【完結】悪夢的異世界転生レビュアー   作:サイデリア

34 / 48
33 鋸挽き

 酷い泥試合の様相を見せ始めました。

 無敵モードの敵を相手に打つ手がない陛下と、無敵モードに胡座をかいた拙い操作の営業部門総括。どっちも決め手に欠けますが、役者で言えば陛下が圧倒的に格上でしょう。

 わざとギリギリまで引き付けて紙一重で避けたり、背中を見せてからバク宙で避けつつ拳に乗ったり、弄んでいるぐらい。

 これも格ゲーでありがちな、上級者による初心者煽りにソックリです。

 

「ちなみに、一発でも掠ったら陛下は魂ごと消滅(ロスト)して転生すら出来なくなりますの」

 

 と、ここでセキシスが重大情報を投下してきました……って、なんすかそれ!?

 

「無敵モードなんですから『敵一撃死』ぐらい付いてて当然ですの」

 

 なるほどねってアホかーっ!?

 ちょっ、それ陛下知ってんの!?

 

「ふふ……わたくしも後で思い出して肝を冷やしましたの」

 

 声のトーンがマジでした。

 

 陛下は観ている私の焦燥など知る由もなく(記録映像なので当然ですが)、相手のパンチの表面を滑るように受け流し、投げ技を極めるという無謀までやってのけたのです。

 

『ぐわぁぁぁぁぁ!!』

「……ふん。なるほどな」

 

 巨体が背中から落下した爆音と、無駄に五月蝿い悲鳴に掻き消されましたが、陛下は何かを掴んだ様子で呟きました。

 そして悠々と歩いて距離を取り、10メートル前後の間合いで振り返ります。

 

「硬度ではないな。装甲表面の障壁が攻撃を鏡のように跳ね返してきよる。斬ろうが突こうが、そもそも直接触れてすらおらんでは壊しようがない」

『ぐ、う、ぐぅぅ……!』

「だがな。くくっ、その程度で無敵とは片腹痛いぞ。素手で触れて解ったが、跳ね返せるのは衝撃力だけらしいな。ソフトタッチであれば障壁は機能せん。違うか?」

『……だからなんだと言うのだァーー!!』

 

 仰向けでジャンプというキモい挙動で立ち直った総括は、鋼の身体で息を切らせ、カメラアイを引き絞って陛下を睨みました。

 

『虫けらに俺が……高次元存在が倒せるものか!! ゲームの駒が、システム開発者に勝てる訳がなーーーい!!』

「てめぇはマーケティングしただけですの」

『■■■■■! 貴様も見ていないで手伝え!! 言われなければ分からんのか、えぇっ!?』

 

 茶々を入れたので怒りの矛先がセキシスに向きますが、彼女は真顔で両手を広げました。

 

「嫌ですの。自分の仕事ぐらい、自分で完遂なさい。それが出来なきゃ、お前は無価値なゴミですの」

『――――――――お前はクビだあぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!!!』

 

 これまでで最大にして、もっとも聞き苦しい総括の絶叫でした。虫けらに過ぎない陛下を無視して、セキシスに向かって突撃します。

 これには陛下も一瞬だけキョトンとした後、完全にブチギレました。

 無言で槍を消して、手にしたのは紺碧の光を凝縮した剣です。

 

『ぁぁぁぁぁぁあああああああああああっ!!』

 

 まだ叫んでいる営業部門総括を追ってロケットスタート。文字通りの一瞬で追い抜くや、振り返りざまに光の剣を放ちます。

 私の目に映ったのは、逆袈裟に振り抜かれた剣の軌跡だけでした。

 

『ああああ――あっ、あぎっ!?』

 

 刃を受けたその刹那、営業部門総括の動きが止まりました。テープを一時停止したように、ピタリと。

 ですが、静寂は僅かな間だけ。

 

『ぎゃああああああああああーーーーっ!!!!!!』

 

 新たな絶叫、むしろ悲鳴。

 声が完全にひっくり返ったそれは、壊れたスピーカーの吐き出すノイズのよう。頭痛を覚える不協和音です。

 

『痛っ!? イダイ!? IdaaaaaaaaaIiiiiiiiiii!?!?!?!?』

「くかかかっ! 痛がりだのう、デーモン! そらそらそらっ!!」

 

 さらなる陛下の無数の斬撃。

 鉄の巨体は微動だにせず、ですが斬られる激痛に藻掻き苦しむ声だけが響きます。

 

 実体を持たない幻の剣ですが、斬られる痛みは本物という、陛下の幻影剣。あれなら衝撃もクソもありませんので、無敵モードをすり抜けられるのも道理……なのかな?

 

『いがぁっ!? ぎえっ!? がぁあああっ!!』

「おいおい、一方的ではないか。堪えて反撃してみせよ、レティはこれに耐えたのだぞ?」

 

 嘲り煽る陛下ですけど、多分相手はそれどころじゃありません。

 そりゃそうでしょう。営業マンは客や上司の無茶振りにこそ晒されても、拷問を受ける謂れなどない職業ですものね。

 

 興が乗ったらしい陛下は、幻影剣を高く放り投げました。上昇しながら高速回転する幻影剣は、やがて直径3メートルの巨大丸鋸へ姿を変えます。

 デカいだけじゃありません。よく見ると薄い刃の二枚重ねになっており、しかもそれぞれの刃が逆方向へ回転していました。前世の歯医者で聞いたような金属音が悍ましい。

 

「堪えてみせよ!」

 

 無茶を言いつつ、陛下は丸鋸を営業部門総括の脳天に落としました。

 

『KANEDAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa€+々*^゜〒÷゜・000000000000000000■◯▲▲▲◆◆◆◆』

 

 ひぇ……すっげー声……。

 いや、もう声と認識できない、大音響のノイズですね。生理的嫌悪感に背筋がぶるっと震えます。

 陛下も顔をしかめていますが、拷問の手を緩めず丸鋸を押し下げていき――あ。

 

「――――――――――――――――」

 

 丸鋸が眉間を通り過ぎた途端に、ノイズの爆音がピタリと止みます。

 セキシスが音響をカットした? いいえ、丸鋸の回転音はそのままです。悲鳴の声だけが途切れました。

 

 鋼の全身に亀裂が走ったのは、そのすぐ後のこと。頭頂部から爪先まで、満遍なくヒビが入った営業部門総括が、ガラスが割れるみたいに砕け散ります。

 

 装甲の内部を満たしていた暗虚が一斉に解放されますが、即座に霧散して高濃度のエーテル粒子へと変質。それもやがて大気に溶けて見えなくなりました。

 

 跡には何も残ってはいません。陛下の作った灼熱の破壊痕ぐらいです。

 

「なんじゃ、もう終わりかの?」

 

 手応えの軽さに戸惑い気味の陛下がセキシスに尋ねると、彼女は気味が悪いほど晴れ晴れとした笑顔で頷きます。

 

「はいですの♪ 激痛に耐えきれずにショック死なさいましたの」

「あれっぽっちでか? 脆くない?」

「そりゃ、本来なら戦場に降りてくる必要のない方ですもの。本当にずぶに素人ですの」

「デーモンに素人とかあるのか……」

 

 釈然としない陛下ですが、すぐ頭を振って気を取り直すと、遺跡の方へ振り返ります。

 

「こっちは片付いたぞ!! いい加減に出てきたらどうだ、叔父上!!」

 

 叔父上? 急に誰のことかと思ったら、相手はすぐに判明しました。

 

「すまないねェ。どうも昔から、オバケってヤツが苦手なんだ」

 

 崩れた外壁を乗り越えて、半裸にマントの巨漢がぬぅっと闇の中から現れました。

 セルバンデス・バンデンバーグ……と、ついでに褌一丁のグリーゼくんでした。

 

 ……生きてたのはいいですが、なんつー恰好ですかグリーゼくん!?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。