TS転生後の静かな高校生活は愛が重い子たちに囲まれておしまい!   作:あずももも

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28話 人助けはほどほどにね、白鳥さん

「それではHR……あら、白鳥さん」

 

「ごめんなさい、遅刻しました」

 

「白鳥さん……授業態度とかは良いのに、週に1回2回と遅刻するのはいただけませんよ。 生活習慣を整えるように、先週のHRでも言いましたよね?」

 

「はい、ごめんなさい……」

 

「学期が始まった頃はきちんと来ていましたよね? 体調不良や遅延なら仕方ありませんが、そういう理由ではないのでしょう?」

「はい、私が寝坊をしただけです」

 

「………………………………」

 

きっと、みんなは不思議に思っているだろう。

 

「なんであんな子が遅刻するようになってるの?」って。

 

僕だってそう思うだろう――その理由を知らなければ。

 

「………………………………」

 

――今朝は先生の虫の居所が悪く、しかも早めにHRが終わりそうだったもんだから、軽くだけどお説教が始まっている。

 

クラスのみんなの前で、教卓の横で。

たぶん、みんなの前で叱る形になっているのを意識せずに。

 

「………………………………」

 

――本当は、言わないつもりだった。

 

彼女が秘密にしたがってるし、なにより僕も目立っちゃうから。

 

けども、

 

「……あ、あのぉ……」

 

「大体――――――えっと、あなたは。 ………………………………。 ……銀藤さんね?」

「はぃぃ……」

 

先生が僕の顔を見て、首ひねって、名簿を見てから「ああ、こんな地味な子居たっけ」って顔してる。

 

よしよし、影の薄い作戦は順調だ。

 

僕を認識するまでに30秒くらいかかったもんね。

 

うん、おかげで白鳥さんへのやつあたりも一瞬だけど忘れてる。

 

「……銀藤さん?」

「ぎ、銀藤さん……」

 

教卓の横で目を見開いている白鳥さん。

あと、裾を引っ張ってる黒木さん。

 

――僕はね。

 

まじめな子が誤解されるのは――大嫌いなんだ。

 

 

 

 

「あー、だる……」

 

毎朝早くに起きて、ごはん食べて支度して家を出て歩いて電車乗って学校行って。

 

学生ってなんてめんどくさいんだろう。

 

社会人ならお金のためって理由があるからがんばれるけど、学生ってのはそれがない。

だから1回でも疑問を持ってしまうと、こう、ものすっごくめんどくさくなるんだ。

 

特に、知識の中の経験で――遊びたい放題の大学生とかを体験してたらさ。

 

何気に記憶持っての転生での最大の敵ってば学校だよね。

 

僕はそれを小中と乗り越えてきた。

僕はえらいんだ。

 

まぁその学校で、至近距離で現役女子学生を合法的に眺めて近寄れて触れて話せるからプラマイゼロからぶっとんでプラスだけどさ。

 

同学年とか歳の近い異性と――僕にとってはね――触れ合えるってだけで素晴らしいもんね。

社会人以降じゃまずあり得ない天国なんだ、朝早いくらい我慢しなきゃね。

 

さてさて、そんなわけで僕は足取りも重く学校へ向かっている。

 

――だって、なんか最近の学校……雰囲気おかしいんだもん。

 

特にあの3人がさ……前よりもさらに張り付いてくるようになったし。

 

なんでだろ……特に「お姉さんなアキノちゃん」の話を聞いてくるわけでもないし……あれかな、空想上の姉さんに恩を感じて、その妹でじとっと静かにしてる僕に構ってるだけなのかな。

 

いや、それにしてはやけに……ん?

 

あ、白鳥さんだ。

 

そういやあの子、途中から同じ路線なんだよね……ほら、あの挙動不審の彼とも遭遇したあの路線。

 

その白鳥さんが、見知らぬ大人と話している。

 

「ありがとう、この時間帯だと点字ブロックに並ぶ人が多くてね」

「いいえ、こういうのはお互いさまですから」

 

片手を繋ぎ、もう片手には白い杖。

 

……なるほど、何かと思ったら困ってた人を助けてたのか。

 

「――線への乗り換えですね。 こっちですよ」

 

「けど、良いのかい? 学生さんだろう?」

「大丈夫です、そんなに遠くありませんから」

 

そうして彼女はエレベーターの方へと向かっていく。

 

……ふぅん。

 

あの子、ほんとに良い子なんだ。

 

 

 

 

次の日。

 

「………………………………」

 

「大丈夫ですか? 今、駅員さんを呼んでいますからね」

 

ホームでうずくまっている人、でも朝の通勤時間とあって誰もが素通りする中。

僕も素通りして、でもやっぱ声はかけようかなって振り向いたとこ。

 

「お水は必要ですか? ……はい、自販機で買ってきますから、そのままに……」

 

近くの人に声をかけ、「20、30秒で良いから見ていてほしい」って言いつつ駆けていく彼女。

 

そのおかげで、1人、2人と周囲の人がうずくまっている人に声をかけていく。

 

「………………………………」

 

そして今日も――乗るはずだっただろう電車が、ホームに入ってくる。

 

 

 

 

痴漢騒ぎ。

 

てっきりまた挙動不審の彼関係かと思いきや、これは女の子の方が悪かったっぽい。

 

あとやっぱあの彼は疑われてた。

てか犯人にされる寸前だった。

 

挙動不審……治せてないのね。

生きるのが大変そうだ。

 

 

 

 

駅から出たあとの通学路――の反対方面の交差点で、手押し車のおばあさんの手を引いて。

 

 

 

 

泣いてる私立の小学生と、駅員室へ。

 

どうやら定期を落としたらしい子を、慰めながら。

 

 

 

 

「……そ、そんな感じでぇ……」

 

――ってのを黒木さんインストールした僕が、おどおどと説明。

 

最低限の語彙で最大限の事実関係を伝える、高校に入ってから身に付けたテクニックだ。

 

「……銀藤さん……見てたの……」

 

ぽつり。

 

いつの間にやら赤くなった顔を手で挟みながら、今やクラスのみんなから好意的な視線で見られるようになっている彼女が言う。

 

「銀藤さん、ありがとう。 勇気を出して言ってくれて」

「い、いえぇ……」

 

先生も、いつの間にかめっちゃ笑顔になってる。

 

やばい、正直先生もいけるわ僕……。

 

「けど白鳥さん? そういう理由があるのならそうだと言いなさい。 損するのはあなたですよ? ……私も強く言ってしまいましたし」

 

「え、で、でも……生徒手帳何回も読みましたけど、これらは正当な遅刻の理由じゃないですし……あと、何回も遅刻したら嘘だって思われると思って……」

 

マジメさんかな?

 

マジメさんだった……相当の。

 

「それは……そうですけど。 でも」

 

先生の視線が、役目が終わってさっさと座ろうとして中腰になってた僕に注がれたもんだから、座ろうとしたのに座れない。

 

「……善いことをしたのなら、それはきっと誰かが見ています。 たとえすぐに返ってこないとしても……こういう形で、必ずいつか、返ってきますよ」

 

「あ……」

「むぇぇ……」

 

あの、えっと、僕、中腰。

 

「……なんて、小学生の道徳の授業ではありませんが……とにかくこのことは生徒指導にも伝え、これまでの数回分の遅刻を取り消してもらいましょう。 ね?」

 

あの。

 

「あと、白鳥さんもみなさんも。 人の手伝いは……私たち大人からしても素晴らしいことだとは思いますが、あくまで自分でできる範囲で、ですよ。 さっきまでの彼女のように――頑固者の大人に、悪く思われてしまいますから。 ね?」

 

あ、うん、それは思った。

 

白鳥さん、絶対損してるタイプだなって。

 

「……特にこの国では自分からこういうことを言うのは気が引けるでしょうけど、私は素敵だと思います。 白鳥さんも……勇気を出してくれた、銀藤さんも」

 

「はいっ……!」

 

「むぇぇ……?」

 

現役JKの若い体なのに変な体勢になってたせいで、ぎりぎりと骨が軋む感覚を味わいながらちょっとずつおしりを付けていく。

 

あ、これ、軽い空気イスしてたわ。

 

あと、僕のことは忘れてほしかったのに……なんかこれまでモブ生徒としてしか見てこなかった先生が、まだめっちゃ笑顔で見てるし……。

 

やめて、高校では先生に「あの子誰だっけ?」「とりあえず無害でまじめな生徒です」「内申点は……普通ですかね」としか言われたくないの。

 

「では、HRは終わりですが……白鳥さんは生徒指導室へ。 取り消しに行くだけですから、すぐに終わりますよ」

「は、はいっ」

 

お、先生、この雰囲気で白鳥さんを取り残さずに1回連れ出すことで恥ずかしさを……ってのは考えすぎかな。

 

けど、それなら彼女も恥ずかしすぎなく……って、あれ。

 

「……銀藤さんっ」

 

「むぇ?」

 

いつの間にかに僕の前まで来ていた彼女が、

 

「――今日も、ありがとっ」

 

髪の毛をふぁさっと僕の顔すれすれに広げ、実に良い匂いっていうご褒美を与えてくれた彼女が、机に鞄を置いて先生の後を追っていく。

 

……今日も?

 

なんのこと?

 

「……銀藤さん、えらいね……」

「銀藤ちゃんえらい! まさかクラス全員の前で言うだなんてさぁ!」

 

ぽかんとしてた僕は、気がつけば左右から黒木さんと紅林さんに囲まれている。

 

「……むぇぇ……?」

 

あ、うん……結局僕が放課後まで囲まれるのは変わらないのね。

 

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