TS転生後の静かな高校生活は愛が重い子たちに囲まれておしまい!   作:あずももも

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37話 店長さんとおじさんは心配性

「明乃ちゃん? 今日はあの防刃……こほん、矯正下着! 矯正下着はつけているかしら?」

 

「え? いえ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「………………………………?」

 

「えぇぇー……」

 

なんだか最近僕の半径1メートルの人口密度が高い学校に疲れてるからか、店長さんとこに入り浸ってたところ、すっかり忘れてたのを思い出させられた。

 

あと店長さんがすごい顔してる。

 

美人さんがしちゃいけないタイプの顔だ。

 

「あ、忘れてませんよ?」

 

「……忘れていたのね」

 

「いえ、単純にほら、僕ってば学生で、つまりはまだギリ成長期なので代謝も良くって汗もかくじゃないですか。 学校で体育とかありますし」

 

「……ええ、まあ、そうねぇ」

 

あれだ、成人前の女子だけが放つっていう特定のフローラルな香りの詰まった汗が振りまかれるからね。

 

僕は果報者だ。

 

だって、僕自身の汗の匂いでも……ふふ。

 

「だから体型維持のためにがんばって着てはいるんです」

「ええ」

 

良い感じに汗が染みるし。

 

「でも、毎日洗濯に出してるとたまに忘れちゃうんですよね。 洗濯してくれる母も、畳んだあとの僕も。 あと雨の日は乾いてませんし……それを着るのはちょっと……」

 

「ええ……理解はできるわ……」

 

女の子の服ってデリケートだから洗濯も専用モードで水分多め、さらに乾燥機にかけられないから干すしかなくって、しかも下着だから部屋干しってことで。

 

つまりはその日の湿度と風向きと風速その他いろいろに影響されるわけで。

 

「もう1着ありません? あればローテできるんですけど」

「ごめんなさい、思ったよりもまともな理由だったのね」

 

「まぁ今日は完全に着るの忘れてただけなんですけど」

「忘れないで頂戴……せっかくの防刃……矯正下着を」

 

最近は頭痛持ちになっちゃったのか、眉間をぐりぐりしてる店長さん。

 

「……もしかして店長さん、経営、うまく」

 

「行っているから話題を逸らさないで……貴女にはそういうところがあるから」

 

んもー、せっかくの美人さんが台無しだよ?

 

まぁ男なんだけど。

 

正直、男だってバラしたら女性の8割が自信喪失するレベルの美人なんだけどね、店長さん。

 

「あれは特注品なの……しかも今はその職人さんも忙しいみたいだし、注文してから1ヶ月2ヶ月は掛かるはず」

 

「え゛。 高くなかったんですかそれ」

 

んー。

 

僕はスマホの配信アプリの収益画面を見る。

 

「何万ですか? 10万するならちょっと」

「いえ、学生からお金取る気はないから……」

 

「でも、ここも貸してもらってますし……悪いですし」

 

今の僕ならちょっとしたバイト以上のお金が入ってくるから払えるのに。

この人ったら絶対受け取らないんだもん。

 

「子供が気にしなくて良いの。 そういうところには聡いんだから、本当に……もっと肝心のことに意識を向けて頂戴な……」

 

ああでもないこうでもないってうろうろしながら考えてるらしい店長さん。

 

よく分かんないけど、すっごく良い人なんだ。

ときどき今みたいによく分かんないこと聞いてきたりするけど。

 

まぁ数歳離れてるし、性別はあらゆる意味で真逆だし。

 

「……頼んではみるわ。 でも、乾いてる日はぜっっっったいに着るように」

 

「あ、あれ、万が一デブっちゃったときのためにワンサイズ」

 

「頼んでおくから! お願いだから着なさい!」

「あ、はい」

 

元男性……いや、体はお化粧と髪の毛と服装次第で普通に男性なんだけどね……なのに、あるいはだからなのか、とにかく僕の美容に気を遣ってくれている店長さん。

 

こんなに焦ってるように見えても、声もしっかり作れてる完璧な人。

 

うん。

 

やっぱ、高校に居るあいだになんかお返ししよっと。

 

 

 

 

「明乃ちゃーん?」

 

「どうしましたか組ちょ、じゃない、優しいおじさん」

 

「その呼び方も止めてねぇ……? それはそうと」

「それはそうと?」

 

優しいおじさんが、すっと僕を指差す。

 

「まず、そのポン刀、壁に戻してちょうだい……好きなら別のあげるから」

「いえ、ここに来たときの楽しみに取っときたいので」

 

ひゅんっ。

 

「ひっ……!」

「お前、姉御の剣さばき見るのは初めてか?」

「あれは素人じゃねぇ……」

「男だったらなぁ……間違いなく若頭に……」

 

うーん、いつ聞いても素敵な風切り音。

 

男に生まれたら剣とか刀とか大好物だもんね。

特に業物の日本刀とか大好き。

 

今は女だけど。

 

「で、なんです? おつかいは済ませたと思うんですけど」

「それなんだけどねぇ、明乃ちゃん」

 

かたんと壁に掛けると『いつでも待っているぞ、真の使い手よ……』とか幻聴が聞こえてくるのを無視して、なんだか妙に改まったおじさんを見上げる。

 

「……お祓い、行った方が良いよぉ……?」

 

「え?」

 

「あと、身の振り方、改めた方が……もう遅そうだけど、良いと思うよぉ……?」

 

なんだかものすごく哀れなものを眺める目で見てくる組長さん。

 

「……?」

 

僕は熟考する。

 

「特に心当たりもありませんけど」

 

うん、まるっきり。

 

僕ってば、中学まではともかく高校ではマジメどころじゃない存在だし。

中学のことだって、地元からずいぶん離れたからチャラだろうし。

 

うーん?

 

「なんだかね、こう……真っ黒な情念が渦巻いているんだねぇ、明乃ちゃんの周り」

 

「ほへー」

 

「……信じてない感じ?」

「や、僕、幽霊とか見えないタチなので。 おじさんのことは信用してますけど」

 

前世と今世の2回とも霊感とかないからねぇ。

 

や、そもそも前世があるってことはある意味オカルトの証明なんだけども、僕以外にそういう人は知らないし。

 

「……おい。 持ってきたな」

「押忍! こちらです姉御!」

 

「姉御やめて……で、なにこれ」

 

鍛えてそうなお兄さんがうやうやしく高そうな布に包んで持ってきたのは……首輪?

 

「いや、チョーカーか……プラチナですか?」

 

「そうだよぉ。 首に纏わる不幸をはねのけてくれる貴重品だよぉ。 あと、ちょっとだけど銀も編み込まれてるねぇ」

 

持ち上げてみると、これまたお洒落なチョーカーさん。

 

光の加減によってキラキラしてて僕好みだ。

 

「特にこの鍵が良いですね」

「開けないでね? 開けようとすると中のが吹き出すからね」

 

「? 何が吹き出すんです?」

「……明乃ちゃんはどうせ信じないから、素直に壊さないでつけてなさいねぇ……?」

 

なんとなく良い感じの感触がして『女難の相……これは護り甲斐がある』ほどよい感じあれ今誰か僕に語りかけた?

 

「……???」

 

「明乃ちゃん」

 

かちゃり。

 

おじさんが、銃を持っていて――僕の方に握るところを差し出している。

 

「護衛用に……要るぅ?」

「え、要らないです。 てか万が一僕が持ってるのバレたらやばいでしょ」

 

「でも……撃てるでしょ?」

「まあ、多少は?」

 

「ちなみにどこでとか聞いちゃって良い感じ?」

「はい、ちょっと昔にハワイで。 えーっと……前世で?」

 

今世は海外旅行とか行ってないけど前世で行った記憶はある。

 

なお、誰とどんな風にどうやって過ごしたとかそういう系の記憶はない。

あくまで射撃場で手取り足取り観光客向けのを教わった程度だ。

 

前世さん、そこんとこもうちょっと融通効かない?

 

「分かった、言えないならこれ以上は聞かないよぉ」

 

「や、ほんとなんですけど」

 

「明乃ちゃんの身の上には深入りしない。 そう約束したからね」

「知り合ったときにちょろっと言ったの、良く覚えてますね」

 

まぁ前世とか信じないよねー。

 

「……とにかく、当分はそれ着けてなさい? 良い? 明乃ちゃん、男相手にはめっぽう強いんだけど、女の子相手にはめっぽう弱いんだから」

 

「そんなことないですよ?」

 

今世でも連戦連勝だよ?

 

まぁやばかったことはそれなりにあるけども。

 

けど偶然ってあるんだね。

なんか知らないけど立て続けに知り合いからお洒落グッズもらうのって。

 

――かちり。

 

「お、ぴったりフィット」

 

「ボタン押せば外れるからね? 鍵は空けようとしないのよ? ね?」

「はーい」

 

『良いか小娘、狙われるのなら首を狙わせろ、さすれば1度だけなら』ふんふん、やっぱ僕に似合うね誰だ今の。

 

まぁいいや、さすがに校内で着けるのは無理だけど……いや、うちの校則見ないとだけどたぶんOKかな?

 

うちの高校、ゆるゆるだからね。

それだけで選んだエスケープ先だからね。

 

ま、かわいいからせっかくだしつけとこ。

 

あ、これのこと聞かれたら……ま、そのときはそのときでアドリブとノリでなんとかなるでしょ。

 

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