夢の中で、首が外れるのだ。
今回は物語要素事典のお題をランダムに抽出して小説を書いてもらいました。
お題は「本と眠り」「熊女房」「にせ首」です。
ここんところ妙な夢を見る。
夢の中で、首が外れるのだ。まるでジャムの瓶の蓋が緩むみたいに、ふっと力が抜ける感覚がある。首が床に転がると、それを拾うのは俺の女房だ。毛むくじゃらで、がっしりとした体つきの熊の姿だ。
夢の中の熊女房は、俺の首を抱えて言う。
「夢なら仕方ないねえ」
そして、俺の首を手に、のっしのっしとどこかへ歩いていく。首なしの俺は、そこから何も見えなくなる。いつもそこで夢は途切れる。
目が覚めると、熊女房は台所に立って朝食を作っている。目玉焼きとトースト。首から上がスカッと軽い気がするが、鏡を見ると俺の顔はちゃんとそこにある。
「なあ、お前、最近俺の頭おかしくないか?」
「あんたの頭はとっくにおかしいよ!寝言は寝て言いな!」
熊女房は豪快に笑う。その笑い声は何度聞いても森の奥から聞こえてくる野生動物のそれだ。
俺の首の後ろには、違和感が残っている。重い。ずれているような気がする。仕事中、同僚に「お前、首が傾いてるぞ」と指摘され、鏡を見たら本当に少し傾いていた。
帰宅すると熊女房がソファに座ってテレビを見ながら、何かを編んでいた。
「何してるんだ?」
「首巻きだよ」
「首巻き?」
「あんたの首が寒そうだからね」
俺はその時、何も気づかなかった。いや、気づかないフリをしたのかもしれない。
ある晩、とうとう俺は夢の中で自分の首が外れる瞬間をはっきりと見た。熊女房が俺の首を拾い上げて、ゆっくりと両手で抱える。そして、微笑むのだ。
「やっぱり夢の中じゃ、こっちの首の方がしっくりくるねえ」
目が覚めた俺は、あまりのリアルさに背筋が冷たくなった。慌てて洗面所に駆け込み、鏡を覗き込む。俺の顔が、どうにも少し小さく見える。首の後ろに触れると、ツギハギのようなものがある。
「なんだ、これ…?」
その日、俺は夢の記憶を頼りに物置小屋の扉を開けた。埃を被ったモノが多い中、ホコリを被っていない箱を見つけた。蓋を開けると――
中には俺の首がずらりと並んでいた。
どれもこれも俺そっくりの顔だが、皆、うっすらと目を開けて眠っているようだった。
「見ちゃったか」
背後から熊女房の声がした。振り返ると、熊女房がじっと俺を見つめている。
「あんたの首、夢と現をちょっとずつ交換してたんだよ」
俺は後ずさった。首がぞわりとする。熊女房はゆっくりと箱の中の一つを手に取ると、笑顔で言った。
「最近のあんた、寝付きが悪いからさ。こっちの首の方が、私には具合がいいんだ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の視界が揺れた。熊女房が持つ首がふっと微笑む。そして――
翌朝、俺は目を覚ました。
熊女房はいつものように台所に立ち、目玉焼きとトーストを作っている。
「おはよう。よく寝てたね」
俺は鏡を見に行った。首はある。顔もちゃんとそこにある。…ただ、違和感がある。顔が少し小さい。皮膚の色も、なんだか違う。
「……俺の首、これ本物か?」
熊女房が振り返り、ふわりと笑う。
「本物だよ。本物の“夢の首”だけどね」
その日から、俺は笑うときに、首から少し乾いた音が鳴るようになった。