VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで 作:クソ煮込みうどん
この話書いてる途中で評価バーに色付いてて震えてます……地味にUA?も2000超えてるし…こわぁ…('ω')
励みになります。今後も頑張るのでよろしくお願いします。
今回はいつも通りオリ主くん視点からです。
あとエギルとディアベルですが、書籍版だと両方「オレ」で紛らわしいと思ったのでエギルの方は「俺」に変更してます。ご了承ください。
「……盛り上がってるところ悪いんだが。発言、いいか」
僕とキバオウの舌戦がひとまずの終息を見せた会場に、そのバリトンの利いた声は良く響いたように思う。
視線の先、人垣の左端の辺りで礼儀正しく挙手をしていた人物が立ち上がる。
「でかぁ…」
口からそんな間の抜けた声が出たが、多分周りもそう変わらない感想を思い浮かべてるはずだ。
大きい。座っていた段階で近くのプレイヤーと比べても頭一つ飛び抜けていたが、立ち上がると更に目立つ。恐らく180…いや、190cmはあろうかという巨漢。
夕焼けの中でも存在感を放つ小麦色の肌と、彫りの深い顔立ち。多分だが人種からして違うのだろう。スキンヘッドも相まって迫力が凄い。
背負っている得物は両手斧のようだが、彼のガタイだとテニスラケット程度のサイズに見える。ストレアと違って正統派のゴリラ感がある。
彼はディアベルから登壇の許可を得てから静かに、しかし周囲の奇異の目にも怯むことなく前までやってくると、軽く振り向きながら聴衆へ会釈をした。今までの登壇者がキバオウという攻撃的で我が道を征くタイプ*1だったためか非常に紳士的で安心する。
……場違いな感想なのは分かっているが、
「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの主張は大まかに言って現状の攻略停滞の原因はβテスターにあり、それに対するこの場での謝罪・賠償を要求している。この認識であっているか?」
「そ……そうや」
流石に誰彼構わず噛み付けるほど狂犬でもなかったようで、キバオウが分かりやすく怯む。気持ちはすごい分かる、僕もこのおじさんに喧嘩で勝てる気しねーもん。
「ふむ…ホルンさん、あんたの主張も聞きたい。……率直に言うが、俺はあんたの話を聞いていて主張らしいものが見えなかった。あんたはこの状況に何を期待しているんだ」
巨漢…エギルの顔がまっすぐ僕の方へ向けられる。まるで試すような視線と重い声を伴って。
うーん、ヤバい。なんか実利とかβテスター参加の弊害とかの具体的な内容に触れなかったのバレてるくさい。
声のデカい奴が勝つ、の法則を頼りにふわっふわの言葉と勢いで喋り続けたが、この黒人男性には通用していないらしい。あのクソほど中身の薄い話ちゃんと吟味して上でこの言葉かけられるのマジでキツいです。
正直この状況で更にボロを出すかもしれない僕の会話術を披露するのも怖いし、討論の落としどころも見つからない。そろそろ潮時だろう。致命的な失言を出す前に退場するしかないか。
「特にないけど」
「なに?」
「だからさ、特に何もないんだよ。主張も、期待も。そこのキバオウに反対意見があるから声を上げた*2だけで、僕はこの場でわざわざ口にしたいことなんて、ハナから全くなかったのさ。コイツがしたのが攻略の役に立つ主張だったらわざわざ口挟まないよ。……そういうわけなんで失礼するよ」
出来るだけ飄々と、なんてことないように。したこともない世間話でする肩透かしのように言い切る。
一抜けた、と言う奴だ。あとは勝手に話まとめてくれ(他力本願)。
昔学校でこの手の状況になった時、何故か僕の「抜けた」だけ皆に無視されて掃除当番を押し付けられたのを思い出す。なんだろう、懐かしさより先に虚しさが……。
ちょっと過去の苦い思いを噛みしめつつ下がろうとしたのだが、キバオウはなおも食いついてくる。
「……あん卑怯者共を許して、頭下げろ言うてるんちゃうんかジブン」
「は?どこにそんな話入ってたよ。命がけなのは同じなんだから、ほっといてもゲームクリアしたいなら勝手に協力してくるわ。その棘まみれの頭下げて何したいんだよ、頭突き?パキケファロサウルスかよ」
あ、やべ。
「ああ‶ん!?」
また例によって失言モンスターが顔を出したようで、折角鎮火していたキバオウの狂犬魂に着火してしまった。僕の口呪いの装備か何か?
もうこうなればヤケだ。とことん場を混沌とさせてやる。みんな揃って無駄な時間を過ごしていけ(震え声)。
「……瞬間湯沸かし器じゃん。語彙力も一緒に蒸発してんのかよ。ともかくさー、辞めてほしんだよね。みんな一緒に馬鹿になろうって言い出すの。僕の生存率下がるじゃん。使える人材は使えるまま有効活用しよーぜ。最近流行りのオーガニックって奴?素材の味を生かして……あぁ、なるほど。素材として格下の自覚があるからそんな噛み付いてくるんだ。そーいう…」
「こんガキ…言わしておいたら……!!」
「つまりあんたは、キバオウさんにこの糾弾をやめて攻略に専念させたいだけ、なのか?あくまでも攻略が最優先だと」
特に考えずに喋っていたのにいい感じの解釈してくれてる!この人聖人かよ。やっぱ混沌とかクソだな。ラブアンドピースで行こう。
全力で寄りかかっても大丈夫そうな助け舟を得た僕は意気揚々と乗り込んだ。もうここしか抜け出せるチャンスはないと。
「敢えて主張するならそうなるね。別に許せとも手のひら返して
なんか調子乗って最後厭味ったらしくなったが、どういうわけか、目の前の巨漢は少しだけ歯を見せて笑った。肉食獣のように。
……あの…ナマ言ってすんません。謝るので食べないでください……。
「なるほどな。いや時間を取らせて悪かった、見当違いの意見を言うわけにもいかなかったんで確認をさせてもらった。非礼を詫びよう」
「あ、ハイ」
「さて今度は俺だな。二人の意見を踏まえて俺の立場を明確にしておくが……どっちかというとホルンさん寄りだ」
会場が控えめにざわついた。正直僕も想定外の流れになっている。なんで主張とか特にないって言った後に援軍来るんだよ意味わからん。
しかしこちらに援軍が来たとて、意気込んで啖呵を切った以上キバオウも引くに引けなくなったようだ。一瞬ポカンとした表情で固まったが、すぐさま牙を剥いて怒りを露わにする。
「あいつらが見捨てへんかったら死なずに済んだ2000人やぞ!それも、他のMMOでトップ張ってたようなベテラン連中や!アホテスター共が情報やアイテムを分け
「野球がうまいからサッカーでも活躍できたはずってレベルの暴論出たな……。他のMMOの経験でSAO攻略できるならβテスター関係なくもっと居るわ」
「……言葉はあれだが、俺も同感だ。そもそも今までMMOとは液晶画面越しにプレイヤーを操作するものだった。こうして、VRの世界に直接入って体感するものではない。つまり液晶画面に
「ぐぬぬ……」
ヤバい、助け船エギル号優秀過ぎる。失言フォローが完璧すぎて初めからそう言いたかった気分になってくる。キバオウが憎々しげに睨んで来るけど理路整然としたフォローのせいで噛み付けずにいる。エギルの旦那と呼ばせてくれ。
ってか人間ってマジでぐぬぬ、って言うんだ。初めて知った。
「それにキバオウさん、金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ」
彼がポーチから取り出したのは、羊皮紙数枚を
「このガイドブック、あんただって貰っただろう。《ホルンカ》や《メダイ》の道具屋で無料配布されてるんだからな。ホルンさんだって持ってるだろう」
「一応貰ってるよ。相方が強かったおかげでさっと目を通してメモ帳代わりにしてたけど」
そう言って僕が懐からラクガキだらけになったガイドブック?を取り出すと、何とも言えない顔をされた。それと、どこからかめちゃくちゃ不満げな視線を飛ばしてくる奴が居るような気配がした。
いやだって、しょうがないじゃん。大体どんな敵やクエストがあるのかストレアが教えてくれるから他の使い道無かったんだよ。あと久しぶりに文字を書くのが楽しかったってのもある。やっぱ目が見えるのっていいわ。
「…………まぁ、使い方は個々人の自由だがな」
「……
「このガイドブックは、俺が新しい村や町に行きつくと、必ず道具屋に置いてあった。あんたもそうだったろ。情報が早すぎる、とは思わなかったのかい」
「せやから、早かったら何やっちゅうんや!」
「こいつに載ってるモンスターやマップのデータを情報屋に提供したのは、元βテスターたち以外には有り得ないってことだ」
会場でもぽつぽつと確かに、いやそんな…などと彼の言葉を噛みしめるような呟きが聞こえ出す。
「いいか。ホルンさんが言ったように、彼らは彼らなりの方法で現状に立ち向かっている。現実の死がなくとも、彼らがβテストでした経験は決して軽くないはずだ。にもかかわらず、彼らはこの珠玉の情報を惜しみなく俺たちへと公開している。……この行いがその償いとやらに十分かは各々の価値観に寄るだろうが、俺は彼らを決して無責任で薄情だとは思っていない。何より、今俺たちがすべきなのは彼らを排斥することではなく、同じ目的のために戦っているんだと行動で示すことだと考えているんだが」
至極真っ当で理路整然とした弁だった。こちらのした穴だらけの論を補完しつつ、改めて当初のディアベルが求めかけた団結の方向へ舵を切る。過激な意見で白熱していた会場に染み渡るように、言葉選びにも気を払って。
流石の僕でもこの状況で茶々を入れない程度には弁えられたので、全力で顎に力を入れて耐え凌ぐことにした。まったく、油断するといつ毒が漏れるか分からない厄介な口である。気が休まらない。
そうして会場が適度な落ち着きを取り戻したのを見計らい、青髪の騎士が口を開いた。
「キバオウさん、君の言うことも理解できるよ。オレだって右も左も解らないフィールドを、何度も死にそうになりながらここまで辿り着いたわけだしさ。でも今は、そこの二人が言ったように前を見るべき時だろ?元βテスターだって……いや、元βテスターだからこそ、その戦力はボス攻略に必要なんだ。彼らを排除したせいで攻略が失敗なんてしたら、それこそ何の意味もないじゃないか」
キバオウを否定するのではなく、理解を示したうえでの説得。頭ごなしの否定をしない辺りこちらも実に人間ができている。
というか主催した人間なんだからいきなり不和を起こされちゃ気が気でなかっただろう。心なしか、穏やかな声でありながら今の彼の言葉は最初の挨拶以上の熱量があった。
「みんな、それぞれ思うところはあるだろうけど、今だけはこの第1層を突破するために力を合わせてほしい。もしどうしても元βテスターの人を受け入れられないって言うなら、残念だけど、抜けてくれて構わない。ボス戦ではチームワークが欠かせないからね」
静かだがよく通る声が彼の見渡す動きに合わせて劇場に響く。彼は最後に壇上の三人、特に不服そうな顔をしているキバオウへと顔を向けた。
しばし両者の間に沈黙が流れ、やがて鼻を鳴らしながらキバオウが降壇を始める。
「…………ええわ、ここはあんさんに
吐き捨てるようなセリフと共に、いまだに収まりどころが悪いらしい鋭い敵意がこちらに向けられる。やめろよ照れるだろ。……冗談だよ野郎に熱い視線向けられても寒気しかしねぇよさっさと帰ってくれ。
手でしっしと追い払う。キバオウはそれに対し舌打ちを残し、今度こそ元居た劇場の席へと戻っていった。
エギルが礼儀正しくディアベルへ会釈してから降壇していき、僕もそれに
「……さて、他に何か言いたいことのある人は居るかな?折角の機会だし、腹を割って話し合いたいんだが」
この声に特に反応を返す者は居なかった。なんでか、チラチラと聴衆の目がこちらに向いている気がする。まさかまた僕が噛み付くと思われてるのだろうか。流石に心外なんだが。
釈然としない思いを抱えつつ席に戻ると、こちらに何とも言えない表情を向けてくる暫定パートナーが待っていた。
「ただいま。……なにその表情…どんな感情……?」
「……ホルンにはどう見えるの」
「徹夜明けのゴッホがヒマワリ食いながら描いてそうな表情」
本当に表現のしづらい顔だった。怒りとも、困惑とも、諦めとも、悲しみとも、喜びともとれぬ……ともすればすべてが同時に混在しているかのような。とにかく、表情筋への負担が大きそうな表情だ。人間の表情ってこんなバグみたいな挙動できるんだ。
こちらのいまいち説明にならない表現を受けてか、現在の自身の顔を確かめるように数回、むにむにと頬を細い指先が押す。10秒程度そうしていたが、やがて長い……本当に長い、ため息を零すと。ストレアの表情はたまに見せるジト目顔になった。
「とりあえず、お疲れホルン」
「どーも。……それでその、お話というのは…?」
「もう何言いたいのか忘れちゃったし、いいや」
「っし!!」
朗報、説教回避。もう今日は人の話聞くの疲れたからありがたい。
「反省してるの?」
「はい今後は気を付けます。……その、ごめん。マジで」
「よろしい」
やや大仰に、それでも柔らかな声で。ストレアの口から正式にこの話題を終わらせる旨が伝えられた。
怒り慣れてないのか、やや疲れたように普段の笑顔に戻っていった。人が良すぎるようにも思うが、こういう時にさっと空気を戻して笑いかけられるのは彼女の魅力だろうと思う。
こちらの雰囲気が戻るのを待っていたわけでもないのだろうが、新たな陳情者が現れないのを確認すると、ディアベルも挨拶の時のように快活な喋りに戻した。
「…………うん、居ないみたいだね。ありがとう。さて、会議に戻る……って言いたいんだけど、みんなにも伝えたように、まだボス部屋が見つかってるわけじゃないんだ。あくまで、今回はボス戦に参加できるだろうメンバーの、顔合わせの場のつもりで設けたからね。だから区切りもいいし、今日の会議はここで終わりにしようと思う。みんな、長い間付き合ってくれてありがとな!正直オレもめちゃめちゃ緊張してたけど、みんなが真剣だったおかげでいい時間にできたよ」
劇場の聴衆たちから拍手が送られる。肝心のボス攻略に関しては進まずじまいだったが、それでも彼の言う顔合わせとしては十二分なものだった。その上でプレイヤーたちの熱が失われない絶妙なタイミングでの切り上げ。見事な采配だと思う。
実際、彼以外ではこの場の収拾などできなかっただろうことは共通認識だろう。見ず知らずのプレイヤーたちに団結を呼びかけるのも、多くのプレイヤーたちの敵意を受けるβテスターとの融和の呼びかけも。
最終的に割れんばかりの大音量となった聴衆の拍手を片手を上げて制すると、青髪の騎士は改めて、聴衆一人一人に顔を向けながら口を開いた。
「ありがとう!オレもこんな素敵な仲間に出会えて嬉しいよ!……最後になるけど、オレとパーティーメンバーでマッピングした迷宮区19階のデータを配るよ。みんなの攻略に役立ててほしい!…あ、こっちの配布も楽になるから、できればパーティー内で共有してくれな!」
おお、と劇場内が湧いた。これは何とも気前がいい。彼の言葉が正しいのなら現状最も攻略が進んでいるのは彼自身のパーティのはず。その成果物とも言えるものを無償配布とは。
これは恐らく、情報屋に協力しているβテスターたちへ向けたものでもあるのだろう。彼らが取った方法と同じ形で、自分なりの誠意を示しているのだ。オレも一緒だ、と。
彼の行動をどれだけのβテスターが目にし、知っているかは別だが、団結を呼びかけた者の取る初動としては満点の回答だと思う。
こういう細やかな振る舞いが人徳を生み出すのだろう。僕にはできないので関係ないが。
「ディアベルも太っ腹だね~。アタシ貰ってこよっか?」
「欲しいならどーぞ。僕はボス部屋見つかるまでサボるつもりだからいい」
「……どーしてそうやって盛り下げること言っちゃうかなぁ」
「適材適所って奴だよ。それに、折角他の連中がやる気出してくれてるんだ。この機会にのんびりスキル選びでもさせてもらうよ」
途端、むー、と頬を膨らませて不満ですアピールをされた。拗ね方が子供と大差ない。現実の学校でやったら女子に、かわい子ぶりやがってちょーしのんな、っていじめられそうだ。幼馴染のあの子は似たような対応を受けていたし。
どう宥めたものかと頭を悩ませていると、不意にこちらにまっすぐ向かってくる一人のプレイヤーが目についた。たしか彼はディアベルのパーティーメンバーの一人だったように見えたが。
腰に下げた曲刀が彼の静止に合わせて剣帯を鳴らし、少し高い位置にある頭からこちらに声がかかる。
「ホルンさん、でいいんだよな。ディアベルさんがあんたに用があるらしい。一緒に来てくれ」
「……まぁ、うん。そんな気はしてた」
覚悟はしていたつもりだが、僕がディアベルにかけた迷惑は相当なものだ。何せキバオウという起爆剤にガソリンをかけて燃やすような真似をしたわけだし。この事実がある以上、悪気はなかったでは済まないだろう。なんなら後半調子に乗って意図的に煽っていたし。
あわや会議は空中分解、となる直前にエギルのフォローが間に合ったからよかったものの、あれではいい印象を持たれてはいないだろうという自覚があった。
「ストレア、そういうわけでなんでキミは……」
「ねぇそれ、アタシも行っていい?」
「……あんたは?」
「アタシはストレア、ホルンのパートナーだよ♪」
「用があるのは彼一人なんだが」
「静かにしてるから。お願~い」
先に帰らせようかと思っていたのだが、彼女は食い気味に参加の要請をしてきた。その声を受けた曲刀使いの彼もやや困り気味だ。
そして僕はちらりとこちらに向けられた彼女の目から真意を悟る。
あ、絶対これ監視目的だ()
目が笑っていない例の顔だった。
恐らく今日の僕のやらかしはストレアも看過できない失態なのだろう。会議で暴走して煽り散らかし、対個人どころか対集団へも
言葉こそお願いの形をとっているが、彼女の姿勢に譲る気が一切ないのを彼も察したらしく、ものすごく嫌そうに、了承の意が返って来た。
「……ついてくるのはいいけど、余計な口は挟まないでくれよ」
「は~い♪良かったねホルン???」
「はは、そっすね」
その目怖いからあんま向けないでほしい。ハイライトさんどこ?
僕は急激に胃が痛くなってきた。100%僕の非なのを自覚しつつ。身から出た錆のなんと面倒なことか。
曲刀使いに導かれるままやって来たのは円形劇場の舞台袖のような場所だった。
そこに青髪の騎士とその仲間たち……そして、例の巨漢エギルの姿があった。
キバオウの姿が見えないが、間違いなく例の討論の当事者を集めているとみて間違いないだろう。年貢の納め時と言う奴らしい。
「──お、連れてきてくれたかリンド。ホルンさんも悪いな、わざわざ解散した後に呼びつけて」
「いや、まぁ、気にしてないんで。はい」
「…………?そうか。まぁそんなに時間はかけないつもりだから安心してくれ。こちらのお嬢さんは?」
「アタシはストレア!気分的にホルンのパートナーやってま~す」
「ははっ。こっちに合わせてくれてありがとう、ストレアさん」
コミュ強同士のにこやかな会話のジャブを流し見しつつ、できるだけお叱りを受けない方向で会話を進めるために脳内辞書の準備をする。1ページ目、あの行がいきなり「諦める」から始まる最悪の逸品である。初手で投げるな。
「まずは、ホルンさんとエギルさん。今日の会議で声を上げてくれてありがとう。二人のおかげで助かったよ」
「本日は誠に……ん?ありがとう?なんで???」
「どうしたんだお前さん。壇上とはずいぶん雰囲気違うみたいだが」
素っ頓狂な声を上げる僕を気にしてかエギルが声をかけてくる。ビビるから急に声かけないでくれ。
じゃなくて。
「……この集まり、会議進行妨害の苦情言われる感じじゃない?のか?」
「自覚はあったんだな」
「あー……まぁ、うん。ホルンさんの言葉選びはその、少々気になるところだったけど。そういう趣旨じゃないんだ。本当に、あそこで声を上げてくれたことに礼を言いたいだけさ」
意外だ。会議の主催者だし余計なことを言うな、とまでは言われないだろうけど、よくも暴れ回ってくれたなくらいは言われると思っていたんだが。まさかの感謝。
困惑する僕とは裏腹に、リンドと呼ばれた曲刀使いに言われた通り大人しく口を閉じてるストレアは、妙に機嫌よさげに微笑んでいる。
「この際だから白状するけど、キバオウさんがあそこで声を上げることになるのは知ってたんだ」
「──あいつサクラだったの?」
「そう受け取ってくれて構わない」
衝撃の事実パート2。あの如何にも協調性の無さそうな*3キバオウが進行プログラムに組み込まれていたとは。
隣のエギルに視線を向けてみるが、彼も知らなかったようで軽く首を振っていた。
「……別に、キバオウさんである必要はなかったんだけどね。会議の参加を呼び掛けているときに、オレにβテスターとの協力は難しいんじゃないかって言ったのが彼だったんだ。どうやら、彼の知り合いがβテスターとの確執があるらしくて」
「それであんな噛み付いて来たのかよ」
「わからない話でもなかった。何より、ホルンさん達も経験があると思うんだけど、人間って不満をため込むと一番良くないタイミングで爆発するじゃないか?あれを危険なボス戦の最中にやられると困るから、それなら、会議でその話題について触れるタイミングを用意するから、と提案したんだ」
「なるほど…会議の場に集まったプレイヤーたちの、βテスターへの不満を彼に代弁させたわけか」
「……そういうことになるね」
エギルの端的にまとめた内容を、ディアベルは肯定した。つまりはガス抜き。張り詰めた悪感情を消化するための場として会議のセッティングをしたのが裏事情ということか。
しかし、と彼の言は続く。
「オレとしてはβテスターと非βテスターの分け隔てなく協力してほしい、と思っているのは本気なんだ。オレたちに足りてないのはレベルやアイテムではなく、経験と知識だ。このデスゲームで生き残り、戦い抜くためには、彼らの持つ情報が大いに役に立つ」
「すべては確実なボス攻略の為、と」
「そう。しかし彼らだけに矢面に立たせるのはフェアじゃない。何より、ホルンさんが言ったように、実際の攻略に参加している人数は多くない。彼らだけじゃダメなんだ。みんなで立ち上がらないと」
「まぁそうなんだろうね。……で?それが僕への感謝になんで繋がるわけさ。言っちゃなんだけど、僕会議で暴れた印象しか持たれてないと思うけど」
そう言った途端、何故か周囲がこちらを不思議そうな目で見ながら固まった。なんすか。珍獣扱いかコラ。
「……
「ホルンさんは大物になるね。きっと」
「とーぜん♪アタシの自慢のパートナーだよ!」
「なに?何なのこの生暖かい空気?」
「ディアベルがあんたに感謝してんのは、その暴れて空気をぶち壊したからなんだよ」
「……。…………?ごめん、説明頼む」
「なんとなくわかっちゃいたが、あんた相当コミュニケーション能力に難があるな」
はっきり言わないでくれます?泣くぞ。
「まずディアベルだが、会議の人数集めとプレイヤーの間にあるβ・非βの関係改善のため、キバオウも含めて無差別にこの場に集めた。ここまではいいな?」
「おん。それで?」
「その上でディアベルはキバオウの不満を吐き出すため、会議の場を利用することを提案した。他のβテスターへ不満を抱えた奴の代弁者として、彼を登壇させた」
「ほう」
「それであとはあんたも知っての通り、キバオウの意見で空気が変わった中にあんたが乱入して、その反βテスター思想とも言うべき空気を更にぶち壊したってわけだ。アレがあったから、全員がβテスターだけに非を押し付けようとはしなくなったし、代弁者であるキバオウが下がれば、ひとまず不満を吐き出す奴も減る。要するに、あんたが暴れ回ったおかげで全員が最低限同じ方向を向いたんだよ」
なるほど、と思うような、思わないような。
「いや、空気変えるだけなら別に僕じゃなくてもいいわけじゃん。エギル…さんとか、それこそキバオウが文句垂れるの分かってるディアベルが」
「オレが声を上げても意味がないんだよ、ホルンさん」
穏やかな口調ながら、青髪の騎士ははっきりと断言した。こちらが夕日に背を向けてるわけでもないのに、眩しそうに眺めながら。
「確かにオレはキバオウさんの不満を知っている。だけど、あそこでオレが彼の主張に横やりを入れたら、きっとキバオウさんは、オレに裏切られたと感じるんだ。それはダメなんだ。彼を納得させるのは、オレ以外の言葉じゃないといけなかった。何よりオレは会議の主催者だからね。どっちかに肩入れしてるように受け取られると困るし、場の空気がホルンさん達側に寄ってからじゃないと声を上げられなかったさ」
「こっちに関してはあんたの言う通りなんだが、俺の言葉はこの見た目もあって威圧する形になる。何より、こう言うとなんだが……俺では大人が大人を妥協させるような言葉になる。真の意味であの場の聴衆の心に響く言葉を出せたのは、なんの打算もなく声を上げられたあんたの言葉だけだったと思う。だからそう卑下するなよ」
打算どころか考えの一つすらなかったんだけどな、とは口が裂けても言えない雰囲気になってしまった。僕にとっては感謝自体慣れないものだが、加えて完全に見当違いの結果によるものだと感情の処理方法が分からない。どうしようかこれ。
普段ならこういう時にさりげないフォローをしてくれるのがストレアなのだが、今日はやけに静かだ。肝心なときに口挟んでくれないの実に困る。
「……じゃあ、まぁ、はい。どういたしまして…?」
「ここまで説明してなおその反応なのか…」
「はははは!まぁ、これがホルンさんらしさなのかもしれないな。ともかく、今日はありがとう。またボス部屋見つけたら会議になると思うから参加してくれよな!」
「それは……もっかい暴れろ、って意味?」
「いや、それは勘弁してほしいかな。できるだけちゃんとオレがみんなをまとめるよ」
即答だった。周囲のメンバーがそれに耐えきれず笑い出し、何とも言えない緩い空気が出来上がった。
念のため聞いただけだったつもりがガチトーンでの否定。ちょっとだけ傷ついた。わかってたけどね?ほんとに確認しただけなんだけどね?
† † †
「不満そうだなリンド」
「……良かったんですか。ディアベルさん。マップデータ、元々配布予定なんてなかったでしょう」
「まぁな。それが気になるのか?」
こちらに背を向けて帰っていく会議の功労者たちを眺めつつ、パーティーメンバーの懐疑的な声に応じる。
「あんたが言ったんじゃないか。会議の主導権を握るためにも、攻略はうちが主体にならないとって。20階へ行く階段までマッピングしたものを渡したんじゃ……」
「他のパーティーに先を越される、だろ?まぁ確かに当初の予定だとそれは困るんだけどな」
「だったらなんで」
「でも会議を終えた今だから言えるけど、多分、他の誰も会議をまとめられないと思うよ。……キバオウさんとホルンさんに手綱を付けられる人間、居ないだろ」
引き合いに出した二名を思い出してか、リンドを含む全員が苦笑いを浮かべる。
どちらも一癖二癖あるが、特に少年の方。キバオウすら怯んだ巨漢に対しても躊躇なく噛み付き煽る筋金入りだ。あれを御しきる自信はないのだろう。かくいうオレも盛大に持て余している。
「一緒にいたストレアって人ならできるんじゃ?」
「うーん……あまりしっかり話してなかったけど、彼女は多分、協調性は強いけど主体性があるタイプじゃないように思う。実際リンドの言った通り余計な口は挟まないでいてくれたんだろう?」
「それは、まぁ」
「なら問題ないさ。二人一緒、ってなるとまた変わりそうだけど、ホルンさん自身にも明確な指針があるわけでもないようだしね。エギルさんは可能性があるけど、さっきの感じ彼も主導しようとは思って無さそうだ。これなら別に、放っておいても次回の会議もオレ主導で回せるさ」
最低限の懸念点は払拭したつもりだったが、向上心の強いリンドは未だに不服そうだ。説得の方法を間違えたか。
少し頭を悩ませ、追加の説得を出力する。
「リンドの言いたいこともわかってるつもりだ。オレたちが苦労してマッピングした階層データを、オレの独断で配布することにしたのは、悪かったと思っている」
「いえ、別に」
「だが会議の空気が好転したあのタイミングで動かないようじゃ、βテスターたちの信頼を勝ち取るのは無理だったと思うんだ。それに、会議の進展が無くても、アレがあれば最低限こっちが主導したという印象をプレイヤーたちに残せる。必要経費と考えてくれないか?」
「…………すいません。浅慮でした」
「いいさ。言わなかったオレが悪い」
軽く肩を叩きながら、できるだけ軽い調子で手打ちの流れに持っていく。我ながら腹芸が上手くなったものだ。……そうやって回りくどいことばかりするから『あの剣士』に届かなかったんだろうに。
「ディアベルさん?どうかしました」
「……ん?ああ悪い、ちょっと疲れたかもな」
物思いにふけ過ぎたか。余計なことばかり考えすぎるのがオレの悪癖だと感じたばかりなのだが。一朝一夕とはいかない。
「明日の探索、辞めときますか」
「まさか!別にオレたちがボス部屋を見つけなくてもよくなったとはいえ、オレたちが、最速を目指すのは変わらないさ。オレだってフロントランナーの意地がある」
「わかってますよ」
「そうこないと」「だよな」「おし、今日はしっかり休んでまた明日だな」
他の仲間たちも口々に同意を示し、誰からともなく拳を突き合わせる。本当にいい仲間だ。
……隠し事ばかりのオレには勿体ないくらいに。
そんな内心の葛藤を押し隠し、『騎士ディアベル』として不敵な笑みと共に檄を飛ばす。
「最強はオレたちだ!そうだろ!」
「「「「「おお!!」」」」」
オレはもう、二番手には甘んじない。
どんな手を使っても、あんたに勝ってみせる。
キリトさん。
◆ ◇ ◆
「……別についてこなくても良かったんだけど」
「今日のホルン、いつもより口が滑るから不安なんだよ」
「ちくしょう、反論できねぇ…」
すっかり夕日も落ち込み、街灯の光だけが目立つようになったころ。僕とストレアはそんな村の僅かな光に背を向けて、とある場所へと歩を進めていた。
あの会議を終えた後、今まで音信不通だったキリトのフレンドメッセージに、実に簡潔なメッセージが飛んできたのだ。
【話がある】
このたった一言の直後、彼の今いる宿の座標が送られてきた。やはりというか、こちらがキリトの宿を把握しているとは思われてないようだ。《トールバーナ》に来てから通い詰めてたんだけど。
会いたいとは思っていたが、あちらからアクションを起こしてくるとは思っていなかった。このタイミングでくる辺り、恐らく会議のことは知られてると考えた方がいい。
実に憂鬱だ。
(絶対に気まずい空気になる…100%なる……い、行きたくねぇ……)
まともな弁舌を振るえた後ならいざ知らず、僕があの会議でしたことは勢い任せに煽って空気を壊し、挙句キリトがβテスターだと露見する可能性を作っただけだ。控えめに言って戦犯だと思う。今度こそ文句を言われる。
しかしメッセージを受け取った時の僕は特に何も考えずに「わかった」と返信してしまっていた。身から出た錆が多すぎる。僕の場合、むしろ錆びてないところの方が少ないのかもしれない。
後悔先に立たず、とはよく言ったものだ。実際今も……特に考え無しに足を動かし続けたせいで、キリトの宿の目前まで辿り着いてしまっていた。とても引き返せる空気ではない。
「…………はぁぁ」
「すごく嫌そう。会いたいんじゃなかったの?」
「会いたいのと、会うのが気まずいのは矛盾しないんだよ……今日の僕のやらかし見てたろ」
「うん。いつもより酷いけどいつも通りのホルンだったよ♪」
「オブラートに包んでくれます?」
最近ストレアの言葉に容赦がなくなってきた。ゆるふわな雰囲気はそのままなのに言葉だけやたらと切れ味が鋭い。僕の言葉は周囲の人格を歪めるほどの威力があるのだろうか。
とはいえストレアの無慈悲な評価で頭も冷えた。そうだ、僕は元々こういう恥の多い言動してきたんだ、今更気にして何になる。……いや気にするべきではあるんだろうけど。
最低限意識の切り替えを済ませ、ドアの前に立つ。あとはノックして入室を……
(あれ、ノックって何回がマナーなんだっけ)
何やら回数によって意味があるだのなんだのと、受験面接時のマナー対策で言われた記憶はあるのだが。勉強とか進学とかすっかり頭から抜け落ちてデスゲーム攻略に明け暮れたせいか、肝心の回数が思い出せない。
「ホルン?どうかした?」
「2回…はトイレなんだっけ……じゃあ3…?あれ4だっけ……それとも足して…?」
「おーい、ホルーン?アタシの声聞こえてないー?」
何やらストレアが言ってるような気がするが、人が集中してるときに話しかけるなと教わらなかったのか。
うん。ダメだ思い出せない。もう体が覚えているリズムに任せよう。これでも受験生なんだノックくらい身体が覚えているはず(慢心)。
──コン、コン、コン
──コン、コン、コン
──コンコンコンコンコンコンコン
「……………………なんで、三・三・七拍子したの…?」
「…………僕もわからない」
「ホルンやっぱり今日ダメだと思う」
僕もそう思う。やっぱ帰るか。キリトならピンポンダッシュくらい許してくれるだろ。
そう考えてドアから体を離そうとした直後、がちゃり、と音を鳴らして木製のドアがこちら側に開いた。
室内灯の明かりを背に現れたのは、顔立ちだけなら少女に見えなくもない、線の細い黒髪の少年だった。
誰か、などと無粋なことは聞かない。
初めて見る顔なのに、僕には、あの日手を振り合って別れた片手剣使いの面影が見えた。
「──久しぶり、でいいのかな…キリト」
「…………ああ。久しぶり、ホルン」
1ヶ月ほど前に別れた彼、キリトは。
そう言って、以前見たものよりも弱々しい笑みを浮かべた。
ホルン:(社会的に)死んだんじゃないの~?(震え声)
ストレア:相方が評価されててご機嫌。それはそうと自重を覚えてほしい
ディアベル・エギル:おもしれー奴……
キリト:赦してくれなんて思わない
[Next Episode.『ボーイミーツボーイ、ガールミーツガール』]
2025/02/26追記 秋ウサギニキ誤字報告助かります!