだがこれだけで美結はなんの誘いか理解し、ほんの少しだけ表情が引き締まる。

 今日も夜刀ノ神様に御奉仕しなきゃ。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 同時刻

 

 ○○県立第二高校のある△市。

 小さな倉庫が併設されている傾いた一軒家から軽やかな破裂音が響き渡った。

 

「ちっくしょう。こうもチンケな犯罪者シメても暇潰しにもなりゃしねぇ。

 せっかく意気揚々と武装して来てやってんのによ」

 

 そう言いなが僅かな穢れと血溜まり、そして人間だったモノが散乱する部屋の中に黒いスーツと黒い髪を短いポニーテールで結わった女は独り佇む。

 その顔はどこか物足りない不満げや顔で人間だったモノを見下ろす。せっかく弾薬から愛用の短刀型黒不浄まで持ってきたというのに、使うまでもなくあの世行きとは情けない。

 

「課長から久々にぶっぱなして良いって許可もらったのによ…………」

 

 はぁっと大きくため息を吐いて、硝煙が薄らに立ち昇る愛用の拳銃、M1911 コルト・ガバメントを懐のホルスターへと仕舞い込む。

 正気が少しでもあればこんな所に長居はしないだろう。だがこの異常者にしか見えない女、賀茂優樹菜は動かなくなった人間だったモノを羽織ってジャケットを強引にまさぐった。

 どう見てもヤクザの構成員にしか見えないが、れっきとした呪詛犯罪に対応する警視庁神災課に所属する警察官だ。他の警察官とは違うのは彼女の引くトリガーは以上に軽いという事くらい。

 

 その神災課から送り込まれた刺客が訪れた一軒家は、元は呪具密売業者の拠点。

 それが神災課の"ガサ入れ"にやってきた優樹菜によって壊滅させられるという憂き目に遭う。構成員はたったの三名という草の根程度の規模だが。

 優樹菜にとっては不満だったのだろう。もう少しは狩りを楽しめそうな獲物と期待していたのが間違いだった。

 とはいえ、手ぶらで帰る訳にもいかない。

 

「ちくしょう、何もねぇじゃねぇか。せめて携帯の一つくらい持ち帰らねぇとまた課長にお小言貰っちまう」

 

 とかブツブツ言いながら、品の良いスーツを着た肥満気味の男だったモノのポケットから出てきたのは最新機種のスマートフォン。スーツといい、スマートフォンどれも値段の張るものばかり。それなりの収入源があった証拠だ。

 今ではその収入源すら聞けないが、草の根程度の業者がこれほど羽振りが良いとは思えない。

 確証はないがこの業者の裏に何かいる。それは警察官としての勘か、はたまた犬として鼻が効いたのか。

 

「コイツはまたクセェ臭いがプンプンしてきたなァ…………」

 

 スマートフォンを持ち込んだ黒い袋に突っ込み、あとは置いていったパソコンのハードディスクを丸ごと詰め込む。さらに隙間には使えそうな書類を詰め込んでいく。

 僅か数分で色々と収穫物を詰め込んだ袋は歪に膨らみ、その重量もなかなかだ。

 しかし優樹菜はそれを軽々と担ぎ、最後に部屋を見回した。

 血溜まりと遺体、荒れた床、ひっくり返って真っ二つになっているテーブル。しかし壁に弾痕や穴は空いていないし、炎上もしていない。我ながら今回はかなり荒らさなかったと言える。

 

「悪い子にやってくる悪いサンタクロース。お仕置としてプレゼントは貰ってくぜ? 

 ほっほっほっー。メリークリスマス」

 

 優樹菜はガチャりと入ってきた玄関の扉を開け、路肩に停めていた黒いセダンへと歩き出した。

 後処理は処理チームに任せてやればいい。だが、連絡を入れた時点で容疑者全員が死亡しているのは課長の耳にも入っているはず。お小言確定なのは間違いない。

 

「はぁぁぁぁ。なーんて言い訳しようかなぁ。収穫物がしょぼかったらまた小一時間はお説教だ」

 

 これからを思うと面倒くさい未来しか見えない。大きくため息を吐いてからクルマに乗り込み、エンジンを掛けてゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 車を走らせて警視庁本部庁舎に戻る頃には夜になり、夜空には三日月が浮かんでいた。

 そして優樹菜の姿は庁舎内にある神災課長のオフィスにあった。

 そしてオフィスの主であり神災課のボス、那須原課長に現在進行形でデブリーフィングという名のお説教中。当たって欲しくない予感ほど当たるもの。

 

「それで、結果から言うと貴方は呪具密売業者を全員地獄に送ったと? 賀茂捜査官?」

「あー、えー、えっと、まぁそう………… なりますねぇ…………

 もちろん、初動は"平和的協力"を求めまたしが、向こうが黒不浄を抜刀したので"厳しい対応"に切り替えたまでで…………」

 

 悪びれる素振りを見せるが、どうせ反省していないと見抜かれているに違いない。この課長の前でウソは付けない。それは神災課に入ってから嫌という程思い知らされた。

 黙りを決め込んでもお小言は止まらない。とはいえ下手なことを言ったら火に油を注ぐ羽目になる。さて、どうやって収めよう。

 そう思っていた時、那須原課長の口がゆっくりと開いた。

 

「貴女の"やり過ぎ"はいつもの事。それに今回はまだ規模が小さいし、それ以上の収穫を見つけました。

 とはいえ以後、撃ち合いはきちんと話をしてからにしましょう。宜しいですか?」

 

 うっすらと開いた黒い瞳が自分を見透かしているようで少しゾッとする。口調こそ柔らかいが、要は次はないという警告にすぎない。

 が、それよりも気になるのはその後だ。

 

「課長。収穫ってのは押収品の事で? 

 あんな下っ端にそれほど価値があったとは思えないな…………」

「もちろん、彼等は使いっ走りに過ぎない。けど取り扱っていたものが興味深いのです」

 

 そう言いながら課長が手渡してきたのは押収品の解析した結果がまとめられた二枚の報告書を受け取った。どうも持ち帰った容疑者のスマートフォンとパソコンから得たデータの解析が終わったらしい。相変わらず仕事が早い連中だ。

 

「時間がある時にでも読むと良いでしょう。

 私からはそれだけです」

「…………分かりました。失礼します」

 

 パタンと扉を閉めると同時に盛大にため息を吐く。お小言拘束時間は呆気なく終わった。

 しかし、それがまた次の仕事が差し迫っている証でもある。

 

「とりあえず、溜まってる書類何とかすっか…………

 はぁぁぁぁ。めんどくせぇ…………」

 

 とぼとぼとオフィスへと歩く優樹菜の足は重い。これから面倒かつ苦手なデスクワークが待っている。

 それにあの報告書だ。課長曰く、興味深い内容てまあると言っていた。

 こういう時は決まって面倒な事案に発展しているケースが殆ど。そしてこの報告書の書いてある内容次第では新しい事案の担当になりかねない。

 

 人気のない廊下に靴の音を響かせながら、優樹菜はこれからのやる事を脳内にリストアップしていく。

 どれから片付ければ仮眠時間が取れるだろうか。

 そして、二分程度考え出した結論をポツリと呟いた。

 

「今日の夜食、どうすっかな…………」

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