VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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夢見月瑞希お迎えできたので初投稿です。


プログレッシブ9巻発表きましたねぇ!記憶が確かなら4年弱くらい空いた気がするんすけど()
本作でプログレッシブ時代の話どれくらい書いていいものか悩んでますが、とりあえず川原礫先生の本家本元アインクラッド攻略の情報増えるの嬉しいですわ。
できれば毎月出して75層までのアインクラッド編完成させてください(白目)

活動報告の方にも書きましたがお気に入り100件記念単話のリクエスト募集してます。よろしければそちらもお願いします_(:3 」∠)_


『思春期たちの四重奏(カルテット)』 1/3

 2022年12月3日、午後4時。

 僕とストレアは第二回となる1層攻略会議への出席のため件の円形劇場にやって来ていた。

 

 今から約2時間前、とうとう僕たちプレイヤーはSAO最初の階層主の座すボス部屋を発見したのだ。

 またしても発見者はディアベル一行。19階までのマッピングデータを無償配布した上でなおこれなので、彼らがこのボス攻略にかけた凄まじいまでの執念を感じる。

 これが労働から解き放たれた廃ゲーマーたちの本気ということなのだろう。熱意の有効活用してくれてて大変結構、その調子で今後も楽させてほしい。

 

 

「おはよう。ホルンの周り空いてて分かりやすいな」

 

「おはようストレアさん。……と、ホルンくん」

 

「のっけから絶好調じゃん陰キャコンビ。喧嘩なら買うぞ」

 

「二人ともおはよ〜♪」

 

 

 ぼけっと座りながら会議の開始を待っていると、いつの間にかやって来ていたキリトたちから声がかかった。

 キリトは調子を取り戻したのか軽口を吐ける程度に辛気臭さが消えている。一晩経って流石に頭も冷えてくれただろうか。ボス戦までその調子を維持してほしいものだ。

 アスナは……なんだろう、また赤ずきんスタイルで変化がない。多少打ち解けたかと思ったけど、相変わらずフード越しに僕に向ける視線が鋭い。解せぬ。

 

 

「隣いいか?」

 

「聞きながら座ってくるの図々しいなお前。昨日のあれよか100倍マシだけどさぁ」

 

「ふふっ、ホルンとキリトは仲良しさんだね」

 

「ゲームでしか頼りにならない奴はちょっと……」

 

「ひっでぇ」

 

「……男子二人、もうちょっと詰めてくれる?私座れないんだけど」

 

 

 キリトを含めてしょうもない言い合いしてたらアスナが拗ね出した。

 あれか?少し仲良くなった気になる子が別のと仲良さそうにすると嫉妬しちゃうタイプ?寂しんぼめ、人間強度低すぎなんだよ。

 そんな意思を込めて鼻で笑った瞬間、アスナの視線が更に鋭くなった。怖すぎる。人を殺せるタイプの肉食獣がする目だった。

 

 こんな猛獣の相手できるか。危険生物の相手は飼育員がするべきなんだよ。逝けキリト、餌になってこい。

 

 肘で横腹を小突いたらものすごく恨みがまし気な目を向けられた。しょうがないだろ、僕だとそこの赤ずきん手懐けられないんだから。

 

 

「あー……その、アスナ?座る場所ならストレアの左隣空いt「キリトくん何か言った?」いえなんでも!…ホルン悪い、もうちょっと詰めてくれ

 

 

 一言で封殺されやがった。役に立たねぇ。

 

 

「クラインと僕以外に弱すぎだろお前。…ストレア、そっち寄って」

 

「えー動きたくなーい♪ちょっと寒いしおしくらまんじゅうでいいじゃん」

 

 

 コイツマジで……。すぐそこで唸り声上げそうになってる栗毛の猛獣が見えてないのか。食い殺されるだろ。多分僕だけ。

 こちとら命かかってんだよ。そこを明け渡せ。

 

 

「そういうのいいから。さっさとケツ退けろ」

 

「む~……しょうがないなぁ」

 

「ホルンは逆に強気すぎだろ。女の子もうちょっと労わった方がいいって」

 

「そーだそーだ!キリトを見習えー」

 

 

 余計な援護射撃入れてるんじゃねぇよ。ストーカーが調子乗るだろ。

 両者をそれぞれ睨んで黙らせ、ストレアが渋々左へ一人分ズレる。合わせて僕とキリトも左に移動し空いたスペースにアスナが着席する。

 アスナもストレアも不服そうだ。何様なんだこの女共。

 

 

「う‶っ……生暖かい…」

 

「ねぇホルン、アタシが座ってたところそんな嫌そうに座られると傷つくんだけど」

 

「座ったところが自分以外の体温で温まってるの気になるタイプなんだよ……」

 

「きみそんな繊細な生き物じゃないでしょ。ストレアさんに失礼よ」

 

「人間じゃなくて生物って括り方するお前もな。僕のことなんだと思ってやがる」

 

「……ふっ」

 

「鼻で笑いやがったこの性悪赤ずきん」

 

「…………なぁ二人とも。俺挟んで喧嘩するのやめない…?」

 

 

 却下。キリトを緩衝材にしないと僕が危ないんだよ。お前だけは逃がさん…。

 

 広場にパン、パンと手を叩く音が響く。昨日と同じようにディアベルが鳴らしたようだ。会議が始まるらしい。

 壇上に視線と意識を向けると、キリト越しにこちらを睨んでいたアスナが面白くなさそうに鼻を鳴らした。だが会議自体はちゃんと聞く気があるようで、それ以上の追撃は来なかった。キリトが胸を撫で下ろすのが横目に映る。

 

 

「みんな昨日ぶり!今日も会議だ、元気にいこう!」

 

 

 すっかり見慣れた顔となった青髪の騎士の挨拶を口火に、会議の開催が宣言された。

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

「耳の早いみんなのことだから知ってるだろうけど、今日、俺たちのパーティがボス部屋を発見した」

 

 

 知っている。俺もすぐそばでレベリングしてたから。

 

 口には出さず、ディアベルに首肯する。

 ふと見ると、隣からホルンがこちらに横眼を向けていた。まだ少し心配されてるようだ。多分昨日のように醜態を晒す前にど突きに来るタイミングでも計っているのだろう。……性格も言動も割と容赦ないが、なんだかんだ面倒見がいい奴である。

 

 大丈夫。またディアベルに後れを取る形になってしまったのは悔しいが、ちゃんと切り替えてる。出遅れた分はボス戦の働きで返す。

 そんな意図も込めて肩をすくめて見せると、彼は軽くため息を吐きながら視線を前に戻した。意図は伝わったらしい。

 

 

「……で、だ。ついでにそのままボス部屋に顔突っ込んで、ボスの姿をこの目で見てきた」

 

 

 ホルンとのやり取りもそこそこに、俺はディアベルのその報告に口をすぼめてピュウ、と口笛を鳴らしてしまった。ほぼ反射的なものだった。

 慌てて口を押えようとしたが、それを上回る声量で、劇場内のプレイヤーたちが湧いていたため事なきを得た。安堵から息が漏れる。……両隣から何とも言えないジト目を向けられたのは、気のせいということにしようと思う。

 

 

「ボスの名前は《イルファング・ザ・コボルドロード》。迷宮区の雑魚から予想はしてたけど、やっぱり獣人系のボスだった。ただ、体格が別物だ。身長が2mはあったかな」

 

 

 ざわつく会場とは裏腹に俺の思考は非常にクリアだった。4ヵ月前、β時代に既にその情報を知っているからだが。

 となれば武器は骨製の斧、獣皮を貼り付けたバックラー、ゲージ移行で使い出す曲刀カテゴリの湾刀(タルワール)。あとは取り巻きに《ルインコボルド・センチネル》が3体、それがHPゲージが一本減るたびに3体ずつ追加されていき合計12体、だろうか。

 

 β時代の記憶を掘り起こしながら聞いている感じ、ディアベルが誇らしげに報告してくる内容に相違はなさそうだ。ひとまず安心する。

 それにしてもこの騎士、素晴らしい度胸をしている。まさか自分のパーティーだけでボス部屋を下見してくるとは。レイド戦が基本のフロアボスの部屋に1パーティーで突入するなど自殺行為に等しい。それも、このSAOでは文字通りの意味で。

 HPゲージが減るたびにセンチネルが追加されるのはまだ知らないようだが、それ以外の情報はかなり精度が高い。これなら偵察戦時の負担もかなり減るだろう。

 そこまで考えていると、隣からホルンが声を潜めて訊ねてきた。

 

 

「……キリト、βとなんか変わってそう?」

 

「……安心して良い。今のとこ同じだ。それに、どうせすぐにボス戦にはならない」

 

「情報収集してから、ってわけ?」

 

Exactly(その通りでございます).何も知らずに殴って勝てるほどMMOのボスはやわじゃないからな。実際に戦うのは数回の偵察戦を挟んで数日後に」

 

 

「みんな来てくれ!《鼠》の攻略本の最新版が出てる!ボスの情報載ってるぞ!」

 

 

 なるだろう、と続く予定だった言葉が途切れた。ディアベルのパーティーメンバーらしき剣士が上げた声が、その続きを話す必要性を吹き飛ばしたからだ。

 会場内のプレイヤーたちがそれに反応し、一人、また一人と席を立って確認に向かう。当然ながらディアベルの口から正式に会議の一時中断が告げられた。

 瞬く間に喧騒に包まれた円形劇場の一角、俺たち4人だけが完全に出遅れて座ったままの状況になっていた。

 周囲を見渡しつつ、ホルンがぼそりと一言。

 

 

「数日後になんだって?続きをどーぞ」

 

「……………………俺、攻略本取ってくるよ」

 

「ホルンくんあなた……」

 

「……えっと、キリト。アタシも手伝おっか?」

 

「座ってなよストレア。女子に優しいキリト先生はキミやアスナの分もきっと持ってきてくれるから。ついでだし僕の分もよろしくー」

 

 

 完全にこの状況を面白がっている。俺の先ほどの言動でしっかり揚げ足取りに来るのが実に執念深い。

 イイ笑顔を浮かべてるホルンに引き攣りそうな笑みを返し、女子2人とついでに彼の分も取ってくる旨を伝えて離席する。少しだけ小走りで。

 

 円形劇場近くの広場の隅、そこに居るNPCの露天商のところにプレイヤーの列が続いていた。少しばかり並び、委託販売されていた《鼠》印のパンフレット状の【アルゴの攻略本・第1層ボス編】を購入(?)する。お値段、驚異の0コル。エギルやホルンが言ってたように今回も無料配布らしい。

 劇場に戻るとほぼ全員がその羊皮紙数枚に食い入るように目を向けていた。ホルンたちにも攻略本を渡し、彼らに倣って熟読する。

 

 そこには先ほどディアベルが報告したボスの名前や武器といった情報から推定HP量、武器の間合いやダメージ、使用されるソードスキルなども網羅されていた。これに加えて取り巻きの情報として対処法や、ゲージ減少で追加の湧きがあることまで明記されている。

 相変わらず見事な情報量だ。心なしか、普段のものよりもページ当たりの情報の密度が高い。…というか、ページに余白など作らない、という強い意志を感じる。昨日メモ帳扱いされたのが屈辱だったのかもしれない。

 どこかで地団駄を踏んでそうな小柄な情報屋の姿を幻視して苦笑しつつ、最後に裏表紙を確認する。普段のものであれば《鼠》マークの描かれていただけのそこに、今まで存在していなかった文字列が存在していた。

 

 

【情報はSAOのβテスト時のものです。正式サービスでは変更されている可能性があります】

 

 

 これには驚いた。一応アルゴは『βテスターから情報を買っている』というスタンスで今まで情報屋をやって来ていた。ここでβテスター側からの情報精度に懸念を抱くようなものではなく、自身の知る情報から断定するような文言を書くのはアルゴ自身がβテスターであると言ってるようなもの……相当リスクのはずだ。先日のように魔女裁判が始まった時、真っ先に吊るされかねない。

 咄嗟に会場を見渡し探すが、彼女は今日は会議を見に来ていないようだった。流石に俺でも思いつく危険性に思い至らないわけではないらしい。

 

 読み終えたようで、他のプレイヤーたちも顔に困惑の色を浮かべていた。この情報の持つ価値と危険性のどちらに比重を置くべきか図りかねているのだろう。自然と、この場に居る全員の視線が壇上で思案しているディアベルへと集まる。

 数秒、その視線の雨を瞑目しつつ受け止めた青髪の騎士は、姿勢を正して決定を下した。

 

 

「──みんな、今はこの情報に感謝しよう!」

 

 

 彼は昨日と同様、あくまでβテスターとの融和の方針を取るようだ。視界の端、前列の辺りに居るキバオウがまた反発しないか不安だったが、今日のところは反対しないらしい。

 

 

「出処はともかく、このガイドのおかげで2、3日はかかると思ってた偵察戦を省けるんだ。正直、すげーありがたいと思ってる。一番危険度の高い偵察戦を省ければ、その分だけ余裕をもってボスに挑めるからな」

 

 

 会場のそこかしこで同意を示すように首肯するプレイヤーたちが見えた。

 SAOに限らずMMOの偵察戦は危険と隣り合わせだ。多人数前提のゲームだけあってフロアボスは基本レイド想定のステータスをしているため、初見で偵察戦に挑んだメンバーが全滅するなどさして珍しくもない。

 特にSAOではデスポーン(死に戻り)という選択肢がないせいで、情報を持ち帰るためには生きて帰らねば話にならない。難易度は跳ね上がるだろう。

 

 しかしだからといって偵察戦にレイドが用いられることはまずない。それはMMOというジャンルが、常に限りあるリソースでやり繰りしなくてはいけないという側面を抱えているからだ。

 本戦前に貴重な回復アイテムを消費することも、ましてや時間と金をかけて強化した装備類を失うなどあってはならない。が、ケチケチし過ぎれば却って準備不足で偵察隊が全滅する。ジレンマだ。

 

 結果として、偵察戦とは腕の立つ少数精鋭が挑む危険な任務になるのが常だ。

 その上、デスペナやアイテム消費ばかりで得るものがほとんど無いのもあって人気がない。腕自慢の物好きが居てくれないと悲惨なことになりがちだった。

 

 

「ガイドの情報によれば、ボスの数値的なステータスはそこまでヤバい感じじゃない。もしSAOがデスゲームでなければ、みんなの平均レベルが3…いや、5レベ低くても勝てると思う。だからしっかり戦術(タク)練って、回復薬(ポット)たくさん用意して挑めば、死人無しでクリアするのだって難しくない。いや、違うな。絶対死人0にしてみせる!オレの騎士の誇りにかけて約束する!」

 

 

 ディアベルの熱弁に反応し何人かが囃し立てたり口笛を吹いている。まだボス戦前だというのに既に英雄の凱旋でもしてるような熱気だ。

 この不安しかない中、彼の快活な言葉は多くのプレイヤーを奮い立たせ、この場に集めるだけの力があった。その上率先して危険に立ち向かえる行動力とβテスターすら受け入れる姿勢を見せる懐の深さだ。この人気も頷けよう。ソロ気質の俺でも彼のリーダーシップは認めざるを得ない。

 攻略が進み、アインクラッド3層到達によって正式にギルド結成が可能になれば、彼を旗印に強大なギルドが生まれるという確信がある。

 

 

「それじゃ、早速だけどこれから実際の攻略会議を始めたいと思う!何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担もできないからね。みんな、まずは仲間や近くに居る人とパーティーを組んでみてくれ!」

 

 

「え、そんな体育の授業みたいなノリで決めていいのこれ」

 

 

 ここまで大人しく聞いてたホルンから驚きの声が上がった。ボスの情報よりもそっちの方が気になるのかお前。

 失言してないからかストレアも微笑みながら見守っているだけだ。相変わらずというかこの二人、肝が据わっている。右隣でアスナも呆れてるのか感心しているのか分かりづらい視線を向けていた。

 流石にディアベルもノリで言ったわけではないだろう。ストレアとホルンのように元々組んでる場合を除き、この場に集まってるのはソロプレイヤーが大半だ。当然連携や信頼関係などすぐには成立しない。

 それならあの騎士の言ったように、気楽に組んで、あとで役割ごとに立ち回りや部隊メンバーを調整する方が早い。

 

 という考えに思い至ったのか定かでないが、ホルンはそれ以上茶々を入れることなく割り切ったようだ。

 

 

「おっし、んじゃキリト。僕と「待ってくれ」……なんすかね」

 

「……それ、俺に言わせてくれないか」

 

 

 何考えてんだこいつ、とでも思ってそうな顔をされた。ホルンにしてみれば、別になんてことないことなんだろうけど。それこそ、体育の授業で余った奴とペアを組む程度に軽い気持ちだと思う。

 しかしだ。

 俺なりのケジメとして、ちゃんと彼らには頼みたかったのだ。

 

 

「……ホルン」

 

「あいよ」

 

 

 眠たげなワインレッドの視線が向けられた。

 

 

「アスナ」

 

「うん」

 

 

 凛としたライトブラウンの瞳が俺の姿を映し返す。

 

 

「ストレア」

 

「はーい♪」

 

 

 柔らかな光に満ちた紅玉色の目がこちらを見つめる。

 

 

 

「俺と、パーティーを組んでほしい」

 

 

 

 たった一言だというのに、これを言うのにモンスターと戦うよりもずっと勇気が必要だった。

 正直断られないか怖い。誰でもいいなら、お前以外がいいとか言われたらと思うと足が竦みそうになる。

 それでも。

 たとえ誰と組んでも変わらないのだろうと、命を預ける戦友は自分の意思で選びたい。

 

 そういう決意を含んだ呼びかけだったのだが。

 

 

「改まってどうしたんだか。……ま、僕もどうせ戦うなら勝算高い方がいいし。またよろしく、キリト先生?」

 

「私も。こっちからお願いしようと思ってたくらいよ。よろしくキリトくん」

 

「アタシさんせー!ホルンからキリトの話聞いてて楽しみだったんだよ♪」

 

 

 特になんてことないように、口々に肯定の意を返ってくる。

 実際なんてことないのだろう、俺の些細な悩みなど。現に彼らは暖かく迎えてくれた。それが少し、嬉しい。

 

 少しばかり目頭が熱くなりかけたのを誤魔化すように両頬を張り、『剣士キリト』らしい表情へ切り替える。

 

 

「……よし、これで4人だ。改めて、よろしくな」

 

「キリト先生、質問がありまーす」

 

「しっかり挙手できてよろしい。…質問をどうぞホルン君」

 

 

 空気を壊すような茶化した言い方なのは少々気になるが、ホルンなりに気遣ってくれてるのだろう。優しさが不器用で少し笑えてくる。

 ノリを合わせて教師っぽい喋り方で応じる。

 

 

「このゲーム、パーティー人数の上限何人なんすかね」

 

「いい質問だ。このゲームのパーティー上限は6人、それを8パーティまとめて運用する48人のレイド形式が上限だ。今回ボス戦で運用されるのもこの形だな」

 

「となると、あと二人は入れるのね。当てはあるの?」

 

「エギルとかどうかな?昨日もホルンがお世話になってたし、落ち着いてる大人って感じの人だったよ」

 

「落ち着きのないガキで悪うございましたね」

 

「も~、拗ねちゃって可愛いなぁホルンは♪」

 

「……この人たち、いつもこうなのかしら」

 

 

 二人のやり取りにアスナがげんなりした表情を浮かべる。すぐ隣で勝手に二人の世界が出来上がっているのだからそうもなろう。

 ひとまずホルンとストレアのことは置いておき、名前の挙がった黒人の巨漢を探す。

 幸いすぐに見つかったが、彼の周囲には彼を見上げるようにして会話している数人のプレイヤーが居た。どうやらパーティー成立済みらしい。

 

 

「エギル無理そうだな。もうあっちで組んでる」

 

「ディアベルさんは自分のパーティーだろうし……あと名前知ってるのキバオウさんくらいなんだけど」

 

「えー…無理だろアイツ。絶対和を壊すタイプじゃん」

 

「お前が言うな」「きみが言っちゃダメでしょ」

 

 

 ホルンのあまりに他人事じみた感想に俺とアスナの反応が重なる。鏡見たことないのか。……いや見たことなかったら容姿を現実のに戻されてないだろうけど。

 そんなしょうもない言い合いをしている最中、フリーになってたストレアが周囲を見渡していたようだが。

 

 

「あれ、キバオウもうパーティー出来てるみたいだよ」

 

「……マジ?」

 

「嘘でしょ?」

 

「は?モヤっとボールの分際で生意気なんだが」

 

 

 順に俺、アスナ、ホルンの反応である。なんというかこう、性格が滲み出る言葉選びだ。

 ストレアに導かれるように俺たちが視線を向けた先、特徴的なトゲ頭の周りには確かにパーティーメンバーらしき影が見えた。ホルンほど言うつもりはないが、てっきり一匹狼スタイルでアブれると思っていたのだが。

 ……つまりあれだ。ここでわちゃわちゃしてるホルンはキバオウ未満の人望ということに。

 

 

「…………なぁキリト、今なんか考えたよな?吐け」

 

「…………気のせいじゃないか」

 

 

 妙に勘が良いなこいつ。思えばゲームの仕様の説明をしたときなども少ない情報からある程度の結論を見つけていたし、地頭は悪くないのだろう。僅かな間と呼吸の変化からこちらの考えを読み解こうとしてくる。その空気の読み方普段から活かせよと思うが。

 

 

「……気のせいかしら。他の人たちもうグループ出来てるのばかりなんだけど」

 

 

 アスナが何やら不穏なことを言っている。慌てて周囲を確認するが、確かに彼女の言うように個人でうろついてるのは見当たらない。

 というか、そもそもここに居るティーンエイジャー4人衆と他のプレイヤーの集まりにかなり距離が開いているような。

 その光景にホルンの頬が引き攣ってきている。風向きが怪しくなってきたのを感じたのだろう。かく言う俺も似たような表情をしている。

 

 

「んなアホな…そもそも今ここ何人居るんだよ」

 

「昨日ホルンとストレアが最後の参加者で……そこから人数変動してないなら、ここに46人のはずだ」

 

「ねぇキリト。それだと4人余るんじゃ……」

 

 

「よーし、全員誰かしらと組めたっぽいな。これからパーティーごとの調整していくからそこで待っててくれ!」

 

 

「「「「あ」」」」

 

 

 ストレアの疑問の直後、狙ったかのようなタイミングでディアベルが声を上げた。どうやらここに居る面子がそのまま余り者らしい。

 

 

「……締まらねー」

 

 

 全員の思いを代弁するようなホルンの感想に、残る三人が首肯するのは自然なことだった。

 まぁ、ある意味このパーティーらしいと言えばそうなんだが。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 その後、ディアベルによってごく少数の人員移動が行われ、最終的に俺たちを除く7つのフルパーティーは以下のように編成された。

 

 ・A隊:メインタンク担当。主にボスのタゲ取り

 ・B隊:サブタンク担当。A隊の補助兼取り巻きのタゲ取り。エギルが部隊長

 ・C隊:右翼アタッカー部隊。ディアベル一行がそのまま担当

 ・D隊:左翼アタッカー部隊

 ・E隊:雑魚処理用アタッカー部隊。部隊長はキバオウ

 ・F隊:サポート担当。槍などの長柄武器(ポールウエポン)による行動阻害(ディレイ)での補助

 ・G隊:サポート担当。F隊と同様長柄武器部隊

 

 各プレイヤーの武装特性をうまく活かした安定感のある編成だ。どうやらあの騎士、リーダーシップのみならず実務面も相当やり手らしい。

 と、感心していると、最後に彼は俺たち余り者4人組の方へやって来た。すでに他の人員配置は完成されているように思うが。

 彼も同じようなことを考えていたのか、こちらに来てしばし悩んだ素振りを見せた後、爽やかに告げた。

 

 

「H隊のみんなは、取り巻きの処理忘れが出ないよう、E隊のサポートに回ってもらえないかな」

 

 

 邪魔するな、をかなりマイルドに表現したんだろうな、と感じる言い回しだった。正直気持ちは分かる。レイド戦で欠員が出てること自体大分困りものなのに、ここに集まった面子も武装的に尖っている。

 俺の盾無し片手剣や、アスナの細剣(レイピア)は防御が薄いくせに瞬間火力も乏しい一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)前提の玄人向けだし、ホルンの曲刀(シミター)も出血などの状態異常デバフでサポートができるが槍部隊と入れ替えるほどのものでもない。

 唯一両手剣使いのストレアがタンク部隊かアタッカー部隊に転向できそうなものだが、彼女は多分ホルンから離れる気がない。このため彼女もホルンが居る限りここのみそっかすパーティー確定だろう。

 

 そういったゲーム的な理解がある俺と、ホルンの面倒を見れる程度に協調性のあるストレアは、まぁいいのだ。

 問題は。

 

 

「へぇ……」

 

「…………」

 

 

 たった一言で空気を不穏にできる程度に昨日の会議で暴れたホルンと、多少角は取れたが迷宮区で見せた好戦的な雰囲気は健在のアスナだった。

 それを見た爽やかに笑みを浮かべていたはずの騎士の頬を、一筋の汗が伝って落ちた。……このパーティー、ディアベルの胃に優しくない面子が集まっているような。

 

 

「…………ホルンさん、落ち着いて、聞いてくれないか。確かにオレとしても、H隊のみんなをこんなぞんざいな扱いになってしまったのを心苦しく思っている。でも仕方のないことなんだ。レイド戦って言うのは、基本的に全部のパーティーが規定人数そろっている前提で戦術を組んでるから」

 

「ほー」

 

「だからこう……欠員が出ていると、どうしてもうまく運用できないんだ。必然的に…その、さして重要じゃなく見える仕事を頼むことになってしまうけれど。これはホルンさん達の部隊が、少ない人数でもちゃんと活躍できるよう、できるだけ負担の少ない場所をお願いした結果なんだ」

 

「へー」

 

「だから決して…決して。ホルンさん達を軽んじてこの役割を任せるわけじゃないんだ。それにほら、他のパーティーがボスに集中できれば、確実に勝てるだろう?だからどうか、気を悪くしないでくれないか?この通りだ」

 

「ふーん」

 

 

 びっくりするくらい気を使われている。ホルン一人でこのレイドに与える影響力大きすぎないだろうか。

 先ほどまで自信ありげに喋っていたはずの騎士が、ここまで懇切丁寧に説明している中。ホルンは気にした様子もなく前髪をいじっていた。せめてちゃんと聞いてやれよ。

 軽く小突くと、ぎろりと赤い眼がこちらを睨みつけてきた。睨み方が堂に入り過ぎている。気心知れた間柄のはずなのに普通に怖かった。

 

 

「……はぁ。ま、安心してよディアベル。別に僕だってボス戦邪魔したいわけじゃないんだ。そのくらいの分別はあるよ」

 

 

 本当だろうか、とここで思ってしまったのは決して俺だけじゃないだろう。

 その言葉を聞き、ディアベルは恐る恐る…それこそ伺い立てるように尋ねた。

 

 

「……本当かい?その、キバオウさんのとこと一緒になるんだけど…仲良くできそうかな?」

 

「うまくやるから安心してよ」

 

「…………仲良く、してくれるんだよな?」

 

「『うまくやる』ってば」

 

 

 薄笑いを貼り付けたまま言い切るホルンに、ディアベルが呻いた。ここで仲良くする、と嘘でも言うつもりが無いのが実にホルンらしい。

 終始苦しそうにしていた騎士が項垂れた。どうやらホルンの説得を諦めたらしい。哀れな。

 視線がこちらに向いた。……厄介ごとの気配がする。

 

 

「…………キリトさん、でいいんだよな。パーティーリーダーみたいだし、その二人のこと、何かあったら頼むよ」

 

「……了解。重要な役目だな、任せてくれ。…最善は尽くすよ」

 

 

 もの凄く不安そうに頷かれた。

 ……白状しよう、荷が重いと思ってる。ホルンは抑えきれる気がしないしアスナには勝てる気がしない。無理だろこれ。

 俺の後に彼はストレアの方に向いた。多分だがあっちが本命だろう。

 

 

「ストレアさん。ホルンさんのこと本当に…ほんっっっっっっとうに、頼むよ…!」

 

「みんな気にし過ぎだってば。ホルンもアスナも根はいい子なんだよ?」

 

「この場合問題なのは枝葉が尖り過ぎてることなんだよ」

 

 

 ディアベルが崩れ落ちそうになるのとほぼ同時、俺のツッコミが静まり返った劇場に響いた。なお、肝心のストレアは不思議そうな表情をしているだけだった。

 

 アスナはまだギリギリいい。綺麗な花には棘があるとか、そういうレベルの可愛げがある。

 そもそも彼女の場合は心の余裕さえあれば案外穏やかに話してくれる。昨晩も、ストレアが適度に話を繋いでくれはしたが、終始穏やかに話しかけてくれた。生来の彼女はきっと、もっと朗らかに笑う美少女なのだろう。

 だがホルン、流石に擁護不能だ。あいつ絶対タラの木とかサボテンみたいな棘がメインの方の植物だろ。言葉選びに「絶対に相手の心を傷付ける」という加害性が隠し切れていない。

 顔だけなら中性的で、やや愁いを帯びているというか、冷めた雰囲気のダウナー系美少年で片づけられるが、中身が狂犬すぎる。キバオウを単騎で黙らせ、ボス戦参加者全員に牙を剥いた口撃(こうげき)性能は伊達ではない。伊達であってほしかったと常々思っている。

 

 

 

 そんなトンチキ集団のことをものすごく不安そうに、何度も振り返りつつ。ディアベルは言うべきことを終えて壇上に戻っていった。

 ……何故だろうか。現時点で疲労が凄い。

 

 

「…………ふー、アスナ、よく抑えてくれた」

 

「……………………別に。ちゃんと理由があっての配置なら、文句は言わないわ」

 

 

 そうあってほしいものだ。

 口にはせず、彼女に首肯してホルンに向き直る。

 

 

「ホルンもうちょっと自重してくれよ……」

 

「変に取り繕うよりはいいと思ったんだけど」

 

「限度があるだろ…!」

 

 

 唯我独尊を体現しすぎている。逆になんでストレアはこいつを止められるんだ。

 

 

「ねーキリト。このあとパーティーリーダー全員挨拶するらしいけど大丈夫?」

 

「……まぁ、うん。うまくやるよ」

 

「あ、ホルンの真似だ♪」

 

「全く似てないが?昨日の自爆テロみたいな挨拶やめろよ。僕まで巻き添え食らう」

 

 

 解った、ストレアはホルンのブレーキじゃない。アクセルだ。二人とも好き放題に吹かして回るから、たまたま方向が変わった時に壁にぶつかって止まってるだけだ。

 

 胃が痛くなってきた。ペインアブソーバーが消し去ってくれたはずの苦痛を、今切実に感じている。

 

 

 

「…………このパーティー、大丈夫なんだろうか」

 

 

 

 これ以上なく信用できるメンバーのはずなのに、この上なく先行き不安な現状に。

 

 俺は思わず弱音を吐いた。




ホルン:クソほど楽そうな仕事が回ってきて内心ウキウキ。それはそうと舐められてる感じがしたので煽った

キリト:味方が制御不能で胃がキリキリ。クラインが恋しい

アスナ:あからさまな戦力外通告にイライラ。だがホルンのおかげで若干溜飲が下がったので我慢した。えらい

ストレア:仲のいい面子でパーティー組めてニコニコ。それはそうと後でホルンに「お話」コースが確定した
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