頭が落ち着いてきましたので、整理する為にも彼女に質問をしましょう。
「この世界は開発中のゲームの中なのですか?」
「イエスであり、ノーでありますの」
転んで蹲った私を、金髪のイケメン騎士が抱き上げたところで、映像がストップしました。
「外界から特異点となる人間を放り込み、その人生を観察する。そうして出来上がった物語をパッケージングしたものが、弊社の提供するゲームですの」
「なんですって!?」
転生者の人生をゲーム化、ですって!?
それはつまり、彼らに異世界転生させられた被害者は、私だけではなかったってことですか!?
なんてことだ!
「あなた方の面白さ皆無でプレイしてて苦痛なだけ、犬の糞にゲロぶち撒けた商品未満のゴミカスは! 転生した誰かの人生そのものだったってことですか!!」
「いくらなんでも言いすぎですのっ!?」
……おっと。人生はクソゲーとも言いますが、他人の生きた足跡を悪様に語るのは私の美学に反します。
やり甲斐絶無で時間の無駄、金を溝に捨てたにも等しいエンタメの負の極致だったとしても、きっと彼らは彼らなりに頑張って生きていたハズなのですから。
「フォローになってないどころか、完璧に追い打ちですの……」
「そもそもゲーム世界に引き込んだ元凶のセリフじゃねーですよ、コノヤロー。で?」
苛立ちのままに、私は話の続きを促しました。
金眼が「ぐぬぬっ」ってカンジで険しくなり、やや間を置いて再開されます。
「……あなたが12歳になる年、故郷の町がとある邪教集団に襲われて壊滅しますの。両親を失いながらも逃げ延びたあなたは騎士団に救助され、教会で聖女としての資質を開花させる。それが一番最初のシナリオでしたの」
はあ、そうですか。なんともありきたりな設定ですね。第一、私が聖女って柄? 属性的には中立・悪ですよ私は。
「でしょうとも。あなたが自分から身売りしてしまったせいで、急遽お忍びで来た隣国の王子に買われる方向で進めましたの。それも経営者側に回っていたせいでご破算でしたけど」
そりゃすいませんね。けど、台本があったんなら事前に渡しておいてください。後から段取りとか言われたって困りますよ。
「生意気な!」
「ふん。スカウトしてきたのはそっちでしょう? もっとネガティブで自罰的で流されやすい相手を主人公に選ぶべきでしたね」
金色の虹彩がキュッと閉じ、わなわな震えるのを眺めていると、こいつあんまり怖くないなって気がしてきました。
むしろ可愛くて、虐めたくなります。
「で? 今日まで裏方だったあなた方が、どうして直接接触してきたのです?」
「……ふん。次のシナリオも遂行不能になったから、前のディレクターが解任されたんですの。で、面白いから好きにやらせろって新ディレクターと、これ以上予測不能な動きをされるとゲーム化出来ないって焦るマネージャーとの折衷案で、わたくしがコントロール役として派遣されたってワケですの」
「なんだ。偉そうに言っといて中間管理職ですか、あなた。ゴクローさん」
「うっさいですの!」
金眼からショックウェーブが放たれ、私の身体が視えない床に叩きつけられました。ぐえっ!
ちなみに三つ目のシナリオとは、解体された諜報員学校から校長の手で連れ出され、反政府組織の殺人人形になるルートでした。……初日で校長を裏切る自信ありますよ、その展開……。
「とーもーかーく! 今後の行動は、我が社の定めたストーリーラインに沿ったものとさせていただきますの」
「えー」
「えー、じゃありませんの。まずは、これよりお会いするお方の誘いを喜んで引き受けるんですの。はい、シェードアウト」
パチンと指が鳴ったような音がすると、周囲の暗黒が消滅し、私は床に投げ出されます。またかよ、痛ぇな。
周囲には埃臭い空気と明るすぎる月光が戻り、アルタルフ嬢も褐色肌の爆乳バニーの姿でむすーっとしていました。
「のーう、セキシスよー。余、いつまで待っとればいいんじゃーい」
そこに飛び込む謎の声。闖入者がもう三人目ですよ。今度のは窓ではなく、入り口の扉の向こうから聞こえました。
アルタルフ嬢がますます不機嫌そうなジト目になって、扉を睨みます。
「堪え性がありませんの。今後の為に上下関係を分かりやすく叩き込んでる最中ですの。陛下は茶でも飲んで待っててくださいまし」
……陛下っついました、今?
「茶っつってもの〜。メイドも寝かしとる故、自分で淹れにゃならんではないか。余、皇帝ぞ?」
「その前は貧乏貴族だったでしょう? その頃を思い出す為にも、たまには自分で淹れてみるですの」
「いやじゃ〜〜! 余の茶が不味いのは、余が一番知っているのじゃ!」
やっぱ皇帝っつってますねぇ。
……え? マジですか?
「ええい、なんじゃこの錠前、錆びついてて鍵が入らぬではないか! えいやーっ」
ガキン、と金属の塊が破断する音がしたかと思えば、分厚い扉が弾けます。錠前が外れなかったので、扉そのものを破壊した様子。
それは月光の中でも映えてしまう漆黒のゴスロリドレス。
それは燃え立つばかりに眩しい真紅のウェーブヘア。
颯爽と現れたるは王者の風格。
でも顔立ちと身長は、私よりちょっと年上程度の美少女でした。
そのご尊顔は正しく、肖像画に描かれた少女皇帝その人です。
……本物かよ、おい。