VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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ジークアクス見てきたので初投稿です。
マチュ可愛いんですけどアークナイツやってるせいでアーミヤに脳内変換される…実質残業なのでは?



流石にオリ主くん視点だけだとパッとしないので他視点でも書くことにしました。

───:視点変更なし・場面変更あり 今までの奴
◆◇◆:視点変更あり・場面変更あり
†††:視点変更あり・場面変更なし

↑の予定です。散らかっててすみません。


※セリフ丸パクリになるとヤバいと聞いたので若干アレンジしてます。ご了承ください。


『混迷の会議』 1/2

 思えば、この世界に関わってから後悔の連続だったように思う。

 

 

『あ……おはよ、お兄ちゃん』

 

『ん……』

 

 

 妹の直葉(すぐは)と交わした最後の言葉。ロクな挨拶すらできずに部屋に逃げ込んでしまった。距離を作ったこちらのことを気にかけてくれたというのに。

 ゲームにばかりのめり込んでいないで、もっと家族らしい交流ができていれば。散々蔑ろにしておきながら、今更彼女との距離感を悔やんでいる。もっとも、あれが最後だと知っていたら何か変わったのか、と聞かれてしまうと答えに詰まるが。

 

 

『な…………なんで…………』

 

『……ごめん』

 

 

 今背負っている《アニールブレード》を手に入れる為のクエスト、《森の秘薬》で協力したコペルとの別れ。おそらく俺よりも真剣に、この世界への順応を示した元βテスター。

 彼によるMPK(モンスター・プレイヤー・キル)をくぐり抜け、クエストも達成した。手に入れたものはこの鉄の重さを持ったポリゴンの剣と……僅かな喪失感だけ。あの時先に胚珠を譲っていたら、今も隣で剣を振るっていたかもしれない。

 

 

 

『僕も!楽しかったよ!ありがとう!また今度!!』

 

 本人がどんな姿をしているかも知らぬまま別れた少年、ホルン。

 

『おめぇ、本物は案外カワイイ顔してやがんな!結構好みだぜオレ!!』

 

 こんな状況になっても冗談めかしてこちらを気遣ってくれたバンダナの男性、クライン。

 どちらも俺のフレンドだ。なけなしの勇気で繋がりを持った、友人たち。

 

 俺はそのどちらも助けることを選ばずに《はじまりの街》から逃げ出してしまった。利己的に、己の命のみに執着して。

 生きていることだけは知っている。今もメニュー画面を開けば、既読すらつけられないままのフレンドメッセージの通知が見える。この牢獄と化した浮遊城でなお、こちらを心配してくれる彼らの優しさが、今はただ苦しい。

 

 いったい俺が、そんな彼らに何をすれば贖罪足りうるか。

 そんな殊勝な考えとは関係なしに、剣を振るい続けた。少しでも早く、少しでも強く、少しでも先へ。

 答えを出せないままの桐ヶ谷和人()と違い、模範的なソロプレイヤーである剣士キリト(もう一人の俺)の心のままに、今日まで生きてしまった。

 

 

『…………どうせ、みんな死ぬのよ』

 

 

 そして今も、左後ろをついてくる名も知らぬ細剣使い(フェンサー)の少女の零した絶望にも答えられないままだった。

 そんなことはない、と言い切れるほどの勇気も、力も。

 俺にはない。

 

 この瞬間もまた、桐ヶ谷和人は無力を噛みしめるだけの、無力な少年だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 βテスト以来、約4ヵ月ぶりとなるボス会議。それが今俺たちの居る《トールバーナ》で行われると聞いたのは半日前。

 風車塔の鳴らす午後4時を示す時鐘(じしょう)に導かれるままやって来た、噴水広場の隣に位置する円形劇場で俺が感じたのは──僅かな失望だった。

 

 

(……44人、ってところか。覚悟していたつもりだったけど、まさかフルレイドにすら届かないなんて)

 

 

 SAOのパーティーシステムにおける上限は1パーティー辺り6人。そしてそれを最大8つ、計48人によるレイドがボス戦の参加上限人数だった。

 βテスト時の経験で言わせてもらえば、フロアボスをノーデスで攻略するなら2レイド分必要だろう。偵察・前半戦担当がボスと取り巻きを削りつつ、消耗したパーティーから順に退室して次のレイドメンバーと入れ替わるという非常に大掛かりな人海戦術による磨り潰しが必勝パターンだ。これが定着する4層辺りまではかなりの回数レイドが全滅していた。

 

 HPの全損が現実の死に直結する以上、戦闘面ではできるだけ安全策を取りたいのが本音だったが。

 

 

「……こんなに、たくさん……」

 

「たくさん……?この人数が?」

 

 

 ため息をつきそうになったタイミングに被せられた少女の感嘆の声に、思わず素で聞き返してしまった。

 

 

「ええ。だって……初めてこの層のボスモンスターに挑戦するために集まったんでしょう?全滅する可能性もあるはずなのに……」

 

「…………なるほど」

 

 

 どうにも彼女の目にはこの場に集まった全員が死をも恐れぬ勇士たちに見えるようだ。単純に、このデスゲームの参加者の一人として感心しているように思う。

 実際その視点自体間違ったものではない。この階層構造状になっている浮遊城アインクラッドの最初のフロアボスに挑む。文字にするのは非常に簡単だがその実態は死と隣り合わせの戦闘、しかもこの層で最も強いエネミーに挑むことだ。

 多くのプレイヤーが死の恐怖に立ち向かえずに挫折した中で、自身がこの先に続く戦いの中で力尽き、踏み台となるかもしれない現状をそれでも良しとして立ち上がったように見えるのはあながち間違ってもいないとは思う。

 

 俺を含め、このゲームさえなければ一般人でしかなかったプレイヤーの方が圧倒的に多いだろう。そんな人間が極限状況下で44人()集まったのは確かに驚くべきだと言える。俺のしたような44人()()集まらなかった、という視点の方が本来異質なのだ。

 

 

「……いや、どうかな……」

 

 

 しかし一人のゲームプレイヤーとしての直感が、この参加者たちのもう一つの参加理由を導き出していた。

 俺の呟きを拾ったらしい細剣使いの少女が怪訝そうな眼で眺めてくるのを感じ、できるだけ言葉を選びながら考えを口にする。

 

 

「全員がそうだとは思わないけど、《自己犠牲精神の発露》って言うより《遅れるのが不安だから》来てるって人も結構いると思うよ。俺も……いや、なんでもない

 

 

 とっさに俺も後者寄りだ、と言いかけて口をつぐむ。この期に及んでまだ友人の為、と口にすることすらできないのが情けなくて、言葉は尻すぼみになっていった。

 不思議そうに首を傾げはしたが、結局彼女はそのことに触れずに話を戻すことにしたらしい。

 

 

「遅れる……?何から?」

 

「……最前線から、かな。君はイメージしづらいかもしれないけど、ゲーマーって生き物は自分の知らないところでボスが攻略されたりするのが怖かったりするんだ」

 

 

 先ほどの空気を払拭するべく出来るだけ冗談めかしたつもりだったが、やはり対人コミュニケーション能力の欠如からか、いまいち説明らしくもない言葉選びになった。これではホルンのことを笑えない。

 しばし何とも言えない沈黙が続き、こちらが気まずさに負けそうになった時。

 

 

「……それって、学年10位から落ちたくないとか、偏差値70をキープしたいとか、そういうのと同じモチベーション?」

 

「……………………うん、まぁ…たぶん……?そうかな……」

 

 

 今度はこちらが呆然とする番だった。

 いや、正直ここでそんな高尚な悩みと同じレベルだと断言して良いか悩むのはおかしくないと思う。方向性は確かに近いような気もするが、片や進学エリートの悩みで片やネットにしか居場所がないだろう人間の悩みだ。同列扱いして良いものだろうか。

 

 と、内心そんな葛藤をしていると。

 

 

「お、まだ始まってないじゃん。ラッキー」

 

「はぁ…はぁ……も~!ギリギリじゃん!アタシ4時からって言ったよね?なんで長めのお昼寝してるの!」

 

「仕方ないだろ……ここ来てからやたらと人の視線感じるせいで夜寝れてないんだよ。……ってか、なんで僕の昼寝スポット知ってたわけ?」

 

「キミのことおはようからおやすみまで見守ってるからだよ!」

 

「原因お前じゃねぇか!!どの口で僕の昼寝批判してんの!?」

 

「あとちゃんと宿使って寝た方がいいよ!安全第一!」

 

「心配ありがとう!僕のこと追い掛け回す奴が居なければそれも考えたよクソが!!」

 

 

 ……何やらすぐ近くの席に、そんなコントのようなやり取りをしている二人組がやって来た。

 見た感じ同年代くらいだろうか。曲刀を腰に差した黒髪の少年と、両手剣を背負うアイボリーホワイトの髪が特徴的な少女だ。そして二人とも、色味こそ違うが赤い眼をしている。

 β時とアイテム事情に変更点がないなら、この層の容姿変更アイテムであの色は出せないはず。ということはどちらもあの眼や髪は自前の色なのか。

 

 

「……ふふ、いろんな人が居るのね」

 

「…………まぁ、うん。あそこまで気負ってないのは珍しいだろうけど」

 

 

 実際大したものだ。命がけの戦闘、それもボス攻略に関わる場に遅刻どころかこの掛け合い。余程腕に自信があるのか、それとも未だにデスゲームの自覚が無いのか。ここまでくるといっそ頼もしいまである。

 ともあれ彼らも合わせて46人、フルレイド手前程度までは集まった。最低限戦いにはなるだろう。

 その時、広場にパン、パンと誰かが手を鳴らす音が響いた。

 

 

「はーい!それじゃ、5分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に……そこ、あと三歩こっち来ようか!」

 

 

 堂々たる声の主は周囲に呼びかけつつ、その足でひらりと円形劇場のステージへと飛び乗った。

 見たところ装備はこの層ではかなりの部類となる軽金属鎧、そしてカイトシールドと……俺の背にあるものと同じ、《アニールブレード》。この装備重量で助走無しで飛び乗る辺り、本人のステータスもかなり高いだろう。

 何より目を引くのは彼の顔立ちだ。俳優、とまではいかないかもしれないが、間違いなくこんなゲームをやっているとは思われないほど爽やかな笑みを浮かべた美青年だった。そして横に緩く流れる長髪は鮮やかな青に染められている。

 β時の記憶にあるものと色味が同じなので、1層で手に入る髪染め系アイテムによるものだ。しかしあれは店売りなどしてない。モンスタードロップを手に入れるか手に入れたプレイヤーから交渉して譲り受けたのだろう。

 

 ……そこまで想像して、少しだけ彼に同情した。

 劇場に集まったプレイヤーをざっと見回しても女性らしきプレイヤーは3人だけ。隣のフード付きケープを着込んでパッと見分からない細剣使いの少女と、先ほどの少年とコントをしていた両手剣使いの少女、あとは周囲を囲む高い塀の上に腰掛けて見物している知り合いの情報屋が居るのみ。

 彼がこの舞台の為に気合を入れておめかししていたのだとしたら相当不本意だろうと思う。

 という俺の下世話な考えとは裏腹に、青髪の剣士はその笑みに相応しい快活な声を上げた。

 

 

「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!知ってる人もいると思うけど、改めて自己紹介しておくな!オレは《ディアベル》、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」

 

 

 劇団の一部でドッと笑い声が響いた。拍手やヤジを飛ばしているし、恐らく彼の知り合いだろう。そのやり取りを見て表情がこわばっていた他のプレイヤーたちも幾分か肩の力が抜けているように思う。上手く空気を掴んでいる。

 

 

「……すげー。初手から身内ノリじゃん。陽キャやばぁ」

 

「んー、SAOってシステム的な《(クラス)》で騎士ってなかったはずなんだけどなぁ。《鍛冶師》とか《針子》みたいなのはあるけど」

 

「つまり自称ナイト様、と。無資格でアドバイザー名乗ってるようなもん?」

 

「そうなるね~。本人も気分的に、って言ってるし。アタシは周りの迷惑にならない範囲ならいいと思うよ」

 

 

 ……一部…というか先ほどの二人は場違いなほどマイペースに話しているようだが。

 もうちょっと声量落とした方がいいんじゃないだろうか。今は拍手やヤジで聞こえないかもしれないが、それが止んだらギリギリ聞こえそうなんだけど。特に少年の方、かなり口が悪い。聞いててハラハラする。

 

 幸いこちらの声は届かなかったらしく、この場の熱量の中心となったディアベルの言葉は続く。

 

 

「さて、こうして最前線で活躍してる、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど……今日、オレたちのパーティが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くってことだ。第1層の……ボス部屋に!」

 

 

 これには少々驚いた。

 1層迷宮区は直径300m近い塔の形をしており、俺が隣の細剣使いの少女と出会ったのが18階か19階の辺り。それが現状の最前線だと思っていたのだ。

 それがまさか、既にマッピング済みだったとは。

 

 

「…………いや、どうせならボス部屋見つけてから呼んでくんない?今日集まった意味あんのコレ。僕の昼寝返してほしい」

 

 

 件の少年がまたボヤいていた。例に漏れず場の空気ガン無視である。

 ……白状しよう、俺も一瞬同じこと考えた。

 

 

「どうして、そういう、ことを、言っちゃうかなぁ」

 

ひはい(痛い)

 

 

 それを聞いた両手剣使いの少女に頬を引っ張られている。笑顔なのだがこう、圧が凄い。

 

 

「痛くないよ~。犯罪防止(アンチ・クリミナル)コード発現しない程度にしてるし。何よりペインアブソーバーあるから痛くなんてないはずだよね」

 

「……気分的に痛い」

 

「それディアベルの真似?」

 

「あの騎士サマのイタさはまた別ベクトルだろ。僕の精神的苦痛と陽キャノリを一緒にするな」

 

 

 思ったより彼女も辛辣だった。類は友を呼ぶという奴かもしれない。

 ……最後の辺り、声が若干大きくなったせいで壇上のディアベルの笑みが一瞬ひきつったように見えたが。気のせいだと思いたい。

 

 

「んん‶!……1ヶ月。ここまで1ヶ月もかかったけど……それでも、オレたちは示さなきゃいけない。ボスを倒し、第2層に到達して、このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、《はじまりの街》で待ってるみんなに伝えなきゃならない。それが、今この場にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

 

 

「義務、責任、課題……僕の嫌いな言葉の代表格じゃん。今日ここ来なかったことにして帰っちゃダメかな」

 

「もっかい、ほっぺいってみる???」

 

「ごめんなさい」

 

 

 どうしよう、この周辺だけ他と温度差が酷い。歓声を上げる40人ほどの中、この周辺だけ空気が静まり返っていた。ディアベルは彼らの手綱を握れるのだろうか。

 

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

 

 しわがれた声が喝采を裂いたのは、そんな時だった。

 人波が左右に割れ、声の主と思われる人物の姿が露わになる。

 腕を組み、いかにも不服そうに壇上を見つめているのは黒鉄色のスケイルメイル纏った小柄な男性だった。ここからでは表情などがよく見えないが、人の隙間から見える限り茶髪のようだ。

 

 

「そん前に、こんだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」

 

「こいつってのは何かな?まぁなんにせよ、意見は大歓迎さ。でも、発言するなら一応名乗ってもらいたいな」

 

「……フン」

 

 

 だみ声で文句を言う人物にも物怖じせず、ディアベルは極めて紳士的に壇上へ彼を誘った。

 その声を受けた陳情者は一つ鼻を鳴らすとのっしのっしと、モーゼよろしく人波を割ってできた空隙を肩を怒らせながら歩き出す。

 

 壇上へと上り、こちらを振り向いた陳情者は静まり返った劇場に響く低い声で唸った。

 

 

「わいは《キバオウ》ってもんや」

 

 

 陳情者、改めキバオウはそんな名前にたがわぬ、刺々しい雰囲気だ。髪も幾本もの角か、たてがみのように攻撃的な雰囲気を放っている。

 小さめながらも鋭い眼がぐるりと円形劇場内を見回し…一瞬、俺の頭上で止まったような気がした。

 

 

「こん中に5人か10人、ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや」

 

「詫び?誰にだい?」

 

「はっ、決まっとるやろ。今まで死んでいった、2000人に、や。奴らが何もかんも独り占めしたから、1ヶ月で2000人も死んでしもたんや!せやろが!!」

 

 

 やや芝居がかった仕草で肩をすくめるディアベルに目もくれず、キバオウの口からその名にたがわぬ鋭い糾弾が吐き出された。

 会場がざわつく。今までの団結を呼びかけるディアベルと真逆の言動をとるキバオウに困惑が隠せないのだろう。

 

 そして俺は、彼の糾弾の対象であるという自覚から、歯を食いしばって沈黙を選んだ。

 

 

「──キバオウさん。君の言う《奴ら》とはつまり……元βテスターの人たちのこと、かな?」

 

「決まっとるやろ」

 

 

 青髪の騎士がかなり慎重に言葉を選んだであろう質問を、彼は嚙み砕かんばかりの勢いで吐き捨てる。

 静まり返った会場に、キバオウの身じろぎに合わせてスケイルメイルの金属板がジャラリと鳴る音がやけに大きく響いた。

 

 

「β上がり共は、こんクソゲーが始まったその日にダッシュで《はじまりの街》から消えよった。右も左も判らん9000人近いビギナーを残して、な。奴らはウマいクエストやら狩場やらを独占して、ジブンらだけ強うなってその後もずーっと知らんぷりや。……こん中にもおるはずやで。β上がりっちゅーことを隠して、仲間に入れてもらお考えとる卑怯(もん)が」

 

 

 射殺さんばかりの鋭い視線が劇場内に向けられるのを、誰もが固唾をのんで見守っていた。

 ある者は当然の糾弾だと。

 ある者は無関係を装うために。

 思惑こそ違えど、皆一様に沈黙を保っていた。

 

 

「そいつらにここ来て土下座さして、貯め込んだコルとアイテムをこんボス攻略のために吐き出させな、パーティーメンバーとして命預けれんし預かれんと、わいはそう言うとるんや!」

 

 

 彼がそう言い切った後も、声を上げようとする者はいなかった。かくいう俺も、奥歯を噛みしめて声を上げないように振る舞っていた。

 言い返したいことが無いわけではない。

 俺だって生きるために必死だったとか、βテスターが一人も死んで無いと思っているのか、と。だがこれを言ったところで現状が変わるわけでも……俺がクラインとホルンを見捨ててここまで来てしまった事実が覆るわけでも、ない。

 

 他のメンバーも似たり寄ったりだ。何人か表情を曇らせている者もおり、彼らも俺と同じようにβ上がりなのだろうか。しかし誰も声を上げようとはしない。

 当然だ、この状況で声を上げてβテスターの擁護などしようものなら、自分がそうであるか、その仲間だと白状しているようなものだ。誰だって好き好んでそんなリスクを──

 

 

 

 

「……っく、くふひひひひ。は、アハハハ!ダメだもう無理アハハハハハハハハハハ!や、やべぇ奴が居るwwwwww」

 

 

 

 

 いや、一人居た。

 この場の空気に全く呑まれていない問題児が。

 

 

「……さっきからごちゃごちゃとなんやねん!言いたいことあるならここに来て言わんかい!!」

 

 

 流石のキバオウも耐えきれなかったらしく、大声を上げて笑う少年を指さして叫んだ。釣られるように、全員の視線が少年へと向く。

 ひとしきり笑って満足したのか、少年は目じりに浮かんだ涙をぬぐいながら満足げな表情で聴衆に戻ろうとして……そこでようやく、自身を取り囲む異様な空気に気づいた。

 油を差し忘れたブリキ人形のように緩慢な振り向きが、隣でジト目を浮かべている彼の相棒へと向く。

 

 

「…………ストレア、ひょっとして今の口に出てた?」

 

「うん、ばっちり。すっっっっっっっごい楽しそうに笑ってたね」

 

「……あの、お、怒ってます…?」

 

「怒ってないよ~。……特に関係ないけど、あとでお話ね」

 

「怒ってる奴じゃんそれ……」

 

 

「早よ来んかい!!」

 

 

「……うーわ、めっちゃキレてる。人間ってあんな顔赤くできるんだ。あれほっといたら勝手に脳みそ焼き切れて黙らないかな、行かないとダメ?」

 

「いいから。早く行ってきて」

 

「うっす」

 

 

 二人の力関係がなんとなくわかるやり取りだ。完全に尻に敷かれている。

 とは言え、情けない話だがここで否を唱えてくれる人間が居るのは嬉しい。少なくとも彼のようなプレイヤーが居てくれるなら、時間はかかるがβテスターと非βテスターの溝も埋められるかもしれないと、そう思える。

 

 

「行ってきまーす……」

 

「頑張れ~」

 

 

 そうして俺は名も知らぬ勇者に、彼女と同じように心の中でエールを送ろうとして。

 

 

 

 

 

「──()()()♪」

 

 

 

 

 

 ストレアと呼ばれた少女が口にした、聞き覚えしかない名前。

 それを耳にした俺は、時が凍り付いたような錯覚を起こした。

 

 

 

 

 

「……今…誰、って」

 

 

 俺の口から零れた震え声に、答える者はいなかった。

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

 結城明日奈という少女にとって、大人とは不自由の象徴だった。

 

 それは「貴女の為」と善意の枷にはめてくる両親であったり、「こうするべきだ」と勝手に期待してレールを敷きたがる教師であったりだ。少し先に大人と呼べる年齢になった兄に関しては…よくわからない。いつの間にか距離ができていたが特にこちらに期待も失望もしていないような印象がある。間違いなく、良好ではないが。

 もし今日も、自分に手を差し伸べた片手剣を携えた剣士が、自身とそう変わらない少年でなければ突っぱねていたかもしれない。

 

 そして今も、こちらに強い言葉で同意を求める大人に、内心辟易としていた。

 だからこそ。

 少しだけ……本当に、少しだけ。この空気の中で、堂々と大人に真っ向から楯突ける件の少年が、羨ましいと思った。

 あんな風に、誰の意思にも縛られずに生きてみたいと。

 私も、ただの細剣使いの剣士《アスナ》として振る舞えたら、と。

 

 

「あー…ダルぅ……。なぁ騎士サマ、これ僕も自己紹介した方がいい?」

 

「そうしてくれると助かるね」

 

「ですよねー」

 

 

 自身を睨むキバオウ氏がすぐそこに居るのに、彼は全く気にした様子もなく肩をすくめた。態度こそ物申したくなるが、素晴らしい胆力だと言わざるを得ない。

 そうしてしばらく唸ったのち、意を決したように、劇場を見渡しながら彼は口を開いた。

 

 

「あー、あー……うん、『モブキャラのみなさんこんにちは!』」

 

 

 張り付けたような薄っぺらい笑みと、馬鹿にしているとしか思えない舐めた口調で。

 

 

「『週刊少年ジャンプから転校して来ました、球磨川禊です!』」

 

 

「……ぷっ」

 

 

 完全な不意打ちだった。まさか兄と人並みに仲が良かった頃に勧められた作品のセリフが出てくるとは。しかも割と声が似ている。

 

 劇場内の他のプレイヤーたちは茫然としていた。当然だろう、自己紹介かと思ったら自身をモブキャラ呼ばわりされたのだ。反応に困るのも仕方ないというものだ。……兄が言うには、元々そういう作風らしいが。

 そんな劇場内の空気をどうにかするべく、騎士ディアベルはなんとか取り繕った笑顔を浮かべつつ彼に声をかけた。

 

 

「……えっと、球磨川さん、でいいのかな…?」

 

「あ、違くて。名前の方は《ホルン》っす」

 

「…………じゃあ、さっきのは?」

 

「いやあんたが『気持ち的に《ナイト》やってます』とか、そこのキバオウも変な髪形で笑わせ来てたし?僕も一発芸やった方がいいのかーって」

 

「い…一発芸……」

 

 

 自身のした自己紹介を一発芸扱いは心にキたらしい。ディアベルは数歩後ろによろめきながら黙ってしまった。言葉選びに容赦がない。

 黙り込んだ青髪の騎士に代わり、茶髪のサボテン頭が舌打ちを鳴らす。

 

 

「なんやねんジブン、ヘラヘラとふざけよって」

 

「──あんたの頭ほどふざけちゃいないさ。ああ、見た目と中身の両方ね」

 

「なんやと?」

 

 

 両者共に喧嘩腰だが、真正面から噛みつくように睨みつけるキバオウ氏に対し、ホルンと名乗った少年は小ばかにしたような冷笑を浮かべている。

 

 

「いや、常識的に考えろよ。ゲームクリアする気があるなら役に立つ人間弱体化させたいわけないじゃん。あんたの主張通すとゲームで役に立つのだけが取り柄のβテスターと、特に役に立たない有象無象との差がなくなるんだけど。社会主義者なん?真面目にクリアする気ある?それ掲げた国崩壊してるんだけど知らない?歴史の勉強してる?」

 

「ケジメつけろっちゅう話しとんねん。ジブンらだけ得して他の連中になんもせんような奴らやぞ。こんくらい役立たんかい思うんはおかしないやろ。道理が分からんなら黙っとけや、ガキ」

 

「βテスターが強くなることの何が問題なのさ。100層クリアされれば帰れるんだし別に誰が100層のボス倒してもいいだろ。あんたは実質弱体化して役に立たなくなるβテスター分の働きができるの?それか埋め合わせる算段でも?……無いなら、僕は道理よりも実利を取るべきだと思うけど」

 

 

 ほう、と誰かが感心したような声を漏らした。

 確かにあのチュートリアルで茅場はクリアした一人、とは言っていない。それどころか生き残った全員をログアウトさせる、と断言している。あの人物がそれを律義に守るかは別問題だが、言葉の上ではプレイヤーの優劣は最終的にクリアによって無意味になる。

 しかしだ。だからと言ってそれにはいそうですか、と納得できないのもまた人間だった。

 

 

「実利やと?9000人も見捨てて、2000人を無駄死にさせた連中が、何の実利をよこすっちゅーねん。ほんまやったら今日ここにわんさか居るはずやったんやぞ!アホ抜かすなや」

 

「その2000人、何人がビギナーなん?」

 

「……なんやと」

 

「だからさ。その2000人の中に何人死んだβテスターが居るのかって話」

 

 

 会場がにわかにざわめきだす。聴衆も、糾弾していたキバオウ氏も、心のどこかでβテスターという強者を絶対視していたのだろう。

 その根幹を覆しかねない発言を少年は持ち出したのだ。

 

 

「おさらいな。SAOのβテストが始まったのが今から約4か月前。期間は2ヶ月、参加者は1000人、攻略された階層は約10層」

 

「……それが、なんや」

 

「にもかかわらず、僕らは未だに1層から先に進めてすらいない」

 

「それがなんやと言うとるんや!はっきり言わんかい!」

 

 

「────なるほど。ホルンさんはこう言いたいわけだ。1ヶ月経っても攻略が進んでいないのは……既に1000人も、βテスターの人たちが残っていないからだ、と」

 

 

 静観を破った騎士の言葉は、会場に再びの静寂をもたらす破壊力があった。

 言われてみればそうだ。正式サービスからの参加だったせいで実態は把握してなかったが、その1000人という人数でそこまで攻略できたのなら、現状の停滞具合はおかしいはず。

 

 

「より正確に言うなら『攻略に参加している』かな。死んだか、諦めたか、そもそもログインしてないか。いずれにせよ実際に前線で攻略を進めている人数は1000人に届かない。正確な数は知らないけど、少なからず犠牲者2000人の内訳に含まれていると思っている」

 

「……死んでる奴ばかりとも限らんやろ」

 

「それならそれでいいじゃん。ウマい狩場やらクエストって前線来なけりゃ関係ないだろ。僕らの邪魔になる要素何処だよ」

 

「ハッ!どうせジブンもβ上がりの仲間なんやろ!せやからそんな必死こいて庇っとるんちゃうか!?」

 

 

 やはりこういう流れになったか、と少々アスナは嘆息した。格差というのは団結の不和の最たる原因の一つだ。それこそ、先ほど彼が口にしたように、無理やり格差をなくそうとした社会制度が生まれたほどに。

 あのβテスターを糾弾する流れで声を上げた以上、こう切り返されるのは時間の問題だった。どれだけ高尚な意見を述べても、数の力には、民意となった意見には勝てないのだ。

 

 そしていくら彼が声を上げたとしても、大多数の人間はβテスターに見捨てられたという意識が少なからず存在している。それがキバオウ氏の言葉に彼以外の誰も反論しなかった大きな要因だ。

 私だって、例外ではない。

 

 恐らく彼の次の言葉が、彼の立場を決めるだろうと、誰もが確信に近いものを抱いていた。

 

 

「───僕はβテスターじゃない」

 

「口ではどうとでも」

 

「ただ、知り合いにβテスターが居る。広場に集められる前にそいつの世話になったんだ」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、隣の片手剣使いの少年が肩が跳ねた気がした。

 

 ───それは悪手だろう、と内心吐き捨てたかった。恐らく会場の誰もが思ったことだろう。

 これだけ強い口調で話しておいて「僕じゃない、他の奴だ」と責任を擦り付けようなどと。彼が自身の言葉で勝ち取っていたかもしれない共感もこれですべて水の泡だ。

 

 ああなんだ、所詮一番大切なのは自分なのか、と。

 

 どこか失望にも似た感情が湧いた。自分と違うと思っていたが、結局中途半端に賢しいだけの子供なのか、と。

 

 

「おーおー、えらい賢いやんけ。こん流れでその知り合い売って、ジブンだけ助かろ思てるんやろ」

 

 

 キバオウ氏も似たような考えらしい。急に自身に風向きが変わったためかやけに上機嫌で───

 

 

 

「売るわけねぇだろバァーカ」

 

 

 

 そう言って少年は、満面の笑みで中指を突き立てた。

 

 あくまで自分はβテスター(こっち)側だ、と。堂々と啖呵を切ってみせた。

 

 

「そもそもさ、見捨てただの見殺しにしただのと言ってるけど、別にβテスターにそんな義務ないだろ。アーガスの試遊会に招かれただけの一般人に何期待してんだって話」

 

「…………義務やと。ざけんなや、義務が無ければビギナー見捨てて逃げ出すのも正当やちゅうんか!」

 

「じゃあ聞くけど、あんたはなんかしたの?《はじまりの街》の連中に対するレクチャーとか」

 

「そ、それは」

 

「してないだろ。この場に居る誰も。だってそんな義務ないもんな?分かるよ。……そんなことに時間をかけるよりも、ボス攻略を優先した方がいいって、心のどこかで思ってるからだ。『効率が悪い』って。そのどこが、βテスターたちと違うんだよ」

 

 

 あくまで冷酷に、無慈悲に。彼のキバオウ氏にのみ向けられていたはずの言葉の刃が、こちらへも向けられた。

 今度は彼の糾弾に会場が静まり返る番だった。

 

 彼は言外にこう告げていた。自分たちも同罪だ、と。

 

 

「わ、わいらは、違う。ただ必死に…」

 

「βテスターたちだって同じだろ。命がけなのも、全てを救えないのも。だから自分たちなりの方法で戦うことを選んだ」

 

「ジブンがそんなこと言えるんは、そのβ上がりと仲良しこよししとったからやろが!」

 

「確かに、僕の運が良かっただけなのだろうさ。他の人間にとってそれが不満なのも知ってるつもりだ」

 

「せやから」

 

「でもさ。そいつと話しててこう感じたよ…『ああこいつも人間なんだ』って」

 

 

 少年の独白が続く。

 

 

「ちょっとゲームが上手くて、カッコつけてて」

 

 

「趣味の話になったら早口になったり、長々と講釈垂れたり」

 

 

「反面、普通にリアルがあって。それも、そっちは特に自慢できるようなことも無いのか、急に話したくなさそうにしてさ」

 

 

「僕やあんたらともそう変わらない、普通の人間だったんだよ。あのクソみたいなチュートリアルがあるまで、ただ遊んでた……どこにでもいるようなゲーマーだったんだ」

 

 

「そいつとは今も連絡がついてないよ。きっと今でも、一人で戦ってる。この世界と」

 

 

「だから僕も戦う、あいつの教えてくれた剣で。例えあんたら全員に後ろ指差されようと、一人でだって戦ってやる」

 

 

「他のβテスターは知らないけど、きっとそんな変わらないだろうさ。同じように必死に抗って、苦しんで、戦って。……そんな普通の人間に、何千何百人の死の責任を押し付けたいのかよ」

 

 

「僕は、嫌だね」

 

 

「僕をお前らと一緒にするな」

 

 

 

 

 

(……こんな人も居るんだ)

 

 

 彼は、βテスターをβテスターと見ていなかった。

 ただ当たり前のように、人として見て判断したのだ。

 

 そしてそんな……たった一人の知り合いの為に、大勢に喧嘩を売ってみせた。

 

 たった二人の両親にすら逆らえなかったアスナには、それがどれほど怖いかわからないが。

 きっと勇気が要るのだろう。

 それこそ、死と隣り合わせの世界で戦うよりも、ずっと。

 

 

 会ってみたい。彼がそこまで信じている人物に。

 肩を並べてみたい。そんな剣士たちと。

 そして、強くなりたい。

 

 この世界に負けずに生きられるように。

 

 知らず知らずのうちに、拳を強く握りしめていた。

 

 偽物だらけの世界でも。きっと、この熱は偽物なんかじゃないと、そう自身に言い聞かせるように。

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

「違う……違うんだ…ホルン」

 

 

「俺は、そんな立派な奴じゃ…………」

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

(やべー、こっからどうしよう)

 

 

 対面のキバオウが黙るまで一通り喋った上で、ホルンは内心滝のような汗を流していた。

 

 そもそも会議に対してやる気などなかった。聞いてる限りボス攻略に役立ちそうな内容も出ないだろうし、ホルンとしてはさっさと帰りたいなぁという思いで頭がいっぱいだ。

 キバオウの論に噛み付いたのだって、寝不足によって判断力が欠如した結果でしかない。キリトへの恩義などが心の片隅にあったから擁護に回ったが、大多数のβテスターはそれこそどうでもいいとさえ思っている。

 

 元々対人関係を希薄にし続けたせいで会話スキルが終わってるのだ。物理的に相手の顔色を伺えなかったこともあって、相手を立てたり場の空気を読むという上品な振る舞いなど知らない。

 そんな中、望まずに巻き込まれた討論。

 

 ホルンの頭は真っ白になった。何を言えと?、と。

 

 

 衆目の前で恥などかきたくはない。人並みに自尊心も羞恥心もある。さりとて、相手を(なだ)(すか)せるような話術もない。

 なんとか議論の体をなすしかない。特に主張もないのに。コミュ障なのに。

 口は禍の元を体現している失言モンスターの自覚はあったが、それ以上に大勢の前で晒し上げられることの方が嫌だった。

 ならばどうするか。

 

 ホルンの取った会話術はシンプルだ。

 

 ひたすら相手を貶し、煽り、罵倒すること。これに尽きる。

 

 相手から冷静さを奪い、感情的にさせ、論調の芯を崩す。そうしてそこを(表面的には)冷静に指摘するようにポーカーフェイスを張り付けて話すことで優位に立つよう演出する。

 はっきり言って詐欺や詭弁の類いだった。相手がキバオウほど尖った主張をしていなければ瞬く間に白い目で見られること間違いなしの手法。

 建設的な意見などクソくらえとばかりに煽った。

 すべてがホルンの想像以上にうまく嚙み合った結果でしかない。

 

 

 しかし、この方法には致命的な問題があった。

 これは究極的に言えばただの粗探しであり、揚げ足取りだ。当然ながら、キバオウの論調の精度が低くなれば低くなるだけこちらの精度も落ちるのだ。罵倒と煽り節でカサ増しするのにも限度がある。

 

 その上、その精度が落ち続ける揚げ足取りに意識を集中したせいでホルンの中には未だにこの言い争いに対する結論がない。する予定のなかった討論に口を滑らしたせいで巻き込まれたのがそもそもの原因だが。

 

 それどころか、先ほどまで話していた内容もほとんどが勢い任せだったこともあり、既にホルンの記憶から6割ほどが消失していた。蒸し返されようものならどうなるか分かったものではない。

 

 

 つまり、特に言いたいことがある訳でもないのに、勢いだけで会話のイニシアチブを握ってしまったせいで詰んでいる状況だった。

 

 

 この討論の決定権を事実上手に入れておきながら、盛大に持て余して焦っていた。

 コミュ障にいい感じの話のオチなど付けられないのである。

 

 

 

 

 

(ストレア。ストレア~!いい感じに助け船…あ、ダメそう。頭抱えてる)

 

 

 十中八九僕が暴走したのが原因だと思うが。

 

 

(キリト!キリト先生!《トールバーナ》居るの知ってんだぞ助けてプリーズ!!)

 

 

 魔女裁判で吊るされてる側だけどな、と内心皮肉げに理性が突っ込む。

 

 

(ディアベルこの際あんたでもいいので助けろください!……なんで腕組んでウンウン頷いてんだよテメェはよぉ!!あんたの主催した会議だろどうにかしろよ!!?)

 

 

 会議が膠着状態に陥った原因、半分くらい僕のせいなんだろうけど。

 

 

 

 

(誰でもいいからどうにかしてくれ……空気が居た堪れない!)

 

 

 

 

 

 のちにこの時の話を持ち出した時、自分が『友達』と呼べるようになった少年少女たちから、口を揃えてこう言われたという。

 

 

 お前が言うな、と。




ホルン:混迷した原因の9割。もうどうにでもなーれ☆(白目)
    幼馴染みにつけられたあだ名は『薄味の裸エプロン先輩』

ストレア:情緒がぐちゃぐちゃ。頭が痛い。胃も痛い
     あだ名は特にないがホルンに言われた『頭お花畑』は可愛いと思ってる

キリト:罪悪感で脳がぐちゃぐちゃ。心が痛い
    喧嘩した時に妹に言われたあだ名は『黒いの』

アスナ:反抗期に憧れるお年頃。それでいいのか
    クラスメイトに陰口で言われたあだ名は『お人形の優等生』
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