【完結】悪夢的異世界転生レビュアー   作:サイデリア

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30 役者が違うよ

「しつこいんじゃい、粘液風情が!! 燃えつきろ!!」

 

 ずっと続いていた黒画面を、紅蓮の炎が引き裂きます。ドラゴンでも現れたかと思ったら、奈落の底まで落ちてた陛下でした。

 40〜50メートルは落ちたっぽいのに、やっぱりピンピンしてました。

 三又槍を豪快に振り回し、灼熱のビームサーベルで襲い来る暗虚を焼却していきます。

 

「パワァァァァァァーーーーッ!!」

 

 そんな陛下と背中合わせに、グリーゼくんが拳を振るいます。相変わらずのパワーで捻じ伏せていますが、あれ本物ですか? 外見からだと区別が付きません。流れからして営業部門総括だと思うのですが。

 

 そして戦う二人の勇姿を遠目に見つけたセキシスは、ササッと遺跡の陰に身を潜めて息を殺しました。

 

 戦闘という程の動きもなく、周囲から暗虚の気配が消え去ると陛下は槍を消し、松明代わりの火の玉を指先に灯します。

 グリーゼくんも後腰のベルトから松明を抜いて着火します。……あんなん持ってたっけ、あの人?

 

「ふぅーっ。片付いたね。大丈夫かい、ステラさん?」

「あん? こんなん相手に遅れなど取るか。貴様のような二流でも息が乱れておらんじゃろ」

「は、はははは……に、二流って、キッツいなぁ」

 

 乾いた笑いのグリーゼくん。塩辛い対応の陛下……ってかステラちゃんの背中を、苦々しく睨みつけます。

 やっぱ営業部門総括ですね、あのグリーゼくん。本物とは口調とか、表情の質が違います。他人を見下して蔑む、あの視線なんて特に。

 となると本物の彼はやはり……いずれ分かることです。

 

 陛下はグリーゼくんをいないもののように扱い、周囲に青白い火の玉を三つほど浮かべて一人で歩き出しました。岩壁と同化した城のような地下遺跡に興味津々なご様子。

 帝国領内には、大小合わせて多くの遺跡があるそうです。私は興味ないので詳しくありませんけど、ここほどの規模の城塞は珍しいんじゃないでしょうか。

 

「暗くて全体図が分からないけど、前ポラリス期の様式っぽいな。ハイエルフの文明だったっけ」

 

 キモいぐらいの爽やかさで、営業部門総括が……呼びにくいんで、営業部長じゃ駄目ですか? 駄目? そう。

 総括が尋ねると、陛下は上を眺めたまま答えました。

 

「ん? ああ、古フェルセリド王朝の様式だ。人間を奴隷にしとったエルフの王国だが、西部でこの規模の遺跡は前例が無い。バンデンバーグめ、軍事用に転用すべく隠しとったな。文化財をなんだと思っておるんじゃ、あやつ」

 

 後半からは独り言です。火の玉を打ち上げたり、左右に飛ばしたりして、陛下は遺跡の全貌を見ようとしています。口振りから太古のロマンじゃなくて、純粋に「何でこんなもんがこんなところに」って類の疑問です。

 

 この世界の文明レベルがまだ低いとはいえ、五行術を用いて魚群探知人してる漁師と会ったことあります。同じように地質調査専門の術や術師だっているでしょう。この規模の大空洞なら発見できて然るべき。街道を整備するなら、陥没や崩落のリスクを回避するような対策は当然です。

 その前提で考えると、ミスや怠慢での見落としより、故意に隠蔽したと考える方が自然です。

 

 ……普通にありえますね。

 

 堅牢で見つかりにくく、多くの兵隊を詰められる。地下を通ってかなりの広範囲を移動できるのもアドバンテージ。テロリストのアジトとしては最高の部類です。

 となると、陛下にとってはある意味朗報にもなるかも。こんな拠点、放棄するには惜しすぎる。バンデンバーグが奥に残って――ん!?

 

 色々考察していたら、営業部門総括が投影型コンソールを操作してました。時間にして0・5秒。抜け目ない私でなけりゃ見落としてます。

 

 もちろん私よりも感覚が優れて勘の良い陛下です。営業部門総括の動きを横目でバッチリ確認して、そのうえで見逃しました。

 対して総括はバレてないと思ってるみたい。間抜けが。

 

 操作を終えてコンソールを閉じると、遺跡の遥か上方の壁で異変が。暗くて分かり難いですが、外壁の隙間から暗虚が染み出してます。

 さっきもセキシスがやってましたが、あれは暗虚をコントロールするツールなのでしょうか?

 

「いえ、ただのデバックツールですの。事象制御とか、人間の感情値を操作したりとか、無敵モードに敵全滅コード、だいたい何でも出来ますの」

 

 マジですか!? えっ、それじゃあ陛下が色んな意味で危険じゃないですか!

 なんて焦ってる間に、陛下の真上から瓦礫を大量に含んだ暗虚が、音もなく降りかかろうとしていました。

 

「ステラさん、危ないッ!?」

 

 営業部門総括は、絶妙なタイミングを計ってステラちゃん救出を試みます。靭やかな全身のバネを活かし、彼女をその場から逃がすべく飛び出しました。

 

「ふん」

 

 が、営業部門総括の手が陛下に掛かる寸前で、彼女の姿がフッと消えます。

 

「あ、あれっ!? うぎゃあああああーーーっ!!」

「何をやっとるんじゃ? くくく」

 

 一歩引いた位置で余裕の陛下。眼前では、営業部門総括が大量の暗虚に押し潰されていました。

 隙がないな〜、あの人。地面に激突して飛び散った暗虚までも、軽やかに踊るような足捌きで避けています。大仰に一礼まで付け加え、潜んでいるセキシスに「見てる?」とアピール。

 ……可憐だな〜。観ているだけでドキドキさせられますよ。

 

「無様じゃのう。見事に儂を救って貢献度を上げたかったか? 百年早いわ」

 

 かと思えば、大量の暗虚に半ば埋もれてしまった営業部門総括を、ゾッとするほど冷たい眼で見下ろしました。ゴミを見る目、ってああいうのですか。

 スライム状の暗虚から這い出そうと藻掻いている営業部門総括は、陛下を見上げて助けを求めます。

 

「み、見てないで引っ張ってほしいな〜、なんて……」

「必要なかろう。さっきからこう、妙な術でその黒いのを操っておったじゃろうが。手の内などとっくに割れてんじゃよ、えるどりっち何某とやら」

「……………………え?」

 

 左手でエアタイピングを実践しつつ、右手に単槍を出した陛下は、営業部門総括の脳天を無慈悲に躊躇なく貫きました。

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