VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

18 / 34
0号アンビー引けたので初投稿です。

本体80連、餅70連すり抜け無しですわ。すり抜けてはいないけど両方天井目前なのなんで(半ギレ)


遅くなりました、今回過去最長です。
また誤字とかあると思うので報告お願いします(他力本願寺)


『思春期たちの四重奏(カルテット)』 3/3

 2022年12月4日、午前10時。

 晴れ渡った空を眺めつつ、1ヵ月前を思い出す。あの11月6日を。

 

 もしもあの日、ナーヴギアを被らなければ。「リンク・スタート」の一言を呟かなければ。

 妹が用意してくれた夕食を摂り、会話から逃げるように部屋に戻り、居場所のない学校に通うために眠りにつく。

 そんな『和人』の日常に戻っていただろう、と無為な想像をしなかった日々はない。

 

 むにり、と隣から何者かが頬を指で突いて来た。

 感傷を邪魔されたようで少し不満げに振り向くと、友人伝いに知り合った少女がこちらを覗き込んでいた。

 視界いっぱいに紅玉色が広がり、咄嗟に後退る。知っていたつもりだったが距離感が近すぎる。

 

 

「な、なにかなストレア」

 

「キリト大丈夫?難しい顔してたけど」

 

「……大丈夫だよ。少し、考え事してただけだから。それよりアスナの「私がなに?」ひゅあっ!?」

 

 

 合間に挟み込まれた別の少女の声にびくーん、と全身をすくませる。

 恐る恐る振り返ると、右隣から迫力たっぷりに睨み据えるライトブラウンの目が。迷宮区で会った時と比べ幾分か打ち解けたと思っていた彼女だが、今朝は何やらすこぶる機嫌が悪い。その理由を思い出すと俺とホルンが悲惨な目に遭うため、詳細は語れないが。

 彼女はこちらに一瞥くれると、鼻を鳴らしつつ唸った。

 

 

「キリトくん。あとホルンくんも。昨日のこと思い出したら一樽分飲ませるから」

 

「わ、わかった」

 

「……僕は何を思い出したら何を飲まされるんですかね。警告内容くらい明確にしてくれます?」

 

 

 ホルンの反応に再びアスナの怒気が強まるのを感じ、慌ててとりなす。この感じだと恐らくホルンは本当に覚えてないのだろう。

 少し羨まし……いや、彼に関しては昨晩のことは覚えてない方が幸せなのかもしれない。精神衛生的な問題で。俺も正直ホルンとストレアの関係性の詳細を忘れたい。

 などと考えていると。

 

 

「おい」

 

 

 明らかに同年代のものではないしわがれた声。つい反射的に反応すると、そこに立っていたのは可能な限り顔を合わせまいと思っていた男──キバオウだった。

 

 

「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んどれよ。ジブンらは、わいのパーティーのサポ役なんやからな」

 

「…………」

 

 

 あまりの態度に俺は言葉を失った。ボス戦前からすでに団結とは無縁の雰囲気の彼に。

 そして思う、正気か?

 昨晩代理人を立て、名前を隠し、4万コル近い額の取引を破談になったばかりの相手に話しかけるとは。俺なら気まずくて20mは距離を取って踏み込まない。

 

 

「大人しく、わいらが狩り零した雑魚コボだけ相手しとれや」

 

 

 宿敵とでも言うべきホルンまで大人しくしてたことに気を大きくしたのか、彼はそのまま地面目掛けて唾を吐き捨てて帰っていった。

 のっしのっしとこちらに背を向けて歩いていくキバオウの姿に、しばしみそっかす4人全員が黙り込む。恐らく、この瞬間だけは全員の気持ちが一致していたと思う。

 

 

「……何、あれ」

 

「社畜の成れの果て。狩り零す前提とか負け犬根性染みついてやがる。…社会に揉まれるとアイツくらい尖っててもチワワみたいに丸くなるしかないのか。働くの嫌だなぁ」

 

 

 アスナの怒気を孕んだ呟きに対するホルンの返答。平時に比べれば大人しいだけで今日も彼は絶好調らしい。

 流石の彼女もホルンの毒舌に引いていた。先ほどまでの怒りは既に彼方へと消し飛んでしまったようだ。

 

 昨晩の出来事のせいか、生来の生真面目さのせいか、今日のアスナはずいぶん張りつめていた。過度な緊張もよくないので、その辺り気にかけた方がいいかと思っていたが…これなら大丈夫だろう。ホルンやストレアみたいに緩くて緊張しづらい仲間が居るのは、アスナにしてもいい傾向なのかもしれない。欲を言うなら、あのマイペースコンビにもアスナの影響を受けていてもらいたいが。見た感じその兆しはない。

 

 俺はホルンの罵倒に乾いた笑みを浮かべつつ、去り行くキバオウの背に再び目を向け……そこに違和感を覚える。

 

 

(……どういうことだ。装備が変わってない…?)

 

 

 彼の特徴的なスケイルメイルも、背中に吊られた片手剣も。何もかも昨日の会議終了時と同じなのだ。

 一体何故…彼が俺の剣を欲した理由は、てっきり今日のボス戦で用いて活躍するためだとばかり思っていたのだが。だとしたら昨晩俺に4万コルの取引を持ち掛け、取引が失敗した段階でそのコルで装備を更新するのが自然だろう。

 現に、アスナは店売りの《アイアン・レイピア》から俺が譲ったドロップ品の《ウィンドフルーレ+4》に。ホルンも同じく店売りの《アイアン・シミター》から、馬車の旅のついでに立ち寄った小遺跡で入手した《ルインズガード・シミター》という武器へそれぞれグレードアップしていた。ストレアは更新先の武器が無かった分強化に注ぎ込み、《ツヴァイハンダー+6》の限界強化まで施している。

 

 本来彼らのように、しっかり装備を整えてから戦闘に赴くはず。ボス戦で死んだらそのまま消えてなくなる4万コルを、わざわざストレージで腐らせておく理由などないと思うのだが。

 

 そんな俺の思考を遮るように、ここ数日で聞き慣れた彼──ディアベルの声が張り上げられた。いつの間にか壇上まで上がっていたようだ。

 

 

「みんな!いきなりだけど──ありがとう!たった今、全パーティー46人全員が、一人も欠けずに集まった!!」

 

 

 劇場内がプレイヤーの歓声で震える。ひとまず推測を脇に置き、俺も周囲に倣って拍手で応じた。

 

 

「今だから言うけど、オレ、一人でも欠けてたら今日の作戦は中止にしようかと思ってたよ。でも…そんな心配、みんなへの侮辱だったな!ごめん!オレ嬉しいよ!こんな最高のレイド組めて……まぁ上限にはちょっと足りてないけどな!」

 

 

 ドッと笑い声が上がった。幾人ものプレイヤーが彼の弁舌に沸き、口々にヤジを飛ばしたり身振り手振りで反応を返す。

 ……一体感があるのは結構なのだが、俺は少々、盛り上げすぎなのではと感じた。

 β時代ならそれこそ、このテンションで挑んでレイドが全滅しようと、笑い話で済んだ。しかし正式サービスの今、ゲームでの死はそのまま人生の終焉を意味する。油断一つで生き死にが左右される以上、もう少し引き締めて行動するべきだと思うのだが。

 僅かな不安から周囲を見渡すと、エギル他数名や、当パーティーの面々はこの空気に混じることなく重い表情を浮かべていた。

 特にホルンなど、珍しく顎に左手を添えて真剣に──

 

 

「……なんか、ディアベルに関して重要なこと忘れてるような。昨晩絡みかなこれ」

 

 

 お前はそういう奴だったな、と口に出さなかった俺の忍耐力を褒めたい。

 そして同時に少々不味いことになった。これでホルンが昨晩のことをしっかり思い出そうものなら、こいつが口を滑らせた瞬間に俺までアスナによって腐り牛乳の刑が執行されてしまう。

 β時代と比べ、正式サービス版では味覚エンジンにもアップグレードが施されていた。……俺が興味本位で口にしたせいで気絶しかけたあの味が、より凶悪に表現されている可能性すらある。これだけは避けねばなるまい。

 周囲がお祭り騒ぎをする中、俺は一人、ホルンが全てを思い出す前にボスを葬る算段を立てることとなった。

 

 

「みんな、オレから言うことは、たった一つだ!」

 

 

 ディアベルは腰から《アニールブレード》を鞘走り、切っ先を1層を覆う天蓋……2層の底面へと突きつけ、一声。

 

 

 

「……勝とうぜ!!」

 

 

 

 この瞬間、《トールバーナ》にプレイヤーたちの鬨の声が響き渡った。

 そしてその声は、あの1ヵ月前、《はじまりの街》に響いた絶望と恐怖を打ち消そうとするように必死なものに聞こえた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 あの会議から約20分。

 現在レイドメンバーは《トールバーナ》を発ち、迷宮区のタワーを目指して森を進軍していた。

 この薄暗い森にはあまりいい思い出がない。かつてここを通り、死ぬために迷宮区に向かった日を思い出すからだ。まさか二度も通ることになるなんて、と内心歯噛みしそうになる。

 尤も、同じ目的の為に生きて戦っている友人たちに出会えた今は、かつて抱いた絶望など欠片もないが。

 

 それにしたって決戦の日ともなればこの道も、違った景色に感じると思っていたのだ。いや、ある意味それは正しかったのだが……。

 

 

 

「お、次の来た」「よっし!今度は俺の番だな!」「頑張れー」

 

「でよぉ、そのクエストのオチがさ」「ああ待て、当ててやるよ」

 

「なんでや!」「『欧米か!』じゃないんだな」「やっぱ本場の人はそっちかぁ」

 

 

 

 ……なんと言うべきか、拍子抜けするほど緩い空気が流れている。道中前方からこのような会話が聞こえなかった時間がないほどに。

 時折り道の左右からモンスターが来ても、ここに集まったのは現段階のトップ層たち。腕自慢が寄って(たか)って攻撃するため、数秒足らずで瞬殺だ。おかげで最後尾を歩いている私たち4人のところに敵が来ることがない。

 

 

(1月に行ったオーストラリア修学旅行中もこんな感じだったっけ)

 

 

 微妙に感じていた既視感に行き着き、ようやく納得する。シチュエーションも年齢層も全然違うが、流れる空気はまさにあの時のものと同じだった。

 それに伴って僅かに首をもたげる好奇心。

 しばし悩んだのち、一旦昨晩の話に触れない方向にして、友人たちに尋ねる。

 

 

「……ねぇキリトくん。あなたは他のエ…MMO?ってゲーム経験してきたのよね」

 

「え?あ、ああ…うん。そうだけど…」

 

 

 若干怯えられているような気がする。流石に強く怒りすぎたか、と内心反省。

 

 

「他のゲームでも、移動時ってこんな感じだったの?その……遠足みたいな」

 

「まるでピクニックだな」

 

「懐かしいなゴッ〇イーター2……。しかし遠足かぁ」

 

 

 ホルンくんが軽く被せてきた言葉にキリトくんが反応した。何やら男の子の間でしか通じないやり取りをされたようでモヤモヤする。というか、何故私の疑問より先に彼の茶々に返事するのか。

 少々面白くないがこれ以上怯えられるのも癪なので、ぐっとこらえる。実際彼も先ほどのやり取りで余裕を取り戻したのか、初めて出会った時のような飄々とした雰囲気で肩をすくめてみせた。

 

 

「残念ながら、他のタイトルじゃこうはいかなかったよ。移動するにもマウスとキーボードで手が塞がってて、チャット欄にメッセージを打つ余裕なんてないからな。ボイスチャットのあるゲームならまた違うんだろうけど、俺はそういうのやってこなかったし」

 

「そういうものなのね…」

 

「ボイチャ未経験とか。キリトお手本のような陰キャムーブしてるじゃん。ウケる」

 

「うっせーわ」

 

「ホルン。めっ」

 

 

 ホルンくんほど言うつもりもないが、確かにキリトくんは積極的に交流を持つタイプではないのだろうなとは思う。決して人付き合いが苦手なわけではないのだろうが、かといってうまいとも感じない。あくまで話しかければそれ相応に反応をしてくれるだけで、微妙に気弱な空気が抜けきれてなかった。

 そんな彼が私を心配して声をかけてくれたのがきっかけで、今ここに居る。偶然と人の縁に恵まれているのを感じずにはいられない。

 

 それにしてもだ。彼が言うように、無言でひたすら移動を続けるゲームのキャラクターと、画面の向こうでそれを操作するプレイヤーの姿を想像して。つい呟いてしまう。

 

 

「……本物は、どんな感じなのかしら」

 

「へ?ほ、本物?」

 

「それって、ここみたいにモンスターとかが居る世界があったとして、それを倒すためにアタシたちみたいな剣士とかが居るとして、道中こうやってお喋りしてるのか…ってこと?」

 

 

 ストレアさんが噛み砕きながら口にした言葉に首肯する。

 ひどく子供っぽい質問なのは分かっているが、気になってしまったのだ。そんな人物たちと、私たち仮想現実の剣士に、どういう違いがあるのか。

 

 経験者っぽい雰囲気の二人が悩むように黙り込んだのを見て、やっぱりいいと、撤回しようとして。

 それより一瞬早く、キリトくんが答えを出した。

 

 

「それを日常として生きてる人なら……きっと、夕飯を食いに行くレストランとかとそう変わらないんじゃないかな。前の連中みたいに喋りたければ喋るし、そうでなければ黙る。いずれこのボス戦もそうなるよ」

 

「アタシもそんな重苦しく考えてないと思うなぁ。それにディアベルだって言ってたでしょ?今いるアタシたちがトップ層だって。なら自分や周りの実力を信じてもいいと思う。アタシは3人のこと信じてるよ♪」

 

「まぁな。それに、まだ上に99層もあるんだ。今後の攻略ペース次第では2、3年はかかると思う。それだけの時間があれば、この状況だって日常の一部にできるよ。アスナの言う、本物みたいに」

 

「……そうね」

 

 

 口では同意しつつ、敵わないなぁ、と感じさせられてしまう。

 昔の自分ならきっとその答えに耐えきれなかった。今は何とか、受け入れようと思えるが、それでも怖い。明日死ぬかもしれないと思いながら生きるのも、今日死ぬかもしれないと思いながら戦うのも。……かつて死ぬために迷宮区に向かったというのに、何とも贅沢な悩みだと思う。

 でもきっと、この人たちとなら戦っていける。

 この思いだけは嘘にしたくなかった。

 

 

「ホルンはどう思う?アスナの話」

 

「しょうみどうでもいい。僕はさっさとボス倒して不足分の睡眠に充てたい。……お、あれ的に良いな」

 

 

 ……らしいと言えばらしいのだが、もう少し憎まれ口を抑えてもいいと思う。

 二人も思わず苦笑いを受けべている。

 彼はそんな私たちを気にも留めず、左足に増えたホルスターから何かを引き抜き、左手を一閃。

 

──パァンッ!

 

 ……彼の投じた小ぶりな刃物らしきものが、視界遠方に実っていたリンゴのような何かを木っ端みじんに粉砕した。投げつけた刃物が光っていたし、あれもソードスキルなんだろうか。

 

 

「お見事。今当てたの多分《ニトロベリー》だな。たまにコボルドが投げつけてくる爆発する木の実」

 

「何それ怖い…。っていうかネーミング的に絶対開発にト〇コの読者居るだろ」

 

「たまにああいうアイテムあるよね~」

 

 

 相変わらず、私はこの少年がよく解らない。

 皮肉屋の一匹狼かと思えば、傷心のキリトくんに寄り添って鼓舞する面倒見の良さがあったり。面倒くさがりの割には、ああやってマメにスキルの練習を挿む。そのくせ今のように何の遠慮も容赦もなく会話をぶった切ったりと、割と好き放題振る舞っている。

 多分…悪い人間ではないのだろうが、善悪で判断するには少々特殊な人種というか。はっきり言って距離感が掴めない。

 

 その時、前が詰まったのか、僅かに行軍が乱れる。

 

 

「世間話はここまでだよ。……ご到着、ってね」

 

 

 厭味ったらしい口調で話しつつ彼が顎をしゃくった。

 彼に倣って軽く見上げるれば数日前、私が命を捨てようと訪れた灰色の巨塔…第1層迷宮区がそこにそびえ立っていた。

 

 

「みんな!ここからが本番だ。油断せずに行こう!」

 

 

 騎士ディアベルの号令に合わせ、全体が再び行軍を始めた。

 知らず、私の左手が腰の剣の柄の位置を確かめようとする。

 ちらりと目を向けると、そこには淡い水色を帯びた美しい細身の一振りが。昨晩、キリトくんに譲ってもらったばかりの、《ウィンドフルーレ(新しい相棒)》。

 その美しさと頼もしい手触りに、少し前まで、何も考えずに店で買って使い潰した以前の剣たちへの後悔が浮かぶ。あの剣たちも、私と共に戦ってくれた相棒だったはずなのに、と。

 数舜瞑目し、ストレージ内にお守り代わりに残した最後の一振りに向けて、声無く祈る。

 

 

(……虫のいい話だけど、どうか、私にこの人たちを守れる力を貸してください)

 

 

 この身体も、あの剣も、ポリゴンデータの構成物でしかないのだが。今はそこに、かつて見出せなかった確かな何かがある気がして。願わずにはいられなかった。

 

 

「……俺たちも行こう」

 

 

 パーティーリーダーであるキリトくんの声に全員が頷き、揃って歩き出す。

 この先にあるのは勝利か、それとも敗北か。

 意を決し、薄暗い巨塔の入口へと歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「やぁーッ!!」

 

「グギャッ!?」

 

 

 迷宮区6階。

 壁際に配置された松明の照らす通路の一つで、ストレアの剣が敵を屠った。

 エネミーネーム《ルインコボルド・トルーパー》。それが今彼女の屠った相手であり、この1層の迷宮区に最も多く配置されている敵の名前だった。

 

 空中で崩れていくその姿は、何とも珍妙なものだ。

 背丈は1.2m程度と小柄で、毛皮は赤褐色。頭部は骨製の兜に覆われ、赤く血走った目とその下に大きく裂けた牙まみれの口が見える。そして、手に握られたのは粗雑な作りの長柄斧(ポールアックス)

 総評すると無理やり二足歩行になった犬が武器を手に襲い掛かってくるようなものなのだが、この見た目で案外強いのがSAOの亜人型(デミヒューマン)という敵だった。

 彼らはモンスターでありながら手(前足?)に握ったその武器で、プレイヤーたちと同じようにソードスキルを使用できる。あの一見ガラクタのような武器も、長柄武器判定の為使用可能だ。

 他のゲームなら軽んじられる雑魚敵だが、ことSAOに関してはプレイヤーとほぼ同条件の攻撃手段を持つ強敵……なのだが。

 

 

「他愛もない……」

 

「ほとんどストレアさんのダメージで倒してたように見えたけど」

 

「お黙り。僕の奇襲から攻め潰してんだから僕の功績も多分にありますぅ」

 

「本当に先手を取っただけよねきみ」

 

 

「……むぅ。なんかアスナと仲良くなってる」

 

「…………険悪なのよりはいいと思うよ。とりあえず、お疲れ。ホルン、ストレア」

 

 

 むくれてるストレアを宥めつつ、あちらでIQの低い争いをしてる二人の仲裁に入る。あまり時間をかけていると前の隊に置いて行かれてしまう。

 

 俺たち余り者4人衆だが、よその隊ほど役割に特化した編成をしていない為、パーティー内のメンバーで役割分担をしてオーソドックスなパーティー運用をすることに決めたのだ。

 その際、適正の関係と本人の快諾からストレアにタンク役を任せ、俺とアスナがアタッカー、最後のサポーターだが意外にもホルンが名乗り出たため綺麗に分担が決まった。

 クラインと組んだ時もうまいことやっていたし、苦手ではないのだろうけど。

 一応理由を聞いてみれば、何ともデリケートな話になって。

 

 

(曲刀でDEXビルド…しかも()()()かぁ)

 

 

 SAOのソードスキルはシステム的には利き手の差は存在していない。何故ならスキルの発動さえしてしまえば、あとはシステムアシストがスキルの動きを強制してくるからだ。その為、基本的に右利き用のモーションしか設定されていない。

 しかし実際は使用者の体感のズレが生じる。重心や刃筋の立て方、柄の握り方や足運び。それも振るうのは鉄などの重さを再現された武器だ。慣れない手で扱うのは至難を極める。

 例外で左手でもソードスキルを起動できるのはごく僅かな補助スキルのみ。このゲームで利き手が違うというのは大きなハンデだった。

 

 その上ホルンは今まで右手をメインに生活してきてたらしく、ストレアの指摘を受けるまで利き手が違うことに気づいてすらいなかった。宿で俺の胸ぐらを掴んだ時とか、ダーツで遊んでた時に左手を使ったのは無意識レベルだったらしい。

 そりゃ手ブレしまくるしDEXに振るだろうと思い…同時に何とも言えない気分になった。

 

 宿での会話、自身の目の色のせいで人間関係に難儀していたという趣旨の発言を彼はした。そこから推測するに、彼にとって『他人と違う』というのがコンプレックスの根幹にあるのだろう。そのせいで無意識に他人と同じように右手での生活を送ってきたのだと思う。

 

 話しづらい内容だろうに打ち明けてくれたのと、彼なりにこのパーティーに貢献しようと選んでくれたのだと俺も、珍しくアスナまで。真剣な顔で彼の選択を尊重したのだ。

 そしてストレア同様、パーティーメンバーとして彼の負担をできるだけ取り除こうと決意した。……決意したのだが。

 

 

「…………なぁホルン。お前ステータス見せてくれた時《索敵》なかったよな?さっきの敵どうやって見つけたんだよ」

 

「耳で。足音とか鎧の出す音とか息遣いとか。あと出現時に鳴るシュワー!みたいな効果音もあるかな」

 

 

 お前の耳パラボラ集音器か何かなの?

 

 隣で聞いてたアスナが信じられないものを見る顔をしていた。俺も似たり寄ったりだが。

 

 何を隠そうホルン、俺が《索敵》で敵を見つけるより早く察知して先制攻撃入れやがったのである。《索敵》無しで。

 そして俺とアスナが呆気に取られている間に追撃し、素早く相手の武器を弾いて無力化、直後にストレアがソードスキルでトドメ。

 

 この間僅か5秒。コボルドがソードスキルを起動する暇も与えぬ超速攻。ストレアもほとんど指示なしで合わせている辺り、二人ともかなり場数を踏んでいる。

 1ヶ月で身に着けたにしては実戦的すぎる連携だった。普段の彼らとのギャップと、あまりの無法っぷりにアスナも先ほどの遠慮など吹き飛んでいる。

 

 

「……ん。止まって」

 

「また敵?」

 

「多分ね。──キリト、そこの左手の通路。数は1」

 

「……みたいだな」

 

「ほんとに音だけで見つけてるの…?」

 

 

 9階に駆け上がって少し。

 ホルンの警告とほぼ同時に俺の《索敵》にも反応が出た。軽く目配せし、彼が左足のホルスターからスローイングダガーを引き抜いて頷く。

 

 SAOはRPGの基本に忠実でありながら、RPGの定番である魔法などの遠距離攻撃が存在しない。すべてのプレイヤーが剣を取り、各々の好みの補助用スキルでバトルスタイルを確立する形だ。これが茅場の拘りなのだろう。

 では剣以外の攻撃手段が皆無なのかと言うと、そうでもない。

 ホルンが用いる新兵器、《投剣(スローイング)》スキルがまさにそれだった。これは読んで字の如く、小さな投擲用の刃物などで遠距離攻撃を可能にしたスキルとして設計されている。

 

 だがあくまで補助スキルだ。火力は極めて低く、あくまで一部のギミックに刺さる、という程度のかなり大人しい性能だった。

 俺もβ時代に軽く触ってあまりの非力さに絶望したのを覚えている。こんなものをスキルスロットの限られた最序盤に取る奴は酔狂以外の何物でもないと。

 しかしこの変態的な耳を持つ少年の手に渡ると話が変わった。

 

 

「そぉい!」

 

 

 気合の入ってるのか入ってないのか分からない声と共に、彼の左手が振り抜かれる。

 直後。

 

 

「……ギィッ!?」

 

 

 一瞬の間を開け、くぐもった悲鳴が聞こえた。同時に薄闇の向こうに赤いエネミーカーソルと緑色のHPバーが浮かび上がる。

 そしてその緑色は、端が僅かに…本当に僅かではあるが目に見える量で、減っているのである。先ほどのと合わせて二度目なのに、俺は声を押し殺してドン引きした。

 

 俺の知ってる《投剣》、あんな削れないんだけど。目算で総体力の5%は減ってる。

 しかも先制攻撃ボーナス付き。毎回これが確定するのクソ調整なんてもんじゃない。

 

 

「おっし先制攻撃ゲット。んじゃキリト、さっきの手順で」

 

「……ああ、うん」

 

 

 ホルンの繰り出した《リーバー》が長柄斧を打ち下ろし、俺が駆け付けた頃にはガードの完全に下がった首が無防備に晒されている。ホルンはそこまで済ますと仕事は終わりとばかりにあっさり身を引き、入れ替わるように俺が《バーチカル》が打ち込む。

 赤褐色の毛皮に真紅の切創が刻まれ、トルーパーのHPがあっけなく端まで消えた。またもや秒殺である。

 

 ……うん。やっぱりホルンの奇襲性能が高すぎる。おまけにこうやって火力を他のメンバーで補えるパーティーでの遭遇戦だと、低火力という明確な弱みすら消えてなくなる。

 その上高いDEX値が命中精度を底上げし、かつ《投剣》は左手でもソードスキルが起動できる珍しいスキルの為、彼にはうってつけだった。

 

 そこらの《索敵》持ちより早く敵を見つけ、《投剣》で奇襲し、先制攻撃ボーナスをパーティー全員に配って瞬間火力を担保する。はっきり言って本人の火力と性格に難が無ければ引っ張りだこになる働きをしていた。

 おかげでこっちの仕事がほぼない。ひょっとしてホルンがパーティーに居る限り、俺の《索敵》スキル出番がないのではなかろうか。

 

 連携がうまくいったことも、教え子同然の友人の成長も、嬉しいはずなのだが。何とも言えないやるせなさを感じていた。

 

 

「へー。今のHP飛ぶんだ。残るかと思った」

 

「……ストレアの両手剣ほど威力は無いけど、コツさえ掴めば俺の片手剣でもこれくらいはやれるさ」

 

「またなんか隠されたゲームの仕様でもあるのか」

 

 

 ホルンがジト目で追及してくる。

 相変わらず妙に理解が早いというか勘が良いというか。その察しの良さを人付き合いに生かしてくれよと思う。

 

 

「機会があったら説明するよ。先を急ごう」

 

「ホルンくん。次の見つけたら私に回してくれない?連携の練習しておきたいし」

 

「あいよ。……でもアスナの剣で削り切れるの?そのほっそいので」

 

「む…ちゃんとステータス振ってるからきみのよりかは威力出るわよ」

 

「左様でございますか」

 

 

 前方の隊を駆け足で追いかけつつ、軽く嘆息してしまう。

 この二人、決して仲は悪くないと思うのだが、如何せんどちらも歯に衣着せぬ物言いが多い。正直に言って連携がうまく行くか未知数である。

 

 

「アスナ。練習するのはいいけど、どうせやるならセンチネル想定の動きでやってみてくれ」

 

「アルゴさんの攻略本の通りに?」

 

「そう。基本的にはトルーパーと同じだけど、ボスの取り巻きだけあって強化版だ。全身を金属鎧で覆われてる。普通に攻撃してもまともなダメージは期待できない」

 

「だから私が狙うべきなのは鎧の隙間、喉元の一点。でしょ?」

 

 

 しっかり予習を済ませてくれていることに安堵しつつ、その言葉に首肯する。

 アスナの扱う細剣(レイピア)は現実世界に於いて、こうした鎧に覆われた相手…騎士同士の決闘などに用いられた歴史を持つ剣だ。その特徴は鎧の上から叩き切るのではなく、隙間から刃を(とお)し貫く為の細身の刃。

 そういう意味では今回の戦い、彼女の剣は限りなく本来の用途に近い形で振るわれることになるだろう。

 

 

「ホルンも、出来るならアスナが狙いやすいように相手の攻撃を強めに弾いてやってくれるか」

 

「やるだけやってみるよ。……っと、早速ですか。アスナ準備。右手2番目の通路、数1」

 

「了解」

 

 

 短く打ち合わせ、ホルンたちが《投剣》に合わせて駆け出す。

 背中に刃を突き立てられたトルーパーが忌々し気に振り向くと、そこには既にソードスキルを起動したホルンが飛び込んできていて。

 

 

「せー、のッ!!」

 

 

「グギッ!?」

 

 

 トルーパーが咄嗟に合わせた長柄斧のガードに、ホルンの繰り出した《フェル・クレセント》が激突する。

 先ほど使った《リーバー》とは逆に、掬い上げるような軌道での斬撃。流石にホルンのステータスが低かろうとソードスキルの勢いがある。あっさりと防御が崩れ、上体を大きく仰け反らせる形でトルーパーがふらついた。

 喉元を晒すように弾く辺り、なんだかんだしっかりアスナの援護する気はあるらしい。

 

 

「いっちょ上がり。アスナ、スイッチ」

 

「任せて!」

 

 

 短くホルンが呟き、アスナが前に、ホルンは反対に後ろへ。

 

 通常のMMOタイトルでは前衛が牽制やヘイト管理、後衛が火力出しまたは支援とはっきり役割が分かれることが多いが、SAOでは前述したように遠距離から火力を出す手段が存在しない。故に明確な後衛というものが存在せず、プレイヤーは全員剣の間合いでの戦いを余儀なくされる。

 が、同じ間合いで動くと互いが邪魔になり、火力効率が落ちる。そこで編み出されたのがSAOの戦術の基本、『スイッチ戦法』。

 

 これは2on2などの対戦ゲームで言う『両前衛』と呼ばれる戦術に近い。

 攻める際は前衛担当が相手の動きの阻害し隙を作り、後衛担当の剣士が前に出てソードスキルを叩き込む。逆に前衛の被害が大きくなった際は後衛がソードスキルで支援して、その隙に前衛が後ろに下がって支援役をしつつ回復に努める…という役割のスイッチ(切り替え)を繰り返す動きだ。

 これにより、前衛も後衛も長時間自身の攻撃が届く間合いで居座り続けることになり、被害を減らしつつ安定した戦果を出せるようになる。

 

 

「──シッ!」

 

 

 気合一声、アスナの右手に引き絞られた《ウィンドフルーレ》がライトエフェクトを纏い、細剣スキルの基本技《リニアー》の起動準備を示し──直後、純白の流星となって解き放たれる。

 明らかにシステムアシストの設定速度を振り切った超高速の一突き。剣身どころか右手ごと輪郭が霞み、視界に辛うじて捉えられるのは、ライトエフェクトの遺した残光だけ。まさに閃光。

 

 その刃の流星がトルーパーのがら空きの喉元目掛けて飛び込み、激しいヒットエフェクトを発生させる。直後に響くはパシャァンッ!!という甲高い破砕音。

 見れば、彼女の剣は勢い余ってトルーパーの首を一突きで吹き飛ばしており、HPが減るどころか、重要部位の部位欠損からトルーパーに即死判定を与えるに至っていた。

 HP減少の猶予時間すらなく床を転がりながら、トルーパーの骸がポリゴン片へと姿を変える。

 たった今それを連携によって成した二人は、あまりの光景にポカンと口を開けて放心していた。

 

 

「……ま、まぁ?私の剣でもこれくらいは…ってホルンくん?なんでそんなに距離を取ってるの…?」

 

「いや、その…ナメたこと言ってさーせんっした……。この通りですので殺さないでくださいお願いします」

 

「ねぇちょっと!?私のことそんな危険人物みたいに扱うのやめてくれない!?ストレアさんもニコニコ笑ってないで説得してよ!」

 

「よしよし、ホルン怖かったね~。アタシのとこおいで~?」

 

「ストレアさん!!?!?」

 

 

 同性の友人に裏切られたアスナが悲痛な叫びを上げた。哀れな。

 そしてホルンはそんな笑顔のストレアをしばらく見て……顔を逸らした。こちらの方に。

 

 

「キリト、タスケテ」

 

「キラーパスすぎる!ドロー4返しみたいな感覚で俺に投げるな!?…ハッ!?」

 

 

 左隣から冷気を感じ、振り向く。

 ストレアが居た。無表情で。例によってハイライトさんのいない赤い目がまっすぐ俺を見ている。あまりの圧に俺は一歩後退った。なまじ美人なので迫力が凄い。

 

 

「──やっぱりこういう時はキリトかぁ。…ちょっとあっちでお話、しない?」

 

「……あ、あはは…その……できれば、また今度でオネガイシマス」

 

「負けないよ?」

 

 

 何に?と聞き返しそうになった。いや知りたくはないんだけど。

 

 

「あ、アスナとホルンもお疲れ!初めてやったにしては連携も形になってたし、本番もその調子で行こう」

 

「……ねぇキリトくん。私ってそんなに怖いかな…」

 

 

 思ったより落ち込んでいらっしゃる…。声にいつもの凛とした張りがない。

 いやアスナも年頃の少女だ。例えそこまで親しくなくても、知り合いに怖い人扱いはクるのかもしれない。なんとかフォローせねば。

 

 

「……大丈夫だよ。うん。きっと武器を出したまま振り向いたからああなっただけだって。きっとそう」

 

「そ、そうよね!今度から気を付ける」

 

「ホルンも、そうだよな!な!!」

 

「ア、ハイ」

 

 

 うまくいったようだ。幾分か表情に明るさを取り戻してくれた。安堵からそっと胸を撫で下ろす。

 それにしても…これで3回連続。

 ホルンの耳が捉えた音はまぐれではないことが証明された。アスナとはまた違った形だが、ホルンもこのSAOへの高い適正を見せているのは嬉しい誤算だ。

 

 

「お前の耳すごいな、SAOの環境音だけで気づくとか。《索敵》も《聞き耳》も要らない……さしずめシステム外スキル、ってところか」

 

「システム外スキル?」

 

「ああ。ゲームのシステムにはないけど、仕様上は機能している技能…って感じかな。小技とかテクニックって言ってもいいかも。β時代にもいくつか見つかってて、人伝いにこっそり実用化されてるのもあるんだ」

 

「さっきの『コツを掴めば』って奴か」

 

「勘が良いな。そうだ、あの時俺が使った小技もその一つ。ソードスキルのモーションに沿って、かつそれを後押しするイメージで身体を動かす。するとソードスキルの完走が早くなったり威力が上がったりするんだ。尤も、これに関しては本人の才能に左右されるだろうけど」

 

「自慢か???」

 

 

 うるさいぞ。いいだろ自慢くらいしたって。俺がこの《スキルブースト》とひそかに呼んでる小技覚える為に貴重なβテスト期間を10日も使ったんだ。少しくらい浮かれてもいいだろ。

 

 

「それって、私にも出来るのかしら」

 

「出来るというか、アスナはもう出来てるよ。きみの《リニアー》、俺が見てきたどの攻撃よりも(はや)かった。アスナには間違いなく才能がある。自信を持っていい」

 

「そ、そう…?」

 

 

「利き手縛りしてる僕には縁が無さそうな小技だ……使えねぇ。二重の意味で」

 

「ホルン拗ねちゃった」

 

「拗ねてない」

 

「ほんとに~?」

 

 

 彼はああ言っているが、俺に言わせればその耳の方がよっぽどズルい。

 俺やアスナの《スキルブースト》が反復練習で身に着けたものなのに対し、ホルンの耳……仮に《聴音》とでも呼ぶべきあのシステム外スキルは、ほとんど天性のものだ。

 環境音、戦闘音、話し声、サウンドエフェクト。これらの雑多な音の中から瞬時に聞き分けられる耳などそうそう手に入るものじゃない。それも、このゲームに仕様として組み込まれたスキル以上の精度。はっきり言って異常だ。

 彼にこの耳がある限り、空間認識力でホルンの右に出るのは相当厳しいと思われる。

 

 と、考えていると、ホルンがまた何か音を拾ったのか怪訝そうな顔をした。

 

 

「……あー、ちょっとマズいかも」

 

「どうしたんだ?」

 

「前で…長物部隊かな?左右の横道から挟まれてる」

 

「マジ?」

 

「見えてきたよ!……ちょっと苦戦してるみたい」

 

 

 ストレアの言葉に従いそちらを見ると、先ほどまで距離が開いていたはずの前方の隊が足止めを食らっている。人混みでよく見えないが、確かに隊列の中央に居た連中…F隊とG隊の長物パーティーのメンバーらしき姿と、その近くで発生してる戦闘エフェクトの光が見えた。

 

 

「……多分、E隊の索敵に引っかからなかった徘徊中の敵に見つかった感じだね。武器の取り回しのせいで反撃に回れてない」

 

「乱戦中だから意図せず仲間に攻撃を当てても犯罪者(オレンジ)カーソルにはならないけど……」

 

 

 しかしそれだけだ。乱戦時の味方は()害対象にされないのでHPが減ることはないが、障害物判定の為攻撃を弾かれて隙が生まれてしまう。あの2部隊はその危険性の高い長柄武器の使い手だけを集めているので、こういう遭遇戦になるとヤバい。

 

 

(どうする、加勢に行くべきか?でも前に他の隊の連中が重なりすぎてて進めない…!)

 

 

 時折り戦闘音に混じって焦りの声が聞こえるようになり、俺や周囲にもそれが伝播し始めた……その時だった。先頭からレイドリーダーの鋭い指示が響いたのは。

 

 

「慌てるな!F隊、G隊それぞれリーダーの人を残して通路前から下がってくれ!リーダーはソードスキル準備!合図に合わせて通路の敵にぶち込んでくれ!」

 

「は、はい!」「わかった!」

 

 

「E隊、敵のノックバックに合わせてスイッチ!準備してくれ」

 

「任してやディアベルはん!」

 

 

 手早く周囲の隊にも聞こえるよう号令をかけ、状況への対処を始める。指示に従い下がってくる長物部隊の邪魔にならぬよう、合わせて俺たちも後退した。

 それを確認し、騎士ディアベルは剣を抜いて檄を飛ばす。

 

 

「──今だ、ソードスキル一本!押し込んでやれ!」

 

「食らえ!」「さっきのお返しだ!」

 

 

 鬱憤を晴らすように二人の槍がソードスキルを発動させ、両者の近くに居たトルーパーをそれぞれ通路の奥へと突き飛ばす。

 一瞬、奥へ消えていく細く赤いコボルドの足が見え、直後に何かが床をのたうつ音が聞こえた。

 

 

「E隊突撃!リーダー二人は下がるんだ!」

 

「「了解!」」

 

「ほな行くで!気張れや!!」

 

「「「応!!」」」

 

 

 キバオウ達が素早く左右に分かれて突撃していき、窮地を脱した両隊のリーダーが仲間のもとに晴れやかな表情で戻っていく。彼らも二人のリーダーを口々に賞賛しつつ出迎えていた。

 

 

「何とかなったみたいだね。いやぁ騎士サマ様って感じ」

 

「……だな」

 

 

 内心、俺は舌を巻いていた。

 ディアベルの思い切りのいい判断とあの的確な指示、日頃から発揮しているリーダーシップは伊達ではなかった。それもレイド戦に慣れた歴戦のMMOプレイヤーのものだった。この圧倒的な指揮能力から来る自信があればこその、あの出発前の演説だったのかもしれない。

 盛り上げすぎではと危惧していた俺も、これには意見の撤回をせねばなるまい。結果で示されてしまえばもはや何も言うことはない。ここは潔く、ディアベルに全幅の信頼を置いて行動するのがレイドメンバーの責務だろう。

 

 

「──終わったみたいだ。死んだ奴もいないっぽい」

 

「……ふぅ、ちょっと焦ったわね」

 

「だね~」

 

 

 E隊がそれぞれ処理を終え通路から出てきた。ディアベル指揮下で順当な活躍をした為か、どことなく自慢げな表情をしている。

 そして不意に、キバオウの視線がこちらを見て。

 

 

「後ろのガキんちょ共頼らんでもなんの問題もあれへんな!ダハハッ!」

 

 

 ……などとこちらに聞こえるようわざわざ言ってくれやがったもんで。ホルンとアスナの視線が剣呑な光を帯びる。

 

 

「アスナ、ホルン」

 

「……大丈夫。わかってる」

 

「そうだよ、あれくらい言わせておけばいいさ。だって──」

 

 

 ホルンの左手がホルスターに伸びたのを見てギョッとした。

 流石にこの状況で手を出したら言い逃れなどできない。それも、乱戦は終わってる。今当てたらホルンのカーソルが変わってしまう。

 咄嗟に彼の手を止めようとするも間に合わず、ホルンの左手は目にも止まらぬ速さで振り抜かれ、《投剣》の基本スキル《シングルシュート》を起動。ライトエフェクトを伴って投じられた小刃が空間を貫いて飛び。

 

 

「ダハハハ、はぁっ!?」

 

 

 キバオウの出てきた俺たちから見て右側の通路の縁に、勢いよく突き刺さった。

 それに伴って生じたサウンドエフェクトに驚いたのかキバオウがその場に転ぶ。

 数舜、何が起きたか分からなかったようで目をパチクリしていたが、宿敵たるホルンの所業だと気付くや否や、牙を剥き出しにしてこちらを睨みつけてくる。

 

 

「こんガキ…調子に「キバさん!奥に一体湧いてる!」なんやと!?」

 

 

 E隊メンバーの声と思しき警告に全員が通路の奥へ視線を向ける中、俺たちみそっかすパーティーの面々はなんというかこう……暗黒微笑とでも表現すればよさそうな笑みを浮かべたホルンの方を注視した。

 

 

「ああやって、派手に恥かいてくれるし」

 

「性格悪っ……」

 

 

 アスナが思わずとばかりに三人の意思を代弁してくれた。声をかけるのではなく《投剣》で驚かせたことも、それを追及させないタイミングで仕掛けたことも。他の表現のしようがなかった。

 キバオウにしてみれば赤っ恥もいいところだろう。何せ派手に転んだばかりか、自身が処理を担当した通路からの潰し損ねを、目の敵にしてる少年に伝えられたのだから。

 というかだ。

 

 

「…………ホルンの耳、どれくらいの距離まで音拾えるんだ…?」

 

「さぁ?計ったことないから知らない」

 

 

 人間ソナーかお前は。

 通路奥のどれくらいの位置のやつ見つけたの知らないけど、ここから直線位置のキバオウまででざっと15mはあるんだが。そこから通路奥まで加味したら20mは下るまい。バケモンかこいつ。

 

 

「……ッ、ディアベルはん。すぐに」

 

「いや、キバオウさんたちE隊は前列に戻ってくれ」

 

「せやけど!」

 

「ここでいつまでも足止めを食らうわけにはいかないんだ。キバオウさんには、レイド全体の行軍スピードを保つ為にも、前に出て俺たちが進めるよう道を切り開いてほしい。ダメかな?」

 

「……くそっ、戻るで!」

 

 

「処理はH隊に任せる。リンド、彼らが来るまで押さえてもらえるか?」

 

「了解です」

 

「みんな!今のうちに横道の前を抜けてくれ!慌てないでいい、前の人とぶつからないよう頼むよ!」

 

 

 ディアベルのとりなしでキバオウも折れたのか、如何にも不服そうではあるが前列へと戻っていく。最後に一度、ホルンへ向けて恨みがまし気な視線を残しつつ。

 反対にディアベルはこちらを一瞥し、何故かウィンクを飛ばしてきた。……それを向けられたであろうホルンが顔をしかめ、隣でストレアのハイライトがまた旅立ちそうになっていたが。

 全体がまた駆け足で前進を始め、それに倣って走る俺たちの前に、件の横道はすぐにやって来た。

 

 

「来たな。スイッチ頼む」

 

「らじゃー。ストレア、カバー」

 

「任せて♪」

 

 

 リンドと呼ばれた曲刀使いが道を開け、そこに《リーバー》を起動したホルンと、《アバランシュ》を発動したストレアが飛び込む。

 元々彼が軽く削っていたのか、トルーパーのHPはガードの上から殴られたにもかかわらず呆気なくゼロになり、砕けて消えた。

 

 

「はい終了」

 

「お疲れ~。リンドもありがと♪」

 

「どうも。……あんたたちも、思ってたよりいい腕だ」

 

 

 会話の感じ、彼とホルンたちは知り合いなのだろうか。

 そんな俺の考えを知らずか、リンドはホルンをじっと見つめていた。

 

 

「……なんすかね」

 

「いや……ディアベルさんがあんたを買ってるのが不思議だなと」

 

「喧嘩売りに来たの?おたくのご主人様そんなこと言ってなかったと思うんだけど?」

 

「あー、悪い…。うまく表現できなくてな。ともかく、ボス戦も頼む。この調子でやってくれれば足を引っ張られることもないだろうしな」

 

「一言多いんだよボケ」

 

「お前が言うな」

「きみが言っちゃダメでしょ」

「ホルン人のこと言えないでしょ」

 

「泣くよ?」

 

 

 流石にお前に泣く権利ないだろ。

 三位一体の追撃にホルンが不満そうに睨んでくる。なんで被害者仕草できるんだろう。

 リンドはその光景に困惑しつつも、用は済んだのかあっさり走って前列に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 結局、道中危なくなった場面はそれくらいだった。

 この他にも二回ほど遭遇戦が発生したが、事前に一度奇襲を受けたためか全体的に警戒心が強く、すぐさまE隊に交代。やたらと張り切ったキバオウが制圧しに行くのが印象に残っている。余程先ほどの一件が屈辱だったらしい、ホルンのいる俺たちH隊には絶対回さないという強い意志を感じた。

 

 そして遂に。

 

 

 

「……キリト。このあからさまな扉だよね」

 

「…………ああ、そうだ」

 

 

 

 同日、12時30分。迷宮区最上階、踏破。

 

 

 俺たちの目の前には灰色の石材で出来た、高さ5mはあろうかという大扉があった。

 その表面にはこの先に座すボスの威容を知らしめんとばかりに、恐ろしい獣頭の怪物のレリーフが刻まれている。

 

 忘れもしない、あの4ヵ月前。

 俺の前に立ちふさがった大扉だ。

 

 

「みんな、分かると思うけどこの先がボス部屋だ」

 

 

 その大扉に手をかけたまま、青髪の騎士がこちらに語り掛けてくる。その顔は強い意志の光を宿しつつも、緊張の為かこわばって見える。

 しかしそれにヤジを飛ばす者はいない。皆一様に、同じような硬い表情を浮かべているからだ。

 

 

「ここまで一人も欠けずに辿り着けたこと、まずは喜ぼう。……そして!ボスを倒した後、また皆で同じように喜ぼう!みんなとならきっとできると信じている!!」

 

 

 今一度、ここに40数人のプレイヤーの鬨の声が響く。

 ボス部屋前の空間は、当然だが《トールバーナ》よりずっと狭い。空気に殴りつけられるような感覚に一瞬歯噛みし、反射的に声の主たちを睨みそうになった。

 そして、その顔を見た。恐怖を押し殺すように、戦意を燃やすように、必死になって叫んでいる男たちの姿を。

 

 誰だって死にたくはない。だが同時に、何物にもなれずに腐っていくのも怖い。だから彼らは、こうして戦士になろうと声を張り上げているのだ。

 

 ならば、と隣の仲間たちを見やる。

 

 

 フードの奥から、彼女の剣の切っ先のように鋭い目を見せるアスナ。

 

 

 平時の朗らかな笑みを消し、柔和さを残しつつも真剣な表情を受かべたストレア。

 

 

 ……こんな時でも欠伸を噛み殺し、周囲の空気など知らぬとばかりにいつも通りのホルン。

 

 

 彼彼女らも、この死地に挑む仲間だ。

 

 

 アスナは言った。どうせみんな死ぬと。それが早いか遅いかの違いでしかないと。

 その言葉だけは証明させない。

 あの日流星のように燃え尽きる為に戦っていた彼女だが、全ての流星が大気で燃え尽きるのではない。身を焼かれようと、砕かれようと、その輝きを地表に届かせる星もあるのだ。彼女はきっとそちら側だ。

 今日の戦いを生き延び、彼女は真なる星としてきらめきを放つだろう。

 

 

 ストレアは言った……らしい。この世界は作り物だけど、偽物ばかりじゃないと。

 俺もそう思っている。

 ここできみたちに出会ったことを嘘にしたくない、ここできみたちと戦った日々を偽物だと言わせたくはない。

 今日を生き抜き、4人全員で明日を生きたい。

 

 

 ホルンは言った。俺に『キリト』になれと。

 本当に嬉しかったんだ。

 ここでそう生きていいのだと、なれるんだと信じてくれたことが。

 ならば俺の成すべきことは一つだけだ。

 

 『剣士キリト』として。

 最後まで死力を尽くして戦い抜くこと。

 

 あの日その為に、この剣を取ったんだ。

 

 

 決意を新たに、大扉を睨む。

 

 

 

「────行くぞ!」

 

 

 

 短く一声発し、ディアベルの手が大扉を押し開ける。

 扉の向こうに明かりの灯らぬ薄闇に包まれた大部屋が、まるで魔物が口を開け広げるように出迎えてくる。

 

 ディアベルに続くようプレイヤーたちがなだれ込み、すぐに俺たちの前が開いた。

 全員が頷き合い、各々の剣を抜き放ってそこに飛び込む。

 

 

 第1層ボス戦、開始。




今更ながら思春期4人組の相関

ホルン
→キリト:同性同年代なので一番付き合いやすい。キリペディアが便利。本人には絶対言わないが『剣士キリト』が強さの基準になるレベルで信頼してる

→アスナ:ちょっと怖い。付き合いが一番浅い相手なので距離感掴み切れずに口喧嘩多発。それはそうと美形だと認めてるしおちょくりやすくて楽しいと思ってる

→ストレア:頼りにしてるし信頼もしてるが、出会い方と普段の距離感のせいで素直になれない。「自分の目とお揃いで嬉しい」という発言に、かつての友人の姿がちらつく


キリト
→ホルン:親友扱い。同じく同性同年代なので気兼ねなく振る舞えるし、ゲームの話がしやすいので付き合ってて楽しい。まだもう少し師匠面したいお年頃

→アスナ:出会いこそ散々だったが、腹を割って話し合ったので現段階でかなり仲は良好。βテスターの自分にできないことを期待してしまいそうになってたまに自己嫌悪

→ストレア:アスナとの仲を取り持ってくれた恩人…だけど色々あってちょっと怖い。ちょっとだけ怖い。ひそかに同じβテスターなのではないかと疑っている


アスナ
→キリト:命の恩人であり師匠みたいな人。まだ距離感を掴めてないが、つらく当たってしまった分仲良くしたい。もう一人と違って普通に少年してるので少し安心してる

→ホルン:もう一人の方。だが周囲の空気に屈さない意志の強さと、誰にも取り繕った振る舞いをしない公平さは認めている。それはそうともっと火力出して

→ストレア:お風呂仲間であり友人。真摯に悩みに向き合ってくれたことと日向のような抱擁感があるためか、姉が居たら彼女のような人がいいと思っている。たまにホルン優先で軽く扱われるのがショック


ストレア
→キリト:ホルンのお友達。普通の男の子の反応するのが楽しくてたまにからかいたくなる。なおホルンの一番を譲るかは別問題のため「お話」の空気になる

→アスナ:お風呂仲間で友達。姉妹に彼女が居たら楽しいと思っている。キリトと仲良くしてるのを見るのが好き。じれったくなってきたのでどこかでそういう空気にしようか画策中

→ホルン:アタシのパートナー♪何故こんなに気になっているのか本人も解っていない。解っていないせいで解る為に付きまとっちゃうくらい気になってる。ホルンは泣いた



[Next Episode.『死闘 獣頭の王』]


2025/08/22追記 naka sアニキ誤字報告あざます('ω')ゞカンシャァ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。