【完結】悪夢的異世界転生レビュアー   作:サイデリア

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20 手際の良すぎる尋問劇

 ダンジョンとは、元は地下迷宮を指す用語でした。あ、RPGでの話です。

 時代が下ると天然の洞窟、塔や城などの建築物、果ては異次元空間など「探索要素のある屋内マップ」全般を一括りにダンジョン呼びするようになっていきます。

 ダンジョンでは敵と罠とお宝が1セットなのがお約束ですが、果たしてここには何があるのか。

 

 我々は円環状の通路を私、リブラさん、グリーゼくんの順に進んでいます。私が先頭なのは罠とか敵の気配に敏感だからです。

 

「ストップ」

 

 入り口からさほど進まないうちに早速、覆面を被った歩哨二人を補足しました。

 

 発見した二人のうち、一人はこちらに背を向けた状態でもう一人と談笑しています。この緊張感の無さ、地上で仲間がやられたとか伝わっていないのでしょうか。

 何にしろ、呑気してくれてるなら好都合。

 

「……リブラさん。術であいつらを気絶させられませんか?」

「気絶?」

「生かして捕らえて、情報を聞き出したいのです」

 

 近くに人の気配のない小部屋があります。そこに連れ込んで身体に訊きましょう。

 私の意を汲んだリブラさんは、鉄杖を両手で掲げて念を込めます。

 

「『ドリームノック』」

 

 覆面連中へ向けて小さく杖の先端を振るうと、極めて透明度の高いシャボン玉のようなエーテルが、高速で二連射されました。

 それが二人の頭部を音もなく包んだ途端、膝から崩れて意識を失います。おおっ、すごい!

 

 すぐにグリーゼくんが二人を両肩に担ぎ上げ、こじ開けた扉から無人の室内へ侵入します。

 木製テーブルと椅子が4つ置かれただけの殺風景な部屋です。談話室でしょうかね?

 

 手早く一人を縛り上げて拘束し、もう一人はフリーなまま。そのフリーな方のシャボン玉をリブラさんが割りますと、すぐさま目を覚まします。

 

「んん、ん――」

 

 おおっ! ゾクッとするようなセクシー低音ボイス。身体つきから判断して女性、それも若い美女と見た!

 

「テメェ、なにこんなところでサボってんだ、ん? 見張りはどうした、見張りは?」

 

 寝惚けた様子の覆面を、グリーゼくんが恫喝します。結構胴入ったチンピラ演技……いや、これで素だったりして。

 

「ひっ!? あ、あれ? 私……っ」

「あれ? じゃねえんだよ。こっちはやたら強いギルダーに殺されかけたってのに。いい気なもんだぜ、なぁおい」

「え……あ、じゃあ徴収部隊の人? さっきもバタバタ走ってったけど、なんかあった?」

「走ってった? どこに?」

 

 ……グリーゼくん、よくスラスラと言葉が出てきますね。相手が寝起きでボーっとしてるのもあって、上手く話を聞き出せそうです。

 

「そりゃ幹部に……ん!? あ、あんた達、誰よ!!」

 

 その時です。覆面の女性が突然声を荒げたのは。

 顔は覆面だし、まさか声で気付かれた? ……とか一瞬考えましたけど、細かく推理する前にグリーゼくんが相手のこめかみに平手打ち……いえ、掌底を叩き込み黙らせました。

 頭蓋骨を振動させて中身をシェイクさせたので、重度の乗り物酔いのような症状を引き起こす殴り方です。

 

「オェェェェッ!?」

「びっくりした。なんで急にバレた?」

 

 そして、グリーゼくんも殴ってから首を傾げました。

 私はゲロで窒息死されないよう、相手の覆面を脱がしました。なんか期待外れな顔が表れます。素地とか目付きとか顔の傷以前に、マスカラと口紅がべったりという酷い化粧で台無しな……って、あれ? 化粧?

 

「あなた、もしや貴族ですか?」

 

 そう尋ねると、彼女の両肩がギクリと跳ねました。顔中に脂汗がブワッと噴き出します。分かりやすい。

 

「なななななんのことっ!?」

「その顔に塗りたくってる顔料ですよ。瑠璃に紅玉に真珠、いずれも高級品ですよね」

「なんで見ただけで分かるのよ!? ……あ、やっべ」

「語るに落ちたと理解する頭はあるようですね」

 

 宝石を用いた顔料は最高級の化粧用品。高額なだけでなく、色味の深さが段違いなのです。素人目には微かな差ですが。

 私にはなんで分かるか、それは奴隷商人時代に出荷するみんなを着飾る為に触れた事があるからです。

 ついでに言えば、それを盛大に無駄遣いする神経の太さも、貴族令嬢特有の考えなし故に……と思ってカマをかけたらあっさりでした。

 

 嘲りを込めて微笑みかけると、彼女はオテモヤンな顔を真っ赤にさせて、今にも噛み付いてきそうな雰囲気に。

 即座にグリーゼくんが彼女を組み伏せて締め上げます。所謂「逆エビ固め」ですね、痛そう。

 

「ギェェッ!?」

「仕方ねぇ。おい、生命が惜しけりゃ訊かれたことにゃ素直に答えろ。このまま細い腰をへし折ることも……いや、もったいねえな」

「ひっ!?」

 

 彼女にあった、ほんのちょっぴりの抵抗の意志は、ボソッと呟かれたゲスい一言でへし折れたようです。まあ、頑張った方ですよ。

 

 

 彼女の正体はやっぱり帝国の元貴族で、聞いたこともない子爵令嬢でした。でも改易を喰らって当主が処刑され、一家離散で路頭に迷っていたところを組織――アンダーグラウンドガバメントに拾われたそう。

『地下政府』だなんてスゲー名前。ですが、その構成員の多くは改易された元貴族の生き残りとなれば、案外と名前に負けてない集団やもしれません。

 

 その目的は、ズバリ革命。没落させられた恨みを込めて現政権を覆し、皇室を排除した貴族主義社会の構築こそが彼らの目的だそうです。

 

 活動は多岐に渡り、その一つに帝国の商業路を狙った略奪行為がありました。曰く「徴収」という名目で本来なら自分達の得るハズだった富を取り立てるのだそうですが、ようするに略奪行為に他なりません。

 ……なんか不逞浪士を募って倒幕企ててる、みたいた話ですね。放置すると島原の乱だったり薩長同盟だったりしちゃいそう。

 

 でも実際、戦闘員として見た貴族って馬鹿に出来ないのですよ。

 跡目相続出来ない次子三子でも両家と縁談の可能性がある以上、よほどどうしようもない貧乏でもなければ一通りの教育は施されます。その中には戦技や五行術も含まれるので、そこらの一般人とは地力が違うのです。

 帝国では女性も家督を継げるので右に同じ。普通に戦ったらそこらのギルダーより強かったりもします。

 

 そんな没落した元貴族達を束ねるのは、総統閣下と呼ばれる謎の人物。常に仮面で素顔を隠し、年齢も性別も分からない。

 しかし、このような地下秘密基地や上質な武具を大量に集められるとは、表社会にも影響力を持った大人物なのかもしれません。

 それこそバンデンバーグ大公のような。

 

 ……つーかほぼ当たりじゃね? マフィア的な組織を隠れ蓑にして密売買してるって情報にも合致しますし。私達で調べてた怪しい金の動きにも大概が当て嵌まりますし。

 

 

「ん、く……わ、私達も……総統の正体は……はぁ、知らない……わぁ♪ はぁ、はぁ」

「ほほう。では、正体を知っていそうな人物に心当たりは? 出来ればこの基地にいる方を教えてください」

 

 熱の籠もった吐息を鼻先で感じるほどの密着距離で、私は彼女に囁きます。

 大きく深い我がロリ巨乳の谷底へ顔を埋めた彼女は、焦点の定まらない瞳で質問に答えてくれました。

 片側三キロの質量、スライムを詰めた水風船とも言うべき柔らかさに溺れて、彼女にはもう抵抗する素振りもありません。

 

「べ、ベリタテと……すぅぅっ、はぁぁ〜……オグマが、この基地の責任者……はぁ……総統との、パイプ役……くぅ、ぅぅうう〜……っ」

「よく話してくれました。ご褒美です」

 

 一層強く彼女の頭を抱きしめて圧迫を強めます。鼻と口を同時に塞がれて、見開かれていた両の黒眼がきゅっと縮みます。背中を弓形に仰け反らせ、膝がガクガクと震えて、きっかり30秒で白眼を剥いて失神しました。

 

 あ、別に魅了とか誘惑の五行術じゃありませんよ。酸欠で意識を朦朧とさせて催眠誘導しただけです。

 確かに催眠『術』の類ですけど、エーテルとか無関係な技『術』なので。ややこしいな、おい。

 

「……な、なあなあ! 今のやつ、後でオレにもやってくんない?」

 

 彼女(名前聞くの忘れてました)を籠絡する一部始終を物欲しそうにじーっと見ていたグリーゼくんが、チョッキの前ボタンを直す私に懇願します。気を失った彼女を横たえる手付きは極めて紳士的なのに、鼻の下が延びててハンサムが台無しです。

 

「気持ちは分かりますが嫌ですよ」

「分かった、言い値で払うから」

「そういう商売もしてません。タダ見させてやっただけ有り難いと思いなさい」

「風船女、見張りがいないの気付かれた。すぐに応援が来る」

 

 ドアに張り付いていたリブラさんからの警告です。そしてすぐ、複数の足跡が近づいて来ました。

 縛った二人は、わざわざトドメ刺す必要もないので転がしまして。くくっ、一暴れといきますか。

 

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