しかし……タウラがエルドリッチの社員だったのはいいとして。なんで営業部門の、しかも総括なんて偉い人が現場に出張ってるんですか? 品質管理部門総括のセキシスさん?
「残念ながらわたくし、総括を解任されましたの。今は営業平社員。いつまでもパッケージ化が出来ないからーって」
あらら。
けど、やっぱり営業部が出てくるのは変じゃないですか? 内勤の作業には携わりませんよね、普通。ましてやエンジニアでもないのにデバックだなんて。
「どうせバイトでも出来る作業だから、専門の部署なんていらないっつー代表取締役の判断ですの。品質管理部門を丸ごと潰して、今後はエリートな皆様で遂行なさるんじゃありませんの〜知らんけど」
うっわ、セキシスの言葉からすっごいトゲと苛つきを感じる。その代表、相当ワンマン経営な……おい、ちょっと待てや。今なんつった!?
エルドリッチ・ドリームワークスの代表ですって!!
「そうそう。前世のレティの仇でもありましたのね。んで、タウラの中の人が代表の右腕にして社内の実質的ナンバー2。実態は腰巾着も良いところですけどね、ははっ」
……そう、そうですか。それはそれは。
それは 実に 良いことを 聞きました。
「じゃ、そろそろ一時停止を解除しますの。続きをチェケラぅッ!!」
あ、映像止めてたんですか? 気付きませんでした。
視線を戻せば、苦虫を噛み潰したような顔で固まっていたタウラが悪態をつくところでした。
「この程度の段取りも掴めずに、よくも部門総括などが務まっていたものだな! よもや、わざと手を抜いてたのではあるまい?」
高圧的にセキシスを叱責しますが、相変わらず口が動かず、古いスピーカーから流れる合成音声みたいな声です。聞いていて不快感を煽られますね。
「ほーん。このタイミングで無意味に部下に管を巻くのが上手い段取りの運び方ですの? 勉強になりますの、さすがは総括」
せ、セキシスも言いますね。これでも私、前世は会社勤めでしたが、上司の無駄な説教に皮肉を返せる人材は希少です。いなかった訳じゃありませんけどね、主に私とか。
「ぐぬっ!? く……うるさいわい!」
タウラも言ってる場合じゃないと気を取り直して、胸の前で組んでいた腕を上げていきます。
交差していた両腕が顔の前で左右に開くと、その姿が一変していました。
青いツンツン跳ねた髪に、柄が悪いけど二枚目な顔。鍛えられて盛り上がった筋肉と、肉体美を見せつけるようなタンクトップという身軽な服装。
グリーゼくんです。タウラの姿が瞬きのうちにグリーゼくんに変わっていました。
「アバターのスイッチバックですの。こいつのアバターはわたくしやあなたのものとは種類が違うので、真似してもできませんのよ?」
そうですか……ところで、もしやグリーゼくんまでもがエルドリッチの社員だったのですか?
「すぐに分かるから大人しく観ているですの」
またそれ?
さて。グリーゼくんに変身したタウラ……いや営業部門総括は、またしてもセキシスを眼力たっぷりに睨みます。無意味にプレッシャー掛けるのが好きな様子ですが、彼女にゃ暖簾に腕押しです。
「俺は予定通りに皇帝のところに向かう。ちゃんと皇帝側の調整は完璧だろうな」
「お言葉ですが、デバックツールの扱いはこちらが長けていますの。心配せずとも、今の陛下はグリーゼくん限定でハンカチを拾ってもらっただけで股を開くぐらい爆速で好意が上がりますの」
「だったらいい! 皇帝には主人公に惚れてもらわねばならんからな! ヒロインとして! ぬははははっ!!」
姿が変わっても、口を動かさずに喋る営業部門総括でした。仮面のように動かない表情って不気味。遊園地にあるアニマトロニクス、あんな雰囲気です。
ところで追加で不穏な単語が出てきているのですけど。デバックツールとか、陛下をヒロインに〜、とか! 特に後者!!
ですが解説してくれる方のセキシスはだんまり。映像の彼女も営業部門総括から顔を背けていて、何も答えてはくれません。
「お前は出来損ないの残骸を焼却しておけ。それと適当なボスキャラの調整もな。主人公とヒロインで協力して倒させる。分かったな?」
「仰せのままに。いってらっしゃ〜い、ですの」
営業部門総括は言うだけ言って、セキシスの返事を待たずにフッと姿を消しました。ワープですか、今の?
残されたセキシスは、消えた営業部門総括に「べー」と舌を出して(可愛いな、もう)ちょっとの憂さを晴らすと、躊躇なく通路からダイブ。陛下を追うようぬ闇の底へと消えていきました。
「あ。ここからしばらく暗闇での暗虚駆除ですので黒画面が続きますの。代わりにコマーシャルフィルムでも流します?」
いりませんよ! エルドリッチの広告でしょ、どうせ。普通にカットしてください。
それより質問です。えーっと答えてくれそうなのは……パッケージ化って何なのですか?
「この世界を一本のゲームとして『完結』させますの。エンディングを終末に全ての時間を停止させ、主人公の辿った道筋に合わせた最適化がなされますの。そうして完成したゲーム、あなたもプレイなさったでしょう?」
世界を……パッケージング? 時間が停止?
待って、待ってください。全ての時間が止まったら、その次は? 止まった状態からどうなるんですか!?
「どうもなりませんの。そこでおしまい、それより先は暗虚すら無い完全な『無』。ゲーム機に差してスイッチを入れたら、その時に画面に映し出されるものが全て。誰かがどこかでプレイする度に繰り返される遊戯、ただそれだけの『モノ』に収まるんですの」
いつものように淡々と、セキシスは告げました。
……それは、世界が滅ぶのとどう違うんですか?
「何も違いませんの。例え標本として残っていようと、死んだ当事者には何の関係もないでしょう?」
標本ですか。なるほど上手いこと言いまふざけんなこの野郎!? あんだそりゃあ!? なんの権利でんなことしやがんだ、あぁぁぁッ!?
それが何になるんだ!? 答えろ、おい!!
「落ち着きますの。酷い口調ですのよ。ちゃんと話すから、落ち着いて。ね?」
ほぐっ!? ちょ、ちょっと止めて! 脇腹は止めてください! チクショウ、一方的に弱点を攻めてくるなんて!! やっぱお前らなんて悪魔だーっ!!