西域大名バンデンバーグ大公。
西都よりも西、マグノリア連邦の国境とせめぎ合った最前線を支配している、帝国の超大物貴族です。
先帝と肩を並べて多くの国を平定し、その影響力、軍事力、政治力は凄まじいの一言。サイデリア統治時代となって尚も先帝への忠義を貫き通し、先帝派閥にとって最大の拠り所となっているのだそう。
表向きは今の陛下とも良好な関係を築き、領地経営も真っ当に行っているので引き続き西域の統治を任されている……とのことですが。
「いや、ありえんのよ。あやつってば野心とか征服欲の塊でな。クソ親父の首すら虎視眈々と狙っておったんじゃぞ」
「そんなのをよく腹心にしてましたね、先帝」
「クソ親父のが輪をかけて馬鹿だったからの。本気で世界征服が可能だと信じて疑わぬ、その狂気がカリスマを生んでおったのも確かじゃった」
「ふーん。でも先帝より陛下のが強いんですよね。タイマンで勝ったって話ですし」
「個人武力で上回っても、支配者としての器はクソ親父のが上じゃよ。もちろん、バンデンバーグにもその器はない」
はっきりと断じた陛下の顔は、さっきまでのスケベでノリの軽い少女のそれではなく。余人の及ばない高く広い見識で述べる皇帝のものでした。
……ちょっとキュンと来ちゃったのは秘密。やっぱカリスマありますよ、この方。
「では、その虎視眈々と皇位を狙ってるけど器じゃない西域大名が、とうとう行動を起こしたと?」
「うんにゃ。まだ水面下での準備段階じゃろう。だがの、お主とセキシスの送ってくれた物品や金の流れから、とうとう尻尾を掴めた」
「でも決め手に欠ける、と」
「じゃな。ヤツはただの野心家ではない。慎重かつ大胆、将としてなら超々有能だ。ティンダロスが証拠を掴んだとしても、余の下に情報が届く前に揉み消すぐらいはやってのける」
なるほど。だから陛下自ら現場を押さえて、現行犯で処断する必要がある、と。そして確実な証拠を突きつけ完全無欠の謀反人にしないと、先帝派閥に結束と反抗の動機を与えることにもなってしまう。
「それはいいですが、陛下がこっちに出向いちゃって中央の政治は大丈夫なのです?」
「工作員のお主が気にすることではないよ。それに、余にも腹心の臣下ぐらいおるわい。裏切られたら破滅するぐらい信頼を置いた忠臣がな」
「……申し訳御座いません。差し出がましい口を叩きました」
さすがに失言が過ぎました。今の発言は陛下以上に、陛下を信じる臣下全てを軽んじるものです。
ブラウン管から一歩分離れ、床に両手を付いて謝罪します。
「よいよい、頭を上げよ。……つーかお主、余への無礼には遠慮がないのに……」
「一応は私も陛下の臣下ですので」
「一応かい……」
忠誠心とかは持ってませんけどね。
居住まいを正して、話題を西域大名に戻します。私には分かりませんでしたが、私達の調べた情報が彼の謀反を暴いたと?
「うむ。ドゥーベル市って連邦と貿易してる商家がちょくちょくおるじゃろ? ぶっちゃけ国交断絶中の国と商いしたら打ち首なんじゃが、敢えて黙認しておる」
「まあ完全に取り締まると、かえってアングラでの活動が活発化しますしね。……確かに連邦からの物資の流入と、流出については調べています。本当に調査だけですけど」
「将来的に連邦とは友好条約……は無理だとしても、自由貿易は取り付けたい。その足掛かりとなれば良いかなとは思っとった……のだがな。バンデンバーグのヤツ、連邦との交易に関税を掛けておるのだ。それも余に黙って」
「へー……え、どうやって?」
表向き存在しない取引に関税?
ん〜……ぱっと思いつくのは、闇市場を支配するマフィアがみかじめ料としてせびってるとか?
「それでほぼ正解じゃけど、よくも思いついたのう。元奴隷商人っつっても、まだ合法で商売しとった頃じゃろ」
「当時からマーケットとマフィアの繋がりはありましたよ。娼館にも商品は卸してましたし、そこのいくつかはマフィアが経営してました」
「……それでか。お主らの調べた情報、よくこんなところまで気がつくのーって感心しておった」
蛇の道はヘビって言いますし。
しかし……私がマフィアに流れていると考えていた連邦との密貿易の金や物資は、実はバンデンバーグの懐に入っていた、ということですか。恐ろしく慎重な男ですね。
「うむ。が、やっぱり決定的な証拠とはならなんだ。狡猾にもあやつってば、国内での取引を挟んで真っ当な収支に見せかけておる」
「資金洗浄ってことですか」
「言い得て妙じゃな。裏金をキレイに洗浄する、か。センスあるの、お主」
なんか知りませんが感心されました。
……あ、そっか。この世界、まだ銀行が存在してないんでした。貨幣の価値は国家が保証してる段階です。
そんな状況でマネーロンダリングを思いついて実行するだなんて。新しい概念を構築するのは天才の所業。バンデンバーグ、本当に傑物なようですね。殺すには惜しいと思うほどに。
「能力だけみればのう」
陛下としても、殺すより自分の下で活かしたいようでした。人手が足りないってよく愚痴ってますものね。
「そんでな、ギルドに舞い込む仕事のいくつかに、マフィアと繋がってるものが紛れとる。まずはそいつを受注し、敵の懐へ踏み込むのだ」
「どの仕事かにも当たりがついていると?」
「もち……なんだがな。お主ら、ギルダーランクがまだフライ級だってマジか?」
……と、なんか急に陛下の表情が険しくなってきました。
つまり、フライ級だと受注が難しい仕事だということですか。
「お主はともかく、セキシスならとっくにウェルター級ぐらいになってても良いじゃろ」
「昇級試験の打診は来てるんですけどね。セキシスが『面倒が増えるから下っ端のままでいいですの』って」
「あんの……レティ。推薦状書くから、明日二人でフェザー級の昇級試験受けてこい。お主らなら一発合格じゃろ」
「いや、なんで急に私らが陛下の書状を持ってくるんですか。不自然でしょう」
「ちゃうちゃう! ヘビー級のギルダー、ステラちゃんからの推薦状じゃ!」
……ヘビー、級?