TS転生後の静かな高校生活は愛が重い子たちに囲まれておしまい! 作:あずももも
「アキノちゃん、無茶でしょそれ! 戦うなんて……逃げよ!」
「そ、そうよ! 周りの男の人たちに助けを――」
「ぎ、銀藤しゃんっ……!」
息の上がっている紅林さんと白鳥さん、走るなんて高度なことはできない黒木さん。
……少なくとも、走れる2人が息を整えるまでは稼がないとね。
「いやいや、刃物持ってる集団のチンピラだよ? 助けようとした人たちが大ケガとかしちゃったら困るじゃん?」
「クヒヒヒ、そうそう、分かってるじゃん」
「俺たちも痛いことしたいわけじゃないからさぁ」
「気持ちいいことしたいよな! ぎゃははは!」
どうやら僕たちが諦めたと思ったのか、にたにたと笑いながら近づいてくるチンピラさんたち。
あ、遠くにおんなじくらいの人数。
……ほんと、10人以上動員するとか、自分の人生の破滅とかコスパとか考えられないほどの恨みって怖いね。
「あの3人に対しては『お手つき』は禁止だが、コイツは良いらしいぜ」
「やべぇ、極上じゃねぇ?」
「気の強い女ほど楽しいんだよなぁ!」
――ああ。
なるほど、君たちはゲス男なんだね。
これは、僕たちを「女」としか見ていない目だ。
「うーん、それには同意だけど」
なんで分かるかって?
僕も、そういうとこあるからさ。
僕の中の良心も『性質は同様である』『然り』『クズなのは同じッスね』こう言ってるし。
けど、
「――女の子は怖がらせるものじゃないから……ねっ!」
僕は――追い詰めたと思っている、「仲間を守るために前に出てきているらしい、気の強そうでお手つきして良い都合の良い女」を前にしてだらしない顔しかしていないチンピラさんへ、下から振り上げ――――――
「いやいや、女の子からの拳なんて――ぶへぇっ!?」
「なっ!?」
お、気持ちいいストレートが、僕の胸に腕を伸ばしていた男のほっぺにクリーンヒット。
彼はその勢いのまま吹っ飛び、半回転しながら崩れ落ちる。
あれ?
なんか吹っ飛びすぎじゃない?
まぁいいや、悪人だし……じゃないじゃない。
「後頭部とか、ごんってやっちゃわないように手加減しなきゃだったね」
幸いにして無意識の受け身取りながら倒れるチンピラさんAに、ほっとしつつも反省反省。
正当防衛ではあるけども過剰防衛にはなりたくないからね。
「……このアマッ!」
「ナックルだぁ!? おい、コイツ武器持ってん――ぶほっ!?」
わん、つー。
振り上げた流れのまま、ついででもうひとりへ振り抜く。
何か異様に体が軽く、腕もムチみたいにしなやかに振れる気がする。
これが火事場のなんとやらってやつかな?
「き、汚ぇぞ!?」
「武器仕込んでやがるなんて!」
「いやいや、女の子はか弱いんだからそれくらいの対抗策は必要でしょ」
きれいにおなかに入ったらしくうずくまってぴくぴくしているチンピラさんB。
僕が利き手に装備していたのは、ナックル――握りこぶしを痛めずに相手を痛める武器。
けど、これは不意打ちの1回にしか通用しない。
「君までで1回って――ねっ!」
「ぶべらっ!?」
「なんだこのアマ!?」
「おい、気をつけろ! 格闘技やってるぜコイツ!?」
吹っ飛ぶ仲間を律儀に目で追って無警戒だったCさんまで吹っ飛ばしたところで、完全に僕へ警戒が向く。
さすがにこれ以上は通じないだろう。
けど、出鼻をくじくのには充分だ。
あとは牽制――「無害で楽しめる女の子」から「リーチに入ると痛い攻撃をして来る女」へと警戒させ、簡単に近づけさせない効果で数十秒を稼ごう。
「アキノちゃん……!?」
「す、すごい……紅林さんから聞いたときは、盛って盛って盛ってるって聞いてたけど……」
「ふぇぇぇ……」
だから――男たちはきっと、
「なら、まとめて掛かりゃあ良いよなぁ!?」
「良い声で啼いてくれよォ――なんだ!?」
「はいはい、イノシシさんですねっと」
ぷしゅーっ。
風向きは確認してるけども、この煙が鼻と目に入るととんでもなく痛い。
だから、ナックルと反対側の腕に付けた簡易シールドで僕へのそれを防ぎながら――我を忘れて僕へ突撃してきた3人ほどへ、風下から突撃してきていた彼らへ、至近距離で催涙スプレー。
「ぎゃああああ!?」
「目が! 目がぁー!?」
「痛い痛い痛い痛い!?」
チンピラさんDEFも撃沈。
風向きも気にしておいて良かったぁ。
「……ぷはっ。 こんな威力のが市販されてるとかさぁ、やっぱ痴漢は悪だよね」
力のない女性が、力のある男に対抗する手段としてはちょっと安価で手に入り易すぎる気がするアイテムだけども、確かに効果的だ。
間違えて噴射しちゃうと周囲が大惨事になる威力。
屋外、かつ風向き気にしないと自爆する諸刃の剣。
とりあえずで、不意打ちとはいえこっちの被害なしにチンピラさんたちを無力化だね。
まぁ、構内で見ただけでこの倍以上居たはずだから、どっかから様子見してるだけなんだろうけども。
つまり?
――ここで助かってお巡りさんに保護されても、この先いつどうなるか分からない生活になる。
それは――24時間、何時何処で誰に如何に襲われるかが分からない生活が待っていることになって、それはきっと、あまりのストレスで頭がおかしくなるほどのもの。
きっとそのうち、もうなんでも良いから連れてってくれって気持ちになる。
逃げ続ける逃亡生活ってのは、きっとそういうものだ。
そんな生活は――嫌じゃん?
だって僕は、ハンターなんだ。
女の子を追って追い回す側なんだ。
だから――なんとかおびき出さないとね。
親玉を――白鳥さんに痴漢してた日に着てたそのままの格好で、眼鏡の奥の目が血走っていた、あのおじさんを。
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