ヘビー級。
ギルダーランク全10階級のうちの、上から2番目。第一位のメガトン級がギルドの創設者にして歴史的偉業の達成者唯一人であることを踏まえると、実質的に最高ランクのギルダーです。
「た、確かにステラ様ご本人の推薦状ですね……で、ではレティさん、セキシスさん。奥へどうぞ」
予定通り、私はセキシスとともに陛下に連れられ、朝一番からギルドの門を叩きました。
ドリルな受付嬢は、私の手渡した推薦状と陛下……もとい、その仮の姿であるヘビー級冒険者ステラちゃんご本人の登場にビビっています。
特徴的な真紅の髪を五行術でブロンドに染め、ラクダのシャツにニッカポッカなスタイルのステラちゃんですが、その武勇はドゥーベルにも知れ渡ってたみたいです。
隠してる正体でまで目立っててどーすんでしょうか、この人?
「じゃー、儂は久し振りに街の観光でもしてくるからなー。しっかりやれー」
昇級試験に向かう我々を見送って、ステラちゃんはさっさとどこかへ行きました。言葉通り、本当に観光するのかは謎ですが。
「それにしても、ヘビー級のギルダーとどこでお知り合いに?」
短い廊下を進む途中、ドリルの受付嬢が興味津々に尋ねてきました。純粋にすごい疑問なんだろーな〜って聞き方ですな。
「どっちかというと、知り合いの正体がヘビー級だったって感じですね。で、仕事を手伝えって言われたんですけど」
「なるほど。階級的に受領が難しかった、と。だからって即日試験にねじ込んでくるなんて、噂以上に強引な方ですよ」
「冒険者としてはどんな評価なんですか、ステラちゃんって」
私も興味本位で尋ねると、ドリルの受付嬢は困ったように微笑みました。
「任務遂行率150パーセントの人、ですね。仕事を完遂した上で、余計なことを50パーセント付け足すってもっぱらの評判です」
「よくそんなんでヘビー級まで上り詰めましたね!?」
「でも、お陰で依頼者の不正行為を暴いたり大活躍ではあるんです。皇帝陛下……今の真皇帝様から直々に認められて、何度も表彰されてるんですから」
一気にすごくなくなった!? 自分で自分を表彰してんじゃねーですよ! ほんっとしょーもねーな、あの人!
「……もう一つ気になってるのですが、セキシスさんはどうしてレティさんに手を引かれて歩いてるんですか?」
「二日酔いの酒が抜けきっていないんです」
「あう〜……あぅあ〜」
何か喋ろうとするも、舌がもつれるセキシスです。今の彼女の言語能力は、普段の一割未満にまで劣化しているでしょう。
ドリルの受付嬢も「大丈夫か、こいつ!?」ってよくある顔をしています。私だって、とても大丈夫には思えないんですけどね、陛下がね、やれって。
「うぅぁ〜、うあうあ〜……」
「……なんて仰ってるんです?」
「多分、さっさと済ませて早く帰るですの、かと」
「試験ナメてません?」
さすがに憤慨気味のドリルさんでしたが、結果だけ言えば私もセキシスも危なげなく合格、セキシスに至っては筆記も実技も満点でした。
……私だけ合格してセキシスに「すごーい」とか思われたかったんですけど。なんだこいつ、チートツールでも持ち込んでんのか?
「では、これにて昇級試験を修了します。以降は受注できる依頼の種類が増える他、ギルドからの特別任務も発生します。請け負うかは自由ですが、通常の任務より報酬やポイントが高くなっています」
「自由って言っておいて、他にやれる人間がいなかったら強制になりますの。わたくしは詳しいんですの」
不満げな顔で新しくなったライセンスを弄ぶセキシスに、ドリルの受付嬢……試験中に名前を聞いたらリーマさんだそうですが、彼女が強張った笑みを浮かべました。
二日酔いなのに、今回のテストをトップ……つーか満点ですからね、憎たらしいですよね。
私? 三位ですよド畜生っ!! 充分すごいですけど、二日酔いに負けた三位ってのがね!
「あんた、それ以上曲げたらライセンス折れちまうぞ?」
「え? ……おっと」
苛立ちのあまり、新調されたばかりの金属板を折り畳むところでした。誰だか知りませんが忠告痛み入ります。
相手の顔を見上げますと、どっかで見たことあるような……あ、さっき一緒に試験受けて、ギリギリ合格した青年ですね。
ツンツン跳ねた青い髪が如何にも主人公っぽいハンサムくん。名前は知りません。眉毛も目付きも鋭くて、野性味が溢れていました。
「ご忠告どうも。では、私はこれで」
「あ。ち、ちょい待って、あんた!」
ステラちゃんも待ってるので立ち去ろうとすると、青髪青年が再び呼びかけてきます。無視するのも可哀想だし振り向くと、思ってたより近くにまで彼は踏み込んできていました。
「なーあんた、フリーか? うちのパーティ、レンジャー技能が使えるヤツを探してて――」
「申し訳ありませんが組む相手は決まっていまして。他を当たってください」
私に声を掛けるとは見る目がありますが。生憎と配属先が色んな意味で決まってる身の上です。
「失礼します」
「あぁ〜っ、待って! じゃあせめて名前だけでも教えて! オレ、グリーゼってんだ!」
必死に追いすがってきますグリーゼくん。やれやれ、我ながら罪な女ですよ、その気がなくても相手を魅了してしまうのですから。
出来れば陛下やセキシス……とまではいきませんが、綺麗な女性にモテたいところですがね。
「レティ・クェルです、ミスターグリーゼ」
「レティ……へへっ、名前まで光ってんじゃねえか。あんたにゃピッタリだ」
さらっと飛び出す口説き文句。理不尽なのは承知ですけど、背筋がゾワッとしました。
それからグリーゼくん、胸じゃなくて相手の顔を見て褒めなさい。気持ちは痛いほど分かるのでツッコミませんが。
「ナンパだったら尚のこと他を探しなさい。男性に興味ないので、私」
「えっ!? あ〜……じ、じゃあ女装すっからさ! オレってハンサムだし、それならイケるだろ!?」
「イケませんって。では、失礼し――はっ!?」
必死過ぎて怖いぐらいな彼から逃げようとした、その時です。
後頭部に突き刺さるような殺気を察知した私は、考えるより先に背後へシールドを展開させました。
ぽふっ、とか、ぱふっ、という軽い音が背後の頭上で微かに鳴ります。
「あひっ!?」
セキシスの大きな臀部をイメージした高反発の術盾は、衝突のエネルギーをほぼ完全に包みこんで溜め込みます。
そしてシールドが自壊する際のエネルギーをプラスして、向かって来た以上の速度で対象を弾き返すのです!!
スパーンッ!!
スナップを利かせたビンタにも似た甲高い破裂音が、夕暮れのギルドに轟きました。
「のぎゃあぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
突っ込んできた何か、あるいは誰かが、耳障りな悲鳴を上げてすっ飛びます。
私が振り返った時には、建物のぶっとい柱に背中から衝突した緑髪の少女が、血を吐いて床に倒れていくところでした。
「タウラ、何やってんだおめぇ……」
グリーゼくんはちょっと引いてる様子で、緑髪少女へ歩み寄っていきます。知り合いでしょうか? いずれにしろ、私を闇討ちしようだなんて暗黒空間の即時展開が出来るようになってから出直しなさい。