ロ リ ナ パ テ ス   作:( 눈_눈)

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生き残れたわラッキー、コレで生徒のことをまだまだ救えるぜ!ってなるのもいいっちゃいいんですが、個人的には一度これくらい曇った方が解釈一致ではあります。実際幾つかの世界を滅ぼしてる訳ですし。
贅沢を言えば1話で綺麗に死んで欲しいんですけども、いろいろ書いているうちにまぁこれはこれでありだなって思えるものが出来た気がします。


3.本物

嗅ぎなれた消毒液と、無機質な薬品の匂いが微かに香る。柔らかな温度で身体を覆う毛布と、灯りのない微睡みの最中のように、薄くぼんやりとした視界。

 

窓から差し込む、壇上を照らすスポットライトのような日差しが鬱陶しくて、

嫌がるように、もう少しだけと、再び眠ってしまおうとして、

けれどやっぱり、何故だかそんな気分にもなれなくて。

 

大切な何かを忘れているような気がして。

 

どろりと暗闇に沈んでしまおうとする私に抗ってゆっくりと目蓋を開く。

ぼやけて暴れていた世界の輪郭達が正常をとりもどしてゆく視界の中で。

曖昧で混濁する記憶を辿ろうと意識を目覚めさせようとした、まさにその時。

 

 

「っヴぅ…!…ぐっぅ…!いっ…ッつぅ……!…いてて……」

 

 

まるで思い出したかのように、引き裂かれるような激痛が全身を走り回った。

 

…あぁ、そういえば、また死にかけたんだっけ。

 

なんてことないように痛みを意識の外になるべく追いやりながら、最早染みついてしまった癖で、恐る恐る自分の身体を確認する。

 

両手はどうやら付いている。

両足もしっかり健在らしい。

空調か何かが唸る音が微かに聴こえる。

薬品の匂いは相変わらず感じ取れる。

 

…包帯まみれの四肢も、寝起きの鈍い五感もどうやら無事のようだ。

 

呆れることに、あの状況からどうやったのかは知らないが、どうやら五体満足で生き残ったらしい。

 

見慣れたシャーレの医務室で、これまた使い慣れたベッドに私は横たわっていた。

 

……いつも、騒動が一段落する度に緊急搬送されて、気絶中に施された処置をこのベッドで確認しながら目覚めてたっけ。

……特にエデン条約の時はホントに酷かったなぁ。

 

そんな虚しい思い出を振り払うように、無意識に窓の外に視界を向ければ、そこにあるのは終末を告げるような赤ではなく、透き通る様な青が世界の彼方までを染め尽くす、そんな残酷なくらいに綺麗な空だった。

ぼんやりと、或いはなんとはなしにそれを眺めていると、

 

 

…生き残ってしまった。或いは死に損なった。だなんて、そんな感情がどうしても抑えられない。

 

 

分かってるさ。死ぬことは贖罪なんかじゃないと。

 

心のどこかで、罰されたいと、そして許されたいと願っていたのは否定しない。しかし、決してその感情が原動力になっていた訳じゃない。私のシロコを救いたいという想いだけは、絶対に偽物なんかじゃない。

 

そんな罪悪感や自罰欲がなくたって、私は絶対に同じ状況で同じ選択をした。これだけは胸を張って言えるとも。

 

それでも、生き残ってしまったことを、死ねなかったことを、

どんなに取り繕っても、どうしても残念に思ってしまうんだ。

 

暗い感情がボロボロの傷よりも容易く、そしてぐちゃぐちゃに私を蝕む。

自己嫌悪とそれを否定しなければならない信念に挟まれて吐き気と頭痛が迫り上がる。

 

そんな時、まるでそれを見計らったかのようなタイミングで、小鳥のイタズラのような控えめで優しいノックがして、

 

そうして、本物の先生がおいでなすった。

 

 

「"っ!よかった!目が覚めたんだね"」

 

 

「……」

 

 

開口一番に紡がれる、明るく、そしてどこか無邪気な先生の声は、心からの心配が嘘偽りなく伝わってしまって。

 

油断すれば、なんで死なせてくれなかったんだと、そう怒鳴ってしまいそうで。

私は、気がつけば黙り込んでしまった。

 

分かってる。この怒りは不当で、理不尽で、必要のないものだ。私を救ってくれた恩人に向けるには、あまりに見当違いの怒りだ。

 

 

「"?……どうしたの?…やっぱりまだどこか具合悪い…?"」

 

 

「……っ!……」

 

 

心配そうに私を覗き込むような声がする。

心底私を心配するような声に苛立ってしまう。私は所詮偽物だったと思い知らされてしまう。

 

違う。違うでしょ。

 

そうじゃないでしょう。勝手に苛立ってなよ。そんなことはどうだっていいでしょ。自分の感情がどうなってるかなんてことはどうでもいいでしょうが。

助けてくれてありがとうございますって、そう伝えればいいだけなんだ。今までだって、自分の感情なんて幾らでも押し殺してきたでしょう?

今更になって自分勝手な自我を出すなよ。

今更みんなのハッピーエンドを罪人如きが汚すなよ。

 

 

「"……!…カサネ"」

 

 

 

「……っ…なん……で…?」

 

 

何かに気づいたような声が聞こえてしまって。

バレてしまったと焦る気持ち以上に、もう我慢したくないという気持ちがどうしても溢れてしまった。

 

ぽつりと零れてしまった声は、言おうとしていた言葉とは真逆のもので。

そして、一度零れてしまえば、もう我慢できなかった。限界だった。もう無理だった。

 

 

 

「っどうして……!私を…!罪人の私を!!……なんで死なせてくれなかったんですか…!!私は!……私は死ぬべきだったのにどうして!!………なんで……っ…………なんで、助けたんですかっ…?!……」

 

 

 

ぐらぐらの言葉とヒビだらけの慟哭が抑えられない。そんなことを言いたかった訳じゃないのに。そんなことを思っている訳ないのに。

 

本当に嫌になる。どうしてもこうしても全て自業自得じゃんか。私が無能だったから最悪の結末を回避出来なくて、その尻拭いを勝手に全て押し付けて、無駄に生き残った挙句、その押し付けた相手にみっともなく泣き叫んで八つ当たりして。

 

そんなんだから、偽物なんだよ。

 

 

 

「……ごめんなさい、こんなことを言うつもりじゃなかったんです…ていうか、こんなこと言える立場じゃないですよね……あはは…」

 

 

「…えっと………助けてくれて、ありがとうございます……放っておいてくれれば、歩けるようになり次第何処かに消えるので……」

 

 

 

 

「"カサネ"」

 

 

「……っ、……なんでしょうか?」

 

 

「"君を助けた理由はね…"」

 

 

何かを探すように、声をかけられる。

先生のその姿が何かに重なる。

 

優しい声色が、

罵られた自分の事など二の次で、生徒の苦しみをどうにかしようと、どう伝えようかと思案しているその姿が、

 

どうしても見覚えがあって。

 

 

 

 

 

「"それが先生の、そして大人のやるべき事だからだよ"」

 

 

 

 

 

一片の疑いなくそう断言するその姿が、どうしても重なってしまう。

 

何故かと問うてきた悪い大人に、

傷だらけの私に対して、なんで私なんかの為にと問うホシノに、

 

かつて私が、それが先生のやるべき事だからと、

それが私のなりたい先生だからと、胸を張って言い放ってみせた姿に。

 

 

「……っ!…私は…!私は生徒じゃないんです!…それ以前に!…私は先生なんです…!なのに……!私が大人じゃないから……!私は本物の先生にはなれなかった!!……私は先生になるべきじゃなかった!!」

 

 

 

 

 

「"なりたいものがあるのなら、誰かに許しを貰わなくたって幾らでも目指していいんだよ"」

 

 

 

「"君のなりたい存在は、君自身が決めていいんだ"」

 

 

 

 

 

まただ。

 

また、重なった。

 

頭痛と耳鳴りが止まない。

 

それはかつて、keyに乗っ取られ、深い眠りに着いてしまったアリスに、私が呼びかけ続けた言葉。世界を滅ぼさんと迫る怒涛の攻撃を何度も死にかけながら凌ぎ続け、その身体の奥底に眠る勇者へ、この勇気が届きますようにと喉から血を吹く程に叫び続けた言葉だ。

 

そして、全てが終わったあとに、かつて1人の少女を殺すことで世界を守ろうとした孤独な王様にかけた言葉でもあった。

 

君がその在り方を望まないのならと、

君ならきっと、みんなで別の在り方を見つけられるからと。

 

今回のような小さな奇跡を、そしてハッピーエンドを君にだって見つけられる筈だからと。

 

 

 

「…っ……!そんなの綺麗事です!!……私は世界を幾つも滅ぼしたんです!……この世界だって滅ぼそうとした……!……私は結局偽物だった!!私は所詮……偽物の先生に過ぎない!」

 

 

 

 

 

「"カサネは偽物なんかじゃないよ"」

 

 

 

「"カサネは私なんかよりもずっと立派で、そしてかっこいい先生だ"」

 

 

 

 

 

また、まただ、

 

疫病神なんかじゃないよと、

そして、魔女なんかじゃないよと。

 

鏡のように似ていて、そして水面のように正反対の2人に伝えた、嘘偽りのない私の本音。

1度や2度の失敗で閉ざされる道なら、私が君たちの新たな道になってみせるからと。

だからもう一度だけ信じて欲しいと。

 

失敗したとしても、何度でも、何度でも。

ひたすらに無限の可能性を信じるその精神は、今まで私がいつだって大事にしていたものの筈だ。

 

 

 

「……私は……!っなら……!…世界を滅ぼしたという事実は…!…私が沢山の人を傷付けたことは変わらない……!!」

 

 

 

 

 

「"もし君を悪くいう人が現れたとしたら、いざと言う時は私が責任を取るよ"」

 

 

 

 

 

「…っ…!またっ、!………なん、…………で、……」

 

 

 

重なる。まただ、

 

小隊の皆に、失敗した時のことは考えなくていいよと伝えたくて、

でも前に、失敗した時のことを想定し続けるのが成功の秘訣だと言っていたのを思い出して。

それでも私は、彼女達の、本当の正義を追う旅路を、何気ない朝のような「行ってらっしゃい」で送り出したかったから、それで、伝えた言葉だった。

 

 

 

「…なんで、…偽物の私に…!」

 

 

 

 

 

「"最初は演技だったとしても、…演じ続けていけば、いつしかそれは本当になるんだ"」

 

 

 

「"カサネにとっては嘘だったとしても、私にとって君は、紛れもなく本物の先生だよ"」

 

 

 

 

 

「…っ…!…わた……し、…は……!」

 

 

 

…ここまで来れば、もう随分と記憶に新しい。

不相応な地位。

過分な評価。

そして、それでも応えたい期待。

ナグサが抱える沢山のものは、示し合わせたかのように私と同じで、そっくりで。

どう立ち向かったらいいのかなんて、私だって聞きたいくらいだった。

それでも、私達は偽りの存在かもしれないけれど、だったら二人で本物になってやろうと、迷えるあの子に、私は手を差し伸べたんだ。

 

 

 

 

 

「"…カサネ"」

 

 

 

 

 

先生は優しく言葉をきり、そしてゆっくりと頭を下げてきた。 何のつもりかと、涙を拭いもせずに困惑する。まるで焼き直しのようで、それでいて私なんかとは全然違う、重いお辞儀。

 

先生の口から紡がれる言葉は予想だにしないもので、そして、どんなに取り繕っていても、いつも心のどこかで、どうしようもなくずっと求めていたものだった。

 

 

 

 

 

 

「"シロコのことを守ってくれて、本当にありがとう"」

 

 

 

「"みんなの為に頑張り続けてくれて、本当にありがとう"」

 

 

 

 

 

「…っ…ぁ…!…ぅ…わた、……し、は……」

 

 

 

ボロボロ零れてしまう涙を必死に拭う。そんな私を安心させるかのように、優しく頭に乗せられた手が、ゆっくりと私の心を溶かしていく。私の絶望を取り除いてくれる。

 

 

 

 

 

「"君が休んでいる間は、君に負けないよう私が頑張ってみせるから、だから後は私に任せて"」

 

 

 

「"先生である以前に、君だって、私の大切な生徒だからね"」

 

 

 

 

 

…本当にこの大人は、

本物の先生ってやつは、

 

ひたすらに、私が欲しい言葉をくれる。

こんなにも簡単に、救ってしまう。

 

本物を教えてくれる。

なりたい自分を教えてくれる。

 

喉の奥から零れてしまう嗚咽が我慢できない。溢れる涙が拭っても拭っても収まらない。

 

これだったんだ。私が本当に求めていたものは。

 

間違っているのかすらも分からず、誰にも相談できず、しかし、悩んでいる暇はなくて、立ち止まっている暇はなくて、

 

そして、これが正解だと自分の中で決めた答えに向けて、いつも、お願いだからこの選択が正解でありますようにと祈りながら走り続けてきた。

 

それでも、後になって間違いだったと気づくこともやっぱりあって、けれどそれを叱ってくれる人はどこにも居なかった。教えてくれる人はどこにも居なかった。

 

支えて欲しかった。救われたかった。助けて欲しかった。辛かった。

 

 

……言葉はどうでもいい。でもそれだけ辛い思いをしても、そしてこの先どれだけ苦しむことになるとしても、

 

こんなかっこいい姿を見せられたら、

やっぱり先生になりたいという夢だけは、どうしても諦められない。

 

透き通った決意に呼応するように、ゆっくりと涙が、暗い感情が溶けてゆく。

 

過去は変えられない。

それは確かなことで、やっぱりこの苦しみを手放したくは無い。でも、だからといって振り返って立ち止まり続けるわけにはいかない。

 

いいや、手放さなくたっていい、時間をかけたっていい、時には振り返ったっていいから。

それでも後ろだけを向いている訳にはいかない。

見失ってた答えは、簡単で、単純で、いつもそばにあった答え。

他ならぬ私が、シロコに祈ったこと。

 

 

 

失ったものが戻らなくたって、それでもいつか、前を向くべきなんだと。

 

 

 

 

 

「……わかり、…ましたよ……今の私に、……大人じゃない私にこの十字架は背負えません」

 

 

 

 

 

未だ涙に濡れた声で、敗北宣言をする。

けれど、偽物には偽物の意地がある。

負けたからと言って、そう易々と全てを放り投げたくはない。それは私の目指す道じゃない。

 

少し安心したような顔をする先生に、確かめるように、答え合わせをするように私の答えを紡いで行く。

 

 

 

「とはいえ、それを先生に全て押し付けてのうのうと生きるようじゃ、私のなりたい先生には、絶対になれません」

 

 

「なので……明日を待つことにします」

 

 

 

先生は、探していた道を再び見つけようとする私の答えを、優しく微笑みながら受け止めてくれた。

 

私の答えを聞いてくれる先生がいる。見守ってくれる大人がいる。それだけのことが、なんて心強いのだろう。

 

 

 

「学んで、成長して、大人になれたら……私が本物になれたら、…改めてこの責任と向き合うことにします」

 

 

 

あぁ……なんだか憑き物が取れたようだ。心がどこか清々しく、そして透き通っている。

 

私が殺戮者なのは変えられない。

過去は変えられないし、死んだ人は帰ってこない。

私達が変えられるのは未来だけだ。

 

だから私は、昨日を無駄にしないために、そして明日を変えるために今日を足掻く。

 

奪ってしまったものよりも多くのもの、いつか救えるように。

 

 

 

「"やっぱりカサネは凄いなぁ"」

 

 

「"また、もう一度立ち上がるんだね"」

 

 

 

…立ち上がる、とはどこか違うのかもしれない。

どうやら私の心は気づかない内に随分前からズタボロだったし、きっと完全には元に戻らない。結局、この世には取り返しのつかない失敗もあった訳だ。

 

それでも、私が歩んできたこれまでを、

絶対に、嘘だったとは思いたくないから。

 

結局辿り着くのは、いつだって、とっても無垢で、ひたすら誇り高い少女が教えてくれた1つの答え。残酷な世界に抗う唯一の方法で、私の心を何度も救ってくれた1つの信念。

 

 

 

「…これからの無限の可能性を、もう一度信じることにします」

 

 

 

どんなに虚しいことだったとしても、

もう少しだけ足掻き続けてみるとしよう。

 

 

 




本編の中で上手く描けよって思うのは私も思うのですが、私の執筆力がたったの5しかない故に上手く描ききれてない所を、設定集的なやつで共有してみても面白いのかなって思い始めました。
それこそカサネちゃんの容姿や年齢、強さといった読者の想像に任せている部分とかです。決して展開が思いつかないので時間稼ぎしようとかは思ってないです。因みにコレを大海原を越えた遥か東にある黄金の国ではお茶を濁すと表現するらしいです。どちらかと言えばマイナスの言葉なのになんだか詩的な表現ですね。素敵です。
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