TS転生後の静かな高校生活は愛が重い子たちに囲まれておしまい!   作:あずももも

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2話 TS転生ジャンガリアンハムスターな高校デビュー

「この本、良かったよ。 こう、余韻があって良いよね」

 

「え……ぎ、ぎんどうさん……それ、1日で読んだの……?」

「銀藤さん、読むの、早いから……」

「アニメとかも、布教するとすぐに観てくれるし……」

「優しいよね……」

 

うーん……僕が前世からこういうの好きだからなんだけどなぁ。

 

高校1年の、とあるクラスのとある隅っこ。

 

そこには、流行とかおしゃれとは無縁の野暮ったい髪型だったり、サイズの合ってない制服だったり、はたまたは今どきなビン底メガネだったりする……マイルドに表現するとおとなしい系の女子が集まっていた。

 

こういう地味な子たちって気楽で良いよね。

 

僕と同じく、好きなことにしか興味ないタイプの子たち。

おかげで華のJKっていうのにまるで地味な中学生のままなんだもん。

 

「ぎ、ぎぎぎ銀藤さん……ぼ、ぼぼ僕の本は……」

「あ、うん。 この巻はちょっとお色気多かったけど普通におもしろかった。 ありがとう」

 

――その隣には、やっぱり無害だと認識されてる男子たちのグループ。

 

だよね、似た者は似た者同士で集まるよね。

 

そう――つまりは「陰キャ」で「モブ」な生徒たち。

それが、僕が好き好んで所属してるポジション。

 

素敵な場所。

 

うん、そうだ。

 

生まれ変わった際にうっかり記憶ごと落っことしてきたけども、多分僕は前世もこういう学生生活をしてきたんだ。

 

チャラチャラしたりもきゃっきゃうふふもせず、静かに静かに。

 

休み時間には本とか配信とか連載小説とかについて話したり読んだり観たり聞いたりして、まるでハムスターが小さい巣穴にぎゅうぎゅう詰めになりながらのんびりしているような、素敵な集団。

 

クラスの隅っこ、可能なら後ろ、もっと可能なら窓際――ただし怖い系の子たちが居ない場合に限る。

 

ここが、僕たちのテリトリーだ。

 

まぁこの学校もこのクラスも棲み分けができてるっていうか結構治安が良い感じだから、普通に同じ教室でいろんな集団が棲息してるんだけどさ。

 

「おい、銀藤さんに馴れ馴れしいぞ」

「女子と近づきすぎるな……簡単に堕とされるぞ」

「銀藤さん協定に違反したらどうなるか……分かるな?」

「お、おお俺たちみたいなのと普通に話してくれる貴重な女の子だぞ!!」

 

僕が借りた本を返した彼が、ゴールデンハムスターたちに引かれていく。

 

しょせん男は男か……気持ちは分かるけど。

 

「……銀藤さんって、男子……怖くないんだね」

「男子って、すぐ胸とか見てくるから怖いのに……」

「私、最初の1週間で――君に告白されたけど怖くて……」

「しゃべっただけなのにね……」

 

しょせん男は男。

 

悲しいね。

 

「あ、うん。 ぼ――私、えっと……そう、中学まで、近所の男子たちと登校とかしてて、免疫?はついてるかな。 あと、男はそういうもんだから気にしなくて良いよ」

 

ゴールデンハムスターを怖がるジャンガリアンハムスターたち。

 

外から見たら同じ生き物なのに、それでもお互いに怖がったり興味深そうに見つめ合っている、かわいいいきものたち。

 

僕はこの子たちに擬態しつつも、この子たちの保護者なんだ。

 

「すごい……」

「だ、男子とさえ、ど、どもったりしないで……」

「わ、私、断っちゃったから――君の顔も見れないのに……」

「おとなぁ……」

 

大人かなぁ……や、ジャンガリアンハムスターたちだからしょうがないか。

 

ハムスターたちは繊細なんだから。

 

うんうん、そうだ。

ストレスを与えないように、静かに過ごさないとすぐ弱るんだ。

 

僕だって前世の記憶――知識とかだけだけども――さえなければ、多分この子たちとおんなじ反応してただろうからなぁ。

 

僕の前世な魂としてのベースも、この子たちの言うこと、ひとつひとつにうんうんうなずいてるし。

 

もちろんジャンガリアンともゴールデンともね。

 

人は知識と経験がすべてだ。

 

そして僕は、多分学生時代を過ごして社会人になっただろう大人の一部を引き継いでいる。

 

「これはチート、だからねぇ……」

 

ぽそり。

 

同級生たちに対して、普段から抱いている罪悪感が漏れる。

 

そう、チートだ。

 

前世を覚えている。

 

「それを不完全でも自覚している」というチート。

 

だからこそ、せめて学校の中ではそれを封印しておきたい。

 

こういう平和な学生生活を満喫しておきたいんだ。

なにしろ社会人になったら――うん、泣いても手に入らない環境だからね。

 

こういうことを考えるって時点で、前世の僕は学生時代を泣くほど懐かしんだことがあるはずだもん。

 

――きーんこーん。

 

チャイムが鳴る。

予鈴で、すっかり緩んでいたクラスの空気が動き始める。

 

「じゃ、放課後にね」

「う、うん……」

 

僕は、ジャンガリアンハムスターたちの中でも特に落ちつける黒木さんと一緒に、隣同士な僕たちの自分の席に――。

 

「……けど奈々ってば、これで何度目よー?」

「補導されかけて逃げ切るとかやるじゃん奈々ー」

 

「あ、あったり前よ! これでもあたし、中学まではマジメに運動部してたんだからさ! ポ、ポリ公もチンピラもバッタバッタよ!?」

 

「ポリ公とかマンガの台詞でしょ?」

「奈々? 調子乗るとすぐ盛るのやめよっか」

「そうそう、バレバレだからね」

「いざとなったら泣いちゃうくせにー」

 

「そ、そんなことないし! モッテモテだし!! バッタバッタだし!!」

 

ポリ公て、バッタバッタて。

 

……まぁこの近所は治安良いとこだし、教室中に響くから聞こえるけども、確かに盛ってるだけだろうけどさ。

 

「………………………………」

 

……そんなどうでもいいことよりも、僕の席が占領されている。

 

クラスの――女子の中で発生するカースト、その上位も上位の、ギャル集団に。

そしてその中心、紅林奈々さんのおしりが、僕の机を虐げている。

 

良いなぁ……じゃない。

 

「わ、わたしの席は……だけど、銀藤さんのが……」

 

「………………………………」

 

ジャンガリアンハムスターこと黒木さんは、僕の後ろで震えている。

 

……別に、話しかけたらすぐに取って食われるわけじゃないんだけどね……彼女がハムスターなら彼女たちは猫だからね、すなわち食物連鎖、天敵だからしょうがないよね。

 

慣れてない人と話すのが怖い、威圧的に見える人は見るだけで怖い。

 

それが僕たちの属するジャンガリアンハムスターなんだから。

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