TS転生後の静かな高校生活は愛が重い子たちに囲まれておしまい!   作:あずももも

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36話 黒木さんの中に入った 2

いやー、それにしても事前準備なしの女の子の部屋に入るのは本当に楽しいねぇ。

 

まぁこの子の場合、ほぼ確実に親しか入る人いないんだろうけどさ、分かるでしょ?

 

女の子が無警戒でだらしないのって最高だよね?

 

「うぅ……」

 

しかも、一切異性を意識しない見た目とかたまらないよね?

 

「だから熱ぶり返したんだったら、辛いだろうからすぐ」

 

「だ、大丈夫! 大丈夫だから、もうちょっと……!」

「はいはい、じゃあもうちょっとだけね」

 

黒木さんのベッドの前に座りつつ、こんなやり取りを何度もしながら転がってるものとかを眺めて彼女の秘密をゲットしていく僕。

 

ふむ……おすすめ小説とか漫画のリスト的に知ってたけど、この子、結構硬派なのね。

 

お固めの本とかが積み上げられてるし。

夢見る女子系じゃないとは知ってたけどね……そりゃ僕と話が合うわけだ。

 

「あ……でも、わたしなんかのために時間を無駄にさせるのは……」

 

おやおや、具合が悪いせいで自己評価が下がっているみたいだぞ?

 

それはいけないなぁ……地味眼鏡目隠れ低身長読書女子っていう貴重な性癖もとい属性を歪めてはならないんだ。

 

「そんなことないよ。 たくさん本読んでるし、作品知ってるし」

 

「で、でも……普通の人とは読書傾向違うし……」

「好きな本は人それぞれだよ?」

 

「で、でも……話、下手だし、おどおどしてるし、体育苦手だし、猫背だし……」

「そんなの私だって同じでしょ?」

 

だって僕、初日に隣の席に座ったこの子を模倣してハムスターやってるもん。

 

「で、でも本当は……」

「?」

 

「……ううん、なんでもない……」

 

「? とにかく、私はそんな黒木さんと一緒に居ると楽しいよ?」

 

具合が悪くなると悪いことばっか考えちゃうよね。

 

ただでさえ引っ込み思案な彼女のことだ、普段からいろいろ考えたり思ったりしてることが、こういうときに出てきちゃうんだろう。

 

「――――――――ならなんで、他の子とも仲良くしてるの」

 

おや?

 

「なんで……わたしが最初だったのに……」

 

おやおや?

 

なんだか様子がおかしいぞ?

 

「黒木さん?」

 

「最初の1週間、自由時間のうち8割はわたしの真横に居てくれたのに」

 

おやおやおや?

 

「最初の1週間、話した時間の9割がわたしだったのに」

 

おやおやおやおや?

 

なんだかうつむいたと思ったらすらすら話し始めたぞ?

 

「なのに急に紅林さんが仲良くなってきて……白鳥さんまで……」

「あー、えっと、それはね」

 

「わたしを助けるための、ドッヂボール。 わたしのせいで」

「おっふ」

 

なんか流れがおかしい。

修正しないといけない。

 

「わたしがドジだったから……のろまだったから……だから、唯一の友達になってくれた子が、良い子を独り占めしてた罰……」

 

「黒木さん? 私、私居るから! まだ帰ってないから落ち着いてー」

 

あ、これ、僕のこと忘れてるっぽい。

 

まぁ具合悪そうだし、普段なら1ミリも思ってないことでも勝手に脳みそがこねくり回して出てきちゃうよね。

 

「うん、知ってた……銀藤さんは優しいし話も上手だし話題も豊富で他の子ならおすすめしても難しいって1話切りするのでもすらすら読んできてくれるし優しいし私と同じ感じなのにやっぱりどこか違うしそもそも本当の姿はみんなに人気のアキ――けほっ」

 

「あー、ほらほら、ノド痛めちゃうってば」

 

「………………………………」

 

ぼーっと見上げてくる彼女。

 

何言おうとしてたのか、それ以前に後半はろれつ回ってなかったからさっぱりだけど、とにかくノドの酷使はよくない。

 

「ね? 横になって静かにしてようね?」

 

「………………………………」

 

「来たときに教えてくれたけど、玄関、オートロックなんでしょ? なら、私がこのまま帰っても戸締まりは」

 

「――――――――銀藤さん」

 

黒木さんのメガネが光って、目元が良く見えない。

 

メガネって、光源との位置関係でこうなること、あるよね。

 

「わたし、こんな嫌な女なんだよ。 クラスで横の席に座ってて、わたしみたいに地味できっと人との話が苦手なんだろうなって思ったから、話しかけたんだよ」

 

「え? まぁ良いんじゃない? みんな自分と似てる人とか近づきやすい人に話しかけるし」

 

「初めの頃、ずっとわたしが銀藤さんに張り付いてたから他の子とはあんまり話せなかったんだよ? わたしが威圧してたから」

 

「威圧……?」

 

ジャンガリアンハムスター同士で?

 

これっぽっちも感じなかったけど?

 

あれかな、「ふしゃーっ」ってかわいかったあれのことかな?

 

あれはただのかわいさアピールだと思ってたけど?

 

「それなのにわたしのせいで銀藤さんがケガして、それがきっかけで他の子に銀藤さんの良いところがバレて取られそうになってこんなこと」

 

「黒木さん」

「だから――に゛ゃっ!?」

 

んー。

 

やっぱ熱、あるねー。

 

「ほら、おでこ、こんなに熱いじゃん」

 

「ぁ……ぇ?」

 

「こんなに汗もかいてる。 無理しちゃダメだって」

 

「銀藤さんのおでこ……顔が、こんなに近く」

 

下向いてぶつぶつ唱えてた黒木さん。

 

ちょっと心くすぐられたから忍び寄って、メガネ外しておでこ同士。

 

彼女のメガネも外されたのにも気づいてなかったあたり、やっぱ頭回ってないよね。

 

「わ……ぁ……や、やっぱり、綺麗……」

 

え、この子が今高速詠唱してたの?

 

ごめん、これっぽっちも聞いてなかったけど?

 

反射で返す以外なんにもしてなかったけど、まぁいいじゃん。

 

女の子が情緒不安定になってるときの発言なんて、全部聞き流せば良いんだし?

 

「目も潤んでるし、息も荒い。 ちゃんとお薬飲んでる?」

「ぁ……ぇ……」

 

「……あ、机の上にあったこれだね。 ほら、お水、私の飲みかけで良ければペットボトル置いとくから。 大丈夫、私、口付けて飲まないから汚くないよ」

 

「ぎ、銀藤さんと……間接……!?」

 

かんせつ?

 

節々が痛いのかな……そりゃあ大変だ。

 

お薬とお水を彼女の手元に握らせる。

 

「じゃ、お大事にね。 先生には具合悪そうだったからって言っとくから安心してね」

 

小動物の安寧を邪魔してはならない。

 

ゆえに、僕は名残惜しくも黒木さんの中から出ることにする。

 

「あ……」

 

「黒木さん」

 

何か言いたげだけど頭が回らなくて癒えない。

 

そんな様子の彼女――さっきおでこで熱を測ったときに代理メガネさんは外してベッドサイドに置いたままだけどまぁいいや、かわいい小顔が拝めてるし――へ、何か安心させる言葉を……そうだ。

 

「黒木さんは、この学校で1番だから」

 

「むぇぇっ!?」

 

あ、そうそう、この鳴き声、黒木さんがときどきやるのを真似たんだった。

 

「私にとって最初だから、安心してね」

 

「いちばん……さいしょ……」

 

不幸にも幸運にも、他の子と仲良く……ならざるを得なくなったけども、君はジャンガリアンハムスター仲間に入るきっかけになった、最も大切な子なんだ。

 

どこへ行くにも、連れションもお昼も図書館も帰り道も途中まではずっとくっついてきてくれる君がかわいいからね。

 

「これからもずっと、黒木さんさえイヤじゃなきゃ一緒に居るからね」

 

「ずっと……いっしょ……」

 

「じゃ、本当にお大事に。 良くなってから学校来た方がいいよ。 風邪、ちょっと流行ってるみたいだし、またぶり返したら大変だろうし。 またね、黒木さん」

 

ぱたん。

 

彼女の部屋のドアを静かに閉め、廊下をそろそろ、玄関からぬるり。

 

「ふぅ」

 

実に濃密な時間だった。

 

しかし、弱ってる子のお見舞い……これは良いものだ。

 

よしよし、この調子でジャンガリアンハムスターたちの誰かが休んだりしたら積極的に先生に見つかりに行こう。

 

 

 

 

「わたしが……いちばん。 銀藤さんの……さいしょ。 ずっと、一緒に居てくれるって――なのに、配信ではいろんな女の子と、って。 ………………………………」

 

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