【完結】悪夢的異世界転生レビュアー   作:サイデリア

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18 魔弾の射手、私

 かのローマ帝国も、平時の交易、戦時の行軍を効率化させる為に膨大な道路を敷きました。同様の理由で、うちの帝国も先帝のさらに前の時代から街道の整備に力を入れているのでした。

 なので街から街、その他の町村への移動は、徒歩でも快適に行うことが出来るのです。

 

「お二人とも、ペースが落ちてますよ。目的地までまだ半分だというのに」

 

 足を止めて振り返りますと、数十メートル離れた位置にグリーゼくんが、そこからさらに10メートル先にヨレヨレのリブラさんの姿がありました。

 タウラさん? ドクターストップです。

 

「た、体力あんな、レティ……!」

「違います。お二人とも、そんな重いの着ているから無駄な体力を消耗するのですよ」

「お前だってデっけぇもん二つも揺らしてんじゃ――あだぁっ!?」

 

 セクハラ発言のグリーゼくん、その後頭部に氷の塊が直撃します。リブラさんの術ですが、余計な体力使ってんじゃねーですよ。

 

 なお、私が言った『重いの』とは、彼らの革鎧のこと。

 楔帷子のインナーの上に、裏地に鉄板を貼り付けてウロコ状に重ねた簡素な防具です。刃物から急所を守るだけの性能はありますが、耐衝撃性は今ひとつ。重量も嵩むし。材料から簡単に自作できるのでコスパが良い、ってのが取り柄でしょうか。

 

 ただでさえ体力無さそうなリブラさんも、シスター服っぽい厚手の法衣の下に着ています。ブーツも鉄板入の頑丈なヤツ。それから術具なのか金属製の鉄杖を携帯しています。

 先端にルビーのような石の嵌め込まれた1メートル以上の長物は、重量を考えると杖としての機能は期待できなさそう。

 

 総じて、どっちも重量過多で行軍に向いていません。そう指摘すると、追い付いてきたはいいけど息も絶え絶えなリブラが、ギリッと怖い顔で睨んできます。

 

「むしろ風船女が身軽過ぎる……マントの下、それなに? 酒場の踊り子?」

「バニーガールですよ。ご存知ない?」

「戦いナメすぎ。特殊な術防具ですらない、身体を見せ付ける為の装束。色仕掛けでもする気?」

「オレは好きだぞ、こういうケレン味の利いた際どい服」

「しゃしゃり出て来るなスケベ」

 

 物理的にも間に立たされているグリーゼくん、仲裁どころか火に油を注ぎます。

 

「けどよレティ。ちゃんと装備整えねえとギルドの職員とかうるせーじゃん? あのドリルちゃんとか」

「着込んだところで……例えばですよ?」

 

 3時の方角を指差す私。

 街道のすぐ脇道は整備が行き届いて草が刈り取られていますが、少し離れると大人が身を隠せるぐらいの高さまでボーボーです。手慣れた狩人や小柄な魔物なら、余裕を持って潜伏できるでしょう。

 

「あっちの方角から我々を狙っている賊がいます」

「え?」

「彼らに弓矢で首から上を狙われたら、胴体を固めても無駄でしょう? 回避する方が効果的です」

 

 ちょうど良いタイミングで、潜んでいた賊から私の後頭部目掛けて矢が放たれました。

 無論、敵意や殺気を読む修行を怠らなかった私にとっては筒抜けでしたが。完璧に死角を狙ったであろう奇襲にも余裕で対応――、

 

「危ね――ふごっ!?」

 

 ……え? 何やってんの、グリーゼくん?

 

 じ、状況を説明しますと、迫る矢に気付いたらしいグリーゼくんは私を庇おうとしたようです。けどすでに私が自衛に回っていたので、術盾に自分からぶつかってぶっ倒れたのでした。

 修行を重ねたことで、術盾は即時展開させてもレンガからコンクリート並みの強度を発揮します。セキシスとか陛下ならパンチで砕いてきますが、木の矢程度なら余裕。形状と当たり方次第では鉄の矢だって余裕ヨユー。

 

 そこに、全力疾走で激突したグリーゼくん。つい最近、同じことして大怪我負った緑髪の女性がいましたね。

 気絶はしていないようですが、起き上がれない彼は放置しましょう。周囲一帯から複数の殺気が動き出してますし。

 

 愚か者め。すでに反撃の準備は整っています。

 

 左手首を軸に、内向きに反った術盾を展開。その頂点と頂点を、前腕の内小手を掠めるよう極細の術盾で繋ぎます。これで弓の幹と弦が完成。

 そして番える矢玉も術盾を整形したもの。先端を弾丸のような丸頭形状にした細長い円柱を、力強く引き放ちます。

 

 この時、射出するのは矢の先端部分だけ。蓄えられる張力を全て弾頭へ集束させ、一般的な矢弾の倍近い速度と貫通力を生み出すのです。

 

「うげっ!?」

「がっは!」

 

 射抜きましたのは、黒い覆面の見るからに怪しい連中でした。

 

 術矢と名付けたい我が戦術の利点は他にもあり、矢立から次の矢を取り出す必要がなく、文字通り矢継ぎ早の連射が可能なこと。

 矢そのものの視認性が低く迎撃され難いこと。

 弓矢の重量がゼロに等しいこと。

 弦がすり抜けて胸に引っ掛からない(最重要)こと。

 

 この優れた武器が、私の研ぎ澄まされた五感と反射神経に加われば、そこらの盗賊なんかにゃ負けませんよ。

 セキシスには指二本で受け止められますけどね!

 

「げぐっ!?」

「な、なんだ――ぎゃあ!?」

 

 次々と屍を重ねる賊の一団。黒字に白抜きされた蜘蛛のデザインが悪趣味な覆面ですこと。

 

「駄目だ、近づけねえ! 逃げ――ひぎゅ!?」

「や、止めろ降参だ――ぐぎゃっ!!」

「ひ……れ、レティさん、それぐらいで……っ」

 

 足元に転がっていたグリーゼくんが窘めようとしてきますが、無視。逃げる相手は追いませんが、まだ向かってくる輩がいますので。

 

「でやぁ!」

 

 深い茂みから実体の弓を引き絞った状態で飛び出してきた覆面の男。跳躍しながらにしては正確な狙いです。

 私の少ないエーテル総量では、弓を使ってると防御用の術盾が出せません。なので身体を屈めて回避行動。立った状態から、両脚を180度開いて沈みます。

 勢いよく地面に衝突したおっぱいが潰れて超痛いですが、我慢して反撃です。

 

「うぴょっ!?」

 

 眉間にクリーンヒット。そいつを最後に、周囲の敵は一掃されたのでした。

 我ながら素晴らしい手際です。ですが、本番はまだこれから。最後に斃した覆面の死体に駆け寄ります。

 脱力しきった身体を無理やり仰向けに返しながら、まだ呆然としたままの二人へ呼びかけます。

 

「ボーっとしてないで、死体を検めなさい。5分後に逃げた連中を追いかけます。それまでに何でもいい、手掛かりを探すのです」

「追い剥ぎかよ!?」

「調査ですよ、失敬な」

 

 我々の任務は盗賊団の壊滅。こいつらがその一味である可能性は非常に高い。そして陛下がわざわざそんな仕事を命じてきたということは、バンデンバーグの手下ってことも考えられます。証拠や手掛かりを一つでも多く掻き集めるのです。

 

「手際が良すぎる……」

「レンジャーっつうかアサシンの領域だぜ、こいつ……」

 

 二人の慄く声がしましたが、こちとら本業は工作員ですからね。そこらのギルダーに遅れは取れませんとも。

 

 全部で8つあった死体のうち、検分できたのは4つ。

 奇妙なことに、食い詰めた盗賊にしては妙に血色が良く(もう死体ですが)、装備もその辺の冒険者(グリーゼくんとか)より上質で、街でしか手に入らないような携帯食料や小道具を持ち歩いている……など、怪しい点はてんこ盛りでした。

 

 証拠になりそうなのは覆面ぐらいでしょうか。でも商品の販売経路なんて、今の帝国じゃほとんど辿れません。ないよりマシ。

 

「覆面だけ?」

「持ってきたいならどうぞ。武器も防具も、今のあなたの装備より高品質ですけど」

「ヤダよ、死体から剥ぎ取った服とか!」

「贅沢な」

 

 嫌なら別にいいですがね。

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