ロ リ ナ パ テ ス   作:( 눈_눈)

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原作では多分こうはならないけど、この世界線ではワカモも光に当てられすぎて変わっているということで許してください。大人と子供という隔たりが無い分原作よりも多くの時間を共に過ごしてたり、クソボケ無自覚人たらしロリの距離感が近すぎたりで、ここに至るまでの時間にもそれなりの差異はあるはずですので……




定離 狐坂ワカモの場合

 

暗夜が戸口を軽く叩こうとするまであと少し。薄暗く揺らめく月夜。趣のある月明かりと風情のない街灯が暗闇を仄かに照らし、夜に慣れた目であれば辺りを見渡せ、しかしどこか暗い。そんな夜10時。

 

小さな敷布団の中で、私は最愛の人を強く抱きしめる。これ以上、彼女が遠くへ行ってしまわないように。これ以上、彼女が自分の身を生贄に捧げてしまわないように。

 

生徒の為であれば完璧主義者並の拘りを見せる癖に自分の事になると途端に大雑把になるカサネは、シャーレの居住区ではなく仕事場により近い休憩室に備えられた敷布団で、今まさに私の腕に包まれながら横になっている。

 

 

「お願いします…!どんなことだって致しますからっ……!だから、……もうこれ以上……!」

 

 

彼女を押さえつけ、自分でも信じられないほどの涙をボロボロと零しながら彼女に懇願する。

腕の中で力なくされるがままの少女に。

 

初めて会った時より随分と窶れ、目元にはくまが目立つ。艶と光沢が溢れていた美しい黒髪は、その半分近くが白髪に染まり、そしてその艶もどこか薄い。

 

明らかに、限界だった。

彼女が背負えるモノ以上のモノを常に背負い、そしてその全てを救い続けた、その代償だった。

 

それでも彼女は立ち向かい続けてしまう。アビドスの生徒誘拐事件から始まり、エデン条約調印式にアリウス解放戦、ミレニアムの王女解放戦、その合間を縫うように、ビナー、ケセド、シロクロ、ヒエロニムス、ペロロジラ、ホド、ゴズ……訳の分からぬ魑魅魍魎を相手取り、そして今回はグレゴリオというこれまで相手取ったものよりさらに強力な敵と戦うことになるらしい。

 

……何度もボロボロになり、そしてまた今回の総力戦でも生命に関わるような深手を負うことは想像に難くない。

 

彼女に一目惚れしてから、問題にならない程度に彼女の動向を追い続け、そして彼女にすら気付かれないように手助けし続けた。

時には彼女が望まないだろう手段も使おうとしたが、そういう時に限って何故か、どうやってかは全くもって分からないが、しかし彼女は嗅ぎつけて、そして私のことを絶対に止めて見せた。その上で、総ての人々が笑える結末を齎し続けた。

 

初めのうちは心配が勝って、やがて「彼女ならば大丈夫だろう」という安心感すら抱くようになった。事実、私という余計な手間を生んだイレギュラーを抑え、解決したうえで皆をハッピーエンドに導いたことだってあるのだから。

それでも彼女の手助けをし続けたのは、偏に彼女を愛していたからだ。彼女が成したいと思っていることをただ応援したかったんだ。

 

だと言うのに、私は今、彼女を止めてしまっている。私達が恋した少女が生命を捨ててまで成したいことを。

 

 

「…ふふっ……」

 

 

「…あなた、……様……?」

 

 

「いや……初めて会った時のこと、思い出して」

 

 

私に押さえつけられた彼女は、思い出したかのようにクスりと笑い、そして不思議そうに尋ねる。その表情は普段の彼女からは想像もつかないような、人をドロドロの欲に沈めてしまいそうな程に妖艶で、小悪魔のような可愛らしさに溢れる、妖しげな微笑みだった。

 

 

 

 

「今なら、私のこと簡単に壊せるよ?」

 

 

 

 

──────彼女と初めて出会った時、ただ彼女を観測したという意味で言うならば、彼女が各校の生徒を従えてシャーレに向かう最中だった。

 

ホルスターの銃を一切抜かず、妙に頑丈な木刀で不良達を鎮圧する姿を眺め、なるほど中々に厄介だと、そう評価した。

空崎ヒナのような絶対者ではないが、しかしそれでも戦局を変えうるだけの力はあるだろう。彼女を止めるには各校で最強と呼ばれているような生徒が必要で、しかも彼女は未だ1年生である。今後の成長も鑑みれば確かに先生代理として選ばれるのも、まぁ頷ける。

 

その時はその程度の評価しか出来なかった。あまりにも強く、そして危うい彼女の本質を知ったのは、ちょうどシャーレのあのオーパーツを前にした時だった。

 

 

「ふむ……壊さないと気が済まないとは言ったものの、……どう壊したものか…」

 

 

「…んー……?こんにちはー!」

 

 

頑丈なオーパーツを眺め、どう壊したものかと思案していると、唐突に、なんの気負いもなく彼女は現れた。散歩の最中、知り合いに出会ったかのような気楽さで。

黒髪赤目。140あるかないかの身長。連邦生徒会のロングコート。そしてキヴォトスでは珍しい近接武器。

 

 

「あら…追いつかれてしまいましたか」

 

 

「……ん?…もしかして…君が狐坂ワカモ?」

 

 

「そうだと言ったら?…ふふ、どうするのですか?」

 

 

あまりに純真、或いは平和ボケした問いに、少しの挑発を込めて返す。連邦生徒会長の犬なんて今ここで仕留めてしまおうと、そんな威圧を込めて睨みつける。

 

 

 

「そっか!…私は鶴喰カサネ!よろしくね!」

 

 

 

しかし帰ってきた答えは、あまりに予想外な答えだった。恐れも憎みもない、拍子抜けするくらいにただ優しく、そして当たり前のように彼女は手を差し出した。仮面のように完璧で、しかし太陽のように優しげで暖かな笑顔と共に。

 

 

「…何を言っているのですか?……私はただ壊すのが趣味なのです。貴女とは相容れない存在でしょうに」

 

 

「………ワカモは壊す瞬間だけが楽しい?それとも壊す過程も楽しい?」

 

 

脈絡の読めない唐突な問いに思考が一瞬止まる。自分では考えたことも無いが、趣味嗜好の話など、初めて考える内容でもスラスラと答えが紡がれるものだ。少しの思案の後、顎に手を当てながら自分でも興味深かげに答えを返す。

 

 

「ふむ…1番は壊す瞬間でしょうが、とはいえ何かを壊す為に策を弄する時もそれなりに」

 

 

「そっか、良かった」

 

 

「……?」

 

 

どこか安心したような彼女の表情に疑問符が浮かぶ。だがそんな私の様相も気にした様子なく、彼女は悠然と私に歩み寄り、そして少しの背伸びをしながらお面越しに私の頬に手を添えた。

戦闘を警戒していたはずだったのに、当たり前のように行われたそれに私は反応出来なかった。或いは害意から来るものではなくて、深い愛情から来る行為だったからこそ反応出来なかったのかもしれない。

頬を撫で、花開くような笑顔で言う。

 

 

 

「これから先、私のことを幾らでも壊そうとしていいよ。その代わり………約束だよ」

 

 

「…いーい?私のことを壊せるまで、他の物も人も……絶対に誰も壊しちゃダメだからね?」

 

 

 

身体の芯を溶かしてしまいそうな程に甘い声で、純真なのにどこまでも危うい色香のある妖艶な笑みで、私の瞳を貫いてきた。

 

私が相手になり受け止めてあげるから、その代わりに私だけを見ろ、とそう言って見せたのだ。彼女は。

 

私の破壊衝動に向き合い、そして恐れることなくただ寄り添おうとしてくれたんだ。

彼女なりの方法で、私をきっと導こうと、そう決意してくれたんだ。

出会って間もない私に、

既に大きな迷惑をかけている私に、

こんな一瞬で、彼女は覚悟を決めて見せた。

 

私を厄介に思う人々、恐れる人々は沢山見てきたが、こんな反応をされたのは人生で初めてだった。

傍に居ようとしてくれることが、こんなにも嬉しいだなんて想像も出来なかった。

 

ぐるぐると渦巻く思考のなか、自分が感激していることに気づき、そしてそれを齎した彼女を今一度見つめる。

 

黒羽色の、虹色にすら見える光沢を纏う艶毛。

鮮血のようで、それなのに優しげな茜色の瞳。

140センチに届いているか怪しい、小さくて幼くて、なのに自信に満ちた姿勢で、なぜだか年上に錯覚してしまいそうな母性ある佇まい。

小さくて、直接触れてなくてもわかってしまうほどにきっと暖かい、美しい指。

 

 

「あら、あららら……。あ、あぁ……」

 

 

激情が湧き上がるのを感じる。

醜い欲望と、高潔な想いが同時に花開く。

 

 

「し、失礼致しましたー!!」

 

 

結局私は、捨て台詞と共に彼女の前から逃げ出した。胸を焦がしてやまない熱愛を押さえつけ、ただ彼女のことを遠くから見守ればいいと、そう心に言い聞かせた。しかししばらくすれば抑えられない欲望が顔を擡げて、魔が差したようにちょっとしたお出かけに何度も彼女を誘った。

その度に想いを伝えては彼女の返事を待つことなく逃げ出した。

そんな意気地無しで卑怯な私にも彼女は変わらなかった。私の酷く重い愛情を正面から受け止めてくれた。醜く間違った愛情にはしっかりと叱ってくれて、そして彼女の信じる正しい道へと、手を引いてくれた。

ただ、私といる時間を大切にしてくれたんだ。

 

だから、

 

 

 

「そんなことはっ!もうどうでもよいのです!……私はただあなた様の傍に居たいのです!…ですから……お願いです…!行かないで下さい……!」

 

 

「‪……もう…先生代理を…やめてください……!」

 

 

 

冗談のように細く小さな身体に覆いかぶさり全身で抱き留める。愛おしい柔らかさが腕から零れないように。理性を溶かす甘い香りが私から逃げないように。

 

私はなんて罪深いのだろうか。

彼女の傍に居たい。生きていて欲しい。死なないで欲しい。

他ならぬ彼女がそれを望んでいない、重要視していないというのに。私はそれを望み、そして私の望みで彼女を縛りつけようとしてしまっている。

彼女の信念を私の我儘で否定してしまっている。

 

 

「愛しているんですっ!……焼き焦げてしまうほどあなた様が大好きなんです!!……だから、お願いします……!」

 

 

それでも、私は懇願する。

何度も何度も、願う。

何度も告白し、何度も祈る。

あなた様が心の底から大好きだと。

だから死んで欲しくないのだと。

 

押さえつけられた彼女はしかし、嬉しそうに微笑みながら私の頭を優しく撫でる。

それが余計に、想いが届いていない様に思えて、幼く未発達なのに恐ろしいほど妖美な彼女の身体に向けて吐き出すように、何度も何度も想いを伝える。

 

やがて疲れたように、彼女の肩口に顔を埋めながら嗚咽を押さえつけるだけになり、そうなっても尚、彼女は私のことを撫でていた。

 

 

「ねぇ、ワカモ……あの時みたいに、約束して欲しいんだ」

 

 

泣き疲れた私に、甘えるような声音で彼女は話しかける。大人を演じる彼女が子供をさらけ出した様にすら思える甘い声。先生と生徒ではなく、先輩と後輩の関係を利用しようとする、そんなずるい声だ。

 

 

「今回の総力戦だけじゃない。……この先もしも私が居なくなったら」

 

 

「…皆も、そしてワカモ自身のことも……絶対に傷つけないで欲しい」

 

 

「……それは……!そんなのっ……!」

 

 

遺言のような言い方。寂しげで、なのにどこか安心しているような表情。彼女がこの世を去るという未来が、急に現実逃避を許さぬように追いすがって来るような感覚がして、一層強く彼女を押さえつける。

 

 

「そんな約束っ……できません……!私には……!」

 

 

「…ワカモは今、私に会えなくなることが嫌で悲しんで、……それ以上に私の信念を否定したくなくて泣いている」

 

 

諭すような声音。幼さと母性。相反するように見えて何故かその2つを兼ね備えた彼女は、泣いている子供をあやす様に私を撫でて囁く。

 

 

「君は変わった。…自分の欲のためなんかじゃなくて、……誰かを心から想って、泣けるようになった」

 

 

他ならぬ彼女にそう言ってもらえるのが嬉しくて、だと言うのにこの言葉を受け入れてしまえば、もしかしたらもう二度と引き返すことは出来ない所に行ってしまいそうで。

 

ぐちゃぐちゃの感情に身を焼かれボロボロの顔を彼女の胸に押し付ける。

彼女はそんな私の手を優しくとって、そして自分の頬にゆっくりと触れさせた。

 

 

「…出来るよ、私は信じてる」

 

 

この世の理すらも書き換えてしまいそうな程の断言。時折彼女が見せるそれは、まるで遥か先を歩く大人のような超然とした声音。

…先を生きる為に必要なのは、きっと年齢なんかじゃないとそう教えてくれるような優しくも力強い声音。

 

自分の頬に添えられた手を優しく包み込み、見上げるように彼女を見つめる私に対して、いつもの様に、或いはいつかの様に花開くような笑みをふんわりと浮かべて、そうして唄う様に宣する。…心から嬉しそうに。

 

 

 

 

「今の君は…こんなにも優しいのだから」

 

 

 

 

「っ……!…わた…くし……は…っ!」

 

 

 

…あぁ、やはりあなた様は紛れもなく先生だ。

あなた様をおいて他にいない。

あなた様じゃなきゃダメなんだ。

 

それでも、死地に向かうあなた様を、皆の傷を背負い込もうとするあなた様を止めたい。

 

あなた様が望むようにただ約束を守りたい。

刻まれた純情に従ってあなた様を止めたい。

どちらも本物で、だから苦しい。

 

なら、それならば、

きっとこれ以上の苦しみがないのなら。

この先、誰にどんな謗りを受けようと。

どの面下げてと、罵られようとも。

 

 

「……………私も、お供いたします」

 

 

「……え…?」

 

 

「先程の約束、決して違えません。そのかわり、例え誰に止められようとも、……戦闘中に背後から撃たれようと、あなた様の傍で、ただあなた様のために戦い……」

 

 

「…あなた様を、必ず…!…お守り致します」

 

 

もう自重など、するものか。

…もう、いい加減覚悟を決めよう。

あなた様が、私と出会って間もないあの瞬間に覚悟を決めてくれたように。

 

あなた様が生きている間も、あなた様がどこか遠くへ旅立ってしまった後も。

 

ただあなた様の為に生きよう。

 

熾烈な戦いがあなた様を待ち受けているのなら、私が剣となって全てを喰らい尽くそう。

あなた様の身体が傷に塗れてしまったのなら、ただあなた様の傍で、再び立ち上がるその時まで何年だろうと、この身が石となり砕け散る程の年月が経とうとも添い遂げてみせよう。

 

あなた様の傍で、あなた様が信じてくれた私の優しさを胸に抱いて。

そうして、あなた様が偽物なんかじゃないと、私が必ず証明して見せよう。

 

…あなた様がいつか遠くへ旅立ってしまったその時は、私だけがこの世界に取り残されてしまったその時は、あなた様を愛した者として恥ずかしくないように生きよう。他ならぬ私の蛮行があなた様を汚してしまわないように。

 

あの方は本物だったんだと、偽物などではなかったんだと、そう胸を張れるように生きよう。私のような悪党すら骨抜きにしてしまうほどの凄い御方だったんだと、……あなた様が私達を自慢してくれている時みたいに、優しく微笑んで語れるように。そうやって生き、そしてあなた様の傍に還り死のう。

 

例え二度と逢えなくなったとしても、

あなた様と約束したのだから。

あなた様が信じてくれた私の愛は、

破壊衝動も闘争本能も覆い隠してしまう程に溢れ出すこの恋心は、絶対に本物だから。

 

 

「へ?…ちょっ!明日は風紀委員もSRTの子も居るんだよ!」

 

 

「その程度で、私のこの本物の愛を止めることなど出来はしませんわ!!」

 

 

「……いやいやいや…!みんなに話はしてみるけど……流石に…というか君はまだ………………」

 

 

 

─────瑞獣、焉に有り。其の状、狐の如くして九尾あり。其の純心、嬰児の如し。能く愛を食ふ。愛せば蠱せられず。

 

なぜなら、九尾の狂い咲く愛すらも超えて、

この世界を愛した本物の少女なんて、1人しか居ないのだから。

 





本人の自認が偽物でも、きっと生徒も先生もカサネちゃんがプレナパテスの正体だった世界線のプレイヤー達にとっても、紛れもない本物として扱われてくれていると、彼女の決意と想いが報われているようで嬉しい。

……話変わりますけど掲示板回みたいなの二次創作でよく見るんですが、見る側だと全然気にならないし寧ろ好きまであるんですが、書くがわだと自作自演感がものすごい羞恥心を煽ってきますね。プレナパテスの正体がカサネちゃんだった世界線の反応みたいな掲示板回書いてみたいし見てみたいんですけどね……
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