【完結】悪夢的異世界転生レビュアー   作:サイデリア

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32 無敵大門

 デバックツールとは、ソフトウェア(ゲーム)を開発・テストする際にプログラムの挙動を確認し、意図しない動作や不具合を修正する為のツールです。

 諸般の事情で完成品のゲーム内に残されることも多く、チートやグリッヂで引っ張り出されてデータの改ざんに利用されるので、反則技みたいに誤解されがち。でも本来の用途は、飽くまで開発を支援するものなのですよ?

 

「ですので、ああいう使い方は間違いですの。所詮、ヤツは現場を何一つ分かっていない素人ですの」

 

 解説のセキシスの声には、たっぷりの心外と憤慨が乗っていました。まあ、あんなことされたらねえ……。

 

『ぬはは! ぬははははっ! 悪く思うな、こちらも余裕が無いものでなッ!!』

 

 営業部門総括は本体である橙の眼球を含む暗虚を金属フレームに再構成。そこに分厚い金属装甲を幾重にも重ねて、極めてマッシブな人型を造り出したのです。

 全長は眼球の直径とほぼ同じ5メートル弱。

 全体的に鈍色。ヘルメット型の頭部に、顔面全体を構成する単眼のカメラアイ。

 上半身の表面は曲線の装甲が重なって筋肉質な男性型に見えます。一方の下半身は足が短くガニ股です。

 総合して評価しますと、接近して殴り合うの前提で設計された人型ロボットと呼べます。

 

 世界観ぐらい守れ、馬鹿。お前が不具合を増やしてどうする。

 

「カッコいい〜〜っ!! 余も乗せよ、皇帝勅令じゃ!!」

 

 でも陛下は気に入っちゃってました。何かが琴線に触れてしまったのでしょうけど、やっぱ男子中学生だわ、あの人!?

 

『何が皇帝だ、屑データめ! この俺の手を煩わさせるんじゃあないぞ、虫けらが!!』

「あら〜? 『デバックなんて遊んでるだけで金が貰えて羨ましい』っつってたのは、どこのゴミ虫でしたっけ〜?」

 

 傲慢極まる営業部門総括を、すかさず煽るセキシス。凄まじい怨讐すら感じます。

 

「誰でも出来るってんならさっさと済ませろよ〜い♪ ほらほら、手本見せてみろよ〜♪ 出来るもんならな〜♪」

『き、貴様さっきから……――』

「余所見してるなよ、大戯けが」

 

 セキシスの暴言に振り向いてしまった営業部門総括の後頭部に、陛下の飛び蹴りが炸裂。灼熱の溶岩洞窟に、牧歌的な鐘の音が響きます。

 

「およ?」

 

 クリーンヒットしたように思えましたが、鋼の巨体は微動だにせず。反対に陛下の方が、蹴りの反動で元来た方向へ跳ね返されてしまいます。

 ……物理学的に変な動きしなかった、今?

 

『ふん。何かしたか、虫けら』

 

 蹴り足の具合を確かめる陛下に、営業部門総括が振り返ります。単眼のカメラアイが小刻みにピントを調節しているのが、嘲笑しているようで不愉快です。

 

「……なんじゃ、今の足応えは?」

『ぬははは! エーテル干渉波など持ち出されて焦ったが、高次元の我々と貴様ら下層世界の虫けらは隔絶した存在だ! この「無敵モード」を起動した以上、虫けらの攻撃では傷一つ付かんわ!!』

 

 鋼の拳を振りかざす姿は雄々しいですが、無敵モードってあんた……。そのまんますぎるネーミングはアレですが、しかし陛下の蹴りをノーモーションで弾き返したのも事実です。

 

「無敵か。くくっ、面白い」

 

 陛下もスイッチが入ったみたいです。三又槍を両手でしっかり構えて深く腰を落とします。

 

「これまで『自称最強』を豪語する戦士なら幾度も打ち倒したが、無敵とまでほざく馬鹿はおらなんだ。異世界のデーモン! その大口、高くつくぞ!!」

『耳障りだ、虫けら!!』

 

 陛下が気合十分に地を蹴ると、足元の地面が爆発しました。残像を置き去りに超スピードで突撃し、刹那の合間にカメラアイへ穂先を突き立てました。

 

「チッ!!」

 

 が、通じず。跳ね返されて真上にふっ飛び、40〜50メートルはありそうな大空洞の天井で逆さまに着地します。どんな速度でぶつかったんでしょうか、陛下?

 続けて再び三又槍を構え、天井の崩落とか微塵も気にせず爆発を起こして跳躍。重力加速も加えてヘルメット型の脳天を狙います。

 

 が、駄目!

 

「ぬおおっ!?」

 

 明後日の方向へ回転しながら逸れていき、地面に槍を穿って強引な急制動を掛けました。

 亀裂の走った地面からは、マグマの火柱が噴き上がります。魔王か何かですか、あなた?

 

「な、なんじゃぁ? 硬いとかゆー次元じゃないぞ、これ!?」

 

 焦る言葉と裏腹に、陛下の口許が三日月みたいに吊り上がり、鋭い犬歯が光っています。爛々と輝いた翡翠色の双眸が、実に楽しそう。

 

「無敵っつーのはフカシでないか」

『……と、当然だ! 分かったか、これが低次元の虫けらとの格差よ!!』

「虫ではない、余は皇帝だ」

 

 三又槍を片手に持ち替えた陛下は、穂先を総括へ向けて振り被ります。槍投げ、でしょうか。

 

「イグニッション」

 

 呟くと、穂先と柄頭の双方が、凄まじい噴射炎を吐き出しました。

 穂先側の炎は圧縮されてビームサーベルとなりますが、柄頭側では噴射炎が際限なく強まる一方です。

 ロケットかな?

 

「そりゃっ!!」

 

 オーバースローで第一槍投げました。陛下の手を離れるや噴射炎が倍増、三又槍は0・1秒と掛けず標的に着弾して大爆発します。

 

 衝撃は巻き込まれた遺跡の城壁が十数メートルに渡って消滅しても収まらず、縦横に亀裂を走らせたます。地下で使っちゃいけない類の危険物です。

 崩落も引き起こされ、爆発で起きたのとは異なる地鳴りが遥か頭上からしました。人体より大きな落石まで降ってきます。

 

『ぬははははっ!! 無駄だ、無駄だ!!』

 

 それでも敵は無傷です。装甲の表面には、僅かな煤すらありません。沸騰した地面を平然と歩いて近付いてきます。

 さっきのミサイル、陛下にとっても相当な大技だったはずなのに。状況を整えれば一個師団の一つや二つは壊滅せしめる威力ですよ。

 

「これも駄目か。クククッ」

 

 ですが、陛下の顔には冷や汗一つありません。それどころか愉しそうに笑みを深めておりました。逆境ほど盛り上がるタイプですか?

 獰猛な笑顔のまま次なる槍を出現させます。サイズは単槍と同程度ですが、先端が縦に潰れて刃になっています。形状的にはでっかいステーキナイフです。

 

「もちっと試すぞ」

 

 瞬間移動めいた挙動で間合いを詰め、肩の付け根を狙い澄まして袈裟懸けに斬りつけました。

 総括は立ち尽くしたまま、薙刀が持ち手の一部を残して無残に砕けます。でも即座に元通り再生させ、続けて右足の膝関節を狙います。

 やっぱり効果なし。ですが陛下は構うことなく、関節や装甲の隙間となる部分を狙って攻撃を繰り返しました。

 

『鬱陶しいぞ!!』

 

 向こうもやられてばかりではなく、腰の入った良いパンチで反撃に出ました。

 ……は、いいのですが、全然関係ない方向にパンチを連発してますね。美しい右ストレートではありますが、相手を見てないしタイミングすら揃えていません。

 

『だぁぁぁぁーーっ!!』

 

 かと思ったら唐突な垂直大ジャンプです。本体の背丈の倍ぐらい高く跳び上がりました。

 頭突きか、対地攻撃か。陛下も警戒しましたが、そのまま何もせず降りてきます。

 で、地上でまたパンチ連打。

 

 あの動き……既視感がありますね。下手くそがプレイしてる格闘ゲームまんまです。

 

「そりゃそうですの。あいつ、コントローラなんて握ったことないでしょうに」

 

 コントローラで操作してんの、あれ!?

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