VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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レートで10連敗したので初投稿です。


Sフラットありますねぇ!からの転落酷すぎて吐きそうになりました。箱部屋にしか居なかったであろう腕前終わってる連中が大量にレートに沸くの辛すぎる。
拡張施設は悪、はっきしわかんだね。


今回も会話多めです。筆の重かった気まずい会話シーン終わって嬉しい…。


『ボーイミーツボーイ、ガールミーツガール』 2/2

────、───

 

 

 

 

 ……お母さんの子守歌、久しぶりに聞いた気がする。

 最後に聞かせてくれたの、いつだったかな。

 

 

 

 

────?──ナ

 

 

 

 

 あったかくて、ふわふわして。

 意識が途切れる間際に聞こえる『おやすみ明日奈』って声が好きで。

 

 

 

 

──スナ。──ナ!

 

 

 

 

 また明日も頑張って、褒めてもらいたいって……

 

 

「アスナってば!」

 

「っ、なに?」

 

 

 強めに肩を揺すられ、目が冴えた。目の前に居るのは母ではなかった。心配そうに覗き込んでくる紅玉色の瞳の少女、ストレア。

 そうだ、今居るのは現実世界の生家ではなく、仮想世界のお風呂だった。

 眠りかけたせいか、のぼせたのか、それとも疲れが隠せなくなってきたか。妙に感じる気だるさを頭を振って遠ざけ、湯に沈みかけてた身体を起こす。

 

 

「もー。お風呂で寝ちゃ危ないよ」

 

「ちょっと、うとうとしちゃって」

 

「気を付けた方がいいよ。圏内だから溺れてもHPは減らないけど、ナーヴギア越しに脳にエラーが集中するかもだから」

 

 

 圏外だったらHPが減って普通に死ぬのね、と微妙に冷めた感想を抱きつつ、一旦は彼女に頷き返して謝意を示す。

 目の前でこちらが意識を失ったせいか、彼女もどこか心配そうだ。随分と気にかけてくれている。

 

 

「アタシとのお喋り、退屈だった?」

 

「そういうわけじゃないの!……ごめんなさい、その、大きな声出して。実は最近…あまり寝てなくて」

 

「どれくらい?」

 

「…………3日、くらい」

 

「みっかぁ!!?」

 

 

 先ほどまで穏やかに話しかけてきた少女とは思えない大声で驚かれた。身じろぎに合わせて水面が激しく揺れる。

 ……水面以外にも同じくらい揺れたものがあったが、そちらからは努めて目を逸らした。

 

 

「お風呂入ってる場合じゃなくない…?寝た方がいいよ絶対」

 

「……眠れなくて。お風呂で気分転換したかったの」

 

 

 自分でも異常なことくらい自覚がある。痛覚などはナーヴギアの抑制措置があるし、食欲もある程度までは意志力で無視できた。

 しかし睡眠欲に関しては違う。今この世界で『アスナ』の体験した出来事を『明日奈』の脳で処理しているのだから、当然それに見合った休養を脳が要求してくる。

 

 それを頭では理解していてものの、心の内に燻る焦燥感が3時間と経たずに意識を覚醒させる。たかがゲームで人生に(つまづ)いた自身に失望する両親、嘲笑う同級生、哀れむ親戚たちの姿が脳裏に浮かぶ気がして。今も病室で動けない自身に、そんな視線を向けられている気がして。

 不安感を振り払うため、そんな自身の内から湧き出る弱音に負けないため、無心で剣を振るい続けた。まともな精神状態で3日も迷宮区に籠もるなどしない。

 

 

「──悩み事ありそうだね。アタシに聞かせてくれない?」

 

「え?いや、でも」

 

「声にしてる内に悩みが無くなるなんてよくあるじゃん。それに、自分一人でずっと抱え込むより誰かに話しちゃった方が気が楽だよ。……アスナが辛そうにしてるの、アタシ嫌だな。だから聞かせてほしい」

 

 

 ……ズルい言い方だ。こちらを気遣ってるだけなら断わりようもあったが、自分が嫌だからと言われてしまうとこっちも拒否しづらい。

 

 

「…………じゃあ、聞いてくれる?」

 

「うん♪」

 

 

 それから、ぽつぽつと。ストレアの相槌に合わせながら、こちらの心の内を話していった。

 

 

 

 

 現実世界に戻れないことが怖いこと、そこで失望されるのが嫌なこと。

 

 

 

 

 死ぬつもりで迷宮区に行ったこと、そこでキリトに出会ったこと。

 

 

 

 

 平時のものより拙く、要領を得ない喋り方になったように感じていたが。ストレアはそんなことを気にした様子もなく、穏やかながら真剣な表情で聞いてくれた。

 いつの間にか、口を開くことへの抵抗は薄まっていて。

 

 

「……解ってたつもりだった。βテスターの人たちも、私と同じ人間なんて。同じように苦しんだりしてるはずなんだって…」

 

「アスナ……」

 

「でも実際は、あなたの相棒に言われるまで、ただ…見捨てられたようで、恨めしくて……。そんな相手があんな……私はどうしたいのか、解らないの」

 

 

 私がキリトに向けている感情とはいったい何なのだろうか。

 

 最初は、自殺願望めいた行動を邪魔された怒りだった。

 次は、心配するようにアドバイスをしてきたのに、助けた理由については論理と効率から尤もらしいことを言ってのけたことへの困惑。

 その次は、ただの黒パンを田舎風ケーキのように変えたクリームへの驚き。

 そして会議、同じようにこの世界で足掻いて戦っている人たちが居るということを教えてくれたことへの希望。

 

 最後に、先ほどのやり取り。

 私が抱いたものは、ホルンがあれだけ信頼していた剣士が、自分の隣で縮こまって俯いていた少年だったことへの…失望、なのだろうか。

 そんな資格が、誰も助けようとせず、生きることも諦めて一人で死地に赴いただけの私にあるはずもないのに。

 

 口をつぐんで黙り込んだこちらを気遣うように、ストレアが優しく声をかけてくる。

 

 

「アスナはさ。キリトと仲直り、したい?」

 

「……直るほど、仲は深めてないと思う」

 

「そうじゃなくて。キリトと今のままでいいって、アスナはそう思ってるの?」

 

 

 言葉に詰まる。

 少なくとも、善良な人間だとは感じる。あんな不愛想に振る舞ったのに、自分なら好き好んで助けようとは思わない言動を取ってしまったのに、それでも彼は手を差し伸べてくれた。優しい少年だ。

 次いで不器用だとも思う。ホルンも敢えて明言しないでいた以上、黙っていれば追及されることもなかったであろう自身の出自。デメリットしかないにもかかわらず、打ち明けてくれた。誠実であろうとしてくれたのは痛いほど伝わってきた。

 そんな相手を、言葉にはしなくとも、態度で傷つけてしまった。

 

 ……なんとなく、嫌だ。

 

 

「…………許してくれる、かな」

 

「大丈夫だよ。だってキリト、あのホルンが自慢げに話すくらいいい子だよ?」

 

 

 言い方が酷くないだろうか。自分のパートナーがどう思われてるのか分かってないとできないこき下ろし方なのだが。

 ……だが確かに説得力に溢れた表現だ。あの人嫌いの激しそうな少年が認めるくらい善良なら、許してくれそうな気がしてくる。思わず少しだけ笑ってしまった。

 

 現金なことに、その言葉に勇気づけられて、私は首を縦に振った。

 それを見て、ストレアは満足げな表情で勢いよく立ち上がった。

 

 

「よし!アスナがキリトと仲直りできるよう、アタシが一肌脱ぐよ!」

 

「……今、一肌どころでなく脱いでるから説得力凄いわね」

 

 

 頼もしいような、少しは恥じらいを持ってほしいような。何とも複雑な思いからそんな言葉が出た。

 不思議そうに首を傾げてないで服に着替えてほしい。目のやり場に困る。

 

 

 

 そうしてひとまずの方針を決めた私たちは、軽く身だしなみを整えたのち、何故か脱衣所のドアの前で息を潜めていた。

 

 

「大丈夫なのかな……」

 

「大丈夫だいじょーぶ♪こんなこともあろうかと、キリトが本音で話しやすいようにホルンと二人きりの状況作っておいたんだから」

 

「あなたの相棒じゃなくて、そっちの方を気遣ってたの…?」

 

「そうだよ。……まぁその、アスナ居ない状況の方がホルンも話しやすそうだなぁ、とは思ったけど。ほら、ホルンって結構人見知りするし」

 

「人見知りであんなに噛み付かれたらキバオウさんも堪ったものじゃないと思うのだけど」

 

 

 そう聞き返すと、気まずそうに顔を逸らされた。流石に彼女もどうかと思ってはいるようだ。

 頼んだ身で言うのもあれだが大丈夫なのだろうか。キリトはともかくホルンの方、ヒートアップすると会議のような暴れっっぷりになるタイプだろう。不安要素しかない。

 覚悟を決めるように息を吐き、ドアノブに手をかける。

 

 

 

『同じじゃないだろ!!』

 

 

 

 直後、ドアの向こうから響いたのはホルンではなくキリトの声だった。

 隣のストレアを見る。彼女にしても予想外のようで表情が硬い。

 

 

「……アスナ。アタシの近くに寄って」

 

「何する気?」

 

「《隠蔽》でアタシたちの気配を消しながら様子見。ちょっと、嫌な予感するし」

 

 

 《隠蔽》…多分ゲームのスキルだろう。名前からしてそういうのに向いてそうだ。

 言われたように彼女のそばに寄る。するとストレアのメニュー操作に合わせて半透明の幕のようなものがかかり、周囲の雑音が小さくなった。ソードスキル以外にもこんなものがあるのか、と少し関心してしまう。

 こちらの様子を見てストレアはこちらに声を出すな、と言わんばかりに人差し指を口の前で立てた。どうやらスキルにも限度はあるようだ。慌てて口を塞ぎ、頷き返す。

 

 それを確認し、二人でそっと、脱衣所のドアノブを回す。スキル効果のおかげでノブも蝶番も軋みを立てることなく、極めて静かにドアが開いた。

 息を殺し、できるだけ気配の出ぬよう慎重に、開いたドアの隙間から部屋の内を窺う。

 暖炉の明かりを受け、肩を震わせながら立っているキリトと、疲れたようにソファーに座り込むホルンのシルエットが浮かび上がった。

 

 ……どうしよう。とても謝りに行ける空気じゃない…。

 

 近くのストレアも同じようなことを考えてそうな表情を浮かべており、視線が交わった瞬間。二人そろって頷き合う。

 とりあえず、彼らが落ち着くのを待とう。

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

 ホルンと話してて。この1ヶ月のことを聞かれて。

 一人で《はじまりの街》を出たこと、アニールクエでコペルに裏切られたり見捨てたりしてしまったこと、…アスナを助けようとして、なんの助けにもなれなかったこと。そして会議の最中、声を上げて庇ってくれたのに……ホルンに何も報いれなかったこと。

 謝りたくて、許されたくて。それができないなら、せめて罰してほしかった。

 そんな中彼に言われた言葉。

 

 

『その…何?気にすんなって。僕もキリトも、同じくらい苦労してるってだけだよ、きっと』

 

 

 

 

 耐えきれなかった。

 

 

 

 

「俺には選択できたんだよ!お前とクラインを連れて、《はじまりの街》を出るって答えが!俺はそれを選べなかったんだ!!」

 

「キリト。キリト一旦落ち着けって」

 

「落ち着け!?なんでそんな簡単に言えるんだ!俺は…俺はお前たちを見捨てて逃げたんだぞ!?なんでお前は、そんな風に割り切れるんだよ!!」

 

 

 苦しかった。何故責めてくれないんだと。

 

 

「だから…せめて、攻略の役に立たなくちゃ、いけないって…………なのに、俺はディアベルたちに届かなかった…!」

 

「あっち6人だろ…おひとり様攻略で同じ速度は無理あるって」

 

それでもやらなきゃいけなかったんだよ!!じゃないと俺は…俺は……二人を無意味に、見捨てたことになるじゃないか……

 

 

 悔しかった。βテスターだからと息巻いても、単純な人数効率に追いつけないという事実が。

 

 そして、恐ろしかった。重荷と思って見捨ててしまった彼らに、後ろ指をさされているような気がして。

 こんなことなら助けてくれてもよかったじゃないか。

 フレンドだと信じてたのに。

 そんな言葉が聞こえてくる気がして、攻略を進める足取りは重さを増していった。

 

 

「アスナだって……俺が、俺たちβテスターが。もっとちゃんとしていたら…あんなに思い詰めたりなんかしなかったんだ…………」

 

「……詳しく聞かなかったけど、どういう経緯で会ったわけ?」

 

「…………迷宮区に数日間籠って、戦い続けて。偶然倒れるところを介抱したんだ」

 

「戦闘狂すぎる。いやでも出会い方だけは正統派ボーイミーツガールか…?」

 

「その時言われたんだよ…どうせみんな死ぬ、なんで助けたんだ、余計なことをって…………俺が彼女にしたことは、偽善にすらならなかったんだよ……」

 

「………………ッスー……あの赤ずきん、想像以上に尖ってやがる」

 

 

 空しかった。行動で示そうとしても、その力がないことが。

 

 

 

「アスナそんなこと言っちゃったの!?」

 

「その…つい」

 

 

 

「……なんか聞こえたような」

 

「…………それでアルゴに協力して、攻略本のデータを集めたよ…βテストとの違いがないか気にしながら……でも」

 

「でも…?」

 

「……本当に強い奴は、こんなものすら必要としてなくて…………ホルンだって言ってたろ、メモ帳って……」

 

「…………トドメ刺したの僕かぁ……」

 

 

 辛かった。俺には彼らに報いる機会すらなかった。

 

 

「会議も…本来なら俺たちβテスターが、率先してやるべきだったんだ……見捨ててなんかいないって、行動するべきだった…………」

 

「……」

 

「でも俺には、行動する勇気すらなかったんだ……!誰かがやってくれるだろうって、甘えて!一人で攻略だけしてた!!それすら無意味だった!!」

 

「……キリト」

 

「会議でもそうだ…何も言い返せなかった……必死に、バレないようにって縮こまってただけだ…………俺は、お前が危険を冒して庇ってくれたのに何もできなかった!!」

 

「キリト。もういい」

 

「俺は、お前が言ってくれたような…凄い奴になんてなれなかったんだよ……!!」

 

 

 惨めだった。結局のところ俺は……剣士キリトになんか、なれなくて。

 どこまでも弱くて無力な、桐ヶ谷和人のままで。

 その弱さを認められないまま、彼らに会ってしまった。

 

 一息に言いたいことも言いたくなかったことも吐き切って、力なくずるずると、ソファーへ沈み込む。

 もう涙をこらえることすら億劫だった。

 

 

「これが俺なんだ……こんな弱くて情けないのが俺なんだ…!」

 

「…………」

 

「ごめん……ごめんよ…………!」

 

 

 きっと失望されただろう。呆れられただろう。見損なわれたことだろう。

 これこそが、きっと俺への罰なんだ。

 

 しばらくの間、そうしてどちらも声を上げない時間が続いた。

 その間俺は、ホルンに顔を向けることすらできずに、ずっと俯いていた。

 

 

 

「……キリト、こっち見ろ」

 

 

 

 ホルンが声を上げる。口調に反して穏やかな、気遣うような声だった。

 それが辛くて、苦しくて、膝に顔をうずめて逃避する。

 

 

 

「クラインに申し訳ないと思ってるなら、こっちを見ろ」

 

「──ッ」

 

「逃げんな。……僕の言葉はこの際聞き飛ばしていいから、クラインのお前に向けた言葉から、目を逸らすな」

 

 

 

 無慈悲な宣告だった。ここで答えを選び間違えたら、本当に自分を見損なうであろうという岐路を突きつけられた気がして。

 恐る恐る、顔を上げる。

 

 そこに映ったのは、ホルンが可視化表示した…ホルンとクラインのやり取りだった。

 

 

 

【ホルン、そっちはキリトと合流できたか?】

 

【連絡ついたらこっちに返事寄こすように言ってくれよ。どーせ元気にレベリングしてるんだろうがよぅ】

 

 

 

【そろそろキリの字に会えた頃か?】

 

【俺もダチと合流できたからもう心配するなって言ってやりてぇんだがよー。相変わらず連絡つかねぇでやんの】

 

 

 

【最近《はじまりの街》でおめーとキリトに教わったことレクチャーしてみてんだが、あれ案外難しいな。おめーらほどうまく教えられねーわ。コツとかあるのか?】

 

 

 

「これ、は」

 

「クラインとの近況報告。……びっくりするよね。あいつ大体2、3日置きにこの調子でキリトのこと聞いてくるんだ。多分だけどそっちのフレンドメッセージも同じくらい圧迫してるよ」

 

 

 で、これが会議前に届いた奴。

 

 そう呟いて、ホルンが最新のメッセージまでスライドさせた。

 

 

 

【聞いたぜ。ボス攻略始まるんだってな】

 

 

【わりぃ、俺とダチ共は大体レベル6かそこらだし、追いつくのは無理そうだわ】

 

 

【けど、簡単にゃあ諦めねぇぜ!時間はかかっても、必ずおめーらに追いついて見せるからよ!】

 

 

【キリト、どうせ最前線に居るだろうからよ。会って言ってやってくれ】

 

 

【俺の方は大丈夫だ。だからおめーも、そっちで頑張ってくれってな!】

 

 

 

 ……途中から、涙で何と書いてあるか読めなかった。

 だがきっと、そこには俺が目を逸らし続けた……クラインの優しさが残っているのだろう。

 

 

「クライン……ッ…!」

 

「あいつから聞いてるよ。あいつの知り合い待つのに付き合わせられないから、お前を先に行かせたって。……納得してお前を送り出した奴が、なんで今更お前を恨むと思ってんだよ」

 

 

 どこか呆れるように、小ばかにするように、ホルンがそう茶々を入れる。

 軽く肩をすくめ……そして、何故か彼の表情が沈む。

 

 

「キリト。お前はクラインを見捨ててなんかないし、僕のことも見捨ててない」

 

「……ホルン?」

 

「…………あの日僕は、キリトとクラインを待てずに、一人で《はじまりの街》から逃げたんだ。メッセージ入れたのに、僕は…30分そこらでキリト達との合流を諦めたんだ。本当に、ごめん」

 

 

 そう言ってホルンはこちらに頭を下げた。

 あまりに唐突な謝罪と、……こう言うとあれだが、ホルンが頭を下げて謝る姿を全くイメージできなくて。俺は大いに困惑した。

 

 

「違う…お前のは当然の判断だ。初動の遅れはそのまま生存率に繋がる……お前は間違ってなんかいない」

 

「いいや、間違ってた。僕はお前ら二人を信じて待つべきだったんだ。……あの日僕は…お前みたいに、一人でもうまくやれるんじゃないかって、思い上がって。待つことに時間をかけてる間に、取り残されるのが怖くて。キリトとクラインを待つのをやめて行動した。…………そのせいで、森で狼の群れに襲われて死にかけた」

 

 

 俺の苦し紛れの擁護を切り捨てるように、ホルンは吐き捨てた。

 

 ホルンが、死にかけた?俺の知らないところで。

 

 思わず呆然とした。その可能性があるのを知りつつ、彼らを置いて行ったのに。いざそれを突きつけられたとき、何故かショックの方が大きかった。

 黙り込んだこちらを気にせずホルンは続ける。

 

 

「……クラインと比較されて、初心者にしては僕はやれる方なんじゃないかって、天狗になってた。その結果、右腕を食い千切られて、HPをあと一撃まで減らされて。…クラインと一緒だったら勝てたかもしれない敵に。お前だったら、一人でも勝ててただろう敵に。僕は……手も足も出ないで負けたんだ」

 

 

「自分の弱さに呆れたよ…あの日僕は、ストレアが偶然…偶然……偶然でいいのかなあれ…?ともかく、助けてくれなかったら。……今ここで、お前がそんなに抱え込んで苦しんでるなんて知らずに、アホ面晒して死んでたんだ」

 

 

「会議だって、別に初めからあんなこと言うつもりなんてなかったさ。口を滑らせたせいで、キバオウと言い合いしただけだ」

 

 

「……そのせいで僕は、お前のことをバラしかけたんだ。今日だって、僕は…お前にそのことで恨み言言われると思いながら来てたんだ」

 

 

「僕は自分一人で何かできたわけでもない……大したことない奴なんだよ」

 

 

 そういう彼の顔は、とても後ろめたそうだった。本当は言いたくなかったのだろう。当然だ、人間誰しも、自分の恥を喧伝したいとなんか思わない。

 にもかかわらず、ホルンはこちらに寄り添うために、その弱さを包み隠さず話してくれた。同じだけ傷つこうとしてくれた。

 それがどこか嬉しくて、情けなくて…また涙が滲んでくる。

 

 

「なぁキリト。なんでそんな必死になって、自分のこと下げるんだよ。あれか?急にキャラ作りとか恥ずかしくなちゃって、陰キャですって告白したい気分になってきたん?」

 

 

 もの凄くストレートな暴言だった。

 しかし概ね正しくて、力なく、首を縦に振る。

 だがホルンはそれを見て、こちらを鼻で笑った。

 

 

「……なぁキリト。初めて会った時の、あの自信ありげな気障なキャラ。あれは確かに作りものだったんだろうさ。…あのアバター、僕のランダムクリエイトしたのと違ってしっかりいじってあったじゃん。あれが、お前のなりたかった『剣士キリト』の姿なんだろ」

 

 

 言い当てられてしまい思わず押し黙る。

 ……実際そうだった。

 童顔というか、少女然としているというか。ともあれ、あまり男らしくない──隣に妹がいると、姉妹に間違われる程度──顔立ちがコンプレックスで。こちらの顔は、用意されてたアバターのアセットデータを基に、時間をかけて作り上げた……ホルン曰く優男風イケメンだった。

 

 だがそれだけだ。今自分が表情を変えているこの顔は、茅場によって現実世界のものと同じ顔にされてしまっている。

 俺のなりたかった『剣士キリト』の姿なんてどこにもない。

 

 

「あれがお前がなりたかった理想の姿だったんだろうさ。胸張ってカッコつけてて、どこか自信家で、自分の剣で全部解決できる気でいた、そんな姿が」

 

 

「現実の自分じゃなくなって、強くなった気でいて。……急に全部、台無しにされた気分なのかもしれないけど」

 

 

「でもさ、それが何だって言うんだ」

 

 

 ホルンは力強く言い切った。いつになく、言葉に熱がある。普段の彼はもっとやる気なさげというか、冷めた印象があったのだが。

 この声を発しているのがホルンなのか一瞬信じられなくて、思わず顔を上げた。

 相変わらず、そこには赤眼の少年が居た。

 

 

「キリト、僕はね…僕が嫌いなんだ」

 

 

「この赤い眼が嫌いだ。誰にも好いてもらえなかったこの目が嫌いだ。何度も何度も、抉り出したいと思うくらいに」

 

 

「掃除当番押し付けられても、伝説ポケモンをその辺のポッポで交換されても、提出した宿題の名前書き換えられて僕だけ未提出にされても、笑って誤魔化したんだ。嫌われたくなかったからだ。……独りぼっちって奴が嫌で、みんなに好かれようと頑張って。その結果僕には何も残らなかった」

 

 

「臆病で、軟弱で、脆弱で、惰弱で、怠惰で、後ろ向きで、無気力な僕が嫌いだ。死んで無いだけで、生きてる実感すらない僕が大嫌いだ。そんな僕が嫌で嫌でたまらなくて…このゲームに逃げ込んだんだ」

 

 

「弱くて惨めな自分を無かったことにしたくて、自分じゃない自分になりたくて…こんな世界に来てしまったんだ。……キリトも、そうなんじゃないのかって」

 

 

 何度も何度も、吐き捨てるように、少年は自己否定を重ねた。

 余程鬱屈とした感情を溜め込んできたのだろう。ホルンの声は、次第に荒く大きなものへと変わっていった。

 唐突に、彼の左手がこちらの胸ぐらを掴み上げる。力づくで、俺の黒い眼が、ホルンのワインレッドの視線と合わせられた。

 

 

「……なぁキリト。お前は、そんな簡単に『剣士キリト(なりたかった自分)』を捨てられるのかよ」

 

「俺、は」

 

 

 すぐに答えられなかった。諦めてしまえば楽だろうに、散々彼らに情けない姿を見せたのに。

 心のどこかで、それを否定しようとしていたのを……見て見ぬふりをしていた。

 

 

「顔をリアルに戻されて、現実突きつけられた気分なんだろうけど。それがなんだって言うんだ!」

 

 

「顔がなんだ!見た目がなんだ!お前の生き方はその程度で曲がるほど安くて軽いのかよ!!」

 

 

「お前が弱いって、お前が言わなきゃ誰が知ってるんだ!嘘だって誰が暴こうとするんだ!誰も気になんかしないよ断言してやる!!」

 

 

「みんな踏み込んでこないだろう!?僕がこんな奴だなんて、お前は初めから知ってたのかよ!知らなかったろ。リアルがどうとか、マナー違反だもんな!」

 

 

「……同じなんだよ。みんなここで、自分じゃない誰かになりたいんだ」

 

 

「ストレアが言ってたよ。『この世界は作り物だけど、偽物ばかりじゃないんだ』って。……悔しいけど同感だ」

 

 

 息を呑む。

 彼の言葉は痛々しいほど青臭くて、切実で、聞いてて苦しくなってくる……体裁とか見栄えだとかを抜きにした、剥き出しの感情だった。

 そしてきっとそれは……俺を含めた大多数のゲーマーが、心の奥底に秘めようとしていた願いだった。

 

 

 

「みんなが知らなければ嘘なんて存在しない!最後まで騙し切ればそれが真実だ!綺麗事言えばいい、カッコつけろ、キャラ作り上等!最後までやり切ってみせろよ!!」

 

 

 

「弱いままなんて嫌だ!自分の本音と心を殺して惨めに生きるだけの日々なんてクソ喰らえだ!僕は…僕のしたかったカッコいい生き方がしたいんだ!!」

 

 

 

「これが僕の本音だ!これが僕の『本物』なんだ!!」

 

 

 

「僕は!『ホルン』になりたい(ここで生まれ変わりたい)んだ!!」

 

 

 

 そこまで言い切って、ホルンの手から力が抜けた。急に胸ぐらを離され、俺の身体がソファーへと逆戻りする。

 ほぼ同時に、肩で息をしながらホルンの身体もソファーへと沈んだ。

 少し疲れたような、それでも熱の抜けきってない目が、こちらへ向く。

 

 

「……だからキリト。お前も『キリト』になれ」

 

「ッ」

 

「お前がなりたかった剣士になれ。お前自身の弱音に負けないように剣を握れ。この世界に負けないために戦え。……そして心の余裕が出来たら、その剣で誰かを守ればいい」

 

 

 あっさりとホルンはそう言い放った。今まさに、自身に諦めをつけようとしていたこちらに向けて。

 なんて残酷な要求だろう。難題を簡単に言ってくれる。全員が全員、お前みたいに割り切れるわけじゃないんだって、そう言ってやりたい気分だった。

 

 なのに。

 

 

 

「…………俺にも、できるかな」

 

 

 

 口から出たのは、正反対のもので。

 それをホルンは苦笑交じりに頷いた。

 

 

「逆に、なんでできないと思うんだよ。……キリトは、自分だけでもいっぱいいっぱいのくせに、僕とクラインと…アスナを助けようとしたじゃないか。あれ、そうした方がカッコいいとか思ってたからじゃないのか?自分のしたかった剣士ムーブ的に」

 

 

 容赦のない言葉だ。

 とても彼らしい、皮肉げだがどこか頼もしい、そんな言葉。

 

 

「……僕はさ、お前みたいにカッコいい剣士って奴になりたいんだ。自分の力で、どんな困難にも立ち向かえますって、そう言えるようになりたいんだ」

 

 

「だから僕にもう少し──憧れさせてくれ。キリト」

 

 

 ……ああ、くそ。本当に簡単に言ってくれる。無責任に期待してくれやがる。ハードル何段上げる気だこいつ性格悪いな。

 

 憎まれ口の一つでも言ってやろうかと思って…やめた。もう彼と言い合うのも疲れた。ここは折れてやるのが男ってものだろう。

 それにだ。

 ここまで来るといっそ面白い気がして、自然と笑みが浮かんで。

 

 

「…………分かったよ。もう少し、頑張ってみるよ」

 

「そうこないと。……いやぁ疲れた疲れた…なんでキバオウと煽り合いして消耗したのに、お前のおセンチトーク付き合わされることになったんだよ。マジで勘弁してくれ」

 

「うっ……わ、悪かったよ」

 

「まぁいいんだけどさ。キリトにいつまでもしょぼくれられてるとボス攻略不安だし、切り替えてくれんなら僕ももうとやかく言わないよ」

 

 

 今まさに言ってる最中なんじゃ、と思わなくもなかったが。折角の空気を壊すのも躊躇われて、俺の口からは出なかった。

 とりあえず咳払いをして誤魔化す。

 

 

「……クラインに、あとで返事するよ」

 

「そうしてくれ。いやほんと、キリトチェックの頻度多くて参ってたんだ」

 

「ホルン」

 

「んー?」

 

 

 微妙に鬱陶しげに見られて、一瞬怯む。

 しかしだ。今ここで、ちゃんと伝えたかった。

 勇気を出し、口火を切る。

 

 

「その、さ」

 

「なんですかね」

 

「……その、サンキュな。会議のことも、クラインのことも」

 

 

 そう言ったら、何故かポカンと口を開けて驚かれた。……別におかしなことは言ってないだろうに。

 先ほどの件はホルンとしても触れられたくないだろうからと避けたが、それでも……口を滑らしただけだろうと。あの場で俺の味方でいようとしてくれたのが、嬉しかったんだ。

 

 数舜、何とも言えない沈黙が場を満たした。

 そしてホルンは。

 

 

 

 

「…………はぁぁ……はじめっからそう言ってくれれば、こんな気まずい空気にならなかったろお前…」

 

「うぐ…………」

 

 

 まさかのダメ出しである。コイツ本当に性格悪いな。

 いや、実際そうだとしか言いようがないんだけど、もうちょっとこう……過程に目を向けて素直に受け取ってくれてもいいと思うのだが。感謝くらい素直にさせてほしい。

 

 そう内心複雑な思いを浮かべていたが、不意に、ホルンの表情が見慣れた…人を小ばかにしたような、実に彼らしい笑みに戻った。

 

 

「はいはい、どーいたしまして」

 

「お前なぁ」

 

 

「……ん、ん‶ー!良い湯だったねーアスナ!!」

 

「そ、そうねストレアさん!?」

 

 

 妙に大きな声を上げながら、脱衣所から女子たちが出てくる。

 そうだ、彼女たちも居るんだった。ホルンとの対話でいっぱいいっぱいになってたせいで忘れかけてた。

 急に出てきた、フローラルな香りを纏ったやや薄着になった二人の美女に、俺の脳がフリーズを起こしかける。

 直後、横腹にホルンの肘がめり込んだ。逃げるなってことなんだろうけど……コイツ本当に遠慮ってものを知らなさそうだな。友達いない理由絶対目の色だけじゃないだろ。

 

 そうして目の前の二人へ向き直る。何故かあちらも、ストレアがアスナに似たようなことをしていた。

 

 

「……その、アスナ」「キリトくん」

 

 

「「ごめん(なさい)!!」」

 

 

 ほぼ同時に、向き合った俺たちは互いに向けて頭を下げた。

 俺はともかく、何故アスナまで。

 

 

「……その、助けてくれたのに、お礼の一つも言えなかったこと。謝りたいの」

 

「そんな、頭を上げてくれ!きみをあそこまで不安にさせたのは俺たちβテスターだ!きみは悪くなんかない」

 

「それでも、私は……あなたが同じように傷ついてるって、苦しんでるって。考えもせずにあんなことを言ってしまった…。だから、本当に、ごめんなさい」

 

「アスナ……」

 

 

 

「……なぁストレア。どんな魔法使ったの?あれほぼ別人じゃん」

 

「んふふ♪内緒だよ~」

 

「そこはかとなく嫌な予感がする」

 

 

 

 何やらあっちの二人も盛り上がっている。

 が、今はアスナだ。

 

 

「俺だって、ごめん。もっときみを傷つけない振る舞い方とかあったんだろうけど…その、うまくいかなくて」

 

「気になんかしてない。あれだけ突き放そうとしても、それでもあなたは私を慮ってくれたじゃない」

 

「でも……」

 

「……どうしても気になるって言うなら、その。ゲームの戦い方、教えてほしい。キリトくん詳しそうだし」

 

「…………そんなことでいいなら、いくらでも教えるよ」

 

「……ありがとう」

 

 

「そうだ。ストレアあの中どんな感じだった?シャワーの使い心地どう?」

 

「シャワーなかったよ。お風呂とマーライオンだけ」

 

「なんでシャワーなくてマーライオンあるんだよ」

 

 

 

「…………ごめんやっぱ気になるわ。お前らさっきからなんなんだよ!?こっちの空気と温度差酷すぎるだろ!!

 

「ストレアさんどういうこと!?手を貸してくれるんじゃなかったの!?結局私一人で謝る流れになったんだけど!!」

 

 

 アスナも似たような状況だったようだ。それぞれ相手に文句を言っている。

 が、肝心の二人はどこ吹く風。こちらを不思議そうに眺めていた。

 

 

「なんか急にキレてんだけど。こわぁ」

 

「お前ほんと…!」

 

「もー、アスナ怒っちゃダメだよ。折角のかわいい顔が台無しだよ?」

 

「誰のせいだと思って…!」

 

 

 二人そろってマイペースがすぎる。会議の時のあの緩くて失礼な発言がデフォルトみたいな空気がこいつらの仕様なのか。頭が痛くなってきた。

 

 

「ま、僕は用事済んだしこれで帰るよ」

 

「え?お風呂次ホルンの番なのに。入らないの?」

 

「シャワー派なんだってば」

 

「そんなこと言わずに入ってみなよ。お風呂はいいよ~」

 

「…………僕にも事情があるんだよ」

 

 何故か、ストレアの勧めにホルンの顔が曇ったように見えた。

 しかし次の瞬間には、普段の性格の悪そうな笑みを浮かべてこちらを見ていた。…見間違えだろうか。

 

 

「それに、今入ったらストレアとアスナのだし汁に浸かるようなものじゃん。それでギャーギャー騒がれんの嫌だし自衛させてもらうよ」

 

「アタシたち鰹節とか昆布扱いなの!?」

 

「っ、キリトくん!!」

 

「だ、大丈夫だって!俺はちゃんとお湯入れ替わってから入るよ!1時間もあれば余裕で二人が入ってたお湯入れ替わってるから!!」

 

 

 キラーパスのせいであらぬ誤解が生まれそうになった。あいつの口、争いの火種しか詰まってないのか…。

 

 ホルンはそんな光景をケタケタと楽しそうに見やりつつ、身支度を整えてドアの方まで歩いていく。本当に帰る気らしい。

 

 

「じゃ、そういうわけで。ストレアはそっちの話足りてなさそうな陰キャ二人の世話頑張ってな」

 

「はーい♪」

 

「きみって人は…一々失礼な言い方しないと気が済まないのかしら」

 

「僕はこういう奴なんでね」

 

 

 アスナの噛み付きをさらりと流し、ドアノブに手をかけた。

 ……なんというか、少し寂しい気がした。

 

 

「ホルン!」

 

「……度々なんですかねぇキリトちゃんや。僕もうお眠なんだけど」

 

 

 多分、これは本当なのだろう。瞼が非常に億劫そうに細められていた。

 なんて言いたかったか、一瞬思い出せなくなって。

 結局、非常にありふれた言葉が出た。

 

 

 

「その…また今度」

 

「──なるほど、前と違って僕が言われる側か。…じゃあねキリト。また今度」

 

 

 いつだかの日のように、手を振り合って。

 

 口の悪い……だけどどこか頼もしい、友人の姿がドアの向こうへと消えた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 キリトたちへ挨拶を済ませ、早々に宿を立ち去る。

 

 眠かったのも、用が済んだのも本当だが。それ以上に、あれよりボロが出るのが、嫌で。

 言いたくないことも、言わなくていいだろうことも、言ってしまった。この調子では黒歴史ノートに新たな章が追加されるのも時間の問題だろう。

 なんというか、非常に憂鬱だ。

 

 

「……ん?」

 

 

 とぼとぼと薄暗い道を歩いていると、キリトからフレンドメッセージが届いた。

 ある程度調子が戻ってきた途端これだから現金な奴である。

 

 

【今日はありがとう】

 

【リアルでもお前みたいな友達ほしかったよ】

 

 

 ……律義なことだ。さっき言ったのにわざわざメッセージで感謝してくるとは。

 しかし同時に、僕は返答に詰まった。

 

 苦手意識しかない二文字がそこにあって…どう返せばいいのか、解らなくて。

 数秒間を開け、「おやすみ」とありきたりな挨拶で話題を逸らす。数秒もしない内にキリトからも同様のメッセージが届き、今度こそフレンドメッセージを閉じる。

 

 

 

「『友達』…か……」

 

 

 

 そっと呟く。……背中がわずかに冷たくなった気がした。

 

 きっと彼が、最大限親しみを込めてそう呼んでくれたのだろうと分かるのに。僕は素直にそれを喜べない。

 忘れられない過去の過ちが、いつまでも僕を臆病にさせる。もはや呪いだった。

 

 ふと振り返る。既にほとんど見えなくなった、キリトたちがまだ居るであろう宿を。

 うすぼんやりと、窓から暖炉の光が見えた気がした。

 

 

 

「……もしも、あの時の僕が『ホルン』くらいしっかりキミに伝えられていたなら」

 

 

 

「もう一歩、勇気を出して、キミの方へ歩み寄れていたなら」

 

 

 

「あの時キミは、笑ってくれたのかな──コトちゃん」

 

 

 もう笑顔すら思い出せない、5年前に別れた……最初で最後の友達に。そう聞いてみたくなった。

 

 返ってくることのない問いを夜に投げ捨て、『ホルン』が歩き出す。

 

 自己否定の獣は、いつまで経っても自分を好きになれずにいた。




ホルン:黒歴史追加。ちょっとおセンチな気分になりかけてる

キリト:メンタル大分回復した。本人のあずかり知らぬところで親友枠が決まりかけてる

クライン:野郎二人の精神安定剤。キリトから返事が来て驚いてる

ストレア:お風呂サイコー!ホルンのおかげでいい空気吸ってる

アスナ:お風呂サイコー!大分険が取れてる



[Next Episode.『思春期たちの四重奏(カルテット)』]


追記 キングサリニキ誤字報告謝謝茄子!
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