VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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初めて記念作品上げるので初投稿です。


お待たせしました、いつだか言ってたお気に入り100件記念単話です。ありがたいことにリクエストをいただけたので書いてみました\( 'ω')/


問題があるとするなら、この話を書いてる内にお気に入りが200件いったことです(白目)
ありがたいんですが、筆の遅さを感じて心が痛いです……
200件記念の方も本編の2層終了辺りで書いてみますので、またよろしくお願いします。


※※注意※※

この話は執筆時点でのプロットにおける人間関係で書かれております。本編更新によって内容に齟齬が出る恐れがあります。予めご了承ください。


こぼれ話
FAV100件記念単話『黒と白の狂詩曲(ラプソディ)


 2024年3月7日、アインクラッド50層《アルゲード》の一角。

 

 

「終わった……絶対に嫌われた…………」

 

「定期的に終わってて面白いねお前とアスナ。寧ろどのタイミングで関係改善してたのか知りたいわ」

 

 

 机に突っ伏した俺の頭上から冷ややかな指摘が突き刺さる。

 周囲で苦笑を浮かべてる兄貴分たちと違い、1年以上経った今でもこの同年代の友人は俺に辛辣なままだった。

 

 

「ホルン、お前さんもう少しこいつに優しくしてやったらどうだ。昔からのツレだろう」

 

「本音は?」

 

「いつまでもそこで湿気られてると客足が遠のく。これでも食って切り換えろ」

 

 

 元々そんなに客なんて居ないだろう、という文句が出そうになったが、しれっとホットサンドの乗った皿を目の前に置かれてしまえば言い返すことなどできるはずもなく。

 成長期真っ盛り*1の空腹には勝てず、這うように伸ばした手で一切れ掴み、咀嚼。

 カリカリに焼かれたベーコンの香ばしさと程よい油っけ、塩コショウの利いたフワフワのスクランブルエッグ、瑞々しいレタスのしゃきっとした食感がきつね色に焼かれたパンと共に口の中をいっぱいにする。これがナーヴギアによって再現された電気信号的存在にすぎないと頭の片隅では分かっているのに、二口三口と続き……気付けば4切れ乗っていたはずのホットサンドは欠片も残らず消えていた。

 

 

「……ごっそさん。エギルはこの店、こういう軽食メインの方が受けがいいと思うぜ」

 

「かわいげのねぇ言葉足すんじゃねぇよ。……まぁ否定はしない。これでもリアルではカフェのマスターやってるからな」

 

 

 ほう。それはいいことを聞いた、ゲームをクリア出来たら是非ともその店に行ってみよう。冷やかしがてらに。

 

 

「旦那、僕にもホットサンドよろしく。あとジンジャーエールおかわり。代金は黒いのに回して」

 

「おめぇらよぉ、もうちょっとエギルの店をらしく使う気はねぇのか。ここ一応雑貨屋だぞ」

 

「『一応』は余計だクライン。それに軽食はお得意さんに出してるだけで常備はしてない」

 

「んじゃ俺にもなんか頼むわ」

 

「おう、もっと金落としてから出直してくれ」

 

 

 ケチくせーな!という野武士面の男の言葉に陰鬱な気持ちが少し和らいだ。

 禿頭の巨漢、エギルの経営するこの店は目抜き通りの先に位置するこじんまりとした雑貨屋だ。《アルゲード》特有の雑多な空気に漏れず、彼の店もこう…内装の趣もあってアングラな雰囲気が漂う、俺みたいな奴にはめちゃくちゃ刺さるものがあった。

 そしてこの5人も居れば狭く感じる店の中は、彼のお眼鏡にかなったものは素材、武器、回復アイテムなど見境なく陳列棚に並び非常に混沌としている。それらは今、俺たちの来訪に合わせてあのカウンターの奥に封印されているようだが。

 

 

「んで、今回キリトがダレてるのはアレか?昨日のアスナとの決闘(デュエル)が原因なのか?」

 

「うぐ……」

 

 

 野武士面ことクラインの指摘が胸を穿つ。かつて青イノシシ相手にへっぴり腰のソードスキルを放っていた人物とは思えない切れ味だ。

 

 

「いや、多分あいつの作戦にケチつけたことから気にしてそこでウダウダ言ってる。大勢の前で恥掻かせちまったー、って感じで。それとは別に普通に負けず嫌いだから、決闘で勝てたこと自体は安堵してて自己嫌悪してると予想」

 

「うぐぐ……」

 

 

 極低温を帯びたワインレッドの瞳を向け、ホルンが無慈悲なる追撃を放ってくる。相変わらず舌鋒鋭い皮肉屋である。無駄に的確な指摘で反論すらさせて貰えない。

 

 

「なんつーか…キリの字はちゃんとお年頃してんな。ホの字と違って」

 

「やかましいわ」

 

「…………なんかいい案ない?こう、お詫び的な」

 

「アインクラッド風呂巡りツアーでもやっとけば?お前の奢りで」

 

「普通にセクハラじゃないかなそれ……」

 

 

 確かに彼女は風呂や温泉の類いが好きだったが、だからと言ってこちらから誘うのは問題があるだろう。ひょっとして女顔女顔といじっている内に彼は俺が男子だということを失念しているのだろうか。少し腹が立ってきた。自分も大差ないような見た目のくせに。

 

 内心の不満を飲み込みながら睨んでいると、ホルンは注文が多いなコイツと言わんばかりに舌打ちを鳴らした。眼力も相まってめっちゃ怖い。

 しかしそこは親友、なんだかんだと面倒見のいいこの少年は、空間ウィンドウでいくつか情報をピックアップして表示してきた。

 

 

「アルゴにサクッと聞いた。無難なのから個性的なのまでデートコース18選。後はお前がアスナに合わせて考えろ」

 

「お、おおぅ……思ったよりもガチなの来た。っていうか、デートって」

 

「年頃の男女がサシであれこれするならデートなんじゃねーの?ストレアはそう言ってた」

 

 

 一応男だとは忘れられてなかったらしい。

 しかしそうなるとだ、コイツちゃんと俺とアスナの性別やら関係性やら加味してこれらの案を出してきたということなのでは。

 急に胃が痛くなってきた。

 

 

「…………その、ついてきてくれたりとかは?」

 

 

 昔のコンビを組んでいた時期ならいざ知らず、今の彼女は攻略組最強のギルドの副団長。片や俺は攻略組きっての問題児の一人。それも、攻略にあまり熱意を燃やしていないということもあって、昔ほど関係性もよろしくない。

 なのでこう、ヘイトを受け持ってくれそうなホルンとか、アスナと今でも良好な関係を維持しているストレアが居るとありがたいのだが。

 アスナもきっと、俺とサシよりもこいつらを合わせた昔なじみの4人で行動した方が喜ぶと思う。

 

 そんな俺の弱音を汲んでくれたのか、ホルンは苦笑を浮かべた。

 最近知ったのだが彼はこちらより一歳年上だったらしい。であればこれも、手のかかる弟を相手にするようなテンションなのか。

 そう思えば彼の口にした、仕方のない奴め、という憎まれ口も今はどこか頼もしく感じる。

 

 一拍置いて、一言。

 

 

 

「甘えんな」

 

「はい」

 

 

 

 俺の親友は、アインクラッドで一番俺に優しくなかった。

 コイツにお兄ちゃん属性とやらを見出した俺が間違っていたのだろう。

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

 肩を落としながらキリトが退店し、店内の平均年齢が上昇した頃。僕は周囲にはばかることなく背もたれに身体を預け、なんとか吐き出さないよう取り繕い続けた本音をぶちまけた。

 

 

「両片思い最悪にめんどくせぇ……早よくっつけ色ボケ陰キャコンビが…僕を解放しろ」

 

「表向きは不真面目なソロの問題児と《攻略の鬼》だもんなぁ。俺も正直おめーからあの二人のソロ時代の話聞いてなかったら信じられねぇし。まぁ頑張れ」

 

「恋のキューピッドお疲れさん。注文のサンドとドリンクだ」

 

「あざーす……」

 

 

 大人二人からもどこか同情的な扱いを感じる。それもそうだろう、何せ今回のようなキリトの泣き言慰め会、一度や二度の出来事ではないのである。

 

 アスナの成長を願ってコンビ解散したはいいが、当時アスナはキリトに見捨てられたと思ったらしく、以来攻略だけに熱意を燃やし自身を切り捨てたキリト以上の成果を出すことに固執し始めていた。

 そしてキリトも急に投げ出すような形になってしまった負い目から、目に見えてアスナへの対応が変わった。腫物を扱うようとでも言うべきか、急激に距離が出来たのだ。

 しかもそのくせキリト自身は僕やストレアと変わらずつるんでいたせいで疎外感と自尊心の暴走でもしたのか、一時は僕とストレアまで巻き添えを食らっていた。その時期はストレアとすら険悪だったのでアスナにしても相当堪えたのだろう。

 結果生まれたのが自他共に厳しい攻略の強制加速装置、《攻略の鬼》と呼ばれるに至った少女である。まぁ僕に言わせれば推しを失って仕事以外の生きがいが無くなったOLのような可哀そうな生き物なのだが。

 

 そして今日に至るまで、二人の間に引かれた溝は埋まることなく続いている……というのが、多少事情を知っている奴らに伝わるキリトとアスナの関係。

 問題なのは、あの二人とそれなり以上に親しい連中に降りかかる、犬も食わないような話の数々の方だった。

 

 

「キリトは毎回僕に泣きついてくるし、アスナはアスナでストレア経由でこっちの近況気にする位に未練たらたらだし……マジでめんどくさい…!」

 

 

 どちらもこう、思春期を拗らせに拗らせたお年頃共だったのだ。

 やれまた言い合いになった、やれ獲物の横取りをしてしまった、やれ最近彼がソロ側の代表みたいなことやらされてて苦しそうだからどうにかしろ、やれ《ビーター》風情がアスナ様に近づくなと文句を言われたなど、件の二人の思春期メンタルを傷つけた無数のしょんぼり録を余すことなくこちらに投げかけてくるのである。

 知らねーよと言って投げ出したくなった回数はもはや数えていない。コイツらは僕のことを不満を吐き捨てる為の痰壺(たんつぼ)とでも思っているのか。

 

 キリトは自分から解散を切り出したせいで彼女に物理的にも精神的にも近づけないチキンソウル全開になり、アスナも関係改善を望んでいるが意地を張っているせいで今一歩踏み込んでこない。

 どちらも相手からのアクションを待ってばかりの受け身だった。攻略組指折りのアタッカーが揃いも揃って情けない。

 しかもそのアクションを起こさせるために毎回僕とストレアが巻き込まれるのだ。いい加減アドバイスの残弾も残っていないので勝負を決めてほしいのだが。

 

 

「昔の俺に『未来ではホルンがキリトの面倒見てるんだぜ』って言っても信じねぇだろうなぁ」

 

「そうか?口では面倒だのなんだのと言ってるが、こいつ割と昔からあいつらの世話焼いてたぞ」

 

「いい加減焼きすぎて灰も残ってねーよ…これ以上どうしろって言うんだ……」

 

 

 いっそストレアと協力して二人をどこかに閉じ込めて、疑似的にチョメチョメしないと出れない部屋でも作ってやろうか。SAOの中でその手の行動できるのか知らないけど。

 

 

「しっかしよぅ、おめーもキリの字も相手が居て羨ましいぜ。俺にも出会い分けろ」

 

「リズにでもコクってみれば?多分だけど前歯数本で済むよ」

 

「結局ダメじゃねぇかよそれ!!」

 

「キリトはあれで何とかしてもらうとして、アスナはどうする気だ?《血盟騎士団(KoB)》の副団長閣下が簡単に休みを取れるとは思えないが」

 

「ごねてはみるけど、あの鉄ハゲ、勧誘しつこいから関わりたくないんだよなぁ……旦那たちの方で根回ししてくれたりとか」

 

「俺たちが言うよりお前さんが言う方が確実だろう。あの聖騎士も、随分とお前さんやキリトを買ってるようだしな」

 

「有難迷惑極まるね……」

 

 

 アスナの所属するギルドKnights of the Blood、通称《血盟騎士団(KoB)》は攻略組の最高戦力だ。しかも彼女はそこのサブリーダーであり、同時に階層攻略は総指揮を任されることも多い。多方面から彼女の実力が評価されているのは友人として誇らしいが、それだけに彼女の抜けたせいで生まれる穴というのはどうしても大きくなるのが現状だ。

 当然、簡単にはいそうですかと休みが取れるわけもないので、彼女の上司であるとある剣士との交渉になるのだが……件の聖騎士殿には煮え湯を飲まされたこともあって苦手意識が強い。関わらずに済むならそうしたいのが本音だ。

 ただまぁ、やるしかないだろうなぁ…、とはひしひしと感じている。めちゃくちゃ嫌だが。気は全く進まないが。

 

 

「…………はぁ。やるだけやってみるよ。なんかあったら骨は拾ってくれ」

 

「おう。気をつけな」

 

「頑張れよ!」

 

「頑張ってほしいのは僕じゃなくてあいつら二人の方なんだけどね」

 

 

 違いない、と笑う年上の友人たちを残し、重い足取りで席を立つ。

 目指すはアインクラッド55層《グランザム》……《血盟騎士団》本部。

 

 とりあえず、軽くカチコミかける(八つ当たりする)ことにした。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 時を同じくしてアインクラッド48層《リンダース》の一角。

 

 

「絶対に嫌われた……血も涙もない薄情な女だって思われた…………」

 

「うんうん、何回目か分からないくらい好きになったり嫌われちゃうくらいアスナとキリトは仲良しさんだねぇ」

 

 

 ほわほわと笑っているが言葉に慈悲を感じなかった。ホルンくんもこんな気分だったのだろうか。

 

 

「ねぇストレア、アスナのこれ今月入って何回目?」

 

「アタシが数えた範囲で3回目かなぁ」

 

「……今日まだ7日よね?ペース早すぎない?」

 

「昨日の午前午後と続けざまにこうなってたよ」

 

「スパンまで短ぇわね!?どんだけ拗らせてんのよこの子は!!」

 

 

 ぐさり、と親友の言葉が胸を穿った。メイス使いなのになんと鋭い切れ味だろうか。思わず涙腺に来た。

 

 

「……うぅ、ストレアさんリズがいじめるぅ」

 

「よしよし、アスナ頑張ったねぇ。ストレアさんの胸においで~?」

 

「あったかい…いいにおいする……」

 

「……同性なのになんで微妙にインモラルな空気になるのかしら」

 

「リズもおいで~」

 

「え、なんであたしま…ちょ、力つよ……!あ、ヤバいこれ…でかくてやわっこい……

 

 

 ストレアさんの装備は紫を基調としたドレス調のものなのだが、こう…肩とか胸元がかなり曝け出された、攻めたデザインをしている。私が今顔を埋めている胸元など、豊かな白い谷間とその付近にちょこんと並んだ二つの黒子が見えるのでかなり煽情的だった。

 だがしかし、彼女の日向のように柔らかで温かな雰囲気の為か、そういった感情よりも先に母性を感じるのだ。特に私の場合、生家の母が厳しい人と言うのもあって彼女のように甘えさせてくれる人に飢えている節がある。

 おかげさまでこうして泣きつく回数は増える一方だ。治したいとは思っていたはずなのだが。

 

 しばしそのまま、ストレアさんに抱きしめられるがままになっていたが、リズが先に音を上げたせいで強制的に話し合いが再開することとなった。

 私の持ち込んだミルフィーユを口にしつつ、リズが口火を切る。

 

 

「んで?アスナのこれは何、今度は何やらかしたの?」

 

「攻略組内で意見対立しちゃって。ギルド側の代表としてソロ側代表のキリトと決闘したの。で、負けちゃった」

 

「あーはいはい、また例の『キリトくん』絡みね。懲りないわねー」

 

「うっ……」

 

 

 事実を列挙されただけなのにリズの視線が少しばかり冷ややかになった。何故だろう、別にキリトくんの印象が悪くなるような言い方はしてこなかったはずなのだが。

 誤魔化すように口にしたスフレケーキは、上にたっぷりかかっていたはずのホイップクリームの味も、肝心のフワフワの生地の食感すら感じなかった。

 

 

「そいつと会ったことないからイマイチこの子がご執心な理由が分かんないのよねぇ。どんな奴なの?」

 

「ん~いい子だよ。ホルンと同じくらい♪」

 

「比較対象がノイズ過ぎる……。んじゃ実力は?アスナに勝てるって相当だけど」

 

「強いよ。ホルンと同じくらい」

 

「オーケー、一旦あの煽りカスと比較するの辞めなさいな。質問前より分からなくなったから」

 

 

 なんでー!?というストレアさんの可愛らしい抗議が室内に響く。

 親友の店…《リズベット武具店》で過ごすこの時間が、私は結構好きだ。きいきいと水車の音が聞こえる店内に、大した目的もなく集まり、無駄に貯まり続けるコルの消費がてらお高めのケーキを持参し、ちょっとしたお茶会のようなことをしつつ近況報告をする。

 この時間だけは肩ひじ張って副団長なんてしなくていいと、自然体のアスナ(明日奈)でいられる気がして。

 

 ただ最近は趣旨が若干変わり、もっぱら私がこの友人たちに団員にできない相談をする集まりになっていた。口止め料も兼ねてケーキのグレードも昔より上がっていたりする。

 

 

「それでその……どうしたらいいと思う…?」

 

「そもそもどうしたいのよ…こないだ聞いたときは仲直りしたいとか言ってなかった?なんで悪化してんのよ」

 

「だ、だってぇ……」

 

「アスナも立場があるからね~。それにほら、キリトたちが心配すぎてあんな作戦出しちゃったんでしょ?それくらい分かってるよきっと」

 

「でも…でもあんなに強く否定しちゃって…………」

 

「あーもー!泣かないの!」

 

 

 彼女たちと相談し、出来るだけ昔みたいに挨拶をするよう心がけてみたり、ふらりと巡回ルートを変えて会いに行ってみたり、香水をつけてみたり。色々試したのだが…どうにも彼との距離感が縮むきっかけにはならなかった。団員からは好評だったのだが。

 そんな小さな失敗の積み重ねに苛立って、つい八つ当たり気味の小言が増えてしまう始末。先日の会議での口論も、そんな失言が火種となって起きた問題だ。これではホルンくんを笑えない。

 

 解っている。一番変えるべきなのはそんな些細な部分ではなく、私が張り続けたままの意地であることくらい。彼が本当に、私の成長を願ってあの決断をしたことも。

 謝ってほしい、というよりは、謝りたい。意地を張ってごめんなさい、きつく当たってごめんなさい、……だから嫌いにならないで。そう言ってしまいたかった。

 

 しかし、いつだか感じていた『見捨てられた』という気持ちがいつまでも、心の奥に棘のように刺さって抜けなくて。

 そんな子供っぽい感情のせいで進展が無いまま、約1年。既に過ぎ去った時間は彼らと過ごした時間よりもずっと長くなっている。

 もう取り返しがつかないんじゃないか、という考えに負けて、また泣きたくなってきた。

 その時。

 

 妙案を思いついたとばかりに、ストレアさんがぽんと手を叩いた。

 

 

「よし!もうこうなったら直球勝負だよ!アスナ、休み取ってキリトとデートしてきなよ♪」

 

「……で、でででで、デートぉ!?無理無理無理無理、絶対無理!急にそんな距離詰めたら変な奴だって思われちゃう!!」

 

「自覚無いみたいだけど、もう大分変な子よあんた」

 

 

 再度リズの指摘が心を抉った。先ほど感じた『見捨てられた』という気持ちよりずっと深く。

 崩れ落ちそうになるのをぐっと堪え、なんとか状況を打破すべく言葉を連ねてみる。

 

 

「ちょ、ちょっとそれはその…難易度高いと言いますか……他の案を、お願いしたいかなぁって……」

 

「諦めた方がいいわよアスナ。ストレアこうなったらテコでも動かないから。潔く腹くくって、普段の攻略してる時みたいにガッと行って片づけてきなさい」

 

「そんなぁ……」

 

 

 味方はいなかった。二人ともこちらの葛藤など知らず、ただただ恋バナの種でも見つけたと言わんばかりに楽しそうにしている。

 

 

「で、でも…その、休暇なんて簡単に取るわけには……」

 

 

 悪足掻きのようにそんな言い訳を口にしていると、見計らったかのようなタイミングで一件のメッセージが飛んできた。

 差出人の名は、ヒースクリフ。

 思わず目を疑った。

 

 

「なんで団長から…まさかうちの団員に何かあったの?」

 

 

 滅多なことでは連絡してこない上司からの連絡。嫌な予感しかしない。

 深呼吸を一つ挿み、意を決してメッセージをタップ。

 表示されたのは、これまた予想外の内容。

 

 

 

【突然すまないアスナ君、急な話なのだが休暇を取ってほしい】

 

 

「……………………え、なんで?」

 

 

 藪から棒どころか、足元から急にソードスキルが飛んできたくらいびっくりした。

 

 

「わーすっごいぐうぜん」

 

「……ストレア?何その下手な棒読み。あんたなんか知ってるわね?吐きなさい」

 

「もー、リズったら。吐けなんて言われても、さっき食べたモンブランしか出せないよ」

 

「ゲロ吐けって言ってんじゃねーわよ!!」

 

 

 後ろの二人が気になるが、ひとまず返信を返してみる。

 

 

[お疲れ様です団長。それで休暇とは?やはり先日の一件で連合側から何かあったのでしょうか]

 

 

 思いつく限りこれくらいしかなかった。ギルド側の代表として決闘したのに私が負けたことで、こちらのギルドに対抗意識を持っている他の攻略組ギルド……《聖竜連合(DDA)》辺りから何かありがたいお言葉でも来たのではないか、と。

 あるいは、例の決闘の敗北を重く見た《血盟騎士団(KoB)》内で私への総指揮権を預けるのを危ぶむ動きでも……。

 そんな悪い想像ばかり膨らんでいたが。

 

 

 

【いや、君の友人からの陳情だ。アスナ君にばかり負担がかかりすぎている、すぐに休ませろと】

 

 

 

 友人、の文言に思わずどきりと胸の奥が跳ねた。期待感からか、頬が淡く熱を帯びる。

 

 

「……キリトくん、だったりして」

 

「…………ピュー、プヒュー♪」

 

「今度は下手糞な口笛になったわね」

 

 

 しかし確認を取ってみると、返ってきたのは予想外の人名。

 

 

 

【ホルン君に言われてしまったよ。この56層で攻略が滞ったのは、攻略組全体の練度が前線に求められる水準に追いついていないからだ。攻略を急いて被害が増える前に、ここらで足場を盤石にするべきだ、とね。全く耳に痛い話だ。その上実演されてしまったので反論すらできなかったよ】

 

 

 

「…………………………………………そっちかぁ」

 

「露骨に残念そうにしないでよぉ!ホルンだって頑張ってるんだから!」

 

「……実演、ってどういうことなのかしら。あいつが関わってるって前提条件のせいで嫌な予感しかしないんだけど」

 

 

 リズがメッセージの文言で一ヶ所、不穏な空気を放っている部分をピックアップした。

 少々の不満を抱えつつ、ひとまず返信をして確認を取る。

 

 

 

【私を呼び出す為だったのだろうが、彼が騎士団本部で大暴れしてくれてね。自分一人止められないような腕で前線を上げるなど片腹痛い、とまで言われてしまった。

 幸いなことに圏内戦闘がメインだったおかげで死傷者はいないが、それでも30名ほど団員が無力化されて医務室送りになっている。おかげで現在、我がギルドは半分機能停止状態だ】

 

 

 

「何してくれてるのあの人!!?!?」

 

「えー!ホルンそこまでしたの!?」

 

「…………やりやがったわ。いつか絶対ロクでもないことするとは思ってたけど、想像の遥か上を行きやがったわ」

 

「アタシも呼んでほしかったのに!」

 

「止める側じゃないのかい!!!!」

 

 

 ともかく何とか彼の暴挙への謝罪を、とメッセージを送ったのだが……不思議なことに、上司である鉄灰色の髪の美丈夫は、文面だけでも分かるほど機嫌良さげに返信してきた。

 

 曰く。若さとは本来あれくらい無鉄砲なものであり、それを許し、導き、成長を促す寛容さこそが大人に求められるものである。

 曰く。何より彼の行動の根幹にあったのは他者への思いやりであり、立場の違いを超えて友人の為に行動を起こす姿、人間的美徳である。

 曰く。自慢の団員たちが歯牙にもかけられず蹂躙され、いっそ痛快だった。流石は攻略組最強の矛である。

 

 などといった具合だ。

 どういうわけなのか、ギルド結成時に彼と刃を交えて以来、当方の団長閣下はあの口さがない少年を(いた)く気に入っていた。実力を買っている…と言うには少々度が過ぎているレベルで。それは50層のフロアボス攻略時、彼が二人目のユニークスキル所持者(ホルダー)として活躍しだして以降、より顕著になっている。

 彼との接し方もそう、まるで親戚のおじさんのような気やすさが見受けられた。普段はそれこそ厳格で、鋼鉄を人の形にしたような人物なのだが。

 

 しかし肝心の彼はその謎に親し気な距離感を不気味がってるのか、度重なるギルドへの勧誘に辟易としたのか、基本的に団長には近づこうとしない。

 彼を気に入って誘っているのは分かるが、巻き添えで勧誘を受けているストレアさんまで距離を取ろうとしていることはもう少し気にしていただきたい。あの人当たりのいい彼女が距離を置こうとするなど相当だ。

 

 

 ともあれだ。困ったことに、これで最大の障害は消えてしまった。

 あとはもう、私の気持ちの問題──

 

 

「またメッセージ。団長伝え忘れでも……」

 

 

 

 《Kirito》より1件メッセージがありました

 

 

 

 びくーん、と身体が跳ねた。《索敵》スキルをすり抜けての不意打ちを食らった時よりも心臓が暴れている。

 こちらの反応で付近の二人にも誰からなのかバレたらしい。ニマニマと人の悪い笑みを浮かべていた。

 

 

「ほほー。噂のキリトくんから来たみたいじゃないの。で、内容は?早く見せなさいよぉ」

 

「ちょ、ちょっと待って!心の準備が…!」

 

「よいではないかよいではないか~♪」

 

「あ、ストレアさん!?私の右手使って勝手にメッセージ開こうとしないで!開けるから!自分でやるから!」

 

 

 多勢に無勢とはこのことだ。抵抗虚しく、私は大した準備もできずに彼からのメッセージを開封することとなった。

 そこには非常に簡潔な文が乗っているだけだった。直前にそれなりの文章量で上司とやり取りした直後だと物足りなくなるほど短い。

 

 しかしその内容は、まさに待ち望んでいたもので。

 

 

 

【今度の休日、都合が付くならどこかに出かけないか】

 

 

 

「~~~~~~~っ!!」

 

「直球ストレートのお誘いじゃない」

 

「ひゅー、キリトやるぅ♪」

 

 

 顔から火が噴き出そうだ。今ならきっと、この激情を鎮めるついででフロアボスの単騎討伐ができるくらいに。

 ちらりと、隣の少女たちを見やる。面白そうにこちらを見つめる親友と対照的に、口では同じようにはやし立てつつも、露骨に視線を逸らしている紫色の少女の姿が。

 ……あまりにもタイミングが良すぎる。しかも、陳情を入れたのは誘ってくれたキリトくんではなく、彼女と深い関係にある少年の方。彼も決して薄情な人間ではないが、それにしたって私の休暇の為にここまでするタイプではないだろう。偶然にしては出来過ぎていた。

 

 

「…………ストレアさん?」

 

「…………ピュー、プヒュー♪」

 

 

 また少し音の外れた口笛を吹いて誤魔化そうとしている。

 確定だ、彼女がユダだ。こともあろうに、想い人と親友にまでなっている少年にここでの出来事を話している!口止めのお高いケーキを食べておきながら!!

 

 

「だ、大丈夫だよ!ホルンは口の堅い子だからキリトには言ってないよ!キリトにだけは!」

 

「…………それって、キリトくん以外の誰かは知ってる可能性がある、ってこと…?」

 

「…………えっとぉ」

 

「まぁ、そういうことでしょうね」

 

 

 膝から崩れ落ちそうになった。

 もう恥ずかしくて外を歩けない。《色ボケの鬼》とか言われたら外周区から飛び降りる自信がある。

 

 

「あーもー!ウジウジしない!覚悟決めなさい。女は度胸よ!」

 

「リズ……」

 

「その…アタシもね?二人がまた仲良くなってほしくて……ホルンのお友達の方にも手助けしてくれる人居ないかなって……」

 

「……ごめんなさいストレアさん。親切心なのは、解ってるから」

 

 

 そうだ、何を弱気になっている結城明日奈。こんなに素敵な友人たちがここまでお膳立てしてくれたんだ、私が及び腰になってどうする。

 

 

「……うん、私、行ってくる」

 

「頑張りなさいよー。土産話、楽しみにしてるから」

 

「アスナ、ファイトだよ!」

 

 

 激励の言葉に頷き返し、その足で席を立つ。

 

 とりあえず、アイテムストレージの肥やしになってしまった私服を引っ張り出そう。彼の前ではとびきりおめかししておきたいのだ。

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

「ねーストレア」

 

「どしたの~?」

 

 

 親友が勢いのまま去ってしまった店内に、あたしとストレアの声が響く。

 

 

「さっきは聞き流してたけど、アスナ、どんな作戦立てて反対されたのよ。あの子これでも攻略組全体の指揮するの初めてじゃないでしょ?トンチンカンな作戦立てるとは思えないんだけど」

 

「あ~……うーん、いやリズなら言ってもいいかなぁ。でもなぁ」

 

「何よ。えらく勿体ぶるじゃない」

 

 

 この快活で朗らかな少女が口ごもるとは珍しい。そんな好奇心が首をもたげてついつい深堀してしまう。

 やがてうんうんと唸るのをやめ、紫色の少女の口から詳細が語られた。

 

 

 

「……実は、ね?アスナの立てた作戦、近くの村にフィールドボスを誘い込む、ってものだったの」

 

 

「…………うそでしょ。あの子がそんな作戦」

 

「本当なんだよ、リズ」

 

 

 一概には信じられない話だ。リズベットの知るアスナという少女は、よく笑い、よく泣き、ちょっとぽわぽわと抜けたところがある……戦場で凛とした剣士として振る舞えるだけの、そんな女の子なのだ。

 優しくて、可愛くて、美人で。そんな自慢の親友なんだ。

 それが、そんな非道な作戦を実行しようとしたなんて信じられるものではない。

 

 

「だ、だってそんなことしたら村のNPC全滅するわよ!?アスナがそんな作戦立てたなんておかしいわ!他の奴があの子に言わせただけでしょ!?そうなんでしょ!?」

 

「…………違うんだよ、リズ。あの時アスナは、自分が絶対に譲れないものを守る為に、自分を傷つけると知っててその作戦を立案したの。……すごく苦しそうだった」

 

「譲れないものって、なによ」

 

「みんなの命」

 

 

 ひどく簡潔だが、それだけに重い。

 ここで過ごす彼女たちを見る時間が多かったせいで、忘れていたのだろう。彼女が、アスナが。自分とは比べ物にならないほど重いものを背負って戦っていることを。

 

 理屈では解かる。

 このゲームの世界では、一部のNPCを除いて基本的に『命』とは程遠い在り方をしている。彼らはたとえモンスターに襲われ、身体をポリゴン片へと変えて砕かれても、24時間後には何事もなかったかのように復元される。ただ人と同じ姿をしているだけで、人間ではない。データの集合物、演出の為の装置。

 だから死んだら終わりのプレイヤーたちの為に犠牲にするのは、人道的かはどうかとして、理にかなっている。

 

 しかしだ。

 自身もこの店の手入れと店番用にNPCの店員を雇っていた。彼女たちも例に漏れず、一部の設定の通りにしか行動をしてくれない。人間同士での交流ほど融通は効かないし、浮かべる笑顔も愛想はいいがどこかうすら寒い雰囲気がある。

 それでも、大切な店員だと思っている。思ってしまっている。どれだけ疲れても、依頼が殺到して大変でも、彼女たちが笑顔で支えてくれているからこそ頑張れている……そんな側面があるのだ。作り物だからと割り切れるものか。

 

 

 そうして心の内で何とか折り合いをつけようとしていたのだが。

 唐突に、ストレアは「でもね」と言って話の続きを口にした。

 

 

「キリトがね、言ったんだ。『彼らだってこの世界で生きている』って。そうして、無理やり納得しようとしてるアスナを止めるために、決闘したの」

 

「……いい奴じゃない。噂のキリトくん。見直したわよ」

 

「だから言ったじゃん。ホルンと同じくらいいい子だって」

 

「あれを比較対象にするなってあたしも言ったんだけどね」

 

 

 正直、普段聞かされている『キリトくん』とやらの人物像が定かでないこともあって、あの自慢の友人がそこまで入れ込む理由が分からなかったが。なるほど。ただ強かったり、ミステリアスだったりするわけでもなく、ちゃんとアスナのことを大切にしようとしているらしい。

 アスナのことを頻繁に泣かせているクズ野郎と思っていたが、これは認識を改めるべきか。

 そもそもからして、あの人間嫌いの激しい煽りカスの口からも皮肉交じりとは言え賞賛されていたんだ。心配は杞憂だったのだろう。そう思うとどっと疲れが湧いてきた。

 

 

「はー……心配して損した。ん?そういやアスナの作戦反対したあと、フィールドボスどうしたのよ」

 

「言い出しっぺのキリトが、ホルンと、ヒースクリフの三人で正面から倒してたよ。そもそも細い渓谷のど真ん中に居座ってて、大人数で連携取れないのが攻略上手くいかなかった原因みたいだし」

 

「クソ脳筋じゃない!てかあの二人と歩調合せられんの?え、ひょっとしてそのキリトくんめっちゃ強い?」

 

「だから言ったじゃん!ホルンと同じくらい強いって!」

 

「マジだとは思わないでしょ!あいつあれでもユニークスキル持ちよ?なんで着いてけるの!?」

 

 

 リズベットにしてみれば口と態度の悪い少年だが、ホルンという剣士はこと実力だけなら攻略組でも指折りだった。そしてその一点に於いて、リズベットも彼を評価している。

 最強の盾が《神聖剣》ヒースクリフだとするなら、最強の矛はホルンの持つ《■■■》。それが市井に広がる見解だ。そしてこのユニークスキル持ちの二人がそれぞれ、ギルド側とソロ側に分かれているからこそ攻略組のパワーバランスは保たれていると言える。

 そんなSAOの歪みの体現者のような二人と共にボス戦して、普通に勝ってる?本当に意味が分からない。何者なんだ。

 

 

「……ほんとにいっぺん、そいつの面拝んでみたいわねぇ」

 

「あ、リズも気になっちゃう?でもアスナ居るよ?」

 

「いや別にあの子からそのキリトくん取り上げる気なんてないから!もうさっさとくっついて欲しいくらいよ」

 

 

 そんな素敵な出会いがあって羨ましいなぁ、という気持ちはあるが。純粋に、彼女が幸せになってほしいと心から願っている。

 

 アスナはきっと知らないだろうが、鍛冶師になる前に、彼女を一度見つけているのだ。1層の攻略すらされてなかった頃だ。

 あの時の私は、恐怖に負けて戦うことを諦めた。ここで死んでも、実は何でもないように現実に帰れるんじゃないかと、そんな投げやりな気分で武器を投げ出して。

 そのとき視界に映ったのがアスナだった。自身とそう変わらない年齢の少女が、自分と違い、両の足で立ってこの理不尽な世界に果敢に挑んでいた。心が震えるような思いだった。

 そして決めた。この世界で、全ての人が彼女のように立ち上がれる、そんな武器を打ちたい。彼女の様にはなれなくても、彼女のように胸を張って生きていきたい。

 

 そうして幾ばくかの時間が経ち、ある日彼女は私の前にやって来たのだ。戦う為の剣を求めて。

 やはりこちらが勝手に背中を見ていただけだった為、気づかれることはなかった。それでも嬉しかった、剣が彼女にもう一度巡り合わせてくれた、と。

 その後、彼女がとある少年の紹介でやって来たと知り、また一悶着あったのだが。それはここでは語るまい。

 

 ともかくそんな自慢の友人なのだ。こちらをやきもきさせた分、しっかり盛大に幸せになってもらわないと困る。

 

 

「リズも心配しなくたって、きっと素敵な人に出会えるよ。アスナにとってのキリトに、アタシにとってのホルンみたいに♪」

 

「…………まぁ、あんたほどの色物好きならアイツも受け止め切れるってことなんでしょうね」

 

「もー!なんでそんなこと言うの~!?」

 

「はいはい、ごめんごめん。とりあえずあたしもこれで仕事に戻るから。女子会の続きはまた今度ね」

 

「む~……まぁいっか。またねリズ!アスナのお土産話、楽しみだね♪」

 

「またねストレア。転ばないように帰りなさいよ」

 

 

 はーい、と軽い返事をしつつ、もう一人の友人も去っていった。

 ……本当に不思議だ。なんであんな明るくて美人な子を射止めたのが、あの赤眼の煽りカスなのか。何がストレアの琴線に触れてあいつを選んだのか。

 なんだかんだ、狭いながらもしっかり付き合いはあるようだ。そしてその限られた範囲に居る友人の為に行動する程度には義理堅いし面倒見もいい。しかし好き好んでそういう対象に選ぶのはちょっと……。

 

 

「…………ま、他人の恋愛事情に口出しできるほど、あたしがまともな交際してるわけでもないんだけどさぁ」

 

 

 鍛冶の腕を磨く為に金床に向かい続けた時間を無駄と言う気はないが、それにしたって10代乙女としてそれはどうなんだ、とツッコミをされたら反論できない。このSAOであたしはそういう、些かストイック過ぎる生き方を選んでしまった。

 もちろん数少ない女性プレイヤーの一人、声をかけられたこともあるが……どうにもそそられない。特に身近に、素敵な恋愛してる友人たちが居るということもあり、なんとなくで選ぶのは違う気がしてしまうのだ。

 

 どうせなら彼女たちみたいに、自分から好きになった相手と恋愛をしてみたい。

 そんな思いを抱ける程度にはリズベット(篠崎里香)もまた、乙女だった。

 

 

「しばらくはあんた(金床)が恋人かしらねー……はぁ」

 

 

 そうしてハンマーを握り、炉から取り出したインゴットを前に、なんとなく動きを止める。

 少し悩み、ハンマーを置くと、両手を合わせてみた。あまりしたことのない神頼みでもしたい気分だったのだ。

 

 

 

「どうか、あたしの友達が幸せでありますように。……それと、あたしにも素敵な出会いが訪れますように…なんてね」

 

 

 

 気を取り直してハンマーを手に取る。

 

 今日も《リズベット武具店》には、鉄を叩く音が響いている。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ……数日後、《アルゲード》の一角。

 

 

「…………」

 

「嘘だろお前……あれじゃん。僕結構頑張ってそれっぽいアドバイスしたじゃん。些細な違いを見つけて褒めてやれって。クソニブ鈍感唐変木のテメェに合わせて『階層またいで再登場したMobの攻撃パターンの変化に注意する』感覚とか、わざわざボケカスなキリトくんに合わせた講義までしたじゃん。お前に泣きつかれたからメッセージで、当日。それが何?また喧嘩した?ふざけてんのお前?????」

 

「……いや、その…な?アスナがなんか、レイピア新品みたいに磨いてきてたからそれを褒めたんだけど……彼女は、イヤリングとか、香水とか…そっちの方に気づいてほしかったみたいで…………」

 

「…………お前……お前マジで…なんで鞘に収まってる武器の変化に気付けてそっち気付かないんだよ!!目ぇ腐ってんじゃねぇの!?」

 

「……………………どうしよう」

 

「僕が一番!それを言いたいんだよ!!はっ倒すぞテメェ!!?」

 

 

 

「……今日は一段と荒れてんなぁ」

 

「ちくしょう…なんであいつらばっか青春してんだよ!俺だってモテてぇ!!」

 

「そういうとこだぞクライン」

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 慟哭…訂正。同刻、《リズベット武具店》。

 

 

「…………」

 

「…………………………………………それで、カッとなって圏内戦闘、と」

 

「…………流石にちょっと、どうかと思うんだけど……」

 

「今度こそ嫌われたぁ!もうやだぁ!!」

 

「……可愛さ余って憎さ百倍、とは聞くけど…攻略組のステータスでそれやると悲惨ね。色々と」

 

 

 

「うーん……『好き』って難しいなぁ」

 

 

 

 二人の距離が縮まるには、まだ時間がかかるようだ。

*1
現実の身体はベッドで寝てるだけだとしても




2025/05/20追記 秋ウサギニキ誤字報告助かります。毎度すいません(白目)
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