VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

17 / 34
マルシル引けたので初投稿です。


スカイフィッシュ普通に強くてサカサイモ生えますわ。虹6コラボが雰囲気昏かったんでダン飯コラボ緩い空気で助かります。


すいません、2話分割の予定でしたが、アルゴの会話増やしたせいでアスナが薄味になったので3話分割にします()
プロット書き換えまくってる弊害です。本当にすみません。


『思春期たちの四重奏(カルテット)』 2/3

「それじゃあ、みんな!明日に備えて……解散!!」

 

 

 騎士ディアベルの号令に従い、円形劇場に集った40数人のプレイヤーたちが席を立つ。

 一部不穏なところはあったものの、第二回ボス会議は無事に終わりを迎えた。そして遂に明日、俺たちはこのSAO最初のフロアボスへと挑む。これまでの多くの犠牲と絶望に終止符を打ち、最初の一歩を踏み出すために。

 帰路に就くプレイヤーたちは各々違った形で明日への想いを馳せていた。

 

 ある者は明日勝利を手にしてみせると、不敵な笑みを浮かべ。

 

 ある者はこれから先に続く、長く険しい戦いへ戦意を漲らせ。

 

 ある者は明日の戦いで命を落とすのではないかと、硬い表情をする。

 

 この内の何人が明日を乗り越えられるかは不明だが、俺の役目があるとするならば、一人でも多く生き残れるようこの剣を振るうことだろう。

 特に、隣を歩く友人たちは絶対に死なせたく──

 

 

「いやぁ、無事に終わってよかったねぇ。キリトのドモりまくった挨拶で会場静まり返った時はどうしようかと「ホルン?」はい、すいません」

 

「ついでだし昨日の分も合わせてお話しよっか。ホルンそこ座って」

 

「あの…地面「座って?」はい」

 

 

 ……自分でもこう、噛んだなぁ、とか。ちょっと挙動不審だったなぁ、とか思ったが。だからと言ってわざわざ口にすることないだろう。こちらの落ち度を見つけると楽しそうにするのやめてくれないか。

 

 

「……お疲れ様、キリトくん。…えっと、何事も得手不得手あるだろうからその…気にし過ぎないでね?」

 

「…………うん」

 

 

 ストレアが連日のやらかしについてのホルンに対する「お話」を始めると、アスナが小声で先ほどの件のフォローに入ってくれた。

 この手の役割を不得手と断じられたのは少々傷つく。実際改善する気がしないとしても。ひとまず大人しく彼女の言葉に首肯しておく。

 情けない話だが、俺の役目がディアベルのような指揮担当でなくて本当によかった。

 

 

「とりあえず、ホルンとアスナはレイド戦の立ち回り説明した方がいいよな。このあと大丈夫なら説明したいんだけど」

 

「私は大丈夫。……あっちの二人は」

 

 

「アタシもホルンも大丈夫だよ~♪」「……そういうことになった」

 

 

 まぁ、うん。仲がいいようで何よりだ。往来で正座させられてるホルンが若干ノイズだが。

 ホルンとストレアはこの1ヶ月組んである程度連携の形ができているだろうが、俺やアスナが加わると勝手が変わる。その辺の調整もしておきたい。

 

 

「よし。じゃあ飯でも食いながr「他の人の視線があるから嫌」…そ、そうですか」

 

 

 即答だった。迷宮区で見た彼女のソードスキルに匹敵するスピードで却下された。

 

 考えてみれば会議の出席者がそうであったように、アスナやストレアのような女性プレイヤーは少ない。それも、彼女たちのような美人ともなると注目度は天井知らずだろう。アスナの装備している赤いフーデッドケープも、容姿を誤魔化す用途のようだし。

 ストレアに至ってはアスナと違って容姿を隠してすらいない。今現在も道行く人々が一瞬振り向くくらいに人目を惹いてる。

 

 では男性陣はいいのかと言えば、そうでもない。

 ホルンは会議で良くも悪くも目立っていたし、俺も正直…挨拶が残念な結果に終わって気まずい。食堂に行った際、こちらを見ながら周囲にひそひそ話されたら心が折れる自信がある。

 

 うん、ナシだな。

 満場一致の結果とみていいだろう。

 となると候補は…。

 

 

「普通にキリトの宿でいいと思うけど」

 

 

 ホルンの一声に女子二人の目が輝いたように見えた。十中八九風呂目当てだろう。

 絶対、会議よりも風呂優先されると思うんだが。どうにかならないものか。

 

 

「……他のみんなの宿とかダメなのか?」

 

「僕含めた三人全員ワンルームの安宿。狭すぎて話し合い向いてないだろ」

 

「でもさぁ」

 

「嫌なら多数決(数の暴力)で決めようか?ねぇ二人とも」

 

 

 得意げに言うホルンに歯噛みするしかなかった。地べたに正座してるくせになんでそんな強気なんだお前。

 渋面を浮かべて唸る俺に、女子二人の期待の目が刺さる。

 勝敗は火を見るより明らかだった。

 

 

 

 

 

 こうして俺たちみそっかすパーティーの交流会は、昨晩ぶりとなる俺の宿での開催となった。

 ……なったのだが。

 

 

 

 

 

「最初はグー!じゃんけんぽんっ!!」

 

 

「「あいこでしょっ!」」

 

 

「「あいこでしょっ!!」」

 

 

「「しょっ!!!!」」

 

 

「「しょっ!!!!!!」」

 

 

「知ってた」

 

 

 着いて早々、アスナとストレアによる風呂順を巡っての争いが勃発した。これでは明日に向けた話し合いとかできたものじゃない。パーティー内の団結を深めるどころか溝を深めかけている。

 ホルンはホルンで二人を宥める気が無いようで、喧騒から目を逸らして備え付けのダーツボードで遊び始めてしまった。無駄にいいコントロールしてる、綺麗にど真ん中だ。

 

 いや自由過ぎだろ。ここ一応俺が借りてる宿なんだが。

 

 

「こんなことならホルンの宿で良かったろ……。あの二人風呂に意識持ってかれてるぞ」

 

「ストレアに宿の位置知られたくないんだよ。風呂に注意行ってくれないと困る」

 

「初めから押し付ける気かよ。てか宿の位置知られたくないってなに?1ヶ月コンビ組んでるんだろ」

 

 

 そう尋ねてしまった結果、ホルンの目からハイライトが消えた。

 なに?お前も何か闇抱えてるの?

 

 

「…………アイツね、一回も宿の位置教えてないのに毎回見つけてくるんだ」

 

「え」

 

「何度僕が寝床を変えても、翌日何事もなかったかのように迎えに来るんだよ」

 

「え‶」

 

 

 聞き間違えだろうか。初手からイカれた切り出し方された気がする。

 思わずストレアのいる方向を見る。アスナと鬼気迫る表情でじゃんけんしている姿が見えた。……うん、いつもの…いつもの?彼女だ。

 

 

「それで朝起こしに来て、僕が眠そうにしてるとどうしたんだって聞いてくるんだ」

 

「そ、そう…?」

 

 

 あのストレアだ、ホルンみたいなちょっとアクの強い性格してるのとも仲良くできる温厚な常識人が彼女のはずだ。きっと気のせいに違いない。その証拠に彼のことを気遣ってる趣旨の会話が出てきたではないか。気のせいに違いない、そうであってくれ。

 

 もう一度、女子二人の方を見る。

 勝敗が決したのかアスナが誇らしげにチョキの手を掲げ、ストレアがパーの形に開いた自身の手を見つめながら膝をつく光景が見えた。

 …………いつも通りではないかもしれない。二人とも風呂に狂い過ぎてる。

 

 

「僕がね、『一晩中視線を感じて寝れなかった』って言った時。アイツなんて言ったと思う…?」

 

「…なんて言ったんだよ」

 

 

 

「『それはおかしい。一晩中見守ってたけど、ホルンのことを見てる変な人なんていなかった』だってさ」

 

「   」

 

 

 言葉が出なかった。嫌な予感はしてたけど、話のオチがある程度予想出来てたけど。信じたくなかった。

 昨晩、彼女のとりなしでアスナと和解した身としては受け入れ難い真実だ。あの時の聖母のような微笑みに勇気づけられて、お互い腹を割って話したのだ。それが、そんな。

 

 最後にもう一度、女子二人の方を見てみる。

 

 

「15分で交代だからね!」

 

「30分って言ったのストレアさんよね!?刑務所じゃないんだからのんびり入らせてよ!」

 

「やっぱりアタシ30分も待てない!!」

 

「せめて20分!」

 

「なーがーいー!!」

 

 

 …………あそこでアスナと子供みたいな喧嘩しているストレアが?マジで?

 いやでも、そんな……あれ、そう言えばなんかそれっぽいこと言ってたような。

 

 

「……昨日の会議前に言ってた『おはようからおやすみまで見守ってる』ってあれ、比喩表現じゃないのか…?」

 

「それ聞かれてたかぁ…ひょっとして近くに座ってた?」

 

「…………二人の右後方、俺とアスナ」

 

「マジかぁ……」

 

 

 ホルンも俺も頭を抱えるしかなかった。俺の中にあった『温厚な常識人』というストレアのイメージが崩れていく。

 するとホルンは観念したのか、それとも面倒になったのか。恐らく善意で伏せていたであろう情報をぶっちゃけてきた。

 

 

「……昨日は雰囲気的に明言しなかったけど、僕ね。ストレアに《はじまりの街》からストーキングされてたおかげで森で命拾いしたんだ。奇跡体験アンビリバボーって感じだよね」

 

「…………悪い。どんな顔すればいいのか、分からないけど…その」

 

「笑えばいいと思うよ」

 

 

 死んだ目をしながら彼はそう語った。

 ホルンの投じたダーツが刺さる、トンッ、という軽い音がやたらとよく響く。

 

 ……命の恩人がストーカーだなんて、ホルンも内心複雑だろうに。それでも笑えばいいと言って割り切れるのは彼の強さなんだと思う。

 積極的に仲良くする意識こそないが、かと言って拒絶もしない。あくまでストーカー気質と命の恩とを切り分け、程々の距離感で維持する。

 これが彼なりに選んだストレアとの付き合い方なのだ。なら、友人としてそれを尊重するくらいしてもいいだろう。

 

 一つ苦笑を挟み、彼に向き直る。

 

 

「……あぁ。そうだブッ!?

 

 

 言葉はそこで途切れた。ホルンの繰り出した、左ストレートによって。

 ソファーの上で寛いでいた俺は受け身も何も取れず、ただ彼の拳の勢いを甘んじて受け入れるしかなくて。そのまま床の上をもんどり打つこととなった。

 

 え、殴られたんだが。グーで。パーですらなくグーで。

 なんで?俺何かした?

 

 急に豹変したホルンの態度に困惑を隠せない。痛みがあるわけでもないのに頬を抑えつつ、下手人の少年の顔を見上げる。

 こちらを道端に捨てられたガムのように嫌悪感たっぷりに見下ろす、ワインレッドの瞳。彼は冷ややかな視線を向けたまま、こちらに一言。

 

 

 

 

「人の不幸を笑うなんて、人として最低だぞお前」

 

 

「笑えばいいのか笑われたくないのかどっちなんだよ!?」

 

 

 

 なんて慰め甲斐のない奴だろうか。俺の良心を返してほしい。

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

 キリトと駄弁りながらミニゲーム?やってたけどまったく終わる気配が無い。いつまで投げてればいいんだろうかこれ。

 ダーツで余暇を潰すのオシャレでカッコいいよね的なノリで始めたはいいが、延々と数字が減ったり増えたりしてるだけで楽しくない。そもそもどういうルール?BUST is 何?

 

 思わずイラついてキリトを殴り飛ばしてしまった。ちょっとスッキリした。

 ありがとうキリト、また後で多分もう1、2発行くからよろしく。

 

 

「そっちから凄い音したけど大丈夫?」

 

「気にしないでいいよストレア。キリトが床にキスしただけだから」

 

「え、アスナより先に床にしちゃったの…?」

 

 

 どうしてアスナが出てくるんだろうか。いやストレアのことだし大変愉快な脳内変換の式でも入ってるに違いない。

 

 と、適当に納得して終わらせると、外廊下に続くドアから奇妙な音が聞こえてくる。

 

 

──コン、コココンッ

 

──コン、コココンッ

 

 

 一定のリズムで小刻みなノックを繰り返す何者か。こんな遅くに来客、それもキリトの宿宛てとは珍しい。コイツの交友関係なんて僕とどっこいだと思っていたが。

 

 

「キリト客みたいだよ。……それにしても変なリズムだなぁ。ノックくらい普通にできないのかね」

 

「三・三・七拍子やったホルンが言っちゃダメじゃない?」

 

「──と思ったけどうん、いいリズムだ。きっとセンスが優れてるんだろうねこの人」

 

「……お前の手首、くるくる回しても痛まなさそうで羨ましいな」

 

 

 やかましい。

 

 キリトを一睨みで黙らせ、外廊下へと向かう。もしかしたら激励の為にクラインがわざわざ《トールバーナ》まで足を運んでくれたのかもしれない。

 そう思い来客を迎えようとしたのだが、何故かキリトが酷く焦った様子で止めてきた。なんだコイツ情緒不安定だな。汗ダラダラじゃん。

 

 

「ホルン、ストレア。いいか、今から入ってくる奴に、アスナが風呂入ってることは隠してくれ」

 

「……?なんで?アスナがお風呂入ってるだけなのに」

 

「なんででも、だ。『何を』知られるかより『誰に』知られるかでヤバさが変わることってあるんだよ…」

 

「ストレアあんま言ってやるなって。そうだよね……知り合いに女を自分とこの風呂に連れ込んでるのバレるの怖いよな…」

 

「もうそれでいいから…!頼むからマジで隠してくれ!このネタ握られると最悪ここの全員明日からあいつのおもちゃにされる……!」

 

 

 ちょっとからかっただけのつもりだったんだけど。え、そこまでヤバい奴知り合いに居るのお前?てか僕らも巻き添え食らうかもしれないの?最悪かよ。

 

 ひとまず隣のストレア同様に頷く。流石にボス戦を控えた夜にそんな面倒ごとはごめんだ。

 それを確認したキリトがゆっくり立ち上がり、神妙の面持ちでドアの前まで進む。しきりにこちらを確認するように振り向くのやめろ。そこまで信用ないのか。

 

 

「…………ふぅ、よし。開けるぞ」

 

「そんな猛獣の檻を開けるわけじゃあるまいに大げさな」

 

「ある意味猛獣とかモンスターより怖い奴なんだよ……」

 

 

 逆にどんな奴なのか楽しみになってきた。キリトをしてモンスターよりやばい奴とか超見てみたい。

 期待感に胸を膨らませつつ、キリトが開け放った扉から入ってくる人物に注視する。

 

 

 まず最初に見えたのは麻布の外套。アスナの赤ずきん以上に身体の輪郭を隠す()()()()な装備。

 ついで腰帯の付近に吊り下げられた……金属製の爪のようなもの。SAOあんな武器もあるのか。

 最後にフードの中に納まっている顔へと目を向けたのだが、意外なというべきか。この胡散臭さしかない装備に反し、そこにあったのは金褐色の巻き毛の女性の顔だった。その上、妙な化粧?をしている。

 

 両の頬に三本ずつ、動物の髭のような線が書き込んである。

 決して高くないキリトの背と比較してもなお低い、小柄な体格と相まって、それはとある動物を想起させた。

 

 

「……ネズミ?」

 

 

「そのトーリ」

 

 

 語尾が微妙に鼻音っぽく外れた高めの声が、にやりと歪められた口元から放たれる。

 フードを軽く指で押し上げつつ、くすんだ金色の目が向けられる。

 

 

「初めましてだナ、ホー吉。オイラはアルゴ。情報屋《鼠》のアルゴサ。……ついでに言うなラ、βテスターの一人で、オメーがラクガキまみれにした攻略本の作者サマだヨ」

 

 

 軽く胸を…胸?を張りつつ彼女はそう告げた。あっさりβテスターであることを告げたためかキリトがぎょっとしている。

 ついで思い出す。僕の自由帳と化したガイドブックを取り出した際の恨みがまし気な視線を。確かに今向けられている視線とあの時の視線は同じように感じる。それに、自身のβテストの経験を書き連ねたものにあの対応、確かに不満だろう。

 

 だがそんなことはどうでもよくて。

 

 

 

「すげー!キリト、コイツつくし卿の偏愛受けてそうな声してる!!」

 

「誰がナナチだァ!!」

 

「アルゴ落ち着け!ホルンも初手で煽るな!?」

 

 

 あの度し難さMAXのダークファンタジーでも一二を争う人気者と、彼女の声はそっくりだった。一人称まで完璧に一致してる。ちょっと隣で「おやおや」とか言いたくなるレベルで似てる。

 そんな感動から褒めたつもりだったのだが、なんでか急に激高し掴みかかろうとしてきた。キリトの手によって阻まれたので彼女の金属製の爪は虚空を引っ搔いてるだけなのだが。

 

 なんて情緒不安定な女だろう。確かにキリトが言ってたように下手な猛獣よりやばい奴かもしれない。

 しばしキリトとアルゴのトンチキ騒ぎを眺めていたが、どうやら両者の間に結構なステータス差があるようで。やがてアルゴはキリトの静止を振り切るのを諦めたかのように項垂れた。視線は相変わらずだったが。

 

 

「んぐぐ…キー坊やスーちゃんはよくこんなのと仲良くできるナ。てか、オイラがβ経験者なの驚きもしねーしヨ。頭おかしいんじゃないカ?」

 

 

 ボロクソ言ってくれるなこのげっ歯類。夢の国まで飛ばしてやろうか。

 

 

「そう言うなって。口も性格も悪いけど、悪い奴じゃないんだ。うん」

 

「そうだよ!ホルンは他の人をちょっとからかったりするし、すぐに喧嘩しちゃったりするけど。いい子なんだよ」

 

「世間一般でハ、そーいう人間を『いい奴』とは言わないんだゼ」

 

 

 なかなか辛辣だ。二人も擁護する気があるならもっと気合い入れて庇ってくれ。なんで目ぇ逸らしてるの?

 些か納得しがたい評価を受けたが、まぁいい。今日のところは引いてやる。僕もつくし卿と事を構える気はない。ナナチの声で命拾いしたな。

 

 しかし反応を見るに僕以外の二人はもう知り合いだったのか。同じβテスターのキリトはともかく、ストレアまでとは。案外世間は狭いようだ。

 

 

「アタシはよくアルゴに調べもの頼んでるからね~。ホルンとクエスト行く前とかにも、変更点ないか最新版の情報聞いてるんだよ」

 

 

 そう聞いてみたところ、朗らかな笑みと共にそんな事実が発覚した。

 アルゴも情報屋を名乗っている以上タダで動いてるわけでもないだろうに、そんな些細なことまで調べて安全確認してくれていたなんて。正直ちょっと感動した。

 これでストーカーでさえなければ素直に感謝できたのだが。

 

 

「……知らない内に結構世話になってたみたいだね。その、ありがとう」

 

「これも仕事の内サ。それにスーちゃんはオレっちのクライアントの中でも金払いがいいんでネ。お得意さまって奴なんダ」

 

 

 アルゴはアルゴで、僕の自由帳の件はそこまで気にしてないかのように振る舞ってくれている。切り替えが早いし恩に着せるような態度を取らないのも好感が持てる。これがプロと言う奴か。ちょっとカッコいいかもしれない。

 しかし少々気になる点があった。

 

 

「お得意さまって言うけど、ストレアそんな頻繁に情報買ってるの?言っちゃなんだけど、連れていかれる僕が出不精だからそこまでクエストこなしてないと思うんだけど」

 

「あア、別にクエストとかの情報以外にも売り買いしてるんダ。スーちゃんはどっちかってーとそっちがメインだナ」

 

「へぇ……例えばストレアどういう情報買ってるの?」

 

 

 もう少しこの相棒に歩み寄ってみるか、というちょっとした勇気からの発言だった。

 アルゴも自身のセールストークの流れになったからか、少し自慢げに口を開く。

 

 

 

 

「スーちゃん、何回ホー吉が宿変えても見つけてくるダロ?あれ、オレっちが情報売ってるからなんだゼ。すげーダロ」

 

「アルゴのおかげで見つけやすいから助かってるよ~」

 

「なんかストレア撒いてるはずなのに視線感じるとは思ってたけどさぁ!あれお前のせいかよ!!」

 

「ホルン!?流石に女子殴るのはダメだろ落ち着け!!」

 

 

 前言撤回だ、こんな偏執的な女に歩み寄るなど正気ではない。なんで金払ってまで僕のこと調べようとしてやがる。僕の何がお前をそこまで狂わせてるんだ。

 アルゴもアルゴだ。探偵紛いのことしてるくせに節操が無さ過ぎる。現実の探偵でも浮気調査とか汚職の証拠確認とか、もっと重要なことに投入されるだろ。仕事を選べ。

 

 こちらの取り乱しようを見て先ほどの留飲を下げたのか、鼠はにまりと人の悪そうな笑みを浮かべた。やはり自由帳の件根に持ってやがった。

 

 

「おかげさまでボロい商売できてるゼ。今後ともよろしク」

 

「揃いも揃って、人のプライバシーなんだと思ってやがる……!」

 

 

 被害者側として当然の叫びだったと思う。

 だが肝心のストーカー共はキョトンとした顔でこちらを眺めて、一言。

 

 

「商品だナ」「アタシとホルンの間にそんなの要らなくない?」

 

 

「ッ!!ッッッ!!!!!!」

 

「ホルン落ち着けよ。血管切れるぞ」

 

 

 離せキリト!このストーカー共に男女平等の真髄を叩きこんでやる!!

 

 しかし振りほどけない。ストレアほどじゃないがコイツも大分STR値に偏り気味らしい。僕の周りゴリラとストーカーばっかなんだが。例外がアスナ一人って終わってる。

 

 

「ナハハ!いい気味だゼ。まぁ仲よくしようぜホー吉。最近はスーちゃん以外でもおめーの情報欲しがる奴居るか「へぇ、そうなんだ」ら……」

 

 

 一瞬前まで楽しげだったアルゴの表情が凍り付いた。

 誰か窓でも開けたのだろうか、部屋の温度が低くなったような気がする。

 

 全員が恐る恐る声の主の方を振り向く。

 ストレアだ。笑顔だった。目だけが笑ってない。柔らかな光を湛えていたはずの紅玉色の瞳が、今は仄暗く濁っている。

 どういうわけか知らないが、アルゴの零した情報がストレア的にダメだったらしい。

 

 

「……アー、その、スーちゃん?オイラほら、情報屋だからサ?売れる情報は売りたいって言うカ……」

 

「──ねぇアルゴ。アタシとアルゴ、友達だよね?」

 

「そ、そりゃモチロン!」

 

「だったら、そのアタシ以外にホルンの情報買ってる人、教えてほしいなぁ」

 

 

 ヤバい。なんか知らないけどめっちゃキレてる。ひょっとして自分以外のストーキング許さないタイプ?なんと面倒な。

 

 暫定パートナーの危険性を上方修正していると、βテスターコンビから助けを求めるような目が向けられた。

 このストレアどうにかしろと?無茶言うな、僕も命が惜しい。

 首を振って拒絶を示す。二人とも青ざめながら更に首を振って助けを求めてくる。アルゴに至っては涙目だ。特に僕が悪いわけでもないのに罪悪感が湧くからやめてくれ。

 

 

「ア~ル~ゴ?お返事、聞かせて?」

 

「……あの、ちょっとだケ、待っテ…。相手に口止め料払うカ、確認取るカラ」

 

 

 この状況でそのセリフ言えんの凄いなお前。商魂たくましいとかいうレベルじゃない。

 

 僕とキリトは揃って(おのの)いた。情報屋稼業が筋金入りすぎる。ストレアもそうだがアルゴも大概まともじゃなかった。あるいは、恐怖心が振り切れ過ぎて正常な判断できてないのかもしれない。

 ストレアがそれに首肯すると、アルゴは今日見た中で一番俊敏な動きでメッセージ入力を始める。一秒でも早く返答が欲しいのだろう。……急いでくれてるんだからストレアも横に立って圧かけるのやめてやれ。普通に可哀そう。

 

 アルゴにしてみれば生きた心地がしなかったであろう沈黙が続き、2分ほどしたところで、先方から反応が返ってきたらしい。途端に彼女の顔に生気が戻った。

 

 

「アー…その、確認が取れタ。スーちゃん相手ナラ、口止めしないでいいらしイ」

 

「なんでそんな限定的な口止めを……」

 

「アルゴ。誰なの?」

 

 

「…………ディアベル、ダ」

 

 

「「……マジ?」」「……本当?」

 

「嘘ついてもしょうがねーダロ!?オイラ本当のこと言ったヨ!だからスーちゃんその怖い目向けんのやめてくレ!」

 

 

 もう普通に半泣きだった。至近距離であの笑ってない目向けられんの怖いもんね、わかる。僕もYESマンに変わるくらいストレアのあの目は怖い。

 しかしそれはそれとして、普通にショックだった。ディアベル、個人的にまとも寄りの人間だったんだけど…。

 

 

「あー、うん…ディアベルかぁ。ホルンの会議中の言動見ると、動向把握しておきたくなるのは分かるけどさぁ」

 

 

 僕が一体何をしたと言うんだキリト。…………いや何もかもしたかもしれないけど。

 だからと言ってプライバシー侵害されてまで詫びなきゃいけないことした覚えはないんだが。

 

 

「……………………ディアベルなら、まぁ…いっか」

 

 

 何もよくないが?なんで容認しようとしてんだストレア。相棒だろ。守れよ。

 僕的には納得しかねる判断だ。どいつもこいつも仲間意識が低い。パーティーメンバーのプライバシー侵害されてるのを見逃そうとするな。一名侵害する側だとしても。

 思わず膝から崩れ落ちた。もう立ち上がるのも億劫だった。

 

 

「……なんで…なんでストーカーが二人も増えてんだよ!?僕何かした!!?」

 

 

 しかも三人目男じゃねぇか!野郎の目線なんて向けられても嫌でしかないんだが!?

 

 

「何もしなかったら増えナイ、なんてナイーブな考えは捨てた方がいいゼ」

 

「マジで黙れお前!はっ倒すぞ!?」

 

「荒れてんナァ」

 

 

 誰のせいだと思ってやがる!殺鼠剤飲ませるぞ!SAOにそんなアイテムあるか知らないけど!

 

 慟哭を吐き出す僕の肩に、キリトがそっと手を置いた。ひどく優し気な笑みを浮かべている。

 

 

「……よかったなホルン。モテモテじゃん」

 

「僕のことをストーカーにしかモテない敗北者だと言いたいんだな!?」

 

「ごめん、流石に悪かった」

 

 

 もう嫌だ、コイツら全員嫌いだ。どいつもこいつも僕に優しくない。

 

 また僕は一つ、世界の醜さを知った気がする。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ほら、ホルンいつまでもいじけてないで。ミルクでも飲んで落ち着こうぜ」

 

「うるさい……僕の心が牛乳如きで癒えるものか…」

 

「思ったより傷が深そうだなこいつ」

 

 

 ああくそ、普通にうまいなこの牛乳…。こっち来てから飲料なんて大体井戸水ばかりだったから味がある液体口にするのが久しぶりだ。…ちょっと豆のスープが恋しくなってきた。

 

 

「二人もほら」

 

「ありがと♪」

 

「どーモ。……ふぅ、人心地ついたゼ。このミルク無料で飲める割には美味いよナ。瓶詰めして売ったら一儲けできないカ?」

 

「残念だけど、宿から持ち出すと5分で耐久全損するんだよ。しかも消えるんじゃなくてゲロ不味い液体になるっていう」

 

「ままならないもんダ」

 

 

 そっちのストーカー二人にはそのゲロ不味い液体飲ませとけよキリト。なんで普通にもてなしてるんだお前。

 

 

「さテ。大分脱線したけど本題入っていいカ?」

 

「また例の交渉か」

 

「まぁナ。クライアントがどうしても今日中に返事をもらって来いって催促してきたんダ」

 

 

 露骨に話題を変えようとしている雰囲気がする。勝手に終わらせるな被害者の声を聞け。

 そう言ってやりたいが、キリトの表情からしてそれなりに真面目な話のようだし黙っておく。

 

 

「交渉?アルゴそんなことまでしてたんだ」

 

「うんにャ、やってるのはただのメッセンジャーだナ。仲介人の真似事サ」

 

「それで今度は何だって?」

 

「今日中ならキー坊の剣に39,800コル出すそーダ」

 

「サン……ッ!?」

 

 

 サンキュッパ?キリトの剣?え、あいつの剣そんなレア武器なの?

 

 《トールバーナ》周辺で受けられるクエスト報酬の平均、1,200コル行くかどうかって水準だと思うのだが。かなりの大金が提示されている。リソースの限られてる現状でそれだけの金額を動かそうとしていることだし、その依頼人とやらの本気が窺える。

 しかし解せないのはキリトとアルゴの表情だ。てっきり金額に驚いているのかと思っていたが、こう…驚愕、というよりは困惑しているように見える。

 

 

「……どういう事情なん?」

 

「アルゴ、話しても大丈夫か」

 

「今のとこ依頼人の名前以外で口止めはされてナイ。キー坊に任せるヨ」

 

「…………実は、《トールバーナ》に来てから、誰かがアルゴを通じて俺の使ってる《アニールブレード+6》を買おうとしてるんだ」

 

「へー。そんないい武器なんだキリトの武器」

 

「そこが妙なんだ」

 

 

 どこだよ。事情が分かるよう説明してくれますかね。

 

 

「俺の使ってる《アニールブレード》は確かに序盤だと強いけど、それでも3層まで使えるかどうかって性能だ。しかも今の相場だと、素体の未強化品なら15,000コル程度で取引されてる。そこに20,000コルあれば強化素材分込みでも俺の剣と同じ性能が用意できるはずなんだ」

 

「……明らかに割に合わないよねそれ。詐欺じゃない?胡散臭さすぎるんだけど」

 

「はっきり言いやがル。まーオイラも同じこと思って依頼人に三回は言ったんだけどナー」

 

 

 交渉を持ち掛けられたキリトどころか仲介人のアルゴすらその理由を把握してないとは。益々以て怪しい。

 流石のキリトも流すに流せなくなったのか、非常に不本意そうにアルゴに確認を取る

 

 

「…………アルゴ、そいつの口止め料1,000コルだったよな?1,500出す。先方が積み返すか聞いてくれ」

 

「……わかっタ」

 

 

 再びアルゴが手早くメッセージを打ち、それから1分もしない内に怪訝そうに片眉を上げた。

 

 

「教えて構わないそーダ」

 

「口止めしてたのに…?」

 

 

 ストレアが僕とキリトの気持ちを代弁するよう疑問を零す。もう何が何やら分からなくなってきた。

 

 ただ取引は取引。キリトがストレージから1,500コルをオブジェクト化しアルゴに手渡す。

 彼女はその6枚の硬貨を指の上で弄んでからストレージにしまうと、金額分過不足ないことを確認して頷いた。

 

 

「確かニ。んでクライアントの名前なんだが…キー坊もよく知ってる奴だヨ。なんせ、昨日の会議で大暴れしてたからナ」

 

「…………まさかホル「あ‶?」冗談だって!……キバオウなのか?」

 

 

 なんで一回僕をクッションにしたのか、あとで問い詰めよう。

 

 

「そーダ。……一応聞いとくケド、面識あったカ?」

 

「ない。俺の記憶してる限り、今日のパーティーリーダーの挨拶まで直接の顔合わせすらない…はずなんだけど」

 

「…………あのさ。この取引、いつ頃からやってるのさ」

 

「…………1週間前からだ」

 

 

 全員が何とも言えない顔で黙り込んだ。軽くミステリーな雰囲気になっている。

 そもそもキバオウが何故キリトの剣を欲しがる?アイツも僕らも、明日ボス戦だろうに。なんでわざわざ戦力を低下させるような真似をするんだ。

 まさか既に、キリトがβテスターだと知っている?しかしどうやって。あだ名付けてキリトを呼んでるくらいだ、アルゴが彼を売るとは思えない。

 

 ……ダメだ、まるで情報が足りない。金を払って情報を手に入れたはずが謎が深まっただけだなんて。

 

 

「……今回も、不成立ってことでいいんだナ?」

 

「ああ……」

 

 

 アルゴもキリトも結論が出ないままらしく、最後の取引が目の前で終わりを迎えた。常識的に考えれば成立しない取引なのだ、さもありなんと言ったところだろう。

 

 

「んじゃこれでオイラはお暇するヨ。ボス攻略、頑張ってクレ」

 

「ああ……」

 

「アルゴまたね~。近い内にまたホルンの情報よろしくね♪」

 

「よろしくしないでくれます???」

 

「んじゃオイラに口止め料でも払うかイ?高くしとくゼ」

 

 

 安くしとけよ。くそ、コイツ僕からとことん毟る気でいやがる…!

 

 

「っと忘れてタ。キー坊、隣の部屋借りるヨ。夜装備に着替えるかラ」

 

「ああ……」

 

 

 キリト大分参ってるな。ああ、って呟くだけの生き物になってる。カオナシかよ。

 

 ……あれ、なんだろう。何か重要なことを忘れているような。

 

 

「キリト大丈夫かなぁ」

 

「明日に響きそうだったら適当なとこで正気に戻せばいいよ。風呂の水でもかけてやれば目ぇ覚めるだろうし」

 

「…………風呂?」

 

 

 

 

「わあァ!?」

 

 

 狙いすましたかのようなタイミングで聞こえたアルゴの声と尻もちをつく音。

 直後。

 

 

 

 

「……きゃああああああああああ!!」

 

 

 

 

(ヤバい、アスナ完全に忘れてた!?)

 

 

 脱衣所の奥から響く、もう一人のパーティーメンバーの悲鳴。

 一瞬あまりの声量に足がすくみ、初動が致命的な遅れを抱える。

 

 

──0.5秒経過

 

 

 窓から飛び降りる?ダメだ多分間に合わない!

 

 

──1秒経過

 

 

 なんかドアこっちに開いてきてる!?出てくる気か!?服ちゃんと着てくれてる!!?

 

 

──1.5秒経過

 

 

 素足がドアのフレームから見えてきた。ダメだ、多分服着てない。To LOVEる展開来そう。死んだ……目を閉じてたら無罪にならないかな。

 

 

──2秒経過

 

 

 ……?あれ、まだ目を閉じてないのに暗

 

 

 

 

「ホルンは見ちゃダメぇ!!」

 

 

「ぐア‶ア‶ア‶ア‶ア‶ア‶!目が!目がァ‶ァ‶ァ‶ァ‶ァ‶ァ‶!!?!?」

 

 

 ミシリ。と僕の眼窩の付近から、人体で鳴るべからざる音が聞こえた。

 そして同時に脳髄に突き刺さる、眼球を力づくで押さえつけられた……激痛。

 

 ()しものナーヴギアの痛覚抑制も、神経の集中した粘膜回りへのダメージは消し切れなかったらしい。現段階で目から焼けた鉄串を捻じ込まれたが如き苦痛を感じているのだが、本来ならストレアハンド式アイマスクはこれ以上の破壊力があるのだろうか。恐ろしいものである。

 

 

 そんなクソの役にも立たない考えが脳裏に浮かび、呆気なく僕の意識は途切れた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 どうしてかアスナの機嫌が非常に悪い。対照的にストレアが非常に大人しい。

 何があったのか聞いても女子勢は答えてくれない。

 

 思い出そうとすると何故か目が痛くなってくる。ついでにストレアの指先を見るのが怖くてたまらない。

 

 昨晩ほんとに何がったのだろう。僕もキリトも記憶が無いのだが。




ホルン:今回の被害担当。キチゲ発散しないとヤバそう

キリト:ラキスケ担当。『リト』繋がりだったが許されなかった

ストレア:オチ担当その1。流石にやり過ぎたと反省してる

アスナ:オチ担当その2。男子二人に飲ませるべくストレージ内に腐り牛乳装備中



2025/03/12追記 秋ウサギニキ誤字報告カンシャァ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。