VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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イヴリンと餅音動機引けたので初投稿です。


メモ帳に書いてたプロットを保存忘れで紛失したせいで間が開きました()
今後はCtrl+Sを徹底するよう気を付けます。

筆の乗り方のせいでお風呂回メインみたいになりました。キリトの曇り加減の調整が難しい…。
自分でも描いてて不安なので、解釈違いの方はブラウザバックして他の神作品見に行くことを推奨します。


『ボーイミーツボーイ、ガールミーツガール』 1/2

 少し見ない内に随分としおれてんなコイツ、という感想を飲み込みつつ*1、促されるまま部屋に入る。

 ふと見渡すと、意外と言うべきか、そこには見覚えのない先客が待っていた。

 

 

「…………」

 

 

 じっと、こちらを見つめて黙る謎の人物。室内だというのに赤いフード付きケープを羽織り、栗色の前髪の隙間からライトブラウンの視線がこちらをまっすぐ射抜いてくる。フードから覗く輪郭から見て恐らく女性。

 

 

「…………誰この赤ずきん」

 

「……会議の前に、少しな。その、話があったから来てもらったんだ」

 

 

 赤ずきん呼びをした途端目つきが鋭くなったが、彼女が口を開く前にキリトが補足を入れてくる。

 どうやらキリト、僕がストーカーに追い回されてる間に正統派ボーイミーツガールしてたらしい。リア充がよ。

 

 しかし随分と立派な場所に住んでいる。

 前にストレアに引きずられて来た際に間取りは軽く見たが、実物を見ると大分広い。僕やストレアの借りてる宿が大体6畳あるかどうかくらいのワンルームなのに、キリトの暮らしてるこの宿は今いるリビングらしき部屋だけで20畳くらいありそうに見える。

 家具類も充実しており、よく沈みそうな大きなソファー、テーブルとセットの椅子、壁には小棚やダーツボードと言った調度品、窓の近くには飲み物でも入ってそうな木製のピッチャーまである。とても同じ層の宿には見えない。

 これに加えて奥に別の部屋まであるようなので、実際の格差はより広がるだろう。

 

 軽く物色したい気分になったが、流石の僕も他人の家(?)でそこまで図々しい振る舞いをできるメンタルは持ってない。キリトに許可を取ってから中央のテーブルに着くと、他三名も続くように座って来た。

 

 ……座ったはいいが、配置と視線が気になる。

 僕は長辺側に腰を下ろしたのだが、左隣をストレアがすっと陣取ってこちらを覗き込んでくる。ここまでは覚悟していた。

 対面に座ったキリトからは所在なさげに窺われ、右手側の短辺に座り込んだ赤ずきんからは鋭い視線を向けられる。

 

 なんで全員僕の方見てくるんだ。監視カメラでもここまで圧かけてこないが?

 ストレアも何故詰めてきたし。並ばなくても短辺もう一ヶ所空いてるだろ。

 せめて誰か何か喋れよ。反応ある分キバオウと煽り合いしてた時のがまだマシだわ。

 

 

「……なんか用でもあるんですかね」

 

「お構いなく~」「いや…別に……」「…………ふん」

 

 

 なんなんだコイツら。というか、キリトは別にじゃねぇよ。話あるから呼んだんだろ。

 そんな圧を送るが、何故か表情を曇らせながら視線を逸らされた。か弱い生き物がすぎる。

 

 

「ストレア…この状況どうにかできない?空気が終わってるんだけど」

 

「ちょっと今ホルン見るのに忙しいから無理かなぁ」

 

「お前も大概終わってんな」

 

「え?」「……何」

 

 

 最後だけ声量調整をミスった。今日はこんなのばっかりだ。

 ……おいストレアなんだその「しょうがないなぁ」みたいな表情。今の半分くらいそっちが原因だろ。

 

 

「とりあえず、自己紹介しよっか。アタシはストレア!《はじまりの街》を出てからホルンと組んでるの。よろしくね」

 

 

 いまいち納得しかねるが、ひとまず彼女のおかげでずっと沈黙が続く状況は終わりそうだ。納得はできないが。

 

 

「次、ホルン♪」

 

「今キミに名前紹介されたし終わりでよくない?」

 

「却下」

 

 

 解せぬ。

 

 

「……はぁ、ホルンだ。そこのストレアとの付き合いはさっき言ってた通り。攻略に役立つ奴募集中。以上」

 

 

 我ながらいい感じだ。シンプルにまとまってるし失言もしてない。意識すれば案外やれるじゃないか僕。

 キリトについては…まぁ上手いこと伝えよう。流石にβテスターだとバラすわけにもいかないし。

 

 そんな僕会心の自己紹介に対し、ストレアが笑顔を浮かべて一言。

 

 

「20点」

 

「ひっく。辛口すぎだろコミュ障に何求めてんだ」

 

 

 ストレア的にダメな自己紹介だったらしい。この面子で何を申告しとけばいいんだよ。

 流れ的にキリトが次に来るかと思ったが、意外にも、先に口を開いたのは謎の赤ずきんだった。

 

 

「…………アスナ」

 

「うん……え?それだけ?」

 

「何?他に知りたいことでも」

 

「全く無いけど」

 

 

 そう言ったら急に目つきが鋭さを増した。どうしろと?趣味でも聞いておけばよかったの?お見合いか合コンみたいな空気になるじゃん。

 というか僕よりダメだろコイツの自己紹介。ストレア的に何点だよ。

 

 

「えっと……つ、次行こっか!」

 

「おい」

 

 

 僕の時と違ってそのまま流しやがった。

 まぁいい。見るからに不発弾みたいな女だったし、変にちょっかいかけない方が安全かもしれない。

 

 

「……キリトだ。武器は片手剣、レベルは11。そして」

 

 

 おお、キリトが普通に自己紹介してる。なるほど、レベルとか武器に触れておくのはアリだったかもしれない。ここゲームの世界だし。

 悔しいが今のとこ一番まともな自己紹介をしている。

 

 

 

 

 

「……ホルンが会議で言っていた、βテスターだ」

 

 

 

 

 

 空気さんが死んだ。ストレア含め、全員の表情が凍り付く。

 

 前言撤回、不発弾はこっちの方だった。

 マジでふざけんなよお前。こっからどうやって会話繋げろと?

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

 思ったよりも、その言葉はすんなり口から出た。

 自分で思っていた以上にこの事実を重荷に感じていたのだろうか。

 

 

「──それが、あなたが会議の前に言いかけたことなの」

 

「…………そうだ。言い出せなくて、ごめん」

 

「そう」

 

 

 アスナがどんな表情でこの声を出しているのか、見れない。

 きっと失望したことだろう。会議に誘った人間が、彼女の絶望を生み出した張本人なのだから。

 

 

「……その…アタシはね?ホルンから聞いてたから知ってた…ケド」

 

「そっか…そうだよな。黙っててくれたのに、ごめん。もういいんだ」

 

「そ、そっか!わかったよ!…でも、あまり広めない方がいい、よね…?」

 

「きみに任せるよ……俺は、キバオウの言ったような、卑怯者だから。糾弾されて当然なんだ」

 

「え…っと」

 

 

 ストレアも困っている。折角彼女が会話をできる流れを作ってくれたのに、俺のエゴでそれを台無しにした。申し訳なく思う。

 

 

「…………なんで、この空気でゲロっちゃうんだよ」

 

「……悪い、ホルン。俺なりにケジメをつけなきゃいけないって、思ったんだ…」

 

「…やり方、もうちょっと考えない……?」

 

「…………ごめん」

 

 

 ホルンにも悪いことをした。折角庇ってくれたのに…俺はこの秘密に耐えられなかった。

 俺は大勢の前でお前が啖呵を切ったような、立派な奴じゃないんだ。そんな奴にはなれなかったんだ。

 本当に、情けない。

 

 部屋が再び静まり返る。壁掛け時計の刻む秒針の音だけがやたらとよく響く。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「……えっと、みんなその…飲み物、取ってこよっか…?」

 

「……別にいい」「僕もいいや」

 

「そっか…キリトは?」

 

「……俺も大丈夫だ」

 

「だ、だよねー。あはは……」

 

 

 ストレアが何とか場の空気を持たせようとしてくれている。俺のせいで悪くなった空気だというのに、相変わらず俺は何もできなくて。

 煮るなり焼くなり好きにしてくれとでも言えれば何か変わったのだろうか、と。そう考えた時。

 

 

「──風呂」

 

「え?」

 

「…………キリト、風呂借りていい?前にストレアが言ってたし、あるんだろ。この宿」

 

「ある…けど。なんで風呂…」

 

「いや、その…気分転換?ほら、ずっと陰気な空気吸ってるわけにもいかないし。お前の大暴投で気まずいし」

 

 

 多分気を遣おうとしてくれたんだろうが、ホルンもかなり焦っている。後半普通に煽られた。ホルンらしいと言えばそうなのだが。

 

 そして彼の言葉に触発されてか、アスナが小さく反応を示す。

 

 

「…………お風呂、あるの…?」

 

「え?あぁ…うん」

 

「私もお風呂、使わせて。……気持ちの整理もしたいし」

 

 

 ……そうだよな。あんないきなり言われてはい、そうですかと納得しろというのも無理な話だ。

 

 

「…………そのくらいでいいなら」

 

「……ありがと」

 

「アスナとストレア、先いーよ。僕シャワー派だし」

 

「ほんと!?いいの!?」

 

「うるさっ…所有権主張するくらい入りたがってたし、それくらい譲るっての」

 

 

 ストレアはともかくアスナにまで譲るのは正直意外……いや、思い返せばクラインの処理が遅くて猪に襲われてた時も、めちゃくちゃ罵倒してたのに終わったらコロッと許してたし、元々こう言う奴なのかもしれない。

 割り切るのが早いタイプなんだろう。

 

 少し、羨ましい。

 

 

「じゃあアスナ、一緒に入ろ♪」

 

「「え‶」」

 

 

 唐突に放たれたストレアの言葉にアスナ…と何故かホルンが反応した。

 なんだろうか。アスナはともかくホルンまで目に見えて動揺している。

 

 

「え、いや…順番でいいじゃん……?」

 

「そ、そうよ。なにも一緒じゃなくたって」

 

 

 先ほどまでの険悪な空気は何だったのか、二人揃ってストレアの説得にかかる。

 が、アイボリーの少女はそんな二人に構うことなくアスナの手を掴むと、脱衣所の方にすたすたと歩いて行ってしまった。決して重装備ではないとはいえ、アスナを引きずって全く体幹がブレてない。相当STR値に回してるんだろう、とどこか現実逃避気味な考えが浮かぶ。

 

 

「まぁまぁ。いいからいいから♪」

 

「何もよくないが???」

 

「ちょっと待って。私普通にお風呂は一人で…あ!力強っ!?」

 

「じゃあホルン、アタシたちお風呂でガールズトークしてくるから!」

 

 

 彼女はそう言いつつ、何故かこちらに向けてウィンクをした。……やっぱり、気を使われているのだろう。

 そんなこちらの胸中をよそに、二人の姿が脱衣所の中に消える。ばたん、と音を立てて締まるドアが、この宿に集まった男女を完全に分かつ。

 残された俺たち二人はストレアの行動力にただただ呆然としていた。

 

 

 

 

「嘘だろ……どっちか一人くらい残れよ…超気まずいんだけど…………」

 

 

 

 

 ホルンが何やら小声で言っているような気がするが、よく聞こえない。

 しかし正直助かった。こう、妹と母以外の異性との接点が少なかったせいで微妙に居心地が悪かったのだ。……半分くらい、自分の言動が原因なのだが。

 

 

 

 

「……その、なに?こっちもする?ボーイズトーク」

 

 

 

 

 沈黙に耐えかねてか、ホルンがそう零した。彼の相棒と同じような調子で。……笑みがかなりひきつっていたが。

 言動が似合わないことと表情の絶妙なハマり具合に、笑いそうになるのを堪えつつ、頷く。

 

 

 いい加減俺も、ちゃんと彼に向き合うべき時が来たのだろう。

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

(……どうしてこうなったのかしら)

 

 

「~♪」

 

 

 目の前で楽し気に風呂場の内装確認をしている少女を見つつ、アスナはうまく呑み込めなかった状況を消化しようとしていた。

 

 あの小さなドラマの生まれた会議の後、マップデータだけ受け取って帰ろうとしたアスナを呼び止めたのがあの片手剣使い…キリトだった。

 

 「話したいことがある」という、ひどくありふれた話掛け方。

 小学校の頃に受けた名前も知らない男子の告白と同じ入り方だったせいで警戒したが、彼の沈み切った表情を見て、何故か首肯していた。

 そして先ほどのやり取り。ある意味、告白ではあった。少年の罪の意識のものではあったが。

 

 正直な話、あのホルンという少年がやってきた段階で「ああ、やはり」とも思ったのだ。

 会議中、キリトはずっと俯いていた。ずっと後ろめたそうに声を押し殺して。それに迷宮で出会った時の彼は、どこか……私に誰かの姿を重ねるように手を差し伸べてきたから。

 そこに呼び出されてやって来た知己の少年。あの手負いの獣のように誰彼構わず噛み付く少年が、キリトに話しかける時は大人しかったのもあって殆ど確信していたと言っていい。

 

 複雑な思いがないとは言えない。何故彼だけなんだ、とか。何を今更、と口に出しそうになりもした。しかし不思議と、言葉にすることはなかった。

 どうして何も言えなかったのだろうか。

 

 そして何より…どうしてそんな空気で他人の宿の風呂を借りると決めてしまったのか。

 

 ホルンの口から唐突に風呂の二文字が聞こえた瞬間、私の頭に浮かんだのは「どうやったら借りれるか」という酷く単純な欲望だった。

 現実世界ではそれこそ頻繁に浴槽に飛び込んでいた。冷え切った生家の空気の中、あの空間だけがアスナ(明日奈)の心休まる数少ない場所だったのだ。

 SAOに来てから1ヶ月、それが急に失われた。

 

 安らぎを失った自分が生還の絶望的な状況と、確定した母や父の期待するエリートコースからの転落という、目を逸らせなくなった事実に自棄を起こすのは時間のかからぬことだった。

 燃え尽きるまで生きて死ぬつもりでいた。……先ほどまでは。

 

 少年の言葉に便乗するように風呂を借りる流れを掴んだ。宿の本来の主であるキリトの罪悪感に付け込むような形になったのは、少々申し訳なく思うが。

 それでも風呂の魔力には勝てなかったのだ。

 

 そして今、脱衣所でストレアというらしい少女と隣り合って《装備全解除》を押して武器や防具を外した途端、急に冷静さが戻ってきた。

 今日初めて会った少年の言葉に従って宿に向かい、そこで今日初めて知り合った人たちと一悶着し、そのまま何故か風呂を借り、今日初めて知り合った少女と入浴準備中。

 情報量が多すぎて思考がフリーズしかける。何をやっているのだろうか。

 

 今日の自身の行動に整合性が見つからない。迷宮区に籠もって戦い続けたせいで寝不足なのは分かるが、それにしたって判断力の欠如が酷い。どうして人生以外でもレールを踏み外しているのだ、と自嘲したい程度に暴走していた。

 

 

「アスナアスナ、このお風呂凄いよ!マーライオンみたいなの付いてる!」

 

「……見ればわかるわ」

 

 

 こちらと違って、彼女は悩みとか無さそうでいいな、と失礼な感想が浮かぶ。

 大人びた容姿をしているだけで同年代くらいだろうか、と推測していたが、風呂の内装一つでここまではしゃぐ姿はそれに見合った感じがしない。相方の少年が10代特有の自尊心を見え隠れさせる気難しそうな少年なのも相まってか、彼女の純粋無垢な雰囲気はより顕著に見える。よくあれで仲良くできるものだ。

 

 と、勝手に値踏みされているとは知らずか、少女は鼻歌を歌いながら右手を振ってメニュー操作。《装備全解除》に続き、《衣服全解除》と《下着全解除》を……。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!?」

 

「ん?どうかした?」

 

「どうかしたじゃないわよ!なんで躊躇なく全部脱げるの!?」

 

 

 一瞬にして目の前で裸体へと変わる少女の姿。シミ一つない白磁器のようにすべらかな肌や、こちらのものより一回り程大きそうなものが露わになり、思わず声が出た。

 羞恥心とかないのだろうか。いや、それ以前に危機意識か。こちらが同性とはいえ、会って間もない相手の前で警戒心が無さ過ぎる。もう少し自分の身を気に掛けるべきだと思うのだが。

 肝心の少女は不思議そうに小首を傾げ、こちらの態度の急変に何やらズレた解釈をしたようだ。

 

 

「……?なんで?アスナしか居ないじゃん。あ、もしかしてあっちの二人のこと気にしてる?大丈夫だよ!ホルンこういう時ちゃんとしてる子だから。鍵かかってないからって覗きになんて来ないよ~」

 

「そういう話じゃないんだけど!」

 

「???ごめん、ちょっとわかんないや。とりあえずお風呂入ろ!お風呂♪」

 

 

 生まれたままの姿だというのに微塵も気にした様子がない。どういう環境で過ごしたらこうなるのか。

 ……てっきりホルンの言動に振り回される側なのかと思っていたが、むしろ彼を振り回している側なのかもしれない。この行動力で日常的に近くに居られたら色々耐えられないだろう。ストレスのせいで口が悪い可能性が見えてきた。

 少しだけ…本当に、少しだけ。彼に同情した。

 とりあえずだ。風呂好き的にはいきなり入浴しようとするのはいただけない。

 

 

「先に身体、洗って。その、垢とかなくても…気分的に」

 

 

 ちょっと言い方がきつかっただろうか。ほとんど初対面の相手なんだし、もう少し愛想よく振る舞った方が良かったか。

 口にしてしまってから後悔が募るが、彼女は一瞬呆けてから再び笑顔を咲かせた。

 

 

「──そっか。そうだよね…わかったよ。じゃあ洗いっこしよ!アタシがアスナの背中洗うから、あとでアタシの背中お願い♪」

 

「……はぁ、わかったわ。じゃあその…お願いして良い?ストレア、さん」

 

「まっかせて♪」

 

 

 そう応え、彼女が浴室内の棚からスポンジと石鹸を取り出そうと背を向けた隙に、素早く残りのメニュー操作を済ませてこちらも服を脱ぎ捨てる。

 SAOの気候設定は現実世界と同期しているらしく、12月に差し掛かった今の時期は空気が冷え込んでいた。

 素肌を撫でる冷たい空気に身震いしつつ、一応、気分的に。秘所を隠しつつ浴室へと乗り込む。ゲームの中の仮想の身体であろうと、一端の女学生として過ごしてきた自分に彼女ほど堂々と裸身を晒す度胸はなかった。

 

 

「そこのイスに座ってね~」

 

「ええ」

 

 

 本当に、どうしてこうなったのだろうか。

 幼き日、浴槽で溺れないようにと母や使用人に世話されたことはあったが、同年代の誰かと共に入浴した経験は皆無だ。緊張の為か、口調が硬くなるのを抑えられない。

 こちらのぶっきらぼうな返答を気にもせず、ストレアが風呂桶を手に取る。壁面上部からバスタブに向けて、透明な湯を流し込み続ける獣の頭部を模した吐湯口……彼女の言う、マーライオンみたいなの、から流れ出る湯を汲むつもりらしい。

 

 

「お湯かけるよ~」

 

「お願い、します?」

 

 

 なみなみと風呂桶を満たした湯がそっと、頭からかけられる。一瞬警戒したが、冷えた身体をじんわりと温めながら流れ落ちていく湯に思わず息が漏れる。

 ふと、浴室内に桃のような甘い匂いが香った気がして、肩越しに後ろに居る少女の方を見やる。鼻歌を歌いながらスポンジを泡立てる少女の手元からそれが漂っているように感じる。農家の家を一部間借りしているような形の宿だし、ソープ類に果汁を含ませてあるのかもしれない……と少し回るようになってきた思考がこの住居に対する考察を始めそうになった。

 

 

「そろそろスポンジ使うよ。かゆいところあったら教えてね。髪は…前の方で持っててもらっていい?」

 

「えっと、はい」

 

 

 しかしそんな無為な思考も、実際にストレアの手で自身の肌に触れられた瞬間、緊張で消し飛んでしまった。一言かけてから洗ってくれたおかげで声が出たりすることはなかったが、本当にワンテンポしか挟まずに行動してくるので心臓に悪い。

 再び暴走しかける自身の心を落ち着けるべく目を閉じ、軽く息を吐く。

 甘く香る果実の香りと、優しく肩や背中を擦ってくるスポンジの感触を堪能していると、知らず入っていた肩の力が抜けていく感じがした。

 

 ……案外、悪くない、かも。

 

 一時はどうなるかと思ったストレアとの入浴だが、今のところはアスナの想定した以上に心休まる雰囲気だ。

 距離感の詰め方はともかく、彼女はかなり気遣いの出来るタイプなのだろう。行動を変える際は一言かけてくれるし、スポンジ越しの力加減も非常に心地いい。気負われている、というよりは、非常に大切にされている感じがする。

 

 

「~♪アスナの肌綺麗だね~。瑞々しいし、もちもちしてて張りもある♪」

 

 

 褒めてくれてるのは分かるが、もちもちしている、はちょっと乙女の自尊心的に受け入れがたい評価だった。

 自然と、唇を尖らせるようにして苦情がこぼれ出る。

 

 

「……別に、太ってはない、と思うんですけど」

 

「?うん、全然太ってないよ?むしろアスナはもうちょっとお肉あってもいいと思うなぁ。ちょっと腕とか腰とか細すぎるし」

 

「ひゃあっ!?」

 

 

 急に足の方へスポンジを持った手が伸び、体勢が変わる。

 今まで腕の分空いていた空間がいきなりゼロになり、彼女の非常に女性的な肉体がじかに接触してくる。背中越しにぐにゅりと、急に存在感のあるものが押し付けられたせいで心拍数が跳ね上がり、顔が熱を持ち始めた。

 同性相手だからといって恥じらいが無さ過ぎではなかろうか。唐突にこちらの想定した距離感を踏み越えてくるのは勘弁してほしい。

 

 

「も、もう!私はもういいですから!……次、ストレアさんの番よ」

 

「そう?ならお願いするね!」

 

 

 本音を言えばもう少し彼女の洗体を堪能したい気持ちがありはしたが、あの調子でぐいぐい来られたら先にのぼせ上がる。

 やや強引に切り上げたが不審に思うことなく納得してくれた。本当に警戒心が薄い少女だ。

 

 今度は彼女が椅子に座ってこちらに背を向ける。そうしてスポンジを握り…一瞬、同性ながらその肢体に思わずアスナは息をのんだ。

 浴室内の空気で僅かに火照った為か、薄く朱が差した色素の薄い肌。軽く水を吸いつつもウェーブの失われていない、柔らかなアイボリーホワイトの髪。そして軽く閉じた腕の隙間からも存在感が隠せていない双丘。

 自身の容姿も決して悪くないという自負があったが、彼女の肉体をまじまじと見ていると何故だか負けているような気がしてくる。

 

 そんな穏やかでない心中を悟らせぬよう、できるだけ彼女と同じように優しく語りかけ、意を決して背中から洗体に取り掛かる。

 そしてまた、格の違いを感じたような気がした。

 

 

(うっ…洗っててほとんどスポンジに抵抗を感じない…すべすべしてる。スキンケア教えてくれないかな……)

 

「~~~、なんだろう…結構癖になるねこれ」

 

(髪も、毛先までしっかりしてる。枝毛無さそう)

 

「……?アスナ?」

 

(身体もスラっとしてるのにしっかりその、出るとこが……いいなぁ)

 

「アスナどうかした?さっきからぼーっとしてる気がしたけど、のぼせちゃった?」

 

 

 ちょっとじろじろ見過ぎたかもしれない。

 流石に貴女の身体に見惚れてました、なんて言うわけにもいかず、何とか誤魔化す。

 

 

「だ、大丈夫!ちょっとその、疲れが出ちゃっただけだろうから」

 

「……そっか。じゃあ、お風呂でゆっくりリフレッシュしないとね」

 

「ええ…そうね。泡、流すから」

 

「はーい♪」

 

 

 うまく信じてくれたようで安心する。

 しかし本当に不思議な雰囲気をしている人だ。あれこれ世話を焼いてくれている時は年上のような安心感があるのに、ふとした拍子にこの人懐こい幼子のような雰囲気に戻る。大分失礼な表現だが大きな幼女とでも言えばいいのだろうか。

 ただでさえ少ない友人の誰とも雰囲気が似通らないから距離感に苦労する、と内心でため息をつきつつ、風呂桶で彼女の身体にまとわりついた泡を流す。

 

 

「ん~、さっぱりしたぁ♪ありがとね、アスナ」

 

「……それならよかった」

 

「ではさっそく…とーう!!」

 

「え、ちょっと」

 

 

──ドバシャーン!

──ゴンッ

 

 

 待って、と止める間もなく。ストレアが勢いよく浴槽へ飛び込む。吐湯口から文字通り溢れるほど注がれ続けていた湯が、彼女の飛び込みに合わせてより激しく溢れ出す。

 と、同時に、何かが底面にぶつかるような音が。

 

 

「~~~!!?!?」

 

「…………ふ、ふふっ……!…その…大丈夫?」

 

「もうちょっと深いと思ったんだけどなぁ…お尻打っちゃった……」

 

 

 それはそうだろう、と思うが、零れ出そうになる笑い声を抑える方が優先。なんとか口を抑えきり、淑女の体裁を守り切ることに成功した。

 

 

「でもこれ、楽しいよ!ほらアスナもやろ♪」

 

「え?いやその…流石に」

 

 

 そういう歳ではない、と言いかけて。視線の先から何かを期待するように楽し気に待っている、紅玉色の瞳と目が合って。

 

 ……そうだ、ほぼ知らない少年の宿で寛いでるんだ。初めて会った人の前で裸になってるんだ。今更取り繕ってどうする。

 

 何よりちょっと…こういうお行儀の悪いことをやってみたいという欲求があって。

 気づけばアスナも。

 

 

「えいっ!」

 

 

──ドバシャーン!

──ゴンッ

 

 

「~~~~~!!」

 

「あははは!アスナもお尻打っちゃった!」

 

 

 痛み、ではないのだろう。今現実世界の自分の頭につけられたナーヴギアが、そういった刺激の類いは取り去ってくれている。

 頭では理解していても、この臀部から頭の先まで抜けていく衝撃と痺れのようなものは、ちょっと慣れなくて。思わず唇を引き結んで耐え凌ぐ。

 醜態だ、乙女の尊厳とかどこにもない。ないのだが。

 

 

「~~~ッ、…………ふふっ…確かに、楽しいかも」

 

「でしょ!」

 

 

 窮屈な優等生の『明日奈』を続けていたら出来なかったであろうこの経験が、妙に心地よくて。

 何より。

 

 今までの人生で一番、生きているんだと、感じられて。

 

 

 

 

「「はぁぁ……」」

 

 

 遅れて、全身を包み込むぬくもりに、二人の少女が息をつく。

 現実世界のものと比べると僅かに違和感こそあるが、この温度、この水圧、この水面の反射光はお湯と言って差し支えない。

 至福の時間だ。

 ……欲を言うなら、体操座りなんかしないで、浴槽一杯に足を延ばして入浴したかった。

 しかしそれも、本を正せば彼女の相棒がこのチャンスをくれたわけで。おこぼれを預かっただけの自分が贅沢を言うのは違うだろう。

 それに何故だか、彼女と一緒に居ると少し気持ちが楽になる感じがする。

 

 

「いいお湯だねぇ」

 

「そうねぇ…」

 

「ガールズトーク…もうちょっと後にしよっか……」

 

「そうしましょう……」

 

 

 今はただ、この時間を堪能したい。

 自然と二人の想いが重なった。

 

 

「「はふぁ…………」」

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

「はぁぁ……」

 

「…………」

 

 

 ドア越しに僅かに聞こえる女子勢の華やかな交流と、こちらの陰キャ二名の空気の落差に思わずため息が出る。

 暖炉の中で薪が時折爆ぜる、パチッ、という音ぐらいしか聞こえないまま、約10分が経過していた。

 

 ……想定が甘かった。いや、ある意味で正解ではあったが。

 

 こう、終わった空気を少しでもマシにするために、ひとまずキリトを宥める方向で動こうと決めて。女子勢をどうするか悩んだ時にふと、奥の方に【Bathroom】と書かれた如何にもなプレートの下がっているドアを見つけ、天啓を得た気分になったのだ。

 

 そうだ、なんとかこの荒んだ赤ずきんを隔離しよう、と。

 

 ホルンに女子との交流はほぼない。会話したことのある同年代の異性自体少なく、5年以上会ってない幼馴染が唯一まともな女子の知り合いという有り様だ。

 これを除くと小中学時代にこちらに陰口を叩いたりしていた同級生たちか、なんの縁かパーティーを組んでるストーキングメスゴリラ*2ことストレアだけ。必然的に、ホルンのイメージする女子像はサンプル不足と偏見により歪んだイメージになる。

 だからこそ、どこぞの青い狸のいる世界のヒロインのように、女子とは風呂好きなのではないかという偏見があった。

 

 やや無理のある会話の切り出し方になったが、作戦はうまくいった。風呂の二文字を聞いた途端、赤ずきんことアスナの態度が急変したのだ。

 この瞬間、ホルンは勝利を確信した。勝ったな風呂入ってこいと内心ほくそ笑んだものである。

 あとは順番を譲り彼女が風呂を堪能している間に、ストーカーのくせにやたら場の空気を読んで行動してくれるストレアと一緒にキリトのメンタルケアを済ませるだけ……そう思っていた。

 

 誤算だったのは時折りバグるストレアの読解力だ。

 アスナの次にでも、と女子二人を一括りにして順番を譲ったのだが、何を考えてかストレアはそのままアスナと共に脱衣所へと消えていった。

 いや、確かに「アスナとストレア」とは言ったけどさ?そういう意味で言ったわけじゃないんだが?と口にできない程度にホルンは疲弊していた。

 キバオウとの煽り合いに続き、再会した知り合いが駅のホームからダイブしそうな勢いで消沈しているという、負の方向に突き抜けた極限状況が立て続けに舞い込んできてホルンの精神と気力を削りに削っていた。

 

 結果として、擦り切れる寸前のようなメンタルのキリトとサシで話し合う空気になってしまった。胃がキリキリする。キリトだけに。

 なんでこうなった、と思いつつ、意を決して話しかける。

 

 

「……その、さ。話あるって言ってたじゃん?僕に何言いたかったのさ」

 

「…………ごめん。うまく、まとまらないんだ……」

 

「ああうん…わかる……。僕らコミュ障にはキツいよね…いい感じに言うって奴」

 

「あぁ…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 会話が途切れた。消しカス集めて作った紐より儚かったな……。

 

 

「まぁ、あれだよ。お互い色々あったみたいだしさ、言いたいことまとまらないのもしょーがないって言うか」

 

「…………」

 

「僕もストレアに色々引きずり回されたりしてさ…あの、ほら。東門方面に森あったじゃん?僕あっちの方に行ったんだ。そこでちょっと色々あって、ストレアと組むことになって」

 

「……隠れ村、使ったんだな」

 

「隠れ村?」

 

「…………森の中の、安全地帯(セーフティーエリア)。あったろ?……馬と老人と子供のNPCしか居ないとこ」

 

 

 ここでスッと情報出てくる辺り、βテストの頃からあったのかあの村。ということは多分、あのフレーバーテキストもその頃から変わってないのだろう。

 少し複雑な気分だが、今はキリトとの対話が優先か。脱線しそうになった思考を戻すべく頷き、キリトに続きを促す。

 

 

「あったね。なんならそこで一晩過ごしたよ」

 

「…………ストレアは馬車クエにホルンのこと誘ったんだな。あれ、いい景色だよな。……時間かかるから、そこは悩むけど」

 

「まぁ、悪くない景色だったね。立ち寄った村のクエスト消化するのがちょっと疲れたけど」

 

「……?全部やったのか…?」

 

 

 なんでそこに疑問持たれるんだ。そういうものなんじゃないのか?

 いや待て、思い出せ。なんか辿り着いた村のクエスト、全部ストレアが笑顔で持ってきていたような──

 

 

「…………その言い方的に、無視して良いクエストあった感じ?」

 

「…………あれ、馬車の旅と村のクエ全く関係ないはずなんだけど。……馬車乗って寝てるだけでも《トールバーナ》まで来てくれたはずだぞ」

 

「あとでいっぺん〆るかアイツ」

 

 

 これも旅の醍醐味とか言って何でもかんでも持ってきやがってマジ絶許。絶対やらない方が負担少ないクエストあったろ。バカでかい牛の奴とか。報酬もヨーグルト風味のクリームとか舐めてるとしか思えない。

 

 

「……大変だったろ」

 

「……まぁ、クラインへの土産話には事欠かなかったから。そこだけは評価する。レベリング効率とかは多分キリト的にもダメな部類なんだろうけど」

 

「…………そう、だよな」

 

 

 なんかまた会話が途切れそうな雰囲気になってきた。

 どうしようか。ボキャ貧に会話の切り出し口何個も用意できないんだが。

 

 うんうんと唸りつつ悩んでいると、今度はキリトの方から切り出してきた。

 

 

「……レベル、ホルンは…今どのくらいなんだ…?」

 

「え?僕は…今、9かな。経験値的に明日すぐに10になると思う」

 

「…………そっか。安全マージン取るなら、11目指すといい…と思う。その、βの時より危ないから。レベルはあって損ないし」

 

「階層数+10くらいがいいってこと?」

 

「多分な…。βの時なら、+5もあればよかったんだけど」

 

 

 ゲームに直接関係する話題になると口数増えるのは前と変わらず、か。

 ついでに言うなら、メンタルやられかけの状態でもこっちを気にするお人好しも健在のようだ。なんだかんだキリトはあの時と変わってないらしい。それが少し、嬉しく思う。

 

 

「なるほど。わかった、頑張るよ」

 

「ああ……」

 

「しっかし、キリトは11かぁ。やっぱ強いね。僕なんかストレアの介護ありきでようやくこのレベルなのに」

 

「……………………そんなことないさ」

 

 

 なんか急に返答に間ができたんだが。空気が不穏だ。いやほんと、地雷踏む要素あった?

 

 

「効率のいい狩場さえ抑えられれば、誰だってこのくらいできる。キバオウの言ってた通りだよ…俺のこのレベルは、利己的な振る舞いの結果でしかない」

 

「キリト…?」

 

「お前がストレアと協力して必死にレベル上げしてる間も、俺は誰の為でもなく作業でレベル上げをしてたんだ。……コツさえ伝えれば、お前や…クラインだって、同じことができたはずなのに……俺は何もお前らにさえ、何も言わなかったんだ…!」

 

「もしもしキリト?こっちの声聞こえてる?」

 

「俺があの日、お前とクラインを見捨てていなければ……!お前らも同じレベルまで来れてたはずなのに…………!!俺は……」

 

 

 あかん、ダメな方向に向けてアクセル踏みこんでやがる。下り坂でアクセルベタ踏みする最悪のタイプの落ち込み方してる。

 これどうしよう。ディアベル今すぐここ来てくれん?ガス抜き必要なのは非βテスターだけじゃない感じなんだけど。

 

 

 

 

「俺は…どうしたらよかったんだ…………」

 

 

 僕も知りたいわ。なんでこんな終わってる空気になったんだよ。

*1
ストレアチェック済み

*2
「ストーキング」とキングゴリラのメスバージョン的な意味での「キングメスゴリラ」のダブルミーニング




ホルン:どうしたらいいんだ(震え声)

キリト:どうしたらよかったんだ(絶望)

ストレア:多分どうにかしてくれるでしょ(謎の信頼)

アスナ:どうしてこうなったのかしら(判断力低下)



2025/02/26追記 秋ウサギニキ誤字報告感謝ですわ~
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