カチカチと複数の無機質な音が響く。打鍵音が鳴る度に目の前のモニターからは様々な攻撃音とキャラクターのボイスが流れてくる。
「くっ……!」
敵は一人、こちらは三人。なのになかなか攻めあぐねている。正直相手の攻撃を受け流すのが精一杯。
とはいえ、このままではジリ貧だ。受け流すと言っても全くのノーダメージではない。最悪なのは誰かが倒されて人数差が縮まってしまうことだ。
隣に座るチームメイト、アリスとミドリに一瞬だけ視線を向ける。二人も考えは同じなようで、小さく頷き返してきた。
先陣を切るのは高速アタッカーを使うミドリ。素早く敵の脇を抜けると挟み撃ちの形に持ち込む。二方向から遠距離攻撃を打ち込む。即座にその状況は打破しようと私とアリスから距離を取る。つまりはミドリに向かって突撃する。
「うわっ、くっ! ――あっ、まず!」
なんとか耐えようとしたミドリだったけど、シールドが割れた瞬間スマッシュ攻撃を当てられ、場外へと吹き飛ばされてしまう。
これで二対一。けれどこれは想定内。その証拠に、無理にミドリを倒した代償として相手はかなりのダメージを受けている。アリスと共に距離を詰める。
二人がかりだというのに容易く捌かれる。多少ダメージは与えれらているけれど、決定打には至っていない。むしろこちらの被害の方が大きいくらいだ。
強攻撃が当たって私のキャラが吹き飛ばされる。幸い場外までは行かなかったけれど、せっかく詰めた距離が開いてしまった。いや、これは逆に都合がいい。アリスが張り付いている間にこの位置からチャージタイプの遠距離攻撃を打ち込み続ける。フレンドリーファイアはないので、この攻撃はすべて敵のみの脅威。さしもの相手も苦しいだろう。
「あっ――!」
実際その通りだったようで、状況を打破するために敵は私の攻撃にわざと被弾しながらアリスに強攻撃をぶつけてきた。アリスの操作キャラが勢いよく上空に打ち上げられる。このまま画面外で場外扱いになるだろう。
「ヒナ先輩、任せました!」
「ええ」
けど、こここそが好機。先程のダメージで相手は十分に確殺圏内。そして先程の強攻撃は発生後に長い硬直がある。今なら確実に攻撃を当てられる!
再度距離を詰め、スマッシュ攻撃を繰り出す。技の発生タイミングは完璧。当たれば確実に場外へその身体を運ぶ攻撃。
それが当たる直前――
「え」
キン、という音と共に攻撃が弾かれた。
一体何が。ジャストガード? 確かに攻撃の当たる直前にギリギリ硬直が切れるかどうかというタイミングだったけれど、それをここで完璧に出したというの?
突然の自体にまるで戦闘中のように思考が駆け巡る。その速度、量に押され、ゲームの操作がおろそかになってしまう。
「あ」
そんな明確な隙が見逃されるはずもなく、返しの攻撃で私のキャラが一気に場外へと吹き飛んでいき、消滅のエフェクトが弾ける。。
画面に表示される「GAME SET」の文字。それは私たちの敗北を示していた。ピン、と張り詰めていた空気がほどける。
「流石ね、ユズ」
「いえ、結構運勝ちだったというか、ヒナさんがもう少し手前にいれば負けてました」
唯一の勝者であるユズが講評を口にするが、これは謙遜だろう。あの状況をこの子はまるで詰将棋のように考えていた節がある。おそらく私がもっと手前にいれば、行動を変えていたに違いない。それだけ素人目にも彼女のゲーム技術は卓越しているのがわかった。
まあ今回は詰将棋の段階まで持っていけただけでヨシとしておこう。
「ヒナ委員長、この間と比べるとすごい上手くなりましたよね」
「そう? 練習した甲斐があったわね」
先日ゲーム開発部と遊んだ後、すぐにゲーム機ごと自分用に購入して練習をしていたのだけれど、その成果はちゃんと出ているらしい。まあ確かに、この間の完全初心者だった私であれば三対一の消耗戦が始まる前に倒されていたことだろう。それがわかるだけでもちょっと嬉しいものだ。ピアノや料理でも思ったことだけど、自分の成長が実感できるのは楽しいものね。
「じゃあ次は――」
「邪魔すんぞー……あ?」
後ろで観戦していたモモイが次の対戦カードを決めようとした時、ガチャリと扉が開く。反射的に全員が振り返ると、入ってきたのは派手なジャンパーを着た小柄な少女。
そんな彼女、美甘ネルは私に気づくと鋭い目つきを更に鋭くさせる。写真では感じることのできない威圧感が肌を刺す。流石はミレニアムの最高戦力。隙が全く感じられない。ありえない話だが、ここで私が攻撃の意思を見せた瞬間に彼女の携える二丁のサブマシンガンが火を吹くことになるだろう。
「……なんでゲヘナの風紀委員長がここにいるんだ?」
「遊びに来ただけよ」
遊びー? と訝しげな視線を返してきた美甘ネルだったけれど、他の四人の表情を見て一応は納得したのだろう。まとっていた警戒心が少し緩む。
「一体どういう経緯で知り合ったんだよ。接点ねえだろ」
「空が赤くなったときの戦いで……」
「あー、そういえばあの時はメンバーごった煮で戦ってたな」
当時の私は基本ただの戦力の一つとして動いていたから、キヴォトス全域の状況まではわかっていなかった。それは彼女のも同じだったのだろう。私はアコが指揮メンバーにいたから後々詳細を知ることができたけれど、C&Cは全員実働部隊でミレニアムの指揮メンバーはセミナー会計の早瀬ユウカと直属の部活所属の明星ヒマリだったはず。ことの詳細までは聞かされていないか。
「そうです! ヒナ先輩は先生が言っていた通り、カンストガチ勢でした!」
「へぇ……」
なんだか別の意味で視線が鋭くなった気がする。まあ、互いに三大校の最高戦力に名を連ねる者同士、相手の強さを肌で感じてみたいという思いは当然かもしれない。私自身多少の興味はあるし。
とはいえ、流石にここで戦いましょうとはならない。ミレニアムを壊すわけにはいかないし、いかに模擬戦と言い訳したところで外交問題になってしまう可能性は拭えない。なにより絶対マコトが面倒事起こすし。
相手もマコトの性格までは知らずともそれは理解しているようで、そんな提案をしてくることはない……が、つかつかと部屋に入ってくると、モモイの握っていたコントローラを奪い取りながら私の隣にどかりと腰を下ろしてきた。
「終点、道具なし、タイマンだ」
「……まあ、いいけど」
実際に銃を向け合うよりはだいぶ平和的だろう。ゲーム開発部の子たちも依存はないだろうし……いや、そもそも一年生が三年生に文句とか言えないのでは? アリスが目を輝かせているから、多分大丈夫か。
所詮はゲーム。この結果が学校のエースとしての序列を決めるものではない。
「さあやるぞ!」
「ええ――!」
とはいえ、だから負けてもいいなんて理由にはならない。勝負なのだから、ここは勝たねば――!
「くっそー!!」
「ふう……」
結果から言えば、勝負は勝った。なんなら割と余裕のある勝利だった。
勝因はいくつかあると思う。直前にゲーム巧者であるユズと対戦していたからとか、そもそもなんだか今日は練習していたときより調子がいい気がするとか。
ただまあ、決定的な理由を内心でだけあけすけに言うのであれば。
「あなた、詰められたときにボタンを適当に押すだけじゃダメよ?」
美甘ネル、シンプルにゲームが下手!
というか、守りが弱い。攻めはなかなかのものを感じられたけれど、守る場面だったり予想外の自体に陥ると途端にガチャガチャと適当にボタンを押し始めるのだ。そこを突いてしまえば割とあっさり勝負がついてしまった。
「そうです! ネル先輩はゲーセンでもしょっちゅうレバガチャをします!」
「ぐ、揃いも揃って……っ」
アリスからも指摘され、彼女のこめかみに青筋が走る……が、流石に三年生を威厳があるのかぐっと言葉を飲み込んだようだ。
「もう一回だ!」
「えぇ……」
しかし、諦めるという考えはなかったようで、再戦を要求してきた。まあ確かに美甘ネルの使うキャラは一撃が重いタイプだから何度か対戦すれば負ける可能性はあるけれど……流石にこれ以上二人で占有するべきじゃないんじゃない?
「ずるいです! アリスもバトりたいです!」
「そうだそうだ!」
「う……しゃあねえ。また今度再戦だからな!」
「ええ、わかったわ」
まあ、ゲームでの対戦なら――時間があれば――いくらでも楽しめる。確かこのゲームってオンライン対戦もできたはずだし、それなら彼女も満足するだろう。
後でモモトークの交換をしておくか、と頭の隅で考えつつ、自分のキャラを選択する。他のキャラはまだあまり触ったことがないのよね。できれば全キャラ扱えるようになりたいところだ。
「先制攻撃です! 光よ!」
「「うわああ!?」」
あ、美甘ネルとモモイが揃って吹き飛ばされていった……。
なお、軽率にもモモトークを交換し、ゲームでフレンドになった結果、翌日明け方まで対戦に突き合わされて寝不足に陥る羽目になってしまった。次やるときは眠くなったらゲームの電源を落とそうと思う。
空崎ヒナの趣味……睡眠、温泉巡り、虎丸での散歩、料理、水族館、音楽鑑賞、お菓子作り、傭兵バイト、給食部バイト、キラキラ部、ゲーム。
補足説明。
通常時のヒナのゲームテクニックはおおよそアリスと互角くらい。コツコツ練習しているのでコンボとかも人並みに出せるようになっています。休みの日はここにバフで反射神経が上がっているのでもうちょっと強いくらい。なお、それでもユズには勝てません。流石はミレニアムの最終兵器に成り上がった女……。
ネルは原作でアリスに五十連敗していた頃から成長し、攻撃時のコンボはいい感じに仕上がっていますが、焦るとレバガチャしてしまう状態です。攻撃全振り。
ゲーム戦力図は以下の通り。ゲーム開発部なのに私の中でのモモイのゲームスキルが高いイメージが全然湧かない!
ユズ>>>休みの日ヒナ>アリス=通常ヒナ>=ミドリ>ネル=モモイ