TS転生後の静かな高校生活は愛が重い子たちに囲まれておしまい!   作:あずももも

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76話 ぴぴぴぴぴぴ

「ス、スプレーってすごい……」

「てゆーか、あんな威力なんだ……」

「お姉さん、がんばって!」

 

後ろでは、僕が抵抗できているからか恐怖が抜けてちょっとだけ元気になった声。

 

「もう周りの人たちが通報してくれてるけど――う、うるさっ!? 思ってたよりうるさい!!」

 

ぴぴぴぴぴぴぴぴ!!

 

防犯ブザーの栓を引っこ抜いて、空高くにぶん投げる。

 

人は、自然に動くものに目が吸い寄せられる。

人は、大きな音がしたら耳が吸い寄せられる。

 

「あ、あっちです! さっきから女の子たちが……!」

「あれは、襲われて……!?」

 

それは、被保護対象の存在が、救助の要請に一般的に用いられるもの。

 

ごく普通の市民でも分かる、防犯ブザー。

 

勢いよくすっ飛んでいった先でも壊れずにぴぴぴぴぴぴってうるさい分、今までは遠巻きにスマホ向けるだけだった人たちの中から――いや、その外側からも、なんだなんだとわらわらと人が出て来始める。

 

通りに落ちてからも元気にぴぴぴぴしてくれる小さな卵形のそれに――今までは気にしないか、気にしないフリをしていたか、気づいてたけど怖じ気づいていた人たちが――声を上げ始める。

 

「おい、いつまで掛かってるんだ」

「女を攫うだけの仕事ができないとは……」

 

「いや、だってコイツ……!」

「武器とか仕込んでるんだぜ!?」

「話が違ぇよ!」

 

そんな人混みの中から、チンピラさん……G以降の数人が現れた。

 

AからFまでとは違って、ひとまわり年上で――明らかに雰囲気が違う人たち。

 

うん、この感じ、おじさんのところに居そうな感じの気配がするね。

 

……ていうか。

 

こんなにたくさんの人に見られてるのに、それでも僕たちを――って……どんだけ執念深いんだ、あのおじさん。

 

うん、やっぱ人が多いところで、こうして固まって注目されたおかげでなんとかなってるね。

 

そうじゃなきゃ――僕が帰り道に気がつかなきゃ。

 

3人が1人ずつ連れてかれ、僕も抵抗するも数人がかりで抱え上げられてたったかと連れてかれてただろう。

 

「え、ま、また増えた!?」

「銀藤さんがすごかったのに……」

「み、みぇぇぇ……」

 

……増援を見て怖がっている3人をちらりと見る。

 

せっかく安心したのに、また怖がってる。

 

けども、今すぐに手を引かれて――とはならなさそうって分かって、さっきよりは顔色も良いね。

 

なら、

 

「――おとなしく着いてこい」

 

ざっ。

 

5人ほどの強面さんたちが、陣形を組んで僕の前に出てくる。

 

「少なくとも、引き渡すまでは手荒な真似はしない」

 

「え、引き渡されるのが嫌なんですけど」

 

そんな彼らは、一見紳士的。

 

「……命令は、最低でもお前1人ということだ」

「その後にあの子たち連れてかない保証はないですよね?」

 

「しかし、あの男はなりふり構わないぞ?」

「でもあなたたち本筋っぽい人たちは違いますよね?」

 

「………………………………」

「………………………………」

 

話は通じる。

 

ただし、それで交渉できるかどうかはまた別の次元。

 

「……そうか。 なら悪いな、仕事なんでな」

 

「仕事なら仕方ないですよね」

 

うんうん、仕方ない。

 

仕方ないから――――――

 

「――っ!?」

 

「スタンガン。 痛いですよ?」

 

近づいてきたGさんへ――視界外から、ばちちっと火花が散る。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

「……これ、何かの法律引っかかる出力が出てそう……」

 

……いや、ここまでする気はなかったんだよ。

 

ほら、それに君、Gさんは鍛えてそうだからここまで効くって思ってなくって……。

 

すごい声を出して倒れ込むGさん。

 

それを見て、

 

「――飛びかかるぞ」

 

数と質量で押すことに決めたらしい、残りの4人。

 

本当になりふり構わないね、君たち。

 

うん――さすがにそれをやられると、無理だ。

 

ちゃんと警戒して舐めないで、しかもこういうのに慣れてて――たぶん、相当鍛えてる男の人たちに、一斉に飛びかかられたら。

 

「ふーん……けど、良いの?」

 

「ぐっ……何……?」

 

最近は、物騒な世の中だ。

 

町中で平然と犯罪が行われるし、通り魔に巻き込まれることもしばしば。

 

多くの人は、ただ遠巻きにスマホを向けるだけ。

 

刺されて血が止まらない人が居ても、死んじゃった人が居ても、ただそれを映像に収めるのに熱心なだけの人だって多い。

 

みんな他人事で、みんな感覚が麻痺しているんだ。

 

忙しい現代だから、それはしょうがない。

誰だって自分が被害受けるのは嫌なんだ。

 

それが普通で、それが処世術だ。

 

だけど、

 

「……おい、何やってるんだ!」

「男数人で女の子たちを追いかけて……!」

 

「お、お巡りさん、あいつらです! さっきからずっと女の子たちを取り囲んで……!」

 

――分かりやすいSOSを出せば、反応してくれる人は居る。

 

普通の人ができるのはせいぜいが通報だけども、それ以上の事態になれば、良い人たちは必ず来るんだ。

 

ましてや、たとえ油断の隙を突いたものだとしても――反撃しているのを見れば、必ずやってくる。

 

「気をつけろ、そいつら武器持ってるぞ!」

「構うな、押し込めろ!」

 

――一気に十数人の男の人たちが、なだれ込んでくる。

 

……うん。

 

これで、少なくともチンピラさんたちは捕まって、簡単にゲロるだろう。

 

「僕たち4人を攫って来いって命令された」って。

 

だから、3人はちゃんとお巡りさんに――当面は守ってもらえる。

 

うん。

 

なら、これで良いや。

 

「――みんな、じゃあね」

 

「……えっ」

「アキノちゃん!?」

「お姉さん!? ど、どこへ……!」

 

そう言い残し――僕は、Gさんを抱えてさっさと逃走しだした、H以降の人たちを追い出した。

 

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