VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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ペペとナラントゥヤ引けたので初投稿です。


会話文増えたせいで文字数が増える増える…。


『トールバーナへ』 2/2

 クエスト目標、《ダイアウルフ》10頭の討伐。

 森の中に入った途端追加で視界に現れた文言に、僕は隣のストレアにバレない程度に顔をしかめた。

 昨晩死にかけた際に遭遇した数の倍である。二回死ねと?という考えが浮かんだのは仕方ないと思う。

 

 

「ワンちゃん居ないね~」

 

「僕はこのまま出てこないでほしいとすら思ってるよ…」

 

「それだとクエスト終わらないから困るんだけど」

 

 

 先ほどの決意が何だったのか、という有り様の僕と裏腹に彼女は自然体そのものだ。鼻歌を歌い出しそうなほどにリラックスしている。少しくらいそのメンタル分けてほしい。

 

 

「……これクエストエリア?内のどの狼でもいいんかな」

 

「仕様上はそうだよ。実際は武器の関係で交戦可能な場所は限られるけど」

 

「あー、やっぱ木とか引っかかるんだ」

 

 

 一振りで複数の敵を薙ぎ払える彼女の剣だが、やはり取り回しなどは難儀しているようだ。僕に役目があるとするならそこのカバーか。……ちょっとこういうところはRPGっぽくて感動する。弱みを補い合う、みたいな。

 クラインと組んでるときは武器が同じだったり、両方初心者だったりと気にしないで済んだが今回は違う。キリトのカバーはないし、僕が足を引っ張ればストレアの負担になる。うまく立ち回ろう。

 

 

「そうそう。まぁ最悪まとめてこう、ズバッ、と」

 

「クソ脳筋」

 

 

 両手で剣を振るジェスチャーを取る。はた目には天然系女子のかわいらしい仕草かもしれないが、僕は彼女が刃渡り2m近い鉄塊を振り回せるのを実際に見てしまっている。ぞっとしない。

 ……これちゃんと戦う場所選ばないと最悪ストレアにまとめてぶった切られるのではなかろうか。というか取り回しの悪さが弱点になってないんだがコイツ。僕要る?

 

 無性に開けた場所を探さない気がしてきたため目を凝らし、耳を澄ます。

 

 木漏れ日が生み出すランダムな影。腰くらいの高さで僅かに折れた草木。

 風に揺れる葉の音や鳥のさえずり。それに紛れて聞こえる、彼女や僕のものではない息遣い。

 

 それを辿った先に見つけた僅かに開けた場所。そしてそこに、草の緑とは違う青を見た。

 

 

「グルルッ」「ガウ」

 

 

 ……安全地帯を探していたのに危険地帯を先に見つけた件。

 いやこの狭い獣道で襲われなかっただけマシか。

 

 

「どしたのホル──見つけたんだ。やるね~。アタシ《索敵(サーチ)》取ってないから助かっちゃう♪」

 

「どーも。……《索敵》?」

 

「じゃ、次はアタシの仕事だね。ホルンは合図するまでその木の陰に居てね」

 

「え、作戦とかは?あと普通に二人でやった方が早くない?」

 

「まぁまぁ♪そう言わず見ててよ」

 

 

 ウィンクを一つするとそのまま彼女はスルスルと木の影を通って二頭の《ダイアウルフ》へと近づいていく。大丈夫なんだろうか。いくら森の暗がりを利用しても、彼女の白めの髪や肌では却って目立ってしまうと思うのだが。

 ハラハラしながら見守っているが……妙だ。もうかなり近づいてるのにあの二頭がストレアに気づく気配がない。どうやってるんだろうかアレ。

 

 そうしてしばらく待つ間に、ストレアはこちらと挟み込めるようにか反対側の木陰まで進んでいたらしい。直後、フレンドメッセージ(強制的に登録された)に「準備OK(`・ω・´)ゞ」と送られてきた。余裕か?

 軽く視線を向けてみると、暗がりの向こうでピースサインをしている。

 

 ……なんか緊張してんのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

 

 

「はぁぁ……やるか」

 

 

 一応一言、「状況開始」とだけメッセージを返し、腰の《アイアンシミター》を引き抜いて駆け出す。瞬間、二頭の頭がこちらを向く。

 

 

「……あの、なんであっちじゃなくて僕見つかんの?」

 

 

「ウオォォォォン!!」「グルァウッ!!」

 

 

 納得いかない。どう考えてもこの位置から足音バレるならストレア先に見つけてていいだろお前ら。

 降りかかる理不尽に文句を言ってる中、ストレアもこちらに合わせて木陰から飛び出す。今度は彼女の存在も露見したようで、二頭の注意が分散する。

 

 

「ホルン!左の子お願い!」

 

「お前から見て!?僕から見て!?どっちだよ!」

 

 

 質問の返事はなかったが、彼女の駆け寄る方向から大まかに予測を立てる。どうやら僕から見て右側を任されたらしい。主観で指示を出すな。

 

 とは言え奇襲自体は完璧なタイミングであり、二頭は注意こそストレアにも向けようとしたが体が完全にこちらへ駆けている最中。急な方向転換ができなかった一頭がストレアの振り抜いた巨剣に両断される。

 横に居た相棒(?)が急に消えたことに驚いたのか、今度は残った一頭がストレアへ牙を剥こうとする。……おかげで今度は、こちらに背中を向ける形となった。

 

 

「せー、のッ!!」

 

 

「!?ギャウン!」

 

 

 胴体中央付近へ《リーバー》によって加速した曲刀の刃が打ち込まれ、呆気なく青毛の狼の身体を分断する。断末魔の一声を上げたそのまま、青白いポリゴン片へと姿を変えた。

 クエスト進捗の0/10という表記が2/10へと更新された。

 

 

「いぇ~い!連携大成功♪」

 

「2、3個ほど文句あり。そこへ直れ」

 

「えへへ、ごめんって。ホルンのこと驚かせてみたかったんだよ。アタシの《隠蔽(ハイド)》なかなかのものでしょ?」

 

 

 命の恩人に囮にされた件。挟撃自体は成功したけど胃がキリキリする。

 恨みがましげに睨んでおいたが、いたずらが成功して嬉しいのか少し舌を出しておどけるだけだった。……腹は立つが顔がいいせいで様になっている。

 

 

「命かかる場所で人を驚かせようとするな。……で?その《隠蔽》ってなんなの?」

 

「……?移動とかでモンスターに気づかれにくくなるスキルだけど」

 

 

 何その便利スキル。僕も欲しいんだけど。

 

 どうにもこのゲーム、必殺技っぽいソードスキル以外にもいろいろあるようだ。剣振り回すだけじゃ芸がないと思っていたがそういうのやっぱあるんだ。戦闘面の補助以外にもあるんだろうか。

 内心小さく感動していると、何やら彼女がこちらを不思議そうに眺めているのに気づく。何か気になることでも言っただろうか?今別に煽ったりしてないと思うんだが。

 

 

「ねぇホルン?その、《索敵》スキルひょっとして取ってない…?アタシの《隠蔽》って《索敵》の隣に並んでたはずなんだけど」

 

「……?スキルを取る?それレベルアップとかでもらえる奴じゃないの?」

 

「え?」

 

「うん?」

 

 

 ……どうにも認識に齟齬があるようだ。てっきり僕は何かしら成長に付随する特殊技能、とかそういうものだと思っていたのだが。ポ〇モンがレベルアップで覚えるような感じの。

 よくよく考えてみればストレアと僕にレベル差どのくらいあるんだろう。

 そう考えていると、また耳が異音を拾う。

 

 

「ん、足音っぽいのするし追加来るね」

 

「え、どこ?」

 

「多分あっ」

 

 

 ち、と言い切る前に、指さした茂みから追加の一頭が飛び出してくる。……なんかデカいなコイツ。

 

 

「……ほんとに来た。しかもlv3」

 

「高レベルなのは僕のせいじゃないだろ」

 

「そうなんだけど。……ほんとに《索敵》持ってないの?」

 

「じゃあ後で確認してくれよ……とりあえずコイツどうにかしよう」

 

 

「ガルルルルルッ!」

 

 

 呑気な言い合いをしている最中も敵は待ってくれない。追加のダイアウルフが茂みから踏み出した足で再びこちらに飛び掛かろうとしているのが見える。

 

 

「ホルン、アタシのソードスキル当たるように牽制してもらえる?」

 

了解(アイ・コピー)

 

 

 側面を取るような動きをして相手の目を引き、ストレアが前に出やすい状況を作る。猪相手ならこれで足が止まるか狙いが乱れたのだが、無駄に賢いこの狼は即座にバックステップで距離を取ることを選ぶ。隙を見て《リーバー》でも食らわせてやるつもりだったが。小癪な。

 

 

「ここ来る前にもう一つ教えてあげたじゃん。そっち使いなよ」

 

「ぶっつけ本番に気軽に言ってくれる…まぁやるけど」

 

 

 文句を言いつつ十分な距離が開いたのを確認し、ソードスキルの構えを取る。肩に担ぐように……ではなく、後ろ手に回すように曲刀を持つ手を引き絞る。

 その準備動作(プレモーション)を感知したシステムが刀身にオレンジのライトエフェクトを纏わせるのとほぼ同時、ダイアウルフが駆け出す。

 

 

「ガウ!!」

 

 

「ほねっこよりいいもの食わせてやるよ」

 

 

 地面を蹴りこちらも前へ。飛び出した狼を迎えに行く形だ。

 急に攻勢に出たからか僅かに狼がたじろぐが、もう遅い。彼我の距離、約4m。それがシステムの補助を受けた踏み込みで食い潰されていく。

 

 曲刀スキル単発突進切り《フェル・クレセント》。ストレアが言うには曲刀のソードスキルで最速だという斬撃が、地表すれすれから掬い上げる軌道で放たれる。

 

 首狙いのつもりが角度が悪かったか、斬撃は切っ先で右前脚を浅く抉るにとどまった。ダイアウルフが驚いたように飛び退り、完全な射程圏外へと遠退く。どうにも普段使いしている《リーバー》と攻撃の軌道も踏み込みも違う。やはり慣れないことなどするものではないか、と一つ舌打ちする。

 とは言え慌てて飛び退いたダイアウルフの足取りは先ほどと比較にならないほど精彩を欠いている。最低限仕事をこなしたから良しとしよう。

 

 

「ストレア!」

 

「待ってました!」

 

 

 ダイアウルフの横を斬撃の勢いを殺すように半回転しつつ滑走。都合、スキル発動地点から6m弱ほど進んだ先で相方へと声を飛ばす。

 ストレアがその声を受けて両手剣を右肩に担いで飛び出す。剣身をイエローのライトエフェクトが包み、両手剣の基本スキルである単発突進技《アバランシュ》を発動した。基本スキルではあるが重量級の剣身を大上段から振り抜くという、シンプル故に強力な技だ。

 

 

「やぁー!!」

 

 

「ガルァッ!!」

 

 

 最後の抵抗で牙を剥くダイアウルフだったが、自慢の牙も金属の塊には文字通り歯が立たなかった。開け広げた顎ごと、頭をライトエフェクトを纏った刃が割り裂いていく。

 ほとんど何の抵抗もなく超重量の剣身が振り抜かれ、縦半分に分断された骸が地に落ちることなく爆ぜて消える。クエスト進捗が2/10から3/10へと推移し、それを確認した僕らはそれぞれ肩の力を抜いた。

 軽く息をつきつつ《アイアンシミター》を納刀した右手を眺めていると、あちらも処理が終わったらしくストレアが近づいてくる。

 

 

「お見事♪教えたソードスキルうまく使えたね。……右手、どうかしたの?不調?」

 

「ん?ああいや、よく考えたら昨日この手食い千切られたんだよなぁって」

 

「まだちょっと怖い?」

 

「普通に怖いというか……じゃなくて、なんでこの腕ちゃんと戻ってるんだろう」

 

「なんだそういうこと。なら、ただの部位欠損だし戻るよ」

 

「部位欠損?」

 

 

 知らない単語が出てきた。キリペディアで予習しとくべきだったか。

 まぁ当然居ない相手には聞けないので、軽いコミュニケーションを兼ねて彼女に聞こうと思う。教えてストえもん。

 

 

「一定以上のダメージの攻撃を受けると、体のモデリングデータが欠け落ちて行動に制限がかかるの。ちゃんとその部分を使ったアクションができなくなるよ」

 

「怖っ」

 

 

 つまり足をもがれれば歩けないし、目を潰されれば見えなくなったりする、と。ついでに昨日の僕みたいに腕が千切れると攻撃も防御もできない。結構エグい仕様だなこれ。

 というかこのゲーム結構簡単に手足()げるの?〇ンダムブレイカーじゃないんだけど?人体でパーツポロポロは不味くない?レーティング大丈夫か?

 

 

「ホルンみたいに右腕持ってかれちゃうとソードスキルもメニュー操作もできなくなるから気を付けてね~」

 

「……左手でソードスキルとか無理なの?」

 

「うん。まぁ欠損は時間経過とか一部のアイテムで治せるよ。アイテムはこの層じゃ無理だけど」

 

 

 思ったよりも数段ヤバい状況だった。痛みがない分、死への現実感が薄まりそうなのが更にたちが悪い。

 早い内に経験したからある程度自制できるだろうが、これアイテムで簡単に治せる層で経験していたらもっと気軽に手足ポロポロしそうな気がする。そういう意味では悪くない経験……いや、やはりあの恐怖感は早々ぬぐえない。知らずにいたかった。

 

 

「村に着く前に回復してたけどホルンは覚えてないか。昨日も村に着いた途端気絶しちゃったし」

 

「……その節は本当にお世話になりました」

 

「どういたしまして♪」

 

 

 昨日の件、彼女の助けが無かったら本当に死んでたんだな、と今更ながら痛感する。彼女に足向けて寝れなそうだ。

 

 

「さて、いいペースで進んでるし、この調子なら昼前には終わるかな。頑張るよ!」

 

「ほとんどストレアが倒してるけどね。マジで僕空気」

 

「気にしないでいいのに。こういうのは慣れなんだってば」

 

「キリトと同じこと言うじゃん」

 

「キリト?って誰?」

 

 

 そういえば話してなかったか、と思い出す。

 

 

「僕のとも…………フレンドだよ。広場に集められる前まで、僕ともう一人の初心者にレクチャーしてくれてたんだ。そいつがキミと同じようなこと言ってた、ってだけ」

 

 

 過去の経験から咄嗟に言い直してしまった。未だに「友達」という関係性を口にできない臆病さに呆れる。

 だがそれでも思ってしまう。何か一つ、不都合が生じた時。過去に友人を名乗っていた連中のように、僕を簡単に切り捨てるんじゃないかと。そんな時でも彼らが僕を友達と呼んでくれると、信じ切れずにいた。その懐疑心が、いつしか僕の口から「友達」と声を発することをできなくしていた。

 結局僕は、剣を持った程度で変われないほど……弱いままだ。

 

 

「……そっか。無事だといいね。その人」

 

「……うん」

 

 

 そんな僕の弱さを指摘しないでくれるストレアはきっと優しいのだろう。妙なところで踏み入ってこないでくれる仮の相棒の気遣いがありがたい。これで理由もなく僕を追いかける奇人でなければもっと嬉しかったが。

 

 しかしフレンドか。アイツもクラインも今何してるんだろうか。フレンドリストからは消えていないが、入れておいたメッセージはどちらも反応がない。

 状況が状況だし、返事が無いの自体は仕方ない。ただちょっと…安心したかった。一言、無事だと本人たちから聞きたいと思っている。

 何とも言えない沈黙が続き、どうにか話題を変えようと口を開く。

 

 

「それにしても《隠蔽》か。便利そうだねそれ。かくれんぼとかにも使えそう」

 

 

 我ながらちょっと強引な話題転換な気はしている。ボキャブラリー不足が呪わしい限りだが、この居た堪れない空気はマシだろうと、そう思ったのだ。

 ちょっとしたジョークのつもりだった。SAOに来てまでそんなことしない、とか。もうそんな年じゃない、とか。何かしらアクションが返ってくると想像していた。

 しかし。

 

 

「……」

 

「ストレア?」

 

「……あ、そうだ(唐突)。残りの7体も探さないといけないねー。急ごっか」

 

「ストレア???」

 

 

 なんかこう、めちゃくちゃぎこちない。クラインのソードスキルを見ているときのように。不自然に動揺している。声が震えているし。

 コミュ強のクセに僕と同レベルの話題転換しようとしているんだが。自分の行いを鏡で見せられたようでつらい。

 それにしても返事の一つも無しとはおかしくないだろうか。別に変なことは言ってないはずなのだが。……なのにこう、この話題はもう終わりと言わんばかりに話を逸らそうとする。

 ……少し嫌な可能性に行き当たった。

 

 

「──ねぇストレア。その《隠蔽》スキルってほんとにモンスター用?プレイヤーにも効果あったりするんじゃないかな」

 

「考えすぎだよ~」

 

「じゃあなん、あ逃げんなテメェ!てか足早ッ!何が両手剣が重くてー、だ!余裕で僕に追いつけるだろそのスピード!!おいストレア!ストーカーァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから2時間後。

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うもん、アタシストーカーじゃなもいん。ストレアだもん」

 

 

 結論から言うと普通に《隠蔽》スキルを使って気配を消して尾行されてましたとさ。なお理由は相変わらずないらしい。

 ストーキング被害者と加害者がパーティー組んでるとか何このカオスな状況?僕なんか悪いことしたか?

 

 

「あーはいはいうんソウダネー。ストーカーじゃないんだねー。やった奴は大体そう言うんだよニュース見たことねぇのか」

 

「……アタシ頑張ったじゃん。ちょっとくらい褒めてくれてもよくない?」

 

「そうだね頑張ったね。最終的に僕2:ストレア8だからクエスト()頑張ったね。逃げ回るついでの八つ当たりで仕留めてなければ素直に褒めたさ。ちょっとくらいワン公共に申し訳ないとか思わなかったの?」

 

「…………カッとなってやった」

 

「ストーカーの言い分から通り魔の言い分に変わっただけじゃん。怖ぁ…」

 

 

 ……ちょっとおちょくりすぎただろうか。スンスンと鼻を鳴らして泣いてるような息遣いが聞こえてきた。これ僕悪いの?納得いかないんだが。

 

 

「あーもうわかったよ!普通に尾行してたのなんか癪だけど許すから!代わりにスキルの取り方教えてくれ。それでチャラにする」

 

「ほんと?わぁーい!」

 

「嘘泣きかよ」

 

 

 これが現実の裁判とかだったら反省の色なしで判決取り消しからの逆転敗訴とかだろうに。SAOに裁判に該当する仕組みがあるかは知らないが。

 許すと言った手前それを撤回しづらいせいで何ともやきもきする羽目になった。

 

 

「じゃあ早速やっちゃおっか。ホルンメニュー開いて」

 

「はいはい」

 

 

 ひとまず指示通りに指を振ってメニューを開く。白っぽい簡素なシステムウィンドウが開き、ストレアがそれを肩越しに覗き込んでくる。……息が当たるの超気になる。

 

 

「ほらほら~照れてないで次の操作するよ~」

 

「照れてない」

 

「うんうんそうだね~。じゃあそこのスキルって項目タップして?」

 

「へいへい」

 

 

 さっきまでぶー垂れてた少女とは思えないほど楽し気だ。一体何が「うぇっ」……なんか美少女らしからぬ声が聞こえたんだが。

 

 

「ほんとに《曲刀》以外ない……っていうかホルン、これ()()()()()()()!?」

 

「何。なんかヤバいの」

 

 

 そう聞いたら信じられないものを見る目で見られた。なんだよ。僕が悪いのか?

 

 

「ホルン…今までよく生きてこれたね」

 

「そこまで言う???」

 

「だってスキルどころかlv3まで来てるのに全くステータスポイント振ってないし」

 

「まぁその、頑張ったから、かな?」

 

「今のホルン平社員から係長になったのに一円もお給料増えてないみたいな状態だよ?頑張った意味どこにもないよ」

 

「クソ辛辣」

 

 

 彼女の甘々なセリフしか出てこない口からここまで言われる辺りヤバいんだろうけど、そこまで言うか。いや確かに危機感は嫌というほど煽られる例えだけど。

 というかステ振り形式なのこのゲーム?その手のゲーム苦手なんだけど。序盤の神父戦で心折れてやめたブ〇ッドボーンしか経験がない。ビルドとか言われても最適解分からん。

 

 

「RPGなんだしレベルを上げて物理で殴れば勝てると思ってたのに……」

 

「気持ちは分からなくもないけど、最近のRPGそこまで単純じゃないよ。とりあえずスキルはスロット増えてから悩んでもいいし、ステータス振っちゃおう」

 

「はい……」

 

「ホルンは曲刀だし…STRかVITを上げるのがいいかな?決定を押すまでは自由にステータスいじれるから、自分に合いそうなステータスを試してみてね」

 

 

 言われた通りにステータスポイントを振り、自身のアバターに割り振られた仮想現実用の才能、とでも言うべき数値の変化を眺める。どうにもSTRを上げると基礎攻撃力や装備重量の負荷軽減量が、VITを上げると基礎防御力やHPに変化が出るらしい。

 

 

「この二つをお勧めした理由は?」

 

「武器ごとにソードスキルが参照するステータスの傾向があるの。ホルンの曲刀の場合はその二つを上げておけば威力出るようになるよ♪」

 

「他二つはどうなん?」

 

「んー、AGI上げると足が速くなったりするけどDEXは……気になるなら試してみたら?」

 

 

 なんだか要領を得ない説明だ。とりあえず物は試しといじってみたが、

 

 

「……?基礎移動値、とか言うのは変わったからこれがAGIの関係なんだろうけど…DEXこれステータス変わらないの?」

 

「まぁ、うん。表記上は変化ないよ」

 

「なんのためにあるんだコレ」

 

「武器を振った時のブレが減ったり、かなぁ」

 

「じ、地味すぎる……」

 

 

 確かにこれは説明しづらい。というか数値化できる要素ですらないとは。

 魔法とかあるゲームなら何かしら関連付けできたかもしれないが、このゲーム剣がメインだからそういうのも無さそうだ。

 そう思い軽く曲刀を振って納刀しようとし……些細な違和感を覚える。何故か知らないが、曲刀がやたらと軽く感じる。

 

 

(……STR値は戻したのに、なんで?)

 

 

 もう一度武器を構え、振る。

 構え、振る。

 三度それを繰り返す。

 

 

「ホルン?どうかしたの?」

 

 

 ストレアの声が遠くに聞こえるほど意識が右手に集まる。

 切っ先の揺れが減ったような。

 刃筋がイメージから外れなくなったというか。

 この世界で剣を握ってから感じ続けていた、初めてハサミを握った時のような違和感が無くなったのが、逆に違和感として主張を強めている?

 自身の中にあるこの些細なズレ。それが減ったような気がしたのだ。

 

 

「……よし」

 

「え、何が?ってちょっとホルン?何してるの???」

 

 

 編集できるステータスポイント、10P全てをDEXにつぎ込む。

 隣で自身のアドバイスと真逆の選択をした僕を呆然と眺めているストレアが居るが、ひとまず無視する。

 軽く構えを取り、近くの木の幹目掛けて《リーバー》を放つ。コン、と軽い音を立て、斜めの切創が刻まれた。

 

 

「ほんとに何してるの???」

 

「まぁ見てなって」

 

 

 もう一度、踏み込んだ分の距離を取り、同じように《リーバー》を放つ。

 二撃目も初撃と全く同じ場所に吸い込まれ、切創が深まる。

 

 

「えぇ……」

 

「もういっちょ」

 

 

 三撃目。刃は全く同じ軌道をなぞり、木の幹の半ばを超える深い切創が刻みつけられた。

 僅かに時間を置き、幹はゆっくりと傾き──僕の横へと倒れ伏した。

 

 

「うそぉ」

 

「……うん、序盤のソードスキル威力とか誤差だろうしこれで行くか。当たらない必殺技より当たるカスダメだ」

 

 

 言ってて悲しいが、昨日今日と肝心のタイミングで切っ先しか当たらないソードスキルを経験しているせいでこの意識が強かった。外した際の硬直もバカにならないし、これも一つのプレイスタイルということにしよう。

 

 

「本当にそれでいいの……?」

 

「いけるって。多分。きっと。メイビー」

 

 

 まだ暫定パートナーがぶつくさ言っているが、もう決定を押している。結果、ステータス的にはほとんど変化のない謎ビルドが完成した。

 

 

「よし。んじゃクエスト完了報告しに行こう。…ストレア?」

 

「……どうしよう、このままほっといたらホルン死んじゃう。アタシが、守らないと」

 

「そこまで言うか」

 

 

 どうにもこちらの決定がご不満らしい。僕のこと聞き分けのない子供くらいにでも思ってるのか。

 こうして僕は変に使命感を燃やす相方を引き連れ、初めての〇つかい……もといクエストの完遂の為に村へと戻ることにしたのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「剣士様。お戻りになりましたか。それでその、獣は」

 

「アタシとホルンでやっつけといたよ♪」

 

「ほとんどコイツがやりました」

 

 

 言い方があれなせいで花瓶を割った犯人を押し付けるような雰囲気になった。割った側を押し付けられた経験しかなかったのでちょっと新鮮。

 そんな僕の物言いにストレアが苦笑し、討伐確認のために戦利品……計10本の《ダイアウルフの牙》を実体化させ、それを村人に見せる。

 フラグが立ったようで、視界の端にあったクエスト進捗が『Complete』へと表記を変えた。無事に完了したらしい。

 

 

「ありがとうございます剣士様。これで、まだしばらくこの老いぼれも生き永らえられましょう…」

 

「大げさな」

 

「ホルン。めっ」

 

「……少なくはありますが、こちらが謝礼になります。お納めください」

 

 

 そう言って村人は革袋をそれぞれ手渡してくる。受け取った瞬間、それはデータとしてアイテムストレージに格納された。

 

 

取得:1500コル、ローポーション×3

 

 

 なるほど、確かに少ない。と、口に出す前に隣のストレアが肘でつついてきた。

 見てみると、笑っているが目が笑っていない例の顔だ。余計なことを言うな、と言外の圧を感じ、ゆっくり頷いて見せる。中々どうして僕の扱いを理解している。

 

 

「それと、剣士様方は《トールバーナ》を目指しておられるとお聞きしましたが」

 

「え?あ、はいそうでしゅ…す」

 

「ホルン噛んじゃってかわい~」「はっ倒すぞ」

 

「ちょうど今、件の街より行商に来ている者がおります。こちらで話をつけておきましたので、よろしければお乗りになってください」

 

 

 ストレアが《トールバーナ》に行くのが楽になる、と言っていたのはこれか。てっきり地図でも渡して放り出されるのかと。

 こほん、と隣から咳払いが。彼女の失言レーダーは絶好調らしい。口を開くより先にインターセプトしてくる。

 

 

 

 

 

 

 その後はあれよあれよというまに乗る流れになり、ストレアと出迎えに来た村人数名の談笑を眺めるような状態になった。時折り僕も話しかけられたが、軽く会釈をしたりするだけでほとんどストレアが対処してくれた。余程失言させたくないらしい。

 まぁ流石の彼女も、大人の陰からこちらを眺めてくる子供のNPCに手を振るくらいは許容してくれた。生暖かい目で見られながらなので少々居心地が悪い。

 

 

「重ね重ねになりますが、剣士様。今回は誠にありがとうございました」

「剣士のにーちゃん!ねーちゃん!またなー」

 

「またね~!ほら、ホルンも。……ホルン?」

 

 

 ……なんだろう。一晩足らずの交流しかなかったというのに、少し名残惜しい。

 別に楽しい経験でもなかったし、報酬を含め割に合うか怪しいとすら思っている。

 だというのに。

 

 

「あの」

 

「はい、どうかされましたか?」

 

「…………こちらこそ、ありがとうございました。スープ美味しかったです」

 

 

 何度も繰り返した後悔。

 あの時ああしていれば、こう言っていれば。

 そんな経験が、「今この瞬間を逃したらまた後悔する」と言っている気がして。

 気づけば僕の口からは、そんなありきたりな言葉が零れ落ちていた。

 

 

「──お口に合ったようで幸いです。よろしければ、またお立ち寄りください。村人一同、お待ちしております」

 

「旅の方ー!そろそろ出ますよー!」

 

「それでは剣士様、いってらっしゃいませ。ご武運を」

 

 

 行商人のNPCが手綱を引き、それに合わせて僕とストレアを乗せた馬車が動いた。僅かに揺れ、力強く進み出す。

 かっぽかっぽと蹄の立てる音を聞きながら、少しずつ、確実に遠くなっていく村の出口。僕はこちらに頭を下げ続ける村人の姿が見えなくなるまで、視線が動かせなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇストレア」

 

「なぁに」

 

 

 そうして幾ばくか進み、村が影も形も見えなくなったころ。僕は沈黙に耐えきれずについ聞いた。

 

 

「これで、あの村は助かったの?」

 

「ううん。特にそんなことはないよ」

 

 

 ……そんな気はしていたのに。僕は結局好奇心勝てずに聞いてしまった。

 平坦な声で答える彼女もどこか苦しそうに見えた。

 

 

「……あの村は、NPC達は。あのクエストの為だけに用意されてる。だから次、アタシとホルンが行っても。村は救われてなんかないよ」

 

「初対面に、逆戻り?」

 

「うん。そういうのは処理が重いから。……彼らに、記憶なんて無い。クエスト前の説明も全部、ただの設定(フレーバーテキスト)でしかないの」

 

 

 

 NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)。それはプレイヤーに臨場感や没入感を与えるためだけに用意された、人型のモノ。同じような姿をしてはいるが、彼らはただのデータに過ぎない。役割以上のものを与えられていない、舞台装置。

 

 

 わかっていたはずだった。そういうものだと。

 

 知っていたはずだった。そうあるべきなんだと。

 

 なのにどうして、僕の心はささくれのような痛みを感じているんだろうか。

 

 

「……つまりキミは、このクエストを通じてこう言いたかったわけだ。『これは所詮ゲームでしかない』って。何もかも、偽物でしかないって」

 

 

 僕が簡単に変われるような、優しい世界ではない。

 

 

「…………ある意味で、それも正解だよ」

 

「いや悪かったね。お人好しの天然系かと思ってたけど、存外リアリストだ。嫌というほど思い知ったよ、この世界で生きる、って奴を。いい勉強になった」

 

「でもそれだけじゃないよ」

 

 

 厭味ったらしく言葉を吐き出す僕に、ストレアの目が向く。まっすぐで力強い、紅玉色が。

 

 

「それが全てだろ。所詮この世界で何をしても」

 

「キミをこのクエストに誘ったのは、この先を見てほしいからだよ」

 

「……どういう」

 

 

「旅の方、森を抜けますよ」

 

 

 御者が声をかけてくる。こちらがヒートアップしている内に出口まで来ていたらしい。

 森の暗がりに慣れた目が陽光に焼かれ、僅かにうめく。

 

 

 

 

 

 まず最初に、空が見えた。

 

 2層底面のような偽りのものではなく、どこまでも青く広がる蒼穹の海。

 雲がまるで白波のように流れていく光景に目が吸い寄せられる。

 

 

 幾本もの柱が見えた。

 

 迷宮区とは別に、1層と2層を繋ぐように外周に張り巡らされた巨大な柱。

 石とも金属ともとれる不思議な質感に興味がそそられる。

 

 

 巨大な溝が見えた。

 

 今抜けたばかりの森と、大地がズレるように出来上がった亀裂。

 風を受けて僅かに揺れる巨大なツタや倒木の橋が架かり、その下に1層の更に下──この浮遊城アインクラッドの鋼鉄の蓋が見え隠れしている。

 

 

 苔むした遺跡のようなものが見えた。

 

 木と融合した建築物のようなものが見えた。

 

 流れ落ちる滝が。

 

 風に逆らって飛ぶ鳥が。

 

 岩肌の覗く山脈が。

 

 そのはるか先にそびえ立つ、迷宮区が。

 

 

 何処までも幻想的で、非現実的で、壮大で、意味不明で、目が離せないほど美しい──そんな世界が広がっていた。

 

 

「ここアタシ一押しの道なんだ♪アインクラッドの外周と他の景観をまとめて見れるの」

 

「……この景色も、全部作り物」

 

「うん。でもさ、見ててワクワクしてこない?」

 

 

 自然と顔が彼女に向いた。無邪気に、楽しそうに、宝物を自慢するような…そんな顔に。

 

 

「確かに全部作り物だけど。だからこそ見つかる物ってあると思うんだ。作り物でも、偽物じゃない何かが」

 

「……死ぬような思いとか?」

 

「この世界は確かに理不尽かもしれないし、ホルンはそれを苦しいと思うかもしれない。だけど、それだけじゃないって伝えたかったの。きっと楽しいことも嬉しいことも見つかるよ。だからとりあえず──はい♪」

 

 

 そう言って何かを手渡してくる。これは……櫛?

 

 

「ホルン、朝髪の毛気にしてたでしょ?手櫛は意味ないけど、そのアイテムの櫛を使えばある程度解決するはずだよ。容姿変更アイテムって奴♪」

 

「よく覚えてたねそんなこと。僕自身、色々ありすぎて忘れかけてたのに」

 

「まぁね!……前髪で視界が暗くなってると気分が落ち込むだろうし、視界が明るくなれば、少しは楽しいことにも目を向けられるんじゃないかな?って思ったの」

 

 

 正直言って、前髪はこのままでもいいかと思っていた。

 他人と目を合わせるのは苦手だ。普通と違うというだけで、みんなが僕の目を気味悪がってるように見えて。

 紙一枚…ではなく髪一本でも、そんな僕を受け入れてくれない世界から自分を遠ざけたいと思ったのも一度や二度ではない。

 

 ただまぁ、彼女と話していて。

 

 ……ついで。あくまで、寝癖を直すついでなら。少しくらい前髪をどけてみてもいいかななんて、らしくもないことを思ってしまった。

 

 

「……手鏡、ちゃんと役に立つとは思わなかったよ」

 

 

 狼に投げつけたり雑に扱ったせいで割れてるが。耐久値限界ぎりぎりの手鏡はそれでも、ちゃんと僕の姿を映し返してくれた。

 櫛で髪をなでると、今までの頑なさが何だったのかと聞きたくなるほどあっさりと寝癖がほどけていった。まとまりのなかった藪のような髪が、ある程度の規則性をもって撫でつけられていく。

 約1分かけて最低限人前に出て恥ずかしくないか、と自分で思える程度に髪を整えて。おもむろに、近くの車窓から手鏡を放る。

 鏡面が陽光を跳ね返してきらめきながら、それは虚空へと消えていった。

 

 

「いいの?捨てちゃって」

 

「もう使うことないからいいかなって。自分の顔何度も眺めたいと思わないし……何さ。人の顔じっと見て」

 

 

 あれか?陰キャがおしゃれとか100年早いとかそういうこと言うタイプ?

 

 

「んー?アタシと目の色お揃いで嬉しい、かな」

 

「……よく恥ずかしげもなくそんなこと言えるねキミ。とりあえず櫛、ありがと」

 

「どういたしまして♪」

 

 

 念のため返す直前に、櫛の歯に抜け毛が絡んでないかチェック。どうやら抜け毛とかはモデリングされないようだ。使用前と見た目は何ら変わらない。

 他人の櫛を借りる経験がなかったので不安だったが、これなら返しても文句は言われないだろう。

 そう判断しストレアに櫛を手渡すと、彼女は慣れた手つきでストレージに…………ストレージに、しまわない?何故かそのまま、馬車に備え付けられた小物入れのような場所に戻した。

 

 嫌な予感しかしないが。多分残酷な真実と言う奴なのだろうが。確認せずにはいられなかった。

 

 

「…………あの、それキミの櫛じゃないの?」

 

「?うん。容姿変更アイテムって序盤だとすごく希少で高いもん。そんなことにお金使ってたら武器の強化できなくなっちゃう」

 

「そ、そんなこと……」

 

 

 女子ってこう、もうちょっと身だしなみとかファッションに気を遣うのだと思っていたが。そんなこと、とまで切って捨てるとは。容姿に絶対の自信さえあれば些末な問題ということなのだろうか。

 

 

「村の宿でもらったアメニティグッズだったり…?」

 

「しないよ?SAOの宿そんな親切じゃないし。それに仮にあってもSAOの設置物って起点となる場所から5mも動かせないように設定されてるもん。だからこの櫛も、馬車から持ち出せないようなってるよ」

 

「じゃあ、僕が使ったのは」

 

 

 

 

 

 

「うん。この子(馬車の馬)用の櫛だよ♪」

 

「馬用…僕の髪の毛、コイツの尻尾とかと同レベル……?」

 

「ブフルルッ」

 

 

 タイミングよく合いの手が入った。自分の話されてるの分かったのか。賢い奴だなお前。馬刺しにしてやろうか。

 

 

「この子もお揃いで嬉しいってさ♪」

 

「はっ倒すぞ」

 

 

 僕の感動を返せ。感心を返せ。ちょっとした勇気を返せ。今のやり取りで欠け落ちた自尊心を返せ。

 

 思いよ届けとばかりに睨むがストレアには効果がなかった。

 

 

「もー。そんな冷たい態度取っちゃだめだよ。この子とこれから2週間くらい旅して回るんだから」

 

「ちょっと待て2週間!?長くない!?ヨーロッパ旅行でも1週間くらいで十分回り切れるだろなんでそんな時間かかるんだ!!?」

 

「これから周囲のいろんな村に寄ってそこでクエストの処理とかしながら《トールバーナ》に向かうの。レベリングも兼ねてるし退屈しないで済むと思うよ。楽しい旅になりそうだね♪」

 

 

 聞いてない。そんなの聞いてないんだが。最序盤でなんでそんな時間かかる連続クエスト置いてあるんだ。多分これ途中下車させてくれないだろ。

 

 軽く絶望する僕と満面の笑みを浮かべるストレア。つくづく僕らは対照的だった。

 文句の一つや二つ言っても許されるだろうと口を開きかけた、その時。

 今まで反応のなかったフレンドメッセージに通知が届く音がした。

 

 

「メッセージ?これ…クライン!?」

 

「誰?男の子?女の子?」

 

「男。だけどおっさんだから『子』ではないかな。森で言ったキリトのレクチャーを一緒に受けてた初心者だよ。生きてたんだ…!」

 

 

 たった1日前に交流を持っただけの奴なのに、こんなに嬉しいだなんて。社会人のクセに報連相がだらしないのは物申したいが。

 ……何故かストレアがどや顔している。何が言いたいんだよ。

 

 

「早速一つ、いいことあったね?」

 

「…………はいはい、今回も僕の負けですよ。キミが正しかった。キミの言う通りでした。キミの甘言に乗ってこのクエスト受けて良かったです!…これで満足?」

 

「もー、拗ねちゃって可愛いなぁホルンは♪」

 

「覚えときな。男に言う『可愛い』は罵倒と同義なんだぜ」

 

「うんうんそうだね~。とりあえず、その人と話す話題には事欠かなさそうだね!」

 

「ありがたいことにね……」

 

 

 認めるのは釈然としないが。確かに悪くない旅になりそうだ。

 

 ひとまず、生存報告と近況報告を兼ねて。

 

 

 

 クラインを煽って心の平穏を取り戻そうと決めた。

 

 

 

 

 

 

[久しぶりクラインおじさん。お互い悪運は尽きてないね]

 

【おじさんじゃねーし!……ったくおめーも変わらねぇなホルン】

 

[連絡つかないんだけど、キリトは?]

 

【アイツなら一足先に行ってもらった。ダチを待つこっちに付き合わせらんねーからな】

 

[そっか。若くないんだから無茶するなよ?]

 

【22だが?若者だが???】

 

 

 

 

 

 

[年長者と見込んで相談。ストーカーと旅する羽目になったんだけどどうしたらいいと思う]

 

【?????どういう状況なんだよ】

 

[僕が被害者側。《はじまりの街》から追い回されてなし崩し的にパーティ組んでる]

 

【……レアケース過ぎてアドバイスのしようもねぇな。で、相手は女か?顔は?彼氏いそう?】

 

[やけに食いつくじゃん。女。無駄に顔がいい]

[彼氏もいないと思う。仮にいたとしても他人をストーキングする女が彼女とか嫌だろ]

 

【ちくしょうなんで俺はモテないのにおめーがそんないいおもいしてるんだきりともかおがいいしまじうらぎりもの】

 

[変換忘れて打つほど羨ましいのかよお前]

 

 

 

「……許してくれるって言ったじゃん」

 

「覗くな。事実が消えてるわけじゃないだろ。実際問題僕も扱いに困ってる」

 

「別に今のままでいいよー。あ、それとアタシ彼氏いるよ」

 

「哀れな奴が居たもんだ……」

 

「ホルンっていう人なんだけど。キャッ♪」

 

「冗談は存在だけにしてくれ」

 

「アタシ冗談扱い!?」

 

 

 

 

 

 

[今日はショボいマヤ文明みたいな遺跡を回ったよ]

 

【ショボいマヤ文明がイメージしづれぇ】

 

[宝箱二つしかなかったしマジでショボいんだって]

 

【そんなステージあるんだな。そういや、こっちもダチ全員と合流できたぜ!こっからすぐに追いついてやるよ】

 

[期待はしないけど楽しみにはしてる]

 

 

 

「アタシはなかなか楽しかったよ。あの遺跡」

 

「蔦が切れてターザンから紐無しバンジーに変わった瞬間死んだと思った」

 

「ホルン凄い悲鳴上げてたよね~」

 

「忘れろください」

 

 

 

 

 

 

【なんか変わったことあったかー?】

 

[《逆襲の牝牛》ってクエストやったよ。4mくらいある牛と戦った]

 

【それほんとに牛…?】

 

[牛だったよ。HPゲージ二本あるだけで]

 

【ボスモンスターじゃん!】

 

[あの猪がかわいく見えたね。時間もかかるしあんまりおすすめはしない]

 

 

 

「クリーム美味しいからやってよかったじゃん」

 

「武器折れかけたから割に合ってる印象がない」

 

 

 

 

 

 

 こうして長い……ほんっっっっっっっとうに長い、馬車の旅を終えて。

 

 僕とストレアは迷宮区目前の渓谷に位置する目的地、《トールバーナ》村へとやって来たのだった。

 

 

「んん~~~~、着いたぁ!」

 

「生きて辿り着けた……」

 

「ホルンは大げさだなぁ。楽しかったじゃん」

 

「……波乱万丈の『波乱』部分だけ2週間みっちり経験したね」

 

 

 振り向いた先、次の行商の準備をしているらしい例の馬車の姿を見る。

 (ほろ)が穴だらけになり、骨組みが何か所もへし折れ、左後方の車輪が外れかけというあまりに凄惨な有様だった。一回の行商で廃車寸前までなるのどうなんだ。赤字確定だろあれ。

 

 

「さてと、ホルンはどうするの?」

 

「宿取って休む……ストレアは元気みたいだしレベル上げでもがんばれ」

 

「?アタシもホルンと同じ宿取るよ?」

 

「さよなら僕のプライバシー」

 

 

 あくまで付きまとう気らしい。勘弁してくれ。

 

 

「折角だから宿選びもこのストレアさんにお任せあれ♪穴場までご招待するよ!レッツゴー♪」

 

「力強いよぉ……振りほどけないよぉ……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「じゃーん!ここがアタシとホルンの今日の宿だよ!お風呂アリ、ベッドアリ、ミルク飲み放題の素敵物件♪」

 

 

 案内されたのは《トールバーナ》の外れにある農家の一軒家。NPCらしき初老の男性が近くで作業をしている中、豊かな胸を張って宣言するストレアの声がよく響く。近所迷惑だからやめなさい。

 

 

「そう……。んじゃ明日広場集合でいい?僕自分の宿見つけるから」

 

「なんで!?一緒でいいじゃん!家賃も折半だよ!」

 

「力強っ……離せメスゴリラ。それが狙いか」

 

「違うよ、お泊り会とかしてみたい!」

 

「小学生かよ。人の腕握り潰しながら言われても可愛くもなんともないからなそれ」

 

 

 掴まれた右腕がピクリとも動かない。動かないし狼に食い千切られる直前みたいなミシミシとかいう音が聞こえる。

 STR値に振りまくってるんだろうけどその細腕にこんなパワーがあるのおかしいだろ。もっとゴリラらしい腕してろよ。

 

 その後、抵抗虚しくドナドナされ、あっさりと宿の入り口付近まで引きずられた。人ってスーツケースみたいに引きずれるんだね知らなかった。知りたくなかった……。

 

 

「すいませ~ん!二階をお借りしたいんですけど~」

 

「僕の意思は…?」

 

「聞こえなーい」

 

 

 聞こえてるじゃん。おもっくそ返事してるじゃん。

 

 とうとうパーティーどころかストーカーとルームシェアか、と僕が多分に諦観をしていると、彼女に声をかけられたNPCから想像していない反応が返って来た。

 

 

「すまんなお若いの。先客がいてな。諦めとくれ」

 

「えぇ~!?そんなぁ……」

 

「だってさ。……にしてもこの宿ほんとに穴場なの?抑えられてるじゃん」

 

「見つからないと思ってたのに……借りたの誰?アタシのお風呂!」

 

「家主すぐそこに居るのに所有権を主張するな」

 

 

 よほど風呂が重要だったのか、興奮冷めやらぬまま宿の入り口に突撃していく。まさかコイツ不法侵入する気じゃ。

 

 

「ストレア早まるな、流石にダメだろ…!」

 

「え?違うよ借りてる人の名儀確認するだけだよ。あとでその人見つけたら交渉するの」

 

「よかった…脳みそまでゴリラになってなくて」

 

「もう!怒るよ!あとゴリラって結構温厚なんだからね!」

 

「そう……」

 

 

 妙な博識さを披露する脳筋少女にどう言葉をかけたものか。

 頭を悩ませていると不意に、ストレアの怒気が薄れた。

 

 

「え、この人……」

 

「どうしたん。僕のこと解放してくれる気にでもなった?」

 

「違うけど。ホルン、この名前」

 

「違うのかよ……名前?」

 

 

 ストレアに指示されるまま、入り口手前に表示されたポップアップウィンドウを見る。

 賃貸料金、簡単な間取り図、そして現在の貸し出し名義。

 

 そこに、見覚えしかない名前が書いてある。

 

 

 

「貸し出し…《Kirito》……!?」

 

「これ、ホルンが言ってた人だよね」

 

「……綴りも同じだ。間違いない」

 

 

 

 

 キリトが、このSAOで初めて出会ったあの剣士が。

 この街に来ている!

 

 

 

 それは僕にとって、間違いなく希望と呼べるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デスゲーム開始から、1ヶ月。

 

 

 生存者数、約8000人。

 

 

 

 

 

「……さっきのは、オーバーキルすぎるよ」

 

 

「…………過剰で、何か、問題があるの?」

 

 

 

 役者が揃う。

 

 舞台が動き出す。




ホルン:気難しいお年頃。少しだけ順応してきた

ストレア:パワー系ほわほわガール。猛獣(ホルン)使いが板についてきた

クライン:ホルンの清涼剤。女運はない

キリト:メンタル削れ目。まだ英雄ではない

???:やさぐれ中。まだ剣豪主婦ではない



[Next Episode.『混迷の会議』]


2025/02/26追記
 秋ウサギニキ誤字報告毎度アリガトウゴザイマス_(:3 」∠)_
 誤字ばっかでほんますいません(白目)       


トコトコ王国でホルンくんイメージ図作ってみました。口とか性格悪そうな感じ出てると思いたい

【挿絵表示】
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