VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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初めてぎっくり腰になったので初投稿です。


アレですね、立つのがほぼ無理とか聞いたときは「大げさだなー」とか思ってましたけどこれヤバいですね。
やっぱ稲作ってクソです(´;ω;`)


区切りが悪かったので2話分割です。


『ヒゲと拳と大岩と』 1/2

「やだ!!」

 

「ストレアさん往生際がっ…悪いわよ……!!さっきは納得してたでしょ!?」

 

「そうだけどぉ!」

 

 

「ホルン大丈夫か!?」

 

「だいじょばないッ…!……オイ引っ付き虫、いい加減離れ…あちょ、ミシミシって鳴った!?お腹(くび)れる!?僕男の子なのにボンキュッボンな体型にされる!!?HA☆NA☆SE!!

 

「くそ、どうして圏内なのにこんなことになってるんだ!?」

 

 

 

 2層主街区《ウルバス》に流れる哀愁漂うオーボエの旋律に混ざり、一人の少年の断末魔(?)が響き渡る。

 

 遡ること5分ほど。

 

 

 

「《街開き》の混雑を利用してバラける?」

 

「そう。ストレアもアスナも善意でついて来てくれたのは知ってるしありがたいけど、人数固まってると却って目立つ。だからここは二組ないし全員で別れて行動した方がいいと思う」

 

 

 転移門の有効化(アクティベート)を済ませ、今後の方針を話し合った際。彼はそう口にした。

 実際俺もホルンも大手を振って歩けないような振る舞いをしたし、早々に身を隠せる場所に拠点を移した方がいいだろうが。それを承知で追いかけてきた二人を納得させられるのだろうか。

 ちらりと視線を向けると、女子二人はそれはもう不服そうに目を細めていた。

 

 

「4人全員で固まってた方が道中安全だと思うけれど」

 

「戦闘すると目立つし足止め食らうじゃん。移動面でも少人数で突っ切った方が早い。周囲に他のプレイヤーがいなければタゲ押し付ける危険もないし?」

 

「む……」

 

「一応言っただけで現実的には二組に別れる方を想定してる。幸いここには土地勘あるっぽいキリトとストレアが居るし、ペアなら多少の無理も利くからベターかなって」

 

 

 思うところはあるだろうが、こういう時アスナは冷静だ。元々誰の助けも借りずに1ヶ月戦い続けてきたから何とか出来るであろうと試算したのだろう。

 何よりホルンが頭ごなしに自分たちの取った行動を否定せず、理由を挙げて提案しているからか普段ほど強く当たってもいない。彼なりの仲間意識と成長を感じて大人しくしてる、と言ったところか。

 問題なのはどちらかと言うと。

 

 

「本当に、4人じゃダメなの?せっかくまた一緒になれたのに?」

 

「今目立つ方が僕もキリトも困るんだ。悪いけどこればっかりは譲れない」

 

「……ほんとのホントにダメ?」

 

「うん、無理。……別にずっと別れて行動する気はないさ。必要に応じてメッセージで集まるなりすればいい」

 

「でも……」

 

「ストレアさん、わかってあげて。きっとまた会えるわ、仲間だもの。それに二人の取った行動は確かに褒められた物じゃないかもしれないけど、それでも、仲間の私たちや、アルゴさんみたいな他のβテスターの人たちの為のものだったでしょ?なら信じて送り出すのが仲間や相棒としての信頼の形じゃないかしら」

 

 

 ストレアもアスナまで対面に回ると思ってなかったのか不満そうなままではあるが引き下がった。何とか話がまとまりそうで俺も安心できる。

 それにしてもアスナがあのホルンのフォローに回るとは。なんだかんだあの二人なりに交流を深める内に、適切な付き合い方というものを見つけたようだ。あるいは共通の友人の説得だったからまとまったのだろうか。なんにせよいい傾向だと思う。

 

 ……ただ一点、なんであんな執拗に『仲間』というフレーズを連呼したのかは気になる。ホルンですらちゃんと仲間意識あるんだし言われるまでもないと思うのだが。

 ひょっとして、ストレアのストーキ…ホルン見守り癖を、自分一人だけ知らなかったのを気にしているのだろうか。あんなもの知らないでいた方が幸せだろうに。

 

 

「よし。とりあえず別れて行動するのはいいとして、ストレアは…確か2層なら両手剣の乗り換えできるし、そっちに行くだろ?」

 

「……うん。《マロメ》の方なら迷宮区も近いし、あの辺りで次の武器に更新予定だよ」

 

 

 うろ覚えだったが合ってたらしい。あの辺りでβ時に《グロスヘルト》という武器を手に入れたプレイヤーが自慢してた記憶があったのだ。

 βからずっと片手剣一筋だったのであの時はスルーしたが、彼女の剣技を見ていると両手剣もカッコいいなぁ、と素直に羨ましくなることがある。スキルスロットに余裕が出てきたら《両手剣》スキルを取るのもいいかもしれない。

 

 

「アスナは《ウィンドフルーレ》の強化?」

 

「ええ。+5以上にするとなると、この層から出てくるモンスターの素材要るみたいだし。ただ拠点は前線に近い方が都合がいいから、迷宮区の方でどこか抑える予定」

 

「だろうな。ならストレアも同じ方向で都合付くし、頼めるか」

 

「まっかせて!」

 

「お世話になります」

 

「うんうん♪でも良かったぁ、これなら案外ご近所さんで済みそう♪」

 

 

 ……多分、そうはならないよなぁ、と波乱の予感を飲み込みつつ、流れで確認を取ってみる。

 

 

「あー……ホルンはどういう予定だ?やっぱ武器の強化?」

 

「なんかさっきから武器強化執拗に聞くじゃん。寧ろその理由聞きたいんだけど」

 

「この層のボスが状態異常攻撃使ってくるから、その対策。手っ取り早い阻害(デバフ)耐性確保の手段が武器や防具の強化値なんだ。だからこの層ではレベルよりも武器の性能がものを言うところがある」

 

「そういう理由ね。んじゃ僕も強化の方がいいかな。僕の《ルインズガード・シミター》、なんか必要素材ないから無強化のままだったし」

 

「多分《バイオレント・オックスの角》だろ。そいつこの2層からだから仕方ないよ。ついでにそいつの狩場あんまり人気のない場所だから、近くの拠点なら人目にも付きづらいと思う」

 

「いいねぇ。おあつらえ向きだ」

 

 

「……ん?あれ?」

 

「どうしたのストレアさん」

 

 

 マズい、彼女が勘づき始めた。

 何とかいい感じに誤魔化す直前、ホルンが決定的な質問をしてしまった。

 

 

 

「んで、方角的にはどこなんそれ」

 

「…………アスナやストレアの目的地の、逆方向です」

 

「まぁ嫌われ者やってるしそっちのが都合がいいか。んじゃそういうことで」

 

 

「ちょ、ちょっと待って!?アタシとホルン一緒じゃないの!!?」

 

「……………………えっと、はい」

 

 

 ガーン、というコミカルな擬音が聞こえた。余程ショックなのか、ストレアが数歩よろめく。

 この《ウルバス》は1層迷宮区のほぼ直上……2層北端に位置する都市だ。フィールドや次なる迷宮区は南側に広がる形になり、ストレアやアスナが目指す予定の《マロメ》村は南東に位置している。迷宮区と《ウルバス》それぞれに遠くもなく近くもない位置取りなので、恐らくここが次の前線拠点だろう。

 

 対してホルンの狩場兼新規拠点になる予定の方角は、南西側に位置する形で。しかも間に巨大な渓谷があるせいで直線距離はさほど変わらないのに、迷宮区までの道のりは《マロメ》側よりずっと遠い。そういった立地的な不人気のせいであちら側に拠点を用意するプレイヤーは少ないだろうという判断だ。

 俺は最悪変装でもして《マロメ》に住むのも考えているけど、ホルンは違うだろう。何よりストレアにアスナの案内を頼んだ手前、彼の案内は俺がするのが筋だ。元々俺とホルンで憎まれ役を買った段階でこうして身を隠すつもりでいたし。

 そう思ったのだが。

 

 

「なんで!?ホルンの相棒アタシなのに!」

 

「あーはいはい相棒相棒。でもしょうがないじゃん。こうでもしないとバラけた意味ないんだし」

 

「な・ん・で!!?」

 

「うるさっ……いやその、ストレアもアスナもだけど、こう…無駄に顔面偏差値高いじゃん」

 

「無駄!?」

 

 

 なんで一言余計に足したんだろうか。普通に美人とだけ言っとけばいいと思うのだが。

 

 

「そのせいで周囲の野郎どもの視線をですね、えーっと……誘蛾灯のように引き寄せると言いますか」

 

「誘蛾灯!?」

 

 

 なんで敢えて嫌味な言い方にしたんだろうか。というかそうか、他の連中は虫か。性根曲がりすぎだろ。

 

 

「まぁともかく…うん、隠れるのに邪魔。論外です」

 

「邪魔!?論外!!?」

 

 

 なんで畳みかけた。オブラートに包めないのかアイツの言葉。……無理か。無理だな。余裕で貫通する。間違いない。

 

 

「そういうわけなんで、アスナと一緒にデコイを兼ねて注意引いといてくれると助かるんだ。ひとつヨロシク。……ストレア?」

 

「──や」

 

「や?」

 

「やだぁ!!キリトに浮気する気なんでしょ!!?」

 

「頭沸いてんのか」

 

 

 

 以上、赤眼コンビの犬も喰わない会話。そして冒頭に繋がる。

 余談だが俺とアスナが、ホルンの腰からストレアを引き剥がすのに10分くらいかかった。

 

 

 そうして紆余曲折あったものの、なんとか説得を終えて一時の別れが迫っていた。

 ……不思議なもので、4人全員で集まったのはここ3日程度だったというのに、随分とこの別れを惜しんでいる自分がいる。ぐずり続けているストレアはもとより、アスナも、あのホルンですらそんな雰囲気があった。

 

 

「……せっかく追ってきてくれたのに悪かったな」

 

「別にいい。これが最後じゃないんでしょ?それに…」

 

「それに?」

 

「──追いつくまで何度でも追いかけるもの」

 

「…………また会おう、アスナ。元気で」

 

「また会いましょう、キリトくん。そっちも気を付けてね」

 

 

 

「無理しちゃダメだからね?何かあったらアタシとアスナに連絡すること!いい?」

 

「はいはい」

 

「風邪ひかないように暖かくすること。ちゃんと朝起きて夜寝ること。好き嫌いもしないように。それからそれから…」

 

「まさか僕のこと基本的な生活すらできない穀潰しだと思ってらっしゃる?」

 

 

 俺たちがしんみりした空気になっているのに、あっちは平常運転だった。ストレアが世話を焼き、ホルンが怠そうにそれを受け入れるいつもの光景。こうしてみると目の色も相まって年の近い姉弟に見えなくもない。

 二人は始まりの日からずっと一緒だったらしいし、本当にコンビ以外での行動が初めてだという。あのごね方も納得だ。

 最終的にはこうして相方を信じて送り出せるのだから信頼関係はしっかりしてるのだろう。あるいは先ほど、彼の口から引き出したの本音が、彼女に心の余裕を与えて──

 

 

 

「あと1時間に一回はメッセージ返してね!絶対だから!」

 

「睡眠時間くらい担保しろ。ノイローゼになるわ」

 

 

 

「…………その。ストレアさんはどうにかするから、ホルンくんのこと気にかけてあげてもらえる…?」

 

「…………頑張るよ」

 

 

 全然そんなことはなかった。彼女がホルン離れ出来る日は来るのか。

 

 かくして、一悶着あったが俺たちはそれぞれ、別行動をとることとなった。ホルンも交渉の結果、24時から6時の間の返信は勘弁してもらえることになったらしい。なんか成し遂げた顔してたけど、ほぼ誤差だと思う。

 

 

「さて、大通りも人減ってきたし。俺たちも動こう」

 

「とりあえずアルゴ捕まえない?メッセージの件もあるし」

 

「あー……そうするか。でも捕まるかなぁ。βの時と同じならアルゴのビルドAGI(敏捷性)特化なんだけど。めちゃくちゃ逃げ足早いぞあいつ」

 

 

 ストレアの投身未遂と、つい先ほどのホルンA・Bパーツ分離未遂のインパクトが強すぎて忘れかけていた。

 どうやって知ったのか不明だが、アルゴがボス部屋の一件を耳にしたようでお詫びに何でも情報を一つ、タダで売ると言ってきたのだ。あのがめつい情報屋のアルゴが。別に貸しにする気はなかったのだが、アルゴ的にも今回の件は大事だったということなのだろう。こういう義理堅いところがあるから憎みづらい。

 聞くところ、ホルンはこの情報タダのチャンスを使って『ストレアにバレなさそうな拠点』を聞いたらしい。……言外に、絶対にストレアには情報売るなよ?というメッセージを込めているのを感じた。口止め料込みの依頼を一つに圧縮してタダで受けさせようとしているのはセコいと言うべきか、賢いと言うべきか。

 

 

「にしても返信遅いな。普段なら5分とかからず返してくるのに」

 

「2層開通でクエスト情報とか欲しがってる奴が増えたんだと思うよ。アルゴもあれで顧客が多いし…………ん?」

 

 

 ホルンと雑談している最中、視界の端に奇妙な光景が映った。

 転移門から飛び出てきた見覚えのある外套を纏った小柄なプレイヤーが、ワープアウトから一切足を止めずに駆け出す。これだけならなんか急いでるなぁ、と軽い調子で流すところだが、次いでワープアウトしてきた二人組のプレイヤーが、走り去る彼女を背を見るや否やそれを全力で追跡し始めたのだ。

 追っている二人組に覚えはないが、追われているのは間違いなく先ほど話題に上げたばかりのアルゴだ。何やら穏やかでない空気を感じる。

 

 

「……今のアルゴだったな」

 

「とうとうやらかしたんだな。絶対どこかでライン越えすると思ってたよ僕は」

 

「心配より先にそっちが出るのか……。俺たちも追おう。何かあってからじゃ遅い」

 

「……なんで僕はストーカーをストーキングすることになってんだろう」

 

「窮鼠猫を嚙むって言うし、たまにはいいんじゃないか?」

 

「ネズミはあっちの方なんだけどね」

 

 

 言えてる、と軽く返し、俺とホルンも窓から飛び出すのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「……んども言ってるダロ!!この情報だけは、いくら積まれても売らないんダ!」

 

 

 追跡が《ウルバス》西の平原エリアに差し掛かった頃。フィールドの足場が短い草葉の茂る草原から荒れ地へと切り替わるかどうかというところで、前方からアルゴの声が響いた。

 追いつけたこと自体は僥倖だが、彼女の声はいつもの3割増しで剣呑な様子だ。事はちょっとしたトラブル、という範疇を超えているように思う。

 しかし相手方もそれを理解してなお追跡してたようで、負けじと強い調子で言い返している。

 

 

「情報を独占する気はない、しかし公開もしない。それではまるで、値段の吊り上げを狙っているようにしか聞こえないでござるぞ!」

 

 

「…………ゴザル?」

 

「キリト…ヤバい。さっき腹締められたせいで吐き気が……ウブッ

 

「おい待てやめろ、隠れてる意味なくなるだろ…!」

 

 

 アルゴもピンチだがホルンも大概だった。というか、こちらは一刻の猶予も無いような。アスナたちの腐り牛乳が裏目に出たか。

 とりあえず彼はそこで呼吸を整えてもらうことにして、俺は単身、言い争いの聞こえる岩壁の向こうを見るべくよじ登ることにした。

 少々鋭いとっかかりしかないのが気になるが、ダメージ判定が無いのをいいことに指をかけ、あとはSTR(筋力)値にものを言わせて這い上がる。SAOのフィールドは案外こんな感じでよじ登れる場所が多い。いつかステータスを上げまくって早々落下死しなくなったら、このアインクラッドの外壁もよじ登ってみるのがβ時からの夢だった。

 などとりとめのない野望を膨らましつつ登れば、人一人くらいなら立てそうな狭いテラス状の足場を見つけた。慎重に四つん這いのまま進むと、5m下方、ほぼ真下の位置にアルゴと二人組の姿が見える。

 

 

「値段の問題じゃないんだヨ!オイラは情報を売った挙句恨まれるのはゴメンだって言ってるンダ!!」

 

「なぜ拙者たちが貴様を恨むのだ!?言い値を払うし感謝もすると言っているでござろう!この層に隠された──《エクストラスキル》獲得クエストの情報さえ売ってくれればな!!」

 

 

(……なんだと)

 

 

 エクストラ(特別な)と表記されるように、SAOでは一部特殊な条件達成でしか手に入らない……言わば《隠しスキル》が存在している。βテストで発見されたのは《瞑想》という、なんか精神統一っぽいポーズをとるとHP回復ボーナスとか、確率でバッドステータスを解消してくれるという、非常に地味なものしか発見されなかった。俺は10層の敵や二代目コボルド王が用いた《刀》もこのエクストラスキルではないか、と予想しているが、真偽は定かではない。

 しかしまさか2層にもあったというのか。最前線を走っていた俺が知らないということは、ほぼ全てのβテスターが所持していないor把握していない、と見ていいだろう。横入りのタイミングを計っていただけだったのに思わぬ情報が転がり込んできた。

 とは言えこれで事情は把握できた。ホルンにもメッセージを一言入れ、いつでも突入できるよう姿勢を変える。

 

 

「今日という今日は引き下がらないでござるよ!」

 

「あのスキルは、拙者たちの悲願成就の為に必要なもの!是が非でもその情報売ってもらうでござる!」

 

「わっかんない奴らだナー!何と言われようが()()の情報は売らないでゴザ……じゃなかった、売らないんダヨ!!」

 

 

 行くか。

 

 場の緊張が一段階強まったのを感じ、足をかけていた岸壁から飛び降りる。

 本当はスマートに着地したいところだが今はステータスが低い。我慢してノーダメージで降りることを優先し、膝までしっかり曲げて防御態勢で衝撃を和らげた。

 

 

「──何者でござる!?」

 

他藩(たはん)透波(すっぱ)か!?」

 

 

「多分そう。部分的にそう」

 

「なんでアキネイター風なんだ…」

 

 

 自分たちとアルゴの間に降って下りてきた俺と、ぬっと岸壁の陰から現れたホルンに向け、二名の追跡者たちがそれぞれ声を上げる。

 立ち上がってその姿を間近で見た時、俺の記憶の片隅を電流に刺激されるような感覚がした。

 

 あれ……なんか見覚えあるなコイツら。

 

 二人とも、見たところ全く同じ装備構成だ。濃い灰色の布防具、内に着込んだ鎖帷子(チェーンメイル)、背中には鞘に収まった曲刀(シミター)が一振り。そして頭部を覆う布製のパイレーツマスクとバンダナキャップ。

 この二人の装備構成、見ようによっては頑張って忍者を再現しているように見えるような、見えないような。

 β時代、こんな連中を見たような、見てないような。

 

 

「えーと、えーっと……あんたら確かふー、フード……じゃなくてフーガ?」

 

 

「フウマでござる!!」

 

「ギルド《風魔忍軍(フウマニングン)》のコタローとイスケとは拙者たちのことでござる!!」

 

「そう、それ!」

 

 

 解ってるのに出てこなかった答えを見つけた時のような爽やかな快感が脳裏を抜け、俺は思わず指を鳴らしながら声を上げた。

 

 ギルド《風魔忍軍》。全員があんな感じの布主体の装備に盾無しの曲刀一本、さらにクナイに見立ててか《投剣》なども用いて戦う筋金入りの忍者コス集団。そしてビルド構成はアルゴ同様にAGI極振りだが、彼らはそのビルドで某赤い大佐よろしく、攻撃は全て回避するといわんばかりの疾風怒濤の攻勢をかけることで有名だった。

 しかし彼らの名が知れ渡っていた一番の理由は、決して強いからだとか、恰好が目立つからだとかじゃない。

 彼らは戦闘中ピンチになると、その有り余る脚の速さを活かして全力で逃走。そのまま付近のパーティーにモンスターのヘイトを押し付けて走り去るという、明らかに正義のシノビ集団はしないタイプの行動をすることで有名だったのだ。あまりにひど過ぎて情報板にIDと出現場所を晒されていたことさえある。

 

 俺はそんな彼らが、このデスゲーム化したSAO正式サービスでも忍者ロールをしていたことに感心と恐怖を抱いていたものだが。

 事情を詳しく知らない初心者のホルンは、別の個所に着眼点を持っていた。

 

 

「……なんで忍者が思いっきり所属と名前明かしてるんだよ。証拠残したらダメだろ。忍べよ」

 

 

「「ぐふぅっ!?」」

 

「あー……それ訊いちゃうんだ」

 

 

 俺も敢えて触れまいと思っていたラインの疑問だった。ロールプレイの対象が何であれ、ゲーマーの自己顕示欲とはそういうものなのだと、理解を示していたからだ。武士の情けというか、自身の黒歴史を同じようにほじくられると居た堪れないからとかではない。決して。

 彼がその辺どう考えているか不明だが、とりあえず疑問に持たれた段階であの毒舌にロックオンされるのは避けられないのだろう。改めて彼を敵にはすまい、と決意を新たにした。

 

 

「ぬ、抜かった……!拙者たちとあろうものが…!?」

 

「かくなる上は……!」

 

 

「おいどーすンダ!あの忍者共ホー吉のせいで口封じ視野に入れてるじゃねーかヨ!」

 

「僕は悪くない。あいつらのガバガバ忍者観が悪い」

 

「なんで追加で刺激するようなこと言うんだお前…!」

 

 

 ホルンは一度くらいマイルドに口封じされた方がいいかもしれない。ストレア辺りに相談しようか本気で悩んできた。

 しかしここで戦うわけにはいかない。圏外でプレイヤーのHPを減らせば、その瞬間カーソルの色がグリーンからオレンジに変化し、加害者には《犯罪者》属性が付与される。彼ら二人も圏内に踏み込めなくなるという特大のデメリットを踏み越えてまで仕掛けてくることはない……と願いたいのだが、はたしてあの忍者たちにどの程度冷静さが残っているか。

 というかβ経験者なのだし、《ウルバス》西平原で騒ぎを起こすと付随する問題くらい把握していてほしいのだが。

 

 そうしてこの場をやり過ごす方法を模索していると、ふと視界の端を動くものを見つけた。それは俺がこの状況で最も警戒していたものであり、同時に今この場を最もうまく打開できるものでもあった。

 

 

「……ホルン、あれ」

 

「あれって……えー、マジで言ってる…?」

 

 

「コソコソと何を言ってるでござる!」

 

「こちらが手を出せないと思ったら大間違い──」

 

 

 焦れた忍者二人が声を荒げるのと同時に、ホルンの左手がホルスターから引き抜かれる。

 アンダースローで一射、続けざまに手首を返してスナップスローで二射目。それらの動作が目にも止まらぬ速度で行われ、俺たちの視界に二本の銀閃を残す。

 

 忍者二人は一瞬それに身構えたが、どちらの身体にも掠ることなくダガーが飛んでいくと、不思議なものを見るように首を傾げた。

 さらに一歩後退しつつ、念の為彼らにも声をかける。

 

 

「後ろ」

 

「「その手は喰わないでござる!」」

 

「そう冷たいこと言うなよ。後ろのそいつ、お前らの胃袋と結婚したいってさ」

 

 

 その言葉に二人は軽く目配せし、意を決して振り向き──直後、高いAGI値が作用したのかその場で垂直に2mほど飛び上がった。

 俺たち全員の視界には、先ほどまで居なかった闖入者…ならぬ闖入()の姿があった。

 体高約2m、全長4mはあろうかという巨体。名を《トレンブリング・オックス》。

 この2層でも指折りのタフさを持つ巨大な牛型モンスターであり、特徴として、タゲの持続時間・持続距離共にめちゃくちゃ長い。俺がこの西平原での戦闘を嫌う理由の一つだ。

 

 額にはホルンの投じた二本のダガーが浅く刺さっており、鼻息荒く見つめる先は、最も近くに居た忍者二人の姿が。

 彼らも察したのだろう。今まさに、βで自身たちがやっていたようなことをされたことに。

 

 

「ブモォォォォーーーーーッ!!」

 

「「ご……ござるううぅぅッ!!」」

 

 

 巨大な牡牛の咆哮と忍者二人の悲鳴が重なり、両者はそのまますさまじい勢いで追いかけっこを始めた。あの調子なら二人が《ウルバス》に逃げ込むまで追い回されていることだろう。

 

 

「足はっや。道理で簡単に追いつけないわけだ」

 

「レイド戦とかだと移動速度合わせづらくなるから程度によりけりだな。……っと、アルゴ大丈夫か?」

 

「…………また借りが増えちまったナ。オネーサン、ちょっと調子狂っちまうゼ」

 

 

 手を差し出して助け起こしたのだが、何やらアルゴの様子が少し変だ。声音に普段のふてぶてしさも無ければ、こちらをからかうような語彙もない。

 おや?と思って目を合わせようとしてみると、何故か凄い勢いで顔を逸らしてくる始末。明らかに何かおかしい。

 

 ……これほんとにアルゴ?このフードを目深に被って必死に顔隠そうとしてる人物が?マジで言ってる?

 

 なんだろう、急にすさまじいギャップで殴られた。調子が狂うのはこっちの方なんだが。

 

 

「あー……っと、ほら!あんたのおヒゲの理由聞く前に何かあると困るから。それだけだよ、うん。だからこれは借りとかにしないでくれ」

 

 

 謎の胸の高鳴りを誤魔化すよう、咄嗟に茶化した言葉が口を出た。

 実際昔から気になってはいたのだ。装飾品アイテムのようにステータスが上がるわけでもなければ、髪や目の色のように自分の作ったアバターの見栄えをよくするような感じもしない。ヒゲ…ヒゲである。愛嬌はあるかもしれないが、どうせならカッコいいいタトゥーとかにした方がいいのでは?と。

 β時代にそう尋ねた際は「10万コル払えるなら教えるヨ」と言って煙に巻かれたが、今の彼女なら教えてくれるのではないか、と淡い期待感がにょっきりと生えてきている。

 

 

「……………………いいヨ。と言いたいとこなんだケド……」

 

 

 ちらりと、彼女の視線が傍らの友人の方へと滑る。

 何を意味した行動なのか一瞬解らなかったが、ホルンはすぐに察したらしい。ニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべ、徐に先ほどまでいた岩陰へと足を向ける。

 

 

「おっけー。んじゃ僕はその辺で雲でも眺めてるから。ごゆっくりどうぞー」

 

「え、ちょ、ホルン?」

 

 

 何その気を遣ってやりますかみたいな雰囲気。なんで二人きりにしようとする。

 アルゴもアルゴでなんでそんな熱っぽい視線を向けてくるんだ。まさか何か、俺が軽はずみに口にしたおヒゲに重大な秘密でもあるのか。

 というか待てよ……ひょっとして俺、これから初めてアルゴの素顔を知ることになるのでは。

 

 ダラダラと、仮想の身体を冷や汗が伝っていく感覚がした。ただの中学二年生が負うにはあまりにも重い何かを背負いそうになっているような、そんな予感がしたが故に。

 だからきっとそう、仕方なかったのだ。

 アルゴの手が、自身のフェイスペイントを拭うべく顔に伸びた時、俺が逃げに走ったことも。

 

 

 

「……と思ったけど、教えてもらう情報変更!さっき言ってたエクストラスキルについて教えてくれ!!」

 

 

 

「…………きーぼうの、いくじなし」

 

「腰抜けまっくろくろすけがよ」

 

 

 そこまで言われないといけないことしただろうか。

 

 

 

 

 




キリト:二人の文句に納得いかない

ホルン:珍しく気を回してやったのにと不満

アルゴ:ホー吉居なかったらワンチャンあったか真剣に悩んでる


アスナ:保護者が板についてきた

ストレア:もう既にメッセージ連打中
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