VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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トリガー引けたので初投稿です。


原作沿いの展開描いてるとどうにもキリトとアスナの視点になりがちです。最近ちょっと当方のオリ主くん影が薄いような(白目)

バチバチの戦闘描写書くの初めてなんで、よければ感想欄に参考になりそうな作品教えてくれると助かります_(:3 」∠)_


『死闘 獣頭の王』 1/3

『ア〇アシラ倒せないぃ!!』

 

GEOったら(諦めて売ってきたら)?』

 

『レンくんの趣味に合わせてるんだからちょっとくらい励ましてくれてもよくない!?』

 

『無理しなくていいって言ったじゃん…コトちゃん、あんまゲームうまくないし』

 

『う‶ぅ‶ぅ‶……』

 

 

 いつした会話だったろうか。彼女がインドア派の僕に合わせてゲームに誘ってくれた日の話だったのは覚えているのだが。

 あの時の彼女は見ものだった。通信プレイに誘ってくれたのはいいが、買ったばかりのゲームで村クエすらまともに進めてなかったのを必死にごまかそうとして、事あるごとに席を外してこっそりモンスターに挑んでいた。普通にバレてさっきの会話になったんだけど。

 

 素直に感謝しとけばいいものを、あの時の僕は初めてできたまともな友達が、自分の趣味に合わせようとしてくれたことに浮かれて。まぁいつも通り煽ってしまったのだ。

 それが原因で半泣きになられて焦って、ようやくまともに先輩ハンターとしてアドバイスし始めたのだから、当時から僕の対人スキルは終わっていたということなのだろう。

 

 

『ほら、真正面からだと攻撃来るから。後ろ回ってケツ斬るんだよケツを。切れ痔にしてやるつもりで憎しみを込めて』

 

『絶妙に嫌なアドバイス……。っていうか序盤にこんな敵居るのおかしいよ!なんでクマなのに腕こんなガッチガチなの!?鎧みたいなのあるんだけど!!』

 

『まぁクマモチーフってだけで現実のクマと同じじゃないし。そもそも弾かれてるのはコトちゃんが片手剣以外売ったからじゃないかなぁ。ライトでもヘビィでも残しておけばよかったのに。徹甲榴弾でも撃ってればその腕壊せるよ』

 

『ま、間違えただけだから!それに銃だと弾代かかるじゃん!』

 

『そっかぁ。……あ、突進来る。ガードガード』

 

『ひぃぃぃ!?』

 

 

 楽しかった。自分にとっては作業同然だったクエストをひいこら言いながら頑張ってる彼女を見るの……も、あるが。やはり誰かと一緒に遊ぶというのは違った。

 画面の向こうの操作キャラが攻撃を受けるたび、オーバーなリアクションを取ってるあの子は全力でゲームを楽しんでたと思う。絶対に攻撃食らった時に「痛っ!?」っていうタイプだろう。

 見てて飽きなかったが、いつまでも攻勢に出れないままクマ風のモンスターと戯れてるのを見てると、流石にもどかしくなってきて。

 

 

『ほら、腕振ってくるのそろそろ終わるよ。反撃して』

 

『無理無理無理!』

 

『倒さないとクエスト終わらないじゃん。こっちから殴っていかないと』

 

『だってその…怖いし』

 

『怖い?』

 

 

 何気ないその返答が、少し気になったのだ。

 こくんと頷き返しつつ彼女が言う。

 

 

『わたしの操作キャラ、こんなにちっちゃいじゃん?なのにこのモンスター立ったらこっちより全然デカいし……その、怖いなって』

 

『大げさだなぁ。画面内だとそう見えるだけだって。それにこのゲーム、コイツよりずっとデカいモンスターばっかだよ。そのうち慣れるよきっと』

 

『そんな簡単に言わないでよ!……ふんだ!レンくんだってきっといつか分かるよ。自分よりおっきい敵が怖い初心者(ニュービー)の気持ちが』

 

小心者(チキン)なのに主語はデカいねキミね。……あ死んだ』

 

『えぇ!?またやり直しぃ!!?』

 

 

 あの時はそう、その程度の認識だったんだ。いくら自分が弱かろうと、液晶画面の向こうに居る僕には関係ないことだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ごめんコトちゃん。キミが正しかった)

 

 

 そして現在、追憶への現実逃避から帰還した僕の前には、部屋に灯った松明の明かりに照らされて浮かび上がる……巨大な影があった。

 入り口の大扉から100mほどの距離を空けて見えるもう一つの扉の前。骨か何かで組まれたであろう禍々しいデザインの玉座と──そこに座す巨大なナニカ。先頭のディアベルたちが部屋の中央付近まで踏み込んだ瞬間、それが動き出す。

 

 

 

 

「グルルラァァァァァッ!!」

 

 

 

 

 玉座を踏み砕きながら跳躍した巨体が降り立ち、咆哮を上げる。

 大気を震わせながらこちらに叩きつけられた害意。一瞬、前方集団の足取りが重くなったように見えたのは気のせいではないだろう。

 部屋の主は背負っていた盾と骨斧を手に取り、虚空に向けて一振り。同時に薄明りのみだったボス部屋内の明度が一気に上昇し、かの敵の姿を露わにする。

 

 

《ILLfang the Kobold Lord》

 

 

 表示されるエネミーネーム。キリトに道中聞いた話だと、名前の綴りに『the』が含まれるのはフロアボスだけらしい。

 

 見た目はそう、先ほどまで行きがけに倒してきた《ルインコボルド・トルーパー》と似通った雰囲気だ。赤褐色の毛皮に細長い耳、そして狼のように裂けた牙まみれの口。

 だが体格に明確な差があった。

 雑魚コボルドたちがひょろりとした瘦せ身だったのに対し、眼前のボスは恰幅のいい力士のような体格をしている。そして身長。

 

 

(いやデケェよ。なにが2mだ、3mくらいあるぞこのデブ。目算甘すぎだろディアベルほんとに目ぇ付いてんのか)

 

 

 2mかぁ、じゃあ1.2エギルくらいかなー、と会議からここまで呑気に考えていたものだ。

 なお実物。1.5ないし1.6エギルはある。…『エギル』ってなんだっけ(哲学)。

 

 想定よりもはるかに大きなボスに、僕は過去に幼馴染にした嘲笑を撤回するしかなかった。普通に怖い。今日の夢に出てきそう。

 

 ちらりと横目で後ろを見る。最後尾の僕らが突入しても閉まらなかった大扉と、その先のもと来た道を。

 まるで開発者に「今ならまだ逃げられるぞ」と囁かれてるような気がした。

 

 

(……その配慮いる?この状況で逃げられるメンタルしてたらいじめられっ子なんてやってないんだよ。てか空気の通り良すぎだろ。隙間風ってレベルじゃなく空気入れ替わってんだが?)

 

 

 多分だが僕と茅場は死ぬほど相性が悪い。何でこう一々こっちの神経逆なでするような設計が随所にあるのか。

 

 

「ホルン?」

 

 

 隣から気遣わし気な声が聞こえた。ストレアだ。アイボリーホワイトの髪が彼女の小首を傾げる動作に合わせて揺れる。動揺が漏れ出ていたか。

 

 

「なんでもないよ。部屋の戸はしっかり閉めたいタイプだから気になっただけ。……それより、見なよあの腹。太りすぎて鎧着れてない。こっちは鎧でガチガチの奴なのに、前線連中は斬りやすそうな的の相手で羨まし──」

 

 

──ガァァンッ!!

 

 

 言い切る直前、最前列のA隊の誰かの掲げた盾にボスの斧が衝突する音が響く。接触面を起点に生じた衝撃波が伝播し、空気がビリビリと揺れる。

 明らかにぶつかっちゃいけないレベルの質量物同士がぶつかり合う光景に、僕の頬は思い切り引き攣った。

 

 

「……くもないかな。うん。雑魚相手サイコー」

 

 

 あんなバケモンの相手できるか。頑張れディアベル with 愉快な仲間たち。雑魚は任されてやる。

 

 

「ふふっ、そうだね。でもこっちがしっかり敵を抑えないと、ディアベルたちもあのお腹に攻撃できなくて困っちゃうから。アタシたちも頑張ろうね♪」

 

「ストレアの言う通りだ。俺たちも任された分は仕事をするぞ」

 

「へいへい…」

 

「返事くらいまともにしなさい」

 

 

 デカくて怖いボスか、硬くてダルい雑魚か。嫌な二択だ。出来の悪い夢なら覚めてほしい。

 

 そんな出来の悪い夢があと99回は確約されているという事実から目を背け、僕は隣の仲間たちと手近な取り巻きの方へと駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

 強い。

 彼らとまともに組んで初めてとなる戦闘で、私は素直にそう感じた。

 

 

「グラァッ!!」

 

 

「──せやッ!!」

 

 

 《ルインコボルド・センチネル》の振り下ろした斧槍(ハルバード)にキリトくんの繰り出したソードスキルが重なる。甲高い金属音と火花を散らし、こちら目掛けて振り下ろされた斧頭が遠ざかった。

 

 

「いいぞ!」

 

「……スイッチ!」

 

 

 彼のくれた合図に合わせて前に飛び出し、未だふらついているセンチネルの喉元……その鎧兜の隙間に見えた赤褐色目掛けて、《リニアー》を放つ。

 《ウィンドフルーレ》の切っ先が鈍色の鎧を掠めて擦過音を立てるも、ライトエフェクトを纏った刃は勢いのまま、無事にセンチネルの喉元を抉った。

 6割……4割。HPゲージの緑色が5割を下回って黄色く染まる。

 そのまま3割…2割と減り、ゲージの色が赤へと変わる。

 端まで消えるかに思われたが、ゲージの減りは失速し、1割を下回った辺りで止まった。

 

 ……かつての私なら、ここで距離を取り、もう一度相手の攻撃を弾いて隙を作ってソードスキル…という流れを選択しただろう。

 今ならわかる。迷宮区で彼が私の行動に無駄があるといった意味が。

 

 

「──シッ!!」

 

 

 ソードスキルの技後硬直から解き放たれたその脚で、さらに前に一歩踏み出し、最小の動作で同じ個所を突く。それだけでセンチネルの残ったHPは消え、目の前でポリゴン片へと姿を変えた。

 

 

(……迷宮区のトルーパーよりずっと強い敵なのに、まったく怖くない。動きが見える。余裕のある戦いができるだけで、こんなに負担が減るなんて)

 

 

 剣もそうだ。まるで自分の身体の延長のように手に馴染む。

 そして何よりも……。

 

 

GJ(グッジョブ)

 

「……?そっちも」

 

 

 じーじぇい?がなんの略かは分からないが、ひとまず賞賛であろう、と当たりを付けて返しておいた。

 周囲の敵が居ないのを確認し、軽く息をつきながら少年……キリトくんを横目で流し見る。

 

 いかような手段を用いたのか意識を失った自分を迷宮区から助け出し、あの皮肉屋をして『ゲームが上手い』と素直に称賛されているのだから弱くはない、と知っていたつもりだったが。その評価はどんぶり勘定が過ぎると思い知らされた。

 ゲームに詳しくないこちらから見ても、彼の動きには無駄らしいものが全く無い。攻撃、回避、指示出し。その全てが最小量の情報に圧縮されており、本人は常に止まることなく戦況に適応し続けている。

 先ほどの連携にしたってそうだ。ソードスキルの一撃で彼の剣以上の重量はあろう斧槍を軽々と弾き、私はそうしてできた致命の隙を狙うだけの作業。効率化されたシステム的な戦闘。一見映えのないそれは、極限まで磨き上げられたある種の美しさすらある。

 

 そして彼にとってはそれすら負担ではないらしい。現に今、戦闘後の小休止で息を整えてるこちらに対し彼は周囲への警戒を一切緩めることも、息を荒れさせることもなかった。

 彼のこの立ち回りがこの世界の『戦い』なのだとすれば、昨日までの自分がしていたのはせいぜいチャンバラごっこだろうとさえ思える。

 歳もそう離れていないであろう少年なのに、彼の立ち居振る舞いは歴戦の剣士を思わせるそれだ。道中の遭遇戦こそホルンくん(人間ソナー)の無法じみた活躍で影が薄かったが、こうして隣で戦うとその実力の差を感じてしまう。

 

 

「……早いな、1本目間近だ。追加警戒してくれ」

 

「おっけー!」

 

「あいあいさー。次の済んだらこっち回復入るわ」

 

「了解」

 

 

 短く告げられた戦況報告に空気が引き締まる。

 戦闘開始から約5分。早くもボスの4段あるHPゲージの一つが消え、壁面の穴から追加のセンチネルが飛び降りてくる。

 

 が。

 

 

「よっ」

 

 

 ホルンくんが軽い声を上げつつ左手を振った途端、左側の壁面から飛び出てきた一体のセンチネルが、空中で不自然に姿勢を崩しながら落下した。

 

 

「グギィ!ギャァアアアッ!?」

 

 

「おっし命中。…おい喉以外も(とお)るじゃん。情報の精度低いんだけど」

 

「兜のスリットにぶち込める人外向けの情報なんてあるか。しかも空中で当てるとかマジでお前の《投剣》(くる)ってる」

 

「褒めてんのソレ?」

 

「引いてるんだよ」

 

 

 一瞬前の空気は何だったのか、男子二人が気の抜けたやり取りをしている。

 迷宮区での戦闘時、優れた聴力でこちらの戦闘を支えたホルンくん。このボスのいる大部屋では生かす機会はなかったが、通路の壁という遮蔽物が無くなり、存分にその命中精度を発揮できるようになった彼は、こうして射程の許す限り敵の(ことごと)くに刃を投げ放つようになった。

 空中撃墜は初めてだが、ここまでの戦闘を見てきた後だと、彼ならこれぐらい朝飯前なのだろうと感じてしまう。

 

 そこで即興の漫才を打ち切り、ホルンくんが駆け出す。狙う先に居るのは今撃ち落したセンチネルではなく、付近に降り立ったもう一体のようだ。

 同胞を傷つけられたセンチネルが唸り声を上げつつ斧槍を振り上げ、彼もそれを見てソードスキルを起動。ほぼ同時に両者が刃を振るい、快音を立てながら弾かれ合う。

 

 

「グアッ!!」

 

「出荷よー」

 

 

 はーい、と彼の気だるげな声に誰かが反応した。直後、ゆらりと空気から溶け出るように現れた剣身。

 それが青いライトエフェクトを帯びたまま横薙ぎに振るわれ、センチネルの首を打つ。一撃目が首の半ばまで切り裂き、その軌道をなぞる様に振られた二撃目が敵の首を完全に撥ね飛ばす。

 少年はそれを見届けることなく再度駆け出し、手傷を負わせたもう一体の方を抑えに向かう。

 

 その光景をポカンとした顔で見つめるのはG隊の面々。

 道中遭遇戦で危機に晒され、今しがたの追加の取り巻きが直上から現れた時は身体を強張らせていたものだが。あまりと言えばあまりな電撃戦でその脅威が取り払われたせいで理解が追い付いていないと見える。口々に今見た光景を確認するように声を上げた。

 

 

「…………なぁ。さっきまで敵居たよな。それと女の子」

 

「ああ…」「男の方さっきの攻撃空中で当ててなかったか…?」

「こけた方の奴顔になんか刺さってたな」「怖……」

 

 

「アタシのこと呼んだ?」

 

 

 突如として近くから聞こえた声に、長柄部隊の成人男性6人がびくーん、と震える。

 彼らが振り向いた先……とこちらの視線の先に、空気から溶け出るように人懐こそうな笑みを浮かべた両手剣使い、ストレアさんの姿が現れた。

 

 

「アタシはストレア。ごめんねー、真上だったからちょっと初動遅れちゃった。こっちはアタシたちが抑えるから、みんなはディアベルたちの方手伝ってあげて?」

 

「あ、ああ!任せてくれ!」「助けてくれてありがとう」

「よーし、おじさん張り切っちゃおうかな!?」

 

 

 彼女の声に彼らが色めき立った。美人からのお願いで気分が高揚するのは、まぁ…分からなくもないのだが。大丈夫なのだろうかあれは。

 

 

「もしもーし。お喋りしてないで「グゲェ!ギィィイッ!!」こっちの奴仕留めてくれますー?」

 

 

「あ、ホルンに呼ばれちゃった。それじゃみんなも気をつけてねー!一緒にがんばろー♪」

 

「「「「「「うおおおぉぉぉぉ!ストレアちゃーん!!」」」」」」

 

 

 ストレアさんの可愛らしい激励の言葉に、彼らの情緒は臨界点を超えてしまったらしい。ボス戦前に匹敵する気合に満ちた声を上げつつ意気揚々と前線へと突撃していった。

 私は思わず、その単純さに呆れの声を零す。

 

 

「……………………男の人って」

 

「ま、まぁその……人によるから。ほら、ホルンみたいなのも居るし」

 

「ホルンくんほど尖った人他にも居たら堪らないんだけど」

 

 

 そう言うとキリトくんも言い返せないのか、苦笑いを浮かべつつ引き下がってしまった。……彼が気を張ってないということは、周囲の敵は掃討したようだ。

 こちらがそう結論付けたのとほぼ同時、件の二人──ホルンくんとストレアさんもこちらに戻ってきた。キリトくんがにっと笑みを浮かべ、二人を労う。

 

 

「処理任せて悪いな。二人は少し休んでてくれ。しばらくこっちで持たせる」

 

「そうさせてもらうよ。……いやほんと、敵抑えに行ったら放置されるとは思わなかった」

 

「ごめんってば~!あ、三体目はキバオウの方行ったから任せてきちゃった。大丈夫かな」

 

「あっち6人だぞ。苦戦されたら困る」

 

「……お疲れ様。相変わらず仲がいいわね」

 

「でしょ~♪」「眼科行って来い」

 

 

 付け加えた一言に二人は対照的な反応を示した。少女が嬉しそうに笑い、少年が不満げに渋面を浮かべる。驚くくらい普段通りに。

 

 平時こそあれだが、こと戦闘時において二人の間には絶対的な信頼関係があった。

 ホルンくんはストレアさんが確実に仕留める、役割をこなすという確信があるのだろう。だからこそ我の強さを押し殺し、献身的な援護で状況を整えることに専念する。

 そしてそれはストレアさんも同様だ。打てば響くような軽口と共に、パートナーの作り出す隙に迷うことなく飛び込む。踊るように軽やかに、歌うように楽し気に。

 

 こちらもキリトくんと組んで処理に当たっているが、処理速度だけで言うなら彼らの方が段違いに速い。声掛けすら気まぐれに使う程度で、ほぼ打ち合わせ無しであの精度の連携と役割分担をこなしている。

 1ヶ月も組んでいるのだから当然、と二人は言うのかもしれない。しかし私はそうは思わなかった。

 この容易く命が散る非現実的な世界で、人を信じ、命を託し合える関係など簡単にできるものではない。彼らの歩んだ月日を知りはしないがきっと、心を通わせる出来事があったのだろう。それは尊いものだと思うし、同時に……その積み重ねが羨ましい。

 ただ流されてここにやって来てだけの私に、この人たちみたいに積み重ねた技術や絆は──

 

 

「アスナ」

 

 

 ポンと肩を軽く叩かれ顔を上げる。視界にこちらを心配するような顔をした、黒目の少年の顔が映った。

 

 

「キリトくん」

 

「気負い過ぎるなよ。……ほら、そっちの二人はしばらく休憩だろ?休んでる内に二人の戦果、追い抜いてやろうぜ」

 

 

 そう言って彼は笑みを浮かべた。初めて会った時のように、挑発的で頼もしい笑みだった。

 彼の人並みにナイーブな一面を宿で知ってしまった今では、ああ大分強がってるなぁ、と感じてしまう。こういうことには慣れていないのだろう。

 ……なのだが、不思議なものだ。

 付き合いにして3日程度なのに、彼の言葉なら信じてもいいかと思えるのだから。

 

 

「……ええ、そうね。まだ始まったばかりですもの。目にもの見せてあげましょう」

 

「そうこないと」

 

 

「ほほーん?聞きましたぁ?隣のストレアさん。この即席コンビ僕らのスコア追い抜く気でいますわよぉ?」

 

「ふふ~ん?大きく出られちゃったね~隣のホルンさん♪アタシたちのラブラブコンビネーション簡単に超えられると思わないでよね~」

 

「いや別にラブではないだろ。幻覚でも見てんのか」

 

「なんでそこで素に戻っちゃうの!?」

 

 

 こちらの内心など知らぬとばかりに二人が夫婦漫才*1を始めるのを見て、我慢できずに噴き出してしまう。それを三人が見て不思議そうにしている。……どうやら長きに(わた)る競争人生に慣れてしまったせいで、私一人だけ浮足立っていたらしい。

 そうだ、まだ始まったばかりだ。この戦いも、この世界での私の人生も。まだ何も手遅れじゃない、ここから積み重ねればいい。

 そうして追いつき……いや、並び立ってみせる。この友人たちに。

 

 意識を切り替えるように両頬を張り、武器を握り直す。

 するとこちらの変化を感じてくれたのか、あのホルンくんがどこか気安げに問いかけてくる。

 

 

「援護はご入り用かな、ミス・レッドフード?」

 

「要らないわ。キリトくんも居るもの。二人はそこで(くつろ)いでてちょうだい」

 

「……ま、そりゃそうだ。んじゃ頑張れー」

 

「アスナもキリトも、ケガには気を付けてね~」

 

「遠足前の親?」

 

 

 気の抜ける激励を受け取り、戦場へと向き直る。ちょうどその時、ボスの2本目のHPゲージが端まで消えた。

 隣に並んだキリトくんと顔を見合わせ、近くの敵目掛けて揃って駆ける。

 

 

「今出た三体、全部狩るわよ!」

 

「了解。……あれいいのかな。本来の俺たち、E隊のサポートだったはずだけど

 

 

 キリトくんが何やら言っているが、気にしないことにした。既に《ウィンドフルーレ》の切っ先が、敵を見つけてしまったのだから。

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 

 ボス戦開始から約8分。ボスのHPゲージは3本目の半ばまで減っており、これは俺の予想をはるかに上回るハイペースでの進行になっていた。

 削り用のアタッカーが二部隊……大体20分か30分程度で削り切れればいいか。とβ時代の経験から大まかに予想を立てていた。焦って壊滅するよりはずっといいし、一歩一歩堅実に進める方針には俺も賛同した。

 

 していたのだが。

 

 

(蓋を開けてみれば、メインの取り巻き担当だったE隊(キバオウのとこ)と支援に回ってたG隊の仕事まで、俺たち4人で食っていた、と)

 

 

 どうしてこうなったのか。

 いや、原因は分かっているが。

 

 

「来るわよ」

 

 

 短く彼女が上げた警告の声に、意識を切り替える。

 なんかアスナも妙な吹っ切れ方をしている。いや意気消沈されるよりはずっといいんだけど、何やら迷宮区に籠もっていた時期とはまた違った好戦的な雰囲気が滲み出ている。割と負けず嫌いなのかもしれない。

 ひとまずそういうことにして、目の前のセンチネルを彼女に献上するべく武器を弾き飛ばす。剣の消耗を考慮して斧頭そのものではなく、その付け根……柄の辺りを叩くイメージで《ホリゾンタル》を放つ。

 

 

「スイッチ!」

 

「任せた」

 

 

 一声かける前に彼女の方から声が上がり、俺は一瞬破顔しそうになった。彼女との連携は先の一回が初めてだったが、既に彼女はこちらの望むタイミングを掴みつつある。呑み込みが早い。剣才のみならずプレイヤーとしての素質もかなり上等だ。

 そうしてセンチネルの前を明け渡せば、あの超高速の《リニアー》が小気味よく相手の弱点を貫く。《細剣》スキルを取ったことがないので目測になるが、彼女の剣技は《スキルブースト》によって起動から完走まで、本来の約半分の時間で終了している。こと剣速に限って言えば俺以上の完成度と言っていい。

 基本スキルの《リニアー》一つでこれだ、技の幅を増やせばさらなる成長が見込める。あれが誰の教えもなく培ってきたものなのだから末恐ろしい才能だ。

 ショップで換金するか悩んでストレージの肥やしになっていた《ウィンドフルーレ》も、アスナの手に渡ったことで十全にその価値を発揮している。今の彼女なら2層…いや3層でも十二分に活躍できるだろう。

 

 臨時の相棒の成長を感じていると、何かが勢いよく視界の端を抜けていった。直後、前線の方でボスが呻き声を上げたのが聞こえる。

 それを見ていたらしいアスナが、隣でため息をついた。

 

 

「……またやってるわ」

 

 

 誰が、何を。という情報が一切なかったのに、俺はその内容を把握した。してしまった。

 ついで俺の口からも彼女のようにため息が出る。

 

 

「……今回はどこに当ててた?」

 

「多分、右の耳。ピアスみたいに刺さってた」

 

「なんであんな細い部分に当たるんだよ…」

 

 

 後ろを見なくてもどういう状況なのか容易に想像がつく。多分宿のダーツで遊んでいた時のようなホルンと、彼を緩いテンションで応援しているストレアが居るはずだ。

 

 あれで案外律義なところのあるホルンは、先ほどアスナとしていたやり取りの通り()()()()()一切の援護をしてこなかった。それが信頼の表れなのか、単に断られたのをこれ幸いと辞めただけなのはかは判断しかねるが。

 しかし大人しく待ってるという考えは彼の中になかったらしい。遂に少な目の自重すらしなくなり、暇を持て余したホルンの《投剣》はボスにまで矛先を向けるようになっていた。どうやらボスのソードスキルのタイミングを狙って投げてるらしく、かなりの頻度でコボルド王の口から不快そうな呻き声を上げさせている。

 このホルンの嫌がらせのせいでボスのソードスキルが何度も中断されており、いつの間にか支援担当だったF隊・G隊の長物部隊の面々が火力出しに加わってる始末だ。……G隊の方の6人が妙に張り切っているのが気になるが。何かあったのだろうか。

 

 その他純粋にコンビとしての完成度が高く《投剣》による遠距離からの先制攻撃と、人影すら利用する《隠蔽》での奇襲。この遠近両方で意識外からの奇襲を行えるためか、あの二人の処理能力は相当に高かった。それこそ、欠員アリのみそっかすパーティーで本職の仕事を食うくらいに。

 遭遇戦で彼らの強さは見たつもりだったが、まさかこの解放空間でまであれが可能だとは思ってなかった俺は面食らってしまったものだ。

 

 前線のディアベルはこの異常事態に焦るどころか、むしろ火力効率が上がったことを活かして一気に攻勢に出ていた。その甲斐あって前線メンバーはHPゲージが黄色くなったのは何人かいるものの、瞬時にその埋め合わせをして攻め立て続けることに成功している。おかげで俺の見積もった倍くらいのペースでボス戦が終わりそうになっていた。

 

 

「キリトくん、一息ついてて。ここまでずっと動きっぱなしでしょ?私は手前の敵を抑えてくるから」

 

「わかった。無理だけはしないでくれ。何かあったらすぐに駆け付けるから」

 

「ふふっ。うん、信じてる」

 

 

 くすりと微笑む彼女の顔に、思わず心臓が跳ねた。急に年相応の反応をするのはズルい。

 そんな思春期男子の葛藤を知らずか、彼女は剣を構えて前の方へと飛び出していった。

 

 

「…………信じてる、か」

 

 

 その信頼に、俺は応える資格を持っているのだろうか。あのすべてが始まった日に、彼女たちビギナーを一度見捨ててしまった……βテスターの俺に。

 

 答えの出ない弱音を零していると、不意に、背後に気配を感じた。

 振り向いた先に居たのは、E隊のリーダーをしているはずのキバオウだった。

 

 

「アテが外れたんやろ。ええ気味や」

 

「…………なんだって?」

 

 

 てっきり仕事を奪われたことへの陳情でも来るかと思っていた俺は、その要領を得ない発言に疑問符を浮かべるしかなかった。

 俺のその態度を誤魔化していると受け取ったのか、彼はやや怒気を漏らしながら声を強めた。

 

 

「ヘタな芝居すなや。こっちはもう知っとんのや、ジブンがこのボス戦に参加して動機っちゅう奴をな」

 

「動機、だと?ボスを倒すため意外に何があるんだ」

 

「なんや?開き直りかいな、まさにそれを(ねろ)うとったんやろが!」

 

 

 一見会話が成立しているのに、俺は何か致命的な部分で噛み合っていないようなもどかしさを感じた。彼は何を言おうとしているんだ。

 

 

 

「わいは知っとんのや。ちゃーんと聞かされとんのやで……ジブンが昔、あの手この手でボスのLAを掠め取りまくっとったことをな!」

 

「な…………!?」

 

 

 何故それを、と言いそうになる口を必死に閉じようとする。

 

 ディアベルの取り決めで今回のレイドはコルに関してはレイドメンバー全員で均等割りになってしまっているが、経験値とドロップアイテムに関しては戦闘に参加したメンバーだけで計算される。

 そしてSAOでは一部実績に対してリザルト時の補正が強く乗るようになっており、それは受けた総ダメージ量の多いプレイヤーであったり、各段のHPゲージをゼロにしたプレイヤーであったりだ。だがその中でひときわ強いボーナス補正を有しているのが、先ほどキバオウが口にしたLA(ラストアタック)……つまり、最後のHPゲージをゼロにした攻撃を放ったプレイヤーに与えられるボーナスだった。

 

 これだけだったのならプレイスタイルの一つで許されただろう。問題になってくるのはSAOのフロアボスの、LAの報酬だった。

 経験値補正はともかくこのLAで手に入るドロップアイテムの装備が、まぁ強いのだ。β時の入手品から考えて、大体入手層の+3から4層分は固い、そういう破格の性能を有しているものばかりだ。

 

 確かに俺はβ時代、《スキルブースト》の上乗せまでしてトドメの一撃を狙いに行くのを得意としていた。そこは認めよう。

 だが少なくともこの正式サービスでそのような動きをしたことはない。だからこそキバオウがそれを知っているのが解せない。

 

 

(いや待て、『聞かされとんのやで』?つまり誰かが、β時代の俺を知っててキバオウに教えたってことじゃ)

 

 

 直後、俺の中で二つの疑問が音を立て砕けた。

 ボス戦前、彼が俺に声をかけてきた際、何故そんな振る舞いができるのかと困惑した。そして何故、取引に持ち掛けた4万コルで装備を新調しなかったのか。

 

 恐らくだが、彼は使わなかったのではなく、使えなかったのだ。自分の金ではないから。

 彼もまた、アルゴと同様に代理人。何者かの指示であの取引を持ち掛けただけ。故に取引が不成立になった気まずい翌日に、何食わぬ顔で噛み付きに来れる。アルゴの口止めなど初めから不要だったんだ。

 そしてそのプレイヤーは、キバオウに俺の情報を与え、βテスターへの敵意を煽る。こちらの注意がこのサボテン頭の男に集まるように。

 

 ここまで来れば、何故その真の依頼人が相場を無視したコルを提示してきたのかも予想が付く。その人物の目的は俺の《アニールブレード+6》そのものではなく、それを取り上げることによって俺の攻撃力を……もっと言うのであれば、LAの成功率を下げること。

 キバオウもそれを知っている。だからこそ今、俺たちだけがボスのHPを削れない状況に気分を良くして絡みに来たのだ。

 

 

「…………キバオウ、あんたにβ時代の話をした奴は、どうやってそれを知ったんだ」

 

「決まっとるやろ。えろう大金積んで《鼠》から買ったっちゅうとったわ。ボス戦に紛れ込んどるハイエナを見つけるためにな」

 

 

 嘘だ。アルゴは…彼女はたとえ自身のステータス情報などは売っても、不和の原因にしかならない『誰がβテスターなのか』という情報だけは決して手を出さない。それこそが情報屋《鼠》のアルゴの不文律だ。

 

 つまりは彼女以外の誰かが。

 俺と同じ……βテスターの誰かが、俺を売ったんだ。

 

 その事実を奥歯を噛みしめて無理やり飲み干すと、前線の方から大きな歓声が上がった。顔を上げるとあのコボルド王の4段あったHPが、とうとう最後のゲージへと突入したところだった。

 今まで火力出しをしていた長物部隊の二部隊が歓声の中後退し、代わりに回復を終えたC隊がディアベルを先頭に前に躍り出る。

 

 

「ウグルゥオオオオオオオッ!!」

 

 

 今日聞いた中で最も強くコボルド王が吠え、壁面の穴から最後の追加となるセンチネルが三体飛び出てくる。

 

 

「……残りの雑魚コボ、くれたるわ。あんじょうLA取りや」

 

 

 忌々し気にそう吐き捨て、キバオウも前線へと上がっていった。どうやらE隊のメンバーを動員してまでこちらにボスのLAを取らせたくないらしい。

 消化しきれない感情が胸の奥に残ったままではあるが、今はそんなことに時間をかけられない。E隊が完全に取り巻きの処理を放棄した以上、俺たち4人で三体のセンチネルを捌くしかない。

 やむなくその場は引き返し、アスナを伴って後ろの二人に合流する。

 気づいたらしいホルンが眠そうな目のまま話しかけてきた。

 

 

「とうとう職務放棄しやがったねアイツ。社会の歯車も所詮人の子ってことか」

 

「聞こえてたのか」

 

「無駄にいい耳がありましてね。もう一つの方は……まぁ、気にしなくてもいいんじゃないかな。ディアベルが言えば周りも納得するだろうし。あの騎士サマはそこのとこ上手くやってくれるよ」

 

「…………そうだな」

 

 

 こちらの会話を不思議そうに眺める女子二人を適当にごまかしてるホルン。別にこのメンバーだったら内容に触れてもいいだろうに。……こういう気遣いができる辺り、案外一人くらいちゃんとした友人も居たのではなかろうか。

 そんなとりとめのないことを考えつつ、取り巻きを処理すべく振り返り……はたと、何かを感じる。

 視界の先ではボスが骨斧とバックラーを投げ捨て、腰背に差していた湾刀(タルワール)を引き抜くのが見えた。かつてβテストで見た武装変更モーションだ。

 より攻撃的に暴れ回るようになるが、その実、攻撃は《曲刀》スキルのモーションのため縦切りばかり。なのでやろうと思えば今ディアベルが指示を出したように、周囲を取り囲んで殴り続けることも……。

 

 

「…………まさか」

 

 

「?キリトくんどうかしたの」

 

「アスナ、そっとしておいてやって。男って奴は急に回想シーン入って立ち止まりたくなる時期があるんだよ」

 

「ここでそんなことしてたら死ぬわよ!?キリトくんほんとに大丈夫なの!?」

 

「とりあえず一人一体ずつ抑えておこっか。キリトの方にも前のみんなの方にも行かれちゃ困るし」

 

「それしかないわね…」

 

「え?僕も一匹丸ごと任されんの?無理だろ火力考えてくれ」

 

 

 近くの友人たちの喧騒も耳を流れていくほど、俺の中に浮かんだその『もしかして』は衝撃的だったと言える。

 キバオウを通じ俺に4万コルの大金で取引を持ち掛けた人物の目的は、俺のLA取得の阻止。先ほどそう仮定した。そしてそれは、俺がこのオマケのパーティーで取り巻きの相手に執心することになった、この段階で遂行されたと言っていい。

 であるならば。

 目標を果たした人物の取る次なる行動とは何か。

 

 大金をかけて俺を弱体化させる。これそのものが最終目的とは考えにくい。何せ仮に取引が成立したとしても、払ったコストに対して得られるメリットがほとんどない。

 そもそも俺の《アニールブレード+6》にしたって表記上は6回強化品というだけに見えるが、強化内訳は《鋭さ(Sharpness)》+3・《丈夫さ(Durability)》+3。この剣が万人の手に馴染むとも限らない上に、そういった事情からこの手の強化済みの武器は、強化にかかった費用未満の値段でしか売れないことの方が多い。下手をすれば素体よりも安くなる場合すらある。

 そうであるならばその人物の目的は、4万コルをそんなドブに捨てるような使い方をしても惜しくないほど、価値のある物なのではないだろうか。

 

 例えばそう……フロアボスのLAとか。

 

 

「ラスト1本!畳みかけるぞ、トドメはオレが刺す!!」

 

 

 鋭い声で檄を飛ばす青髪の騎士の顔を、俺は遠巻きに眺めることしかできなかった。

 

 

(……あんたなのか?騎士ディアベル……何もかも仕組んだのは…)

 

 

「……ん?なぁキリト、ちょっと質問いいすかね」

 

 

 唐突にホルンが声をかけてきた。

 センチネルはどうしたんだ、と聞こうとして振り向くと、ちょうど俺の視界に彼の《投剣》で顔を穿たれたセンチネルが二体ほど転げ回ってるのが見えた。軽くホラーだった。思わずヒュッ、と乾いた音が漏れ出る。

 

 

「あ、ああ大丈夫。すぐに俺も処理に──」

 

 

 

「そっちは別にいいんだけど。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんか僕のより細長いように見えるんだけど」

 

「なん、だと」

 

 

 

 そう言って彼が持ち上げた右手の武器、《ルインズガード・シミター》と今ボスが取り出そうとしている武器を慌てて見比べる。この距離からだとシルエットくらいしか見比べられないが、それでもそうしなければいけない気がして。

 

 

 彼は曲刀使いの一人としての何気ない疑問だったのだろうが、俺にしてみれば背筋が凍るような『まさか』だった。

 

 そして彼の疑問は正しかった。あのボスは、あの武器は。俺の知っている1層ボスのものではない。湾刀と同様に緩く反った片刃の刀身ではあるが、細部が違う。

 刀身を彩るのは粗雑な鋳鉄ではなく、鍛え上げられた鋼鉄の黒。

 握りもボロ布が巻かれただけなのは同じだが、一回り程、長く伸びている。

 

 

 だが、俺は知っていた。あの武器…ではなく、あれと似通った武器を見たことがある。

 

 βテスト期間の最終フェーズ──()()()()()()()()1()0()()()

 

 

 

「あ……ああ…………!!」

 

「キリト?おい一体どうしたんだよ!あの武器ヤバいの!?」

 

 

 忘れもしない。数多のプレイヤーを屠り、俺を含む当時のトップ層を阻んだ敵の用いた武器を。

 プレイヤー側が誰一人持っていなかったせいで、モンスター専用カテゴリの武器なのではないかと囁かれた…魔剣を。

 

 引き攣りそうになる喉を無理やり動かし、あらん限りの声で叫ぶ。

 

 

「だ…ダメだ!下がれ!!全力で後ろに跳べぇぇぇッ!!」

 

 

「ゴアアアアァァァァァァッ!!」

 

 

 俺の絶叫をかき消すようにコボルド王が吠え──その巨体がC隊の目の前で、垂直に5mほど飛び上がった。

 呆気に取られて固まる彼らの視界の先で、ボスの握る武器が若葉のように鮮やかな、緑のライトエフェクトを纏う。

 

 直後、ぎろりと眼下のプレイヤーを睨んだコボルド王が空中で身体を捻り、力を溜めるかのような挙動を取る。

 前線集団も明らかな異常事態に対応を変えようとしたが……遅きに失した。

 

 

「グルオオオゥッ!!」

 

 

 一瞬早くボスのソードスキルが完成し、落下と同時に、まるで竜巻のように勢いよく回転しつつ解き放たれる。

 ボスを取り囲んだ、C隊の6人全員に。

 

 

攻撃方向、水平360°

 

武装カテゴリ──《刀》

 

重範囲攻撃《旋車(ツムジグルマ)

 

 

 ボスの周囲に、6人のプレイヤーから噴き出る鮮血色のダメージエフェクトが散るのと同時。

 視界の左端に映っていた彼らのHPゲージが、一斉に5割以下(イエローゾーン)まで激減する。

 

 

「一撃で!?」

 

「あんな攻撃使ってくるなんてアルゴさんの攻略本には……」

 

「……クソゲー本気出してきやがった…!」

 

 

 ストレアとアスナが困惑の声を上げ、ホルンが一人冷めた毒を吐く。

 

 

「正式サービスからの…武装変更……ッ!」

 

 

 

 

 もし仮に。

 仮にだが、この部屋をアルゴが実際に偵察に来ていたら、気づいたかもしれない。

 それほどに些細な違い。

 

 ボス部屋と、その前の空間に描かれた壁画。その違いに。

 

 かつてそこには、コボルド族の繁栄を匂わせる壁画が描いてあるだけだった。ゲームの世界観に奥行きを持たせるための背景の一つとして。

 だからこそ気に留めなかった。

 

 その壁画が……湾刀を持ったコボルド王を下し、刀を握った新たなコボルド王が玉座に着くという、内容に描き換えられていたことを。

 

 

 

 

 

「グルオゥッ!!グルアアアアアアアアッ!!」

 

 

 

 

 

 コボルド王──訂正、二代目コボルド王が、その威厳を知らしめんと咆哮を上げる。

 俺はその光景に歯を食いしばった。

 

 

 解っていたはずだった、このゲームが普通でないことぐらい。

 

 

 知っているはずだった、あの男……茅場晶彦の言葉を。

 

 

 これは、ゲームであっても遊びではない。

 

 

 

 

 

 俺たちプレイヤーに対しボスは…いや、SAO(この世界)は。

 

 その本性を曝け出しつつあった。

*1
ホルンは納得してない




ホルン:フラグ導入の為に曲刀使いらしい疑問を持ってもらった

キリト:定期的に悲鳴を上げててほしい

アスナ:悩める10代乙女。可愛い()

ストレア:《投剣》と《隠蔽》組み合わせたら強くね?でこんな描写になった。タンクとは()


2025/04/09追記 秋ウサギニキ誤字報告感謝ですわ!
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