ロ リ ナ パ テ ス   作:( 눈_눈)

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ピックアップ名がオシャレ過ぎて大好きな生徒です。通常サオリのピックアップでは雪代水という言葉で冬がようやく終わる瞬間を表して、水着サオリのピックアップでは花曇りという言葉で春が訪れたはいいもののという少しの停滞とこれからの期待を表して、そしてドレスサオリのピックアップで花開くという一連の流れがサオリのこれまでをしっかりと表していて最高にオシャです。



回顧 錠前サオリの場合

 

 

鮮血のような紅に染められた視界のなか、決壊するかのようにこれまでの記憶が明滅する。

空席だらけの空虚なエンドロールの始まりは苦しみに耐えてきた日々と折れてしまった心。

記憶をどんなに遡ったって私達は灰色の世界に絶望していた。物心着いた時、最初に思い浮かんだのは空腹と世界への嫌悪だった。

虚しい世界を恨み、しかしそれでもスクワッドの皆だけはどうしても守りたくて、学のない私はマダムの甘言を疑いもせずに信じた。それに縋った。

 

この作戦を成功させることが出来れば、アツコは生贄にならずに済み、そしてスクワッドの皆も、あわよくばアリウスの皆も、少しはまともな生活が出来るかもしれない。

そんな期待を心のどこかで抱きながら、全ては虚しいと言いつつも、この作戦だけは絶対にと、全てを賭けて調印式に臨んだ。

 

だと言うのに、それだけの決意を以てしても、ヘイローを破壊する爆弾を使われた時のカサネの必死な表情と、爆弾に覆い被さる彼女を眺めるゲヘナ風紀委員長の絶望を絵に描いたような表情が、私の心を乱してしょうがなかった。

 

私がしていることは、正しいことでは無い。

それは分かっている。人を傷付けることが正しい訳ない事くらい、アリウス育ちでも分かる。

 

けれど、

 

だったら、

 

私は、どうすればよかったんだ。

どうすれば、皆を、アツコを、救えたんだ。

 

これしかないんだ。私には。

 

 

そう言い聞かせて、戦い続け、しかし結局私は負けてしまった。

沢山の人を傷付けておいて、誰一人助けれなかった。何一つ叶わなかった。

 

 

 

不気味な彼岸花のような紅色で出来た力の奔流が目の前に迫る。

そういえば、なんでいきなりこんなことを思い出していたのだろうか。

音を失い、時が止まったかのような感覚の中、私の命を奪わんと迫る閃光に呆然と立ち尽くす。言葉にならないような悲鳴と私を呼ぶ声がして、そこでようやく私は気付くことが出来た。

…あぁ、これが走馬灯というやつだったのかと。

 

止まっていた時が動き出すように、私を飲み込まんとする目を焼くような極彩色。それを前に私は何をするでもなく、

諦めたかのように終わりの時を待ち、

 

 

そして小さな影が私を突き飛ばした。

 

 

通り過ぎて世界を呑み込む閃光と遅れてやってくる金属を引き絞るような不快な高音。

辺りを叩き散らすような轟音。

 

そして、それを嘲笑うかのような不快な声。

 

 

「おや、順番が変わってしまいましたか、貴女はスクワッドの死体を見せてから息の根を止めたかったのですが…」

 

 

意外そうに、しかし愉悦を隠せぬ声音でそう話すマダムを見て、ようやく何が起きたのかを理解する。

 

 

「カサネ?!……何故!!……何故私を……!」

 

 

取り囲むように辺りを包み込んでいた砂煙が黒い風に吹かれて徐々に晴れる。その奥で、彼女が倒れ付している姿が脳裏に浮かんでしまう。また……私のせいで。また、私が望んだから。

 

私の絶望もいざ知らず、そそくさと波が引くように煙が晴れれば、そこにはボロボロの状態で、オーパーツの剣を杖にするようにして、膝を着きながら、血だらけで苦しげな表情で、それでも拳銃を構えるカサネがいた。

 

 

 

「……っ……は……!……あり……がと……」

 

 

 

「…なるほど、シッテムの箱ですか。てっきり自分を対象にして使うことはできないのかと思っていましたが、」

 

 

 

ほっと安堵する私とは対照的につまらなそうにマダムが告げ、しかし良いことを思いついたと言わんばかりにニタリと嗤いながらその先を告げる。

 

 

 

「そうなると、……ふふ……子供が持つには過ぎた代物ですね、そのオーパーツも私が有効活用して差し上げましょう」

 

 

 

悪辣な声と共にマダムの背後がザワザワと蠢く。バサりと翼をはためかせる様にざわめく悪魔の枝達が狙いを定めるかのように此方を見据えて舌なめずりをしている。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━(大丈夫…だよ、誰にも…渡さないから)

 

 

 

カサネはすぐ側でないと聞き取れないような小さな声で何事かを呟きながらコートの内側ポッケを軽く撫でると、誰よりも傷だらけの体でゆっくりと立ち上がった。

 

調印式の前日時点で、彼女は胸骨と左腕を骨折している。

そして調印式当日に、ヘイローを破壊する爆弾をくらい、彼女はいくつかの内臓と背骨の一部を損傷し、その上彼女の存在を定義する根幹とも言えるヘイローすら壊れかけの状態まで陥った。

 

左目は見えず、片腕はまともに動かず、息をする度に肺に刺さった胸骨が軋み、内臓が傷ついているが故に意味もなく身体中が痛み、そして下半身の感覚は無いに等しい。そんな状態で、しかし彼女は立ち上がるのだ。

 

前を見据えて、弓を引き絞るように狙いを定め、構える。

 

 

「……ぅああああっ!!!」

 

 

魂の底から絞り出すような絶叫と共に彼女は駆け出した。

 

体制は低く、地を這うように。

弾丸のように自らに向かってくる触手のような腕達を時に切り払い、時に撃ち抜き、時に身を捩る。

 

剣を振るえば、いつの間にか胴体に空いていたらしい穴からブシュリと痛々しい音を発しながら血が吹き出した。

銃を撃てば、その反動だけで、まるでインクを被ったかのようにその身を染める血が地面に跳ねた。

 

それでも無数に群がる腕の軍勢に、その先に居座るマダムに向かって彼女は臆することなく突き進む。止まることなく突っ込む。

数分にも感じるような数秒。

あと一度の踏み込みで、届く。

そんな間合いまで一息で駆け抜けて、

 

ぐらりと足が縺れて、彼女は無防備を晒した。

 

待っていたと言わんばかりに、鞭のようにしなる枝が殺到する。

 

 

 

「ぁあ゛っ!!」

 

 

 

人の喉から出ている音とは思えぬ悲鳴が劈く。紫色の光でも防ぎきれなかった数本の枝が彼女の身体を貫いたと錯覚するほどに腹部をぶち抜き、身体をくの字に曲げて吹き飛ばされて、冗談のように地面を跳ねて、そして無様に地面に転がり横たわる。

ただでさえ普通なら致命傷の状態。そんな状態で今の一撃を食らってしまえば。

倒れた少女の身体から命が零れて、血溜まりが生まれようとしていた。

 

 

 

「……ふふ……あはは!……本気で勝てるとでも思っていたのですか?子供である貴女が、大人である私に!!」

 

 

 

スクワッドの皆も私も金縛りに遭ったかのように動けない。暗闇で灯りを無くしてしまったかのように身体が言うことを聞かない。

深い深い絶望の中、マダムの声が遠いどこかの出来事のように現実感を失う。

 

あぁ、結局こうなってしまうんだ。

カサネはああ言ってくれたけれど、やっぱり私は疫病神以外の何者でもないじゃないか。

私が傷ついて欲しくないと、そう願い行動すればするだけその人が傷つく。

ミサキもヒヨリもアツコも、アズサも。

カサネさえも私が望んだせいで傷つくことになった。命を落とすことになってしまった。

 

あぁ、……そうだ。…そうだった。結局、全ては虚しいのだ。何を必死になって足掻いていたのだろう。全て諦めて、受け入れるしかないのだ。

そうすればこれ以上失わなくて済む。

 

 

 

「言ったでしょう!?所詮子供は、私達大人に────」

 

 

 

遠い何処かで聞こえていたマダムの声が侵食するように、木々が根をさすようにするすると脳を埋めていく。

 

そうだ、私達は所詮子供なのだ。だから諦めて大人の言うことを聞いていればいい。

勝ち負けとかそういう次元じゃなくて、従うのが自然の事だから従うべきなんだ。

そうして、全ては虚しいものだからと、期待せず、欲せずに生きればいい。誰とも関わらずに生きればいい。

そうすれば、きっとこんな思いをしないで済む。誰も失わないで済む。

 

 

 

「お互いを騙し、傷つけ合う地獄の中で、私のような大人に搾取されていればいいのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ」

 

 

 

 

 

 

まるで世界が凍ったかのような錯覚を覚えた。

私達も、そしてきっとマダムですら。

 

誰が発したのか一瞬分からない程、今までのカサネからは想像もつかないような冷たい声。鋭い殺気と、誰もが言うことを聞いてしまいそうになる様な覇気のある、そんな声だ。

誰がどう見ても致命傷の身体。そんな身体でゆらりと幽鬼のように彼女は立ち上がった。

肩より広く開いた脚で、重心を下げることで何とか立っている。上半身だけが前傾しているような姿勢で地の底から睨みあげるようにして前を見据えた。

腹部と口元からポタポタと鮮血が滴り、しかしボサボサの髪から覗く赫色の瞳はその鮮血よりも、ただ赤い。

 

ギロリとマダムを睨みつけ、だらりと下がった腕で未だ手を離していなかった武器達をゆっくりと構える。

世界を押し潰すような殺気が込められたその動作は、疲れ果てたようにゆったりとしているのに何故か目が離せないような美しさと気品があった。

 

 

 

「……私に……黙れと……!?」

 

 

 

 

 

「ヒヨリに……ミサキに……アツコに……そしてサオリに……」

 

 

 

 

 

「私の大切な生徒達に…話しかけるな」

 

 

 

 

 

死に体の人間が放つ声とは思えない程に、この世界を掴んでしまうかのような存在感のある声で告げられる慈愛。

一度は自らを殺そうとした相手すら、彼女は己が全てを賭けて守り通さんとする。メラメラと未だ燃える闘志と信念を瞳に宿し彼女は再び立ち向かう。彼女は何度でも立ち上がる。

 

何故そうまでしてくれる?

何故そんなにも強く在れる?

何故諦めずにいられる?

 

そして、私もそうなるには一体どうすればいい?

私も、カサネのように強くなりたい。

守りたい人達を守れるくらいに強く。

 

 

 

「子供の分際で!よくも私にそのような言葉を……!!」

 

 

 

「…確かに私は……まだ大人じゃない」

 

 

 

だから、貴女に私の10年をあげるよ(カサネ先生!これ以上の出力は…!)

 

 

 

「……神秘解放」

 

 

 

憎悪に溢れた声に、いっそ穏やかなくらいに応じ、そして何かを呟いた瞬間。

 

目に見えるくらいに濃密な力が、音を立てて彼女の周囲を埋めつくした。

虹色に光るそれは壊れかけの光輪から濁流のように溢れ出す。神秘的な光暈は煌めきながら彼女の身体を取り巻いて、そしてゆっくりと彼女の腕に、剣に集っていく。きらきら発光しながらそれらは流れて集まっていく。やがて何色かも分からない位の光芒と化して剣を型どり、そして彼女の手のひらに収まった。

 

それは迸る蒼白い剣だった。

 

死に体だったのが嘘のように、彼女は光の剣を携えて、マダムの前へ立ちはだかる。

バチバチと光子が鳴動し、不安定に移ろいながら輝く剣を見て、満天の星空とはきっとこんな見た目をしているのだろうかだなんて、場違いな事を考えてしまった。

そんな私に向けて背を向けたまま彼女は振り向かずに告げる。

 

 

 

「サオリ…見ていて」

 

 

 

「……っ…!……何……を…!」

 

 

 

 

 

 

「夜が明けるところを…だよ」

 

 

 

 

 

 

 

透き通る青空を掴むような、そんな願いの込めれられた一言。カツカツと歩きながら、強い意志の込められた瞳で油断なくマダムを見据えて、さらに一歩前へ。

 

どれだけ傷つこうとも、

どれだけ悩もうとも、

どれだけ倒れても、

 

何度でも立ち上がり、そしてまた、一歩前へ。

 

小さな奇跡を信じられなくなっても、夢を応援してくれた人がいた。

定められた破壊の運命に抗う中で、先輩勇者と呼んでくれた人がいた。

疑心暗鬼の闇の中にいても、それでも信じてくれた人がいた。

 

小さな背中に背負う、託された沢山の想いはどんな闇の最中にあっても輝きを失わず、そして少女を何度だって立ち上がらせる。

 

 

 

「子供風情が…調子にのるな!スクワッド諸共消し飛びなさい!!」

 

 

 

癇癪を起こしたような絶叫。こちらに向けられる膨大な力。あの構えは何度か見た。赤色のレーザーによる攻撃の構え。しかしこれまでとはその色の濃さと量が段違いだ。今までとは比べ物にならない力が集っているのを感じ、身体が勝手に竦んで座り込んでしまう。

 

そんな私の恐怖を感じ取ったのか、カサネは顔だけで半分振り向き、そしてニコリと微笑んで見せた。

 

 

 

「大丈夫……サオリも、サオリが守ってきたものも、絶対に壊させやしないよ」

 

 

 

「戯言もいい加減に、死んでしまいなさい!!!」

 

 

 

微笑みをかき消さんと放たれる赤の津波。

全てを焼き、そして消滅させる赤色が一瞬で視界を埋めつくした。死を目前として本能が急速に脈打ち、目を瞑り、そして死を覚悟した瞬間。

 

言葉にならないような、或いは音が無くなってしまったかのような音が響き、遅れて力強い轟音が辺りを叩く。

衝撃が辺りを叩いて暴れ、思わずつぶってしまった目を開けた。

ぐらつく視界の中ゆっくりと前を見る。

見開いた瞳に写ったのは、

 

夜空を切り裂くような透き通る青色に見初められた勇者の剣を、いっそ馬鹿正直なくらい真っ直ぐ縦に振り下ろし、そして絶望の赤い奔流を、海を割るように真っ二つに断ち切るカサネの背中が見えた。

頒たれた赤い光線の先でマダムの身体すらも深く切り裂かれ、さらに至聖所の壁とステンドグラスに刻まれた傷の向こうでは、夜を追い払う優しく暖かい朝日が祝福するかのように僅かに顔を覗かせる地平線すらも見えた。

神話の一幕を見ているかのような、神秘的で、圧倒的な光景だった。

衝撃の余波でバサバサとコートが暴れ、しかし残心をとり凛と立っている彼女の背中。

宣言通り、カサネはアリウスに、

そして私に夜明けをもたらして見せた。

 

 

 

 

あの時、カサネの背中を見た時に、私の中で何かが変わったような気がした。

 

私の将来の夢。あの時カサネに聞かれたそれは、今もまだ具体的には見つかっていない。

自分探しとは言ってみても、先の無い暗闇の中で彷徨うような心持ちは正直未だに拭えない。

それでもあの背中だけが、あの小さな、それでいて誰よりも大きな背中が脳を焼いたかのように瞳に焼きついて離れない。あの時見せてくれた夜明けが、暗闇を打ち払うかのように私の目指したいものを示してくれる。

 

手段も方法も、今はまだ想像も出来ないが、

私はカサネのように、誰かの笑顔を、幸せを願うような、そんな仕事がしたい。

 

願わくば、私の奪ってしまったものよりも多くのものを救えるような、そんな仕事をしたい。

 

私の憧れたカサネのように、その背中で大切な人を守れるようになりたい。

 

 

 

アリウスを離れて、今まで見た事ないようなものを沢山見てきた。知らないことだらけの世界は、私の世界の狭さを思い知らせて、そして私の世界を広げていく。花曇りのような旅の最中、ことある事に思うのは、大切な家族達と、そしてカサネのことばかりだ。

 

カサネなら知っているだろうか。

カサネならどう反応するだろうか。

カサネなら笑ってくれるだろうか。

 

憧れから来るこの感情は、きっと恋心とは少し違う。そのはずなのに、忙しいだろうに私のために時間を作ってくれたカサネといざ会えば、密やかな思いに脈打つ心臓がうるさくてたまらない。

きっと私自身この感情がなんなのか、カサネにどんな感情を向けるべきなのか、未だに判断しきれないでいるのだろう。止まっていた時が動き出すように、或いは雪代水が廻るように唐突に広げられた世界はあまりにも沢山のことに満ちていたから。

 

それでも、思い出すだけで胸が暖かくなる様なこの慕情さえあれば、それだけで

 

この世界は虚しくなんかないと、そう思える。

 

いつか、貴女のおかげだと、そう伝えて、彼女に恩返し出来るように。

朝日を浴びれば、きっと灰色なんかじゃなかったこの世界で、私は今も、そしてこれからも足掻き続ける。

 

アズサと、そしてカサネのように。

 

私を大切な生徒と、そう呼んでくれた人の為に。

 

 





密やか思いという言葉はドレスサオリの情報が出る前から下書きにあった言葉で、流石に公式からの供給が私の解釈一致過ぎて気持ちいいです。

あと神秘解放を界王拳みたいな使い方してすまんかったです。でも大人のカードも指揮能力もないカサネちゃんがカルバノグまで行くにはこうするしか……

感想、ここすき等いつもニヤニヤしながら読ませてもらってます。ほむ。ではまた。
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