だが引き受けた以上は、最後までやり通すんだ。
それが責任ってもんだろ、『V先生』?
リンの案内で乗り込んだエレベーターからは、外の景色がよく見えた。
すごい景色だ
建築様式が古いな 知力9
ガラス張りだと狙撃されそうだ 肉体9
"エレベーターはガラス張りなのか…ガラスにはあまり良い思い出がないんだが。"
「そうなのですか?」
"外から丸見えだ、狙撃の良い的になる。"
「あぁ…それならご安心ください、連邦生徒会所有の施設は全て防弾仕様になっていますので。
ロケットランチャーや戦車砲でもない限り有効なダメージは無いはずです。」
"そうか…ずいぶん厳重だな。"
「それがここ、キヴォトスという場所です。」
セキュリティが厳重なんだな
銃撃戦が多いんだな 反応9
"それだけ銃撃戦が頻発してるってことか。"
「お察しの通りです。ここキヴォトスは数千の学園が集まる都市であり、その住民の殆どが銃を所持しています。」
"ナイトシティと似てるな、むしろ安心したよ。"
「………そうですか。」
リンは何か腑に落ちない様子だったが、ひとつ咳払いをして説明を続ける。
「キヴォトスはV先生に、これから働いてもらう場所でもあります。
連邦生徒会長の不在で行政権が麻痺しており、各地で問題が山積みでして…先生のお力を借りねばなりません。」
"なるほど…ひとつ聞いていいか?"
「なんでしょう?」
「先生」ってどういう意味だ?
連邦生徒会長はどこにいる?
"さっきから俺を「先生」って呼んでるが、いったいどういう意味だ?"
「先生は、キヴォトスの外からお招きしたフィクサーとお聞きしています。
連邦生徒会長が直々に指名した大人だとか。私としても期待しておりますよ。」
連邦生徒会長はどこにいる?
"連邦生徒会長が不在って言っていたが、今はどこに居るんだ?"
「それは………分かりません。」
"何だって?"
「突然失踪したきり、足取りが一切掴めていません。」
"俺を呼んだのに、か?ずいぶん無責任な依頼人がいたもんだな。"
「申し訳ございません…」
"謝らなくていい…リンは悪くないだろ。連邦生徒会長とやらに会ったら直接文句の1つでも言ってやるさ。"
そんな話をしているうち、エレベーターは地上階へと下りきったようだ。
開いたドアを抜けるや否や切羽詰まった雰囲気の少女たちが駆け寄ってくる。
「やっと見つけた…代行!待ってたわよ、早く生徒会長を呼んできて!」
「主席行政官、お待ちしておりました。」
「風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています。」
それを見たリンはあからさまに嫌そうな表情を浮かべていた。
「あぁ…面倒な人たちに捕まってしまいましたね。
こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。
こんな暇そ…大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています。」
("嫌味にしてもずいぶんストレートだな…")
本当に内心を隠そうとしててコレなら頭を抱えるレベルだが、まぁわざとだろう。
ともかく来たばかりで状況もよく分かってない俺は、気配を消して静観することにした。
「今、学園都市に起きている混乱の責任を問う為に…でしょう?」
リンの発言でついに堪忍袋の緒が切れたのか、詰め寄ってきた少女たちは口々に被害を訴え始める。
「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!?
数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ!?この前なんかうちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました。」
「スケバンのような不良たちが登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。
治安の維持が難しくなっています。」
「戦車やヘリコプターなど、出処の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。
これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます。」
なんともまぁ、聞けば聞くだけ厄介ごとのオンパレードだ。
というかヘリコプターって…AV*1じゃないのか?
そういえばエレベーターから見えた町並みは映画でしか見ないような、コンクリート剥き出しでネオンやホロビジョンの1つもない物だったな。技術レベルがそこで止まっているのかもしれない。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの!?今すぐ会わせて!」
「連邦生徒会長は現在席におりません…正直に申しますと、行方不明になりました。」
「…は?」
「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。
認証を迂回できる方法を探していましたが…先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした。」
青髪にツインテールの少女はのらりくらりと躱すリンにどんどんヒートアップしていったが、その一言で凍りついた。
代わるように大きな翼の生えた黒髪の少女が反応する。
「それでは、今は方法があるということですか、主席行政官?」
「はい、この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです。」
"ちょっと待ってくれ、俺はフィクサーじゃなくて傭兵だぞ。"
「あぁ…すみません、今のは先生の恐らくおっしゃっている『フィクサー』ではなく『影響を与えて状況を変える者』全般を指すものです。」
そういうものか
原義の方だな 知力6
"…ああ、原義の方だな。"
「はい。」
「ちょっと待って。そういえばこの先生はいったいどなた!?どうしてここにいるの?」
「キヴォトスではない所から来た方のようですが…先生だったのですね。」
青髪の少女と黒髪の少女がそれぞれ反応する。
見慣れない人間が近くにいるのに無反応とは、これ見よがしに銃を吊るしている割にはずいぶんと危機感の薄い子たちだな。
「こちらのV先生は、これからキヴォトスで働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です。」
「行方不明になった連邦生徒会長が指名…?ますますこんがらがってきたじゃないの………」
"えーと…初めまして、Vだ。"
「こ、こんにちは先生。私はミレニアムサイエンススクールの……って、今は挨拶なんかどうでもよくって!」
「そのうるさい方は気にしなくていいです、続けますと……」
リン…さっきからすごい辛辣だが、方々から恨み買ったりしてないだろうな。
「誰がうるさいですって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」
"あぁ、よろしくユウカ。"
青髪の少女…もといユウカに挨拶を返すのを見計らってリンが話を本題に戻す。
「先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げたある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。」
"『ある部活』?"
「連邦捜査部『
連邦組織のため、キヴォトスに存在する学園の生徒たちを制限なく加入させることも可能で…各学園の自治区で、制約なしに戦闘を行うことも可能です。」
なんだそりゃ…いくらなんでも無茶苦茶すぎる。
"そんなものが必要なぐらい、キヴォトスの秩序は崩壊してるのか?"
「…否定はできません。」
"マジかよ…"
「なぜ連邦生徒会長がこれほどの権限を持たせたのかは分かりませんが…まずは先生に回収してもらいたいものがあります。」
"分かった…何を回収すればいいんだ?"
「シャーレの部室はここから約30キロ離れた外郭地区にあります、今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令でそこに『とある物』を持ち込んでいます。
まずは先生をそこにお連れしなければなりません。」
そう言うと、リンは端末を取り出す。
キロシで端末にスキャンをかけようとして、気づく。
("データ照会ができない…いやそもそもデータリンクが繋がらない?")
俺が実装している眼球用サイバーウェアは高級品だ、形状さえ目視できるなら高精度なスキャンによって大抵のものは情報が得られる。まして電子機器にデータリンクが繋がらないはずがない。
馴染みのリパーだったヴィクターによってNCPDデータベースにもアクセス可能なパッチを当ててあるから、閲覧権限が無いなんてことも考えづらい。
…となると、考えうる可能性は2つ。
キロシがイカレたか、そもそもデータリンクが繋がらないか。
試しに自己診断をかけてみる―――システム・オールグリーン、ならデータリンクか。
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なのだけど。」
『それって郊外の?あそこ今大騒ぎだけど?』
端末からホログラムが投影され、そこに映る短いツインテールの子とリンが話しはじめる。
ホロコールも無いのか…いや、いまさら気づいたが俺意外誰もサイバーウェアを付けていない。
もしかしてキヴォトスの技術レベルってかなり低いのか…?
そんな疑問をよそにモモカと呼ばれた少女は話を続ける。
『矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの、そこは今戦場になってるよ。
連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?』
戦車まで持ち出して暴動とは、ずいぶん気合の入った連中だ。
今まで見聞きしてきた状況と合わせて考えると…生徒というのは俺の知る『教育機関に通う子供』という意味とは少し異なるようだし、停学中の生徒ってのはギャングみたいなものか。
『それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事な物でもあるみたいな動きだけど?
まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な…あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!』
マイペースな子だな
"なんというか、ずいぶんマイペースな子だったな。"
「ええ…ですが。ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです。」
一度眉間を押さえてから、リンは顔を上げるなりそう言った。
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう。」
「ちょっと待って!ど、どこに行くのよ!?」
困惑に満ちたユウカの叫びには…悲しいかな、誰も答えてはくれなかった。
杖のエース、小アルカナの1つね。
杖は創造力や行動力の象徴…その最初のカードとなれば、出発点として強い意味を持つわ。